特許第6051833号(P6051833)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051833
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】四輪駆動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20161219BHJP
   B60K 23/08 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B60K17/348 B
   B60K23/08 C
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-274787(P2012-274787)
(22)【出願日】2012年12月17日
(65)【公開番号】特開2014-118043(P2014-118043A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】三田 将貴
(72)【発明者】
【氏名】宅野 博
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−061923(JP,A)
【文献】 特開2003−319506(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の主駆動輪及び左右一対の補助駆動輪を備えた四輪駆動車に搭載され、前記補助駆動輪側のディファレンシャル装置の一対の出力部材のうちの一方の出力部材と前記左右一対の補助駆動輪の一方との間に設けられた駆動力伝達装置の伝達トルクを制御する制御装置であって、
前記四輪駆動車の走行状態に基づいて前記駆動力伝達装置が前記一方の補助駆動輪に伝達すべき伝達トルクを演算する第1の演算手段と、
前記ディファレンシャル装置の一対の出力部材の回転速度差が所定値以上の場合に前記第1の演算手段が演算した伝達トルクを補正する第2の演算手段とを備え
前記第2の演算手段は、前記ディファレンシャル装置の一対の出力部材のうち前記一方の出力部材の回転速度をVとし、他方の出力部材の回転速度をVとしたとき、V>Vである場合に前記第1の演算手段が演算した前記伝達トルクを小さくする補正を行い、V<Vである場合に前記第1の演算手段が演算した前記伝達トルクを大きくする補正を行う、
四輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前記ディファレンシャル装置は、前記一対の出力部材としての一対のサイドギヤと、前記一対のサイドギヤに噛合うピニオンギヤとを有し、
前記第2の演算手段は、前記ピニオンギヤの回転数が所定値以上の場合に前記補正を行う、
請求項記載の四輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、左右一対の主駆動輪(前輪)には常に駆動源(エンジン)の駆動力を伝達し、左右一対の補助駆動輪(後輪)には複数のクラッチを介して駆動源の駆動力を伝達する四輪駆動車が知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1,2に記載の四輪駆動車は、車両の前後方向に駆動力を伝達するプロペラシャフトと駆動源との間に噛み合いクラッチが配置され、かつプロペラシャフトによって駆動力が伝達される補助駆動輪側のディファレンシャル装置と一方の補助駆動輪との間に多板クラッチが配置されている。主駆動輪のみに駆動力が伝達される二輪駆動時には、噛み合いクラッチ及び多板クラッチによる駆動力の伝達を遮断してプロペラシャフトの回転及び補助駆動輪側のディファレンシャル装置のデフケースの回転を抑制することにより、走行抵抗を低減する。
【0004】
また、主駆動輪及び補助駆動輪に駆動源の駆動力が伝達される四輪駆動時には、噛み合いクラッチが噛み合わされ、多板クラッチの伝達トルクに応じた駆動力が補助駆動輪側に伝達される。多板クラッチの伝達トルクは、ECU(Electronic Control Unit)によって制御される。ECUは、車両の走行状態を検出する各種のセンサからの信号に基づいて補助駆動輪側に伝達すべき駆動力を演算し、この演算結果に応じて多板クラッチの伝達トルクを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−254058号公報
【特許文献2】特開2012−61923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本願の発明者らが上記のように構成された四輪駆動車において補助駆動輪側に伝達される駆動力を測定したところ、多板クラッチの伝達トルクを同じように制御していても、左旋回時と右旋回時とで補助駆動輪側に伝達される駆動力が異なることが見出された。本願の発明者らは、この原因を鋭意研究し、補助駆動輪に伝達される駆動力の旋回方向による差異は、補助駆動輪側のディファレンシャル装置のTBR(トルクバイアスレシオ)に関係があるとの知見を得、本願発明をなすに至った。
【0007】
そこで、本発明は、伝達トルクを調節可能な駆動力伝達装置がディファレンシャル装置と左右一対の補助駆動輪の一方との間に配置された四輪駆動車において、補助駆動輪側に伝達される駆動力の精度を高めることが可能な四輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、(1)〜()の四輪駆動車を提供する。
【0009】
