(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051902
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/14 20060101AFI20161219BHJP
B29C 33/14 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
B29C45/14
B29C33/14
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-20808(P2013-20808)
(22)【出願日】2013年2月5日
(65)【公開番号】特開2014-151468(P2014-151468A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年11月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】竹菴 憲治
【審査官】
今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−203525(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0035373(US,A1)
【文献】
特開2002−200643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 − 45/84
B29C 33/00 − 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部(11)、及び、該底部の縁部に形成された環状の壁部(12)を有する筒部(10)と、
該筒部の壁部によって囲まれた内空間に設けられる柱部(30)と、
該柱部と前記筒部との間に充填される樹脂部(50)と、を有する樹脂成形品の製造方法であって、
前記筒部の底部には、空気抜け孔(13)が形成されるとともに、前記底部の前記空気抜け孔の周囲には、環状の突起部(14)が形成され、
前記筒部の内空間に前記柱部を挿入した後、溶融状態の樹脂を前記筒部と前記柱部との間の空間に充填することにより前記樹脂部を形成し、
溶融状態の樹脂が前記筒部と前記柱部との間の空間に充填されるとき、前記空気抜け孔により、前記筒部と前記柱部との間の空間に空気が残ることが抑制され、
前記突起部は、前記筒部と前記柱部との間の空間内の、溶融状態の樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融し、
前記筒部と前記柱部との間の空間に溶融状態の樹脂を注入する際に、前記空気抜け孔に、前記空気抜け孔への溶融状態の樹脂の流入を抑制する圧力を印加することを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記柱部は、環状部(31)と、該環状部の内壁面によって囲まれた空間に設けられた樹脂部材(32)と、を有し、
前記樹脂部は、前記筒部と前記柱部との間の空間だけではなく、前記環状部と前記樹脂部材との間の空間にも設けられていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記突起部の先端は、前記環状部と対向し、
前記環状部と前記樹脂部材との間の隙間は、前記筒部と前記環状部との間の隙間よりも狭く、
前記突起部と前記環状部との間の隙間は、前記筒部と前記環状部との間の隙間よりも狭いことを特徴とする請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記突起部の先端は、前記樹脂部材と対向し、
前記環状部と前記樹脂部材との間の隙間は、前記筒部と前記環状部との間の隙間よりも狭いことを特徴とする請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記筒部、及び、前記柱部の少なくとも一方に、両者の位置決めをする位置決め部(33)が形成されていることを特徴とする請求項2〜4いずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記位置決め部は、前記環状部における前記筒部の底部と対向する端部とは反対側の端部に設けられた第1爪部(34)を有し、
前記環状部を前記筒部の壁部によって囲まれた内空間に挿入する際に、前記第1爪部が前記壁部における前記底部との連結端とは反対側の自由端に接触することで、前記環状部の前記筒部への挿入深さが決定されることを特徴とする請求項5に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記位置決め部は、前記樹脂部材における前記筒部の底部と対向する端部とは反対側の端部に設けられた第2爪部(35)を有し、
