(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
膜電極接合体を配したセルフレームの両面側に、それぞれ異なる二種類の発電用ガスを流通させるためのガス流通路を区画形成するようにして一対のセパレータを配設した複数の燃料電池セルと、
それらの燃料電池セルを互いに積層した二つ以上のセルモジュールと、
それらセルモジュール間に介挿接着して用いられるシールプレートとを有する燃料電池スタックであって、
上記シールプレートを介挿した両セパレータ間にセパレータ変位抑制手段を介設しており、
上記セパレータ変位抑制手段が、上記両セパレータに当接する高さを有するものであり、上記両セパレータに接着固定されて、上記セパレータの積層方向に、上記両セパレータが変位することを抑制するものであることを特徴とする燃料電池スタック。
隣接する二つのセルモジュールの互いの対向面に冷却流体を流通させるための冷却流体流通路が区画形成され、かつ、その冷却流体流通路に、その冷却流体の圧力損失を増減調整する圧力損失調整用開口を形成したシールプレートを介挿しており、
その圧力損失調整用開口内に上記セパレータ変位抑制手段を配設している請求項1に記載の燃料電池スタック。
セルフレームには、二種類の発電用ガスの流出入をそれぞれ行なうためのマニホールド部が形成され、かつ、それらマニホールド部と膜電極接合体との間に、水素含有ガス又は酸素含有ガスの流通領域であるディフューザ領域が配設されており、
そのディフューザ領域に、圧力損失調整用開口を対向させて形成している請求項1又は2に記載の燃料電池スタック。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池スタックの斜視図、
図2は、その燃料電池スタックの分解斜視図、
図3は、燃料電池セルの一部をなすセルフレームの拡大正面図である。また、
図4は、その燃料電池セルの一部をなすセパレータの拡大正面図、
図5は、そのシールプレートの拡大正面図、
図6は、そのシールプレートの開口に、一例に係るセパレータ変位抑制手段を配設した拡大正面図である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る燃料電池スタックAは、
図1,2に示すように、一対のエンドプレート10,11間に、燃料電池モジュールM,M、シールプレートP1を積層させ、かつ、それらのエンドプレート10,11により、それら燃料電池モジュールM,M、シールプレートP1を挟圧するようにして締結板12,13及び補強板14,15によって締結した構成のものである。
【0013】
上記のセルモジュールMは、所要の枚数からなる燃料電池セル20を積層させたものであり、また、そのセルモジュールMの外壁面を接着剤層によってモールドしている。これにより、セルモジュールM内部への浸水を防止するとともに電気的な絶縁を図っている。
【0014】
上記した燃料電池セル20は、セルフレーム21の両側に、それぞれ異なる二種類の発電用ガスを流通させるためのガス流通路F2,F3(
図15参照)を区画形成するようにして一対のセパレータ25,25を配設したものである。
「二種類の発電用ガス」は、水素含有ガスと酸素含有ガスである。
【0015】
セルフレーム21は樹脂製のものであり、本実施形態においては、
図3に示すように、燃料電池セル20の積層方向αから見た正面視において横長方形にし、かつ、一定の板厚にして形成したものである。
上記セルフレーム21の中央部分には膜電極接合体22が、また、その膜電極接合体22の両側(両端部)にはマニホールド部ML,MRが配設されている。
セルフレーム21の最外周縁部に沿って外周シール部材23が、さらに、そのシール部材23の内側に所要の間隔をおいて内周シール部材24がそれぞれ全周にわたり無端状にして形成されている。
【0016】
膜電極接合体22は、MEA(Membrane Electrode Assembly)とも呼称されるものであり、例えば固体高分子から成る電解質膜を、一対の電極により挟持した構造を有している。
【0017】
上記マニホールド部ML,MRは、それぞれ水素含有ガス、酸素含有ガス及び冷却流体の流出入を行なうためのものであり、それらマニホールド部ML,MRと膜電極接合体22との間には、水素含有ガス又は酸素含有ガスの流通領域であるディフューザ領域D1,D1が形成されている。本実施形態において示す冷却流体は「水」である。
