(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費を向上させるために、その軽量化が推進されている。このような軽量化の方法の一つとして、自動車のボディを構成する金属材料を改良することが挙げられる。具体的には、自動車のボディの構成部材の鋼材を薄手且つ高強度な鋼材に変更する方法や、構成部材の材料を鋼よりも比重の軽いアルミニウム合金やマグネシウム合金に変更する方法に加え、許容される性能が確保できる限界まで構成部材の板厚を薄くすべく構成部材に板厚分布を付ける方法などが挙げられる。
【0003】
このうち構成部材に板厚分布を付ける方法に関して、板厚分布が付けられた鋼板は一般に差厚鋼板と呼ばれている。差厚鋼板には用途に応じて様々な種類がある。例えば、長さ2000mm程度、幅500mm程度の材料に長手方向両端から300mmまでは板厚2mm、中央部は板厚1.6mmの凹型のもの(板厚2水準対称型)や、逆に長手方向両端から300mmまでは板厚1.8mm、中央部は板厚2.0mmの凸型のもの(板厚2水準対称型)等が挙げられる。その他にも、板厚が長手方向にテーパ状に変化したものや、板厚多水準の対称型又は非対称型のもの等が挙げられる。
【0004】
このような差厚鋼板の製造方法としては、例えば、圧延機を用いて、圧延中にワークロールの圧下位置(ロールギャップ)を操作する方法が考えられる(例えば、特許文献1)。特に、特許文献1に記載の圧延方法では、圧延荷重を検出するロードセルが設けられると共に、ロードセルによって検出される圧延荷重が、要求される板厚に基づいて算出された要求荷重となるように圧下装置が制御される。なお、差厚鋼板の製造方法としては、圧延機を用いた方法の他にプレスによる方法等も考えられることから、本明細書では圧延機を用いて差厚鋼板を製造する方法を、特に、圧延法による差厚鋼板の製造方法と称する。
【0005】
ところで、圧延法による差厚鋼板の製造方法としては、圧延機出側に設けられた板厚検出装置により圧延機出側における被圧延材の板厚を検出し、その検出値に基づいて圧下位置を制御することが考えられる。しかしながら、差厚鋼板では板厚が一定な部分の圧延方向の長さは一般に短い。このため、ロールバイト出口から板厚検出装置までに或る程度の距離があることから無駄時間が生じるので、この方法では適切な板厚制御を行うことができない。
【0006】
また、圧延法による差厚鋼板の別の製造方法としては、圧延機入側における被圧延材の板厚及び速度と圧延機出側における被圧延材の速度とを検出し、マスフロー一定則を用いて圧延機出側における被圧延材の板厚を推定し、その推定値に基づいて圧下位置を制御することも考えられる。しかしながら、マスフロー一定則を用いた方法でも圧延機出側における被圧延材の速度を検出する装置をロールバイト出口の直近に設置することは困難であるため無駄時間が生じること、および被圧延材に幅広がりが生じること等によって被圧延材の板厚に推定誤差が生じることからこの方法によっても適切な板厚制御を行うことができない。その上、この方法では、複数の速度検出装置及び板厚検出装置が必要になることから、設備コストも上昇してしまう。
【0007】
このような状況を考慮して、圧延法による差厚鋼板の製造方法としては、プリセット圧延法及び絶対値圧延法が提案されている。プリセット圧延方法では、圧延機の圧下位置とこの圧延機によって圧延された被圧延材の板厚との関係が予め実験や数値計算等により求められる。圧延中には、圧延機によって圧延されている被圧延材のうち圧延機によって既に圧延された部分の圧延方向の長さである圧延長がワークロールの回転速度に基づいて算出されると共に、予め求められた圧下位置と圧延後の板厚との関係と、算出された圧延長とに基づいて被圧延材の板厚パターンが目標板厚パターンとなるように圧下位置が制御される。
【0008】
また、絶対値圧延法では、圧延荷重と圧延機の変形との関係(圧延機の変形特性)が予め実験や数値計算等により求められる。圧延中には、圧延長がワークロールの回転速度に基づいて算出されると共に、圧延荷重を検出して予め求められた圧延機の変形特性と検出された圧延荷重とに基づいてロールバイト出口における被圧延材の板厚が推定される。そして、算出された圧延長に基づいてこのようにして推定された板厚が目標板厚となるように圧下位置が制御される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述したように、圧延法による差厚鋼板の製造方法では、基本的に、圧延機の圧下位置を変化させることで被圧延材の板厚を変化させるようにしている。このような方法を用いた場合、差厚鋼板の製造速度(生産性)を速めるためには、圧下位置の制御速度を高めることが必要になる。一般に、油圧圧下装置は応答性が高いことから、圧下位置の制御速度を高めるためには油圧圧下装置の設置が必須となる。ところが、油圧圧下装置は高価であるため、設備コストが高くなり、結果として差厚鋼板の製造コストの上昇を招く。
