(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態に係る燃料電池システム100の概略構成を例示した説明図である。燃料電池システム100は、駆動用電源を供給するためのシステムとして、燃料電池自動車や電気自動車等に搭載されて使用される。燃料電池システム100は、酸化ガス供給排出部110と、燃料ガス供給排出部130と、燃料電池循環冷却部140と、負荷装置150と、制御装置160とを備えている。
【0014】
酸化ガス供給排出部110は、コンプレッサ111と、加湿部112と、酸化ガス供給流路113と、温度センサ114と、湿度センサ115と、流量センサ116と、酸化ガス排出流路117と、封止弁118と、圧力センサ119と、を備えている。酸化ガス供給排出部110は、燃料電池200のカソード側触媒層(以後、単に「カソード」とも呼ぶ)225に酸素を供給するために、コンプレッサ111から、酸化ガス供給流路113を介して、燃料電池200のカソードガス流路CGCに酸化ガス(酸素)を含む空気を供給する。カソードガス流路CGCに供給された空気は、カソード側拡散層237を介してカソード225に供給される。
【0015】
コンプレッサ111は、取り込んだ空気を任意の圧力で燃料電池200に向けて送り出すことができる。加湿部112は、酸化ガス供給流路113を介してコンプレッサ111から燃料電池200に供給される空気を加湿することができる。温度センサ114は、酸化ガス供給流路113を流通する空気の温度(カソードの入口温度)Tcin[℃]を検出する。湿度センサ115は、酸化ガス供給流路113を流通する空気の相対湿度(カソードの入口湿度)RHcin[%]を検出する。流量センサ116は、酸化ガス供給流路113を流通する空気の流量(カソードの入口流量)Fcin[l/s]を検出する。
【0016】
酸化ガス供給排出部110は、燃料電池200から排出された排気ガスを、酸化ガス排出流路117を介して燃料電池200の外部に排出する。封止弁118は、酸化ガス排出流路117を流れるガスの流量を調整可能に構成されている。圧力センサ119は、酸化ガス排出流路117の内部の圧力(カソードの出口圧力)Pcout[Pa]を検出する。酸化ガス供給排出部110は、コンプレッサ111による空気の供給流量や加湿部112による加湿量を調整することによって、カソードの内部を任意の湿度とすることができる。
【0017】
燃料ガス供給排出部130は、水素供給部131と、加湿部132と、燃料ガス供給流路133と、燃料ガス排出流路135と、を備えている。燃料ガス供給排出部130は、燃料電池200のアノード側触媒層(以後、単に「アノード」とも呼ぶ)224に水素を供給するために、水素供給部131から、燃料ガス供給流路133を介して、燃料電池200のアノードガス流路AGCに水素ガスを供給する。アノードガス流路AGCに供給された水素は、アノード側拡散層236を介してアノード224に供給される。水素供給部131は、水素タンクと、流量調整弁を含んで構成され、水素を任意の流量および圧力で燃料電池200に供給することができる。加湿部132は、燃料ガス供給流路133を介して水素供給部131から燃料電池200に供給される水素ガスを加湿することができる。また、燃料ガス供給排出部130は、燃料電池200のアノード224に供給された水素を含むガスを、燃料ガス排出流路135を介して、燃料電池200の外部に排出する。なお、燃料ガス供給排出部130は、燃料ガス排出流路135から排出されるガスを燃料ガス供給流路133に循環させる構成としてもよい。
【0018】
燃料電池循環冷却部140は、ラジエータ141と、温度センサ143と、冷媒循環ポンプ144と、冷媒供給流路145と、冷媒排出流路146とを備えている。ラジエータ141は、冷媒供給流路145を介して、冷却媒体を燃料電池200に供給するとともに、冷媒排出流路146を介して、燃料電池200の冷却に供された後の冷却媒体を受け取ることにより、冷却媒体を循環させて燃料電池200を冷却させる。冷却媒体としては、水、空気等を用いることができる。温度センサ143は、冷媒排出流路146の燃料電池200との接続部付近に設けられ、燃料電池200から流出する冷媒の温度(冷媒温度)Tfout[℃]を測定する。本実施形態では、冷媒温度Tfout[℃]を燃料電池200の内部温度(セル温度)Tcel[℃]および、カソード225の温度であるカソード温度Tca[℃]として使用する(Tfout=Tcel=Tca)。燃料電池循環冷却部140は、冷媒循環ポンプ144による冷却媒体の流通速度を調整することによって、カソードの内部の温度を調節することができる。
【0019】
負荷装置150は、燃料電池200の電気的特性を測定するための装置であり、例えば、電気化学系汎用ポテンシオガルバノスタットを含んで構成することができる。負荷装置150は、配線154、155によってアノード側セパレータ240とカソード側セパレータ250に電気的に接続されている。負荷装置150は、燃料電池200の発電時に燃料電池200を流れる電流Icel[A]と、燃料電池200の電圧(セル電圧)Ecel[V]を測定することができるほか、燃料電池200に所定の電圧を印加し、生じる電流を検出することにより燃料電池200のIV特性を測定することができる。
【0020】
制御装置160は、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とを備えるマイクロコンピュータを含んで構成されている。制御装置160は、燃料電池システム100の各構成要素と電気的に接続され、各構成要素から受け取る情報に基づいて、各構成要素の動作を制御する。また、制御装置160は、ROMに燃料電池システム100を制御するための図示しない制御プログラムが格納されている。CPUは、RAMを利用しながら制御プログラムを実行することにより、相関値取得部161と、被毒診断部163と、回復処理部165として機能する。また、ROMには、後述する被毒診断回復処理などに用いられる各種マップが格納されている。「被毒診断回復処理」とは、燃料電池200のカソード225の触媒被毒の程度を診断し、その診断結果に応じて触媒被毒を回復させる処理である。ここでの「触媒被毒」とは、カソード225において触媒として使用されているPtの表面がアニオン(例えば、硫酸イオン(SO