(1)左右一対の主駆動輪及び左右一対の補助駆動輪を備えた四輪駆動車に搭載され、前記補助駆動輪側のディファレンシャル装置の一対の出力部材のうちの一方の出力部材と前記左右一対の補助駆動輪の一方との間に設けられた駆動力伝達装置の伝達トルクを制御する制御装置であって、前記四輪駆動車の走行状態に基づいて前記駆動力伝達装置が前記一方の補助駆動輪に伝達すべき伝達トルクを演算する第1の演算手段と、前記ディファレンシャル装置の一対の出力部材の回転速度差が所定値以上の場合に前記第1の演算手段が演算した伝達トルクを補正する第2の演算手段とを備え、前記第2の演算手段は、前記ディファレンシャル装置の一対の出力部材のうち前記一方の出力部材の回転速度をVとし、他方の出力部材の回転速度をVとしたとき、V>Vである場合に前記第1の演算手段が演算した前記伝達トルクを小さくする補正を行い、V<Vである場合に前記第1の演算手段が演算した前記伝達トルクを大きくする補正を行う、四輪駆動車の制御装置。
【0011】
(3)前記ディファレンシャル装置は、前記一対の出力部材としての一対のサイドギヤと、前記一対のサイドギヤに噛合うピニオンギヤとを有し、前記第2の演算手段は、前記ピニオンギヤの回転数が所定値以上の場合に前記補正を行う、()に記載の四輪駆動車の制御装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、伝達トルクを調節可能な駆動力伝達装置がディファレンシャル装置と左右一対の補助駆動輪の一方との間に配置された四輪駆動車において、補助駆動輪側に伝達される駆動力の精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る四輪駆動車の構成例を示す概略図。
図2】駆動力伝達装置及びその周辺部の構成例を示す断面図。
図3】(a)は、噛み合いクラッチ及びその周辺部の構成例を示す断面図。(b)は、解放状態における噛み合いクラッチの噛み合い部を模式的に示す説明図。
図4】(a)及び(b)は、制御部が第1の演算手段として駆動力伝達装置の伝達トルクを演算するにあたり参照するマップの例を示す説明図。
図5】左右輪回転速度差と、左後輪に伝達される駆動力と右後輪に伝達される駆動力との駆動力比との関係を示すグラフ。
図6】制御部が実行する処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る四輪駆動車の構成例を示す概略図である。この四輪駆動車100は、運転者によって操作されるアクセルペダル101の踏み込み量に応じた駆動力を出力する駆動源としてのエンジン102と、エンジン102の出力を変速するトランスミッション103と、左右一対の前輪104L,104Rと、左右一対の後輪105L,105Rと、エンジン102の駆動力を前輪104L,104Rに伝達する第1の駆動力伝達系106と、エンジン102の駆動力を後輪105L,105Rに伝達する第2の駆動力伝達系107とを備えている。前輪104L,104Rは、走行時にエンジン102の駆動力が常に伝達される主駆動輪であり、後輪105L,105Rは、走行状態に応じて必要なトルクが伝達される補助駆動輪である。
【0015】
前輪104L,104R及び後輪105L,105Rには、それぞれの車輪の回転速度を検出するための車輪速センサ901〜904が設けられている。また、アクセルペダル101に対応してアクセル開度センサ900が設けられている。
【0016】
第1の駆動力伝達系106は、フロントディファレンシャル120と、フロントディファレンシャル120の出力トルクを左右の前輪104L,104Rに伝達する前輪側のドライブシャフト114L,114Rとを有している。第2の駆動力伝達系107は、噛み合いクラッチ130と、プロペラシャフト140と、リヤディファレンシャル150と、駆動力伝達装置160と、後輪側のドライブシャフト115L,115Rとを有している。
【0017】
フロントディファレンシャル120は、トランスミッション103から出力されるトルクによって回転するデフケース20と、デフケース20に保持されたピニオンシャフト21と、ピニオンシャフト21に回転可能に支持された傘歯車からなる一対のピニオンギヤ22,22と、ピニオンギヤ22,22にギヤ軸を直交させて噛み合う傘歯車からなる一対のサイドギヤ23L,23Rとを有している。また、フロントディファレンシャル120は、左側のサイドギヤ23Lから左側のドライブシャフト114Lを介して左前輪104Lにトルクを配分し、右側のサイドギヤ23Rから右側のドライブシャフト114Rを介して右前輪104Rにトルクを配分するように構成されている。
【0018】
噛み合いクラッチ130は、フロントディファレンシャル120のデフケース20の外周部にデフケース20と相対回転不能に固定された第1の歯部31と、後述するリングギヤ41aと相対回転不能に固定された第2の歯部32と、デフケース20の回転軸方向に沿って進退移動可能な筒状のスリーブ33とを有している。この噛み合いクラッチ130は、筒状のスリーブ33の一方向への移動によって第1の歯部31及び第2の歯部32とをトルク伝達可能に連結し、スリーブ33の他方向への移動によって第1の歯部31及び第2の歯部32との連結を解除するように構成されている。この噛み合いクラッチ130の詳細な構成については後述する。
【0019】
プロペラシャフト140の前輪側には、噛み合いクラッチ130の第2の歯部32と一体に回転する傘歯車からなるリングギヤ41aと、このリングギヤ41aに噛み合い、プロペラシャフト140の一端に固定された傘歯車からなるピニオンギヤ41bとを備えた第1のギヤ機構41が設けられている。
【0020】
また、プロペラシャフト140の後輪側には、リヤディファレンシャル150のデフケース50に固定された傘歯車からなるリングギヤ42aと、このリングギヤ42aに噛み合い、プロペラシャフト140の他端に固定された傘歯車からなるピニオンギヤ42bとを備えた第2のギヤ機構42が設けられている。