【0011】
一方、圧下装置としては、油圧圧下装置の他に電動圧下装置も存在する。電動圧下装置は油圧圧下装置に比べて安価であるため、圧下装置として電動圧下装置を用いれば設備コストを低く抑えることができる。ところが、電動圧下装置の圧下位置に関する応答性は低いため、電動圧下装置を用いた場合には圧延速度(被圧延材が圧延機から送出される速度)を遅くしなければならず、その結果、製造速度が遅くなってしまう。
【0012】
そこで、上記課題に鑑みて、本発明の目的は、設備コストを低く抑えつつ製造速度を高めることができる、差厚鋼板の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を行い、圧下位置をほとんど操作しなくても、圧延機入側と圧延機出側とで被圧延材に加わる張力を変えて圧延することにより、差厚鋼板を比較的速い製造速度で製造することができること、及びこの場合には圧下位置をほとんど操作しなくて良いことからこのとき使用する圧下装置は応答性の高い油圧圧下装置でなくてもよいことを見出した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)
電動圧下装置を有する圧延機と、該圧延機の入側及び出
側において被圧延材に張力を負荷する
入側ブライドルロール及び出側ブライドルロールと、該
入側ブライドルロール及び該出側ブライドルロールによって被圧延材に負荷される張力を制御する張力制御装置と、前記圧延機によって圧延されている被圧延材のうち該圧延機によって既に圧延された部分の圧延方向の長さである圧延長を検出又は算出する圧延長推定装置とを具備し、
前記圧延機における圧下位置は、一つの被圧延材の圧延期間全体に亘って一定に維持され、前記
入側ブライドルロール及び出側ブライドルロールは、前記被圧延材の圧延中において、当該製造装置によって製造すべき差厚鋼板の圧延方向における厚さのパターンである目標厚さパターンに応じて、前記圧延長推定装置によって検出又は算出された圧延長に基づいて
、入側張力は、式(1)に基づいて、張力を変化させ
r=(aσ2+bσ+c)P+d …(1)
r:圧下率、P:圧延荷重、σ:入側張力、a、b、c、d:係数
出側張力は、入側張力の1.6倍として、張力を変化させる、差厚鋼板の製造装置
。
(
2)前記目標厚さパターンを入力するためのパターン入力装置を更に具備する、上記(
1)に記載の差厚鋼板の製造装置。
(
3)
電動圧下装置を有する圧延機と、該圧延機の入側及び出
側において被圧延材に張力を負荷する
入側ブライドルロール及び出側ブライドルロールと、該入側ブライドルロール及び該出側ブライドルロールによって被圧延材に負荷される張力を制御する張力制御装置と、前記圧延機によって圧延されている被圧延材のうち該圧延機によって既に圧延された部分の圧延方向の長さである圧延長を検出又は算出する圧延長推定装置とを具備する差厚鋼板の製造装置による差厚鋼板の製造方法において、
前記圧延機における圧下位置は、一つの被圧延材の圧延期間全体に亘って一定に維持され、前記
入側ブライドルロール及び出側ブライドルロールは、前記被圧延材の圧延中において、当該製造方法によって製造すべき差厚鋼板の圧延方向における厚さのパターンである目標厚さパターンに応じて、前記
圧延長推定装置によって検出又は算出された圧延長に基づいて、入側張力は、式(1)に基づいて、張力を変化させ
r=(aσ2+bσ+c)P+d …(1)
r:圧下率、P:圧延荷重、σ:入側張力、a、b、c、d:係数
出側張力は、入側張力の1.6倍として、張力を前記被圧延材の圧延中に変化させる、差厚鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の差厚鋼板の製造装置及び製造方法によれば、設備コストを低く抑えつつ製造速度を高めることができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
【0018】
図1は本発明の差厚鋼板の製造装置1の一つの実施形態を概略的に示す図である。
図1に示すように、製造装置1は、圧延機10の入側において、被圧延材である金属ストリップSが巻出されるペイオフリール11と、金属ストリップSの進行方向(
