特許第6052075号(P6052075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6052075プロピレン系ブロック共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052075
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】プロピレン系ブロック共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 293/00 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   C08F293/00
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-129828(P2013-129828)
(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公開番号】特開2015-3981(P2015-3981A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】細井 智浩
(72)【発明者】
【氏名】水上 茂雄
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−012734(JP,A)
【文献】 特開2002−121205(JP,A)
【文献】 特開2002−265516(JP,A)
【文献】 特開2003−002939(JP,A)
【文献】 特開2005−047943(JP,A)
【文献】 特開2009−242509(JP,A)
【文献】 特開2009−292879(JP,A)
【文献】 特開2010−138211(JP,A)
【文献】 特開2011−116978(JP,A)
【文献】 特開2012−087263(JP,A)
【文献】 特開2012−148806(JP,A)
【文献】 特開2012−162712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 251/00 − 289/00
C08F 291/00 − 297/08
C08F 4/60 − 4/70
C08F 10/00 − 10/14
C08L 53/00 − 53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一反応器で結晶性プロピレン重合体を製造する第一工程と、第二反応器でプロピレン・エチレンランダム共重合体を製造する第二工程とを含むプロピレン系ブロック共重合体の製造方法であって、前記第一反応器及び前記第二反応器は気相反応器であり、第二工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含量を30〜50重量%とし、かつ下記の運転条件(1)〜(5)を満たすプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
(1)第一反応器の保有パウダーの平均滞留時間 < 第二反応器の保有パウダーの平均滞留時間
(2)第二反応器の重合温度が、70℃以下
(3)第二反応器の重合温度と第一反応器の重合温度との差が、−10〜10℃
(4)第二反応器の水素とプロピレンとのモル比が、0.01以下
(5)第二反応器に供給するアルコールと第一反応器に供給する有機アルミニウム量とのモル比(アルコール/有機アルミニウム)が、1.0〜2.0
【請求項2】
第二反応器の保有パウダーのアルミニウム原子濃度を、30〜80重量ppmとする請求項1に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項3】
第一反応器及び第二反応器が、流動床反応器である請求項1又は2に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項4】
第一反応器及び第二反応器が、攪拌羽根を有する横型反応器である請求項1又は2に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
プロピレン系ブロック共重合体を、水中カット造粒機により造粒する第三工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
結晶性プロピレン重合体の固有粘度[η]pを0.8〜1.8dl/gとし、第二工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度[η]cを7.5〜12dl/gとする請求項1〜5のいずれかに記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系ブロック共重合体の製造方法に関する。詳しくは、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合が多いプロピレン系ブロック共重合体において、ゲルの発生を抑えつつプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度を高くすることのできるプロピレン系ブロック共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系ブロック共重合体は、ポリプロピレンの特徴である剛性、耐熱性に加え、更に耐衝撃性を有しており、各種容器、日用品、自動車部品、電気部品など各種の用途で幅広く使用されている。
【0003】
プロピレン系ブロック共重合体は、通常、結晶性プロピレン重合体成分とプロピレン・エチレンランダム共重合体成分からなり、用途及び必要な機械的特性に応じて、各成分の比率、固有粘度、コモノマー含量などのインデックスが決定される。そのうち、プロピレン・エチレンランダム共重合体の比率及び固有粘度は、耐衝撃性の改良、溶融張力の向上、高級感ある艶消し状にするための表面光沢の低下などを目的に、いずれも高いことが望まれる場合があるが、両方を同時に高くするのは、工業的に困難であった。
