特許第6051846号(P6051846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051846
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】車両用リヤサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 3/20 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   B60G3/20
【請求項の数】5
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-281232(P2012-281232)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-124998(P2014-124998A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】影山 雄介
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−090762(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/124272(WO,A1)
【文献】 特開平05−229325(JP,A)
【文献】 特開平05−278421(JP,A)
【文献】 特開平01−175513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後輪を支持する車軸を有する車輪支持部材と車体側部材とをサスペンションリンクで連結するリヤサスペンション装置であって、
前記車軸より上側で、前記車輪支持部材と前記車体側部材とを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材と、
前記車軸より下側で且つ車軸より車両前後方向前側で、前記車輪側支持部材と前記車体側部材とを連結するAアーム構成のロアリンク部材と、
前記車軸より下側で且つ車軸より車両前後方向後側で、前記車輪側支持部材と前記車体側部材とを連結する横剛性調整リンク部材と
を備え
前記ロアリンク部材の車輪側取付点が上面視で前記第1アッパーリンク部材および前記第2アッパーリンク部材の車輪側取付点より車両車幅方向外側に設定されていることを特徴とする車両用リヤサスペンション装置。
【請求項2】
ステアリングホイールと機械的に切り離された転舵輪を転舵するアクチュエータを制御してステア特性を制御するステアバイワイヤシステムで構成される転舵制御装置を備え、前記転舵制御装置を、転舵初期に所定時間ステア特性制御を停止してフロントサスペンション装置の転舵応答性により転舵し、所定時間が経過したときにステア特性制御を開始するように構成した車両に搭載されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用リヤサスペンション装置。
【請求項3】
前記転舵制御装置は、前記ステアリングホイールが中立位置から操舵されたときに、ステア制御の開始を所定時間遅延させる遅延制御部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の車両用リヤサスペンション装置。
【請求項4】
前記第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材は、車輪側支持点から車体側支持点に行くに従い車両上下方向の高さが低くなるように傾斜配置されていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の車両用リヤサスペンション装置。
【請求項5】
前記剛性調整リンク部材は、車輪側取付部および車体側取付部のブッシュ剛性を他のリンク部材のブッシュ剛性より高めたことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の車両用リヤサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後輪を支持する車輪支持部材と車体側部材とをサスペンションリンクで連結する車両用リヤサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用リヤアサスペンション装置としては、例えば特許文献1に記載されているように、後輪を支持する車輪支持部材の上端と車体側支持部材とを連結するAアーム構成のアッパーリンクと、前側ロアリンクおよび後側ロアリンクと、トーコントロールリンクとで構成し、アッパーリンクの車輪側取付点でなるアッパーピボット点と前側ロアリンクと後側ロアリンクとの先端側の交点でなるロアピボット点とを結ぶキングピン軸をタイヤが接地可能な分布領域内に位置するようにしたリヤサスペンション装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−126201号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リヤサスペンション装置では、転舵時に高い車体側剛性が求められるとともに、サスペンションの横剛性も高くすることが求められる。
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術にあっては、アッパーリンクをAアームで構成し、リアリンクを前側リンク部材および後側リンク部材で構成し、さらにトーコントロールリンクを設け、横力入力に対して各入力分担の関係が、後側ロアリンク>前側ロアリンク>トーコントロールリンクとなるように取付位置を調整して、タイヤ横力に対する仮想キングピン軸回りのモーメントを小さくするようにしている。
【0005】
このため、特許文献1に記載の技術では、車体側剛性を向上させるためには、車体側ではサスペンションの取付点の動きを抑制するため、剛性向上を狙ってピン間バーなどの補強用の補剛性部品を追加する必要がある。また、特許文献1に記載の技術では、サスペンション横剛性を向上させるためには、横剛性と横力コンプライアンスステアとがトレードオフの関係にあるので、リンク配置やブッシュ剛性差を工夫する必要がある。
本発明の課題は、横力コンプライアンスステアを考慮することなく転舵初期時の横力に対する剛性を向上させることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明に係る車両用リヤサスペンション装置は、車軸より上側で、車輪支持部材と車体側部材とを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材と、車軸より下側で且つ車軸より車両前後方向前側で、車輪側支持部材と車体側部材とを連結するAアーム構成のロアリンク部材と、車軸より下側で且つ車軸より車両前後方向後側で、車輪側支持部材と車体側部材とを連結する横剛性調整リンク部材と、を備える。そして、ロアリンク部材の車輪側取付点が上面視で第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の車輪側取付点より車両車幅方向外側に設定されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、転舵初期時にタイヤ接地面に横力が作用したときに、アッパーリンク部材およびAアームで構成されるロアリンク部材と車軸より車両上下方向に下側に配置した横剛性調整リンクとで横力に対する剛性を向上させるとともに、横力コンプライアンスステアを低減させる。このため、リンク配置の調整、ブッシュ剛性の調整や車体側部材の補剛部品を省略することができ、リヤサスペンション装置を小型でかつ軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態を適用し得る自動車の構成を示す概略図である。
図2】フロントサスペンション装置の構成を模式的に示す斜視図である。
図3】フロントサスペンション装置の構成を模式的に示す平面図である。
図4】フロントサスペンション装置の構成を模式的に示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側面図である。
図5】キングピン傾角およびスクラブ半径とラック軸力との関係を示す特性線図である。
図6】キングピン軸の路面着地点と横力との関係を示す特性線図である。
図7】ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
図8】アクチュエータを駆動するアクチュエータ制御装置の具体的構成を示すブロック図である。
図9】転舵制御部で実行する転舵制御処理手順の一例を示すフローチャートである。
図10】操舵角速度と第1遅延時間との関係を表す第1遅延時間算出マップを示す特性線図である。
図11】車速と第2遅延時間との関係を表す第2遅延時間算出マップを示す特性線図である。
図12】操舵角速度と車速との関係に基づいて設定される遅延時間を表すグラフである。