前記樹脂部材を前記環状部の内壁面によって囲まれた空間に挿入する際に、前記第2爪部が前記環状部における前記底部と対向する端部とは反対側の端部に接触することで、前記樹脂部材の前記環状部への挿入深さが決定されることを特徴とする請求項6に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記位置決め部は、前記筒部の壁部の内環面に形成された、柱状を成す複数の第1凸部(36)を有し、
前記筒部の中心軸に直交する平面に、前記第1凸部が複数位置し、その先端が前記柱部と接触し、
前記筒部の中心軸に直交する平面に位置する複数の前記第1凸部の先端中心を結んで成る閉じた線は、正多角形を成すことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記第1凸部は、溶融状態の樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融することを特徴とする請求項8に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記位置決め部は、前記筒部の底部における前記柱部との対向面に形成された、柱状を成す複数の第2凸部(37)を有し、
複数の前記第2凸部の高さは同一であり、その先端が前記柱部と接触することを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記第2凸部は、溶融状態の樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融することを特徴とする請求項10に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
環状の前記突起部の外環面は、前記突起部と前記底部との連結部位である根元から先端に向かうにしたがって外径が徐々に狭まるように、傾斜していることを特徴とする請求項1〜11いずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項13】
前記柱部の中心軸と、前記筒部の中心軸とが一致し、前記柱部と前記筒部それぞれは、自身の中心軸を対称軸として、点対称な形状を成しており、
前記突起部の高さは均一になっていることを特徴とする請求項1〜12いずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項14】
前記突起部は、前記筒部の底部に複数形成されており、
複数の前記突起部によって、前記空気抜け孔は多重に囲まれていることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項15】
複数の前記突起部それぞれの高さは同一ではなく、
前記空気抜け孔から遠ざかるにつれて、複数の前記突起部の高さが低くなっていることを特徴とする請求項14に記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒部と、該筒部の内空間に設けられる柱部と、該柱部と筒部との間に充填される樹脂部と、を有する樹脂成形
品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に示されるように、リードフレームと、該リードフレームに搭載されたICチップと、リードフレームとICチップとを一次モールドする第一のモールド樹脂と、を含むモールドICと、リードフレームにより固定される外部品と、を含むセンサ装置が提案されている。リードフレームは、第一のモールド樹脂から突出した固定部を有し、該固定部にて外部品が固定されている。そして、モールドICと外部品とが固定された状態で第二のモールド樹脂により二次モールドされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−116815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、特許文献1に示されるセンサ装置では、モールドICと外部品とが第二のモールド樹脂により二次モールドされている。この二次モールドの際、第二のモールド樹脂(以下、単にモールド樹脂と示す)に空気が含まれる虞がある。モールド樹脂に空気が含まれると、モールド樹脂に厚さの薄い箇所が形成され、センサ装置の剛性が落ちる虞がある。
【0005】
これに対して、モールドICや固定部に空気抜け孔を設けることで、モールド樹脂に含まれた空気を外部に排気することも考えられる。しかしながら、その空気抜け孔を介して、モールド樹脂の一部が外部雰囲気に晒されることとなる。二次モールド時、溶融状態のモールド樹脂が、モールドIC、及び、外部品それぞれと接触して、両者が機械的に連結される。しかしながら、この際、両者が分子レベルで機械的に接続されるわけではない。そのため、モールド樹脂とモールドICとの界面、及び、モールド樹脂と外部品との界面それぞれから剥離が進行し、センサ装置の内部と外部雰囲気とが連通される虞がある。この結果、センサ装置(樹脂成形品)の気密性が低下する虞がある。
