(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
この種の液体噴射ヘッドには、例えば、ノズルが複数開設されたノズルプレート、各ノズルに連通する圧力室を含む個別流路および各圧力室に共通な液体が貯留される共通液室(リザーバー或いはマニホールドとも言う)の一部となる空部が形成された流路形成基板、各圧力室にそれぞれ対応して設けられた複数の圧電素子(圧力発生手段の一種)、および、各圧力室に共通な液体が貯留される共通液室となる共通液室空部が形成された共通液室形成基板を備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。この構成では、エッチング処理によって高い精度で流路等を形成することが可能であることから、ノズルプレートや流路形成基板の材料としては、シリコン単結晶成基板(結晶性基板の一種)が採用されている。ところが、このようなシリコン単結晶成基板は、合成樹脂等と比較してコストが嵩むという問題がある。特に、圧力室が形成された流路形成基板は、シリコン単結晶ウェハー上に複数個分形成された後、当該ウェハーを分割することで作製されている。このため、コストの低減を図るためには、より小型化して流路形成基板の取り数を増やすことが望ましい。
【0004】
具体的には、上記の流路形成基板において共通液室の一部となる空部を設けず、その分、流路形成基板を小型化する構成も提案されている。
図7は、流路形成基板等を小型化した構成の一例を示す模式図であり、(a)は要部断面図、(b)は要部平面図である。なお、
図7(a)に垂直な方向がノズル列方向であり、
図7(b)における上下方向がノズル列方向である。この例において、符号55が、圧力室56が形成された流路形成基板、符号57が、ノズル58が開設されたノズルプレート、符号59が、圧力室56とノズル58とを連通するノズル連通路60が形成された連通基板、符号64は圧電素子62を備えたアクチュエーターユニットであり、これらの部材を積層してヘッド本体部54が構成されている。この構成では、共通液室61は、シリコン単結晶以外の材料から成る他の部材(この例では、ケース部材65)によりヘッド本体部54の側方に区画・形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の構成において、共通液室周辺の接合部分から共通液室61内の液体が漏出するという問題があった。この原因としては、例えば、複数の構成部材を積層して成るヘッド本体部54の側面に段差ができて十分に接着剤を流し込めないということが推測されるが、必ずしもこれに限られるものではない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、共通液室からの液漏れを抑制しつつコストの低減が可能な液体噴射ヘッド、および、液体噴射装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、ノズルが第1の方向に沿って複数列設されて成るノズル群を有するノズル形成部材と、
前記複数のノズルにそれぞれ対応して複数の圧力室が形成された圧力室形成基板、および、各圧力室にそれぞれ対応して設けられた複数の圧力発生手段を有する圧力発生ユニットと、
前記圧力室と前記ノズルとを連通するノズル連通路、共通液室の一部を区画する液室空部、および、当該液室空部と前記圧力室とを連通する供給側連通路が形成された連通部材と、
前記ノズル形成部材および前記圧力発生ユニットが接合された前記連通部材が固定されるケース部材と、
を備えた液体噴射ヘッドであって、
前記ケース部材には、前記圧力発生ユニットを収容する収容空部、および、前記液室空部と連通して共通液室を画成する液室形成空部が形成され、
前記液室形成空部は、前記収容空部に対して前記第1の方向に直交する第2の方向に隔壁により隔てた位置に、前記第1の方向に沿って複数形成され、
前記液室空部は、前記各液室形成空部に対応して前記第1の方向に複数形成され、
前記供給側連通路は、前記連通部材における前記ケース部材との接合面とは反対側の面から当該連通部材の厚さ方向の途中まで、前記ケース部材との接合面側に肉薄部を残した状態で形成された共通連通路を有し、