42-))によって覆われることで触媒活性が低下する状態をいう。この触媒被毒によって触媒は可逆的に劣化する。被毒診断部163は、この被毒診断回復処理のうち、カソード225の触媒被毒の程度を診断する被毒診断処理をおこなう。回復処理部165は、被毒診断回復処理のうち、触媒被毒を回復させる回復処理をおこなう。被毒診断回復処理の内容については後述する。
【0021】
燃料電池200は、酸化ガス供給排出部110から供給された酸化ガス(空気に含まれる酸素)と、燃料ガス供給排出部130から供給された燃料ガス(水素)との電気化学反応によって発電をおこなう。ここでは、燃料電池200は、1つの燃料電池セルであるものとして説明する。燃料電池200は、電解質膜221の各面に触媒電極層であるアノード224およびカソード225が形成された膜電極接合体(MEAとも呼ばれる)220を備えている。燃料電池200は、このMEA220の両側に一対のガス拡散層(アノード側拡散層236およびカソード側拡散層237)を配置した発電体230と、発電体230を挟持する一対のセパレータ(アノード側セパレータ240およびカソード側セパレータ250)とを含んで構成されている。
【0022】
電解質膜221は、フッ素系樹脂材料あるいは炭化水素系樹脂材料で形成された固体高分子膜であり、湿潤状態において良好なプロトン導電性を有する。アノード224、および、カソード225は、例えば、電気化学反応を進行する触媒金属(ここではPt)を担持したカーボン粒子(触媒担持担体)と、プロトン伝導性を有する高分子電解質(例えばフッ素系樹脂)を含んで構成されている。以下では、アノード224とカソード225をまとめて、単に触媒層とも呼ぶ。アノード側拡散層236およびカソード側拡散層237は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパなどの多孔質カーボン製部材により形成される。アノード側拡散層236およびカソード側拡散層237は、MEA220と接触する面に撥水層を備えていてもよい。
【0023】
アノード側セパレータ240およびカソード側セパレータ250は、ガス遮断性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボン等のカーボン製部材や、プレス成形したステンレス鋼などの金属部材によって形成されている。アノード側セパレータ240およびカソード側セパレータ250は、表面にガスや液体が流通する流路を形成するための凹凸形状を有している。アノード側セパレータ240は、アノード側拡散層236との間に、ガスや液体が流通可能なアノードガス流路AGCを形成している。カソード側セパレータ250は、カソード側拡散層237との間に、ガスや液体が流通可能なカソードガス流路CGCを形成している。
【0024】
図2は、第1実施形態の被毒診断回復処理の手順を例示したフローチャートである。始めに、制御装置160は、被毒診断処理を実行するタイミングとして予め設定されている条件(診断開始条件)を満たしているか否かの判断をおこなう(ステップS110)。診断開始条件としては、任意の条件を設定することができる。例えば、燃料電池200の内部温度(セル温度)Tcelが閾値Th1以上(Tcel≧Th1)となった状態が所定時間以上(例えば、1時間以上)継続したときや、燃料電池システム100の始動時や停止時、前回の被毒診断回復処理から一定期間経過したとき等を例示することができる。制御装置160は、診断開始条件を満たすまで、ステップS110の処理を繰り返す(ステップS110:NO)。
【0025】
制御装置160は、診断開始条件を満たしていると判断すると(ステップS110:YES)、被毒診断処理を開始する(ステップS120)。被毒診断処理では、被毒診断部163によって、カソード225に生じている触媒被毒の程度が回復処理を必要とする程度か否かが診断される。被毒診断処理が開始されると、まず、制御装置160の相関値取得部161は、カソード湿度相関値CVhを取得する。「カソード湿度相関値CVh」とは、カソード225の湿度と相関するパラメータであり、ここでは、その一例として、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaから推定されるカソード湿度RHca[%]を使用する。湿度センサ115から取得される入口湿度RHcinは、カソード225に流入する水の量ΔWinに相関している。負荷装置150から取得される燃料電池200の電流Icelは、燃料電池200の内部で生じる生成水の量ΔWgeに相関している。また、温度センサ114から取得されるカソード温度Tcaは、カソード225付近の飽和水蒸気圧Pswvと相関している。よって、流入水量ΔWinと、生成水量ΔWgeと、カソードから排出される水の量としての設定値である排出水量ΔWlosから、カソード225の内部の水の増加量(ΔWin+ΔWge−ΔWlos)を推定し、推定した水の量とカソード225付近の飽和水蒸気圧と既知のカソード225の流路体積からカソード225の湿度を推定することができる。本実施形態では、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaと、カソード湿度RHcaとの対応関係を示したマップが定義されており、このマップを使用することによって、被毒診断部163は、入口湿度RHcinと、電流Icelと、カソード温度Tcaから、カソード湿度RHcaを推定する。
【0026】
なお、カソード湿度相関値CVhとしては、カソード湿度RHcaのほかに、酸化ガス排出流路117の内部の相対湿度(出口湿度)RHcout[%]や、カソードストイキ比RST[−]、燃料電池200の内部温度(セル温度)Tcel[℃]、酸化ガス供給流路113の内部の露点温度(入口露点温度)DTcin[℃]等であってもよい。「出口湿度RHcout」は、入口湿度RHcinと、電流Icelと、セル温度Tcel(=Tca)から算出することができる。また、出口湿度RHcoutは、酸化ガス排出流路117に湿度センサが備えられていれば、このセンサの検出値としてもよい。「カソードストイキ比RST」とは、酸化ガスとしての酸素のストイキ比であり、燃料電池200が必要とする酸素の理論値に対する、実際の酸素の供給量の比率である。空気に含まれる酸素の量は一定なので、カソードストイキ比RSTは、酸化ガス供給流路113を流通する空気の流量(入口流量)Fcin[l/s]と、燃料電池200を流れる電流Icel[A]から算出することができる。通常の運転では、カソードストイキ比RSTは、1.5程度に設定される。「入口露点温度DTcin」は、酸化ガス供給流路113の内部の水蒸気圧を飽和水蒸気圧としたときの温度であり、入口湿度RHcin[%]と入口温度Tcin[℃]から算出することができる。