図13】サスペンション装置の特性を示す図であって、(a)はキャスター角と応答性および安定性との関係を示す図、(b)はキャスタートレイルと横力低減代および直進性との関係を示す図である。
図14】転舵応答特性を示す図であって、(a)は車両の応答特性の変化を示す特性線図、(b)は制御特性の切換タイミングを示す図である。
図15】転舵時における車体剛性、リヤサスペンション剛性、リヤサスペンションステア特性のリヤタイヤ横力への寄与率を示す特性線図である。
図16】リヤサスペンション装置の構成を模式的に示す斜視図である。
図17】リヤサスペンション装置の構成を模式的に示す平面図である。
図18】リヤサスペンション装置の構成を模式的に示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は側面図である。
図19】リヤサスペンション装置のアライメント変化を示す図であって、(a)はタイヤ端ストロークとトー角変化量との関係を示す特性線図であり、(b)は接地点横力とトー角変化量との関係を示す特性線図である。
図20】本発明に適用し得るフロントサスペンション装置の応用例1を模式的に示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)部分正面図である。
図21】本発明に適用し得るフロントサスペンション装置の応用例2を模式的に示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)部分正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を適用した自動車の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動車1の構成を示す概略図である。
図1において、自動車1は、ステアバイワイヤシステムSBWを備えている。このステアバイワイヤシステムSBWは、車体1Aと、ステアリングホイール2と、入力側ステアリング軸3と、操舵角度センサ4と、操舵トルクセンサ5と、操舵反力アクチュエータ6と、操舵反力アクチュエータ角度センサ7と、転舵アクチュエータ8と、転舵アクチュエータ角度センサ9と、出力側ステアリング軸10と、転舵トルクセンサ11と、ピニオンギア12と、ピニオン角度センサ13と、ステアリングラック部材14と、タイロッド15と、タイロッド軸力センサ16と、車輪17FR,17FL,17RR,17RLと、車両状態パラメータ取得部21と、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLと、コントロール/駆動回路ユニット26と、メカニカルバックアップ27とを備えている。
【0010】
ステアリングホイール2は、入力側ステアリング軸3と一体に回転するよう構成され、運転者による操舵入力を入力側ステアリング軸3に伝達する。
入力側ステアリング軸3は、操舵反力アクチュエータ6を備えており、ステアリングホイール2から入力された操舵入力に対し、操舵反力アクチュエータ6による操舵反力を加える。
【0011】
操舵角度センサ4は、入力側ステアリング軸3に備えられ、入力側ステアリング軸3の回転角度(即ち、運転者によるステアリングホイール2への操舵入力角度)を検出する。そして、操舵角度センサ4は、検出した入力側ステアリング軸3の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
操舵トルクセンサ5は、入力側ステアリング軸3に設置してあり、入力側ステアリング軸3の回転トルク(即ち、ステアリングホイール2への操舵入力トルク)を検出する。そして、操舵トルクセンサ5は、検出した入力側ステアリング軸3の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0012】
操舵反力アクチュエータ6は、モータ軸と一体に回転するギアが入力側ステアリング軸3の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、ステアリングホイール2による入力側ステアリング軸3の回転に対して反力を付与する。
操舵反力アクチュエータ角度センサ7は、操舵反力アクチュエータ6の回転角度(即ち、操舵反力アクチュエータ6に伝達した操舵入力による回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0013】
転舵アクチュエータ8は、モータ軸と一体に回転するギアが出力側ステアリング軸10の一部に形成されたギアに噛合しており、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、出力側ステアリング軸10を回転させる。
転舵アクチュエータ角度センサ9は、転舵アクチュエータ8の回転角度(即ち、転舵アクチュエータ8が出力した転舵のための回転角度)を検出し、検出した回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0014】
出力側ステアリング軸10は、転舵アクチュエータ8を備えており、転舵アクチュエータ8が入力した回転をピニオンギア12に伝達する。
転舵トルクセンサ11は、出力側ステアリング軸10に設置してあり、出力側ステアリング軸10の回転トルク(即ち、ステアリングラック部材14を介した車輪17FR,17FLの転舵トルク)を検出する。そして、転舵トルクセンサ11は、検出した出力側ステアリング軸10の回転トルクをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0015】
ピニオンギア12は、ステアリングラック部材14に形成したラックと噛合しており、出力側ステアリング軸10から入力した回転をステアリングラック部材14に伝達する。
ピニオン角度センサ13は、ピニオンギア12の回転角度(即ち、ステアリングラック部材14を介して出力される車輪17FR,17FLの転舵角度)を検出し、検出したピニオンギア12の回転角度をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0016】
ステアリングラック部材14は、ピニオンギア12と噛合するラックを有し、ピニオンギア12の回転を車幅方向の直線運動に変換する。本実施形態において、ステアリングラック部材14は、前輪の車軸よりも車両前方側に位置している。
タイロッド15は、ステアリングラック部材14の両端部と車輪17FR,17FLのナックルアームとを、ボールジョイントを介してそれぞれ連結している。
【0017】
タイロッド軸力センサ16は、ステアリングラック部材14の両端部に設置されたタイロッド15それぞれに設置してあり、タイロッド15に作用している軸力を検出する。そして、タイロッド軸力センサ16は、検出したタイロッド15の軸力をコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
車輪17FR,17FL,17RR,17RLは、タイヤホイールにタイヤを取り付けて構成したものである。
【0018】
ここで、前輪(車輪17FR,17FL)はフロントサスペンション装置1Bを介して車体1Aに設置してあり、これら車輪17FR,17FLは、タイロッド15によってナックルアームが揺動することにより、車体1Aに対する向きが変化する。
後輪(車輪17RR,16RL)はリヤサスペンション装置1Cを介して車体1Aに設置してある。
【0019】
また、車両1には車両1のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ22が設けられ、このヨーレートセンサ22で検出したヨーレートγをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。さらに、車両1には車両1の駆動輪となる後輪17RRおよび17RLの駆動力配分を制御する駆動力制御装置23が設けられ、この駆動力制御装置23で設定された左右の駆動力TR,TLをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0020】
車両状態パラメータ取得部21は、車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLから出力される車輪の回転速度を示すパルス信号を基に車速を取得する。また、車両状態パラメータ取得部21は、車速と各車輪の回転速度とを基に、各車輪のスリップ率を取得する。そして、車両状態パラメータ取得部21は、取得した各パラメータをコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
車輪速センサ24FR,24FL,24RR,24RLは、各車輪の回転速度を示すパルス信号を、車両状態パラメータ取得部21およびコントロール/駆動回路ユニット26に出力する。
【0021】
コントロール/駆動回路ユニット26は、自動車1全体を制御するものであり、各部に設置したセンサから入力する信号を基に、入力側ステアリング軸3の操舵反力、前輪の転舵角、あるいはメカニカルバックアップ27の連結について、各種制御信号を、操舵反力アクチュエータ6、転舵アクチュエータ8、あるいはメカニカルバックアップ27等に出力する。このコントロール/駆動回路ユニット26は少なくとも前輪の転舵角をステアリングホイール2の操舵角に応じて制御する転舵制御部50を備えている。