【0006】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、剛性が落ちること、及び、気密性が低下することそれぞれが抑制された樹脂成形
品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明は、底部(11)、及び、該底部の縁部に形成された環状の壁部(12)を有する筒部(10)と、該筒部の壁部によって囲まれた内空間に設けられる柱部(30)と、該柱部と筒部との間に充填される樹脂部(50)と、を有する樹脂成形品
の製造方法であって、
筒部の底部には
、空気抜け孔(13)が形成され
るとともに、底部の前記空気抜け孔の周囲には
、環状の突起部(14)が形成され
、
筒部の内空間に柱部を挿入した後、溶融状態の樹脂を筒部と柱部との間の空間に充填することにより樹脂部を形成し、
溶融状態の樹脂が筒部と柱部との間の空間に充填されるとき、空気抜け孔により、筒部と柱部との間の空間に空気が残ることが抑制され、
突起部は、筒部と柱部との間の空間内の、溶融状態の樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融し、
筒部と柱部との間の空間に溶融状態の樹脂を注入する際に、空気抜け孔に、空気抜け孔への溶融状態の樹脂の流入を抑制する圧力を印加することを特徴とする。
【0008】
このように本発明によれば、空気抜け孔(13)が筒部(10)に形成されている。したがって、筒部(10)と柱部(30)との間の空間に空気が残ることが抑制される。これにより、残された空気のために、樹脂部(50)に厚さの薄い箇所が形成されることが抑制される。この結果、樹脂成形品(100)の剛性が落ちることが抑制される。
【0009】
また、本発明では、空気抜け孔(13)の周囲に、溶融状態の樹
脂(以下、溶融樹脂と示す)の流動によって生じるせん断発熱によって溶融する環状の突起部(14)が形成されている。溶融樹脂が、筒部(10)と柱部(30)との間の空間を流動して、樹脂部(50)と筒部(10)、及び、樹脂部(50)と柱部(30)それぞれが接触したとしても、両者が分子レベルで機械的に接続されるわけではない。そのため、樹脂部(50)と筒部(10)との界面、及び、樹脂部(50)と柱部(30)との界面それぞれから剥離が進行し、樹脂成形品(100)の気密性が低下する虞がある。これに対して、本発明では、上記したように、突起部(14)が
溶融樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融するので、突起部(14)と樹脂部(50)とが分子レベルで機械的に接続される。したがって、例えば、空気抜け孔(13)を構成する筒部(10)の
底部に接着していた樹脂部(50)が剥離したとしても、その剥離は、樹脂部(50)と突起部(14)との界面にて止まる。これにより、樹脂成形品(100)の気密性の低下が抑制される。
さらに、空気抜け孔に、空気抜け孔への溶融状態の樹脂の流入を抑制する圧力を印加することにより、空気抜け穴に樹脂バリが生じることを抑制することができる。
【0010】
なお、本発明においては、柱部は、環状部(31)と、該環状部(31)の内壁面によって囲まれた空間に設けられた樹脂部材(32)と、を有し、樹脂部は、筒部と柱部との間の空間だけではなく、環状部と樹脂部材との間の空間にも設けられた構成を採用することができる。これによれば、環状部(31)と樹脂部材(32)との間の空間に樹脂部(50)が設けられない構成とは異なり、環状部(31)と樹脂部材(32)との機械的な接続強度が向上される。
【0011】
上記構成の場合、突起部の先端は、環状部と対向し、環状部と樹脂部材との間の隙間は、筒部と環状部との間の隙間よりも狭く、突起部と環状部との間の隙間は、筒部と環状部との間の隙間よりも狭い構成が好適である。
【0012】
このように本発明では、環状部(31)と樹脂部材(32)との間の隙間は、筒部(10)と環状部(31)との間の隙間よりも狭くなっている。したがって、環状部(31)と樹脂部材(32)との間の隙間が、筒部(10)と環状部(31)との間の隙間よりも広い構成とは異なり、溶融樹脂は、環状部(31)と樹脂部材(32)との間の空間ではなく、筒部(10)と環状部(31)との間の空間に流入しようとする。そして、筒部(10)と環状部(31)との間の空間に流入した溶融樹脂は、筒部(10)の底部(11)に流動し、突起部(14)と環状部(31)との間の空間を流動した後、環状部(31)と樹脂部材(32)との間の空間に流入しようとする。
【0013】
