特許第6052096号(P6052096)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052096
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20161219BHJP
   B60K 6/445 20071001ALI20161219BHJP
   B60K 6/387 20071001ALI20161219BHJP
   B60W 10/26 20060101ALI20161219BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20161219BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20161219BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20161219BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B60W10/08 900
   B60K6/445ZHV
   B60K6/387
   B60W10/26 900
   B60W10/30 900
   B60W20/00
   B60L11/18 A
   B60L11/14
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-166021(P2013-166021)
(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公開番号】特開2015-33921(P2015-33921A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(72)【発明者】
【氏名】畑 建正
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 雄二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃一
(72)【発明者】
【氏名】信安 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】茂木 太郎
【審査官】 佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−210833(JP,A)
【文献】 特開2010−058579(JP,A)
【文献】 特開2010−076678(JP,A)
【文献】 特開2008−179263(JP,A)
【文献】 特開2008−279886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/387
B60K 6/445
B60L 11/14
B60L 11/18
B60W 10/26
B60W 10/30
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
それぞれ発電機能を有する第1モータおよび第2モータと、
記第1モータおよび前記第2モータへ前記第1モータおよび前記第2モータを駆動させるための電力を供給し、かつ、前記第1モータおよび前記第2モータの少なくともいずれか一方で発電された電力を充電する蓄電装置と、
前記エンジンに連結された第1回転要素と、前記第1モータに連結された第2回転要素と、出力部材および前記第2モータに連結された第3回転要素とを有し、各回転要素が差動作用を生じる動力分割機構と、
前記エンジンから駆動輪に到る動力伝達経路中に設けられたクラッチとを備え、
前記クラッチを係合させることにより前記エンジンと前記駆動輪との間をトルク伝達可能にさせ、前記クラッチを解放させることにより前記エンジンと前記駆動輪との間でトルクの伝達を遮断させるように構成されたハイブリッド車両の制御装置において、
前記クラッチが解放状態に維持されて前記クラッチを係合することができず、かつ、前記蓄電装置の充電量が所定の第1閾値よりも高い場合に、前記第1モータを駆動させることにより前記蓄電装置の電力を消費させる駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
第2閾値は、前記第1閾値よりも小さい値であり、
前記充電量が前記駆動制御により前記第2閾値よりも低くなった場合には、前記駆動制御を停止させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記クラッチが解放状態に維持されて前記クラッチを係合することができず、かつ、前記充電量が前記第1閾値以下であっても前記充電量が前記第1閾値よりも高くなることが予測された場合には、前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記第1モータに連結されたオイルポンプおよび補機をさらに備え、
前記駆動制御される前記第1モータの回転方向は、前記オイルポンプおよび前記補機を駆動させる回転方向であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記動力分割機構は、前記回転要素としてサンギヤとキャリヤとリングギヤとを有するシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、
前記第3回転要素は、前記サンギヤおよび前記リングギヤのうちのどちらか一方によって構成され、
前記第1回転要素の回転数を前記第3回転要素の回転数よりも大きくするように前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記動力分割機構は、前記回転要素としてサンギヤとキャリヤとリングギヤとを有するダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、