【0018】
一側部のマニホールド部MLは、水素含有ガス供給用孔M1、冷却流体供給用孔M2及び酸素含有ガス供給用孔M3からなり、上記積層方向αにそれぞれの流通路をなしている。
【0019】
他方のマニホールド部MRは、酸素含有ガス排出用孔M4、冷却流体排出用孔M5及び水素含有ガス排出用孔M6からなり、上記積層方向αにそれぞれの流通路をなしている。なお、供給用のものと排出用のものは一部又は全部が逆の位置関係でもよい。
【0020】
ディフューザ領域D1は、膜電極接合体22とマニホールド部MLとの間及びその膜電極接合体22とマニホールド部MRとの間であって、セルフレーム21の両面にそれぞれ形成されている。
このディフューザ領域D1には、互いに同形同大の円錐台形にした整流のための複数の突起9が所要の間隔にして2列にして配列されている。
【0021】
セルフレーム21には、外縁部に沿って接着シール7が全周にわたり無端状に連続して形成され、また接着シール7はマニホールド孔M2、M5をそれぞれ囲繞するように形成されている。
セパレータ25,25は、それぞれステンレス等の金属板をプレス成形したものであり、上記したセルフレーム21とほぼ同じ大きさの横長方形にして形成されている。
【0022】
このセパレータ25は、上記した膜電極接合体22に対向する中央部分が、長手方向に連続した流路形成部25aが凹凸形成されているとともに、両端部には、上記したセルフレーム21の各マニホールド孔M1〜M6と対向して、それらと同形同大のマニホールド孔M1〜M6が互いに対向して形成されている。
【0023】
マニホールド部MLと流路形成部25aのガス流入端部との間、及びマニホールド部MRと流路形成部25aのガス流出端部との間には、ディフューザ領域D2,D2が形成されている。
このディフューザ領域D2には、互いに同形同大の円錐台形にした複数の突起8が所要の間隔にして格子状に配列されている。
【0024】
図7は、
図6に示すI‐I線に沿う部分の拡大図である。
隣接する二つのセルモジュールM,Mの互いの対向面、すなわち最外側に配置されている燃料電池セル20,20により区画形成される空間が冷却流体の流通路(以下、「冷却流体流通路」という。)F1となっており、その冷却流体流通路F1に、本発明の第一の実施形態に係るシールプレートP1を介挿している。
具体的には、燃料電池セル20,20の互いに対向するセパレータ25,25の間に冷却流体流通路F1が区画形成されている。
【0025】
本発明の第一の実施形態に係るシールプレートP1は、上記した燃料電池セル20とは別体にして形成されており、それは、プレート基板30の両端部にマニホールド部ML,MRを開口しているとともに、第一の例に係る圧力損失調整部B1を形成している。
【0026】
プレート基板30は導電性の一枚の金属板を成形したものであり、平面視において上記した燃料電池セル20とほぼ同形同大にして形成されている。このプレート基板30を導電性の金属板で形成することにより、経時的に安定した通電性を保つことができる。
このプレート基板30に形成されているマニホールド部ML,MRは、上記したセルフレーム21等に形成したものと同等のものであるので、それらの説明を省略する。
【0027】
このシールプレートP1は、上記したセルモジュールM,M間の冷却流体流通路F1に介挿されたときに、これに形成されている各マニホールド孔M1〜M3、M4〜M6は、上記したセルモジュールM,Mに形成されているマニホールド孔M1〜M3、M4〜M6と一連の流通路をなすようにしている。
【0028】
本実施形態においては、上記したシールプレートP1のマニホールド孔M1,M3、M4,M6を区画形成するプレート基板30の各辺縁部に、シール部材31〜34が、また、そのプレート基板30の最外周縁部に沿って外周シール部材35が、さらに、そのシール部材35の内側に所要の間隔をおいて内周シール部材36がそれぞれ全周にわたり無端状にして形成されている。
上記内周シール部材36により冷却流体流通路F1を流通する冷却流体の漏出を防止し、また、外周シール部材35により、外部からの雨水の浸入を防止するとともに、電気的な絶縁を図っている。
【0029】
上記した第一の例に係る圧力損失調整部B1は、