図1に矢印で示した方向)を変更する入側デフレクターロール12と、圧延機10に進入する金属ストリップSに加わる張力(すなわち、圧延機10の入側において金属ストリップSに加わる張力。以下、「入側張力」という)を制御する入側ブライドルロール(入側張力負荷装置)13と、入側張力を検出する入側テンションロール14とを具備する。
【0019】
加えて、製造装置1は、圧延機10の出側において、圧延機10から送出された金属ストリップSに加わる張力(すなわち、圧延機10の出側において金属ストリップSに加わる張力。以下、「出側張力」という)を検出する出側テンションロール15と、出側張力を制御する出側ブライドルロール16と、金属ストリップSの進行方向を変更する出側デフレクターロール17と、金属ストリップSを巻き取るテンションリール18とを具備する。
【0020】
このように構成された製造装置1では、被圧延材である金属ストリップSがペイオフリール11に巻回された状態で製造装置1にセットされる。金属ストリップSの進行方向においてペイオフリール11の下流側には入側デフレクターロール12を介して、入側ブライドルロール13が設けられる。入側デフレクターロール12は駆動装置等によって駆動されていない回転自在なロールである。一方、入側ブライドルロール13はモータ等の駆動装置(図示せず)によって駆動され、入側張力を制御する。
【0021】
金属ストリップSの進行方向において入側ブライドルロール13の下流側には、入側テンションロール14が設けられる。入側テンションロール14は、入側テンションロール14上を水平に進行する金属ストリップSを僅かに鉛直上方に付勢して、その反力に基づいて入側張力を検出している
。
【0023】
金属ストリップSの進行方向において入側テンションロール14の下流側には、圧延機10が設けられる。本実施形態において、圧延機10は4段圧延機であり、一対のワークロール21と一対のバックアップロール22とを具備する。各ワークロール21はその表面に焼結層を有するように形成されていることがより好ましい。上バックアップロール22のロールチョック(図示せず)上部には、ワークロール21の圧下位置(すなわち、ワークロール21間のロールギャップ)を制御する電動圧下装置23が設けられる。また、上バックアップロール22のロールチョック上部には圧延荷重を検出するためのロードセル(図示せず)が設けられる。これら電動圧下装置23及びロードセルは制御装置20に接続される。したがって、ロードセルによって検出された圧延荷重は制御装置20に入力されると共に、電動圧下装置23は制御装置20によって制御される。
【0024】
また、本実施形態では、ワークロール21にはワークロール21の回転速度を検出するための速度検出装置(図示せず)が設けられる。速度検出装置は制御装置20に接続されると共に、制御装置20では速度検出装置によって検出されたワークロール21の回転速度に基づいて、圧延機10によって圧延されている金属ストリップSのうち圧延機10によって既に圧延された部分の圧延方向の長さ(以下、「圧延長」という)が算出される。なお、圧延長の検出又は算出(推定)は他の方法によって行われてもよい。例えば、圧延長の推定は、圧延機10から送出された金属ストリップSの速度を検出する装置の出力に基づいて行われてもよい。
【0025】
金属ストリップSの進行方向において圧延機10の直ぐ下流側には出側テンションロール15が設けられる。出側テンションロール15も、出側テンションロール15上を水平に進行する金属ストリップSを僅かに鉛直上方に付勢して、その反力に基づいて出側張力を検出している。
【0026】
金属ストリップSの進行方向において出側テンションロール15の下流側には、出側ブライドルロール(出側張力負荷装置)16が設けられる。出側ブライドルロール16はモータ等の駆動装置(図示せず)によって駆動され、出側張力を制御する
。
【0028】
金属ストリップSの進行方向において出側ブライドルロール16の下流側には、駆動装置等によって駆動されていない回転自在なロールである出側デフレクターロール17を介して、テンションリール18が設けられる。このテンションリール18によって金属ストリップSが巻き取られる。
【0029】
なお、本実施形態では、金属ストリップSの進行方向において圧延機10の上流側には、金属ストリップSの進行方向とは垂直な水平方向の位置を固定するために、複数のローラガイド(図示せず)が設けられる。
【0030】