例えば、スラリープロセスにおいては、高い固有粘度を有するプロピレン・エチレンランダム共重合体は製造可能だが、プロピレン・エチレンランダム共重合体の比率を高くしようとしても、プロピレン・エチレンランダム共重合体が重合溶媒に溶け出してしまうため、不可能であった。また、気相プロセスにおいては、プロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度を高くすること自体が困難であったが、さらに、二槽連続重合においては、プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体の分散が不良となり、いわゆるゲルが生じる問題もあった。
【0004】
プロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度が高いプロピレン系ブロック共重合体の製造に関する技術が、特許文献1、特許文献2に開示されている。特許文献1の技術では、スラリープロセスで製造されたものであり、プロピレン・エチレンランダム共重合体の比率の低いプロピレン系ブロック共重合体しか得られていない。また、特許文献2の技術では、具体的なプロセスは記載されていないが、やはりプロピレン・エチレンランダム共重合体の比率の低いプロピレン系ブロック共重合体しか得られていない。
本出願人は、比較的高い固有粘度を有し、高いプロピレン・エチレンランダム共重合体比率のプロピレン系ブロック共重合体を、提案している(特許文献3)。特許文献3に記載されたプロピレン系ブロック共重合体は、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合が40〜80重量%と高いが、固有粘度[η]copolyは2.5〜7.0dl/gとしている。特許文献3の技術ではゲルの問題を生じずに7.0dl/gを超える固有粘度のプロピレン・エチレンランダム共重合体を有するプロピレン系ブロック共重合体を製造することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−80298号公報
【特許文献2】特開2003−41088号公報
【特許文献3】特開2006−219667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術およびその問題点に鑑み、高い固有粘度、高い比率のプロピレン・エチレンランダム共重合体を有していても、ゲルの発生が抑制されたプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の製造条件を採用することで、その固有粘度、比率が高いプロピレン・エチレンランダム共重合体部を有するプロピレン系ブロック共重合体を、ゲルの問題なく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、第一反応器で結晶性プロピレン重合体を製造する第一工程と、第二反応器でプロピレン・エチレンランダム共重合体を製造する第二工程とを含むプロピレン系ブロック共重合体の製造方法であって、前記第一反応器及び前記第二反応器は気相反応器であり、かつ下記の運転条件(1)〜(5)を満たすプロピレン系ブロック共重合体の製造方法にある。
(1)第一反応器の保有パウダーの平均滞留時間 < 第二反応器の保有パウダーの平均滞留時間
(2)第二反応器の重合温度が、70℃以下
(3)第二反応器の重合温度と第一反応器の重合温度との差が、−10〜10℃
(4)第二反応器の水素とプロピレンとのモル比が、0.01以下
(5)第二反応器に供給するアルコールと第一反応器に供給する有機アルミニウム量とのモル比(アルコール/有機アルミニウム)が、1.0〜2.0
【0009】
また、本発明の他の発明は、第二反応器の保有パウダーのアルミニウム原子濃度を、30〜80重量ppmとする前記の製造方法にある。
また、本発明の他の発明は、第一反応器及び第二反応器が、流動床反応器である前記の製造方法にある。
また、本発明の他の発明は、第一反応器及び第二反応器が、攪拌羽根を有する横型反応器である前記の製造方法にある。
また、本発明の他の発明は、プロピレン系ブロック共重合体を、水中カット造粒機により造粒する第三工程を含む前記の製造方法にある。
【0010】
また、本発明の他の発明は、結晶性プロピレン重合体の固有粘度[η]pを0.8〜1.8dl/gとし、第二工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度[η]cを7.5〜12dl/gとする前記の製造方法にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、高い固有粘度、高い比率のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分を有するプロピレン系ブロック共重合体を、ゲルの発生を抑えながら製造することができる。また、本発明の製造方法によれば、ゲルの少ないプロピレン系ブロック共重合体を、生産性高く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、第一反応器で結晶性プロピレン重合体を製造する第一工程と、第二反応器でプロピレン・エチレンランダム共重合体を製造する第二工程とを含むプロピレン系ブロック共重合体の製造方法であって、前記第一反応器及び前記第二反応器は気相反応器であり、かつ下記の運転条件(1)〜(5)を満たすプロピレン系ブロック共重合体の製造方法である。
(1)第一反応器の保有パウダーの平均滞留時間 < 第二反応器の保有パウダーの平均滞留時間
(2)第二反応器の重合温度が、70℃以下
(3)第二反応器の重合温度と第一反応器の重合温度との差が、−10〜10℃
(4)第二反応器の水素とプロピレンとのモル比が、0.01以下
(5)第二反応器に供給するアルコールと第一反応器に供給する有機アルミニウム量とのモル比(アルコール/有機アルミニウム)が、1.0〜2.0
【0013】
プロピレン系ブロック共重合体は、通常、結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分との混合物である。これは、結晶性プロピレン重合体の重合(第一工程)と、この後に続く、プロピレン・エチレンランダム共重合部分の重合(第二工程)とを含む製造工程により得られる。結晶性プロピレン重合体は、一段又は二段以上(各段の反応条件は同一又は異なる)の重合工程で製造され、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分も一段又は二段以上(各段の反応条件は同一又は異なる)の重合工程で製造される。従って、本発明のプロピレン系ブロック共重合体の全製造工程は、少なくとも二段の逐次の多段重合工程となる。
