特許第6051811号(P6051811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051811
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】管用ねじ継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   F16L15/04 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-258285(P2012-258285)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-105761(P2014-105761A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100099531
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 英一
(72)【発明者】
【氏名】川井 孝将
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一成
(72)【発明者】
【氏名】近常 博
(72)【発明者】
【氏名】吉川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 順
(72)【発明者】
【氏名】長濱 拓也
(72)【発明者】
【氏名】植田 正輝
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−524116(JP,A)
【文献】 特表2006−526747(JP,A)
【文献】 特表2012−506000(JP,A)
【文献】 特表2011−508858(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/121263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄ねじ部と、該雄ねじ部より管端側に延在するノーズ部と、該ノーズ部の先端に設けられたショルダ部とを有するピンと、
前記雄ねじ部とねじ結合されてねじ部をなす雌ねじ部と、前記ピンのノーズ部外周面に相対するシール面と、前記ピンのショルダ部に当接するショルダ部とを有するボックスと、を有し、
前記ねじ結合により前記ピンとボックスとが結合されてピンの前記ノーズ部外周面とボックスの前記シール面とがメタル‐メタル接触しその接触部がシール部をなす管用ねじ継手であって、
前記ピンをなす部材側のシール部にする部材外周面部分が、下記に定義される凸曲面であり、
前記ボックスをなす部材側のシール部にする部材内周面部分が、遠ショルダ部側に位置するテーパに近ショルダ部側に位置する下記に定義される凸曲面が接続されてなる複合曲面であり、
前記テーパ内に、シール干渉量が最大となる部材軸方向位置であるシールポイントが配位され、
前記複合曲面内の凸円弧の曲率半径Rbが前記ピンの凸曲面内の凸円弧の曲率半径Rpであることを特徴とする管用ねじ継手。

凸曲面とは、部材軸方向断面視で部材境界面内に在って部材内に弦を持つ円弧である凸円弧の部材軸周りの回転軌跡がなす曲面を指す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管用ねじ継手に関し、詳しくは一般に油井やガス井の探査や生産に使用されるチュービングおよびケーシングを包含する油井管、すなわちOCTG(oil country tubular goods)、ライザー管、ならびにラインパイプなどの鋼管の接続に用いるのに好適な、シール性、耐圧縮性、耐ゴーリング性に優れた管用ねじ継手に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ継手は、油井管など産油産業設備に使用される鋼管の接続に広く使用されている。オイルやガスの探索や生産に使用される鋼管の接続には、従来API(米国石油協会)規格に規定された標準的なねじ継手が典型的には使用されてきた。しかし、近年、原油や天然ガスの井戸は深井戸化が進み、垂直井から水平井や傾斜井等が増えていることから、掘削・生産環境は苛酷化している。また、海洋や極地など劣悪な環境での井戸の開発が増加していることなどから、耐圧縮性能、耐曲げ性能、外圧シール性能(耐外圧性能)など、ねじ継手への要求性能は多様化している。そのため、プレミアムジョイントと呼ばれる高性能の特殊ねじ継手を使用することが増加しており、その性能への要求もますます増加している。