【0022】
また、コントロール/駆動回路ユニット26は、各センサによる検出値を使用目的に応じた値に換算する。例えば、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された回転角度を操舵入力角度に換算したり、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された回転角度を車輪の転舵角に換算したり、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を車輪の転舵角に換算したりする。
【0023】
なお、コントロール/駆動回路ユニット26は、操舵角度センサ4によって検出された入力側ステアリング軸3の回転角度、操舵反力アクチュエータ角度センサ7によって検出された操舵反力アクチュエータ6の回転角度、転舵アクチュエータ角度センサ9によって検出された転舵アクチュエータ8の回転角度、および、ピニオン角度センサ13によって検出されたピニオンギア12の回転角度を監視し、これらの関係を基に、操舵系統におけるフェールの発生を検出することができる。そして、操舵系統におけるフェールを検出すると、コントロール/駆動回路ユニット26は、メカニカルバックアップ27に対し、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示信号を出力する。
【0024】
メカニカルバックアップ27は、コントロール/駆動回路ユニット26の指示に従って、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結し、入力側ステアリング軸3から出力側ステアリング軸10への力の伝達を確保する機構である。ここで、メカニカルバックアップ27に対しては、通常時には、コントロール/駆動回路ユニット26から、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結しない状態を指示している。そして、操舵系統におけるフェールの発生により、操舵角度センサ4、操舵トルクセンサ5および転舵アクチュエータ8等を介することなく操舵操作を行う必要が生じた場合に、入力側ステアリング軸3と出力側ステアリング軸10とを連結させる指示信号が入力される。
なお、メカニカルバックアップ27は、例えばケーブル式ステアリング機構や電磁クラッチ等によって構成することができる。
【0025】
(フロントサスペンション装置の構成)
図2は第1実施形態に係るフロントサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す斜視図である。図3は、図2のフロントサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す平面図である。図4は、図2のフロントサスペンション装置1Bの構成を模式的に示す側面図である。
本発明に適用し得るフロントサスペンション装置1Bとしては、例えば国際公開第2012/073469号パンフレットに記載されたフロントサスペンション装置を適用することができる。
【0026】
このフロントサスペンション装置1Bは、図2から図4に示すように、ロアアームを構成する第1リンク37と第2リンク38は、車軸32より下方に位置する車体側の支持部とアクスルキャリア33の下端を連結する。このロアアームは、車体側と2箇所で支持され、車軸32側と1箇所で連結されるAアーム形状を有している(以下、ロアアームとアクスル部材33との連結部を適宜「ロアピボット点P2」と称する。)。
そして、左右のショックアブソーバ40の外筒間にスタビライザ41が連結されている。このスタビライザ41は、車両後方側の直線部41aが車体側部材に固定されたブラケット42によって回動可能に支持されている。
【0027】
タイロッド15は、車軸32の下側に位置して、ラック軸14とアクスル部材33を連結し、ラック軸14は、ステアリングホイール2からの回転力(操舵力)が伝達されて転舵用の軸力を発生させる。従って、タイロッド15により、ステアリングホイール2の回転に応じてアクスル部材33に車幅方向の軸力が加えられ、アクスル部材33を介して転舵輪17FR,17FLが転舵される。
【0028】
フロントサスペンション装置1Bにおいては、ステアリングホイール2の中立位置即ち転舵輪17FLおよび17FRが直進走行状態となっている状態で、上記フロントサスペンション装置1Bのアッパーピボット点P1およびロアピボット点P2を結ぶキングピン軸KSを、キングピン軸KSの路面接地点がタイヤ接地面内に位置するようにしている。また、キャスタートレイルがタイヤ接地面内に位置するよう設定している。
【0029】
より具体的には、本実施形態におけるフロントサスペンション装置1Bでは、キャスター角をゼロに近い値とし、キャスタートレイルがゼロに近づくようにキングピン軸KSを設定している。これにより、転舵時のタイヤ捻りトルクを低減でき、キングピン軸KS周りのモーメントをより小さくすることができる。また、スクラブ半径はゼロ以上のポジティブスクラブとしている。これにより、転舵時のタイヤ横滑り角に対し、スクラブ半径分のキャスタートレイルが生じることから、直進性を確保することができる。
【0030】
以下、フロントサスペンション装置1Bにおけるサスペンションジオメトリについて詳細に検討する。
(キングピン傾角の影響)
図5は、キングピン傾角とスクラブ半径とを軸とする座標において、ラック軸力の分布の一例を示す等値線図である。
図5においては、ラック軸力が小、中および大の3つの場合における等値線を例として示している。
タイヤ捻りトルク入力に対し、キングピン傾角が大きくなるほど、その回転モーメントが大きくなり、ラック軸力は大きくなる。したがって、キングピン傾角としては、一定の値より小さく設定することが望まれるが、スクラブ半径との関係から、例えばキングピン傾角15度以下とすると、ラック軸力を望ましいレベルまで小さくすることができる。
【0031】
なお、図5における一点鎖線(境界線)で囲んだ領域は、旋回の限界領域において、横力が摩擦の限界を超える値と推定できるキングピン傾角15度より小さく、かつ、上記タイヤ捻りトルクの観点から、スクラブ半径が0mm以上の領域を示している。本実施形態では、この領域(横軸においてキングピン傾角が15度より減少する方向で、縦軸においてスクラブ半径がゼロより増加する方向)を、より設定に適した領域としている。
具体的にスクラブ半径とキングピン傾角とを決定する場合には、例えば、図5に示すラック軸力の分布を示す等値線をn次曲線(nは2以上の整数)として近似し、上記一点鎖線で囲んだ領域の中から、n次曲線の変曲点(またはピーク値)の位置によって定めた値を採用することができる。
【0032】
(ラック軸力の最小化例)
図2〜4に示すフロントサスペンション構造において、キャスター角0度、キャスタートレイル0mm、スクラブ半径+10mmに設定したものとすると、ラック軸力は、フロントサスペンション装置1Bと同方式の懸架構造で、キングピン軸に関する設定をステアバイワイヤ方式の操舵装置を備えていない構造に合わせて設定したときの比較例に対し約30%低減することができる。
【0033】
このように、キャスター角を0度とすることは、サスペンション剛性を向上させることができ、また、キャスタートレイル0mmとすることは、キングピン軸KSの路面着地点と横力との関係を示す図6において符号3で示すように、キングピン軸KSの路面着地点がタイヤ接地面におけるタイヤ接地中心点(着力点)Oに一致させることを意味し、これにより大きな横力低減効果を向上させることができる。
【0034】
なお、タイヤ接地中心点(着力点)Oを含むタイヤ接地面内のキングピン軸KSの接地点が符号2および符号4である場合にも、キングピン軸KSの接地点が符号1および符号5で示すようにタイヤ接地面から前後方向に外れた位置とする場合に比較して横力を小さくすることができる。特に、キングピン軸KSの接地点がタイヤ接地中心点(着力点)より車両前方側とした場合の方がタイヤ接地中心点(着力点)より車両後方とした場合に比較して横力を小さく抑制することができる。
【0035】
(ポジティブスクラブによる直進性確保)
図7は、ポジティブスクラブとした場合のセルフアライニングトルクを説明する概念図である。
図7に示すように、タイヤに働く復元力(セルフアライニングトルク)は、キャスタートレイル、ニューマチックトレイルの和に比例して大きくなる。
ここで、ポジティブスクラブの場合、キングピン軸の接地点から、タイヤ接地中心を通るタイヤの横すべり角β方向の直線に下ろした垂線の足の位置によって定まるホイールセンタからの距離εc(図10参照)をキャスタートレイルとみなすことができる。
【0036】
そのため、ポジティブスクラブのスクラブ半径が大きければ大きいほど、転舵時にタイヤに働く復元力(セルフアライニングトルク)は大きくなる。