前記連通部材と前記ケース部材との接合時に、前記隔壁における前記連通部材側の面と前記肉薄部における前記ケース部材側の面とが接合され、前記液室形成空部と前記液室空部とが連通して複数の液室空部が画成されたことを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ケース部材には、圧力発生ユニットを収容する収容空部および液室形成空部が形成され、液室形成空部は、収容空部に対して第1の方向に直交する第2の方向に隔壁により隔てた位置に第1の方向に沿って複数形成され、液室空部は、各液室形成空部に対応して第1の方向に複数形成され、供給側連通路は、連通部材におけるケース部材との接合面とは反対側の面から当該連通部材の厚さ方向の途中まで、ケース部材との接合面側に肉薄部を残した状態で形成された共通連通路を有し、連通部材とケース部材との接合時に、隔壁における連通部材側の面と肉薄部におけるケース部材側の面とが接合されて液室形成空部と液室空部とが連通して複数の液室空部が画成されるので、1つのノズル列に対して当該方向に複数の共通液室を設ける構成において、圧力発生ユニット、特に、圧力室形成基板を小型化した場合に、第1の方向に隣り合う共通液室同士を区画する壁の側面を圧力発生ユニットの側面に接合することなく連通形成部材の上面とケース部材の下面とを接合するだけで、互いに独立した複数の共通液室を画成することができる。これにより、1つのノズル群に対して当該方向に複数の共通液室を設ける構成であっても、共通液室の液漏れを防止しつつ、圧力発生ユニット、特に、圧力室形成基板の小型化が可能となり、液体噴射ヘッド全体のコストの削減を図ることが可能となる。
【0010】
また、上記構成において、前記ノズル形成部材の前記第2の方向の寸法は、前記連通部材の前記第2の方向の寸法よりも小さい構成を採用することが望ましい。
【0011】
当該構成によれば、ノズル形成部材をより小型化することにより、コストの低減に寄与することが可能となる。
【0012】
上記各構成において、連通部材における液室空部は、前記ケース部材との接合面とは反対側の面において前記ノズル形成部材との接合部分から外れた位置に開口し、
当該開口は、可撓性を有するコンプライアンス部材によって封止された構成を採用することができる。
【0013】
当該構成によれば、コンプライアンス部材を、共通液室内の液体の圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能させることができる。
【0014】
前記圧力発生ユニットは、前記圧力室形成基板および前記圧力発生手段を保護する保護基板を有することが望ましい。
【0015】
当該構成によれば、保護基板によって、圧力室形成基板および圧力発生手段の破損を防止することが可能となる。
また、本発明は、複数のノズルが第1の方向に沿って並ぶノズル群と、前記複数のノズルにそれぞれ対応した複数の圧力室と、前記圧力室内の液体に圧力を加える圧力発生素子と、複数の前記圧力室に共通してと連通する液室空部と、前記液室空部と前記圧力室とを連通する供給側連通路と、前記液室空部に連通する液室形成空部と、を備えた液体噴射ヘッドであって、前記液室形成空部を有するケース部材は、前記圧力発生素子を収容する収容空部を有し、前記供給側連通路は、前記共通液室と前記供給側連通路とを有する連通部材の前記ケース部材と反対側に開口し、前記液室形成空部側に開口しない凹部を有し、前記ケース部材の前記液室形成空部と前記収容空部との間の領域と前記凹部の前記ケース液室側とが接合していることを特徴とする液体噴射ヘッドとして具現化してもよい。特に凹部の底部分で、連通形成部材の上面とケース部材の下面との接合することで、共通液室をしっかりと画成することができる。これによって液体の漏出を抑制することができる。なお、本願において接合とは、接着剤で接着することや光やヒーターで加熱して溶着することをも含み、両部材が直接接していることと別部材を介して接していることの両方を含む。
さらに、複数の前記液室空部が前記第1の方向に沿って並ぶ液室空部群を備え、1つの前記液室空部群は1つの前記ノズル群に連通することが望ましい。また、前記ノズルが形成されたノズル形成部材の前記第1の方向に直行する第2の方向の寸法は、前記連通部材の前記第2の方向の寸法よりも小さいことが望ましい。さらに、前記圧力発生手段を保護する保護基板をさらに有し、前記収容空部は、前記保護基板も収容することが望ましい。
【0016】
また、本発明の液体噴射装置は、上記何れかの構成の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下の説明は、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(本発明の液体噴射装置の一種)を例に挙げて行う。
【0019】
(第1実施形態)
プリンター1の構成について、