前記第3回転要素は、前記サンギヤおよび前記キャリヤのうちのどちらか一方によって構成され、
前記第1回転要素の回転数を前記第3回転要素の回転数よりも大きくするように前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記車両が後進走行していない場合、前記駆動制御を実行できるように構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項8】
前記車両が減速している場合、前記第2モータを回生制御するとともに前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力源としてエンジンおよびモータを搭載したハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動力源として機能するモータの搭載数によっていわゆるワンモータ式やツーモータ式などと称されるハイブリッド車両が知られており、そのモータが発電機能を発揮するように構成されることが周知である。ワンモータ式の一例として、特許文献1には、エンジンと、発電機能を有するモータと、エンジンが出力した動力により発電する発電機とを備え、エンジンから出力された動力により発電機で発電し、その電力をモータに供給することによりモータから出力されるモータトルクを駆動トルクとして駆動輪に伝達させる構成が開示されている。さらに、特許文献1には、発電機に異常が発生した際、モータを回生制御してモータで発電することが記載されている。
【0003】
また、ツーモータ式の構成例が、特許文献2および特許文献3に開示されている。特許文献2および特許文献3に記載された構成では、エンジンと、動力源となる二つのモータと、三つの回転要素が差動する遊星歯車機構により構成された動力分割機構を備え、その動力分割機構は、いずれか一つの回転要素がエンジンと連結され、他の一つの回転要素が第1モータと連結され、更に他の一つの回転要素が駆動輪および第2モータと連結された構成が開示されている。つまり、エンジンが出力した動力を、動力分割機構によって発電機能を有する第1モータ側と、駆動輪に連結された出力部材側とに分割して伝達するように構成されている。また、第1モータが反力を生じることにより第1モータの回転数に応じてエンジンの回転数を適宜に制御することができる。
【0004】
特に、特許文献3に記載された構成では、エンジントルクが出力軸を介して動力分割機構のキャリヤに入力されるように構成され、その出力軸とエンジンとを機械的に切り離すためのクラッチと、その出力軸を固定してキャリヤの回転を停止させるワンウエイクラッチとを備え、第1モータによるトルクの反力をワンウエイクラッチによるトルクによって受けるように構成されている。さらに特許文献3には、第1モータおよび第2モータの動力で走行する場合、クラッチを解放させるのでエンジンを停止させる必要がないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−179263号公報
【特許文献2】特開2008−279886号公報
【特許文献3】特開平08−295140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンおよび発電機能を有するモータを動力源とするハイブリッド車両において、例えば減速時に、モータを発電機として機能させる回生制御を実施することにより駆動輪から伝わる外力によって回転されるモータで発電し、その電力を蓄電池などの蓄電装置に充電するとともに、この回生制御によりモータから出力される回生トルクを制動力として駆動輪に作用させて車両を減速させるように構成されることが知られている。
【0007】
また、その蓄電装置は、充電量が所定の充電量を超えるような過充電の状態において劣化することが知られており、このため、仮に過充電の状態となった場合や過充電に近い充電状態となった場合には、モータを発電機として機能させないように制御することが知られている。このように、過充電時に回生制御を禁止することが特許文献1に記載されている。しかしながら、特許文献1に記載された構成はワンモータ式であるため、一つのモータで同時に回生制御と力行制御とを実施することができないので、過充電の状態で減速要求があった場合には、モータを回生制御することが禁止され、モータトルクを制動力として駆動輪に作用させることができない。
【0008】
また、ツーモータ式の構成において、特許文献2には、油圧ブレーキが異常状態で制動要求があった場合に、第2モータを回生制御することによる回生トルクとともにエンジンの回転抵抗によるトルクを制動力として駆動輪に作用させることが記載されている。しかしながら、同じくツーモータ式の構成を開示している特許文献3に記載されたパワートレーンのように、エンジンと駆動輪との間にクラッチを備えている構成では、仮に何らかなの不具合が生じたことによりクラッチが係合不能になり解放状態に維持されてしまう場合などに、エンジンが動力伝達系統から切り離されているため、上記の特許文献2の構成のようにエンジンの回転抵抗によるトルクを制動トルクとして駆動輪に伝達することができなくなることが起こり得る。一方、そのようにクラッチが解放状態に維持されて係合不能な場合であっても特許文献3に記載された構成によればモータを回生制御して発電することは可能であるため、例えば前述したような制動要求時、制動力として作用させるべきエンジンの回転抵抗によるトルク分を回生制御によるモータトルクで補うことになり、このため発電量が増大するので蓄電装置が過充電の状態に到り易くなってしまう。このように、エンジンを動力伝達系統から切り離すためのクラッチを備えるハイブリッド車両において、そのクラッチが解放状態で維持されてしまい係合できない場合に、蓄電装置が過充電の状態になることを回避する技術を検討する余地がある。