【0021】
リヤディファレンシャル150は、プロペラシャフト140を介して伝達されるトルクによって回転するデフケース50と、デフケース50に保持されたピニオンシャフト51と、ピニオンシャフト51に回転可能に支持された傘歯車からなる一対のピニオンギヤ52,52と、ピニオンギヤ52,52にギヤ軸を直交させて噛み合う傘歯車からなる一対の出力部材としてのサイドギヤ53L,53Rとを有している。左側のサイドギヤ53Lは、駆動力伝達装置160との間に配置された中間シャフト54に相対回転不能に連結されている。また、右側のサイドギヤ53Rは、右側のドライブシャフト115Rと等速で回転するように連結されている。すなわち、左側のサイドギヤ53Lは左後輪105Lに駆動力を出力し、右側のサイドギヤ53Rは右後輪105Rに駆動力を出力する。
【0022】
駆動力伝達装置160は、多板クラッチ7と、この多板クラッチ7を押圧力可変に押圧する押圧機構8とを有し、押圧機構8による多板クラッチ7の押圧力に応じたトルクを中間シャフト54から左側のドライブシャフト115L側に伝達するように構成されている。この駆動力伝達装置160の詳細な構成については後述する。
【0023】
四輪駆動車101はまた、第2の駆動力伝達系107を制御する制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)9を搭載している。ECUは、例えば車載通信網(CAN(Controller Area Network))を介して、アクセル開度センサ900によって検出されたアクセル開度、及び車輪速センサ901〜904によって検出された前輪104L,104Rならびに後輪105L,105Rの回転速度等の走行状態に関する情報を取得することが可能である。またさらに、ECU9には、駆動力伝達装置160の押圧機構8を駆動するための電流を出力する駆動回路93が接続されている。
【0024】
ECU9は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等の記憶素子を有して構成される記憶部91と、記憶部91に記憶された制御プログラム910に従って動作するCPU(Central Processing Unit)を有して構成される制御部92とを有している。制御部92は、制御プログラム910に従って動作することにより、四輪駆動車101の走行状態に基づいて駆動力伝達装置160の伝達トルクを演算する第1の演算手段921、後輪105L,105Rの回転速度差に基づいて第1の演算手段921が演算した伝達トルクを補正する第2の演算手段922、及び第2の演算手段922によって補正された伝達トルクに応じて駆動力伝達装置160を制御する制御手段923として機能する。
【0025】
駆動回路93は、ECU9(制御手段923)からの制御信号を受け、押圧機構8を構成する電磁コイル(後述)に電流を出力供給する。この駆動回路93は、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御による電流出力回路を備え、押圧機構8に供給する電流量をECU9からの制御信号に応じた値に連続的に調整可能である。
【0026】
以上の構成により、第1の駆動力伝達系106は、フロントディファレンシャル120のサイドギヤ23L,23Rから左右のドライブシャフト114L,114Rを介して前輪104L,104Rに駆動力を伝達する。また、第2の駆動力伝達系107は、フロントディファレンシャル120のデフケース20から噛み合いクラッチ130、第1のギヤ機構41、プロペラシャフト140、第2のギヤ機構42、リヤディファレンシャル150を介して、左後輪105Lには駆動力伝達装置160を介在させて左側のドライブシャフト115Lにより、右後輪105Rには右側のドライブシャフト115Rにより、それぞれ駆動力を伝達する。
【0027】
図2は、駆動力伝達装置160及びその周辺部の構成例を示す断面図である。駆動力伝達装置160は、リヤディファレンシャル150と共にデフキャリア151に収容されている。駆動力伝達装置160は、中間シャフト54に相対回転不能に連結された有底円筒状のアウタハウジング60を有し、このアウタハウジング60の内部に多板クラッチ7及び押圧機構8を備えている。
【0028】
アウタハウジング60は、中間シャフト54と一体に回転するように、その底部の外周面が中間シャフト54のフランジ54aに連結されている。また、アウタハウジング60の円筒部の内周面には軸方向に延びる複数のスプライン歯を有するスプライン部60aが形成され、その開口端部は環状のリヤハウジング61によって閉塞されている。
【0029】
リヤハウジング61は、螺着や溶接等の固定手段によってアウタハウジング60の開口部に相対回転不能に固定された磁性材料からなる第1エレメント61aと、第1エレメント61aの内側に固定された非磁性材料からなるリング状の第2エレメント61bと、第2エレメント61bの内側に固定された磁性材料からなる第3エレメント61cとを有している。
【0030】
アウタハウジング60の内周部には、アウタハウジング60と同軸上で相対回転可能に支持された円筒状のインナシャフト64が配置されている。インナシャフト64の外周面には、アウタハウジング60のスプライン部60aと対向する領域に、軸方向に延びる複数のスプライン歯を有するスプライン部64aが形成されている。また、インナシャフト64には、その内周面に、左側のドライブシャフト115L(図1に示す)の一端が揺動可能に連結される等速ジョイントの外輪56aを有する軸状部材56が相対回転不能にスプライン嵌合されている。
【0031】
