(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、安全性及び環境保護の観点から、ガソリン等の燃料に接触する燃料系部品には、強度、柔軟性等の機械的特性と高い耐透過性とが要求されている。また、例えば、自動車の燃料供給口と燃料タンクとを接続するチューブ中をガソリンが高速に流れる場合、ガソリンとチューブ内壁との摩擦によって静電荷が生じ、それが蓄積し、その放電時の火花が燃料に引火し、火災が発生するという危険がある。これを防止するため、燃料系部品である燃料供給口やチューブには、内壁に導電性を付与することが行なわれている。
【0003】
導電性を付与するためには、カーボンブラック、ガーボンファイバー等の導体を添加して部品材料の表面抵抗率を低くすることが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、内側から外側へ向かって層(1)表面抵抗率を10
6Ω以下にする導電性カーボンブラックを分散させたポリアミド又はポリアミドをマトリクスとするポリアミド/ポリオレフィン混合物から成る内層、(2)導電性カーボンブラックを含まないか、導電上有意な量のカーボンブラックを含まないポリアミド又はポリアミドをマトリクスとするポリアミド/ポリオレフィン混合物から成る中間層、(3)結合層及び(4)ポリアミドの外層を有するポリアミドベースの多層チューブが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂、及び平均繊維径が50〜130nmの気相法炭素繊維を含有し、体積抵抗値が1×10
8Ωcm以下であり、かつ引張破断伸びが熱可塑性樹脂単体の引張破断伸びの80%以上であることを特徴とする燃料チューブ用導電性熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、車両部品に使用することができる、(A)ポリアミド、(B)ポリフェニレンエーテル、(C)ゴム状重合体、(D)導電フィラー、及び(E)固め見掛け密度が0.50〜0.80g/cm
3で、固め見掛け密度/ゆるめ見掛け密度の比が2.50〜3.50のワラストナイトを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0007】
特許文献4には、導電性フィルムに使用することができる、(イ)ポリオレフィン系樹脂を1〜99質量部、(ロ)水添系熱可塑性エラストマーを99〜1質量部(但し、(イ)+(ロ)=100質量部)、及び、(ハ)導電性フィラーを1〜100質量部含み、かつ、体積固有抵抗値が10
3Ω・cm以下であることを特徴とする導電性組成物が開示されている。
【0008】
一方、熱可塑性樹脂に導電性を付与する技術として、多くの技術が開示されている。例えば、特許文献5には、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン及びポリプロピレンから選択される一種若しくは二種以上のポリオレフィン樹脂に導電性カーボンブラックを配合せしめて成る導電性樹脂組成物において、前記組成物に更に直鎖低密度ポリエチレン又はブチルゴムを配合し、スウェリング比が特定値以上となるようにしたブロー成形用導電性樹脂組成物が開示されている。
【0009】
また、特許文献6及び特許文献7)には、(a)メルトフローレート(MFR)が10g/10min以上のポリオレフィン系熱可塑性樹脂と(b)導電性カーボンブラックを必須構成成分とし、該導電性カーボンブラックのDBP吸油量が特定量であり、かつ導電性カーボンブラックの含有量が、成分(a)と(b)の合計量100重量部に対して特定量である導電性ポリオレフィンマスターバッチが開示されている。
【0010】
特許文献8には、カーボンブラック、グラファイト、金属粉、金属フレーク及び金属酸化物よりなる群より選ばれる少なくとも1種以上の導電性フィラーを熱可塑性樹脂(A)中に分散せしめてなる導電性樹脂組成物(1)を、前記熱可塑性樹脂(A)とは異なる熱可塑性樹脂(B)中に分散せしめたことを特徴とする、製品間及び製品内の抵抗値のばらつきの少ない、ある程度高抵抗の導電性樹脂組成物(2)を安定して得ることが開示されている。
【0011】
特許文献9には、樹脂及びナノスケールカーボンチューブを含有する樹脂組成物、導電性ないし制電性の樹脂成形体、樹脂皮膜等であって、(A)該ナノスケールカーボンチューブの最外面を構成する炭素網面の長さが500nm以下であり、(B)樹脂組成物、樹脂成形体、樹脂皮膜等が、ナノスケールカーボンチューブの凝集物を実質的に含有しておらず、ナノスケールカーボンチューブが系全体に亘って均一に分散しており、好ましくは、(C)均一に分散しているナノスケールカーボンチューブが相互に接触又は接近した状態で存在している樹脂組成物、導電性ないし制電性の樹脂成形体、樹脂被膜等が開示されている。
