特許第6052009号(P6052009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052009
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/427 20060101AFI20161219BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B60N2/427
   B60R21/207
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-68987(P2013-68987)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-189239(P2014-189239A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年8月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新 知己
(72)【発明者】
【氏名】村田 義幸
【審査官】 小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−290701(JP,A)
【文献】 特開平11−129855(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0001783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/427
B60R 21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートカバーと、シートパッドと、シートパッドの内側に設けられるエアバッグモジュールと、前記エアバッグモジュールの袋体の展開方向を規制するための力布と、を備える乗物用シートであって、
前記力布の少なくとも一つは、一端側が前記シートパッドと一体化することで固定されており、
前記力布の少なくとも一つは、一端側が前記シートパッドに埋設されて一体化されていることで固定されていることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の乗物用シートであって、
前記シートカバーは、主として乗員の背が接することになる主面部と、主面部から斜め前方に張り出している前面サイド部と、前記前面サイド部と接続し主として側面を形成する側面部を備えており、
前記力布は、エアバッグモジュールに対して前記シートパッドの前面サイド部側と側面部側にそれぞれ設けられており、前記前面サイド部側に設けられた力布の一端側が前記シートパッドに一体化していることを特徴とする乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに関する。詳しくは、エアバッグモジュールを備えた乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エアバッグモジュールを備えた乗物用シートが知られている(特許文献1参照)。エアバッグモジュールは乗物が衝突した際に乗員を保護するために使用されるものであり、作動状態となった場合に、内部に備えられた袋体を膨出させるものである。このようなエアバッグモジュールが乗物用シートに備えられる場合、シート内部のドア側端部に備えられていることが多い。
シート内部に備えられたエアバッグモジュールの袋体はシートパッド及びシートカバーの一部を破りながら、シート外へ飛び出してくるものである。そのため、適切に機能させるには、シートの特定の位置に設けたバーストラインから袋体が飛び出てくる必要がある。このため、シート内部にはエアバッグモジュールとバーストラインとを繋ぐように案内用の布部材が設けられている。当該布部材は伸びにくい材料であり、通常、力布と呼ばれている。エアバッグモジュールを備える一般的な乗物用シートにおいては、図4に示すようにシートカバー7とシートパッド3の間などに力布6を配置しており、力布6の端部を固定具91や力布ブラケット92を介してシートフレーム5に固定することで、その機能を発揮させるものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−37261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、当該構造であると、力布をシートフレームに取り付けるための部品が別途必要になる。また、力布をシートフレームに取り付ける作業が必要となる。そのため、機器点数が多くなり、作業工数も多くなるものであった。また、シートフレームなどはシートが完成した際、人が触ることの無い部分に位置するため、通常バリがある。当該バリを取り除かないと、バリと力布が接触することにより力布が切断される可能性があった。そのため、力布を取り付ける部分に関しては、バリを取り除く作業が必要となるものであり、その点においても、作業工数が多くなるものであった。