【0027】
被毒診断部163は、カソード湿度RHcaを低下(乾燥)させたときの出力電圧相関値CVvの低下量ΔCVvから回復処理が必要か否かを判定する(ステップS130)。「出力電圧相関値CVv」とは、燃料電池200の電圧(セル電圧)Ecel[V]と相関するパラメータであり、セル電圧Ecel[V]のほか、セル抵抗Rcel等を例示することができる。本実施形態では、出力電圧相関値CVvとして、負荷装置150によって検出されるセル電圧Ecelを使用する。この出力電圧相関値CVvとしてのセル電圧Ecelは、相関値取得部161によって取得される。制御装置160は、カソード湿度相関値CVhを変更可能に構成されている。ここでは、制御装置160は、加湿部112の制御による入口湿度RHcinの増減、水素供給部131およびコンプレッサ111の制御による電流Icelの増減、燃料電池循環冷却部140の制御によるカソード温度Tcaの増減の少なくとも1つを実行することによってカソード温度Tcaを変更可能に構成されている。
【0028】
図3は、触媒被毒の程度の異なる2つの燃料電池のカソード湿度RHcaとセル電圧Ecelとの関係を例示した説明図である。
図3の横軸は、カソード湿度RHca[%]であり、縦軸は、燃料電池のセル電圧Ecel[V]である。
図3には、カソード225の触媒被毒の程度が相対的に小さい燃料電池のカソード湿度RHcaとセル電圧Ecelとの関係(RHca-Ecel特性)を○(白丸)で示し、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池のRHca-Ecel特性を△(三角)で示している。
図3からわかるように、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときのセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることがわかる。そのため、本実施形態の被毒診断部163は、以下の方法によって、燃料電池の触媒被毒の程度を判定する。
【0029】
まず、相関値取得部161は、カソード湿度RHca[%]が第1の値RHca1[%](例えば、80[%])となっているときのセル電圧Ecel1[V]と、第1の値よりもカソード湿度が低い第2の値RHca2[%](例えば、20[%]、RHca1>RHca2)となっているときのセル電圧Ecel2[V]をそれぞれ検出する。被毒診断部163は、検出したセル電圧Ecel1[V]とセル電圧Ecel2[V]との差であるセル電圧差分値ΔEcel(ΔEcel=Ecel1−Ecel2)を算出する。セル電圧差分値ΔEcelは、カソード湿度RHcaの低下(乾燥)による発電性能の低下量を示している。被毒診断部163は、このセル電圧差分値ΔEcelが予め設定されている閾値Th2以上のとき(ΔEcel>Th2)に、触媒被毒の程度が回復処理の必要な程度であると診断する。
【0030】
本実施形態では、カソード湿度RHcaの第1の値として、RHca1=80[%]が設定され、第2の値として、RHca2=20[%]が設定されているが、第1の値RHca1と第2の値RHca2は、上記に限定されず任意の値とすることができる。なお、第1の値RHca1と第2の値RHca2は、具体的に特定する必要がなく、カソード湿度RHcaが一定量増減すればよいため、カソード湿度RHca以外のカソード湿度相関値CVhを使用して第1の値と第2の値を設定してもよい。また同様に、セル電圧差分値ΔEcelは、具体的に値を特定する必要がなく、相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係がわかればよいため、セル電圧Ecel[V]以外の出力電圧相関値CVvを測定し、その差分値ΔCVvから相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係を推定してもよい。
【0031】
カソード225の触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときの性能低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなる理由の一つとして以下の理由が考えられる。Ptの触媒表面に対するH
20とSO
42-の吸着特性に関して、カソードが低電位のときには、H
20の吸着がSO
42-の吸着よりも優勢となり、SO
42-の吸着が抑制されることが知られている。このことから、カソード内の水の活量が増加すると、Pt触媒表面に対するSO
42-の吸着量が減少すると考えられる。一方、カソード湿度RHcaが低下して乾燥状態に近づくと、カソード内の水の活量が減少し、Pt触媒表面に対するSO
42-の吸着量が増加するため、性能低下量が相対的に大きくなると考えられる。
【0032】
図2に戻り、被毒診断部163によって触媒被毒の程度が、回復処理が必要な程度であると診断されると(ステップS130:YES)、回復処理部165は、触媒被毒を回復させるための回復処理をおこなう(ステップS140)。上述したように、カソードが低電位のときには、Pt触媒表面へのSO
42-の吸着が抑制されるため、回復処理としては、カソード225を低電位(例えば、0.4V以下)にし、かつ、カソード225内の湿度が100%となるような処理をおこなう。具体的には、以下の処理を例示することができる。
(1)アノードに水素ガス、カソードに加湿した窒素ガスを流す処理のように、カソードが低電位となり、カソード内の液水が多くなるような処理。
(2)カソードストイキ比RSTを1.2〜2.0とした大電流発電のように、カソードが低電位となり、生成水によってカソード内の液水が多くなるような発電。
(3)カソードストイキ比RSTを1.2以下とした低効率発電のように、カソードが低電位となり、カソード内の液水の排出が抑制されるような発電。
(4)カソードに酸化ガスの供給を停止させた状態でカソードを低電位にする履歴を与えた後にカソード内の液水が多くなるような発電。