【0014】
なお、重合は、回分式、半回分式、連続式のいずれによってもよいが、工業的には連続式が好ましい。
重合形式としては、スラリー重合、バルク重合、気相重合があげられる。本発明においては、結晶性プロピレン重合体の粘度を比較的低く、プロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン濃度を比較的高くしても、安定した運転が可能なように、第一工程を気相の第一反応器で行い、第二工程を気相の第二反応器で行うことが好ましい。
【0015】
重合用の反応器としては、特に形状、構造を問わないが、スラリー重合及びバルク重合で一般に用いられる攪拌機付き反応器、チューブ型反応器、気相重合で一般に用いられる流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器などが挙げられる。流動床反応器、攪拌羽根を有する横型反応器によるものが、結晶性プロピレン重合体を製造する際の活性を制御し易いため、好ましい。とりわけ、流動床反応器によるものが、幅広い運転条件が採用可能なため、より好ましい。
本発明において、好ましい態様は、第一反応器及び第二反応器が、流動床反応器であること、又は第一反応器及び第二反応器が、撹拌羽根を有する横型反応器であることである。
【0016】
プロピレン系ブロック共重合体の製造に用いられる重合触媒の種類としては、特に限定されるものではなく、公知の触媒が使用可能である。例えば、チタン化合物と有機アルミニウムを組み合わせた、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒、あるいは、メタロセン触媒(例えば、特開平5−295022)が使用できる。プロピレン・エチレンランダム共重合体成の固有粘度が高い(分子量が高い)方が、添加した際、外観の改良効果が高いため、一般的に重合時連鎖移動反応が少なく、分子量を高めやすい、チーグラー・ナッタ触媒が好ましい。チーグラー・ナッタ触媒は、チタン化合物として有機アルミニウム等で還元して得られた三塩化チタンまたは三塩化チタン組成物を電子供与性化合物で処理し更に活性化したもの(例えば特開昭47−34478、特開昭58−23806、特開昭63−146906)、塩化マグネシウム等の担体に四塩化チタンを担持させることにより得られるいわゆる担持型触媒(例えば、特開昭58−157808、特開昭58−83006、特開昭58−5310、特開昭61−218606)等が含まれる。
【0017】
また、助触媒として有機アルミニウム化合物を使用する。例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、ジエチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド、メチルアルモキサン、テトラブチルアルモキサンなどのアルモキサン、メチルボロン酸ジブチル、リチウムアルミニウムテトラエチルなどの複合有機アルミニウム化合物などが挙げられる。また、これらを2種類以上混合して使用することも可能である。
【0018】
助触媒として使用される有機アルミニウム化合物は、重合時連鎖移動剤としても作用するため、助触媒としての活性の発現効果を阻害しない程度に、極力低濃度で使用することが好ましい。具体的には、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の重合(第二工程)時において、反応器内に存在する保有パウダーのアルミニウム原子濃度が30〜80ppmとなるように有機アルミニウムの使用量を調整することが好ましい。
【0019】
また、触媒には、立体規則性の改良や粒子性状の制御、溶媒可溶性成分量の制御、分子量分布の制御等を目的とする各種重合添加剤を使用することが出来る。例えば、ジフェニルジメトキシシラン、tert−ブチルメチルジメトキシシランなどの有機ケイ素化合物、酢酸エチル、安息香酸ブチル、p−トルイル酸メチル、ジブチルフタレートなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、安息香酸、プロピオン酸などの有機酸類、エタノール、ブタノールなどのアルコール類等の電子供与性化合物を挙げることができる。
【0020】
結晶性プロピレン重合体部分の重合(第一工程)においては、プロピレン、必要に応じてコモノマー、水素等の連鎖移動剤を反応器に供給して、重合触媒の存在下に、例えば、温度50〜150℃、好ましくは50〜70℃、プロピレンの分圧0.5〜4.5MPa、好ましくは1.0〜3.0MPa、反応器内に存在する保有パウダーの平均滞留時間0.5〜5.0Hrの条件で、プロピレンの重合を行い、結晶性プロピレン重合体部分を製造することができる。
【0021】
結晶性プロピレン重合体部分は、通常、プロピレンの単独重合によって得られるプロピレンホモ重合体であるが、本発明の効果を損なわない範囲で少量のコモノマーを共重合したプロピレン共重合体であってもよい。かかるコモノマーとしてはエチレン、1−ブテンなどのα−オレフィンがあげられる。コモノマーの含有量は、プロピレン共重合体に対して好ましくは3重量%未満、より好ましくは1重量%未満である。
結晶性プロピレン重合体部分は、単段重合で製造しても、多段重合で製造してもよく、通常は単段重合で製造される。結晶性プロピレン重合体部分を多段重合で製造する場合には、それぞれの重合段階で製造される(共)重合体のうちコモノマーの含有量がおよそ10重量%未満の(共)重合体が、結晶性プロピレン重合体部分の構成成分として考慮されるべきである。
【0022】
続いて、プロピレン・エチレンランダム共重合部分の重合(第二工程)が行われ、プロピレン、エチレン、必要に応じてコモノマー、水素等の連鎖移動剤を反応器に供給して、前記重合触媒(前段重合で使用した当該触媒)の存在下に、例えば、温度50〜150℃、好ましくは50〜90℃、プロピレン及びエチレンの分圧各0.3〜4.5MPa、好ましくは0.5〜3.5MPa、反応器内に存在する保有パウダーの平均滞留時間1.0〜7.0Hrの条件で、プロピレンとエチレンのランダム共重合を行い、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分を製造することにより、最終的な生成物として、プロピレン系ブロック共重合体を得ることができる。