本実施形態においては、キャスター角を0に近づけることによる直進性への影響を、ポジティブスクラブとすることで低減することができる。また、ステアバイワイヤ方式を採用していることから、転舵アクチュエータ8によって最終的に目的とする直進性やステア特性を確保することができる。
【0037】
上記のようなサスペンションジオメトリとすることにより、転舵時におけるタイヤ接地面中心の軌跡がより小さいものとなり、タイヤ捻りトルクを低減できる。
そのため、ラック軸力をより小さいものとすることができることから、キングピン軸KS周りのモーメントをより小さくでき、転舵アクチュエータ8の出力を低減することができる。また、より小さい力で車輪の向きを制御できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0038】
また、キャスター角を0度、キャスタートレイルを0mmとしたことに伴い、サスペンション構造上の直進性に影響が生じる可能性があるところ、ポジティブスクラブに設定することにより、その影響を軽減できる。さらに、転舵アクチュエータ8による制御と併せて、直進性を確保している。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
また、キングピン傾角を一定の範囲(15度以下)に制限したことに対しては、転舵アクチュエータ8での転舵を行うことにより、運転者が操舵操作に重さを感じることを回避できる。また、路面からの外力によるキックバックについても、転舵アクチュエータ8によって外力に対抗できるため、運転者への影響を回避できる。即ち、操縦性・安定性の向上を図ることができる。
【0039】
(転舵制御部の構成)
次に、転舵アクチュエータ8を制御するコントロール/駆動回路ユニット26における転舵制御部50の転舵制御について図11図15を伴って説明する。
即ち、コントロール/駆動回路ユニット26には、前述したように、トルクセンサ5で検出する入力側ステアリング軸3の操舵トルクTsと、車両状態パラメータ取得部21で取得した車速Vと、操舵反力アクチュエータ角度センサ7で検出したアクチュエータ6の回転角θmiとが入力されている。
【0040】
このコントロール/駆動回路ユニット26には、図1に示す転舵制御部50が設けられ、この転舵制御部50から出力される目標転舵角指令値がアクチュエータ制御装置54に出力されている。
転舵制御部50は、前述した国際公開第2012/073469号パンフレットに記載された転舵制御部を基礎とし、これに遅延時間算出部を加えた構成としている。
【0041】
即ち、転舵制御部50は、図1に示すように、車速Vおよび回転角θmiが入力され、これらに基づいて転舵アクチュエータ8を駆動するための目標転舵角δを算出する目標転舵角演算部51、フロントサスペンション装置1Bで不足する復元力(セルフアライニングトルク)を補完して直進性を担保する直進性担保制御値δaを演算するとともに、ステアリングホイールが中立位置にある直進走行状態から操舵開始状態を検出したときに遅延時間τの間ステア特性制御を停止し、遅延時間τが経過したときにステア特性制御を開始する遅延制御部52aを含む転舵応答性設定部52、ステアリングホイール2が中立位置にある状態から転舵を開始した転舵開始時に車速Vおよび操舵角θsを微分した操舵角速度に基づいて遅延時間を算出する遅延時間算出部53を備えている。
【0042】
アクチュエータ制御装置54は、図8に示すように、転舵角偏差Δδを算出する転舵角偏差演算部61と、転舵モータ制御部62と、電流偏差演算部63とモータ電流制御部65とを備えている。
転舵角偏差演算部61は、転舵制御部50から出力される目標舵角補正値δaから転舵アクチュエータ角度センサ9から出力される転舵アクチュエータ角度に基づく実転舵角δrを減算して舵角偏差Δδを算出し、算出した舵角偏差Δδを転舵モータ制御部62に出力する。
【0043】
転舵モータ制御部62は、入力される転舵角偏差Δδが零となるようにアクチュエータ8を構成する転舵モータ8aの駆動指令電流imを算出し、算出した駆動指令電流imを電流偏差演算部63に出力する。
電流偏差演算部63は、入力される駆動指令電流imから転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aに供給するモータ電流を検出するモータ電流検出部64から出力されるモータ電流imrを減算して電流偏差Δiを算出し、算出した電流偏差Δiをモータ電流制御部65に出力する。
【0044】
モータ電流制御部65は、入力される電流偏差Δiが零となるように、即ち、実際のモータ電流imrが駆動指令電流imに追従するようにフィードバック制御し、転舵モータ駆動電流imrを転舵モータ8aに出力する。
そして、転舵制御部50は、例えばマイクロコンピュータ等の演算処理装置を備えており、図9に示す転舵制御処理を所定時間(例えば1μsec)毎のタイマ割込処理として実行する。
【0045】
この転舵制御処理は、先ず、ステップS1で、車速V、操舵角センサ4で検出した操舵角θs、ヨーレートセンサ22で検出したヨーレートγ、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTs等の演算処理に必要なデータを読込む。
次いで、ステップS2に移行して、操舵角θsに基づいてステアリングホイール2が中立位置を保持している状態から右または左に操舵された操舵開始状態であるか否かを判定し、操舵開始状態ではないときにはステップS3に移行する。
【0046】
このステップS3では、操舵開始制御状態であることを表す制御フラグFが“1”にセットされているか否かを判定し、制御フラグFが“0”にリセットされているときには、ステップS4に移行して、制御ゲインGaを“1”に設定してからステップS5に移行する。
このステップS5では、車速Vおよび操舵角センサ4で検出した操舵角θsが入力され、これらに基づいて目標転舵角δを算出する。
【0047】
次いで、ステップS6に移行して、左右の駆動輪である転舵輪17RRおよび17RLの駆動力を配分制御する駆動力制御装置23から出力される左右輪の駆動力TLおよびTRに基づいてコンプライアンスステア制御値Acを算出する。このコンプライアンスステア制御値Acの算出は、駆動力制御装置23から出力される左右輪の駆動力TLおよびTRとロアリンク37および38のブッシュの撓みに応じたコンプライアンスステア係数afとに基づいて下記(1)式および(2)式の演算を行って、コンプライアンスステアによる転舵輪17FLおよび17FRの舵角の変化量ΔflおよびΔfrを算出する。そして、算出した変位量ΔflおよびΔfrの変位量差を算出して転舵角制御値としてのコンプライアンスステア制御値Ac(=Δfl−Δfr)を算出する。
Δfl=af・TL …………(1)
Δfr=af・TR …………(2)
【0048】
次いで、ステップS7に移行して、車速Vと、ピニオン角度センサ13で検出したピニオン角度に基づいて算出される転舵輪17FR,17FLの実転舵角δrと、ヨーレートセンサ22bで検出したヨーレートγに基づいて下記(3)式の演算を行ってセルフアライニングトルクTsaを算出し、算出したセルフアライニングトルクTsaに所定ゲインKsaを乗算して直進性補正値としてのセルフアライニングトルク制御値Asa(=Ksa・Tsa)を算出する。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで、εcはキャスタートレイル、Kfは前輪1輪当たりのコーナリングパワー、βは重心点滑り角、Lfは重心点前輪軸間距離、Krは後輪1輪当たりのコーナリングパワー、Lrは重心点後輪軸間距離、mは車両の質量、Lは前輪後輪軸間距離である。
この(3)式において、キャスタートレイルεを通常のサスペンション装置で設定されるキャスタートレイルεc0から本実施形態で設定するキャスタートレイルεc2を減算した値に設定することにより、本発明に適用するフロントサスペンション装置1Bで不足する補完すべきセルフアライニングトルクTsaを算出することができる。
【0051】
なお、セルフアライニングトルクTsaは、上記(3)式によって算出する場合に限らず、車両の横加速度Gyを検出する横加速度センサを設け、車両の横加速度Gyと車両のヨーレートγとに基づいて車両の運動方程式に基づいてヨーレートγの微分値と横加速度Gyとに基づいて横力Fyを算出し、この横力Fyにニューマチックトレイルεnを乗算することにより、算出することができる。
【0052】
さらには、ステアリングホイール2の操舵角θsと、セルフアライニングトルクTsaとの関係を、車速Vをパラメータとして実測するかまたはシミュレーションによって算出した制御マップを参照して操舵角センサ4で検出した操舵角θsと車速Vとに基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出することもできる。
また、前述した駆動力制御装置23から出力される駆動力TLおよびTRの左右の駆動力差に基づいてトルクステア現象で転舵時に発生する発生トルクThを推定し、操舵トルクセンサ5で検出した操舵トルクTsから発生トルクThを減じてセルフアライニングトルクTsaを算出することもできる。同様に、左右の駆動輪17RR,17RLの制動力差に基づいてセルフアライニングトルクTsaを算出することができる。