【0009】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであって、エンジンを動力伝達系統から切り離すためのクラッチを備えている車両において、蓄電装置の充電状態が過充電になることを回避するように構成されたハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、エンジンと、それぞれ発電機能を有する第1モータおよび第2モータと、前記第1モータおよび前記第2モータへ前記第1モータおよび前記第2モータを駆動させるための電力を供給し、かつ、前記第1モータおよび前記第2モータの少なくともいずれか一方で発電された電力を充電する蓄電装置と、前記エンジンに連結された第1回転要素と、前記第1モータに連結された第2回転要素と、出力部材および前記第2モータに連結された第3回転要素とを有し、各回転要素が差動作用を生じる動力分割機構と、前記エンジンから駆動輪に到る動力伝達経路中に設けられたクラッチとを備え、前記クラッチを係合させることにより前記エンジンと前記駆動輪との間をトルク伝達可能にさせ、前記クラッチを解放させることにより前記エンジンと前記駆動輪との間でトルクの伝達を遮断させるように構成されたハイブリッド車両の制御装置において、前記クラッチが解放状態に維持されて前記クラッチを係合することができず、かつ、前記蓄電装置の充電量が所定の第1閾値よりも高い場合に、前記第1モータを駆動させることにより前記蓄電装置の電力を消費させる駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1の発明において、第2閾値は、前記第1閾値よりも小さい値であり、前記充電量が前記駆動制御により前記第2閾値よりも低くなった場合には、前記駆動制御を停止させるように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または2の発明において、前記クラッチが解放状態に維持されて前記クラッチを係合することができず、かつ、前記充電量が前記第1閾値以下であっても前記充電量が前記第1閾値よりも高くなることが予測された場合には、前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかの発明において、前記第1モータに連結されたオイルポンプおよび補機をさらに備え、前記駆動制御される前記第1モータの回転方向は、前記オイルポンプおよび前記補機を駆動させる回転方向であることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかの発明において、前記動力分割機構は、前記回転要素としてサンギヤとキャリヤとリングギヤとを有するシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、前記第3回転要素は、前記サンギヤおよび前記リングギヤのうちのどちらか一方によって構成され、前記第1回転要素の回転数を前記第3回転要素の回転数よりも大きくするように前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項1から4のいずれかの発明において、前記動力分割機構は、前記回転要素としてサンギヤとキャリヤとリングギヤとを有するダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、前記第3回転要素は、前記サンギヤおよび前記キャリヤのうちのどちらか一方によって構成され、前記第1回転要素の回転数を前記第3回転要素の回転数よりも大きくするように前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【0016】
請求項7に係る発明は、請求項1から6のいずれかの発明において、前記車両が後進走行していない場合、前記駆動制御を実行できるように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【0017】
請求項8に係る発明は、請求項1から7のいずれかの発明において、前記車両が減速している場合、前記第2モータを回生制御するとともに前記駆動制御を実行するように構成されていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、エンジンから駆動輪に到る動力伝達経路中にクラッチを備えるハイブリッド車両において、意図せずクラッチが解放されたまま係合できなくなったとしても、充電量が第1閾値より大きくなった場合には、蓄電装置の電力を消費させるように第1モータを駆動させるように構成されているため、蓄電装置が過充電になることを回避することができる。したがって、第2モータを発電機として機能させて発電した電力を蓄電装置に充電することが可能であるため、例えば減速中に第2モータによる回生トルクを制動トルクとして駆動輪に伝達させることができる。さらに、第2モータを回生制御することによるモータトルクを制動トルクとして利用できるので、例えば下り坂などで車両が継続的に減速中に、ブレーキペダル操作を頻繁に行うことを低減でき、ブレーキの耐久性を向上させることができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、クラッチが係合不能な場合に、蓄電装置が過充電になることを回避することができるとともに、モータ走行する際に必要になる電力量を蓄電装置内に確保させておくことができる。