「カソード内の液水が多くなる発電」としては、(a)セル温度Tcel[℃]を低下させる、(b)要求出力よりも発電量を大きくする、(c)カソードストイキ比RSTを低下させる、(d)カソード225の背圧を高くする、(e)入口露点温度DTcinを上昇させる、(f)カソード225に供給する空気の温度を低下させる等があり、これらの1つ以上をおこなうことによってカソード225内の液水の量を増加させることができる。なお、(b)要求出力よりも発電量を大きくする場合には、余剰電力は図示しないバッテリーに蓄電するか、図示しない抵抗によって消費することが好ましい。
【0033】
図4は、回復処理前後の燃料電池のカソード湿度RHcaとセル電圧Ecelとの関係を例示した説明図である。
図4の横軸は、カソード湿度RHca[%]であり、縦軸は、燃料電池のセル電圧Ecel[V]である。
図4には、触媒被毒が発生している燃料電池の回復処理前のRHca-Ecel特性を△(三角)で示し、回復処理後のRHca-Ecel特性を■(四角)で示している。
図4からわかるように、回復処理をおこなうことによって、カソード湿度RHcaの全域にわたってセル電圧Ecelを向上させることができる。特に、カソード湿度RHcaが低いときのセル電圧Ecelを大きく向上させることができる。すなわち、回復処理によって、RHca-Ecel特性を被毒が発生する前の状態(
図3の○で示す特性)に近づける(回復させる)ことができる。
【0034】
以上説明した第1実施形態に係る燃料電池システム100によれば、被毒診断処理(
図2、ステップS120)によって、アニオンによる触媒被毒を容易に検出することができる。また、触媒の劣化の内容が、アニオンによる触媒被毒と特定することができるため、アニオンによる触媒被毒に対応した回復処理(
図2、ステップS140)をおこなうことによって、燃料電池200の発電性能を効果的に回復させることができる。例えば、触媒劣化を生じさせる他の要因であるPt酸化被膜は、カソード電位が低電位となるような発電をおこなうことで除去できるが、アニオンによる触媒被毒は、低湿度条件でカソード電位が低電位となるような発電をおこなっても回復させることはできず、液水の多い発電をおこなう必要がある。燃料電池システム100は、アニオンによる触媒被毒と、他の触媒劣化要因とを区別することができるため、回復処理において、アニオンによる触媒被毒を除去するために特化した処理をおこなうことができ、燃料電池の発電性能を効果的に回復させることができる。また、本実施形態の燃料電池システム100によれば、被毒判定処理を燃料電池の運転中(発電中)におこなうことができる。すなわち、本実施形態の燃料電池システム100は、被毒診断処理のために、運転(発電)を停止させなくてもよい。また、本実施形態の燃料電池システム100によれば、触媒被毒を診断するための特別な装置を付加する必要がないため、燃料電池システムの大型化や複雑化を抑制することができる。
【0035】
B.第2実施形態:
第1実施形態の被毒診断処理(
図2、ステップS120)では、カソード湿度相関値CVhとしてのカソード湿度RHcaを第1の値RHca1から第2の値RHca2に変化させたときのセル電圧Ecelの変化量(セル電圧差分値ΔEcel)を用いて回復処理が必要か否かを診断するものとして説明した。しかし、被毒診断処理は、上記の方法に限定されず、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときのセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることを利用して触媒被毒の程度を推定する種々の方法によって実現することができる。その一例として、第2実施形態の被毒診断処理では、カソード湿度相関値CVhを瞬時に変化させたときのセル電圧Ecelの変化量(傾き)から回復処理が必要か否かを診断する。ここでは、カソード湿度相関値CVhとしてカソードストイキ比RSTを使用する。
【0036】
図5は、触媒被毒の程度の異なる2つの燃料電池のカソードストイキ比RSTを瞬時に変化させたときのセル電圧Ecelの変化を例示した説明図である。
図5の横軸は、時間t[min]であり、縦軸は、燃料電池200のセル電圧Ecel[V] およびカソードストイキ比RSTである。
図5には、触媒被毒の程度が相対的に小さい燃料電池のセル電圧Ecelの時間的変化を実線で示し、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池のセル電圧Ecelの時間的変化を破線で示している。また、この2つの燃料電池のカソードストイキ比RSTの時間的変化を2点鎖線で示している。
図5からわかるように、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソードストイキ比RSTを瞬時に変化させた後(t
0以降)のセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることがわかる。そのため、第2実施形態の被毒診断部163は、以下の方法によって、燃料電池の触媒被毒の程度を判定する。
【0037】
まず、制御装置160は、基準時間t
0(ここでは、t
0=5[min])にカソードストイキ比RSTを瞬間的に変化(ここでは、RST=2→4)させる。ここでの「瞬間的に」とは、例えば5秒程度を例示することができるが、変化に要する時間が毎回の診断ごとに変化しなければ、特に時間の長さについては限定されない。相関値取得部161は、基準時間t
0から所定の時間経った後の第1の時間t
1(例えば、t
1=6[min])におけるセル電圧Ecel1[V]と、第1の時間からさらに所定の時間経った後の第2の時間t
2(例えば、t
2=8[min])におけるセル電圧Ecel2[V]をそれぞれ検出する。被毒診断部163は、検出したセル電圧Ecel1[V]とセル電圧Ecel2[V]との差であるセル電圧差分値ΔEcel(ΔEcel=Ecel1−Ecel2)を算出し、算出したセル電圧差分値ΔEcelが予め設定されている閾値Th3以上のとき(ΔEcel>Th3)に、触媒被毒の程度が回復処理の必要な程度であると診断する。
【0038】
本実施形態では、第1の時間t
1として、基準時間t
0から1[min]後の時間が設定され、第2の時間t
2として、第1の時間から2[min]後の時間が設定されているが、第1の時間t
1と第2の時間t