【0005】
本発明は、上記した点に鑑みて創案されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、力布を固定する際の機器点数を削減すること及び作業工数を削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の乗物用シートは次の手段をとる。
先ず、第1の発明は、シートカバーと、シートパッドと、シートパッドの内側に設けられるエアバッグモジュールと、前記エアバッグモジュールの袋体の展開方向を規制するための力布と、を備える乗物用シートであって、前記力布の少なくとも一つは、一端側が前記シートパッドと一体化することで固定されていることを特徴とする。
【0007】
この第1の発明によれば、力布の少なくとも一つについて、一端側がシートパッドと一体化することで固定されているため、当該部分に関して、別途固定を行う必要が無くなる。また、シートパッドと一体化されることで固定されているため、固定用の部品を別途用意する必要性が無く、機器点数の削減にもなる。また、機器点数が削減されることにより、シート重量の増加を抑制することも可能となり得る。また、力布の一端がシートフレームまで届くようにする必要性が無いため、力布の長さを比較的短いものとすることも可能となる。
【0008】
また第1の発明は、前記力布の少なくとも一つは、一端側が前記シートパッドに埋設されて一体化されていることで固定されていることを特徴とする。
【0009】
この第の発明によれば、力布はシートパッドに埋設されて一体化しているため、より強固に固定することが可能となる。また、力布は丸みを帯びた形状に追従するように変形することが難しいものでもあることから、シートカバーに沿うように配置した場合、力布の形状がシートの意匠に影響する恐れがある。しかしながら、この第の発明によれば、力布をシートパッド内に埋設することにより、シートカバーと離間した状態で力布が配設されるため、力布がシートの意匠に影響することを抑制することが可能となる。
【0010】
の発明は、第1の発明において、前記シートカバーは、主として乗員の背が接することになる主面部と、主面部から斜め前方に張り出している前面サイド部と、前記前面サイド部と接続し主として側面を形成する側面部を備えており、前記力布は、エアバッグモジュールに対して前記シートパッドの前面サイド部側と側面部側にそれぞれ設けられており、前記前面サイド部側に設けられた力布の一端側が前記シートパッドに一体化していることを特徴とする。
【0011】
この第の発明によれば、前面サイド部側に位置する力布をシートパッドに固定している。このため、着座することによりシートにかけられる荷重を袋体のガイドに利用することが可能となり得る。そのため、バーストラインから袋体を膨出させる可能性をより一層高めることが可能となる。また、シートの視認されやすい側において、力布の形状がシートの意匠に影響することを抑制できるので、商品価値が低下することを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、力布を固定する際の機器点数を削減すること及び作業工数を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明における乗物用シートに乗員が着座した状態において、乗員と力布とエアバックモジュールとの位置関係を表した概念図である。
図2】本発明の乗物用シートにおいてエアバッグが飛び出してくる状況を示した概念図である。
図3】本発明の乗物用シートにおける力布とシートパッドとエアバッグモジュールの配置を示した図である。
図4】従来の乗物用シートにおける力布とシートパッドとエアバッグモジュールの配置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を、適宜図面を用いて説明する。なお、本説明における前後方向、左右方向等の方向表示は、図1に示すように乗員Hの着座姿勢状態における方向を示している。
本実施の形態においては、シートクッション9とシートバック2を備える乗物用シート1において、シートバック2における左サイド側からエアバッグモジュール4の袋体41が飛び出す構造である。乗物用シート1はシートカバー7とシートパッド3が一体成形された乗物用シート1であり(図3参照)、本実施の形態における乗物とは車両である。シートカバー7は、乗員の着座面側に位置する表皮78とその反対面側に位置する裏基布79を備えた構成である。また、シートパッド3には裏面材31を備えており、当該裏面材31は、シートカバー7が位置する面とは反対側の面に位置する構成である。つまり、シートカバー7と裏面材31との間にシートパッド3が位置するような構成である。