【0012】
特許文献10には、単壁炭素ナノチューブ(SWNT)又は多壁炭素ナノチューブ(MWNT)で補強されていて溶融状態における混合で調製された補強重合体材料であって、前記炭素ナノチューブが支持体粒子も触媒粒子も含有せず、この補強された重合体材料が向上した電気特性と機械的特性を同時に示すことを特徴とする補強重合体材料が開示されている。
【0013】
しかしながら、ポリオレフィン系材料の場合、比表面積が大きく表面エネルギーが高いカーボンブラック等の導電性フィラーとの相溶性が悪いため、凝集体を生成しやすく、樹脂中での導電性フィラーの分散性が悪くなってしまう。また、射出成形による成形品の導電性能は圧縮成形での成形品と比較して、悪化してしまう。その結果として、樹脂中に多量にカーボンブラック等の導電性フィラーを配合する必要があった。そのために大幅な粘度の上昇による射出成形性の悪化や機械的強度、耐久性の低下という問題点を有しており、それらの問題点は必ずしも充分に解決されているわけではなく、さらなる改良が必要とされている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、ポリエチレン(A)92重量%を超え96重量%以下及び導電性フィラー(B)8重量%未満4重量%以上とからなり、特定の要件を満足することを特徴とする射出用導電性ポリエチレン組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)及びその成形体に関する。
以下、本発明の組成物、本発明に用いられる各成分及び材料組成物等について、詳細に説明する。
【0023】
1.射出成形用導電性ポリエチレン組成物
(1)組成物の密度
本発明の組成物は、JIS K6922−1及び2(1997)に準拠して測定される密度が0.950〜1.020g/cm
3、好ましくは0.960〜1.010g/cm
3、更に好ましくは0.980〜0.990g/cm
3である。組成物の密度が0.950g/cm
3未満であると、成形品の剛性不足の顕在化及び60℃ガソリン浸漬試験前後での寸法・外観変化が著しくなる。一方、1.020g/cm
3を超えると、長期性能が不足する傾向がある。
組成物の密度は、組成物を構成するポリエチレン(A)の密度を大きくするか、導電性フィラー(B)の含有割合を大きくすることによって調節することができる。
【0024】
(2)組成物のHLMFR
本発明の組成物は、JIS K6922−2(1997)に準拠した温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)が5.0〜50g/10分、好ましくは10.0g/10分を超え50g/10分以下である。
HLMFRが5.0g/10分未満であると、射出成形時の流動加工特性が低下する。また流動性が不足すると射出成形品の導電性能において満足する結果を得られない。50g/10分を超えると部品の耐衝撃性等の機械特性が低下する。
組成物のHLMFRは、組成物を構成するポリエチレン(A)のHLMFRを大きくすることで大きくすることができる。また、導電性フィラー(B)の含有割合を小さくすることによっても組成物のHLMFRを大きくすることができる。
【0025】
(3)組成物の引張破壊呼びひずみ
本発明の組成物は、引張試験による引張破壊呼びひずみが100%以上であり、好ましくは200%以上であり、さらに好ましくは400%以上である。
組成物の引張破壊呼びひずみが100%未満であると、成形品が破損するおそれがあり好ましくない。
また、組成物の引張破壊呼びひずみは、導電性フィラー(B)の含有割合を小さくすることによって大きくすることができる。
なお、引張破壊呼びひずみは以下の方法により測定される値である。
(試験片の作成) 各実施例及び各比較例のペレットを、寸法:150mm×150mm、厚さ2mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度190℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで樹脂を溶融すると共に溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。その後、4.9MPaの圧力をかけた状態で、10℃/分の速度で徐々に冷却し、温度が室温付近まで低下したところでモールドから成形板を取り出した。得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、状態調節した。状態調節後のプレス板からJIS K7113(1995)に記載の2号試験片の形状に打ち抜き、引張試験サンプルとする。