2は、上記に限定されず任意のタイミングとすることができる。なお、基準時間t
0におけるカソードストイキ比RSTの変化量は、具体的に特定する必要がなく、カソード湿度RHcaが一定量増減すればよいため、カソードストイキ比RST以外のカソード湿度相関値CVhを瞬時に変化させてもよい。例えば、基準時間t
0に入口湿度RHcinや入口露点温度DTcinを瞬時に変化させてもよい。また同様に、セル電圧差分値ΔEcelは、具体的に値を特定する必要がなく、相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係がわかればよいため、セル電圧Ecel[V]以外の出力電圧相関値CVvを測定し、その差分値ΔCVvから相対的なセル電圧差分値ΔEcelの大小関係を推定してもよい。
【0039】
以上説明した第2実施形態に係る燃料電池システムによれば、被毒診断処理は、第1実施形態の構成に限定されないことがわかる。すなわち、被毒診断処理は、カソード湿度相関値CVhを第1の値から第2の値に変化させたときのセル電圧Ecelの変化量(セル電圧差分値ΔEcel)を用いて触媒被毒の程度を推定する方法に限定されないことがわかる。被毒診断処理は、触媒被毒の程度が大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときのセル電圧Ecelの低下量(低下割合)が大きくなることを利用して触媒被毒の程度を推定する種々の方法によって実現することができる。
【0040】
C.実施例:
以下では、上述した効果を確認するために、耐久性試験によって触媒を被毒させた燃料電池セルと、耐久性試験をおこなっていない燃料電池セルと、耐久性試験後に回復処理をおこなった燃料電池セルの3つのサンプルを用意した。各燃料電池セルのカソードにはPtCo触媒を使用し、アノードにはPt触媒を使用した。各燃料電池セルの製造方法としては、まず、触媒とナフィオンとを混合したがインクを作製し、転写法にてナフィオン系電解質膜に熱プレスしてMEAを作成した。作成したMEAをガス拡散層で挟み込んで燃料電池セルを作製した。
【0041】
耐久試験では、カソード温度Tcaを70℃にした状態で、0.6V〜0.9Vの発電電位変動耐久をおこなった。また、回復処理では、カソード温度Tcaを70℃にし、アノードに水素ガス、カソードに加湿した窒素ガスを流すフル加湿パージ運転をおこなった。これらの3つのサンプル(耐久試験前燃料電池セル♯1、耐久試験後燃料電池セル♯2、回復処理後燃料電池セル♯3)のそれぞれについてのIV特性、ストイキ比特性、セル温度特性、入口露点温度特性を評価した。以下では、「耐久試験前燃料電池セル♯1」、「耐久試験後燃料電池セル♯2」、および、「回復処理後燃料電池セル♯3」をそれぞれ、「サンプル♯1」、「サンプル♯2」、および、「サンプル♯3」とも呼ぶ。
【0042】
図6は、各サンプルのIV特性を示した説明図である。
図6の横軸は、各サンプル♯1〜♯3の電流密度Id[A/cm
2]であり、縦軸は、各サンプル♯1〜♯3のセル電圧Ecel[V]である。各サンプルのIV特性は、電流密度Idを2.0[A/cm
2]、1.7[A/cm
2]、1.5[A/cm
2]、1.1[A/cm
2]、1.0[A/cm
2]、0.7[A/cm
2]、0.5[A/cm
2]、0.3[A/cm
2]、0.2[A/cm
2]、0.1[A/cm
2]、OCV、にした状態で電流ホールドをおこなったときのセル電圧Ecel[V]から推定されている。各サンプルとも電流密度Idが2.0[A/cm
2]のときにセル電圧Ecelが0.4V未満となった。
【0043】
サンプル♯1のIV特性と、サンプル♯2のIV特性とを比較すると、サンプル♯2のセル電圧Ecelは、電流密度Idの全域にわたってサンプル♯1のセル電圧Ecelよりも低下することがわかる。すなわち、上記の耐久試験によって、燃料電池セルの発電性能が低下したことがわかる。また、サンプル♯2のIV特性と、サンプル♯3のIV特性とを比較すると、サンプル♯3のセル電圧Ecelは、電流密度Idの全域にわたってサンプル♯2のセル電圧Ecelよりも向上することがわかる。すなわち、上記の回復処理によって、燃料電池セルの発電性能が回復したことがわかる。
【0044】
各サンプルのIV特性評価時には、各サンプルのアノードに水素ガスを流しているため、セル電圧Ecelは、基準電極に対するカソード電位にほぼ等しい。カソード電位が0.4V未満では、カソードのPt触媒表面の酸化被膜は除去されているので、サンプル♯2のIV特性と、サンプル♯3のIV特性との差は、Pt触媒表面から酸化被膜が除去されること以外の要因によって発電性能が回復したことを示している。また、回復処理をおこなったときに燃料電池セルから排出された排水中から硫酸イオンや硝酸イオンなどのアニオンが検出されていること、および、アニオン(特に硫酸イオン)は、Ptに特異吸着して燃料電池セルの発電性能を低下させることから、発電電位変動耐久試験によってアニオンによる触媒被毒が発生し、その結果、燃料電池セルの発電性能が低下したと考えられる。また、上記のことから、回復処理によって、Pt触媒表面に吸着しているアニオンを燃料電池セルから排出できたと考えられる。
【0045】
図7は、各サンプルのカソードストイキ比RSTと発電性能との関係を示した説明図である。
図7(a)の横軸は、カソードストイキ比RSTであり、縦軸は、各サンプルのセル電圧Ecel[V]である。
図7(b)の横軸は、カソードストイキ比RSTであり、縦軸は、各サンプルのセル抵抗Rcel[mΩ・cm
2]である。
図7(c)の横軸は、カソードストイキ比RSTであり、縦軸は、酸化ガス排出流路117の内部の相対湿度(出口湿度)RHcout[%]である。ここでは、各サンプルのセル温度Tcelを65[℃]、電流密度Idを0.2[A/cm
2]に維持した状態でカソードストイキ比RSTを変化させ、そのときの電圧Ecelとセル抵抗Rcelを測定した。セル抵抗Rcelは、1kHzの交流インピーダンス法で測定した実部抵抗であり、日置電機製抵抗測定器を用いて測定した。また、サンプル♯1において、上記条件でカソードストイキ比RSTを変化させたときの出口湿度RHcout[%]を算出した。出口湿度RHcoutは、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaと出口湿度RHcoutとの対応関係を示したマップを用いて算出した。
