特許第6051938号(P6051938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6051938
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】電解コンデンサ電解液
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/035 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   H01G9/02 311
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-36832(P2013-36832)
(22)【出願日】2013年2月27日
(65)【公開番号】特開2014-165420(P2014-165420A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福田 泰久
(72)【発明者】
【氏名】弘津 健二
【審査官】 多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/113545(WO,A1)
【文献】 特開昭61−44418(JP,A)
【文献】 特開2002−367673(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/057427(WO,A1)
【文献】 特開2006−49676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 2/02
H01G 2/08
H01G 2/24
H01G 9/00
H01G 9/02−9/022
H01G 9/028−9/035
H01G 9/07
H01G 9/21
H01G 9/26−11/86
H01M 10/05−10/0587
H01M 10/36−10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるコハク酸部分エステル及び/又はその塩を含有する電解コンデンサ用電解質化合物。
【化1】
(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表し、RからRは、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【請求項2】
電解質として、請求項1に記載のコハク酸部分エステル及び/又はその塩を少なくとも1種含有する、電解コンデンサ用電解液。
【請求項3】
コハク酸部分エステルの塩がアンモニウム塩である、請求項2に記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項4】
エチレングリコールを主溶媒とする、請求項2又は請求項3に記載の電解コンデンサ用電解液。
【請求項5】
請求項2から4に記載の電解コンデンサ用電解液を少なくとも1種含有する、電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コハク酸部分エステルを電解質化合物に用いた電解コンデンサ電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中高圧用電解コンデンサの駆動用電解液としては、耐電圧が比較的高く得られることから、エチレングリコールを溶媒に、硼酸又は硼酸アンモニウムを電解質として溶解した電解液が用いられてきた。しかしながら、このような電解液は、導電性が低く、しかもエチレングリコールと硼酸のエステル化により多量の水が生成するため、この水分がアルミニウム酸化皮膜と反応して電極を劣化させるという問題があった。また、100℃以上の高温化では水の蒸発により内圧が上昇するため、高温環境下での使用に適さないという問題もあった。
【0003】
そこで、このような問題を解決するために、近年、電解質化合物として、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ブチルオクタン二酸、3−カルボキシウンデカン酸(n−オクチルコハク酸)などのジカルボン酸が報告されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−85509号公報
【特許文献2】特開昭61−44418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、特許文献1や特許文献2に記載のセバシン酸、ドデカン二酸、ブチルオクタン二酸、3−カルボキシウンデカン酸(n−オクチルコハク酸)のようなカルボン酸のアンモニウム塩では、エチレングリコール等の電解液用溶媒に対する溶解度が低いために、低温環境下において結晶が析出しやすく、使用に適さないという問題があった。また、近年、スイッチング電源を使用した電気機器が一般家庭で汎用されるようになり、アルミニウム電解コンデンサの安全性に対する要求が更に高まっている。このアルミニウム電解コンデンサの安全性を向上させるために、電解コンデンサ用電解液の耐電圧を更に向上させることが切望されており、現状の電解コンデンサの耐電圧特性は満足できるものではかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、電解質化合物の溶解性が高く、高耐電圧の電解コンデンサ電解液を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの課題を解決するため、鋭意検討を進めた結果、上記課題が、次の[1]〜[5]の発明を含む、電解質化合物としてコハク酸部分エステルを用いた電解コンデンサ電解液によって解決されることを見出した。
【0008】
[1] 下記一般式(1)で表されるコハク酸部分エステル及び/又はその塩を含有する電解コンデンサ用電解質化合物。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表し、RからRは、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
[2] 電解質として、前記[1]に記載のコハク酸部分エステル及び/又はその塩を少なくとも1種含有する、電解コンデンサ用電解液。
[3] コハク酸部分エステルの塩がアンモニウム塩である、前記[2]に記載の電解コンデンサ用電解液。
[4] エチレングリコールを主溶媒とする、前記[2]又は[3]に記載の電解コンデンサ用電解液。