すなわち、蓄電装置の充電状態をハイブリッド車両が走行可能かつ停車可能な状態に保つことができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、蓄電装置の充電量が第1閾値よりも高くなることが予測された場合に、予め過充電を回避するための駆動制御を実施することができる。例えばカーナビなどによる道路情報により、走行継続した場合の進路中に下り坂が含まれ、この坂が長距離や急傾斜である場合など、その下り坂を走行中に蓄電装置が過充電になりモータトルクを制動トルクとして利用できなくなることを回避することができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、第1モータを回転駆動させることによりオイルポンプおよび補機を駆動させることができるので、蓄電装置の電力消費量を増大させることができる。
【0022】
請求項5の発明によれば、動力分割機構がシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、かつ出力要素がサンギヤおよびリングギヤのうちのどちらか一方となるように構成されているので、第1モータに連結された回転要素が出力要素の回転数よりも高回転となるように第1モータを駆動制御することにより、動力分割機構によるエネルギ損失が増大するので、蓄電装置の電力消費量を増大させることができる。この場合、出力要素以外の回転要素が出力要素よりも高回転になるとともに、ピニオンギヤの自転回転数が増大するのでエネルギ損失を増大する。
【0023】
請求項6の発明によれば、動力分割機構がダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、かつ出力要素がサンギヤおよびキャリヤのうちのどちらか一方となるように構成されているので、第1モータに連結された回転要素がその出力要素の回転数よりも高回転となるように第1モータを駆動制御させることにより、動力分割機構によるエネルギ損失が増大するので、蓄電装置の電力消費量を増大させることができる。この場合、出力要素以外の回転要素が出力要素よりも高回転となるとともに、ピニオンの自転回転数が増大するのでエネルギ損失が増大する。
【0024】
請求項7の発明によれば、車両が前進走行する場合および停車時に、蓄電装置の電力を消費させるように第1モータを駆動制御することができ、蓄電装置が過充電になることを回避することができる。言い換えれば、後進走行する場合に、前述したように第1モータを駆動制御することを禁止させているので、後進時の駆動トルクを安定させることができる。例えば、後進走行かつ減速中に前述した第1モータの駆動制御を実施すると、第1モータによるトルクが、駆動輪において第2モータを回生制御することによる制動トルクとは反対方向に作用する。したがって、制動トルクが第1モータのトルクによって減じられてしまい制動力が低下してしまうことや、第1モータのトルクが制動トルクよりも大きく作用することにより後進方向に加速してしまうことを防止できる。
【0025】
請求項8の発明によれば、クラッチが解放された状態で第2モータで発電しながら第1モータで電力消費できるため、蓄電装置が過充電になることを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】この発明で対象とすることができるパワートレーン例の一部、および電子制御装置を示した説明図である。
図2】各走行モードにおけるクラッチの係合状態および解放状態を示した表図である。
図3】切り離しEVモードに設定された場合を示した共線図である。
図4図1に示すパワートレーンを搭載したハイブリッド車両の制御装置が実行する第1モータの駆動制御例を示したフローチャート図である。
図5】この発明で対象とすることができるパワートレーンの変形例の一部を示したスケルトン図である。
図6図5に示すパワートレーンを搭載したハイブリッド車両の制御装置が実行する第1モータの駆動制御例を示したフローチャート図である。
図7】サンギヤに第1モータ・ジェネレータが連結され、キャリヤにクラッチを介してエンジンが連結され、リングギヤに第2モータ・ジェネレータが連結されているシングルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図8】サンギヤにクラッチを介してエンジンが連結され、キャリヤに第1モータ・ジェネレータが連結され、リングギヤに第2モータ・ジェネレータが連結されているシングルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図9】サンギヤに第1モータ・ジェネレータが連結され、リングギヤにクラッチを介してエンジンが連結され、キャリヤに第2モータ・ジェネレータが連結されているダブルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図10】サンギヤにクラッチを介してエンジンが連結され、リングギヤに第1モータ・ジェネレータが連結され、キャリヤに第2モータ・ジェネレータが連結されているダブルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図11】サンギヤに第2モータ・ジェネレータが連結され、キャリヤにクラッチを介してエンジンが連結され、リングギヤに第1モータ・ジェネレータが連結されているシングルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図12】サンギヤに第2モータ・ジェネレータが連結され、キャリヤに第1モータ・ジェネレータが連結され、リングギヤにクラッチを介してエンジンが連結されているシングルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図13】サンギヤに第2モータ・ジェネレータが連結され、リングギヤにクラッチを介してエンジンが連結され、キャリヤに第1モータ・ジェネレータが連結されているダブルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図14】サンギヤに第2モータ・ジェネレータが連結され、リングギヤに第1モータ・ジェネレータが連結され、キャリヤにクラッチを介してエンジンが連結されているダブルピニオン型の遊星歯車機構により動力分割機構が構成されている場合、第1モータ・ジェネレータを駆動制御した状態を示した共線図である。