(引張破壊呼びひずみの測定) 上記試験片を用い、JIS K7113(1995)に準じて、引張降伏強さ・引張破壊伸びを測定し、引張破壊呼びひずみの値とする。引張試験機として株式会社エーアンドディー社製のテンシロン(型式:RTG−1250)を用いることができる。引張速度は50mm/分で実施した。
【0026】
(4)組成物の−40℃のシャルピー衝撃強度
本発明の組成物は、−40℃のシャルピー衝撃強度が4.0kJ/m
2以上、好ましくは5.0kJ/m
2以上、さらに好ましくは6.0kJ/m
2以上である。
組成物の−40℃のシャルピー衝撃強度が4.0kJ/m
2未満であると、成形品の衝撃強度の不足が顕在化するおそれがあり好ましくない。
ここで、−40℃のシャルピー衝撃強度は、JIS K6922−2(1997)「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び諸性質の求め方」に準拠して試験片を作成し、JIS K7111(1996)「プラスチック−シャルピー衝撃強さの試験方法」に準じて測定される値である。
−40℃のシャルピー衝撃強度は、エチレン系重合体の分子量を上げるか、分子量分布を狭くすることにより、大きくすることができる。
【0027】
(5)組成物のフルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間
本発明の組成物は、フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間が50時間以上、好ましくは80時間以上、さらに好ましくは100時間以上である。フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間が50時間未満では、成形品の耐久性が不足する。
フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間は、JIS K6774(1995)「ガス用ポリエチレン管」の付属書1の全周ノッチ式引張クリープ試験に準拠し、80℃、6MPaで測定される値である。試験片は、JIS K6922−2(1997)「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び諸性質の求め方」の表2の条件で作成した厚さ6mmで圧縮成形シートから切出し、全周にノッチを入れたもの(試験片厚み6mm、ノッチ深さ1mm、全周)を使用する。
フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間は、組成物を構成するポリエチレン(A)の密度を小さくすることにより、大きくすることができる。
【0028】
(6)組成物の体積固有抵抗率及び表面固有抵抗率
本発明の組成物を用いた射出成形シートにおける体積固有抵抗率は、導電性の観点から、1Ω・cm以上1×10
7Ω・cm以下、表面固有抵抗率は1Ω/□以上1×10
8Ω/□以下である。好ましくは体積固有抵抗率が1Ω・cm以上1×10
6Ω・cm以下、表面固有抵抗率が1Ω/□以上1×10
7Ω/□以下である。体積固有抵抗率及び表面固有抵抗率は導電性フィラー(B)の含有割合に比例して低下する。
これらの体積固有抵抗率及び表面固有抵抗率の測定には、250℃射出成形機(ファナック社製)により成形した厚み2mmの平板シート(100mm×100mm)を用いた。体積及び表面固有抵抗率は、JIS K6911(1995)に準拠して、円電極法で印加電圧10Vの条件で測定した値である。測定にはエーデーシー社製高抵抗率計8340A及びチャンバー12702Aを用いることができる。
なお、体積固有抵抗率は、「a×10
bΩ・cm」を以下「aE+bΩ・cm」と表記することがある。また、表面固有抵抗率は、「a×10
bΩ/□」を以下「aE+bΩ/□」と表記することがある。
【0029】
2.ポリエチレン(A)
(1)ポリエチレン(A)の特性
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、射出成形用導電性ポリエチレン組成物に対して92重量%を超え96重量%以下含有される。本発明の組成物は、ポリエチレン(A)が含まれることにより、射出成形性、導電性、機械物性および耐久性とのバランスを獲得することができる。