図1を参照して説明する。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2(着弾対象の一種)の表面に対して液体状のインクを噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、インクを噴射する記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送するプラテンローラー6(搬送機構11の一部)等を備えている。ここで、上記のインクは、本発明の液体の一種であり、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じて記録ヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
【0020】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従ってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。
【0021】
図2は、上記記録ヘッド3の構成を示す分解斜視図である。本実施形態における記録ヘッド3は、ケース15と、複数のヘッドユニット16と、ユニット固定板17と、ヘッドカバー18とにより概略構成されている。
ケース15は、複数のヘッドユニット16や、当該ヘッドユニット16へインクを供給する供給流路(図示せず)を備える箱体状部材であり、上面側に針ホルダー19が形成されている。この針ホルダー19は、インク導入針20が立設された部材であり、本実施形態においては各色のインクカートリッジ7のインクに対応させて合計8本のインク導入針20がこの針ホルダー19に横並びに配設されている。このインク導入針20は、インクカートリッジ7内に挿入される中空針状の部材であり、先端部に開設された導入孔(図示せず)からインクカートリッジ7内に貯留されたインクをケース15内の供給流路を通じてヘッドユニット16側に導入する。
【0022】
また、ケース15の底面側には、4つのヘッドユニット16が、主走査方向に横並びに位置決めされた状態で各ヘッドユニット16に対応した4つの開口部17′を有する金属製のユニット固定板17に接合されると共に、同じく各ヘッドユニット16に対応する4つの開口部18′が開設された金属製のヘッドカバー18によって固定される。
【0023】
図3は、ヘッドユニット16(本発明の液体噴射ヘッドの一種)の内部構成を示す断面図である。また、
図4は、
図3における領域Aの拡大図である。なお、便宜上、各部材の積層方向を上下方向として説明する。本実施形態におけるヘッドユニット16は、圧力発生ユニット14および流路ユニット21を備え、これらの部材が積層された状態でユニットケース26(本発明におけるケース部材に相当)に取り付けて構成されている。流路ユニット21は、ノズルプレート22(ノズル形成部材の一種)、連通基板23(連通部材の一種)、及び、コンプライアンスシート25(コンプライアンス部材の一種)を有している。また、圧力発生ユニット14は、圧力室31が形成された圧力室形成基板29、弾性膜30、圧電素子35(圧力発生手段)、および保護基板24が積層されてユニット化されている。
【0024】
圧力発生ユニット14の構成部材である圧力室形成基板29は、シリコン単結晶基板(結晶性基板の一種。以下、単にシリコン基板とも言う。)から作製されている。この圧力室形成基板29には、シリコン基板に対して異方性エッチング処理によって複数の圧力室31が、ノズルプレート22の各ノズル27に対応して複数形成されている。このように、シリコン基板に対して異方性エッチングによって圧力室を形成することで、より高い寸法・形状精度を確保することができる。後述するように、本実施形態におけるノズルプレート22にはノズル27の列が2条形成されているので、圧力室形成基板29には、圧力室31の列が各ノズル列に対応して2条形成されている。圧力室31は、ノズル27の並設方向(第1の方向)に直交する方向(第2の方向)に長尺な空部である。圧力室形成基板29(圧力発生ユニット14)が後述する連通基板23に対して位置決めされた状態で接合されると、圧力室31の第2の方向の一端部は、後述する連通基板23のノズル連通路36を介してノズル27と連通する。また、圧力室31の第2の方向の他端部は、連通基板23の供給側連通路34を介して共通液室32(液室空部33)と連通する。
【0025】
圧力室形成基板29の上面(連通基板23との接合面とは反対側の面)には、圧力室31の上部開口を封止する状態で弾性膜30が形成されている。この弾性膜30は、例えば厚さが約1μmの二酸化シリコンから構成される。また、この弾性膜30上には、図示しない絶縁膜が形成される。この絶縁膜は、例えば、酸化ジルコニウムから成る。そして、この弾性膜30および絶縁膜上における各圧力室31に対応する位置に、圧電素子35がそれぞれ形成される。圧電素子35は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子35は、弾性膜30および絶縁膜上に、金属製の下電極膜、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層、および、金属製の上電極膜(何れも図示せず)が順次積層された後に、圧力室31毎にパターニングされて構成される。そして、上電極膜または下電極膜の一方が共通電極とされ、他方が個別電極とされる。また、弾性膜30、絶縁膜、および下電極膜が、圧電素子35の駆動時に振動板として機能する。