シートカバー7は、主として乗員が接することになり乗物用シート1の中心軸Cを跨ぐように位置する主面部71、主面部71から斜め前方に張り出している前面サイド部72、更には前面サイド部72と接続し主として側面を形成するように後面側に回りこむ側面部73、側面部73と接続されて後面側に配置される後面部74を備えている。
また、主面部71、前面サイド部72、側面部73及び後面部74は各々が縫製により接合されており、前面サイド部72と側面部73とを縫製した部位はエアバッグモジュール4の袋体41が膨出してくることにより破断を許容するバーストライン75を形成している。バーストライン75は車体8に設けられたドア81側に設けており、袋体41が膨出した際には、ピラー82及びドア81に沿って前方に展開しながら袋体41が膨らむように構成している。なお、シートパッド3には裏面材31が設けられているが、エアバッグモジュール4とバーストライン75との間には裏面材31を設けていない部分がある。当該部分に対して袋体41が圧力をかけることにより、シートパッド75を破ることができるように構成している。
本実施の形態においては、力布6は一端側から他端側への向きが長手方向となる略長方形の形状である。また、本実施の形態においては、第1の力布61及び第2の力布62を用いて、エアバッグモジュール4の袋体41が膨出して展開する方向を規制している。
第1の力布61は、バーストライン75近傍から前面サイド部72側のシートパッド3内を通るように配置されている。また、第2の力布62はバーストライン75近傍から側面部73側のシートパッド3内を通るように配置されている。当該第1の力布61と第2の力布62の間にエアバッグモジュール4が位置するような構成である。
本実施の形態の第1の力布61は、一端がシートパッド3と一体化して固定されており、他端がシートカバー7の前面サイド部72に接続されている。第1の力布61の一端はウレタン樹脂を発泡する際にシートパッド3と一体化したものであり、シートパッド3内に埋設される状態で一体化している。なお、第1の力布61の一端はシートカバー7の前面サイド部72と裏面材31との間に位置している。
【0015】
第1の力布61は、シートフレーム5に接続されていなくとも、その機能を十分に発揮することが可能である。なぜなら、第1の力布61は、シートエアバッグモジュール4に対して前面サイド部72側に配置されているからである。当該部位はエアバッグモジュール4と乗員Hとの間に挟み込まれる部位でもあり(図1、3参照)、乗員Hから前面サイド部72にかけられる荷重が、膨出する袋体41からかけられる力に対抗することになる。このため、袋体41はシートカバー7を延ばすように変形するよりも、より進みやすい方向に向って展開していくこととなるからである。なお、第1の力布61が無い場合においてもシートカバー7の側面部73は乗員Hから荷重がかかっているが、この場合、袋体41が進む方向が十分に規制されないため、変形容易なシートカバー7に向って袋体41が進みやすく、バーストライン75でシートを破断できない可能性が高まる。
【0016】
本実施の形態の第2の力布62は、一端が固定具91を介してシートフレーム5に固定されており、他端がシートカバー7の側面部73に接続されている。つまり第2の力布62は、その一端がシートパッド3ではなく、シートフレーム5に固定されている。このように、本発明においては、全ての力布6をシートパッド3で固定する必要性は無く、従来どおりの固定方法を採用するものを一部に含んでいても良い。一部の力布6にのみ、本発明の固定方法を採用しても、本発明の利益を得ることが可能だからである。
【0017】
次に、第1の力布61をシートパッド3内で固定する方法を説明する。
本実施の形態においては、シートカバー7とシートパッド3と力布6を一体成形している。力布6の他端はシートカバー7の前面サイド部72と接合されているが、その他の部分は、自由状態となっている。当該状態のシートカバー7と力布6の結合体を発泡型内にセットする。
発泡型は上型と下型とを備えたものであり、下型の内面と着座面が対向するようにシートカバー7をセットする。
この状態で力布6の一端が中空に位置するように支持する。中空に位置するようにする手段はどのようなものであっても構わないが、例えば、力布6の一端に対して切断が容易な糸を接続しておき、当該糸の先端を発泡型内面に設けられた固定部に対して結びつけ、力布6全体を中空に位置させる。
当該状態で発泡型内にウレタン原液を充填し、上型で蓋をする。この後、加熱することにより化学反応を引き起こし、発泡成形を行う。ウレタン原液は発泡することにより、膨張するため、発泡型内部が埋まるように充填され、固化する。
発泡型を冷却し、固化した成形体を取り出すが、取り出す際に力布6を支えていた糸が切断される。
上記するような手段により、力布6をシートパッド3内に埋設した状態とする。
当該手段で形成されたシートカバー7とシートパッド3と力布6の一体構造物をシートフレーム5に組みつけ、その他の部品を通常通り装着することにより、乗物用シート1が完成する。
【0018】
本実施の形態の乗物用シート1及び乗物用シート1の製造方法であると、以下に記すような利点がある。