図7に示す冷却流体流通路F1において、これを流通する冷却流体の圧力損失を増減調整する機能を有するものであり、アクティブエリアa近傍において、冷却流体位流通路F1の断面を増減させることによって圧力損失を増減調整できるようにしている。
【0030】
「冷却流体流通路F1の断面の増減」は、冷却流体の流通方向β及びこの流通方向βと直交する方向γの双方を含むものである。
「アクティブエリアa」は、上記した膜電極接合体22に対向する領域のことである。
【0031】
本実施形態において示す圧力損失調整部B1は、アクティブエリアの近傍に設けられている。
この圧力損失調整部B1は、プレート基板30の長軸中心線O1と直交する短軸中心線O2に平行な二つの開口(以下、「スリット」という。)37,37からなる。
スリット37は、平面視において、冷却流体流通路の幅にほぼ等しい長さにした長方形に形成されている。
「長軸中心線O1」は、プレート基板30の短辺を二分する位置に、また、短軸中心線O2は、上記ディフューザ領域D2,D2を二分する位置に設定したものである。
【0032】
本実施形態においては、各セパレータ25の変位を抑制するセパレータ変位抑制手段50を冷却流体の配流性が向上するように配置している。
「配流性が向上するように」とは、冷却流体が短軸中心線O2方向において所要の流速形態となるように、という意味である。
【0033】
本実施形態においては、上記セパレータ変位抑制手段50を、各スリット37,37内に、短軸中心線O2に沿って互いに等間隔に配設しているが、短軸中心線O2方向において、中央部分から側方に向けて疎となる間隔にし、また、中央部分から側方に向けて密となる間隔に配列してもよい。また、格子状等に配列することもできる。
【0034】
このセパレータ変位抑制手段50は例えば樹脂製のものであり、シールプレートP1に隣接する二枚のセパレータ25,25間にわたる高さにした円柱形に形成され、それら両セパレータ25,25に両端を接着固定している。
これにより、各セパレータ25の変位代を狭め、また、積層方向αの荷重をセパレータ変位抑制手段50によって伝達することにより、セパレータ25の変位を抑制している。
【0035】
これにより、水素含有ガスの脈動に伴うセパレータ25の変形を抑制し、膜電極接合体22に加わる曲げ応力を低減させて、その寿命を延ばすことができる。
また、膜電極接合体22のディフューザ領域D2,D2に臨む両端辺縁22a,22bとセルフレーム21との接合部分での亀裂等の発生を防ぐことができる。
【0036】
なお、上述したディフューザ領域D2に配設されている突起8が、セパレータ変位抑制手段50の機能を果たすのではないかという疑念が生ずるが、それらの突起8は、セパレータ25,25間にわたる高さにしたものではなく、従って、本実施形態においては、セパレータ変位抑制手段50の機能を果たすものではない。
【0037】
図8は、膜電極接合体の変位とセパレータ変位抑制手段の関係を示す図、
図9は、膜電極接合体に生ずる応力とセパレータ変位抑制手段の有無との関係を示す図、
図10は、膜電極接合体に加わる繰り返し曲げ応力と繰り返し数との関係を示す図、
図11は、膜電極接合体に生ずる応力と変位量との関係を示す図である。なお、
図8〜11においては、膜電極接合体を「MEA‐ASSY」と表記し、また、セパレータ変位抑制手段の有り無しを「有」,「無」で示している。
【0038】
図8から明らかなように、セパレータ変位抑制手段50を、セパレータ25,25間にわたる高さにすることにより、膜電極接合体22の変位が抑えられている。また、
図9から明らかなように、セパレータ変位抑制手段50を設けたときには、膜電極接合体22に発生する応力が低減している。
【0039】
図10から明らかなように、セパレータ変位抑制手段50を設けたときに、繰り返し回数、すなわち寿命が著しく伸びている。また、
図11に示すように、セパレータ25,25の変位量が一定になるに従って、膜電極接合体22に生ずる応力は一定になることが明らかである。
【0040】
図12(A)〜(E)は、第二の例〜第六の例に係る圧力損失調整部を形成したシールプレートを示す部分拡大図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
図12(A)に示すシールプレートP2は、第二の例に係る圧力損失調整部B2を形成したものである。