【0026】
各圧電素子35の個別電極(上電極膜)からは、図示しない電極配線部が絶縁膜上にそれぞれ延出されており、これらの電極配線部の電極端子に相当する部分に、フレキシブルケーブル49の一端側の端子が接続される。このフレキシブルケーブル49は、例えば、ポリイミド等のベースフィルムの表面に銅箔等で導体パターンを形成し、この導体パターンをレジストで被覆した構成とされる。フレキシブルケーブル49の表面には、圧電素子35を駆動する駆動IC50が実装されている。各圧電素子35は、駆動IC50を通じて上電極膜および下電極膜間に駆動信号(駆動電圧)が印加されることにより、撓み変形する。
【0027】
上記圧電素子35が形成された連通基板23の上面には保護基板24が配置される。この保護基板24は下面側が開口した中空箱体状の部材であり、例えば、ガラス、セラミックス材料、シリコン単結晶基板、金属、合成樹脂等から作製される。この保護基板24の内部には、圧電素子35に対向する領域に当該圧電素子35の駆動を阻害しない程度の大きさの逃げ凹部39が形成されている。さらに、保護基板24において、隣り合う圧電素子列の間には、基板厚さ方向を貫通した配線空部38が形成されている。この配線空部38内には、圧電素子35の電極端子とフレキシブルケーブル49の一端部とが配置される。
【0028】
上記の圧力発生ユニット14の寸法に関し、少なくとも第2の方向の寸法W1は、連通基板23の同方向の寸法W2およびユニットケース26の同方向の寸法W3よりも小さく設定されている。
【0029】
上記のノズルプレート22は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル27を列状に開設した板材である。本実施形態では、360dpiに対応するピッチで360個のノズル27を列設することでノズル列(ノズル群の一種)が構成されている。本実施形態においては、当該ノズルプレート22に2条のノズル列が形成されている。本実施形態におけるノズルプレート22はシリコン基板から作製されている。そして、当該基板に対してドライエッチングを施すことにより円筒形状のノズル27が形成されている。このようにノズル27をドライエッチングによって形成することで、例えば、ステンレス鋼等の金属製の板材に対して塑性加工によりノズルを形成する構成と比較して、より高い精度でノズル27を形成することが可能となる。これにより、ノズル27から噴射されるインクの着弾精度が向上する。
【0030】
ノズルプレート22の寸法に関し、少なくともノズル列に直交する方向(第2の方向)の寸法W4は、圧力発生ユニット14の同方向の寸法W1、連通基板23の同方向の寸法W2、および、ユニットケース26の同方向の寸法W3よりも小さく設定されている。具体的には、後述するノズル連通路36とノズル27との液密が確実に確保される範囲内で(即ち、ノズル連通路36とノズル27とを液密状態で連通させ得る接合代が確保できる限り)可及的に小さく設定されている。このようにノズルプレート22を可及的に小型化することで、コストの低減に寄与することが可能となる。なお、ノズル連通路36とノズル27とが位置決めされて連通する状態で連通基板23とノズルプレート22とが接合された状態では、後述する液室空部33および供給側連通路34は、ノズルプレート22に覆われることなく露出する。
【0031】
図5は、連通基板23の構成を説明する図であり、(a)は、ノズルプレート22およびコンプライアンスシート25が接合される側の面(下面)の平面図、(b)は(a)における領域Bの拡大図である。この連通基板23は、シリコン基板から作製された板材である。この連通基板23には、共通液室32の一部となる液室空部33が、異方性エッチングによって板厚方向を貫通する状態で形成されている。この連通基板23において、1条のノズル列に対して同ノズル列方向(第1の方向)に複数、本実施形態においては合計3つの液室空部33が形成されている。これにより、1条のノズル列に対して異なる複数種類のインクを割り当てることが可能となる。本実施形態においては、ノズルプレート22に2条のノズル列が形成されているので、連通基板23に合計6つの液室空部33が形成されている。
【0032】