【0023】
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分は、通常、プロピレンとエチレンとの共重合によって得られるプロピレン・エチレンランダム共重合体であるが、本発明の目的を損なわない範囲で少量の他のコモノマーをも共重合することによって得られる三元共重合体等の多元共重合体であってもよい。かかる他のモノマーとしては1−ブテンなどのα−オレフィンがあげられる。
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分は、単段重合で製造しても、多段重合で製造してもよく、通常は単段重合で製造される。プロピレン・エチレンランダム共重合体部分を多段重合で製造する場合には、それぞれの重合段階で製造される共重合体のうちエチレンコモノマーの含有量がおよそ10重量%以上の共重合体が、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の構成成分として考慮されるべきである。
【0024】
本発明において、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率を高くするために、第二工程の触媒の活性を高く維持させるため、第一工程においては、重合温度、プロピレン分圧が低く、重合時間が短い、触媒の活性を抑制する条件が好まれる。一方、第二工程においては、触媒の活性が高くなる条件(重合温度、プロピレン、エチレン分圧が高く、重合時間が長い条件)が好まれる。
具体的には、第一工程の重合時間(平均滞留時間)が、第二工程の重合時間(平均滞留時間)よりも短いことが好ましい。すなわち、第一工程を行う第一反応器の保有パウダーの平均滞留時間が、第二工程を行う第二反応器の保有パウダーの平均滞留時間よりも短いことが好ましい。ここで、平均滞留時間は、回分式重合の場合は重合時間であり、連続重合の場合は反応器中の保有パウダーの重量(kg)と単位時間当たり反応器から抜き出す重合体パウダーの重量(kg/時間)とから、反応器中の保有パウダーの重量(kg)/単位時間当たり反応器から抜き出す重合体パウダーの重量(kg/時間)の計算式で算出する値である。第一工程が多段で行われる場合、各段の平均滞留時間の合計を第一反応器の保有パウダーの平均滞留時間とみなす。同様に、第二工程が多段で行われる場合、各段の平均滞留時間の合計を第二反応器の保有パウダーの平均滞留時間とみなす。
【0025】
また、本発明において、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]cを高くするために、第二反応器の重合温度は、70℃以下にすることが好ましい。重合温度を低くすることにより、重合反応に比べ、水素や助触媒等への連鎖移動反応を相対的に抑制するためである。
また、第一反応器の重合温度は、第二工程での活性維持の点からは低い方がよいが、低すぎると第一工程自体の活性が不足するために、適切な範囲に設定することが好ましい。第一反応器の重合温度と第二反応器の重合温度との差(第一反応器の重合温度−第二反応器の重合温度)が−10〜10℃が好ましい。
前段重合が多段で行われる場合、各段の重合温度の算術平均を第一反応器の重合温度とみなす。同様に、後段重合が多段で行われる場合、各段の重合温度の算術平均を第二反応器の重合温度とみなす。
【0026】
プロピレン・エチレンランダム共重合体の製造時は、原則として水素供給はしないが、得られるプロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度[η]c微妙に調節する目的で少量供給することができる。水素を供給し過ぎると、所望とする高い固有粘度[η]cのプロピレン・エチレンランダム共重合体を得難くなる。したがって、第二反応器の水素とプロピレンとのモル比が0.01以下、好ましくは0.005以下、より好ましくは0.0000001〜0.001である。
【0027】
さらに、プロピレン・エチレンランダム共重合体の分散不良が原因と考えられているゲルの発生を防止する目的で、前段重合工程での重合後、後段重合工程での重合途中に、アルコールを装入することが好ましい。装入する量としては、前段重合時に装入する有機アルミニウム量に対し(アルコール/有機アルミニウム)、1.0〜2.0mol比であることが好ましい。すなわち、第二反応器に供給するアルコールと第一反応器に供給する有機アルミニウムとのモル比(アルコール/有機アルミニウム)が1.0〜2.0であることが好ましい。
アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコールなどが挙げられる。
【0028】
本発明の製造方法には、上記のプロピレン系ブロック共重合体を水中カット造粒法により造粒する第三工程を含めることができる。第三工程を経たプロピレン系ブロック共重合体はポリプロピレン造粒体となる。第三工程は、混練機で、例えば、樹脂温度180℃〜250℃にてプロピレン系ブロック共重合体を混練後、水中カット造粒機で造粒する工程である。混練に用いる混練機としては、混練押出機、特に単軸混練押出機、二軸混練押出機が好ましい。
混練機は、反応器に、直接又は間接に連結していてもよく、反応器とは独立して設けていてもよい。
【0029】
本発明の製造方法では、第一工程で結晶性プロピレン重合体の固有粘度[η]pを0.8〜1.8dl/gとし、第二工程でプロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度[η]cを7.5〜12dl/gとするように、プロピレン系ブロック共重合体を製造することが好ましい。
また、本発明の製造方法では、プロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含量が20〜60重量%となるように、プロピレン系ブロック共重合体を製造することが好ましい。
また、本発明の製造方法では、結晶性プロピレン重合体の比率が80〜60重量%、プロピレン・エチレンランダム共重合体の比率が20〜40重量%となるように、プロピレン系ブロック共重合体を製造することが好ましい。
このような範囲にすることで、ゲルの発生を十分に抑えることができる。そしてこのプロピレン系ブロック共重合体は、耐衝撃性が改良され、溶融張力が高く、表面光沢が低いものとなる。
【0030】