また、本実施形態では、圧延機10のロールバイト入口に圧延潤滑のための圧延潤滑油(例えば、エマルション潤滑油)を供給するための潤滑油供給装置(図示せず)が設けられる。加えて、ワークロール21近傍には、ワークロール21の冷却を行うワークロール冷却装置(図示せず)が設けられる。特に、潤滑油供給装置で用いられる潤滑油とワークロール冷却装置で用いられる冷却媒体とを同じ潤滑油とされる。このため、潤滑油供給装置及びワークロール冷却装置へは共通の潤滑油タンクから潤滑油が供給されると共に、圧延機10の下部に設けられた潤滑油回収槽(図示せず)を介して潤滑油タンクに回収される。
【0031】
また、制御装置20は、製造装置1によって製造すべき差厚鋼板の圧延方向における厚さの分布(以下、「目標厚さパターン」という)を入力する入力装置(図示せず)を有していてもよい。
【0032】
なお、上記実施形態では、差厚鋼板の圧延は連続的な金属ストリップSを用いて連続的に行われている。しかしながら、例えば、圧延機10に所定長さの金属ストリップSを供給するようにしてもよい。この場合、ペイオフリール11及びテンションリール18の替わりに所定長さの金属ストリップSを積層式に貯留する貯留装置等が用いられる。
【0033】
ところで、本願の発明者は、
図1に示したような装置を用いて、入側張力及び出側張力を変化させたときの、圧下率と圧延荷重との関係を調査した。具体的な実験条件は以下のとおりである。
【0034】
まず、金属ストリップSとしては、60キロハイテンと呼ばれる引っ張り強さが600MPaの材料を用いた。金属ストリップSは、板厚が3.06mm、板幅が400mmの熱延スリット材(黒皮材とよばれる表面に酸化スケールがついたコイル)とした。圧延機10のワークロール21は直径300mm、胴長500mmであり、バックアップロール22は直径1200mm、胴長500mmである。
【0035】
また、一般に入側張力よりも出側張力を大きくする方が、スリップ等が発生しないことにより、圧延が安定する。そこで、実験においては、単位面積当たりの張力について、入側張力σ
fを出側張力σ
bの1.6倍とした。
【0036】
このような金属ストリップS及び圧延機10を用いて実験を行った結果、
図2に示したような結果を得た。なお、
図2におけるσは入側張力σ
fに等しく、出側張力σ
b=1.6σという関係にある。
図2から、張力σが高くなるにつれて圧延荷重が低下し、また、圧下率が増大するにつれて圧延荷重が増大することが分かる。
図2において例えば、圧延時の圧延荷重を1MNにした場合、入側張力σ
fを10MPa、出側張力σ
bを16MPaとしたときには圧下率は3.3%程度、入側張力σ
fを100MPa、出側張力σ
bを160MPaとしたときには圧下率は7%程度、入側張力σ
fを200MPa、出側張力σ
bを320MPaとしたときには圧下率は19%程度となる。すばわち、圧延荷重を1MNで圧延した場合、圧下位置を操作しなくても、入側張力及び出側張力を調整することにより、出側板厚を変えることができる。
【0037】
そこで、本発明では、製造装置1によって製造すべき差厚鋼板の圧延方向における厚さのパターン(目標厚さパターン)に応じて、圧延中に入側張力及び出側張力を変化させるようにしている。より具体的には、圧延機10によってこれから圧延される金属ストリップSの部分の板厚を直前に圧延された金属ストリップSの部分の板厚よりも薄くするときには入側張力及び出側張力を大きくし、圧延機10によってこれから圧延される金属ストリップSの部分の板厚を直前に圧延された金属ストリップSの部分の板厚よりも厚くするときには入側張力及び出側張力を小さくする。
【0038】
また、本実施形態では、一つの金属ストリップSの圧延期間全体に亘って、圧延機における圧下位置又は圧延荷重を変化させることなく一定に維持した状態で圧延が行われる。
【0039】
図3は、例えば
図4のような差厚鋼板を製造する場合における圧延長に対する目標厚さと加熱量との関係を示している。図から分かるように、目標厚さは、圧延長が0〜aまでの間、b〜cまでの間、d以降である箇所においては、目標厚さが一定のまま維持されている。これに対して、目標厚さは、圧延長が長さa〜bとなっている箇所において薄くなるように変化し、逆に、圧延長が長さc〜dとなっている箇所において厚くなるように変化する。
【0040】
このような目標厚さのパターンに対して、入側ブライドルロール13及び出側ブライドルロール16によって負荷される入側張力及び出側張力(
図3では、入側張力のみが表示されており、出側張力は入側張力の1.6倍とされる。以下ではこれらをまとめて「張力」という)は、圧延長が長さa〜bとなっているときに徐々に増大し、これに伴って、圧延機10によって圧延された金属ストリップSの板厚が徐々に薄くなる。その後、圧延長が長さcとなるまで一定の張力に維持され、その間、圧延機10によって圧延された金属ストリップSの板厚も一定に維持される。その後、圧延長が長さc〜dとなっているときに、張力が徐々に減少し、これに伴って、圧延機10によって圧延された金属ストリップSの板厚が徐々に厚くなる。