多板クラッチ7は、環状の複数のアウタクラッチプレート71と、同じく環状の複数のインナクラッチプレート72とを軸方向に交互に配置して構成されている。アウタクラッチプレート71の外周縁には、アウタハウジング60のスプライン部60aに係合する複数の突起が形成されている。また、インナクラッチプレート72の内周縁には、インナシャフト64のスプライン部64aに係合する複数の突起が形成されている。この構成により、アウタクラッチプレート71はアウタハウジング60に対して、またインナクラッチプレート72はインナシャフト64に対して、それぞれ相対回転が規制され、かつ軸方向移動可能である。
【0032】
押圧機構8は、多板クラッチ7と軸方向に並置され、電磁コイル80と、電磁コイル80を支持する磁性材料からなるヨーク81と、環状の第1カム部材82と、第1カム部材82に対向して配置された環状の第2カム部材84と、第1カム部材82及び第2カム部材84の間に介在する球状のカムフォロア83とを有して構成されている。
【0033】
電磁コイル80は、第1カム部材82との間にリヤハウジング61を挟んで配置され、通電により発生する磁力によって第1カム部材82をリヤハウジング61側に引き寄せるように構成されている。電磁コイル80には、ECU9の駆動回路93から励磁電流が供給される。
【0034】
第2カム部材84は、軸方向の一側面が多板クラッチ7の複数のインナクラッチプレート72のうち、最も押圧機構8側に配置されたインナクラッチプレート72に対向して配置されている。また、第2カム部材84は、内周面の一部にインナシャフト64のスプライン部64aに係合する複数の突起を有し、インナシャフト64に対して相対回転が規制され、かつ軸方向移動可能である。
【0035】
第1カム部材82及び第2カム部材84のそれぞれの対向面には、周方向に沿って軸方向の深さが変化するように形成された傾斜面からなるカム面が形成され、複数のカムフォロア83がこの両カム面に沿って転動するように配置されている。また、第1カム部材82は皿ばね85により、また第2カム部材84は皿ばね86により、相互に接近するように付勢されている。
【0036】
上記構成により、第1カム部材82が電磁コイル80の磁力によってリヤハウジング61と摩擦摺動すると、第1カム部材82がリヤハウジング61から回転力を受け、この回転力によって第1カム部材82と第2カム部材84とが相対回転する。この相対回転によって転動体83が第1カム部材82及び第2カム部材84のカム面を転動することで軸方向の推力が発生し、この推力を受けた第2カム部材84が多板クラッチ7を押圧する。
【0037】
第1カム部材82がリヤハウジング61から受ける回転力は電磁コイル80の磁力の強さに応じて変化するので、電磁コイル80に供給する電流を制御することによって多板クラッチ7の押圧力を調整可能であり、ひいては多板クラッチ7を介して伝達されるトルクを調整可能である。すなわち、多板クラッチ7は、後輪105L,105R側に伝達される駆動力を多段階又は無段階に連続的に調整可能である。
【0038】
また、電磁コイル80への通電を遮断すると、皿ばね85のばね力によって第1カム部材82がリヤハウジング61から離間し、第1カム部材82が第2カム部材84と相対回転する回転力を受けなくなるので、軸方向の推力が消滅し、皿ばね86のばね力によって第2カム部材84が多板クラッチ7から離れる方向に移動する。
【0039】
以上の構成により、左後輪105Lには、リヤディファレンシャル150の左側のサイドギヤ53Lに伝達された駆動力が駆動力伝達装置160によって断続可能に調節され、軸状部材56及び左側のドライブシャフト115Lを介して伝達される。また、右後輪105Rには、リヤディファレンシャル150の右側のサイドギヤ53Rに伝達された駆動力が、このサイドギヤ53Rに相対回転不能に連結された軸状部材55、及び軸状部材55の一端に設けられた等速ジョイントの外輪55aに揺動可能に連結された右側のドライブシャフト115Rを介して伝達される。
【0040】
図3(a)は、噛み合いクラッチ130及びその周辺部の構成例を示す断面図であり、図3(b)は、解放状態における噛み合いクラッチ130の噛み合い部を模式的に示す説明図である。
【0041】
噛み合いクラッチ130は、前述のように、フロントディファレンシャル120のデフケース20に相対回転不能に固定された第1の歯部31と、リングギヤ41aに相対回転不能に固定された第2の歯部32と、デフケース20の回転軸方向に沿って進退移動可能な筒状のスリーブ33と、スリーブ33を進退移動させるアクチュエータ30とを有している。アクチュエータ30は、例えば磁励コイルに通電することにより発生する磁力によって可動鉄心を動かす電磁アクチュエータにより構成される。
【0042】
第1の歯部31は、その内周側に右前輪104Rに連結されたドライブシャフト114Rを挿通させる環状であり、外周面にデフケース20の回転軸線Oに沿った形成された複数のスプライン歯31aを有している。
【0043】
第2の歯部32は、内周側にドライブシャフト114Rを挿通させる筒状に形成され、第1の歯部31と同軸上で相対回転可能である。また、第2の歯部32は、その外周面に、デフケース20の回転軸線Oに沿って形成された複数のスプライン歯32aを有している。
【0044】
スリーブ33は、第1の歯部31及び第2の歯部32の外周側にて第1の歯部31及び第2の歯部32と同軸上で軸方向移動可能に支持された筒状の連結部材である。このスリーブ33の内周面には、第1の歯部31の複数のスプライン歯31a及び第2の歯部32の複数のスプライン歯32aと噛み合い可能な複数のスプライン歯33aが形成されている。隣り合うスプライン歯33aの間には、スプライン歯31a,32aが係合する凹部33cが形成されている。噛み合いクラッチ130は、スプライン歯31a,32aと凹部33cとの係合により駆動力を伝達する。