また、この連通基板23において、液室空部33に対して第2の方向の内側(中央寄り)に隣接した位置には、供給側連通路34が液室空部33毎に形成されている。この供給側連通路34は、液室空部33(共通液室32)と圧力室形成基板29の圧力室31とを連通する流路である。そして、この供給側連通路34は、連通基板23の下面(すなわち、ユニットケース26との接合面とは反対側の面)から当該連通基板23の厚さ方向の途中までハーフエッチングされて形成された共通連通路41と、連通基板23を貫通する個別連通路42と、から構成される。共通連通路41は、液室空部33に沿って形成された平面視矩形状の窪み(凹部)である。この共通連通路41の第2の方向における一端部は液室空部33と連通する一方、同方向の他端部は、連通基板23に接合された圧力室形成基板29の圧力室31に対応する位置に形成されている。個別連通路42は、圧力室形成基板29の各圧力室31に対応して、共通連通路41の他端部に第1の方向に沿って複数形成されている。この個別連通路42の下端は、共通連通路41と連通し、個別連通路42の上端は、連通基板23に接合された圧力室形成基板29の圧力室31と連通する。そして、連通基板23において、共通連通路41に対応する部分(ハーフエッチングの残りの肉薄部40)の上面は、連通基板23とユニットケース26との接合時の第1の接合代43(
図4参照)として機能する。この点の詳細については後述する。
【0033】
液室空部33および供給側連通路34は、保護基板24の下面におけるノズルプレート22との接合部分から第2の方向における外側に外れた位置に開口している。そして、液室空部33および供給側連通路34の開口部は、コンプライアンスシート25によって封止される。このコンプライアンスシート25は、可撓性を有する合成樹脂や金属等から成る薄手のシート材である。このコンプライアンスシート25は、共通液室32内のインクの圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能する。
【0034】
図6は、ユニットケース26の下面(流路ユニット21の連通基板23が接合される側の面)の平面図である。ユニットケース26は、ノズルプレート22、コンプライアンスシート25、および圧力発生ユニット14が接合された連通基板23が底面側に固定される合成樹脂製の箱体状部材である。このユニットケース26の平面視における中心部分にはノズル列方向に沿って長尺な矩形状の開口を有する貫通空部44が、ユニットケース26の高さ方向を貫通する状態で形成されている。この貫通空部44は、圧力発生ユニット14の配線空部38と連通して、フレキシブルケーブル49の一端部および駆動ICが収容される空部を形成する。また、ユニットケース26の下面側には、当該下面からユニットケース26の高さ方向の途中まで後退した収容空部47が形成されている。この収容空部47の深さは、圧力発生ユニット14の厚さ(高さ)よりも少し大きく設定されている。また、収容空部47の第1方向の寸法および第2方向の寸法は、それぞれ、圧力発生ユニット14の対応する方向の寸法よりも少し大きく設定されている。そして、流路ユニット21がユニットケース26の下面に位置決め状態で接合されると、連通基板23上に積層された圧力発生ユニット14が収容空部47に収容される。また、上記の貫通空部44の下端は、収容空部47の天井面に開口している。
【0035】
ユニットケース26には、液室形成空部46およびインク導入路45が形成されている。液室形成空部46は、ユニットケース26における収容空部47に対して隔壁48を間に挟んで第2の方向の外側に外れた位置に形成されている。より具体的には、連通基板23の各液室空部33にそれぞれ対応して、収容空部47の両側にそれぞれ3つずつ、合計6つの液室形成空部46が形成されている。そして、ユニットケース26に連通基板23が接合された状態では、各液室形成空部46は、それぞれ対応する液室空部33と連通し、共通液室32を画成する。収容空部47と液室形成空部46とを隔てる隔壁48は、連通基板23における第1の接合代43に対応する位置に形成されている。この隔壁48において、第1の接合代43と対向する面は、第2の接合代51(
図4参照)として機能する。インク導入路45は、液室形成空部46毎に設けられた流路であり、その一端はユニットケース26の上面に開口し、下端は対応する液室形成空部46に開口している。そして、インクカートリッジ7側からのインクは、インク導入路45を通じて、液室形成空部46(共通液室32)に導入される。
【0036】