図15】車両が前進走行中に第1モータ・ジェネレータで電力を消費させる駆動制御を実行させる制御例を示したフローチャート図である。
図16】後進中に第2モータ・ジェネレータを回生制御するとともに第1モータ・ジェネレータを駆動制御させた状態の一例を示した共線図である。
図17】停車中に第1モータ・ジェネレータで電力を消費させる駆動制御を実行させる制御例を示したフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明を具体的に説明する。この発明は、動力源としてエンジンと発電機能を有するモータとを備えたハイブリッド車両を制御する装置である。この種の車両では、エンジンによる走行およびエンジンとモータとによる走行に加えて、モータのみを動力源として使用した走行やモータでエネルギ回生を行う走行などを行うことができる。さらに、モータでの走行中にエンジンを停止させ、またエンジンを再始動するなどの駆動形態に制御することが可能である。そのモータを動力源として走行するいわゆるEV走行では、エンジンを連れ回すことによる動力損失を抑制することが好ましい。また、動力源となる複数のモータを備える場合、かついずれかのモータで走行するEV走行の場合には、エンジンだけでなく、動力を出力しないモータを連れ回すことによる動力損失を低減することが好ましい。このような要請により、駆動輪に対して動力を伝達する動力伝達系統からエンジンを切り離すクラッチを設ける場合があり、この発明はこの種のクラッチを備えたハイブリッド車両を対象とする制御装置に適用される。
【0028】
図1には、この発明で対象とすることができるパワートレーンの一例を示してある。図1に示すように、この具体例におけるハイブリッド車両Veは、いわゆるツーモータ式と称されるものであって、動力源として、燃料を燃焼させて動力を出力するエンジン(ENG)1と、電力が供給されて動力を出力する機能と機械的な外力によって強制的に回転させられて発電する機能とを有する第1モータ・ジェネレータ(MG1)2および第2モータ・ジェネレータ(MG2)3とを備えている。エンジン1は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンやガスエンジンなど、燃料を使用する内燃機関である。各モータ・ジェネレータ2,3は、バッテリ25から電力を供給されて駆動し、あるいは発電した電力をバッテリ25へ供給するように構成されている。図1に示すように、各モータ・ジェネレータ2,3は、インバータ24を介して蓄電池などにより構成された蓄電装置(バッテリ)25および他方のモータ・ジェネレータと電気的に接続されている。
【0029】
また、図1に示すパワートレーン100では、エンジン1が出力した動力の一部を機械的手段によって駆動輪12に伝達する一方、エンジン1が出力した動力の他の一部を電力に一旦変換した後、機械的な動力に変換して駆動輪12に伝達するように構成されている。この具体例では、その機械的手段として動力分割機構6を備え、この動力分割機構6は、三つの回転要素によって差動作用を生じさせる差動機構によって構成され、例えばシングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。動力分割機構6は、三つの回転要素として、外歯歯車であるサンギヤ6Sと、そのサンギヤ6Sに対して同心円上に配置されたリングギヤ6Rと、これらサンギヤ6Sおよびリングギヤ6Rに噛み合っているピニオンギヤ6Pを自転および公転できるように保持しているキャリヤ6Cとを備えている。
【0030】
具体的には、動力分割機構6のキャリヤ6Cは、回転軸(入力軸)5と一体回転するように連結されている。また、エンジン1から駆動輪12に到るトルク伝達経路において、入力軸5とエンジン1の出力軸(クランクシャフト)4との間には、クラッチK0が設けられている。すなわち、エンジン1の動力で走行する場合、キャリヤ6Cは入力要素となる。また、クラッチK0は、エンジン1を動力分割機構6など含む動力伝達系統に対して連結し、あるいは動力伝達系統から切り離すためのものである。また、この具体例におけるクラッチK0は、伝達トルク容量が完全解放状態である「0」の状態からスリップのない完全係合状態までの間で連続的に変化する摩擦クラッチによって構成されている。なお、摩擦クラッチは、従来知られている乾式もしくは湿式のいずれであってもよく、また単板式あるいは多板式のいずれであってもよい。さらに、クラッチK0を係合および解放の状態に切り替えるアクチュエータは、油圧式アクチュエータや電磁式アクチュエータなどであってよい。例えば、従来の車両に採用されている乾式単板クラッチであれば、アクチュエータを非動作状態とすることにより、ダイヤフラムスプリングなどのいわゆるリターン機構によって係合状態が維持される。したがって、クラッチK0の伝達トルク容量は、クラッチK0を係合させ、あるいは解放させるためのアクチュエータの動作量に応じて変化し、両者の間には相関関係が成立している。より具体的には、アクチュエータの油圧あるいは電流値もしくはストローク量と、伝達トルク容量とはほぼ比例関係にあり、したがって伝達トルク容量はアクチュエータのストローク量や油圧などの動作量に対する値として予め定め、マップなどの形式で用意しておくことができる。なお、摩擦係数が経時的に変化すれば、伝達トルク容量と上記の動作量との関係は変化する。