【0003】
プレミアムジョイントは、通常、テーパねじ、シール部(詳しくはメタルタッチシール部)、ショルダ部(詳しくはトルクショルダ部)とをそれぞれ備える、管端部に形成した雄ねじ部材(以下、ピンと呼ぶ)と該ピン同士を連結する雌ねじ部材(以下、ボックスと呼ぶ)とを結合したカップリング形式の継手である。テーパねじは管継手を強固に固定するために重要であり、シール部はボックスとピンとがこの部分でメタル接触することでシール性を確保する役目を担い、ショルダ部は継手の締付け中にストッパの役目を担うショルダ面を有する。
【0004】
図5は、油井管用プレミアムジョイントの従来例を示す模式的説明図であり、これらは、円管のねじ継手の縦断面図である。ねじ継手は、ピン3とこれに対応するボックス1とを備えており、ピン3は、その外面に雄ねじ部7と、ピン3の先端側に雄ねじ部7に隣接して設けられたねじの無い長さ部分であるノーズ部(ピンノーズとも云う)8を有する。ノーズ部8は、その外周面にシール部(詳しくは、メタルタッチシール部)11を、その端面にはショルダ部(詳しくは、トルクショルダ部)12を有する。相対するボックス1は、その内面に、それぞれピン3の雄ねじ部7、シール部11、およびショルダ部12と螺合するか、または接触することができる部分である、雌ねじ部5、シール部13、および、ショルダ部14を有している。
【0005】
図5の従来例では、シール部11がピン3の先端部にあり、適正な締付トルクを与えることにより所望のシール性能を実現できるのであるが、締付トルクは潤滑条件、表面性状等に影響されるので、これらに大きくは依存しない設計として、シール接触圧力の半径方向成分を相対的に強くした半径方向シール方式(ラジアルシール型とも云う)がある。
前記ラジアルシール型のプレミアムジョイントでは、通常、シール形状は、テーパ同士の接触で形成するシール形状である(従来技術Aと云う)か、あるいは、テーパと、部材軸方向断面視で部材境界面内に在って部材内に弦を持つ円弧である凸円弧の部材軸周りの回転軌跡が成す曲面である凸曲面との接触で形成するシール形状である(従来技術Bと云う)かの何れかである。
【0006】
従来技術Bには、例えば、今日の最大範囲の通常の作業条件に対して優秀なシール特性を有する長い管路の作成を許し、かつ数回の組立及び分解の後でも最適性能を保証し、又、運転負荷に対して高度の抵抗を有する継手とする目的で、シール部の継手軸方向断面形状を、ピン側は凸円弧、ボックス側は直線とし、ピン側シール部の凸円弧の半径(曲率半径)を管外径により異なる数値に限定すること(特許文献1参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4300187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
然し、本発明者らの検討によると、前記従来技術A(テーパ同士の接触で形成するシール形状)や従来技術B(テーパと凸曲面との接触で形成するシール形状)では、以下に述べる難点があって、シール性、特に圧縮負荷時のシール性を十分向上させる事が困難であると云う課題があることが分った。
従来技術Aでは、テーパ同士でテーパ角(継手軸に対するテーパの鋭角側の傾斜角度)にミスマッチがあった場合に片当たりが発生する。又、従来技術Aでは、テーパ同士の接触域両端に極端に高い接触面圧が発生する為ゴーリングが起り易くなる。
【0009】
従来技術Bでは、管軸方向(=継手軸方向)の圧縮時にテーパと凸曲面との接触域がピン先端側へ拡がる為にピン先端側が縮径方向の塑性変形応力を受け、シール性が低下する問題がある。
尚、本明細書において、シール干渉量とは、ねじ継手のピン側になるピン部材とボックス側になるボックス部材との両部材の部材軸方向断面図同士を、軸同士及びショルダ面同士が一致する様に、重ね合わせてなる継手組立図において、前記重ね合わせにより形成された両部材の干渉部の、部材軸(=継手軸)方向位置における部材直径寸法の差(ピンの外径とボックスの内径との差=直径あたりの重なり寸法)を意味する。前記干渉部は、両部材をねじ結合してなるねじ継手のシール部に対応する。又、前記シール干渉量が最大となる部材軸方向位置をシールポイントと称する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは前記課題を解決する手段について鋭意検討した結果、ボックスをなす部材側のシール部にする部材内周面部分を、遠ショルダ部側に位置するテーパに近ショルダ部側に位置する下記に定義される凸曲面が接続されてなる複合曲面とし、ピンをなす部材側のシール部にする部材外周面部分を、下記に定義される凸曲面とする事が効果的であるとの知見を得た。