上記の構成のヘッドユニット16を製造する際には、まず、圧力室形成基板29(圧力室31が形成されていない状態のシリコン基板)の上面に弾性膜30、絶縁膜が順次形成された後、圧電素子35が焼成により形成される。この上に、逃げ凹部39に圧電素子35が収容される状態で保護基板24が接合される。そしてこの状態で、圧力室形成基板29の下面側から異方性エッチングによって圧力室31が形成される。このように、圧力室形成基板29に圧力室31が形成される前の段階で、当該圧力室形成基板29の上面側に圧電素子35および保護基板24を積層してユニット化しておくことで、圧力発生ユニット14の組み立て工程中に圧力室形成基板29が破損することが抑制される。
【0037】
次に、ノズル連通路36とノズル27とが連通する状態で、連通基板23の下面にノズルプレート22が接着により接合される。さらに、連通基板23の下面に、液室空部33および供給側連通路34の開口を塞ぐ状態で、コンプライアンスシート25が接合される。このようにして流路ユニット21がユニット化される。続いて、この流路ユニット21における連通基板23の上面に、上記の圧力発生ユニット14が接合される。具体的には、圧力室31の第2の方向の一端部がノズル連通路36と連通すると共に、圧力室31の第2の方向の他端部が供給側連通路34の個別連通路42と連通する状態で、流路基板23の上面に、圧力発生ユニット14の圧力室形成基板29が接着剤によって接合される。
【0038】
流路ユニット21と圧力発生ユニット14が組み付けられたならば、保護基板24の配線空部を通じて各圧電素子35の電極端子に対してフレキシブルケーブル49の配線が行われる。即ち、各圧電素子35の電極端子に相当する部分に、フレキシブルケーブル49の一端部の端子がそれぞれ電気的に接続される。
【0039】
続いて、流路ユニット21の連通基板23とユニットケース26とが接着剤により接合される。具体的には、上記の第1の接合代43を含む連通基板23の上面と、第2の接合代51を含むユニットケース26の下面とが、接着剤によって接合される。これにより、第1の接合代43と第2の接合代51とが接合される。流路ユニット21とユニットケース26とが接合されると、収容空部47内に圧力発生ユニット14が収容されると共に、液室形成空部46と液室空部33とが液密に連通して、複数(本実施形態においては合計6つ)の共通液室32が、相互に独立した空部として画成される。また、フレキシブルケーブル49の一端部および駆動IC50は、ユニットケース26の貫通空部44内に収容される。これにより、ヘッドユニット16が組み上がる。そして、ヘッドユニット16の内部には、インク導入路45から共通液室32を通って供給側連通路34の共通連通路41までの一連の共通流路と、供給側連通路34の個別連通路42から圧力室31およびノズル連通路36を通ってノズル27に至るまでの個別流路と、が形成される。
【0040】
このように、上記の構成を採用するヘッドユニット16では、連通基板23において上面側に肉薄部40を残した状態で供給側連通路34を連通基板23の下面側から厚さ方向の途中までハーフエッチングにより形成し、肉薄部40の上面を第1の接合代43としている。また、ユニットケース26における収容空部47と液室形成空部46とを隔壁48で隔て、当該隔壁48の下面を第2の接合代51としている。これにより、1つのノズル列に対して当該方向に複数の共通液室32を設ける構成において圧力発生ユニット14を小型化した場合に、第1の方向に隣り合う共通液室32同士を区画する壁の側面を圧力発生ユニット14の側面に接合することなく、第1の接合代43を含む連通基板23の上面と、第2の接合代51を含むユニットケース26の下面と、を接合するだけで、互いに独立した複数の共通液室32を画成することができる。これにより、1つのノズル列に対して当該方向に複数の共通液室32を設ける構成においても、共通液室32間の液漏れを防止しつつ、圧力発生ユニット14、特に、シリコン基板で作製された圧力室形成基板29の小型化が可能となり、ヘッドユニット16全体のコストの削減を図ることが可能となる。
【0041】
(第2実施形態)
上記した第1実施形態では、2列のノズル列のいずれもがノズル列方向に複数の共通液室32を設ける構成を示した。しかしながら、ノズル列方向に1つの共通液室のみを設けるようにしてもよい。
そのような例として、ノズル列が2列あり、各ノズル列方向に1つの共通液室が対応する実施形態を第2実施形態として以下に説明する。なお、本第2実施形態において第1実施形態と共通する部分は説明を省略し、符号も共通する部分は同じ符号を使用する。
【0042】
図8(a)は、第1実施形態における連通基板23に代わる連通基板123の構成を説明する図であり、ノズルプレート22およびコンプライアンスシート25が接合される側の面(下面)の平面図である。ノズルプレート22に2条のノズル列が形成されているが、1条のノズル列に1つの液室空部133が対応するように形成されている。これにより、第1実施形態と違い1条のノズル列に対して1種類のインクを割り当てている。この液室空部133は、ノズル列方向において、ノズル列とほぼ等しい長さを持っている。