【0045】
また、スリーブ33の外周面には、その周方向に沿って環状に形成された係合凹所33bが形成されている。この係合凹所33bには、スリーブ33を軸方向に移動させる移動部材34の一端部が摺動自在に係合している。移動部材34の他端部はアクチュエータ30のシャフト30aに嵌合されている。アクチュエータ30は、ECU9(図1に示す)からの制御信号によってシャフト30aをデフケース20の回転軸線Oに平行な方向に進退移動させ、これに伴って移動部材34及びスリーブ33が回転軸線Oに沿って軸方向に移動する。
【0046】
スリーブ33の複数のスプライン歯33aが、第2の歯部32の複数のスプライン歯32aと噛み合い、第1の歯部31の複数のスプライン歯31aと噛み合いとは噛み合わない噛み合いクラッチ130の解放状態では、第1の歯部31と第2の歯部32とが相対回転可能である。また、スリーブ33の複数のスプライン歯33aが、第1の歯部31の複数のスプライン歯31aと第2の歯部32の複数のスプライン歯32aに共に噛み合う噛み合いクラッチ130の連結状態では、第1の歯部31と第2の歯部32とが相対回転不能に連結される。
【0047】
四輪駆動車100は、四輪駆動の走行時には、噛み合いクラッチ130のスリーブ33を第1の歯部31及び第2の歯部32に共に噛み合わせ、フロントディファレンシャル120のデフケース20とプロペラシャフト140とを連結すると共に、電磁コイル80に通電して駆動力伝達装置160によるトルク伝達を行う。これにより、エンジン102のトルクが前輪104L,104R及び後輪105L,105Rに伝達される。
【0048】
一方、二輪駆動の走行時には、電磁コイル80への通電を停止して駆動力伝達装置160による駆動力伝達を遮断すると共に、噛み合いクラッチ130によるデフケース20とプロペラシャフト140との連結を解除する。駆動力伝達装置160による駆動力伝達を遮断することにより、左後輪105Lのドライブシャフト115Lと中間シャフト54との連結が解除され、これに伴って右後輪105Rにも駆動力が伝達されなくなる。これは、一方の出力軸が空転するともう一方の出力軸にもトルクが伝達されなくなるというディファレンシャル装置の一般的な特性によるものである。
【0049】
このように、二輪駆動の走行時には、駆動力伝達系106によるトルク伝達がプロペラシャフト140の上流側(エンジン102側)及び下流側(後輪105L,105R側)で遮断されるので、プロペラシャフト140及びこれに連結されたリヤディファレンシャル150のデフケース50の車体に対する回転が停止する。これにより、プロペラシャフト140の回転抵抗やリングギヤ41a,42aによる潤滑油の攪拌抵抗による車両の走行抵抗が減少する。
【0050】
図4(a)及び(b)は、制御部92が第1の演算手段921として駆動力伝達装置160の伝達トルクを演算するにあたり参照するマップの一例である。このマップは、ECU9に記憶部91に記憶されている。第1の演算手段921は、このマップを参照して駆動力伝達装置160が左後輪105Lに伝達すべき駆動力を演算する。以下、この駆動力を指令トルクTcという。
【0051】
図4(a)は、前後輪回転速差ΔVと、前後輪回転速差ΔVに基づく第1トルクt01との関係を示すグラフの一例である。前後輪回転速差ΔVは、例えば車輪速センサ901,902によって検出された前輪104L,104Rの平均回転速度と、車輪速センサ903,904によって検出された後輪105L,105Rの平均回転速度との差によって求められる。
【0052】
本実施の形態では、図3(a)に示すように、前後輪回転速差ΔVがV01未満の小回転数差の領域では、前後輪回転速差ΔVの増大に応じて緩やかに第1トルクt01が増大する。前後輪回転速差ΔVがV01以上V02未満の中回転数差の領域では、前後輪回転速差ΔVの増大に応じて、小回転数差の領域よりも急激に第1トルクt01が増大する。また、前後輪回転速差ΔVがV02以上の大回転数差の領域では、第1トルクt01が一定の値となる。
【0053】
前後輪回転速差ΔVの増大に応じて第1トルクt01を大きくすることにより、例えば前輪104L,104Rにおけるスリップが発生した場合にエンジン102の駆動力を後輪105L,105R側により多くの割合で配分し、前輪104L,104Rのスリップを抑制することが可能となる。
【0054】
図4(b)は、アクセル開度センサ900によって検出されたアクセル開度φと、アクセル開度φに基づく第2トルクt02との関係を示すグラフの一例である。本実施の形態では、アクセル開度φに車速Sを加味しており、図4(b)に示すグラフには、アクセル開度φ及び車速Sと第2トルクt02との関係が示されている。車速Sは、例えば車輪速センサ901〜904によって検出された前輪104L,104R及び後輪105L,105Rの回転速度に基づいて求めることができる。
【0055】
図4(b)に示すように、アクセル開度φがφ未満の小アクセル開度の領域では、アクセル開度φの増大に応じて比較的急激に第2トルクt02が増大する。アクセル開度φがφ以上φ未満の中アクセル開度の領域では、アクセル開度φの増大に応じて、小アクセル開度の領域よりも緩やかに第2トルクt02が増大する。また、アクセル開度φがφ以上の大アクセル開度の領域では、アクセル開度φの増大に応じて、中アクセル開度の領域よりもさらに緩やかに第2トルクt02が増大する。また、第2トルクt02は、図4(b)に示すように、車速Sの増大に応じて小さくなるように設定されている。
【0056】