本発明の製造方法では、プロピレン系ブロック共重合体を構成する結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]pを、0.8〜1.8dl/gとすることが好ましく、0.8〜1.7とすることがより好ましく、0.85〜1.6とすることがさらに好ましい。ここで、固有粘度は、ウベローデ型粘度計を用いて、デカリンを溶媒として温度135℃で測定して得られる値である。結晶性プロピレン重合体部分を多段重合で製造する場合には、[η]pは、最終の重合を終えた時点で得られる結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度である。
【0031】
本発明の製造方法では、プロピレン系ブロック共重合体を構成するプロピレン・エチレンランダム共重合体の固有粘度[η]cを、7.5〜12dl/gとすることが好ましく、8.0〜12.0dl/gとすることがより好ましく、9.0〜12.0dl/gとすることがさらに好ましい。
ここで、固有粘度[η]cは、以下の式から算出される値である。
[η]c=(100×[η]F−(100−Wc)×[η]p)/Wc
([η]Fはプロピレン系ブロック共重合体の固有粘度(ウベローデ型粘度計を用いて、デカリンを溶媒として温度135℃で測定)、[η]pは結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度、Wcはプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合(重量%)を表す。)
【0032】
本発明の製造方法では、結晶性プロピレン重合体部分の固有粘度[η]pに対するプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]cの比([η]c/[η]p)を、7.5〜30とすることが好ましく、8〜30とすることがより好ましく、9〜20とすることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の製造方法では、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含量を、20〜60重量%とすることが好ましく、25〜55重量%とすることがより好ましく、30〜50重量%とすることがさらに好ましい。
【0034】
本発明の製造方法では、結晶性プロピレン重合体部分の割合を、60〜80重量%、好ましくは65〜79重量%、より好ましくは65〜75重量%とすることが好ましい。一方、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合を、20〜40重量%であり、好ましくは21〜35重量%であり、より好ましくは25〜35重量%とすることが好ましい。ここで、結晶性プロピレン重合体部分の割合とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合との合計は100重量%とする。
【0035】
本発明の製造方法では、プロピレン系ブロック共重合体のメルトフローレート(MFR)を、0.3〜50g/10分、好ましくは0.5〜45g/10分、より好ましくは1〜40g/10分とすることが好ましい。ここでMFRは、JIS−K−7210、温度230℃、荷重21.18Nに従って測定した値である。
【0036】
本発明の方法に係るプロピレン系ブロック共重合体には、必要に応じて従来のポリオレフィンに用いられている公知の酸化防止剤や中和剤、帯電防止剤および耐候剤等を添加してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において行った分析、および評価方法は以下の通りである。
1.メルトフローレート(MFR)(単位:g/10分)
JIS−K−7210、温度230℃、荷重21.18Nに従って測定した。
【0038】
2.プロピレン系ブロック共重合体の物性の分析法
プロピレン系ブロック共重合体のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分(以下ゴム成分ということがある。)の比率(Wc)、エチレン含有量、及び固有粘度の測定は、以下の装置、条件を用い、以下の手順で測定する。
【0039】
(1)使用する分析装置
(i)クロス分別装置
ダイヤインスツルメンツ社製CFC T−100(CFCと略す)
(ii)フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析
FT−IR、パーキンエルマー社製 1760X
CFCの検出器として取り付けられていた波長固定型の赤外分光光度計を取り外して代わりにFT−IRを接続し、このFT−IRを検出器として使用する。CFCから溶出した溶液の出口からFT−IRまでの間のトランスファーラインは1mの長さとし、測定の間を通じて140℃に温度保持する。FT−IRに取り付けたフローセルは光路長1mm、光路幅5mmφのものを用い、測定の間を通じて140℃に温度保持する。
(iii)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)
CFC後段部分のGPCカラムは、昭和電工社製AD806MSを3本直列に接続して使用する。
【0040】
(2)CFCの測定条件
(i)溶媒:オルトジクロルベンゼン(ODCB)
(ii)サンプル濃度:4mg/mL
(iii)注入量:0.4mL
(iv)結晶化:140℃から40℃まで約40分かけて降温する。
(v)分別方法:
昇温溶出分別時の分別温度は40、100、140℃とし、全部で3つのフラクションに分別する。なお、40℃以下で溶出する成分(フラクション1)、40〜100℃で溶出する成分(フラクション2)、100〜140℃で溶出する成分(フラクション3)の溶出割合(単位:重量%)を各々W40、W100、W140と定義する。W40+W100+W140=100である。また、分別した各フラクションは、そのままFT−IR分析装置へ自動輸送される。
(vi)溶出時溶媒流速:1mL/分
【0041】
(3)FT−IRの測定条件
CFC後段のGPCから試料溶液の溶出が開始した後、以下の条件でFT−IR測定を行い、上述した各フラクション1〜3について、GPC−IRデータを採取する。
(i)検出器:MCT
(ii)分解能:8cm−1
(iii)測定間隔:0.2分(12秒)
(iv)一測定当たりの積算回数:15回