【0031】
さらに、動力分割機構6のサンギヤ6Sには、第1モータ・ジェネレータ2のロータと一体回転するロータ軸7が一体回転するように連結されている。すなわち、サンギヤ6Sは、ロータ軸7を介して第1モータ・ジェネレータ2と連結されている。また、第1モータ・ジェネレータ2は、発電機能を有するモータであって、例えば永久磁石式の同期電動機などによって構成されている。さらに、動力分割機構6のリングギヤ6Rは出力ギヤ9と一体化され、パワートレーン100は出力ギヤ9から駆動輪12に向けて動力を出力するように構成されている。すなわち、出力ギヤ9は出力部材であって、軸部である出力軸8が、出力ギヤ9およびリングギヤ6Rと一体化されている。したがって、リングギヤ6Rは出力要素となり、エンジン1の動力で走行する場合にサンギヤ6Sは反力要素となる。なお、図1に示す例は、動力源から駆動輪12に到るパワートレーンの一部を示すものであり、出力ギヤ9から駆動輪12に動力を伝達するための機構は、デファレンシャルギヤやドライブシャフトを備えており、従来の車両と同様であるからその詳細はここでの説明を省略する。
【0032】
また、この具体例では、エンジン1と動力分割機構6と第1モータ・ジェネレータ2とは、回転中心軸線が同一軸線上に配列されており、その軸線の延長上に第2モータ・ジェネレータ3が配置されている。第2モータ・ジェネレータ3は、走行のための動力を発生し、またエネルギ回生を行うためのものであり、第1モータ・ジェネレータ2と同様に永久磁石式の同期電動機などによって構成されている。第2モータ・ジェネレータ3と前述した出力ギヤ9とは、ギヤ列により構成された減速機構10を介して連結されている。
【0033】
この具体例における減速機構10は、前述した動力分割機構6と同様にシングルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されており、サンギヤ10Sには第2モータ・ジェネレータ3のロータと一体回転するロータ軸11が一体回転するように連結されている。また減速機構10のキャリヤ10Cがハウジングなどの固定部に連結されて固定されており、さらにリングギヤ10Rが出力ギヤ9に一体化されている。すなわち、減速機構10のリングギヤ10Rは、出力軸8と一体化されており、動力分割機構6のリングギヤ6Rと一体回転する。したがって、第2モータ・ジェネレータ3から出力された動力は、減速機構10を介して出力ギヤ9から駆動輪12に向けて伝達されるように構成されている。
【0034】
また、この車両Veは、その車両Veを制御する電子制御装置(ECU)を搭載しており、その電子制御装置には、パワートレーン100を制御するハイブリッド用の電子制御装置(以下「HV−ECU」という)21と、エンジン用の電子制御装置(以下「ENG−ECU」という)22と、モータ・ジェネレータ用の電子制御装置(以下「MG−ECU」という)23とが含まれる。この各ECUは、マイクロコンピュータを主体にして構成され、入力されたデータおよび予め記憶させられているデータを使用して演算を行い、その演算結果を制御指令信号として出力するように構成されている。したがって、HV−ECU21は、ENG−ECU22やMG−ECU23に制御指令信号を出力して、後述する各種の制御を実行するように構成されている。また、パワートレーン100は、エンジン1と各モータ・ジェネレータ2,3とクラッチK0と動力分割機構6とを含むように構成されており、HV−ECU21が、クラッチK0のアクチュエータに制御指令信号を出力し、クラッチK0の動作および状態を制御するように構成されている。
【0035】
ENG−ECU22は、各種の演算結果をエンジン制御用の指令信号としてエンジン1に出力し、エンジン1を駆動制御するように構成されている。したがって、エンジン1は、その出力および起動・停止が電気的に制御されるように構成され、例えばガソリンエンジンであれば、スロットル開度や燃料の供給量、燃料の供給の停止、点火の実行および停止、点火時期などが電気的に制御されるように構成されている。
【0036】
また、MG−ECU23は、各種の演算結果をモータ・ジェネレータ制御用の指令信号としてインバータ24に出力するように構成されている。したがって、各モータ・ジェネレータ2,3は、MG−ECU23によってインバータ24の電流が制御されることにより、モータあるいは発電機として機能し、またモータ機能を発揮する場合と発電機能を発揮する場合のそれぞれでトルクが制御されるように構成されている。なお、各ECU21,22,23を特に区別しない場合には、単にECUと記載して説明する場合がある。
【0037】
そのECUの制御により、図1に示すハイブリッド駆動装置では、エンジン1の動力で走行するハイブリッド走行モード(HVモード)と、電力で走行する電気車両走行モード(EVモード)とを設定することができる。さらに、EVモードとしては、エンジン1を動力伝達系統から切り離した「切り離しEVモード」と、エンジン1を動力伝達系統に連結した「通常モード」とを設定することができる。すなわち、クラッチK0の状態に応じて各モードにい切り替えられ、これらの各走行モードを設定する際のクラッチK0の係合および解放の状態を図2にまとめて示してある。図2に示すように、切り離しEVモードでは、クラッチK0は解放させられ、これに対して通常EVモードおよびHVモードでは、クラッチK0は係合させられる。
【0038】