【0041】
また、具体的な張力は、下記式(1)に基づいて算出される。
r=(aσ
2+bσ+c)P+d …(1)
式(1)において、rは圧下率、Pは圧延荷重、σは張力(入側張力)である。また、係数a、b、c、dは、例えば、
図3に示したような実験結果に基づいて算出される値である。なお、式(1)では2次近似を行っているが、3次近似等、他の近似式を用いてもよい。
【0042】
上記式(1)を用いることにより、目標厚さのパターンから算出された目標圧下率と、圧延荷重の設定値に基づいて、目標張力を算出することができ、この目標張力に基づいて入側ブライドルロール13及び出側ブライドルロール16によって負荷される入側張力及び出側張力が算出される。したがって、本実施形態では、上記式(1)が制御装置20又は同様なマップに保持されると共に、実際に圧延を行う際には、圧延機10の圧延によって金属ストリップSが目標厚さパターンとなるように、制御装置20に保持された圧下率と及び圧延荷重と張力との関係に基づいて制御装置20において算出された圧延長を用いて入側ブライドルロール13及び出側ブライドルロール16によって負荷される入側張力及び出側張力が変化せしめられる。
【0043】
本発明によれば、このようにして、入側張力及び出側張力を変化させることによって、圧延機10の圧下位置を全く又はほとんど変化させることなく差厚鋼板を圧延・製造することができる。このため、圧下位置の変更に関する応答速度の低い電動圧下装置を用いたとしても、比較的高い製造速度で差厚鋼板の製造を行うことができる。
【0044】
なお、上記実施形態では、入側張力に対する出側張力の比率を常に一定にしている。しかしながら、入側張力に対する出側張力の比率は必ずしも一定である必要はなく、これら張力の絶対値等に応じて変更するようにしてもよい。また、上記実施形態では、圧延機10によって圧延される金属ストリップSの板厚を変更するために入側張力及び出側張力の両方を変化させているが、必ずしもこれら両張力を変更する必要な無く、入側張力及び出側張力の一方のみを変化させるようにしてもよい。
【0045】
なお、一般に圧延時の圧下率が異なると、圧延後の差厚鋼板の品質(例えば強度)に差が生じる。差厚鋼板は、圧延後、プレスまたはホットプレス成形され、最終的な構造材が作製されるが、圧延後の差厚鋼板の品質にバラツキがあると冷間のプレスにおいてスプリングバックなどのバラツキを生じさせる。このため、上記製造装置1によって製造された差厚鋼板は、圧延後冷間プレスされる前に、熱処理される。
【実施例】
【0046】
図1に示した装置を用いて長手方向に板厚差を有する差厚鋼板を製造した。素材や圧延機の条件等は上述した実験に用いた条件と同じである。
図4に本実施例で製造した差厚鋼板の寸法を示す。
図4は、製造した差厚鋼板を長手方向に切断した断面図である。また、テーパ部(板厚の異なる部分間の傾斜部)の長さは10〜40mmとした。
【0047】
本実施例では、電動圧下圧延機を用いて、圧延荷重が1.3MNになるように常温圧延時の圧下位置をセットした。圧延時には、ワークロールの回転速度から圧延長を推定し、その推定値に基づいて差厚鋼板の板厚の目標値を与え、その板厚の目標値になるよう張力の目標値を算出し、その張力の目標値になるよう両ブライドルロールの張力を制御した。具体的には、圧延荷重を1.3KNとして、張力の目標値を100MPaと192MPaとした。この値は上記式(1)と同様な式を作成し、その式を用いて求めた。
【0048】
比較例として、電動圧下圧延機を用い、予め実験によって求めた圧下位置(圧延荷重)と板厚の関係を用いて圧延機の圧下位置の制御を行った。圧延時には、ワークロールの回転速度から圧延長を推定し、その推定値に基づいて差厚鋼板の板厚の目標値を与え、その板厚の目標値になるように圧延機の圧下位置を制御した。このとき、ブライドルロールによる金属ストリップの入側張力及び出側張力の制御は行わなかった。
【0049】
本実施例では
図4に示した差厚鋼板を、圧延速度80m/minで板厚精度±10%内で製造することができた。比較例においても、
図4に示した差厚鋼板を、板厚精度±10%内で製造することができた。ただし、電動圧下の圧下速度が300μm/secであることから、上述したテーパ部の長さを10〜40mmの間に収めるために,圧延速度が約0.3〜1.3m/minに制限された。