アクセル開度φの増大に応じて第2トルクt02を大きくすることによって、例えば急加速時におけるエンジン102の大きな駆動力を前輪104L,104R及び後輪105L,105Rにより均等に配分し、前輪104L,104R側に駆動力が集中した場合に生じ得る前輪104L,104Rのスリップを回避することが可能となる。
【0057】
制御部92(第1の演算手段921)は、第1トルクt01と第2トルクt02との和を演算し、指令トルクTc(Tc=t01+t02)を求める。そして、制御部92は、制御手段923として駆動回路93を制御し、指令トルクTcに応じた電流を駆動力伝達装置160の電磁コイル80に供給する。
【0058】
上記のように構成された四輪駆動車100では、制御手段923が第1の演算手段921によって演算された指令トルクTcに応じて駆動力伝達装置160を制御すると、左後輪105Lの回転速度が右後輪105Rの回転速度よりも速い場合(例えば、右旋回時)と、左後輪105Lの回転速度が右後輪105Rの回転速度よりも遅い場合(例えば、左旋回時)とで、電磁コイル80に供給される電流が同じであっても、後輪105L,105R側に伝達される駆動力が変化する。
【0059】
図5は、リヤディファレンシャル150におけるピニオンギヤ52の回転数N(単位時間あたりの回転数)を横軸とし、左後輪105Lに伝達される駆動力(以下、この駆動力をTとする)に対する右後輪105Rに伝達される駆動力(以下、この駆動力Tとする)の割合である駆動力比TR(TR=T/T)を縦軸として示すグラフである。
【0060】
ピニオンギヤ52の回転数Nは、左側のサイドギヤ53Lの回転速度(以下、この回転速度をVとする)が右側のサイドギヤ53Rの回転速度(以下、この回転速度をVとする)よりも大きい場合に正の値となり、左側のサイドギヤ53Lの回転速度Vが右側のサイドギヤ53Rの回転速度Vよりも小さい場合に負の値となるものとする。ピニオンギヤ52の回転数Nは、左側のサイドギヤ53Lと右側のサイドギヤ53Rとの差動回転数に比例する。
【0061】
ピニオンギヤ52の回転数Nが0の場合、すなわち左側のサイドギヤ53Lと右側のサイドギヤ53Rとの差動回転が0である場合には、左後輪105Lに伝達される駆動力Tと右後輪105Rに伝達される駆動力Tとが実質的に均等(TR=1)となる。しかし、ピニオンギヤ52の回転数Nが正の場合(左側のサイドギヤ53Lの回転速度Vが右側のサイドギヤ53Rの回転速度Vよりも速い場合)には、左後輪105Lに伝達される駆動力Tが右後輪105Rに伝達される駆動力Tよりも小さくなり(T<T:TR>1)、ピニオンギヤ52の回転数Nが負の場合(左側のサイドギヤ53Lの回転速度Vが右側のサイドギヤ53Rの回転速度Vよりも遅い場合)には、左後輪105Lに伝達される駆動力Tが右後輪105Rに伝達される駆動力Tよりも大きくなる(T>T:TR<1)。
【0062】
また、駆動力比TRは、ピニオンギヤ52の回転数Nが0から第1の所定値Nまでの範囲では、ピニオンギヤ52の回転数Nの増大に応じて徐々に大きくなり、ピニオンギヤ52の回転数Nが第1の所定値Nを超えると、ほぼ一定の値(TR=Ta)となる。また、駆動力比TRは、ピニオンギヤ52の回転数Nが負で、その絶対値が0から第2の所定値Nの絶対値(N<0)までの範囲では、ピニオンギヤ52の回転数Nの絶対値の増大に応じて徐々に小さくなり、ピニオンギヤ52の回転数Nの絶対値が第2の所定値Nの絶対値を超えると、ほぼ一定の値(TR=Tb)となる。
【0063】
ピニオンギヤ52の回転数Nの絶対値の増大に伴って駆動力比TRが飽和する値(図5のグラフにおけるTa,Tb)は、リヤディファレンシャル150のTBR(トルクバイアスレシオ)に対応する値である。例えばリヤディファレンシャル150のTBRが1.2である場合、Ta=1.2であり、Tb=1/1.2である。ここで、TBRとは、ディファレンシャル装置に連結された一対の車輪のうち、路面との摩擦力が高い一方の車輪に伝達可能なトルクを、路面との摩擦力が低い他方の車輪に伝達可能なトルクで除した比率をいう。
【0064】
このTBRは、差動回転を抑制する構成を備えたディファレンシャル装置(例えばドライブシャフトと平行に配置されたピニオンギヤの歯先面とピニオンギヤの保持器の内面との摩擦摺動によって差動を制限する差動制限機能付きのディファレンシャル装置)の場合には例えば2以上であるが、本実施の形態のように、傘歯車からなる一対のサイドギヤにピニオンギヤがギヤ軸を直交させて噛み合うディファレンシャル装置(所謂オープンデフ)の場合でも、1.1〜1.3程度の値となる。本実施の形態に係るリヤディファレンシャル150においてTBRが1よりも大きくなるのは、デフケース50の内面と、一対のサイドギヤ53L,53R及び一対のピニオンギヤ52,52の噛み合い反力によってデフケース50の内面に押し付けられるギヤ背面との間の摩擦力等が左側のサイドギヤ53Lと右側のサイドギヤ53Rとの差動回転を抑制するように作用するためである。
【0065】
例えば、駆動力伝達装置160によって伝達される伝達トルクが200Nmである場合、四輪駆動車100の旋回方向にかかわらず、左車輪105Lには200Nmのトルク(駆動力)が伝達されるが、左側のサイドギヤ53Lの回転速度Vが右側のサイドギヤ53Rの回転速度Vよりも速い場合(例えば、右旋回時)には、この200NmにTBR(1.2)を乗じた240Nm(200×1.2 Nm)のトルクが右後輪105Rに伝達される。この結果、後輪105L,105R側に伝達される駆動力の合計は、440Nm(200+240 Nm)となる。
【0066】