また、それらの各走行モードは、アクセル開度などの駆動要求量や車速、バッテリ25の充電量(SOC:State Of Charge)などの車両の走行状態に応じて選択される。例えば車両がある程度の速い速度で走行し、かつアクセル開度がその車速を維持するべくある程度大きくなっている場合には、HVモードが設定される。これに対して、SOCが十分に大きく、かつアクセル開度が比較的小さい場合、あるいは自動停止しているエンジン1を再始動する可能性が高い走行状態の場合などには、通常EVモードが設定される。さらに、例えば運転者のマニュアル操作でEVモードが選択され、あるいは電力のみで走行可能であり、かつ第1モータ・ジェネレータ2を連れ回すことによる動力損失を抑制する必要がある場合などにおいては、切り離しEVモードが選択される。
【0039】
ここで各走行モードにおけるハイブリッド駆動装置の動作状態を簡単に説明する。図3は、動力分割機構6についての共線図であり、この共線図は、回転要素であるサンギヤ6Sとキャリヤ6Cとリングギヤ6Rとを縦線で示し、それらの間隔を動力分割機構6を構成している遊星歯車機構のギヤ比に対応する間隔とし、さらにそれぞれの縦線において横線に対する上下方向を回転方向、その上下方向での位置を回転数としたものである。この図3に示す共線図は、切り離しEVモードでの動作状態を示しており、この走行モードでは、第2モータ・ジェネレータ3をモータとして機能させてその動力で走行し、エンジン1はクラッチK0が解放させられて動力伝達系統から切り離されて停止しており、また第1モータ・ジェネレータ2も停止している。したがって、サンギヤ6Sの回転が止まっており、これに対してリングギヤ6Rが出力ギヤ9と共に正回転して、キャリヤ6Cはリングギヤ6Rの回転数に対して遊星歯車機構のギヤ比に応じて減速させられた回転数で正回転する。
【0040】
また、共線図としては図示しないが、通常EVモードにおける動作状態では、第2モータ・ジェネレータ3の動力で走行し、かつエンジン1は停止させられるから、キャリヤ6Cが固定されている状態で、リングギヤ6Rが正回転し、かつサンギヤ6Sが逆回転する。この場合には、第1モータ・ジェネレータ2を発電機として機能させることもできる。
【0041】
さらに、HVモードにおける動作状態では、クラッチK0が係合させられた状態でエンジン1が動力を出力しているからキャリヤ6Cにはこれを正回転させる方向にトルクが作用している。この状態で、第1モータ・ジェネレータ2を発電機として機能させることにより、サンギヤ6Sには逆回転方向のトルクが作用する。その結果、リングギヤ6Rにはこれを正回転させる方向のトルクが現れる。この場合、第1モータ・ジェネレータ2で発電された電力が第2モータ・ジェネレータ3に供給されて第2モータ・ジェネレータ3がモータとして機能し、その動力が出力ギヤ9に伝達される。したがって、HVモードでは、前述したように、エンジン1が出力した動力の一部が動力分割機構6を介して出力ギヤ9に伝達されるとともに、残余の動力が第1モータ・ジェネレータ2に伝達されてその第1モータ・ジェネレータ2で電力に変換された後、その電力が供給された第2モータ・ジェネレータ3において機械的な動力に変換させられて出力ギヤ9に伝達される。なお、いずれの走行モードにおいても、減速時など積極的に動力を出力する必要がない場合には、いずれかのモータ・ジェネレータ2,3が発電機として機能させられてエネルギ回生が行われる。
【0042】
上述したように、この発明で対象とするハイブリッド車両では、クラッチK0を解放して電力で走行することが可能であり、例えばバッテリ25のSOCが低下した場合や要求駆動力が増大した場合には、エンジン1を始動してその動力をクラッチK0を介して動力伝達系統に伝達することになる。すなわち、EVモード中にバッテリ25の電力を消費することによりSOCが低下するので、そのSOCを上昇させるためにモータを発電機として機能させるように制御することが行われる。この具体例におけるハイブリッド車両は、ツーモータ式であるため、両方のモータ・ジェネレータを回生制御することや、一方のモータ・ジェネレータを回生制御して他方のモータ・ジェネレータを力行制御すること、あるいは一方のモータ・ジェネレータを回生制御して他方のモータ・ジェネレータを訂正させる制御を行うことができる。したがって、この発明の具体例におけるハイブリッド車両の制御装置では、クラッチK0を動作させることができない故障が生じた場合など、何らかの不具合が生じたことによりクラッチK0が解放された状態に維持されてしまい係合できない場合には、以下に説明する制御を実行するように構成されている。
【0043】
ここでは、図4を参照して、クラッチK0が解放状態に維持されている場合の制御について説明する。図4に示すように、まずECUは、クラッチK0が解放状態に維持されたまま係合状態に切り替えることができないか否かを判断する(ステップS1)。このステップS1の処理により、クラッチK0が故障したことやアクチュエータに何らかの不具合が生じた場合などにより、そのクラッチK0が解放状態でロックされている状態であるかを判断するように構成されている。例えばアクチュエータの所定の指令信号を出力しているにも拘わらずアクチュエータが正常に作動しない場合などの異常を検出することにより、クラッチK0が解放されたままとなり係合させることができないロック状態であると判断できるように構成されてもよい。すなわち、クラッチK0を正常に動作できない異常状態を検出することができるように構成されていればよく、その異常原因がクラッチK0自体であるかアクチュエータであるかは問わない。そのクラッチK0が解放状態でロックされていないことによりステップS1で否定的に判断された場合、このルーチンを終了する。
【0044】