【0042】
(4)測定結果の後処理と解析
各温度で溶出した成分の溶出量と分子量分布は、FT−IRによって得られる2945cm−1の吸光度をクロマトグラムとして使用して求める。溶出量は各溶出成分の溶出量の合計が100%となるように規格化する。保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。
使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.4mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式([η]=K×Mα)には以下の数値を用いる。
(i)標準ポリスチレンを使用する較正曲線作成時
K=0.000138、α=0.70
(ii)プロピレン系ブロック共重合体のサンプル測定時
K=0.000103、α=0.78
各溶出成分のエチレン含有量分布(分子量軸に沿ったエチレン含有量の分布)は、FT−IRによって得られる2956cm−1の吸光度と2927cm−1の吸光度との比を用い、ポリエチレンやポリプロピレンや13C−NMR測定等によりエチレン含有量が既知となっているエチレン−プロピレンラバー(EPR)及びそれらの混合物を使用して予め作成しておいた検量線により、エチレン含有量(重量%)に換算して求める。
【0043】
(5)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)は、下記式(I)で理論上は定義され、以下のような手順で求められる。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/B100 …(I)
式(I)中、W40、W100は、上述した各フラクションでの溶出割合(単位:重量%)であり、A40、A100は、W40、W100に対応する各フラククションにおける実測定の平均エチレン含有量(単位:重量%)であり、B40、B100は、各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(単位:重量%)である。A40、A100、B40、B100の求め方は後述する。
【0044】
(I)式の意味は以下の通りである。すなわち、(I)式右辺の第一項はフラクション1(40℃に可溶な部分)に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の量を算出する項である。フラクション1がプロピレン・エチレンランダム共重合体のみを含み、結晶性プロピレン重合体部分を含まない場合には、W40がそのまま全体の中に占めるフラクション1由来のプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量に寄与するが、フラクション1にはプロピレン・エチレンランダム共重合体由来の成分のほかに少量の結晶性プロピレン重合体部分由来の成分(極端に分子量の低い成分及びアタクチックポリプロピレン)も含まれるため、その部分を補正する必要がある。そこでW40にA40/B40を乗ずることにより、フラクション1のうち、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分由来の量を算出する。例えば、フラクション1の平均エチレン含有量(A40)が30重量%であり、フラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量(B40)が40重量%である場合、フラクション1の30/40=3/4(即ち75重量%)はプロピレン・エチレンランダム共重合体由来、1/4は結晶性プロピレン重合体部分由来ということになる。このように右辺第一項でA40/B40を乗ずる操作は、フラクション1の重量%(W40)からプロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出することを意味する。右辺第二項も同様であり、各々のフラクションについて、プロピレン・エチレンランダム共重合体の寄与を算出して加え合わせたものがプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の含有量となる。
【0045】
(i)上述したように、CFC測定により得られるフラクション1〜2に対応する平均エチレン含有量をそれぞれA40、A100とする(単位はいずれも重量%である)。平均エチレン含有量の求め方は後述する。
(ii)フラクション1の微分分子量分布曲線におけるピーク位置に相当するエチレン含有量をB40とする(単位は重量%である)。フラクション2については、ゴム部分が40℃ですべて溶出してしまうと考えられ、同様の定義で規定することができないので、本発明では実質的にB100=100と定義する。B40、B100は各フラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量であるが、この値を分析的に求めることは実質的には不可能である。その理由はフラクションに混在するプロピレン単独重合体とプロピレン・エチレンランダム共重合体を完全に分離・分取する手段がないからである。種々のモデル試料を使用して検討を行った結果、B40はフラクション1の微分分子量分布曲線のピーク位置に相当するエチレン含有量を使用すると、材料物性の改良効果をうまく説明することができることがわかった。また、B100はエチレン連鎖由来の結晶性を持つこと、および、これらのフラクションに含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量がフラクション1に含まれるプロピレン・エチレンランダム共重合体の量に比べて相対的に少ないことの2点の理由により、100と近似する方が、実態にも近く、計算上も殆ど誤差を生じない。そこでB100=100として解析を行うこととしている。
【0046】
(iii)上記の理由からプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(Wc)を以下の式に従い、求める。
Wc(重量%)=W40×A40/B40+W100×A100/100 …(II)
つまり、(II)式右辺の第一項であるW40×A40/B40は結晶性を持たないプロピレン・エチレンランダム共重合体含有量(重量%)を示し、第二項であるW100×A100/100は結晶性を持つプロピレン・エチレンランダム共重合体部分含有量(重量%)を示す。