【0046】
図7(a)のサンプル♯1のカソードストイキ比RSTとセル電圧Ecelとの関係(RST-Ecel特性)と、サンプル♯2のRST-Ecel特性とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、カソードストイキ比RSTが大きくなったときのセル電圧Ecelの低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなることがわかる。また、サンプル♯2のRST-Ecel特性とサンプル♯3のRST-Ecel特性とを比較すると、回復処理によって、RST-Ecel特性を被毒が発生する前の状態に近づける(回復させる)ことができることがわかる。
【0047】
図7(b)のサンプル♯1のカソードストイキ比RSTとセル抵抗Rcelとの関係(RST-Rcel特性)と、サンプル♯2のRST-Rcel特性とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、カソードストイキ比RSTが大きくなったときのセル抵抗Rcelの増加量が大きくなることがわかる。また、サンプル♯2のRST-Rcel特性とサンプル♯3のRST-Rcel特性とを比較すると、回復処理によって、RST-Rcel特性を被毒が発生する前の状態に近づけることができることがわかる。
【0048】
図7(c)は、サンプル♯1のカソードストイキ比RSTと出口湿度RHcoutとの関係(RST-RHcout特性)を示している。
図7(c)から、カソードストイキ比RSTは、出口湿度RHcoutとほぼ反比例することがわかる。これは、カソードストイキ比RSTが増加すると、燃料電池の内部の水分が外部に排出されて出口湿度RHcoutが低下するためである。
図7(a)と
図7(c)から、各サンプルの出口湿度RHcoutとセル電圧Ecelとの関係(出口湿度RHcout-Ecel特性)を算出したものを
図8(a)に示し、
図7(b)と
図7(c)から、各サンプルの出口湿度RHcoutとセル抵抗Rcelとの関係(RHcout-Rcel特性)を算出したものを
図8(b)に示す。
【0049】
図8は、出口湿度RHcoutと発電性能との関係を示した説明図である。
図8(a)の横軸は、出口湿度RHcout[%]であり、縦軸は、各サンプルのセル電圧Ecelである。
図8(b)の横軸は、出口湿度RHcoutであり、縦軸は、各サンプルのセル抵抗Rcelである。
図8(a)から、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、出口湿度RHcoutが低下したときの性能低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなることがわかる。また、回復処理によってRHcout -Ecel特性を被毒が発生する前の状態に回復させることができることがわかる。また、
図8(b)から、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、出口湿度RHcoutが低下したときのセル抵抗Rcelの増加量が大きくなることがわかる。また、回復処理によってRHca-Rcel特性を被毒が発生する前の状態に回復させることができることがわかる。算出した出口湿度RHcoutは、カソード湿度RHcaとほぼ同じと考えられるため、
図8(a)から
図3に示すRHca-Ecel特性を得ることができる。
【0050】
図9は、各サンプルのセル温度Tcelと発電性能との関係を示した説明図である。
図9(a)の横軸は、セル温度Tcel[℃]であり、縦軸は、各サンプルのセル電圧Ecel[V]である。
図9(b)の横軸は、セル温度Tcel[℃]であり、縦軸は、各サンプルのセル抵抗Rcel[mΩ・cm
2]である。ここでは、電流密度Idを0.2[A/cm
2]、カソードストイキ比RST、入口湿度RHcinを一定に維持した状態でセル温度Tcel変化させ、そのときのセル電圧Ecelとセル抵抗Rcelを測定した。セル抵抗Rcelは、1kHzの交流インピーダンス法で測定した実部抵抗である。
【0051】
図9(a)のサンプル♯1のセル温度Tcelとセル電圧Ecelとの関係(Tcel-Ecel特性)と、サンプル♯2のTcel-Ecel特性とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、セル温度Tcelが大きくなったときのセル電圧Ecelの低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなることがわかる。また、サンプル♯2のTcel-Ecel特性とサンプル♯3のTcel-Ecel特性とを比較すると、回復処理によって、Tcel-Ecel特性を被毒が発生する前の状態に近づける(回復させる)ことができることがわかる。燃料電池は、セル温度Tcelが高くなるほどカソード湿度RHcaが低くなるため、
図9(a)からも、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下したときの性能低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなることがわかる。
【0052】
図9(b)のサンプル♯1のセル温度Tcelとセル抵抗Rcelとの関係(Tcel-Rcel特性)と、サンプル♯2のTcel-Rcel特性とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、セル温度Tcelが大きくなったときのセル抵抗Rcelの増加量が大きくなることがわかる。また、サンプル♯2のTcel-Rcel特性とサンプル♯3のTcel-Rcel特性とを比較すると、回復処理によって、Tcel -Rcel特性を被毒が発生する前の状態に近づける(回復させる)ことができることがわかる。上述したように、燃料電池は、セル温度Tcelが高くなるほどカソード湿度RHcaが低くなるため、
図9(b)からも、回復処理によってRHca -Ecel特性を被毒が発生する前の状態に回復させることができることがわかる。
【0053】
図10は、各サンプルのカソードの入口露点温度DTcinと発電性能との関係を示した説明図である。
図10(a)の横軸は、入口露点温度DTcin[℃]であり、縦軸は、各サンプルのセル電圧Ecel[V]である。