図8(b)は、第1実施形態におけるユニットケース26に代わるユニットケース126の下面(流路ユニット21の連通基板123が接合される側の面)の平面図である。
【0043】
ユニットケース126には、液室形成空部146とインク導入路145とが形成されている。各ノズル列に対して、第1実施形態と異なり、ノズル列方向(第1の方向)に1つの液室形成空部146とその中央近傍にインク導入路145が1つ形成されている。これにより、1条のノズル列に対して1種類のインクを割り当てている。
このような構成であっても、第1実施形態と同様に、液体が漏出してしまうというようなことを抑止することができる。
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0044】
例えば、上記実施形態では、ノズルプレート22の下面におけるにコンプラインスシート25が共通液室33,133内の圧力変動を吸収するコンプライアンス部として機能する構成を例示したが、これには限られない。要は、共通液室33,133の圧力変動を吸収可能な位置にコンプライアンス部が設けられていれば良く、例えば、ユニットケース26,126における液室形成空部46に隣接する位置にコンプライアンス部を設けても良い。この場合、連通基板23における液室空部33,133および供給側連通路34は、連通基板23の下面に開口していない構成(上面側から連通基板23の厚さ方向の途中まで形成された構成)を採用することができる。または、連通基板23における液室空部33,133および供給側連通路34が、連通基板23の下面に開口する構成であって、当該開口部がノズルプレート22によって封止される構成を採用することもできる。この構成では、ノズルプレート22は、連通基板23の下面全体を概ね覆うことが可能な程度の寸法とされる。
【0045】
また、上記実施形態では、共通連通路41は複数の圧力室31に共通して連通する流路として機能する構成を例示したが、これには限られない。この部分の少なくとも一部が互いに隔壁で区分けされ、複数の圧力室31のそれぞれに個別に連通する個別連通路であってもよい。
【0046】
また、上記実施形態では、ノズル列が2列であるものとして説明をしてきたが、これには限られない。ノズル列は1列でも3列でもよいし、4列以上であってもよい。1つのノズル列に対して1つ又は3つの液室空部を割り当てていたが、これにも限られない。1つのノズル列に対して2つの液室空部を割り当てもよいし、4つ以上の液室空部を割り当てもよい。この割り当てる際にノズルを等分するように割り当てる必要もなく、適宜割り当てるノズル数を変更することができる。
【0047】
さらに、各ノズル列に対していくつの液室空部を割り当てる(つまり1条のノズル列に対して何種類のインクを割り当てる)か、適宜決定することができる。具体的には、あるノズル列に1つの液室空部を割り当て、別のノズル列に2つの液室空部を割り当て、さらに別のノズル列に3つの液室空部を割り当てるようにしてもよい。
【0048】
1列のノズル列に複数の共通液室を対応する場合は、共通液室間の間隔が狭く液体が漏出しやすくなりやすいため、本発明を採用することが特に望ましい。また、比較的使用頻度の高い液体(例えば黒インク)は比較的多くのノズル列に対応する共通液室を用い、比較的使用頻度の低い液体(例えばカラーインク)は比較的少ないノズル列に対応する共通液室を用いることで、低コストで高速動作を行うことができる。
【0049】
なお、上記各実施形態では、圧力発生手段として、所謂撓み振動型の圧電素子35を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電素子を採用することも可能である。その他、圧力発生手段としては、発熱によりインク内に気泡を発生させることで圧力変動を生じさせる発熱素子や、静電気力により圧力室の区画壁を変位させることで圧力変動を生じさせる静電アクチュエーターなどの圧力発生手段を採用する構成においても本発明を適用することが可能である。
【0050】
そして、以上では、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド3(ヘッドユニット16)を例に挙げて説明したが、本発明は、ユニットケースに圧力発生ユニットおよび流路ユニットを固定する構成を採用する他の液体噴射ヘッドにも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも本発明を適用することができる。