[5] 前記[2]から[4]に記載の電解コンデンサ用電解液を少なくとも1種含有する、電解コンデンサ。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、例えば、コハク酸部分エステルを電解質化合物として用いた新規な中高電圧電解コンデンサ用電解液が提供される。本発明のコハク酸部分エステルは、低温溶解性、耐電圧性に優れており、電解コンデンサ用電解液の電解質成分として好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施態様を説明する。
<本発明のコハク酸部分エステル>
本発明のコハク酸部分エステルは、下記一般式(1)で示されるコハク酸部分エステルを表す。
【0013】
【化2】
【0014】
一般式(1)中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を表し、RからRは、水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。なお、Rとして、好ましくはメチル基であり、RからRとして、好ましくはRからRの4つのうち、1つが炭素数1〜12のアルキル基であり、残りの3つが水素原子であるモノアルキルコハク酸化合物が挙げられる。さらに、このモノアルキルコハク酸化合物中、RからRのアルキル基として、好ましくはn−ブチル基及びn−オクチル基である。
【0015】
<本発明のコハク酸部分エステルを含有する電解コンデンサ用電解液>
本発明の一般式(1)で示されるコハク酸部分エステル又はその塩は、電解コンデンサ用電解液の構成成分(電解質化合物)として有用な化合物である。
[一般式(1)で示されるコハク酸部分エステル及びその使用量]
本発明の一般式(1)で示されるコハク酸部分エステル又はその塩を含有する電解コンデンサ用電解液において、使用される当該コハク酸部分エステル又はその塩は、単独でも、これらの複数種類を混合して使用してもいずれであってもよい。また、前記コハク酸部分エステルの塩としては、例えば、アンモニウム塩、メチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミン等の第一級アミン塩、ジメチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミン等の第二級アミン塩、トリメチルアミン、ジエチルメチルアミン、エチルジメチルアミン、トリエチルアミン等の第三級アミン塩、テトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等の第四級アンモニウム塩などが挙げられるが、好ましくは、アンモニウム塩である。さらに、本発明の電解コンデンサ用電解液における、コハク酸部分エステル又はその塩の使用量は、電解コンデンサ用電解液の性能に悪影響を与えない量であれば、特に制限されない。
【0016】
[溶媒:電解コンデンサ用電解液]
本発明の電解コンデンサ用電解液に使用する溶媒は、本発明の溶質であるコハク酸部分エステル又はその塩を溶解できるものであれば、特に制限されない。そこで、本発明の電解液に使用することができる溶媒としては、例えば、水;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,4−ブタンジオール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のアルコール類;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類; エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類;メチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、エチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、エチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド等のアミド類;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド等のオキシド類;スルホラン、N−メチルピロリドンなどを挙げることができる。なお、これらの溶媒は、単独で使用しても、複数種類を混合した混合溶媒として使用してもよい。また、本発明の電解コンデンサ用電解液に使用する溶媒として、好ましくは水、エチレングリコール、又はγ−ブチロラクトンが使用される。更に、本発明の電解コンデンサ用電解液に水を使用する場合、電解液中の水の含有量は特に制限されないが、好ましくは90質量%以下、特に好ましくは30質量%以下になるようにする。
【0017】
[その他添加物:電解コンデンサ用電解液]
電解液中には本発明のコハク酸部分エステル又はその塩、及び上記の溶媒の他、漏れ電流の低減、耐電圧向上、ガス吸収等の目的で種々の添加剤を加えることができる。
ここで、添加剤として、例えば、リン酸化合物、リン酸エステル化合物、ニトロ化合物、ホウ酸化合物、多価アルコール類、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールのランダム共重合体又はブロック共重合体等に代表される高分子化合物などが挙げられる。
また、上記リン酸化合物およびリン酸エステル化合物としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、次亜リン酸、次二リン酸、亜リン酸、二亜リン酸、ピロ亜リン酸、イソ次リン酸、次リン酸、リン酸ブチル、リン酸イソブチル、リン酸オクチル等があげられ、リン酸化合物、及びリン酸エステル化合物の塩としてはアンモニウム塩、アルミニウム塩等が挙げられ、また、ニトロ化合物としては、例えば、ニトロアニソール、ニトロアニリン、ニトロ安息香酸、ニトロトルエン、ニトロフェノール、ニトロベンジルアルコール、ニトロアセトフェノン等があげられる。
さらに、本発明の電解コンデンサ用電解液では、必要に応じて、電解液の電導度の増加および特性向上等を目的として、一般式(I)で示されるコハク酸部分エステル及び/又はその塩以外に、さらに他のカルボン酸またはカルボン酸の塩を添加することができる。