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、エチレンの単独重合、又はエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィン、例えば、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等との共重合により得られる。また、改質を目的とする場合、ジエンとの共重合も可能である。このとき使用されるジエン化合物の例としては、ブタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。
なお、重合の際のコモノマー含有率は、任意に選択することができるが、例えば、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合の場合には、エチレン・α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量は0〜40モル%、好ましくは0〜30モル%である。
【0030】
(a)ポリエチレン(A)の密度
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、好ましくは密度が0.920〜0.960g/cm
3の範囲である。密度が0.920g/cm
3未満であると、成形品の剛性不足が顕在化し、また60℃におけるガソリン浸漬試験前後での寸法・外観変化が著しい。一方、0.960g/cm
3を超えると、長期耐久性などの長期性能が不足する。
ポリエチレン(A)の密度は、例えば、エチレンと共重合させるα−オレフィンの量を変化させることによって調節することができ、α−オレフィンの量を増加させると小さくすることができる。
なお、ポリエチレン(A)の密度は、JIS K6922−1及び2(1997)に準拠して測定される値である。
【0031】
(b)ポリエチレン(A)のHLMFR
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、好ましくはHLMFRが10〜70g/10分である。HLMFRが10g/10分未満であると、成形時に流動性が不足し、成形不安定な状態となり実用的では無い。HLMFRの上限値は、本発明の場合70g/10分である。
HLMFRは、エチレン重合中に共存させる連鎖移動剤(水素等)の量を変化させるか、重合温度を変化させることによって、調整することができ、水素の量を増加させる又は重合温度を高くすることにより、大きくすることができる。
即ち、エチレンとα−オレフィンとの重合温度を上げることにより分子量を下げて、結果としてHLMFRを大きくすることができ、重合温度を下げることにより分子量を上げて、結果としてHLMFRを小さくすることができる。また、エチレンとα−オレフィンとの共重合反応において共存させる水素量(連鎖移動剤量)を増加させることにより分子量を下げて、結果としてHLMFRを大きくすることができ、共存させる水素量(連鎖移動剤量)を減少させることにより分子量を上げて、結果としてHLMFRを小さくすることができる。
なお、ポリエチレン(A)のHLMFR(190℃、荷重21.6kg)は、JIS K6922−2(1997)に準拠して測定される値である。
【0032】
(c)ポリエチレン(A)の引張破壊呼びひずみ
本発明のポリエチレン(A)は、引張試験による引張破壊呼びひずみが好ましくは500%以上であり、好ましくは600%以上であり、さらに好ましくは700%以上である。ポリエチレン(A)の引張破壊呼びひずみが500%未満であると、成形品が破損するおそれがあり好ましくない。なお、ポリエチレン(A)の引張破壊呼びひずみは、上記組成物の引張破壊呼びひずみの測定方法と同様の方法で測定される値である。
本発明のポリエチレン(A)の引張破壊呼びひずみは、エチレン系重合体の分子量を大きくするか、密度を小さくすることによって大きくすることができる。
【0033】
(d)ポリエチレン(A)の−40℃のシャルピー衝撃強度
本発明のポリエチレン(A)は、−40℃のシャルピー衝撃強度が好ましくは5.0KJ/m
2以上であり、好ましくは6.0KJ/m
2以上であり、さらに好ましくは7.0KJ/m
2以上下である。−40℃のシャルピー衝撃強度が5.0KJ/m
2未満では、成形品の衝撃強度の不足が顕在化する。
ここで、−40℃のシャルピー衝撃強度は、JIS K6922−2(1997)「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び諸性質の求め方」に準拠して試験片を作成し、JIS K7111(1996)「プラスチック−シャルピー衝撃強さの試験方法」に準じて測定されるものである。