本実施の形態の乗物用シート1及び、乗物用シート1の製造方法であると、前面サイド部72の力布6の端部はシートパッド3に一体化されて固定しているため、力布6の端部をシートフレーム5に取り付けるための部品が不要である。また、当該力布6の端部をシートフレーム5に固定する作業が不要となる。
また、第1の力布61の一端が裏面材31とシートカバー7との間に位置しているため、力布6としての機能を十分に発揮できる上、力布6の長さを短くすることが可能である。
また、力布6の一端がバーストライン75近傍においてシートカバー7に接合されているため、袋体41が膨出された際にも袋体41がバーストライン75までガイドされやすく、適切な位置から袋体41が飛び出してくるようにすることが可能である。
また、力布6がシートパッド3内に埋設される状態であるため、力布6がシートパッド3により固定されやすい上、力布6が乗物用シート1の意匠に影響することを抑制することが可能となる。
また、シートカバー7、シートパッド3及び力布6を一体化して製造するため、シートパッド3を成形した後に、シートパッド3をシートカバー7で被覆する必要性がない。
また、第1の力布61は、その端部をシートパッド3内に埋設して固定し、第2の力布62の端部はシートフレーム5に結合しているため、いずれの力布61,62も変位しにくくなり、バーストライン75から袋体41が適切に展開することが可能となる。
【0019】
以上、一つの実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態のほか、その他各種の形態で実施可能なものである。
例えば、力布の端部はシートカバーに接続しているが、シートカバーに接続しない構成とすることも可能である。この場合においてもバーストライン近傍まで力布が位置するように配置するほうが力布の効果を発揮しやすくなる。
また、シートパッドは、ウレタンを発泡して成形する必要性は無く、その他の公知の樹脂を採用することが可能である。
また、実施の形態においては、シートバックのドア側端部に装着したエアバッグモジュールから袋体が飛び出てくる形態であるが、その他の部位にエアバッグモジュールを配置しても良く、力布の配置は、エアバッグモジュールの位置にあわせて変更することが可能である。例えば、シートクッション内にエアバッグモジュールを配置して、シートクッション外へ適切に袋体が展開できるように力布を配置することも可能である。
また、シートカバーとシートパッドが一体成形されている必要は無く、成形されたシートパッドに対して後からシートカバーを被せる構成としても良い。
また、実施の形態においては、前面サイド部側に一つの力布を配置し、側面部側に一つの力布を配置しているが、前面サイド部側にも側面部側にも複数の力布を配置することも可能である。また、前面サイド部側の力布の数と、側面部側の力布の数と、は等しいものとしないことも可能である。
また、実施の形態においては、側面部側に配置した力布の他端はシートフレームに取り付けているが、側面部側の剛性度が高ければ、当該部位の力布の他端をシートフレームに取り付けない構成とすることも可能である。
また、本実施の形態においては、前面サイド部と側面部とを縫製した部分をバーストラインとしているが、バーストラインは縫製して形成する必要性は無く、他の部分より厚みを薄くしたりすることなどにより、他の部分よりも脆弱な部分とすることで、バーストラインを形成しても良い。
また、本実施の形態のシートカバーにおいては、主面部と前面サイド部は別体のものを一体化して形成しているが、主面部と前面サイド部が1枚のシートにより形成されているものとしても良く、そのような場合においては、1枚の布状体において、主に乗員が接することになり乗物用シートの中心軸を跨ぐように位置する部分が主面部であり、そこから斜め前方に張り出している部分が前面サイド部である。同様に、前面サイド部と側面部が一枚の布状体で形成されていても良い。
また、側面部側には力布を設けず、剛性のある板状部材などを配置することで側面部側において、袋体の膨出方向を規制するものとすることも可能である。
また、袋体がシートを破って出てこない形態のシートに対しても適応可能であり、シート内部の所望の箇所で膨らむように、力布を配設することも可能となり得る。
また、乗物としては、車両であることに限らず、空中を飛行する乗物や、海面や海中などを移動する乗物としてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1 乗物用シート
2 シートバック
3 シートパッド
4 エアバッグモジュール
5 シートフレーム
6 力布
7 シートカバー
8 車体
9 シートクッション
31 裏面材
41 袋体
61 第1の力布
62 第2の力布
71 主面部
72 前面サイド部
73 側面部
74 後面部
75 バーストライン
78 表皮
79 裏基布
81 ドア
82 ピラー
91 固定具
H 乗員
C 中心軸
図1
図2
図3
図4