図10(b)の横軸は、入口露点温度DTcin[℃]であり、縦軸は、各サンプルのセル抵抗Rcel[mΩ・cm
2]である。ここでは、入口露点温度DTcin[℃]とカソードストイキ比RSTを一定に保ちつつ、セル温度Tcelを75[℃]、電流密度Idを0.2[A/cm
2]で発電しながら、入口露点温度DTcinを変化させ、そのときのセル電圧Ecelとセル抵抗Rcelを測定した。セル抵抗Rcelは、1kHzの交流インピーダンス法で測定した実部抵抗である。入口露点温度DTcinは、入口湿度RHcin[%]、入口温度Tcin[℃]と、入口露点温度DTcinとの対応関係を示したマップを用いて算出した。
【0054】
図10(a)のサンプル♯1の入口露点温度DTcinとセル電圧Ecelとの関係(DTcin-Ecel特性)と、サンプル♯2のDTcin-Ecel特性とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、入口露点温度DTcinが小さくなったときのセル電圧Ecelの低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなることがわかる。また、サンプル♯2のDTcin -Ecel特性とサンプル♯3のDTcin -Ecel特性とを比較すると、回復処理によって、DTcin -Ecel特性を被毒が発生する前の状態に近づける(回復させる)ことができることがわかる。燃料電池は、入口露点温度DTcinが小さくなるほどカソード湿度RHcaが低くなるため、
図10(a)からも、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、カソード湿度RHcaが低下したときの性能低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなることがわかる。
【0055】
図10(b)のサンプル♯1の入口露点温度DTcinとセル抵抗Rcelとの関係(DTcin-Rcel特性)と、サンプル♯2のDTcin-Rcel特性とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、概ね、入口露点温度DTcinが小さくなったときのセル抵抗Rcelの増加量が大きくなることがわかる。また、サンプル♯2のDTcin-Rcel特性とサンプル♯3のDTcin-Rcel特性とを比較すると、回復処理によって、DTcin-Rcel特性を被毒が発生する前の状態に近づける(回復させる)ことができることがわかる。上述したように、燃料電池は、入口露点温度DTcinが小さくなるほどカソード湿度RHcaが低くなるため、
図10(b)からも、回復処理によってRHca -Ecel特性を被毒が発生する前の状態に回復させることができることがわかる。
【0056】
図11は、各サンプルのカソードストイキ比RSTと瞬時に変化させたときの発電性能の変化を示した説明図である。
図11(a)の横軸は、時間t[min]であり、縦軸は、セル電圧Ecel[V]およびカソードストイキ比RSTである。
図11(b)の横軸は、時間[min]であり、縦軸は、セル抵抗Rcel[mΩ・cm
2]およびカソードストイキ比RSTである。ここでは、セル温度Tcelを65[℃]、入口露点温度DTcin[℃]を−40℃、電流密度Idを0.2[A/cm
2]で発電しながら、基準時間t
0=5[min]のときに、カソードストイキ比RSTを瞬時に2から4に(RST=2→4)に変化させたときのセル電圧Ecelとセル抵抗Rcelを測定した。セル抵抗Rcelは、1kHzの交流インピーダンス法で測定した実部抵抗である。
【0057】
図11(a)のサンプル♯1のセル電圧Ecelの時間的変化と、サンプル♯2のセル電圧Ecelの時間的変化とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、基準時間t
0以降のセル電圧Ecelの低下量(セル電圧差分値ΔEcel)が大きくなることがわかる。よって、基準時間t
0以降のセル電圧Ecelの変化量の大きさから、触媒被毒の程度を推定することができる。なお、サンプル♯2のセル電圧Ecelの時間的変化とサンプル♯3のセル電圧Ecelの時間的変化とを比較すると、回復処理によって、燃料電池の性能を被毒が発生する前の状態に近づける(回復させる)ことができることがわかる。
【0058】
図11(b)のサンプル♯1のセル電圧Ecelの時間的変化と、サンプル♯2のセル電圧Ecelの時間的変化とを比較すると、触媒被毒の程度が相対的に大きい燃料電池ほど、基準時間t
0以降のセル抵抗Rcelの増加量が大きくなることがわかる。よって、基準時間t
0以降のセル抵抗Rcelの変化量の大きさから、触媒被毒の程度を推定することができる。
【0059】
以下では、各サンプルのセル抵抗Rcelとアニオンによる触媒被毒との相関性を確認するために、各サンプル♯1〜♯3のIV特性評価とコールコールプロット評価をおこなった。IV特性とコールコールプロットは、セル温度Tcelを80℃、カソード湿度RHcaを30[%]にした状態で取得した。各サンプルは、IV特性の評価前に、セル電圧Ecelを0.3VにすることによってPt表面の酸化被膜を除去している。
【0060】
図12は、各サンプルのIV特性を例示した説明図である。
図12(a)の横軸は、電流密度Id[A/cm
2]であり、縦軸は、各サンプル♯1〜♯3のIR補正電圧Emod[V]である。
図12(b)は、
図12(a)において、電流密度Idが0.2[A/cm
2]のときの各サンプルのIR補正電圧Emod[V]を示している。
図12(a)のIV特性と
図6のIV特性とは、測定時の条件が異なっている。
図12(a)のIV特性は、スイープ速度を10[mV/s]、電圧スイープの範囲を0.3〜0.9Vとして得たものである。
図12(b)に示すように、サンプル♯2のIR補正電圧Emodは、サンプル♯1、♯3のIR補正電圧Emodよりも小さくなった。各サンプルは、IV特性の評価前にPt表面の酸化被膜を除去しているため、各サンプルの酸化被膜量は、ほぼ等しいと考えられる。また、発電電位変動耐久によってアニオンによる触媒被毒が発生していることが確認できたことから、
図12(b)に示すサンプル♯1とサンプル♯2のIR補正電圧Emod[V]の差は、Pt表面の酸化被膜量の差異に起因しておらず、アニオンによる触媒被毒量の差異に起因していると考えられる。