また、本発明では、突起部(14)と環状部(31)との間の隙間は、筒部(10)と環状部(31)との間の隙間よりも狭くなっている。したがって、突起部(14)と環状部(31)との間の隙間が、筒部(10)と環状部(31)との間の隙間よりも広い構成とは異なり、突起部(14)と環状部(31)との間の空間を流動する溶融樹脂の流速が、筒部(10)と環状部(31)との間の空間を流動する溶融樹脂の流速よりも速くなる。したがって、突起部(14)にて生じるせん断発熱量が増大し、突起部(14)が溶融し易くなる。これにより、樹脂部(50)と突起部(14)との機械的な接続強度が向上され、樹脂成形品(100)の気密性の低下が抑制される。なお、上記した隙間とは、空間を流動しようとする溶融樹脂の流動方向に直交する方向の長さ(幅)を示している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る回転角センサの概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の白抜き矢印側から見た筒部の内面を示す内面図である。
【
図3】回転角センサの製造方法を説明するための拡大断面図である。
【
図4】溶融樹脂の流動を説明するための断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る回転角センサの概略構成を示す断面図である。
【
図6】溶融樹脂の流動を説明するための断面図である。
【
図7】第3実施形態に係る回転角センサの概略構成を示す断面図である。
【
図9】
図8の白抜き矢印側から見た筒部の内面を示す内面図である。
【
図10】第1凸部の変形例を説明するための内面図である。
【
図11】回転角センサの変形例を示す断面図である。
【
図12】
図11の白抜き矢印側から見た筒部の内面を示す内面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に記載の樹脂成形品を、回転角センサに適用した場合の実施形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1〜
図4に基づいて、本実施形態に係る回転角センサを説明する。なお、
図1では、後述する筒部11と壁部12との境界を明瞭にするために、その境界を破線で示している。また、
図4では、後述する溶融樹脂の流動を明瞭とするために、その流動方向を実線矢印で示している。また、溶融樹脂の非流動方向を破線矢印で示している。
【0016】
図1に示すように、回転角センサ100は、要部として、筒部10と、柱部30と、樹脂部50と、を有する。筒部10の内空間に柱部30が設けられ、柱部30と筒部10との間の空間に、樹脂部50が充填されている。これにより、筒部10と柱部30とが、樹脂部50を介して、機械的に連結され、柱部30が樹脂部50によって被覆保護されている。
【0017】
筒部10は、底部11、及び、底部11の縁部に形成された環状の壁部12を有し、樹脂材料から成る。壁部12によって、上記した内空間が構成されており、この内空間に柱部30と樹脂部50とが設けられている。
【0018】
図1及び
図2に示すように、底部11には、外部雰囲気と内空間とを連通する空気抜け孔13が形成されている。この空気抜け孔13は、筒部10の内空間に柱部30を挿入した後、溶融状態の樹脂部50(以下、溶融樹脂と示す)を筒部10と柱部30との間の空間に充填した際、筒部10と柱部30との間の空間に空気が残ることを抑制する機能を果たす。空気抜け孔13の寸法は、空気を通すが、溶融樹脂が流入し難い(樹脂バリが生じ難い)ように設定される。例えば、空気抜け孔13の寸法は、10μmφ以下に設定される。寸法の下限は、選択する樹脂材料によって決定される。
【0019】
また、底部11の内面における空気抜け孔13の周囲には、環状の突起部14が形成されている。
図2に示すように、突起部14によって、空気抜け孔13における内面側の開口端が囲まれている。突起部14は、筒部10と一体に形成されており、同一材料から成る。突起部14は、回転角センサ100の特徴点なので、後述する。
【0020】
柱部30は、環状部31と、環状部31の内壁面によって囲まれた空間に設けられた樹脂部材32と、を有する。環状部31は、磁石であり、樹脂部材32は、具体的には図示しないが、磁電変換素子を有するセンサチップと、該センサチップと電気的に接続されたターミナルと、センサチップの全てとターミナルの一部とを被覆保護するモールド樹脂と、を有する。図示している樹脂部材32の表面の全ては、モールド樹脂によって構成されている。
【0021】
上記したように、樹脂部材32は、環状部31の内壁面によって囲まれた空間に設けられる。したがって、環状部31から発せられた磁束が、樹脂部材32の磁電変換素子を透過する。被測定対象(例えば、歯車)の駆動によって、環状部31から発せられる磁束のベクトルが変動すると、それに伴って、磁電変換素子を透過する磁束のベクトルも変動する。この結果、磁電変換素子から出力される電気信号も変動する。このように、回転角センサ100は、被測定対象の駆動を、磁電変換素子の電気信号によって検出する。
【0022】
なお、柱部30の中心軸と、筒部10の中心軸とが一致し、柱部30と筒部10それぞれは、自身の中心軸CL(
図1に示す二点鎖線)を対称軸として、点対称な形状を成している。具体的に言えば、筒部10は、円筒形状を成し、柱部30を構成する環状部31も円筒形状を成している。そして、樹脂部材32は、円柱形状を成している。
【0023】