【0053】
次いで、ステップS8に移行して、操舵トルクセンサ5からの操舵トルクTs、転舵アクチュエータ角度センサ9からの回転角θmo、およびモータ電流検出部61からのモータ電流imrが入力され、車両に入力される外乱を周波数帯域毎に分離してそれぞれ推定し、これらの外乱を抑制するための外乱補償値Adisを算出する。この外乱補償値Adisの算出は、例えば特開平2007−237840号公報に記載されているように、運転者による操舵入力である操舵トルクTsと転舵アクチュエータ8による転舵入力を制御入力とし、実際の操舵状態量を制御量とするモデルにおいて、前記制御入力をローパスフィルタ処理した値と、前記制御量を前記モデルの逆特性と前記ローパスフィルタ書した値との差に基づいて複数の外乱を推定演算し、各推定演算において、ローパスフィルタ処理のカットオフ周波数を異ならせることにより、外乱を複数の周波数帯域毎に分離する。
【0054】
次いで、ステップS9に移行して、下記(2)式にしたがって目標転舵角δ*と、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asa、外乱補償値Adisの加算値に制御ゲインGaを乗算した値とを加算して加算後目標転舵角δ*aを算出する。
δ*a=δ*+Ga(Ac+Asa+Adis) …………(2)
【0055】
次いで、ステップS10に移行して、算出した加算後目標転舵角δ*aをアクチュエータ制御装置54に出力してから前記ステップS1に戻る。
また、ステップS2の判定結果が操舵開始状態であるときには、ステップS11に移行し、ステップS1で読込んだ操舵角θsを微分して操舵角速度θsvを算出してからステップS12に移行する。
【0056】
このステップS12では、前記ステップS10で算出した操舵角速度θsvをもとにROM等のメモリに記憶した図10の第1遅延時間算出マップを参照して第1遅延時間τ1を算出してからステップS13に移行する。ここで、第1遅延時間算出マップは、図10に示すように、操舵角速度θsvが0から所定設定値θsv1までの間は第1の遅延時間τ1が例えば最小遅延時間τmin1(例えば0.04秒)に設定され、操舵角速度θsvが所定設定値θsv1より増加すると、操舵角速度θsvの増加に応じて第1の遅延時間τ1が最大遅延時間τmax1(例えば0.06秒)まで増加するように双曲線状の特性曲線L31が設定されている。
【0057】
このステップS13では、ステップS1で読込んだ車速Vをもとに、ROM等のメモリに記憶した前述した図11の第2遅延時間算出マップを参照して第2遅延時間τ2を算出してからステップS14に移行する。ここで、第2遅延時間算出マップは、図11に示すように、特性線L32が設定されている。この特性線L32は、車速Vが0から設定車速V1までの間の低車速状態では、第2の遅延時間τ2が例えば最小遅延時間τmax2(例えば0.07秒)を維持する線分L32aに設定されている。そして、車速Vが設定車速V1より増加すると、その増加量に比例して第2の遅延時間τ2が増加するリニアな成分L32bに設定されている。さらに、車速Vが設定車速V1より大きい設定車速V2以上となると第2の遅延時間τ2が最大遅延時間τmin2(例えば0.03秒)に維持される線分L32cに設定されている。
【0058】
このステップS14では、ステップS11で算出した第1遅延時間τ1とステップS12で算出した第2遅延時間τ2とを加算して遅延時間τ(=τ1+τ2)を算出し、次いでステップS15に移行して、操舵開始制御状態であることを表す制御フラグFを“1”にセットしてからステップS16に移行する。また、前述したステップS3の判定結果が制御フラグFが“1”にセットされているときにもステップS16に移行する。
【0059】
このステップS16では、ステップS14で算出した遅延時間τが経過したか否か判定し、遅延時間τが経過していないときにはステップS17に移行して制御ゲインGaを“0”に設定してから前記ステップS5へ移行し、遅延時間τが経過したときにステップS18に移行して操舵開始制御状態フラグFを“0”にリセットしてから前記ステップS4へ移行する。
この図11の処理において、ステップS5の処理が目標転舵角演算部51に対応し、ステップS6〜S10およびステップS15〜S18の処理が転舵応答性制御部52に対応に対応し、このうちステップS15〜S18の処理が遅延制御部52aに対応し、ステップS11〜S14の処理が遅延時間算出部53に対応している。
【0060】
(転舵制御部の動作)
次に、上記転舵制御部50の動作を図13および図14を伴って説明する。
今、ステアリングホイール2を中立位置に保持して直進走行しているものとする。
この直進走行状態では、転舵制御処理におけるステップS5で演算される目標転舵角δが零となる。このため、アクチュエータ制御装置54で制御される転舵モータ8aによって、ラック軸14が中立位置に制御され、タイロッド15を介して転舵輪17FRおよび17FLの転舵角δrが零に制御される。
【0061】
このとき、ステアリングホイール2が中立位置を保持して車両が直進走行状態であるので、転舵制御処理におけるステップS6で算出されるコンプライアンスステア制御量Acも零に設定される。
また、ステアリングホイール2が中立位置を保持して直進走行しているので、ヨーレートセンサ22で検出される車両のヨーレートγは零であり、転舵制御処理におけるステップS7で前記(3)式に従って算出されるセルフアライニングトルクTsaは、転舵角δrが零であることにより重心点横滑り角βが零となり、ヨーレートγも零であるので、零となる。
【0062】
また、転舵制御処理におけるステップS8では、外乱を抑制する外乱補償値Adisが算出されるが、この外乱を生じていないときには外乱補償値Adisも零となる。
したがって、転舵制御処理におけるステップS9で算出される加算後目標転舵角δaも零となり、これがアクチュエータ制御装置54に供給される。このアクチュエータ制御装置54では、転舵角偏差演算部61から出力される転舵角偏差Δδも零となり、転舵モータ制御部62から出力されるモータ電流指令値imも零となる。このためモータ電流制御部65からモータ電流imtは出力されず、転舵モータ8aは停止状態を維持し、ラック軸14が中立位置を維持して転舵輪17FRおよび17FLの転舵角δtが“0”に制御される。
【0063】
この直進走行状態で、転舵輪17FRおよび17FLの少なくとも一方が轍にはまったり、マンホールの蓋を通過したりして転舵輪17FRおよび17FLの一方が転舵されたり、ヨー角が発生したりすると、転舵制御処理におけるステップS7で算出されるセルフアライニングトルクTsaが増加する。このとき、前述したフロントサスペンション装置1Bのようにステアリングホイール2が中立位置にある状態でキングピン軸KSがタイヤ接地面を通るように設定して転舵応答性を向上させた場合には、フロントサスペンション装置1B自体で発生するセルフアライニングトルクTsaが不足することになる。
【0064】
しかしながら、本実施形態では、前述した(3)式に基づいてセルフアライニングトルクを算出するので、この(3)式におけるキャスタートレイルεcを通常のサスペンション装置と同様の値に設定しておくことにより、算出されるセルフアライニングトルクTsaはキャスタートレイルεcに対応した値を算出することができる。そして、算出したセルフアライニングトルクTsaにゲインKsaを乗算して、直進性補正値Asaを算出する(ステップS7)。このとき、直進走行状態であるのでステップS2からステップS3を経てステップS4に移行し、ゲインGaが“1”に設定される。このため、ステップS9で、直進性補正値Asaが目標転舵角δに加算される。このため、目標転舵角δが直進性補正値Asaで補正されることにより、アクチュエータ制御装置73で転舵アクチュエータ8を構成する転舵モータ8aが駆動制御されて、セルフアライニングトルクTsaに相当する転舵トルクを発生させ、これがラック軸14およびタイロッド15を介して転舵輪17FRおよび17FLに伝達される。
【0065】
このため、転舵輪17FRおよび17FLでセルフアライニングトルクTsaを発生させて、フロントサスペンション装置1Bへのセルフアライニングトルク不足を補完して車両の直進性を担保することができる。
ところが、ステアリングホイール2を中立位置に保持した直進走行状態を維持している状態からステアリングホイール2を右(または左)に操舵する状態となると、転舵制御処理におけるステップS2で直進走行状態からの操舵による旋回状態への移行が検出される。
【0066】
このため、ステップS2からステップS11に移行して、操舵角速度θsvに基づいて第1遅延時間τ1を算出し、次いで車速Vに基づいて第2遅延時間τ2を算出し(ステップS12)、両者を加算して遅延時間τを算出する(ステップS13)。次いで、操舵開始状態フラグFを“1”にセットし(ステップS14)、遅延時間τが経過するまでの間制御ゲインGaが“0”に設定される(ステップS16)。