【0061】
図13は、各サンプルのコールコールプロットを示した説明図である。測定時のバイアスは2.6[A]、振幅は0.1[A]、周波数領域は10[kHz]〜0.1[Hz]とした。測定には、NF回路設計ブロック製インピーダンスアナライザを使用した。
図13(b)は、
図13(a)から得られた各サンプルのオーミック抵抗RO[mΩ・cm
2]と、反応抵抗RR[mΩ・cm
2]を示している。
図13(b)からわかるように、オーミック抵抗ROは、各サンプル♯1〜♯3ともほぼ同じ値であった。一方、反応抵抗RRは、サンプル♯2がサンプル♯1、♯3よりも大きくなった。上述したように、各サンプルの酸化被膜量はほぼ等しいと考えられることから、各サンプルの反応抵抗RRの差は、アニオンによる触媒被毒量の差異に起因していると考えられる。
【0062】
図14は、サンプル♯1とサンプル♯2の各種抵抗とカソード湿度RHcaとの関係を示した説明図である。
図14(a)の横軸は、カソード湿度RHca[%]であり、縦軸は、オーミック抵抗RO[mΩ・cm
2]である。
図14(b)の横軸は、カソード湿度RHca[%]であり、縦軸は、反応抵抗RR[mΩ・cm
2]である。
図14(c)の横軸は、カソード湿度RHca[%]であり、縦軸は、実部抵抗(セル抵抗Rcel)[mΩ・cm
2]ある。
図14(a)のカソード湿度RHcaとオーミック抵抗ROとの関係(RHca-RO特性)、および、
図14(b)のカソード湿度RHcaと反応抵抗RR(RHca-RR特性)は、
図13で示したコールコールプロット評価時にカソード湿度RHcaを変化させることにより取得した。
図14(c)のカソード湿度RHcaと実部抵抗(セル抵抗Rcel)との関係(RHca-Rcel特性)は、
図13で示したコールコールプロット評価時と同条件でカソード湿度RHcaを変化させ、1kHzの交流インピーダンス法により取得した。
【0063】
図14(a)に示すように、オーミック抵抗ROは、カソード湿度RHcaによらず、サンプル♯1と♯2とでほぼ同じ値となった。一方、
図14(b)に示すように、反応抵抗RRは、カソード湿度RHcaが低くなったときのサンプル♯2の増加量がサンプル♯1の増加量よりも大きくなった。また、
図14(c)に示すように、セル抵抗Rcelは、カソード湿度RHcaが低くなったときサンプル♯2の増加量がサンプル♯1の増加量よりも大きくなった。セル抵抗Rcelには、オーミック抵抗ROと反応抵抗RRの両方の成分が含まれている。そのため、セル抵抗Rcelは、反応抵抗RRの成分によって、カソード湿度RHcaが低下(乾燥)したときのサンプル♯2の増加量がサンプル♯1の増加量よりも大きくなると考えられる。このことから、各サンプルのセル抵抗Rcelの差は、アニオンによる触媒被毒量の差異に起因していると考えられる。
【0064】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0065】
D−1.変形例1:
図15は、変形例の被毒診断回復処理の手順を例示したフローチャートである。被毒診断回復処理の手順は第1実施形態の手順(
図2)に限定されない。変形例の被毒診断回復処理では、運転時に診断開始条件を満たした場合には(ステップS110:YES)、イグニッションオフ後に(ステップS115)、被毒診断処理をおこなう(ステップS125)。また、被毒診断処理において、回復処理が必要と判定された場合には(ステップS130:YES)、次回の起動時に回復運転をおこなう。回復運転起動とは、カソードを低電位にし、かつ、カソード内の液水量が増加するような状態の運転をいう。このような構成であっても、アニオンによる触媒被毒を容易に検出することができ、燃料電池200の発電性能を効果的に回復させることができる。
【0066】
D−2.変形例2:
本実施形態では、カソード湿度RHcaの推定は、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaを用いるものとして説明した。しかし、カソード湿度RHcaの推定方法はこれに限定されない。例えば、酸化ガス排出流路117に湿度センサが備えられていれば、この湿度センサによって検出される湿度をカソード湿度RHcaとして使用してもよい。また、入口湿度RHcin、電流Icel、カソード温度Tcaのほか、酸化ガス排出流路117の湿度を使用してカソード湿度RHcaを推定してもよい。
【0067】
D−3.変形例3:
本実施形態の制御装置160は、カソード温度Tcaをカソード湿度相関値CVhとして使用しているため、加湿部112、水素供給部131およびコンプレッサ111、燃料電池循環冷却部140の少なくとも1つを制御することによってカソード温度Tcaを変更可能に構成されているものとして説明した。しかし、制御装置160が制御可能なパラメータはカソード温度Tcaに限定されない。例えば、制御装置160は、出口湿度RHcoutをカソード湿度相関値CVhとして使用する場合には、加湿部112、水素供給部131、コンプレッサ111、封止弁118、燃料電池循環冷却部140を制御することによって出口湿度RHcoutを変更可能に構成されていてもよい。また、制御装置160は、カソードストイキ比RSTをカソード湿度相関値CVhとして使用する場合には、コンプレッサ111を制御することによってカソードストイキ比RSTの値を変更可能に構成されていてもよい。また、制御装置160は、セル温度Tcelをカソード湿度相関値CVhとして使用する場合には、燃料電池循環冷却部140を制御することによってセル温度Tcelの値を変更可能に構成されていてもよい。また、制御装置160は、入口露点温度DTcinをカソード湿度相関値CVhとして使用する場合には、加湿部112を制御することによって入口露点温度DTcinの値を変更可能に構成されていてもよい。
【0068】
D−4.変形例4:
本実施形態の被毒診断部163は、回復処理が必要か否かを診断する構成として説明したが、被毒診断部163は、触媒の被毒量から回復処理が必要か否かを判定する構成としてもよい。例えば、被毒診断部163は、セル電圧差分値ΔEceと触媒の被毒量との対応関係が示されたテーブルを備えている場合には、セル電圧差分値ΔEceから触媒の被毒量を算出することができる。この場合には、被毒診断部163は、被毒量から回復処理が必要か否かを判定することができる。