(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本実施形態の概要)
初めに、本実施形態の鉛蓄電池の概要について説明する。本鉛蓄電池は、上面が開口し、内部に複数枚の極板を収容する電槽と、前記複数枚の極板を上部で連結するストラップと、前記ストラップに接続された極柱と、前記電槽の上面を閉止する蓋部材であって、前記極柱を挿通する極柱挿通部を有する蓋部材と、前記極柱挿通部と前記極柱との間の隙間に充填されて硬化した封止部材と、前記蓋部材と前記ストラップとの間に配置され、前記極板の伸びに伴って前記ストラップに当接可能な当接部材とを備える。
【0009】
この構成では、極板の伸びに伴ってストラップが上方に変位して当接部材に当接すると、それ以降、極柱、ストラップを介して封止部材を上向きに押す力が、当接部材を介して蓋部材側に分散する。そのため、封止部材に亀裂やクラックが入り難くなる。また、当接部材は、仮に、極板の上面に当接させて、極板の上方への伸びを直接抑えることも考えられるが、極板は抑えられるとその周囲が不規則に伸びるため、ストラップ、極柱の上方への変位量が増すおそれがある。一方、本構成のように、複数枚の極板を連結するストラップに当接させることで、ストラップの変位量は変わらないため、ストラップを介して封止部材を上向きに押す力が増大することはない。
【0010】
本鉛蓄電池では、前記当接部材を、前記蓋部材に一体的に設けられている。この構成では、当接部材を蓋部材とともに容易に形成することができる。また、ストラップに対する位置精度が高くなるため、ストラップに確実に当接可能となる。
【0011】
本鉛蓄電池では、前記当接部材を、前記ストラップ側に突出する板部材とする。この構成では、蓋部材に板を追加するだけの簡単な構造で当接部材を形成できる。
【0012】
本鉛蓄電池では、前記当接部材を、前記極柱の周囲を囲む環状とする。この構成では、極柱、ストラップを介して封止部材を上向きに押す力が、360°あらゆる方向に分散する。そのため、力が分散し易く、封止部材に亀裂やクラックが一層入り難くなる。
【0013】
本鉛蓄電池では、前記当接部材を、前記極板の伸びに伴って前記ストラップに当接して変形可能にする。すなわち、極板の伸びによりストラップを介して所定値以上の力が作用した時に変形するように、当接部材の形状や材質等を決定する。この構成では、当接部材が、ストラップから蓋部材に作用する力の一部を吸収することにより、蓋部材に作用する力が小さくなるので、蓋部材が破損し難くなる。
【0014】
本鉛蓄電池では、前記当接部材を、前記極柱を中心とする周方向に間隔を離して設ける。当接部材の側方に隙間があるため、極板の伸びに伴ってストラップに当接した後、当接部材が座屈し易くなる。
【0015】
本鉛蓄電池では、前記当接部材を、前記極板の伸びに伴って前記ストラップが前記蓋部材側に変位した時に前記ストラップに当接し、前記極板が伸びる前の状態では前記ストラップとの間に隙間を保有する構造にする。この構成では、極板が伸びる前の状態ではストラップとの間に隙間を保有する設定としてあるので、電槽に蓋部材を組み付ける際に、当接部材がストラップに干渉して組付け不良を起こす心配がない。
【0016】
<一実施形態>
一実施形態を
図1ないし
図10によって説明する。
1.鉛蓄電池の構造
鉛蓄電池10は、
図1〜
図4に示すように電槽20と、極板群30と、ストラップ41、45と、極柱50と、蓋部材60を備え、更にシールリング80や封止部材S、対向壁71(板部材)を備える。尚、以下の説明において、電槽20の横幅方向をX方向とし、電槽20の奥行方向をY方向、高さ方向をZ方向とする。
【0017】
電槽20は上面が開放した箱型をなし、槽内は隔壁により複数のセル室(図略)に仕切られている。各セル室には電解液と共に、複数組の極板群30が、電槽20の横幅方向(
図1のX方向)に沿って、配置されている。
【0018】
各極板群30は、