−40℃のシャルピー衝撃強度は、エチレン系重合体の分子量を上げるか、分子量分布を狭くすることにより、大きくすることができる。
【0034】
(e)ポリエチレン(A)のフルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間が好ましくは100時間以上、より好ましくは200時間以上、さらに好ましくは300時間以上である。フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間が100時間未満では、成形品の耐久性が不足する。
フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間は、JIS K6774(1995)「ガス用ポリエチレン管」の付属書1の全周ノッチ式引張クリープ試験に準拠し、80℃、6MPaで測定を行う。試験片は、JIS K6922−2(1997)「プラスチック−ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料−第2部:試験片の作り方及び諸性質の求め方」の表2の条件で作成した厚さ6mmで圧縮成形シートから切出し、全周にノッチを入れたもの(試験片厚み6mm、ノッチ深さ1mm、全周)を使用する。
フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間は、密度を小さくすることにより、長くすることができる。
【0035】
(2)ポリエチレン(A)の製造方法
本発明に使用されるポリエチレン(A)の重合触媒は、本発明の目的を損なわない限り、特に限定されないが、固体触媒である。固体触媒としてはチーグラー触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒等の各種触媒が挙げられるが遷移金属化合物を含有するオレフィン重合用の固体触媒として用いられるものであれば特に制限はない。遷移金属化合物としては、周期表第4族〜第10族、好ましくは第4族〜第6族の元素の化合物を使用することができ、具体例としては、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo等の化合物が挙げられる。
【0036】
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、気相重合法、溶液重合法、スラリー重合法などの製造プロセスにより製造することができる。エチレン系重合体の重合条件のうち重合温度としては、0〜300℃の範囲から選択することができる。重合圧力は、大気圧〜約100kg/cm
2の範囲から選択することができる。実質的に酸素、水等を断った状態でエチレン及びα−オレフィンの重合を行なうことにより製造することができる。
【0037】
本発明において、好ましく用いられるポリエチレン(A)としては、成形性等の関係からチーグラー触媒又はメタロセン触媒、クロム触媒を用いて製造されたものが好ましく、耐久性と耐衝撃性のバランスを考慮すると、チーグラー触媒を用いて製造されたものが更に好ましいポリエチレンとして挙げられる。
【0038】
本発明に用いられるポリエチレン(A)は、基本的には前述の要件を満たす重合体単独でもよいが、他の態様として、好ましくは、以下の2種以上のポリエチレン系重合体から構成されるものでもよい。2種以上のポリエチレン系重合体から構成されるポリエチレン(A)は、高分子量ポリエチレン成分(B)と低分子量ポリエチレン成分(C)を多段重合させたもの、あるいはブレンドした組成物である。
【0039】
高分子量ポリエチレン成分(B)は、(b1)密度0.915〜0.940g/cm
3、(b2)HLMFRが0.05〜10g/10分であるポリエチレン系重合体が好ましく、低分子量ポリエチレン成分(C)は、(c1)密度0.940〜0.970g/cm
3、(c2)温度190℃で荷重2.16kgにおいて測定されるメルトフローレート(MFR)が1〜300g/10分であるポリエチレン系重合体が好ましい。
【0040】
高分子量ポリエチレン成分(B)の配合割合は、23〜84重量%、好ましくは25〜80重量%であり、低分子量ポリエチレン成分(C)の配合割合は、77〜16重量%、好ましくは75〜20重量%である。
上記成分(B)が23重量%未満、成分(C)が77重量%を超える場合には、耐久性の改良効果が低下するおそれがあり、成分(B)が84重量%を超え、成分(C)が16重量%未満の場合では射出成形性が低下するおそれがある。