そこで、カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、ラウリン酸、ステアリン酸、デカン酸、安息香酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フタル酸、フマル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,10−デカンジカルボン酸、2−メチルアゼライン酸、1,6−デカンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸、7−ビニルヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸等のジカルボン酸、1,3,6−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジメチル−13,9−ノナントリカルボン酸等のトリカルボン酸などがあげられる。また、カルボン酸の塩としては、前記式(1)で示されるコハク酸部分エステルの塩と同様のものが挙げられる。
【0018】
本発明の電解コンデンサ用電解液において、当該電解液の溶媒量と溶質量は、電解コンデンサの用途および定格電圧等により異なるため、特に制限されないが、溶媒量は50.0〜99.5質量%、溶質量は0.5〜50.0質量%が好ましい。
【0019】
[本発明の電解液を適用する電解コンデンサ]
本発明の電解液を適用する電解コンデンサは特に限定されず、例えば、捲き取り形のアルミニウム電解コンデンサであって、陽極表面に酸化アルミニウムが形成された陽極(酸化アルミニウム箔)と陰極アルミニウム箔との間に、セパレーターを介在させて捲回することにより構成されたコンデンサ等が挙げられる。この電解コンデンサに、本発明の電解液を駆動用電解液としてセパレーターに含浸し、陽陰極と共に、例えば、有底筒状のアルミニウムケースに収納した後、アルミニウムケースの開口部を封口材で密封することで、アルミニウム電解コンデンサを製造することができる。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例に示す材料、使用量、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す 具体例に制限されるものではない。
【0021】
(実施例1:混合物A1A2;混合比(A1:A2)=2:1)
n−ブチルコハク酸無水物10gを乾燥メタノール50mlに溶解し、11時間加熱還流した。反応終了後、メタノールを減圧留去、減圧蒸留し、無色オイルとして、3−(n−ブチル)コハク酸1−メチルエステル及び2−(n−ブチル)コハク酸1−メチルエステルの混合物A1A2(混合比(A1:A2)=2:1)9gを得た。
また、得られた化合物の分析データは、以下のとおりである。さらに、耐電圧と各電解液の室温及び−25℃での溶解性についての測定結果を表1に示す。
【0022】
【化3】
【0023】
(分析データ:混合物A1A2)
1H NMR(CDCl3, δppm) : 0.88-0.91(m, 3H), 1.29-1.35(m, 4H), 1.50-1.70(m, 2H), 2.44-2.51(m, 1H), 2.68-2.88(m, 2H), 3.69(s, 2H) , 3.70(s, 1H), 10.00-12.00(brs, 1H)
13C NMR(CDCl3, δppm) : 13.83, 13.85, 22.24, 22.28, 28.98, 29.05, 31.40, 31.60, 35.44, 35.75, 40.88, 41.06, 51.85, 51.90, 172.44, 175.43, 178.22, 181.19
【0024】
(実施例2:混合物B1B2の合成;混合比(B1:B2)=5:3)
n−オクチルコハク酸無水物5.3gを乾燥メタノール100mlに溶解し、6時間加熱還流した。反応終了後、メタノールを減圧留去し、無色オイルとして、3−(n−オクチル)コハク酸1−メチルエステル及び2−(n−オクチル)コハク酸1−メチルエステルの混合物(混合物B1B2(混合比5:3))5.9gを得た。
【0025】
【化4】
【0026】
(分析データ:混合物B1B2)
1H NMR(CDCl3, δppm) : 0.88(t, 3H), 1.20-1.40(m, 12H), 1.45-1.75(m, 2H), 2.40-2.52(m, 1H), 2.68-2.90(m, 2H), 3.69(s, 1.9H) , 3.70(s, 1.1H)、7.0-9.7(brs, 1H)
13C NMR(CDCl3, δppm) : 14.10, 22.67, 26.88, 26.91, 29.21, 29.23, 29.36, 29.38, 29.40, 31.72, 31.85, 31.92, 35.49, 35.76, 40.96, 41.11, 51.85, 51.89, 172.48, 175.48, 177.88, 180.86
【0027】
(実施例3〜5)
実施例1及び実施例2で得られたコハク酸部分エステルを用いて、それぞれ、下記表1に記載の各成分を所定割合で混合し、アンモニアでpH6に調整して電解コンデンサ電解液を得た。
得られた電解コンデンサ電解液は、アルミニウム箔を用いて10mA/cmの電流密度の定電流で化成した際の耐電圧を測定した。さらに、各電解液の室温及び−25℃での溶解性を目視で評価した。これらの結果を、表1に併せて示す。
【0028】
(比較例1〜6)
下記表1に記載のカルボン酸又はカルボン酸エステルを電解質化合物として使用し、各成分を所定割合で混合し、アンモニアでpH6に調整して電解コンデンサ電解液を得た。
得られた電解コンデンサ電解液は、アルミニウム箔を用いて10mA/cmの電流密度の定電流で化成した際の耐電圧を測定した。さらに、各電解液の室温及び−25℃での溶解性を目視で評価した。これらの結果を、表1に併せて示す。
【0029】
【表1】
*1:混合物A1A2(実施例1参照)、混合物B1B2(実施例2参照)
*2:溶解性の評価; ○:溶解した ×:結晶が析出した −:未検討
【0030】
上記の表1から明らかなように、本発明のコハク酸部分エステルを含有する電解液は、比較例の電解液と比較して、耐電圧や溶解性に優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の電解質成分としてコハク酸部分エステルを含有する電解液は、耐電圧が高く、溶解性に優れており、特に中高電圧用のアルミ電解コンデンサ用電解液として好適に用いられる。