樹脂部50は、筒部10と柱部30とを機械的に接続する機能を果たす。上記したように、柱部30は、環状部31と樹脂部材32とを有する。本実施形態に係る樹脂部50は、環状部31と樹脂部材32とを機械的に接続する機能も果たす。樹脂部50は、筒部10と柱部30との間の空間(以下、第1空間と示す)だけではなく、環状部31と樹脂部材32との間の空間(以下、第2空間と示す)にも設けられている。なお、樹脂部50は、筒部10とは異なる材料、若しくは、同一の材料から成る。
【0024】
次に、回転角センサ100の製造方法を説明する。先ず、筒部10の内空間に、柱部30を挿入する。その後、
図1に白抜き矢印で示す方向から、溶融樹脂を内空間に注入する。その後、溶融樹脂を冷却固化して、樹脂部50を形成する。こうすることで、樹脂部50が第1空間と第2空間それぞれに設けられ、筒部10、環状部31、及び、樹脂部材32それぞれが樹脂部50を介して機械的に接続される。この結果、回転角センサ100が製造される。なお、
図3に示すように、第1空間に溶融樹脂を注入する際、空気抜け孔13に、空気抜け孔13への溶融樹脂の流入(樹脂バリの発生)を抑制する圧力を印加する。
【0025】
次に、本実施形態に係る回転角センサ100の特徴点である突起部14と、突起部14に関わる特徴部位について説明する。突起部14は、溶融樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって表面が溶融し、樹脂部50と分子レベルで機械的に接続されるものである。
図1に示すように、突起部14の先端は、環状部31と対向しており、環状部31と樹脂部材32との間の隙間(第2空間の幅L2)は、筒部10と環状部31との間の隙間(第1空間の幅L1)よりも狭くなっている、また、突起部14と環状部31との間の隙間(以下、単に幅L3と示す)は、第1空間の幅L1よりも狭くなっている。したがって、
図4に示すように、溶融樹脂は、筒部10の開口面から注入されるが、溶融樹脂は、第2空間ではなく、第1空間に流入しようとする。そして、第1空間に流入した溶融樹脂は、筒部10の底部11に流動し、突起部14と環状部31との間の空間(以下、第3空間と示す)を流動した後、第2空間に流入しようとする。また、上記したように、幅L3は、第1空間の幅L1よりも狭くなっている。したがって、第3空間を流動する溶融樹脂の流速が、第1空間を流動する溶融樹脂の流速よりも速くなっている。なお、上記した隙間(幅)とは、空間を流動しようとする溶融樹脂の流動方向に直交する方向の長さを示している。
【0026】
また、
図4に示すように、環状の突起部14の外環面は、突起部14と底部11との連結部位である根元から先端に向かうにしたがって外径が徐々に狭まるように、傾斜している。そして、突起部14の高さは均一になっている。
【0027】
次に、本実施形態に係る回転角センサ100の作用効果を説明する。上記したように、空気抜け孔13が筒部10に形成されている。したがって、第1空間に空気が残ることが抑制される。これにより、残された空気のために、樹脂部50に厚さの薄い箇所が形成されることが抑制される。この結果、回転角センサ100の剛性が落ちることが抑制される。
【0028】
また、空気抜け孔13の周囲に、溶融樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって表面が溶融する環状の突起部14が形成されている。溶融樹脂が、筒部10の内空間を流動して、樹脂部50と筒部10、及び、樹脂部50と柱部30それぞれが接触したとしても、両者が分子レベルで機械的に接続されるわけではない。そのため、樹脂部50と筒部10との界面、及び、樹脂部50と柱部30との界面それぞれから剥離が進行し、回転角センサ100の気密性が低下する虞がある。これに対して、本実施形態では、上記したように、突起部14が樹脂部50の流動によって生じるせん断発熱によって溶融するので、突起部14と樹脂部50とが分子レベルで機械的に接続される。したがって、例えば、空気抜け孔13を構成する筒部10の壁面に接着していた樹脂部50が剥離したとしても、その剥離は、樹脂部50と突起部14との界面にて止まる。これにより、回転角センサ100の気密性の低下が抑制される。
【0029】
樹脂部50は、第1空間だけではなく、第2空間にも設けられている。これによれば、第2空間に樹脂部が設けられない構成とは異なり、環状部31と樹脂部材32との機械的な接続強度が向上される。
【0030】
第3空間を流動する溶融樹脂の流速が、第1空間を流動する溶融樹脂の流速よりも速くなっている。これにより、突起部14にて生じるせん断発熱量が増大し、突起部14が溶融し易くなる。この結果、樹脂部50と突起部14との機械的な接続強度が向上され、回転角センサ100の気密性の低下が抑制される。
【0031】