第二の例に係る圧力損失調整部B2は、上記したスリット37を短軸中心線O2方向において三等分するようにリブ37a,37aで区分したものである。
この場合、ディフューザ領域D2に配設されている突起8が、リブ38,38の両面に当接し、これにより、それらの突起8が上記したセパレータ変位抑制手段50と同等の機能を発揮する。また、リブ37a,37aをスリット37に配設することにより、当該部分の剛性を高めることもできる。
【0042】
図12(B)に示すシールプレートP3は、第三の例に係る圧力損失調整部B3を形成したものである。
第三の例に係る圧力損失調整部B3は、上記した短軸中心線O2に平行にし、かつ、互いに同じ直径の円形にした複数の調整孔38を、互いに一定の間隔にして2列に配列したものである。本例においても、ディフューザ領域D2に配設されている突起8が、調整孔38近傍において両面に当接し、これにより、それらの突起8が上記したセパレータ変位抑制手段50と同等の機能を発揮する。
【0043】
図12(C)に示すシールプレートP4は、第四の例に係る圧力損失調整部B4を形成したものである。
第四の例に係る圧力損失調整部B4は、上記した短軸中心線O2に平行にし、かつ、互いに同じ直径の円形にした複数の調整孔38を、互いに一定の間隔にして3列に配列したものである。本例においても、ディフューザ領域D2に配設されている突起8が、調整孔38近傍において両面に当接し、これにより、それらの突起8が上記したセパレータ変位抑制手段50と同等の機能を発揮する。
【0044】
図12(D)に示すシールプレートP5は、第三の例に係る圧力損失調整部B5を形成したものである。
第三の例に係る圧力損失調整部B5は、上記した短軸中心線O2上に互いに同じ直方形にした複数の調整孔39を、一定の間隔にして一列に配列したものである。本例においては、ディフューザ領域D2に配設されている突起8が、調整孔39近傍において両面に当接し、これにより、それらの突起8が上記したセパレータ変位抑制手段50と同等の機能を発揮する。
【0045】
図12(E)に示すシールプレートP6は、第三の例に係る圧力損失調整部B6を形成したものである。
第三の例に係る圧力損失調整部B6は、上記した短軸中心線O2に平行にし、かつ、互いに同じ正方形にした複数の調整孔40を、一定の間隔にして2列に配列したものである。本例においては、ディフューザ領域D2に配設されている突起8が、調整孔40近傍において両面に当接し、これにより、それらの突起8が上記したセパレータ変位抑制手段50と同等の機能を発揮する。
【0046】
図13は、セパレータ変位抑制手段をアクティブエリアの側辺縁部に配設した形態を示すシールプレートの正面図、
図14は、そのセパレータ変位抑制手段とセルフレームとの関係を示す正面図、
図15は、
図14に示すI‐I線に沿う部分拡大断面図である。なお、上述した実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
図13〜
図15に示すシールプレートP7は、スリット37,37にわたる長さ、換言すると、アクティブエリアの側辺縁部に、その長辺縁の長さにわたるシール51a,51aを設けたものである。
本実施形態においては、シール51a,51aがセパレータ変位抑制手段B7である。
【0048】
敷衍すると、上記したシール51a,51aは、
図14,15に示すように、膜電極接合体22とセルフレーム21との接合部分b,bに配設されている。当該接合部分b,bにシール51a,51aを配設することにより、水素含有ガスの脈動に伴い、膜電極接合体22に加わる曲げ応力を低減させられ、また、膜電極接合体22の長辺縁とセルフレーム21との上記接合部分b,bにおける亀裂等の発生を防ぐことができる。
【0049】
なお、本発明は上述した実施形態に限るものではなく、次のような変形実施が可能である。
・上述した実施形態においては、シールプレートを介挿した両セパレータ間にセパレータ変位抑制手段を配設した構成のものを例として説明したが、エンドプレートとセパレータ間に配設することもできる。
【0050】
以上詳細に説明したが、いずれにしても、上記各実施形態において説明した各構成は、それら各実施形態にのみ適用することに限らず、一の実施形態において説明した構成を、他の実施形態に準用若しくは適用し、さらには、それを任意に組み合わせることができるものである。