一方、左側のサイドギヤ53Lの回転速度Vが右側のサイドギヤ53Rの回転速度Vよりも遅い場合(例えば、左旋回時)には、この200NmにTBR(1.2)の逆数を乗じた167Nm(200/1.2 Nm)のトルクが右後輪105Rに伝達される。この結果、後輪105L,105R側に伝達される駆動力の合計は、367Nm(200+167 Nm)となる。この結果、左右旋回時には、車両走行状態に基づいて制御部92が第1の演算手段921として演算した指令トルクTcどおりのトルクが後輪105L,105R側に伝達されないこととなる。
【0067】
本実施の形態では、第2の演算手段922によって第1の演算手段921が演算した指令トルクTcをピニオンギヤ52の回転数に基づいて補正することにより、後輪105L,105R側に伝達されるトルクの精度を高める。より具体的には、左側のサイドギヤ53Lの回転速度V>右側のサイドギヤ53Rの回転速度V、かつピニオンギヤ52の回転数が所定値以上の場合(すなわち、左側のサイドギヤ53Lの回転速度Vと右側のサイドギヤ53Rの回転速度Vとの差が所定値以上の場合)に第1の演算手段921が演算した指令トルクTcを小さくする補正を行い、左側のサイドギヤ53Lの回転速度V<右側のサイドギヤ53Rの回転速度V、かつピニオンギヤ52の回転数が所定値以上(すなわち、左側のサイドギヤ53Lの回転速度Vと右側のサイドギヤ53Rの回転速度Vとの差が所定値以上の場合)の場合に第1の演算手段921が演算した指令トルクTcを大きくする補正を行う。次に、この第2の演算手段922の処理を含む制御部92の処理内容の一例について、さらに具体的に説明する。
【0068】
図6は、制御部92が第1の演算手段921、第2の演算手段922、及び制御手段923として実行する処理の一例を示すフローチャートである。制御部92は、このフローチャートに示す処理を所定の制御周期(例えば100ms)ごとに繰り返し実行する。
【0069】
制御部92は、四輪駆動車100の走行状態に応じて指令トルクTcを演算する(ステップS10)。この処理は、制御部92が第1の演算手段921として実行する処理である。四輪駆動車100の走行状態としては、例えば前述のように、前後輪回転速差ΔV、アクセル開度φ、車速S等を用いることができる。
【0070】
次に、制御部92は、ピニオンギヤ52の回転数Nを演算する(ステップS11)。ピニオンギヤ52の回転数Nは、プロペラシャフト140の回転速度と右後輪105Rの回転速度、及び第2のギヤ機構42におけるリングギヤ42aとピニオンギヤ42bとのギヤ比に基づいて算出することができる。プロペラシャフト140の回転速度は、前輪104L,104Rの回転速度、及び第1のギヤ機構41におけるリングギヤ41aとピニオンギヤ41bとのギヤ比に基づいて算出することができる。リングギヤ42aの単位時間当たりの回転数をNringとし、右後輪105Rの単位時間当たりの回転数をNrrとすると、ピニオンギヤ52の回転数Nは、(Nring−Nrr)×2の演算式によって求めることができる。
【0071】
次に、制御部92は、ピニオンギヤ52の回転数Nが第1の所定値N以上であるかを判定する(ステップS12)。この第1の所定値Nは、図5に示すグラフの右側の屈曲点(勾配が変化する点)にあたるピニオンギヤ52の回転数Nの値である。
【0072】
ピニオンギヤ52の回転数N≧第1の所定値Nである場合(S12:Yes)、制御部92は、ステップS10で演算した指令トルクTcに補正係数kを乗じて指令トルクTcを補正する。この補正係数kは、1未満の値であり、k=1/((TBR−1)/2+1)であることが望ましい。本実施の形態においてTBR=1.2とすると、補正係数kは、k=0.91となる。
【0073】
一方、ステップS12においてピニオンギヤ52の回転数N≧第1の所定値Nでない場合(S12:No)、制御部92は、ピニオンギヤ52の回転数Nが負の値であって、かつピニオンギヤ52の回転数Nの絶対値が第2の所定値Nの絶対値以上であるかを判定する(ステップS14)。この第2の所定値Nは、図5に示すグラフの左側の屈曲点にあたるピニオンギヤ52の回転数Nの値(N<0)である。
【0074】
ピニオンギヤ52の回転数N<0かつピニオンギヤ52の回転数Nの絶対値が第2の所定値Nの絶対値以上である場合(S14:Yes)、制御部92は、ステップS10で演算した指令トルクTcに補正係数kを乗じて指令トルクTcを補正する。この補正係数kは、1より大きな値であり、k=1/((1/TBR+1)/2)であることが望ましい。本実施の形態においてTBR=1.2とすると、補正係数kは、k=1.09となる。一方、N<0かつ|N|≧Nでない場合(S14:No)、制御部92は、ステップS10で演算した指令トルクTcを補正しない。
【0075】
上記ステップS11〜S15の処理は、制御部92が第2の演算手段922として実行する処理である。
【0076】
制御部92は、ステップS13又はステップS14で補正された指令トルクTc、もしくはステップS14の判定の結果がNoであることにより補正されなかった指令トルクTcに応じて駆動回路93に制御信号を出力する。これにより、駆動回路93は、指令トルクTcに応じた電流を駆動力伝達装置160の電磁コイル80に供給し、駆動力伝達装置160の押圧機構8は、この電流に応じた押圧力で多板クラッチ7を押圧する。以上により、ステップS16における指令トルクTcに応じた駆動力が駆動力伝達装置160を介して左後輪105Lに伝達される。
【0077】
例えば、ステップS10において演算された指令トルクTcが200Nmで、ステップS12の判定の結果がYesである場合、この指令トルクTcがステップS13の処理で補正されることにより、左後輪105Lには200×k=182Nmのトルクが伝達され、右後輪105Rには182×1.2=218.4Nmのトルクが伝達される。これにより、後輪105L,105R側に伝達される駆動力の合計は、400.4Nmとなる。