ここで、B40およびCFC測定により得られる各フラクション1および2の平均エチレン含有量A40、A100は、次のようにして求める。
微分分子量分布曲線のピーク位置に対応するエチレン含有量がB40となる。また、測定時にデータポイントとして取り込まれる、各データポイントの重量割合と各データポイントのエチレン含有量の積の総和がフラクション1の平均エチレン含有量A40となる。フラクション2の平均エチレン含有量A100も同様に求める。
【0047】
なお、上記3種類の分別温度を設定した意義は次の通りである。本発明のCFC分析においては、40℃とは結晶性を持たないポリマー(例えば、プロピレン・エチレンランダム共重合体の大部分、もしくは結晶性プロピレン重合体部分の中でも極端に分子量の低い成分およびアタクチックな成分)のみを分別するのに必要十分な温度条件である意義を有する。100℃とは、40℃では不溶であるが100℃では可溶となる成分(例えばプロピレン・エチレンランダム共重合体中、エチレン及び/またはプロピレンの連鎖に起因して結晶性を有する成分、および結晶性プロピレン重合体部分)のみを溶出させるのに必要十分な温度である。140℃とは、100℃では不溶であるが140℃では可溶となる成分(例えば、結晶性プロピレン重合体部分中特に結晶性の高い成分、およびプロピレン・エチレンランダム共重合体中の極端に分子量が高くかつ極めて高いエチレン結晶性を有する成分)のみを溶出させ、かつ分析に使用するプロピレン系ブロック共重合体の全量を回収するのに必要十分な温度である。なお、W140にはプロピレン・エチレンランダム共重合体成分は全く含まれないか、存在しても極めて少量であり実質的には無視できることからプロピレン・エチレンランダム共重合体の比率やプロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含有量の計算からは排除する。
【0048】
(6)プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体におけるプロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量は、上述で説明した値を用い、次式から求められる。
プロピレン・エチレンランダム共重合体部分のエチレン含有量(重量%)=(W40×A40+W100×A100)/Wc
但し、Wcは先に求めたプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率(重量%)である。
【0049】
(7)固有粘度の測定
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体における結晶性プロピレン重合体部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度[η]pは、ウベローデ型粘度計を用いてデカリンを溶媒として温度135℃で測定する。
まず、結晶性プロピレン重合体部分の重合終了後、一部を重合槽よりサンプリングし、固有粘度[η]pを測定する。次に、結晶性プロピレン重合体部分を重合した後、プロピレン・エチレンランダム共重合体を重合して得られた最終重合物(F)の固有粘度[η]Fを測定する。[η]cは、以下の関係から求める。
[η]F=(100−Wc)/100×[η]p+Wc/100×[η]c
【0050】
<触媒の製造例>
撹拌装置を備えた容量10リットルのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエンを2リットル導入した。ここに、室温で、ジエトキシマグネシウムMg(OEt)を200g、四塩化チタンを1リットル添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸−n−ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温で四塩化チタンを1リットル添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体触媒成分のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体触媒成分のチタン含有量は2.7重量%、マグネシウム含有量は18重量%であった。また、固体触媒成分の平均粒径は33μmであった。
次に、攪拌装置を備えた容量20リットルのオートクレーブを充分に窒素で置換し、上記固体触媒成分(触媒1−1)のスラリーを固体触媒成分(触媒1−1)として100g導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体触媒成分(触媒1−1)の濃度が25g/リットルとなるように調整した。四塩化珪素SiClを50mL加え、90℃で1時間反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。
【0051】
その後、精製したn−ヘプタンを導入して液レベルを4リットルに調整した。ここに、ジメチルジビニルシランを30ml、t−ブチルメチルジメトキシシラン(t−C)(CH)Si(OCHを30ml、トリエチルアルミニウムEtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして80g添加し、40℃で2時間反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、得られたスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分にはチタンが1.2重量%、(t−C)(CH)Si(OCH が8.8重量%含まれていた。
上記で得られた固体成分を用いて、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分の濃度が20g/リットルとなるように調整した。スラリーを10℃に冷却した後、トリエチルアルミニウムEtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして10g添加し、280gのプロピレンを4時間かけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に30分間反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って固体触媒成分(触媒1)を得た。この固体触媒成分(触媒1)は、固体成分1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、固体触媒成分(触媒1)のポリプロピレンを除いた部分には、チタンが1.0重量%、(t−C)(CH)Si(OCHが8.2重量%含まれていた。