突起部14の外環面は、根元から先端に向かうにしたがって外径が徐々に狭まるように、傾斜している。これによれば、突起部14の外環面が、根元から先端に向かうにしたがって外径が徐々に広まるように、傾斜した構成とは異なり、溶融樹脂が、突起部14の外環面に当たった後、第3空間に流動しようとする際に、第3空間を流動する溶融樹脂の流速が増大する。したがって、突起部14の先端にて生じるせん断発熱量が増大し、突起部14が溶融し易くなる。また、上記した比較構成と比べて、突起部14の先端が小さいため、突起部14の先端が溶融し易くなっている。以上により、樹脂部50と突起部14との機械的な接続強度が向上され、回転角センサ100の気密性の低下が抑制される。
【0032】
柱部30と筒部10それぞれは、中心軸CLを対称軸として、点対称な形状を成している。また、突起部14の高さは均一になっている。これによれば、突起部14の高さが不均一な構成とは異なり、突起部14と樹脂部50との機械的な接続強度が、中心軸CLから放射状に広がる方向において、均一となる。したがって、回転角センサ100の気密性の低下が抑制される。
【0033】
第1空間に溶融樹脂を注入する際、空気抜け孔13に、空気抜け孔13への溶融樹脂の流入を抑制する圧力を印加する。これによれば、空気抜け孔13に樹脂バリが生じることが抑制される。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を、
図5及び
図6に基づいて説明する。第2実施形態に係る回転角センサ100は、第1実施形態によるものと共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明を省略し、異なる部分を重点的に説明する。なお、以下においては、第1実施形態で示した要素と同一の要素には、同一の符号を付与する。
【0035】
第1実施形態では、突起部14の先端が環状部31と対向している例を示した。これに対して、本実施形態では、
図5及び
図6に示すように、突起部14の先端が樹脂部材32と対向していることを特徴とする。
【0036】
第1実施形態で示したように、突起部14の先端が環状部31と対向した構成の場合、溶融樹脂は、第1空間に流入して、筒部10の底部11に達した後、突起部14と環状部31との間の空間(第3空間)を流動する。そして、第3空間の流動にて生じる摩擦によって流速が遅くなった溶融樹脂が、環状の突起部14によって囲まれた空間に流入した後、第2空間に流動しようとする。
【0037】
これに対して、本実施形態では、突起部14の先端が樹脂部材32と対向している。したがって、
図6に示すように、溶融樹脂は、第1空間に流入して、筒部10の底部11に達した後、突起部14と樹脂部材32との間の空間(第4空間)と、第2空間とに分岐して流動しようとする。したがって、上記比較構成と比べて、溶融樹脂が第2空間に流動し易くなる。
【0038】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を、
図7に基づいて説明する。第3実施形態に係る回転角センサは、上記した各実施形態によるものと共通するところが多いので、以下、共通部分については詳しい説明を省略し、異なる部分を重点的に説明する。なお、
図7では、明瞭とするために、後述する第1爪部34と環状部31との境界、及び、第2爪部35と樹脂部材32との境界それぞれを破線で示している。
【0039】
第1実施形態及び第2実施形態では、筒部10と柱部30との位置決めについて言及しなかった。これに対し、本実施形態では、
図7に示すように、柱部30に、筒部10と柱部30の位置決めをする位置決め部33が形成されている。位置決め部33は、環状部31における筒部10の底部11と対向する端部とは反対側の端部に設けられた第1爪部34と、樹脂部材32における筒部10の底部11と対向する端部とは反対側の端部に設けられた第2爪部35と、を有する。爪部34,35それぞれは柱状を成し、第1爪部34は第1空間の開口面の一部を覆い、第2爪部35は第2空間の開口面の一部を覆っている。
【0040】
環状部31を筒部10の内空間に挿入する際に、第1爪部34が壁部12における底部11との連結端とは反対側の自由端に接触することで、環状部31の筒部10への挿入深さが決定される。また、樹脂部材32を環状部31の内壁面によって囲まれた空間に挿入する際に、第2爪部35が環状部31における底部11と対向する端部とは反対側の端部に接触することで、樹脂部材32の環状部31への挿入深さが決定される。
【0041】
これによれば、柱部30と底部11との間の幅が設計値からずれることが抑制される。具体的に言えば、環状部31と底部11との間の隙間(幅)が、第1爪部34によって規定される。また、樹脂部材32と底部11との間の隙間(幅)が、第2爪部35によって規定される。したがって、環状部31と底部11、及び、樹脂部材32と底部11との間に設けられる樹脂部50に、厚さの薄い箇所が形成されることが抑制される。これにより、回転角センサ100の剛性が落ちることが抑制される。
【0042】
本実施形態では、柱部30に、位置決め部33が形成された例を示した。しかしながら、筒部10、及び、柱部30の少なくとも一方に、両者の位置決めをする位置決め部33が形成された構成を採用することもできる。例えば、筒部10に、位置決め部33が形成された構成としては、