図2に示すように、正極板31Aと、負極板31Bと、両極板31A、31Bを仕切るセパレータ(図略)とから構成されている。各極板31A、31Bは、格子体に活物質が充填されて構成されており、上部には、ストラップ41、45を接続するための耳部32が設けられている。
【0019】
ストラップ41、45は、
図2に示すように上下方向(Z方向)において、極板群30の上方に位置している。ストラップ41、45は極性ごとに設けられている。正極用のストラップ41、45と、負極用のストラップ41、45は、
図2の左右方向(Y方向)に向かい合うように配置されている。正極用のストラップ41、45は、耳部32を介して各極板群30の正極板31Aを連結し、負極用のストラップ41、45は、耳部32を介して各極板群30の負極板31Bを連結する構造となっている。
【0020】
正極用のストラップ41、45のうち、電槽幅方向(
図1のX方向)の一方端に位置するストラップ41と、負極用のストラップ41、45のうち電槽幅方向(
図1のX方向)の他方端に位置するストラップ41には、それぞれ極柱50が溶接等により取り付けられている。
【0021】
図3は、極板群30を、上側から見た平面図である。
図3に示す右側に位置するストラップ41は、極柱50と接続されるストラップであり、極板31Aの耳部32を接続するための基部42の前方に、取付部43を形成している。取付部43の形状は扇型をしていて、取付部43の中心に極柱50が溶接等により固定されるようになっている。
【0022】
また、
図3に示す左側に位置するストラップ45は、極柱50を装着しないストラップであり、極板31Bの耳部32を接続するための基部46の前方に、接続部47を形成している。
図3では、隣接するセルを省略して記載してあるが、セルはX方向に並んでおり、接続部47は、X方向に隣接するセルの接続部47と互いに接続できるように、隣接するセル側(
図3では上側)にオフセットしている。
【0023】
極柱50は金属製であって、円柱形状をしており、
図1、
図2に示すように、蓋部材60に形成された極柱挿通部65を貫通して外部に露出している。そして、正極側の極柱50の先端と負極側の極柱50の先端には、それぞれ小径の極芯55が設けられている。極芯55にはボルト孔が形成されており、極芯55に対して端子金具(図略)をボルト締めすることで、鉛蓄電池10を電気機器(図略)に対して接続できる構造となっている。なお、正極板31A、負極板31B、耳部32、ストラップ41、45、及び極柱50は、鉛合金からなる。
【0024】
蓋部材60は樹脂製であって電槽20を閉止可能な大きさとされ、電槽20の上面を閉止する。蓋部材60は、電槽20への組み付け後、電槽20に対して、振動溶接等により、全周を溶着される。蓋部材60の左右両側には、
図1に示すように円錐型をした斜口部61が設けられており、更に、斜口部61の内側に極柱挿通部65が形成されている。
【0025】
図4に示すように、極柱挿通部65は上下に貫通する円筒型をしている。極柱挿通部65内には、極柱50が下から貫通しており、極柱50の先端は概ね極柱挿通部65の先端に達している。極柱挿通部65の先端部は、斜口部61の底部から上方に突出しており、斜口部61との間に環状をした環状溝63を形状している。
【0026】
そして、極柱挿通部65の内周壁と極柱50の外周壁との間には隙間が設けられると共に、極柱挿通部65の下端寄りの位置には、内方に突出する環状の位置決め突起67が設けられている。
【0027】
位置決め突起67は、極柱50と極柱挿通部65の間に挿入されたシールリング80を、
図4に示す挿入端位置にて位置決めする機能を果たしている。尚、極柱挿通部65の内径は、シールリング80の外径より幾らか小さい寸法に設定されており、極柱挿通部65の内周壁に対してシールリング80が弾性的に接触するようになっている。
【0028】