【0052】
[実施例1]
内容積2000リットルの流動床式反応器を二個連結してなる連続反応装置を用いて重合を行った。まず、第一反応器で、重合温度58℃、プロピレン分圧1.8MPa(絶対圧)、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.035となるように連続的に供給するとともに、トリエチルアルミニウムを4.0g/hrで、触媒1をポリマー重合速度が16kg/hrになるように供給した。第一反応器で重合したパウダー(結晶性プロピレン重合体)は、反応器内のパウダー保有量を40kgとなるように16kg/hrの抜出し速度で連続的に抜き出し、第二反応器に連続的に移送した(第一工程)。
第二反応器で、重合温度60℃で、モノマー圧力1.5MPaになるように、プロピレンとエチレンをエチレン/プロピレンのモル比で0.44となるように連続的に供給し、更に、分子量制御剤としての水素を、水素/プロピレンのモル比で0.0008となるように連続的に供給すると共に、エチルアルコールを第一反応器に供給するトリエチルアルミニウムに対して1.37倍モルになるように供給した。第二反応器で重合したパウダーは、反応器内のパウダー保有量を60kgとなるように連続的にベッセルに抜き出し、水分を含んだ窒素ガスを供給して反応を停止させ、プロピレン・エチレンブロック共重合体を得た(第二工程)。
【0053】
得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体のパウダー100重量部に対して、酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3’5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバガイギー社製、商品名:イルガノックス1010)0.1重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(チバガイギー社製、商品名:イルガホス168)0.05重量部、中和剤としてステアリン酸カルシウム0.15重量部を添加し、スーパーミキサー(川田製作所製)で5分間混合、ブレンドした。得られたブレンド物を用いて、以下の装置、条件下で水中カット造粒法によりプロピレン・エチレンブロック共重合体の造粒体を得た(第三工程)。
混練押出機:内径110mm 単軸押出機
ダイス:TiC、φ2.5、20穴、ヒートチャンネル式
カッター刃:TiC、4枚、掬い角50°
造粒体の処理レート:200kg/hr
冷却水温度:43℃
スクリーンパックフィルター:500メッシュ
【0054】
第一工程及び第二工程の反応条件並びに第三工程を経て得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体の諸物性を表1に示した。
また、得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体の造粒体100重量部に対して黒色顔料マスターバッチ3重量部をドライブレンドして、型締め圧20トンの射出成形機及び短辺に幅2mmのフィルムゲートをもつ金型を用いて、40mm×80mm×2mmtのシートを成形温度200℃で射出成形した。シートの外観(ゲル)の評価を以下の基準で行った。
○:ゲルが認められない、又はあっても目立たず実用上問題ないレベル
×:ゲルが多数認められる
【0055】
<実施例2、4、5、参考例3、比較例1〜3>
触媒1を用いて、実施例1の手順に従って、プロピレン・エチレンブロック共重合体の造粒体を得た。ここで、第一工程におけるプロピレン及び水素量、第二工程におけるプロピレンとエチレンの供給量及び水素量、各段階の平均滞留時間、重合温度を表1又は2のように変更した。
得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体の諸物性を表1又は2に示した。また、得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体について、外観(ゲル)の評価結果を表1又は2に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
以上の各実施例及び比較例から次の事項が判明した。
(1)実施例1、2、4、5から、本発明の製造方法によれば、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の比率が高いプロピレン系ブロック共重合体を製造するにあたり、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の固有粘度を高くしてもゲルの発生を抑制できるといえる。
(2)比較例1は、プロピレン・エチレンランダム共重合体部製造工程の重合温度が高い例であり、実施例1、2、4、5との比較から、固有粘度[η]cが低下した。
(3)比較例2は、結晶性プロピレン重合体部分製造工程の重合温度とプロピレン・エチレンランダム共重合体部製造工程の重合温度との差が大きい例であり、実施例1、2、4、5との比較から、固有粘度[η]cが低いにも関わらず、外観が悪い(ゲルの問題あり)。
(4)比較例3は、プロピレン・エチレンランダム共重合体部製造工程の重合温度が高く、結晶性プロピレン重合体部分製造工程の重合時間(平均滞留時間)に比べ、プロピレン・エチレンランダム共重合体部製造工程の重合時間(平均滞留時間)が短い例であり、実施例1、2、4、5との比較から、固有粘度[η]cが低いにも関わらず、外観が悪い(ゲルの問題あり)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
産業上利用価値の高い、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の割合が多く、さらに当該共重合体部分の固有粘度が高い、プロピレン系ブロック共重合体を、ゲルの発生を抑えながら製造する方法として利用可能である。