【0067】
このため、制御ゲインGaが“0”であるので、ステップS9で算出される加算後目標転舵角δaが目標転舵角δのみの値となり、目標転舵角δに対するステア特性制御が図14(b)で実線図示のように停止される。
このため、目標転舵角δがそのままアクチュエータ制御装置54に供給される。したがって、目標転舵角δに一致するように転舵モータ8aが回転駆動される。この間、コンプライアンスステア制御値Ac、セルフアライニングトルク制御値Asaおよび外乱補償値Adidを加える直進性担保を担保するステア特性制御が停止される。
【0068】
したがって、初期応答期間T1では、キングピン軸KSの路面接地点がタイヤの接地面内の接地中心位置より車両前後方向の前方側に設定され、且つキャスター角が零に近い値に設定されたフロントサスペンション装置1Bによる転舵が開始される。
このとき、フロントサスペンション装置1Bのキャスター角が零に設定されている。このキャスター角と転舵応答性と操縦安定性との関係は、図13(a)に示すように、キャスター角が零であるときには転舵応答性が高い状態をとなるが、操縦安定性を確保することはできない、即ち、キャスター角に対する転舵応答性と操縦安定性とはトレードオフの関係が存在する。
【0069】
このため、中立位置から操舵を開始した初期状態では、ステアバイワイヤ制御による車両の直進性を担保するステア特性制御は実行されないことにより、この初期転舵をフロントサスペンション装置1Bが賄うことになる。
この初期応答期間T1では、フロントサスペンション装置1Bは、上述したように、キャスター角が零に近い値であり、転舵応答性が高いので、図14(a)で実線図示の特性線L1で示すように、一点鎖線図示の特性線L2で示す一般的なステアバイワイヤ形式の操舵系を有する車両における転舵応答特性(ヨーレート)より高い転舵応答特性(ヨーレート)とすることができる。このとき、運転者のステアリングホイール2の操舵による操舵角変化に対応した転舵角変化となるので、運転者に違和感を与えることはない。
【0070】
ところが、フロントサスペンション装置1Bによる転舵応答性のみで初期応答期間T1を越えて転舵を継続すると、図14(a)で破線図示の特性線L3のように中期応答期間T2および後期応答期間T3で操舵による車両の転舵応答性が敏感になる。また、中期応答期間T2から後期応答期間T3に掛けての車両の内側への巻き込み現象が大きくなってしまう。
【0071】
このため、上記第1の実施形態では、図14(b)に示すように、遅延時間τが経過する初期応答期間T1の経過後に、ステップS2からステップS3を経てステップS4に移行して、制御ゲインGaが“1”に設定され、セルフアライニングトルク制御値Asaおよび外乱補償値Adisによる目標転舵角δに対する直進性を担保するステア特性制御がステップ状に開始される。このため、フロントサスペンション装置1Bによる車両の転舵応答性を抑制して車両のふらつきを抑制するとともに、図13(b)で点線図示のように、ステアバイワイヤ制御によってフロントサスペンション装置1Bの直進性を補完して、操縦安定性を確保することができる。
【0072】
その後、中期応答期間T2が終了する例えば0.3秒経過後には、転舵制御部50によるステア特性制御により一般的な車両の転舵応答特性に比較しても転舵応答特性をより抑制してアンダーステア傾向とすることができる。これにより、図14(a)で実線図示の特性線L1で示すように、操縦安定性を向上させることができ、特性線L1で示す理想的な車両の転舵応答特性を実現することができる。
【0073】
また、転舵制御処理におけるステップS2で操舵開始状態を検出したときに、操舵角速度θsvに基づいて第1遅延時間τ1を算出し、車速Vに基づいて第2遅延時間τ2を算出し、両者を加算して遅延時間τを算出する。
そして、算出した遅延時間τに基づいて制御ゲインGaを決定するので、前述した第3実施形態と同様に車速Vおよび操舵角速度θsvに基づいて転舵状態に応じた最適な遅延時間τを設定することができる。
【0074】
したがって、図12に示すように、低車速領域では、直進性を担保するステア特性制御の開始が遅くなるので、フロントサスペンション装置1Bで設定される高応答性の転舵応答性で機敏な操舵状態を得ることができる。また、中速領域では、直進を担保するステア特性制御の開始が中庸の範囲となって、適度な操舵応答性の操舵状態を得ることができる。さらに、高速領域では、直進性を担保するステア特性制御の開始が速くなるので、フロントサスペンション装置1Bで設定される高応答性の転舵応答性が早めに抑制されて安定性の良い操舵状態を得ることができる。
【0075】
なお、遅延時間τは上述したように、第1の遅延時間τ1および第2の遅延時間τ2を加算して算出する場合に限らず、第1の遅延時間τ1または第2の遅延時間τ2のみを遅延時間として設定するようにしてもよい。この場合には、遅延時間τ1またはτ2を算出する図10および図11に示す遅延時間算出マップの遅延時間設定範囲を例えば0.7〜0.13の範囲で設定することが好ましい。
【0076】
このように、フロントサスペンション装置1Bでは、転舵開始時の転舵応答性を高めた構成とし、これによって低下するセルフアライニングトルク(復元力)を転舵制御部50で補完して、車両の直進性を担保することができるとともに、転舵制御部50で車両のステア特性を制御する。
そして、転舵初期の遅延時間τが経過するまでの間で転舵制御部50によるステア特性制御が停止され、フロントサスペンション装置1Bの高い転舵応答性で転舵を行い、遅延時間τが経過した後に転舵制御部50によるステア特性制御が開始されてフロントサスペンション装置1Bを含めた車両のステア特性が制御される。
【0077】
このような転舵応答性制御を行う結果、リヤサスペンション装置1Cでは、車体剛性、リヤサスペンション剛性及びリヤサスペンションステア特性とリヤタイヤ横力への寄与率の関係は、図15に示すように、転舵開始から遅延時間τが経過するまでの転舵初期時には、車体剛性の寄与率が圧倒的に高く、この車体剛性とリヤサスペンション剛性とでリヤタイヤ横力への寄与率を全て賄うことになる。その後、遅延時間τが経過すると、車体剛性のリヤタイヤ横力への寄与率が急激に低下するとともに、リヤサスペンション剛性のリヤタイヤ横力への寄与率も徐々に低下し、これら寄与率の低下分を転舵制御部50によるステア特性制御によりサスペンションステア特性の寄与率を増加させて補完することになる。このリヤタイヤ横力の寄与率の関係からリヤサスペンション装置1Cの構成を以下述べるように構成している。
【0078】
(リヤサスペンション装置の構成)
図16は、リヤサスペンション装置1Cの構成を模式的に示す斜視図である。図17はリヤサスペンション装置1Cの構成を模式的に示す部分平面図である。図18はリヤサスペンション装置1Cの構成を模式的に示す図であって、(a)は部分正面図、(b)は部分側面図である。
【0079】
図16から図18に示すように、リヤサスペンション装置1Cは、ホイールハブWHに取り付けられた車輪17RR,1RFLを懸架しており、車輪17RR,17RLを回転自在に支持する車軸(アクスル)72を有する車輪支持部材としてのアクスルキャリア73、車体側の支持部から車体幅方向に配置されてアクスルキャリア73に連結する複数のリンク部材、コイルスプリング等のバネ部材74、およびショックアブソーバ75を備えている。
【0080】
複数のリンク部材は、Aアームで構成されるロアリンク部材76、アップリンク部材を構成する前側アッパーリンク(第1アッパーリンク部材)77および後側アッパーリンク(第2アッパーリンク部材)78、横剛性調整リンク(横剛性調整リンク部材)79、アクスルシャフト80、ストラット(バネ部材74およびショックアブソーバ75)81、およびスタビライザ82から構成されている。
【0081】
本実施形態において、リヤサスペンション装置1Cはストラット式のサスペンションであり、バネ部材74およびショックアブソーバ75が一体となったストラットSTの上端が、車軸32より上方に位置する車体側の支持部に連結されている。
ロアリンク部材76は、車輪側取付点76aから車両前後方向の前方側に斜めに延長する第1リンク76bと、車輪側取付点76aから車両車幅方向内側に延長する第2リンク76cと、第1リンク76bおよび第2リンク76cの車体側取付点76dおよび76e間を結ぶ第3リンク76fとで構成されている。
【0082】
そして、ロアリンク部材76の車輪側取付点76aがアクスルキャリア73から車両前後方向前側に延長する取付片73aの前端に取付けられている。したがって、ロアリンク部材76は、車軸72より下側に配置され、且つ車輪側取付点76aがアクスルキャリア73に対して車軸32より車両前後方向前側に取付けられている。このロアリンク部材76の車輪側取付点76aがロアピボット点LPとなる。しかも、ロアリンク部材76の車輪側取付点76a即ちロアピボット点LPが、図18(a)に示すように、他のリンク部材77〜79の車輪側取付点77a〜79aよりも車両幅方向外側となるように設定されている。