凸曲面とは、部材軸方向断面視で部材境界面内に在って部材内に弦を持つ円弧である凸円弧の部材軸周りの回転軌跡がなす曲面を指す。
【0011】
本発明は前記知見に基づいて成されたものであり、その要旨構成は以下の通りである。
(1) 雄ねじ部と、該雄ねじ部より管端側に延在するノーズ部と、該ノーズ部の先端に設けられたショルダ部とを有するピンと、
前記雄ねじ部とねじ結合されてねじ部をなす雌ねじ部と、前記ピンのノーズ部外周面に相対するシール面と、前記ピンのショルダ部に当接するショルダ部とを有するボックスと、を有し、
前記ねじ結合により前記ピンとボックスとが結合されてピンの前記ノーズ部外周面とボックスの前記シール面とがメタル‐メタル接触しその接触部がシール部をなす管用ねじ継手であって、
前記ピンをなす部材側のシール部にする部材外周面部分が、下記に定義される凸曲面であり、
前記ボックスをなす部材側のシール部にする部材内周面部分が、遠ショルダ部側に位置するテーパに近ショルダ部側に位置する下記に定義される凸曲面が接続されてなる複合曲面であり、
前記テーパ内に、シール干渉量が最大となる部材軸方向位置であるシールポイントが配位され、
前記複合曲面内の凸円弧の曲率半径Rbが前記ピンの凸曲面内の凸円弧の曲率半径Rpであることを特徴とする管用ねじ継手。
【0012】

凸曲面とは、部材軸方向断面視で部材境界面内に在って部材内に弦を持つ円弧である凸円弧の部材軸周りの回転軌跡がなす曲面を指す。
なお、以下では、「水準3」に係る「本発明例」は、「参考例」と読み替えるものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記構成を採用した事で、圧縮負荷時のピン先端部の塑性変形が従来よりも抑制できてシール性に優れる管用ねじ継手が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の一例を示す継手軸方向断面図である。
図2】ISO13679:2002のシール性評価試験におけるシリーズAテストの引張/圧縮および内圧/外圧による複合負荷を示す模式図である。
図3】Make-up時(a)、引張負荷時(b)及び圧縮負荷時(c)のFEA(有限要素解析)による接触面圧の接触長方向分布を示す線図である。
図4】FEAによる複合荷重負荷時のロードステップ2、12、13に対する接触面積圧を本発明例(水準3)と比較例(水準7)とで比較した棒グラフである。
図5】シール部がピン先端部にある従来例を示す継手軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態の一例を示す軸方向断面図である。この図はピン3とボックス1の軸方向断面図同士を、軸同士及びショルダ面22,24同士が一致する様に、重ね合わせてなる継手組立状態を示している。尚、ねじ結合時には同心軸化して継手軸になる、ピン軸(管軸との同心軸である)、ボックス軸の何れかである部材軸、略して軸は、図示を省略した。この図において、前記重ね合わせにより形成されたピン3外径側とボックス1内径側との干渉部20は、ピン3とボックス1とのねじ結合時にシール部となる。
【0016】
干渉部20において、ピン3側の外周面は凸曲面10(曲率半径Rpの凸円弧9のピン軸周回転軌跡)であり、一方、ボックス1側の内周面は、遠ショルダ部側(ショルダ部14から遠い側)に位置するテーパ15に近ショルダ部側(ショルダ部14に近い側)に位置する凸曲面18(曲率半径Rbの凸円弧17のボックス軸周回転軌跡)を接続してなる複合曲面19である。テーパ15のテーパ角αは、テーパ15が継手軸となす鋭角側の角度である。テーパ角αの範囲は従来と同様、3〜10度の範囲が好ましい。
【0017】
シールポイントSPは、テーパ角αのテーパ15内に配位されている。
前記曲率半径Rb、Rpは、Rb≧Rpを満たしている。