図8〜
図10に示す構成を採用することができる。
【0043】
位置決め部33は、筒部10の壁部12の内環面に形成された、柱状を成す複数の第1凸部36と、筒部10の底部11における柱部30との対向面に形成された、柱状を成す複数の第2凸部37と、を有する。凸部36,37それぞれは、筒部10と一体に形成されており、同一材料から成る。そして、凸部36,37それぞれは、溶融樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融する。
図9に示すように、中心軸CLに直交する平面に、第1凸部36が複数位置し、その先端が柱部30と接触している。そして、中心軸CLに直交する平面に位置する3つの第1凸部36の先端中心を結んで成る閉じた線(
図9に示す破線)は、正三角形を成している。また、複数の第2凸部37の高さは同一であり、その先端が柱部30と接触している。
【0044】
これによれば、柱部30と筒部10の壁部12の間の隙間(幅)が、第1凸部36によって規定される。したがって、柱部30と壁部12との間に設けられる樹脂部50に、厚さの薄い箇所が形成されることが抑制される。これにより、回転角センサ100の剛性が落ちることが抑制される。
【0045】
また、柱部30と筒部10の底部11の間の隙間(幅)が、第2凸部37によって規定される。したがって、柱部30と底部11との間に設けられる樹脂部50に、厚さの薄い箇所が形成されることが抑制される。これにより、回転角センサ100の剛性が落ちることが抑制される。
【0046】
なお、凸部36,37それぞれは、溶融樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融する。そのため、凸部36,37それぞれが、溶融樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融しない構成と比べて、樹脂部50と筒部10との機械的な接続強度が向上される。
【0047】
なお、
図9に示す変形例では、中心軸CLに直交する平面に、第1凸部36が3つ位置し、3つの第1凸部36の先端中心を結んで成る閉じた線が、正三角形を成している例を示した。しかしながら、中心軸CLに直交する平面に、第1凸部36がn個位置し、n個の第1凸部36の先端中心を結んで成る閉じた線が、正n角形(正多角形)を成した構成を採用することができる。具体的に示せば、
図10に示すように、中心軸CLに直交する平面に、第1凸部36が4つ位置し、4つの第1凸部36の先端中心を結んで成る閉じた線が、正四角形を成した構成を採用することができる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0049】
各実施形態では、1つの突起部14が底部11に形成された例を示した。しかしながら、
図11及び
図12に示すように、突起部14が底部11に複数形成され、複数の突起部14によって、空気抜け孔13が多重に囲まれた構成を採用することもできる。これによれば、溶融樹脂の空気抜け孔13への流入時間が遅くなる。したがって、溶融樹脂に含まれる空気が、空気抜け孔13を介して外部空間に排気され易くなる。これにより、内空間に残された空気のために、樹脂部50に厚さの薄い箇所が形成されることが抑制される。この結果、回転角センサ100の剛性が落ちることが抑制される。
【0050】
なお、
図11に示すように、複数の突起部14それぞれの高さは同一ではなく、空気抜け孔13から遠ざかるにつれて、複数の突起部14の高さが低くなった構成を採用することができる。これによれば、空気抜け孔から遠ざかるにつれて、複数の突起部の高さが高くなる構成とは異なり、空気抜け孔13から最も遠くに位置する突起部14から最も近くに位置する突起部14へと溶融樹脂が流動する際、その流動速度が徐々に低まる。したがって、各突起部14を流動する溶融樹脂の流速が確保され、各突起部14が、溶融樹脂の流動によって生じるせん断発熱によって溶融する。
【0051】
各実施形態では、本発明である樹脂成形品を、回転角センサに適用した場合を説明した。しかしながら、樹脂成形品の適用としては上記例に限定されず、樹脂によってモールド成形するものであれば、適宜採用することができる。
【0052】
各実施形態では、筒部10と環状部31それぞれが円筒形状を成し、樹脂部材32は円柱形状を成している例を示した。しかしながら、筒部10、及び、環状部31それぞれは筒形状であれば良く、樹脂部材32は柱状であれば良い。更に言えば、柱部30が環状部31と樹脂部材32を有する例を示したが、どちらも有する必要はなく、その外形形状が柱状のものであれば、適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0053】
10・・・筒部
11・・・底部
12・・・壁部
13・・・空気抜け孔
14・・・突起部
30・・・柱部
50・・・樹脂部
100・・・回転角センサ