また、第1リンク76bの車体側取付点76dが第2リンク76cの車体側取付点76eに対し車両上下方向上方に配置され、第3リンク76fは図18(b)に示すように、後ろ下がりに傾斜している。
【0083】
アッパーリンク部材を構成する第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78は、車軸32より上側でアクスルキャリア73に形成された取付片73bおよび73cに個別に取付けられている。ここで、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78は、図18(a)で特に明らかなように、第2アッパーリンク78の長さが第1アッパーリンク77の長さより長く設定され、両リンク77および78とも車輪側取付点77aおよび78aから下側に傾斜延長されている。即ち、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78が、車輪側支持点77aおよび78aから車体側支持点77bおよび78bに行くに従い車両上下方向の高さが低くなるように傾斜配置されている。
【0084】
また、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78の車輪側取付位置は、第1アッパーリンク77のアクスルキャリア73に対する車輪側取付点77aが、図18(b)に示すように、第2アッパーリンク78のアクスルキャリア73に対する車輪側取付点78aより車両前後方向でやや前方側で車両上下方向上方側に取付られている。
したがって、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78の車輪側取付点77aおよび78aがアクスルキャリア73の車軸32より上方側で個別に取付けられている。
【0085】
さらに、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78の車体側取付点は、図17および図18(a),(b)に示すように、第1アッパーリンク77の車体側取付点77bが車軸32より車両前後方向の前方側で車体に取付けられ、第2アッパーリンク78の車体側取付点78bが車軸32より車両前後方向の後方側で且つ第1アッパーリンク77の車体側取付点77bより高い位置に取付られている。
【0086】
そして、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78の車両車幅方向外側への延長線上の平面視での交点が仮想アッパーピボット点UPとなる。
この仮想アッパーピボット点UPと前述したロアピボット点LPとを結ぶ線がキングピン軸KSとなり、このキングピン軸KSのキングピン傾角が、図18(a)に示すように、垂直に近い例えば6度程度に設定されている。
【0087】
一方、横剛性調整リンク79は、図17および図18(b)に示すように、車軸72より下側でストラット81の車両前後方向後方側を通って車両車幅方向内輪側に延長されている。この横剛性調整リンク79の車輪側取付点79aはアクスルキャリア73の下後方に延長する取付片73cの先端に取付けられている。そして、横剛性調整タンク79は、図18(a)に示すように、車輪側取付点79aから下側で車幅方向内側に斜めに延長し、先端の車体側取付点79bがロアリンク部材76の車体側取付点76dと略一致する高さで車体側部材(図示せず)に取付けられている。さらに、横剛性調整リンク79の車輪側取付部79aおよび車体側取付部79bのブッシュ剛性を他のリンク部材のブッシュ剛性より高めて車輪17RRP17RLのトー変化を抑制している。
【0088】
(リヤサスペンション装置の作用)
本実施形態のリヤサスペンション装置1Cでは、アッパーリンク部材を2本のI型リンクでなる第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78で構成することにより、アクセルキャリア33に連結する車輪側取付点77aおよび78aより車幅方向外側で仮想アッパーピボット点UPを形成することができる。
これに対して、ロアリンク部材76は、ロアピボット点LPとなる車輪側取付点76aが車両上面視においてホイールセンタよりも車両前後方向前側で、車両前面視において他のリンクよりも車幅方向外側に配置されている。
【0089】
このため、仮想アッパーピボット点UPとロアピボット点LPとを結ぶ線がキングピン軸KSとなる。ここで、仮想アッパーピボット点UPが第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78の車輪側取付点77aおよび78aより車幅方向外側に形成されるため、車両前面視におけるキングピン傾角は垂直に近い立った状態となる。
したがって、タイヤ接地面中心を着力点とする横力が発生したとき、この横力をロアリンク部材76と横剛性調整リンク79とで分散して受けることができる。このとき、アクスルキャリア73が横力によってキングピン軸KS回りに回転するが、ロアリンク部材76は車輪側取付点76aがロアピボット点LPとなっているため、回転モーメントに対しては抗力を発生しない。
【0090】
しかしながら、横剛性調整リンク79の車輪側取付点79aが車軸32の中心より車両前後方向後方に配置されているので、この横剛性調整リンク79で横力による回転モーメントを受けることができる。このため、横剛性調整リンク79の車輪側取付点79aおよび車体側取付点79bに配置するブッシュ剛性を他のリンクのブッシュ剛性より硬くすることにより、タイヤ横力に対する、横剛性およびトー剛性を向上させることができるとともに、リヤサスペンション装置1Cの横力コンプライアンスステアを小さくすることができる。この結果、横力発生時の車輪17RRおよび17RLのトー角変化を抑制することができる。
【0091】
また、上記リヤサスペンション装置1Cでは、図18(b)に示すように、車両側面視で、ロアリンク部材76の車輪側取付点76a(ロアピボット点LP)、アッパーリンク77および78の仮想アッパーピボット点UPおよび横剛性調整リンク79の車輪側取付点79aを線で結ぶと二点鎖線図示の三角形が形成される。そして、アッパーリンク77および78が車幅方向内側で且つ下側に傾斜しているので、仮想アッパーピボット点UPは、アッパーリンク77および78の車輪側取付点77aおよび78aよりも車両上下方向上方に存在する。
【0092】
したがって、上述した三角形の車両上下方向の距離は、アッパーリンク77および78の車輪側取付点77aおよび78aよりも長くなる。このため、車輪17RRおよび17RLのタイヤ接地面の中心位置に横力が作用されたときのキャンバー方向の剛性を大きくすることができる。
また、車輪17RRおよび17RLがバウンドしてリヤサスペンション装置1Cがストロークした場合に、第2アッパーリンク78の長さが第1アッパーリンク77より長く、第2アッパーリンク78の傾斜が第1アッパーリンク77の傾斜より緩やかである。このため、第2アッパーリンク78の車輪側取付点78aの車幅方向内側への移動量は、第1アッパーリンク77の車輪側取付点77aの車幅方向内側への移動量より小さくなる。
【0093】
したがって、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78によって形成される仮想アッパーピボット点UPの車幅方向内側への移動量は、第1アッパーリンク77および第2アッパーリンク78の車輪側取付点77aおよび78aの車幅方向内側への移動量より小さくすることができる。
この結果、図18(a)に示すように、車両前面視においてキングピン軸KSのキングピン傾角の変化が少なくなり、キャンバー角変化を抑制することができる。
【0094】
以上のように本実施形態によるリヤサスペンション装置1Cでは、横剛性、前後剛性、キャンバー剛性、ワインドアップ剛性、トー剛性といった各種剛性を一般車の5〜7倍に高めることができる。しかも、ホイール端ストロークに対するトー角変化量は、図19(a)に示すように、バウンド側およびリバウンド側の双方で僅かなトー角変化に抑制することができる。また、接地点横力に対するトー角変化量も図19(b)に示すように外引き側および内引き側の双方で略変化しない状態とすることができる。
しかも、上記各剛性を向上させるために、車体側部材にピン間バーなどの補剛部品を追加する必要がないとともに、横力コンプライアンスステアの変化を小さくしているので、横力コンプライアンスステアと横剛性とのトレードオフが生じることがなく、リンク配置やブッシュ剛性差を細かく設計する必要もない。
【0095】
そして、前述したように、転舵制御部50によって、ステアリングホイール2が中立状態である車両の直進走行状態からステアリングホイール2を右または左に操舵する操舵開始状態となったときに、遅延時間τ分ステア特性制御を中断してフロントサスペンション装置1Bの転舵応答性によって転舵を開始する初期転舵時に、前述した図15に示すように、リヤサスペンション装置1Cにおけるリヤサスペンション剛性のリヤタイヤ横力への寄与率が一番多くなるが、上述したように、リヤサスペンション装置1Cで十分な横剛性、トー剛性、キャンバー剛性を発揮することができ、十分なリヤサスペンション剛性を確保することができる。そして、遅延時間τが経過して初期転舵期間が終了した後には前述したように転舵制御部50によるステア制御が開始されるので、このステア制御によってコンプライアンスステア補正やセルフアライニングトルク補正、外乱補正が行われ、図15で必要とされるリヤサスペンションステア特性については転舵制御部50で制御される。