前記のような2種以上のポリエチレン系重合体から構成されるポリエチレン(A)は、例えば、特開2006−240648号公報や特開2008−114819号公報に記載された製造方法と同様の方法で製造することができる。
【0041】
上記の方法により得られるエチレン系重合体には、常法に従い、他のオレフィン系重合体やゴム等のほか、酸化防止剤(フェノール系、リン系、イオウ系)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、防曇剤、ブロッキング防止剤、加工助剤、着色顔料、パール顔料、光輝材、偏光パール顔料、架橋剤、発泡剤、中和剤、熱安定剤、結晶核剤、無機又は有機充填剤、難燃剤等の公知の添加剤を1種又は2種以上、適宜配合することができる。着色方法としてはベース樹脂に必要量添加したコンパウンドでも、高濃度添加したマスターバッチを後ブレンドしてもよい。
【0042】
3.導電性フィラー(B)
本発明に用いられる導電性フィラー(B)は、射出成形用導電性ポリエチレン組成物に対して8重量%未満4重量%以上含有される。本発明の組成物は、導電性フィラー(B)が特定量、とりわけ一般に使用される量よりも少量含まれることにより、優れた導電性を発揮することができる。
本発明に用いられる導電性フィラー(B)の組成割合は、組成物に対して8重量%未満4重量%以上、好ましくは7〜5重量%である。導電性フィラー(B)の含有量が4重量%未満では、充分な導電性を発揮することができず、一方、導電性フィラー(B)の含有量が8重量%以上では、部品の成形が難しくなるか、部品自体の物性が低下する傾向にある。
【0043】
(1)導電性フィラー(B)の特徴
本発明の導電性ポリエチレン組成物に用いられる導電性フィラー(B)は、カーボンナノチューブ、炭素繊維、金属粉末、金属酸化物粉末等が挙げられるが、好ましくは導電性カーボンナノチューブからなる群より選択されるものであり、更に好ましくは、気相成長炭素繊維である。
カーボンナノチューブの具体例としては、特表2005−520889号公報、特開2006−225648号公報等に記載のものが挙げられる。
本発明の導電性フィラー(B)は、特に限定されるものではないが、気相成長炭素繊維でその繊維径が5nm〜200nmであり、繊維長が1μm〜20μm、アスペクト比が5〜4000のものが好適である。
【0044】
(2)導電性フィラー(B)の作用効果
繊維状で繊維径が細くアスペクト比が高い気相成長炭素繊維は、同添加重量のカーボンブラックと比較して、樹脂中での導電性ネットワークを形成しやすくなる。よって繊維径が細くアスペクト比が高い気相成長炭素繊維は、少量の添加で所望の導電性を獲得可能となる。
【0045】
本発明において、導電性フィラー(B)は、特に比表面積が10〜50m
2/g、平均繊維径が50〜200nm、平均アスペクト比が65〜500であるものが好ましい。
比表面積はBET法で測定されるもので、比表面積が50m
2/gより大きくなると、気相法炭素繊維の表面エネルギーや凝集エネルギーが大きくなり、繊維同士の付着・凝集力が強くなるためポリエチレンへの分散性が低下し、導電性低下のみならず機械的強度の低下を招くおそれがある。
【0046】
導電性フィラー(B)の平均繊維径は、電子顕微鏡観察により測定することができ、平均繊維径が50nmより小さくなると表面エネルギーが指数関数的に大きくなり、繊維同士の凝集力が急激に増大し、単純な混練ではポリエチレン中に十分に分散させることができず、樹脂中に凝集物が点在し、効率的に導電ネットワークを形成することができない。また、このように分散不良により残留した凝集体は衝撃や荷重がかかったときに応力集中の場となり、樹脂組成物の破壊源となるおそれがある。
また、平均繊維径が200nmを超えると、所望の導電性を得るためにより多くの気相法炭素繊維を配合することが必要となり、機械的強度や他の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0047】
導電性フィラー(B)の平均アスペクト比は、繊維の直径に対する繊維の長さの割合であり、アスペクト比が500より大きくなると繊維同士の絡まり合いが一層強くなり、繊維の破断が起きない範囲の剪断力では繊維を一本、一本を十分解すことが困難になり、ポリエチレン中に残存する凝集粒子の割合が次第に大きくなり、効率的な導電のネットワークを形成することができなくなる傾向がある。また、アスペクト比が65より小さくなると、ポリエチレンへの分散性という観点においては良好であるが、逆に繊維が拡散しすぎて繊維同士の接触を保持することが難しくなる。