ボックス1側の凸曲面18は、テーパ15をショルダ部14側へ展延した態様の余テーパ(図示省略)をボックス1の部材内側へ削り込んで形成された。斯かる削り込みにより、ピンノーズ8へのボックス1の接触領域を、前記削り込みをする前のシール形状(テーパと凸曲面との接触で形成するシール形状;従来技術B)の場合よりも縮小でき、以て、圧縮負荷時にピン3先端側に発生する縮径方向の接触面圧を有効に低減する事ができる。
【0018】
シールポイントSPは、テーパ15内に配位する必要がある。と云うのは、シールポイントSPがボックス1側の凸曲面18内に配位されると、該凸曲面18とピン3側の凸曲面10との接触により過大な接触面圧が発生し、ゴーリング発生に至る懸念があるからである。
ボックス1側においてシールポイントSPがテーパ15内に配位されたとしても、凸円弧17の曲率半径Rbが過小であると、圧縮負荷時に過大な接触面圧が発生する為、Rbはピン側の凸円弧9の曲率半径Rp以上とする必要がある。但し、Rbを大きくとり過ぎると、前記過大な接触面圧の発生を抑制する効果が十分発現し難くなるので、RbはRpの5倍以下とするのが好ましい。
【0019】
ボックス1側の複合曲面19は、局所的な接触面圧の過大化を避ける観点から、滑らかな曲面(曲面内の点の微小変位に対する接線の傾きの変化が連続的である曲面)である事が好ましい。
【実施例】
【0020】
外径9-5/8”×肉厚0.545”の鋼管端部を加工してなるピンと、これに対応するボックスとからなる管用ねじ継手について、有限要素解析(FEA)を実施してMU(Make-Up;締付)時の接触面積圧(接触面圧を管軸方向の接触長に渡って積分した指標)を同一とした設計で、表1にシール形状及び評価パラメータを示すサンプルを製作し、ISO13679のシリーズAテストを実施した。この実施に当たっては表1に実験条件を示す各水準で実験した。尚、実験では、MU完了時の接触面積圧が6000psi-inchとなる様にシール干渉量とMUトルクを調整した。
【0021】
実験結果を表1に示す。この表より、比較例と比べて、本発明例では、より優れた耐圧縮性が発現した事が分る。
【0022】
【表1】
【0023】
図2は、ISO13679:2002のシール性評価試験におけるシリーズAテストの引張/圧縮および内圧/外圧による複合負荷を示す模式図である。耐内圧シールにて問題となるのが最大引張力および内圧が作用するLoad Point 2である。一方で耐外圧シールにて問題となるのが最大外圧のみが作用するLoad Point 12および高い外圧に加えて引張力も作用するLoad Point 13である。これらのLoad Point(以下、LPとも云う)において十分な接触面積圧を有することがシール性確保に必要となる。
【0024】
図3は、Make-up時(a)、引張負荷時(b)および圧縮負荷時(c)のFEA(有限要素解析)による接触面圧の接触長方向分布を示す線図である。図中の曲線は表1の水準3(本発明例)および水準7(比較例)に対する結果である。なお、接触長および接触面圧は水準7(比較例)のMake-up時の分布に基づき無次元化して表示している。この図より、本発明例ではMake-up時の分布は接触長が短く最大面圧が高いことがわかる。引張負荷時の分布は同様の形態となっているが、圧縮時には比較例ではピン先端側に接触長が拡がることがわかる。ピン先端側に接触面圧が発生すると縮径方向の塑性変形が発生してシール性が低下する。
【0025】
図4は、表1の水準3(本発明例)および水準7(比較例)について、FEAにより求めた複合荷重負荷時のロードステップ2、12、13における接触面積圧を、水準7(比較例)の各ロードステップの値に基づき無次元化した棒グラフである。このグラフより、本発明例では比較例に比べ、接触面積圧が向上してシール性が向上することがわかる。
【符号の説明】
【0026】
1 ボックス
3 ピン
5 雌ねじ部
7 雄ねじ部
8 ノーズ部(ピンノーズ)
9 凸円弧(ピン側)
10 凸曲面(ピン側)
11,13 シール部(メタルタッチシール部)
12,14 ショルダ部(トルクショルダ部;12はピン側、14はボックス側)
15 テーパ(ボックス側)
17 凸円弧(ボックス側)
18 凸曲面(ボックス側)
19 複合曲面(ボックス側)
20 干渉部
22,24 ショルダ面(22はピン側、24はボックス側)
SP シールポイント
図1
図2
図3
図4
図5