【0096】
(第1実施形態の効果)
(1)後輪を支持する車軸を有する車輪支持部材と車体側部材とをサスペンションリンクで連結するリヤサスペンション装置であって、前記車軸より上側で、前記車輪支持部材と前記車体側部材とを個別に連結する第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材と、前記車軸より下側で且つ当該車軸より車両前後方向前側で、前記車輪側支持部材と前記車体側部材とを連結するAアーム構成のロアリンク部材と、前記車軸より下側で且つ車軸より車両前後方向後側で、前記車輪側支持部材と前記車体側部材とを連結する横剛性調整リンク部材とを備えている。
【0097】
このため、第1アッパーリンク部材および第2のアッパーリンク部材による仮想アッパーピボット点を車両車幅方向外側に設定することが可能となり、ロアリンク部材の車輪側取付点を調整することにより、キングピン軸のキングピン傾角を垂直に近い状態とすることができる。このため、タイヤ横力が発生したときのキングピン軸回りの回転モーメントを小さくしてキングピン傾角が大きい場合に比較して小さくすることできる。このときの回転モーメントは横剛性調整リンクによって受けることができ、トー剛性を向上させことができるとともに、横力コンプライアンスステアを小さくすることができる。
【0098】
また、第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材を個別にアクスルキャリアに連結することにより、車輪のバウンドおよびリバウンド時の仮想アッパーピボット点の車両車幅方向内側への移動量を小さくして仮想アッパーピボット点を車両車幅方向外側に維持してキングピン傾角の変化を抑制し、キャンバー角変化を抑制することができるとともに、キャンバー方向の剛性を向上させることができる。
【0099】
さらに、Aアーム構成のロアリンク部材を配置することで、リンクの横力分担を分散することができ、横剛性を向上することができる。
さらに、ロアリンク部材、第1アッパーリンク部材、第2アッパーリンク部材および横剛性調整リンク部材を支持する車体側部材に補剛部品を追加する必要がないとともに、横剛性と横力コンプライアンスステアとのトレードオフを考慮する必要がないので、リンク配置の自由度を向上させることができるとともに、ブッシュ剛性の細かな調整を必要とせず、リヤサスペンション装置を軽量、小型化することができる。
【0100】
(2)ステアリングホイールと機械的に切り離された転舵輪を転舵するアクチュエータを制御してステア特性を制御するステアバイワイヤシステムで構成される転舵制御装置を備え、前記転舵制御装置を、転舵初期に所定時間ステア特性制御を停止してサスペンション装置の転舵応答性により転舵し、所定時間が経過したときにステア特性制御を開始するように構成した車両にリヤサスペンション装置が搭載されている。
【0101】
このような車両では、転舵時のステア特性をステアバイワイヤシステムで構成される転舵制御装置で制御するが、転舵初期時に転舵制御装置が所定時間ステア特性制御を停止したときに必要なリヤサスペンション装置のサスペンション剛性を確保すればよく、転舵初期時の所定時間を経過した後は転舵制御装置によってリヤサスペンション装置のステア特性を制御することができる。
【0102】
(3)転舵制御装置は、前記ステアリングホイールが中立位置から操舵されたときに、ステア制御の開始を所定時間遅延させる遅延制御部を備えている。
この構成によると、遅延制御部で、ステア特性制御の開始を遅らせるので、遅延制御を正確に行い、初期転舵応答特性をフロントサスペンション装置自体の高転舵応答性とすることができる。このとき、遅延時間τを車速及び操舵角速度の少なくとも一方に基づいて設定することにより、走行状況に応じた最適な遅延時間を設定することができる。
【0103】
(4)前記ロアリンク部材の前記車輪側取付点が上面視で前記第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の車輪側取付点より車両車幅方向外側に設定されている。
この構成によると、ロアリンク部材の車輪側取付点がロアピボット点となるので、第1アッパーリンク部材および第2のアッパーリンク部材との仮想アッパーピポット点を結ぶキングピン軸のキングピン傾角を垂直に近い立った状態に設定することができる。
【0104】
(5)前記第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材は、車輪側支持点から車体側支持点に行くに従い車両上下方向高さが低くなるように傾斜配置されている。
この構成によると、第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の車輪側の延長線の交点でなる仮想アッパーピボット点が第1アッパーリンク部材および第2アッパーリンク部材の車輪側取付点より車両上下方向の上方に位置することになり、タイヤ横力が発生したときの横剛性を向上させることができる。
【0105】
(6)前記剛性調整リンク部材は、車輪側取付部および車体側取付部のブッシュ剛性を他のリンク部材のブッシュ剛性より高めている。
この構成によると、剛性調整リンク部材で、タイヤ横力が発生したときのキングピン軸回りの回転モーメントを確実に受けることができとともに、タイヤ横力の分担分を増やして横構成およびトー剛性を向上させることができるとともに、リヤサスペンション装置のコンプライアンスステアを小さく抑制することができる。
【0106】
(応用例1)
なお、上記第1の実施形態では、フロントサスペンション装置1BとしてAアーム形状を有する2本の第1リンク37および第2リンク38で構成する場合について説明したが、これに限定されるものではない。即ち、図20で模式的に示すように、ロアアームを2本のI型リンクで構成されるトランスバースリンク91とコンプレッションリンク92とで構成し、トランスバースリンク91とコンプレッションリンク92とを車輪17FR,17FL近傍で互い交差させるように配置するようにしてもよい。
【0107】
(応用例1の効果)
フロントサスペンション装置1Bを図20のように構成することにより、上面視でトランスバースリンク91とコンプレッションリンク92との交点が仮想ロアピボット点LPとなるので、仮想ロアピボット点LPを車輪17FR,17FLより車両車幅方向内側に設定することができる。このため、仮想ロアピボット点LPを通るキングピン軸KSをステアリングホイール2が中立位置にある状態でタイヤ接地面内を通り、且つポジティブスクラブに設定することができる。
【0108】
同様に、フロントサスペンション装置1Bのロアアームを、図21に示すように、互いに交差するトランスバースリンク93とテンションリンク94とで構成するようにしても上記と同様の効果を得ることができる。
さらに、上記実施形態では、転舵制御部50で図9に示す転舵制御処理を実行する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、目標転舵角演算部51、遅延制御部を含む転舵応答性設定部52、遅延時間算出部53をハードウェアで構成することもできる。
【符号の説明】
【0109】
1…自動車、1A…車体、1B…フロントサスペンション装置、1C…リヤサスペンション装置、2…ステアリングホイール、3…入力側ステアリング軸、4…ハンドル角度センサ、5…操舵トルクセンサ、6…操舵反力アクチュエータ、7…操舵反力アクチュエータ角度センサ、8…転舵アクチュエータ、9…転舵アクチュエータ角度センサ、10…出力側ステアリング軸、11…転舵トルクセンサ、12…ピニオンギア、13…ピニオン角度センサ、14…ステアリングラック部材、15…タイロッド、16…タイロッド軸力センサ、17FR,17FL,17RR,17RL…車輪、21…車両状態パラメータ取得部、22…ヨーレートセンサ、23…駆動力制御装置、24FR,24FL,24RR,24RL…車輪速センサ、26…駆動回路ユニット、27…メカニカルバックアップ、32…車軸、33…アクスルキャリア、37…第1リンク、38…第2リンク、50…転舵制御部、51…目標転舵角演算部、52…転舵応答性設定部、52a…遅延制御部、53…遅延時間算出部、54…アクチュエータ制御装置、72…車軸、73…アクスルキャリア、74…コイルバネ、75…ショックアブソーバ、76…ロアリンク、76a…車輪側取付点、76b…第1リンク、76c…第2リンク、76d,76e…車体側取付点、76f…第3リンク、77…第1アッパーリンク、78…第2アッパーリンク、79…横剛性調整リンク
図1
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