シールリング80はゴムなどの弾性材からなる環状をしたリングであり、斜口部61側から挿入されて、極柱挿通部65の挿入端位置に装着される。シールリング80は、極柱50の外周面と極柱挿通部65の内周壁との間に、隙間なく密着して、両間をシールする機能を果たす。
【0029】
図4に示すように、極柱挿通部65及び斜口部61内には封止剤90が充填されている。封止剤90は、極柱挿通部65のうち、挿入端位置にあるシールリング80の上方空間を封止する封止部材Sを形成する。封止部材Sは、極柱55の外周面と極柱挿通部65の内周壁との間を隙間なく封止することにより、電解液の液漏れを抑制するものである。本例では、斜口部61の上面まで封止部材Sを形成しており、極芯55の上端部だけが外部に露出する構造となっている。
【0030】
また、極柱挿通部65の下部には対向壁71が形成されている。対向壁71は蓋部材60と一体的に形成され、
図5に示すように、極柱挿通部65の下端面65Aから下向きに真っ直ぐ延びている。対向壁71は、
図6、
図7に示すように極柱50を中心とする周方向に一定間隔で形成されており、全体が環状をなす。
【0031】
対向壁71の外径は、極柱挿通部65の外径と概ね一致している。また、内径は極柱50の外径よりも大きく、対向壁71は極柱50の周囲を一定の間隔を隔てて囲む構成となっている。
【0032】
また、対向壁71の下端は、極柱50の下端よりも上側に位置しており、
図4に示すように、ストラップ41の上面との間に隙間Cを設けている。すなわち、対向壁71の長さ(極柱挿通部65の下端面65Aを基準とした上下方向の長さ)は、ストラップ41との間に隙間Cが出来るように寸法が決められている。
【0033】
そして、周方向に形成された対向壁71の一部(
図7中の右半分の対向壁)はストラップ41に対して上下に対向する対向位置にあり、
図7に示すようにストラップ41に対して平面方向で重なっている。
【0034】
この対向壁71は、極板31の伸びに伴ってストラップ41に当接することにより、ストラップ41から封止部材Sに作用する力を、蓋部材60に分散させる機能を果たす。
【0035】
具体的に説明すると、極板31は、腐食の進行に伴い面方向、すなわち、
図2にて矢印で示すように左右方向や、上下方向に伸びる。極板31が上下方向に伸びると、伸びた量だけ、ストラップ41が上方(Z方向)に変位するから、封止部材Sはストラップ41、極柱50を介して下側から押される力が作用する。
【0036】
しかし、極板31の腐食の進行が、更に進むと、対向壁71とストラップ41との間の隙間Cが次第に狭くなり、やがて、
図8に示すようにストラップ41が対向壁71の下端に当接する。
【0037】
ストラップ41が対向壁71に当接した以降は、極板31が更に伸びても、ストラップ41を介して上方向に作用する力Fは、
図8にて破線矢印で示すように、対向壁71を介して蓋部材60側に分散する。すなわち、ストラップ41を介して上方向に作用する力Fを、対向壁71を介して、蓋部材60側に逃がすことが出来る。そのため、封止部材Sが上方に押されなくなることから、
図10に示すように、封止部材Sにクラックや亀裂が入ることを防止することが出来る。尚、
図10は、対向壁71の効果を説明するために作成した比較用の図であり、蓋部材260には対向壁71が形成されていない。
【0038】
また、ストラップ41が対向壁71に当接した以降は、極板31の伸びを、蓋部材60側が受け持つことになるので、極板31の伸びが大きくなると、変形が大きくなって、蓋部材60が破損する恐れがある。
【0039】
この点、本鉛蓄電池10では、対向壁71を周方向に一定間隔で形成しており、
図5や
図6に示すように、隣合う対向壁71の間には隙間Uが設けられている。そのため、ストラップ41が対向壁71に当接した以降、対向壁71に対して圧縮方向に所定値以上の力が加わる状態になると、
図9A、