【0048】
4.任意成分
本発明の組成物には、任意の成分として、無機充填材を添加してもよい。無機充填材の具体例としては、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、ガラス繊維、大理石粉、セメント粉、粘土、長石、シリカもしくはガラス、フュームド(fumed)シリカ、三水化アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、硫酸バリウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、チタネート類、ガラス微細球、チョーク、金属粉(アルミニウム、銅、鉄、鉛など)、珪石、珪藻土、石膏、マイカ、クレー、アスベスト、酸化チタン等が挙げられる。
【0049】
5.成形
上記の射出成形用導電性ポリエチレン組成物は、常法に従い、必要に応じ各種添加剤を配合し、混練押出機、バンバリーミキサー等にて混練し、成形用材料とすることができる。また、ペレタイザーやホモジナイザー等による機械的な溶融混合によりペレット化した後、各種成形機により成形を行なって所望の成形品とすることもでき、特に、射出成形により好適に成形品を製造することができる。
【0050】
6.成形品
本発明の組成物は、各種の燃料系部品に成形することができる。例えば、自動車燃料系部品としては、燃料供給口、キャップ、フィラーチューブ、ブリーザーチューブ等が挙げられる。
【0051】
本発明の燃料部品用導電性ポリエチレン組成物は、大型容器のみならず、大型容器に取り付ける小部品、例えば工業薬品缶、ドラム缶においては蓋(キャップ)、内溶液供給口、又は取り出し口等の部品、燃料タンクにおいては、燃料タンク本体に溶着された燃料供給口、バルブ又は燃料ポンプ固定用蓋(キャップ)等の樹脂としても、好適に使用できる。この小部品とは、大型容器に溶着、ウェルドすることによって、大型容器に一体に取り付ける、取っ手、内溶液供給口、又は取り出し口等の役割を果たす中空パイプ状小部品、大型容器の開口部の補強部品、インレット、開口部ライナーのような各種部品を挙げることができる。
また、大型容器の蓋(キャップ)のような、大型容器のネジ山に取り付ける為の内面にネジ山を設けたキャップ、大型容器の口への単なるはめ込み式のキャップなど、いわゆる大型容器とは別体で取り扱われる多くの所定の形状に設計変更された小部品を、対象とすることができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に制約されるものではない。なお、実施例で用いた測定及び評価方法は以下の通りである。
【0053】
1.測定・評価方法
(1)密度:JIS K6922−1及び2(1997)に準じて測定した。
(2)温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR):JIS K6922−2:1997に準拠して測定した。また、温度190℃、荷重21.6kgにおけるメルトフローレート(HLMFR)は、JIS K6922−2(1997)に準拠して測定した。
(3)引張破壊呼びひずみ:JIS K7113(1995)に準じて、引張降伏強さ・引張破壊伸びを測定した。引張試験機として株式会社エーアンドディー社製のテンシロン(型式:RTG−1250)を用いた。引張速度は50mm/分で測定した。
(4)フルノッチクリープ試験(80℃、6MPaで測定)における破断時間:JIS K6774(1995)付属書1の全周ノッチ式引張クリープ試験に準拠し、80℃、6MPaで測定を行なった。試験片は、JIS K6922−2(1997)表2の条件で作成した厚さ6mmで圧縮成形シートから切出し、全周にノッチを入れたもの(試験片厚み6mm、ノッチ深さ1mm、全周)を使用した。
(5)体積固有抵抗率:射出成形(設定温度250℃、射出速度20mm/s)にて、厚み2mmの平板シート(100mm×100mm)を成形し、JIS K6911(1995)に準拠して、円電極法で印加電圧10Vの条件で、体積及び表面固有抵抗率を測定した。エーデーシー社製高抵抗率計8340A及びチャンバー12702Aを用いた。
(6)表面固有抵抗率:射出成形(設定温度250℃、射出速度20mm/s)にて、厚み2mmの平板シート(100mm×100mm)を成形し、JIS K6911(1995)に準拠して、円電極法で印加電圧10Vの条件で、体積及び表面固有抵抗率を測定した。エーデーシー社製高抵抗率計8340A及びチャンバー12702Aを用いた。