【0078】
また、ステップS10において演算された指令トルクTcが200Nmで、ステップS14の判定の結果がYesである場合、この指令トルクTcがステップS15の処理で補正されることにより、左後輪105Lには200×k=218Nmのトルクが伝達され、右後輪105Rには218/1.2=181.7Nmのトルクが伝達される。これにより、後輪105L,105R側に伝達される駆動力の合計は、399.7Nmとなる。
【0079】
このように、ステップS12〜S15における指令トルクTcの補正処理により、四輪駆動車101の走行状態に基づいて演算された指令トルクTc(ステップS10において演算された指令トルクTc)に応じた駆動力が精度良く後輪105L,105R側に配分される。
【0080】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、後輪105L,105R側に伝達される駆動力の精度を高めることが可能となる。
【0081】
[他の実施の形態]
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0082】
例えば、上記実施の形態では、多板クラッチ7を押圧する押圧機構8を電磁コイル80の磁力によって作動するカム機構によって構成したが、これに限らず、例えば電動モータのトルクによってカム機構が作動するように構成してもよい。また、押圧機構8を油圧によって作動するピストンによって構成してもよい。
【0083】
また、上記実施の形態では、リヤディファレンシャル150と左後輪105Lとの間に駆動力伝達装置160を設けた場合について説明したが、駆動力伝達装置160をリヤディファレンシャル150と右後輪105Rとの間に設けてもよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、リヤディファレンシャル150が差動制限機能を有しないオープンデフである場合について説明したが、これに限らず、リヤディファレンシャル150が差動制限機能を有していてもよい。
【0085】
また、上記実施の形態では、前輪104L,104Rが主駆動輪であり、後輪105L,105Rが補助駆動輪である場合について説明したが、これに限らず、前輪104L,104Rが補助駆動輪であり、後輪105L,105Rが主駆動輪であってもよい。
【0086】
また、上記実施の形態では、四輪駆動車100の走行状態を示す指標として、前後輪回転速差ΔV、アクセル開度φ、及び車速Sを用いた場合について説明したが、これに限らず、例えば前輪104L,104Rの操舵角やエンジン102の出力、あるいはトランスミッションの変速比等を四輪駆動車100の走行状態を示す指標としてもよい。
【0087】
また、上記実施の形態では、プロペラシャフト140への駆動力の伝達を噛み合いクラッチ130によって遮断可能としたが、噛み合いクラッチ130はなくともよい。すなわち、プロペラシャフト140に常時エンジン102の駆動力が伝達されるように四輪駆動車100を構成してもよい。
【0088】
また、上記実施の形態では、リングギヤ42aの回転数Nring及び右後輪105Rの回転数をNrrに基づいて、ピニオンギヤ52の回転方向(左側のサイドギヤ53Lと右側のサイドギヤ53Rとの差回転の方向)、及びピニオンギヤ52の回転数を演算したが、左右一対の前輪104L,104Rの回転速度と、右後輪105Rの回転速度とに基づいて、ピニオンギヤ52の回転方向及び回転数を演算してもよい。またさらに、駆動力伝達装置160におけるアウタハウジング60又は中間シャフト54の回転速度を検出可能なセンサを設け、このセンサの検出値と右後輪105Rの回転速度とに基づいて、ピニオンギヤ52の回転方向及び回転数を演算してもよい。
【符号の説明】
【0089】
7…多板クラッチ、8…押圧機構、20…デフケース、21…ピニオンシャフト、22…ピニオンギヤ、23L,23R…サイドギヤ、30…アクチュエータ、30a…シャフト、31…第1の歯部、32…第2の歯部、33…スリーブ、31a,32a,33a…スプライン歯、33b…係合凹所、33c…凹部、34…移動部材、41…第1のギヤ機構、41a…リングギヤ、41b…ピニオンギヤ、42…第2のギヤ機構、42a…リングギヤ、42b…ピニオンギヤ、50…デフケース、51…ピニオンシャフト、52…ピニオンギヤ、53L,53R…サイドギヤ、54…中間シャフト、54a…フランジ、55…軸状部材、55a…外輪、56…軸状部材、56a…外輪、60…アウタハウジング、60a…スプライン部、61…リヤハウジング、61a…第1エレメント、61b…第2エレメント、61c…第3エレメント、64…インナシャフト、64a…スプライン部、71…アウタクラッチプレート、72…インナクラッチプレート、80…電磁コイル、81…ヨーク、82…第1カム部材、83…カムフォロア、84…第2カム部材、91…記憶部、92…制御部、93…駆動回路、100…四輪駆動車、101…アクセルペダル、102…エンジン、103…トランスミッション、104L,104R…前輪、105L,105R…後輪、106…第1の駆動力伝達系、107…第2の駆動力伝達系、114L,114R,115L,115R…ドライブシャフト、120…フロントディファレンシャル、130…噛み合いクラッチ、140…プロペラシャフト、150…リヤディファレンシャル、151…デフキャリア、160…駆動力伝達装置、900…アクセル開度センサ、901〜904…車輪速センサ、910…制御プログラム、921…第1の演算手段、922…第2の演算手段、923…制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6