図9Bに示すように、対向壁71は、隙間Uに広がるように座屈(変形)して、極板31の伸びに伴って、ストラップ41から蓋部材60に作用する力の一部を吸収する。従って、蓋部材60に作用する力が小さくなるので、蓋部材60が破損し難くなる。尚、もし仮に、対向壁71を、切れ目のない環状にすると、変形できるような隙間がなくなるため、対向壁71は座屈し難くなる。したがって、ストラップ41から蓋部材60に作用する力を吸収する効果は小さくなる。
【0040】
2.効果説明
鉛蓄電池10では、極板31の伸びに伴ってストラップ41から封止部材Sに作用する力を、対向壁71によって、蓋部材60に分散できる。そのため、封止部材Sに亀裂やクラックが入り難くなる。また、対向壁71は、仮に、極板31の上面に当接させて、極板31の上方への伸びを直接抑えることも考えられるが、極板31は抑えられるとその周囲が不規則に伸びるため、ストラップ41、極柱50の上方への変位量が増すおそれがある。一方、本実施形態のように、複数枚の極板31を連結するストラップ41に当接させることで、ストラップ41の変位量は変わらないため、ストラップ41を介して封止部材Sを上向きに押す力が増大することはない。
【0041】
また、本鉛蓄電池10では、斜口部61と極柱挿通部65との間に環状をした環状溝63を形状している。環状溝63の形成により、沿面距離が長くなることから、封止部材Sに亀裂等が入ったとしても、電槽20内の電解液が極柱挿通部65から外側に漏れ難くなる。
【0042】
また、対向壁71は、極板31が伸びる前の状態では、ストラップ41との間に隙間Cを保有する。もし仮に、極板31が伸びる前の状態で、対向壁71がトラップ41に接していると、蓋部材60を電槽20に組み付ける際に、対向壁71がストラップ41に乗り上げて、組み付け不良を起こす可能性がある。本構成では、極板31が伸びる前の状態ではストラップ41との間に隙間を保有する設定としてあるので、蓋部材60を電槽20に対して確実に組み付けることが出来る。
【0043】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0044】
(1)上記実施形態では、蓋部材60に対してストラップ41に当接する対向壁71を設けて、極板31の伸びを受け持つようにした。実施形態で開示した対向壁71以外でも、極板31が伸びた時にストラップ41に当接して極板31の伸びを受け持つことが可能であればよく、例えば、蓋部材60に対してストラップ41にして当接可能な突起等を設けるようにしてもよい。また、蓋部材60ではなく、電槽20にストラップ41に当接可能な部材を設けるようにしてもよいし、蓋部材60とストラップ41との間に独立した部材を設けるようにしてもよい。
【0045】
(2)上記実施形態では、ストラップ41に対して、周方向に形成された対向壁71の一部だけが平面方向で重なる構成であった。
図11に示すように、ストラップ141の形状を一回り大きくして、ストラップ141に対して、周方向に形成された対向壁71の全体が平面方向で重なる構成にしてもよい。周方向に形成された対向壁71が全て重なっていれば、力の分散が周方向、すなわち360°に及ぶ。そのため、封止剤90に亀裂やクラックが一層入り難くなる。
【0046】
(3)上記実施形態では、対向壁71の形状をストレート形状とした。例えば、
図12に示す蓋部材160のように、V型の切れ込み175を形成するなど、対向壁171の一部に弱い部分を設けておけば、対向壁171が座屈し易くなる。
【0047】
(4)上記実施形態では、ストラップに当接する対向壁71は、板状の部材であったが、板状に限らず、ブロック体でもよい。また、対向壁71は、蓋部材60と同様の樹脂材料ではなく、耐酸性に優れたゴムなどの緩衝部材であってもよい。
【0048】
(5)上記実施形態では、対向壁71の下端は、ストラップ41の上面との間に隙間Cを設けていたが、極板が伸びる前の状態ですでに両者は当接していても本発明の効果を奏する。
【0049】
(6)上述した対向壁71は、正極用のストラップと負極用のストラップのどちらにも設けられていてもよいし、正極用ストラップのみに設けられてもよい。