(7)−40℃のシャルピー衝撃強度:JIS K6922−2(1997)に準拠して試験片を作成し、JIS K7111(1996)に準じて測定した。
(8)スパイラルフロー長さ:射出成形性を評価するため、ファナック社製ROBOSHOT S−2000i 100B射出成形機を用い、設定温度210℃、射出速度10mm/秒、射出時間3秒、冷却時間10秒、保圧切替え位置7mm、射出圧力90MPaの条件で、ランナー側ゲート幅4mm、キャビティ側ゲート幅5mm、幅10mm、厚み2mm、最長流路長2000mmのアルキメデスのスパイラル流路を有する金型を用い、スパイラルフロー長さを測定し、基準値(12cm)以上を「○」、基準値(12cm)未満を「×」とした。
(9)ガソリン浸漬試験:燃料(ガソリン)に対する耐性を評価するため、シャルピーの測定に使用する試験片(シャルピー用ノッチなし角柱)と同じ試験片を使用し、ガソリン中に60℃、200時間放置後の外観変化を観察した。外観に変化がないものを「○」、変化があるものを「×」とした。
【0054】
2.使用した樹脂材料
(1)ポリエチレン
下記に示した所定の物性を有するポリエチレンを使用した。
PE−1:日本ポリエチレン社製ポリエチレンであるノバテックHD HE122R(密度=0.938g/cm
3、HLMFR=20g/10分)を使用した。
PE−2:日本ポリエチレン社製ポリエチレンであるノバテックHD HJ221(密度=0.949g/cm
3、HLMFR=13g/10分)を使用した。
PE−3:日本ポリエチレン社製ポリエチレンであるノバテックHD HB111R(密度=0.945g/cm
3、HLMFR=6g/10分)を使用した。
PE−4:日本ポリエチレン社製ポリエチレンであるノバテックHD HJ360(密度=0.951g/cm
3、HLMFR=160g/10分)を使用した。
PE−5:日本ポリエチレン社製ポリエチレンであるカーネル KF270(密度=0.907g/cm
3、HLMFR=50g/10分)を使用した。
PE−6:日本ポリエチレン社製ポリエチレンであるノバテックHD HB530RN(密度=0.960g/cm
3、HLMFR=65g/10分)を使用した。
【0055】
(2)導電性フィラー
導電性フィラーとして、以下のものを使用した。
CNT−1:昭和電工社製VGCF、繊維径150nm、繊維長10〜20μm、アスペクト比10〜500、比表面積13m
2/g
CB−1:ケッチェンブラックインターナショナル社製ケッチェンブラックEC300J、DBP吸着量=360ml/100g、比表面積800m
2/g
CB−2:電気化学社製アセチレンブラックHS−100、DBP吸着量=140ml/100g、比表面積39m
2/g
CB−3:Cabot社製バルカンブラックXC−72、DBP吸着量=174ml/100g、比表面積254m
2/g
【0056】
3.組成物の評価
[実施例1〜4、比較例1〜11]
(実施例1)
ポリエチレン(PE−1)95重量部、導電性フィラー(CNT−1)5重量部を2軸押出機で混練、210℃で押出してペレット化し、樹脂組成物を得た。得られた組成物は、前記測定・評価方法に記載した方法により、それぞれの性能評価を行なった。得られた結果を表1に示した。
【0057】
(実施例2〜4)
表1に記載された成分を用いて、実施例1の方法と同様に樹脂組成物を得た。得られた組成物は、前記測定・評価方法に記載した方法により、それぞれの性能評価を行なった。得られた結果を表1に示した。
【0058】
【表1】
【0059】
(比較例1〜11)
表2に記載された成分を用いて、実施例1の方法と同様に樹脂組成物を得た。得られた組成物は、前記測定・評価方法に記載した方法により、それぞれの性能評価を行なった。得られた結果を表2に示した。
【0060】
【表2】
【0061】
(実施例5)燃料系部品としての評価
実施例1と同じ組成物を使用し、250℃で溶融混合し、射出成形機(東芝機械社製IS150E)を用いて、成形温度250℃、金型温度40℃、冷却時間20秒の条件にて、断面が凹型で円柱状の蓋状部品(外径100mm、内径80mm、高さ50mm、深さ40mm、重量約192g)を成形した。この射出成形性は良好であった。
導電性は、この蓋状部品の上面を使用して、前記の表面固有抵抗率の測定方法に準じて、表面固有抵抗率を測定した。その結果、表面固有抵抗率は1×10
8Ω/□以下であり、この成形部品は、燃料系部品として使用が可能であった。
(比較例12)燃料系部品としての評価
同様に、比較例1と同じ組成物を用い、実施例5と同様に円柱状の蓋状部品の表面固有抵抗率を評価した結果、表面固有抵抗率は1×10
8Ω/□を超え、実施例5よりも導電性が低かった。