一方、クラッチK0が解放状態でロックされていないことによりステップS1で肯定的に判断された場合、バッテリ25のSOCが所定の第1閾値以上であるか否かを判断する(ステップS2)。この第1閾値は、比較的に高い値であり、例えばバッテリ25が過充電となることを防止するために予め設定された所定値であってもよい。また、ステップS2の処理は、今後の走行経路情報などにより走行を継続した場合、例えば降坂路が続くことが予測された場合など、SOCが第1閾値以上になることが予測されるか否かを判断するように構成されてもよい。SOCが第1閾値以上であることによりステップS2で肯定的に判断された場合には、ステップS4に進む。他方、そのSOCが第1閾値よりも小さいことによりステップS2で否定的に判断された場合、車両Veが減速中であることを示す減速フラグがオン状態であるか否かを判断する(ステップS3)。減速フラグは、例えば運転者によりブレーキペダルが踏み込まれたことを検出することによりECUの記憶装置に記憶され、このステップS3の処理によりその記憶装置内のデータを参照することにより減速フラグの有無やその種別を判別するように構成されてもよい。言い換えれば、そのステップS3の処理は、車両Veが減速中であるか否かを判断することができるように構成されていればよく、第2モータ・ジェネレータ3の回転数やドライブシャフトの回転数などにより減速中であるか否かを判断するように構成されてもよい。その減速フラグがオフ状態、すなわち車両Veが減速中ではないことによりステップS3で否定的に判断された場合、このルーチンを終了する。
【0045】
また、その減速フラグがオン状態であることによりステップS3で肯定的に判断された場合、第1モータ・ジェネレータ2を駆動させる(ステップS4)。例えば、このステップS4の処理により、ECUが第1モータ・ジェネレータ2を駆動させる制御指令信号を出力し、第1モータ・ジェネレータ2がバッテリ25の電力を消費するように駆動させるように構成されている。すなわち、この制御により、バッテリ25のSOCを低下させる制御が実行される。
【0046】
そして、第1モータ・ジェネレータ2を駆動制御することにより、バッテリ25のSOCが所定の第2閾値以下となったか否かを判断する(ステップS5)。この第2閾値は、前述した第1閾値よりも小さい値である。SOCが第2閾値よりも高い場合にはリターンしてステップS5での判断処理を繰り返す。一方、SOCが第2閾値以下であることによりステップS5で肯定的に判断された場合、駆動状態の第1モータ・ジェネレータ2を停止させる(ステップS6)。例えば、このステップS6の処理により、第1モータ・ジェネレータ2を停止させる制御信号を出力するように構成されている。
【0047】
以上説明した通り、この具体例におけるハイブリッド車両の制御装置によれば、ツーモータ式のハイブリッド車両において、何らかの不具合が生じたことによってエンジンと駆動輪との間に設けられたクラッチが解放状態にロックされてしまい係合できない場合に、モータを電力消費させるように駆動させるように構成されているので、バッテリの充電量が過充電の状態になることを回避することができる。これにより、バッテリが過充電状態になりモータを回生制御できなくなる状態に到ることを回避することができるので、その回生制御による回生トルクを駆動輪に制動トルクとして作用させることが可能な車両状態に維持させることができるようになる。
【0048】
さらに、この発明におけるハイブリッド車両の制御装置は、前述した具体例とは異なり、第1モータ・ジェネレータが駆動することによりオイルポンプや補機が駆動するように構成された車両を対象とすることができる。その一例として、図5には、この発明で対象とすることができるパワートレーンの変形例を示してある。図5に示すように、この具体例におけるパワートレーン200では、オイルポンプ13および補機14は、入力軸5と一体回転し、かつ動力分割機構6のキャリヤ6Cと一体回転するように構成されているとともに、第1モータ・ジェネレータ2に連結されている。より詳細には、第1モータ・ジェネレータ2のロータ軸が動力分割機構6のサンギヤ6Sと一体回転するように構成されているので、オイルポンプ13および補機14は、動力分割機構6を介して第1モータ・ジェネレータ2に連結されている。すなわち、オイルポンプ13および補機14は、エンジン1から駆動輪12に到る動力伝達経路において、そのK0クラッチよりも駆動輪12側に設けられた入力軸5と一体回転するように構成されているため、例えばクラッチK0が解放している場合であっても第1モータ・ジェネレータ2からの回転が伝達させるように構成されており、その第1モータ・ジェネレータ2により駆動するように構成されている。したがって、オイルポンプ13および補機14は入力軸5が回転することにより駆動するように構成され、クラッチK0が解放している場合には、第1モータ・ジェネレータ2が正回転方向に回転することによりオイルポンプ13および補機14が駆動し、あるいはクラッチK0が係合している場合にはエンジン1が駆動することによりオイルポンプ13および補機14が駆動するように構成されている。なお、この具体例では、第1モータ・ジェネレータ2は、軸線方向で動力分割機構6に対してエンジン1側に配置されており、オイルポンプ13および補機14は、軸線方向で動力分割機構6に対して第1モータ・ジェネレータ2とは反対側に配置されている。また、補機14には、図示しない吸排気装置や潤滑装置や冷却装置などが含まれていてもよい。
【0049】
また、図5に示す例における第1モータ・ジェネレータ2の駆動制御フローの一例を図6に示してある。この図6に示す制御フローでは、図4を参照して前述した制御フローと同様の処理構成を備えている。具体的には、前述したステップS1,S2,S3,S5,S6の処理は、この変形例の処理においても同様に構成されている。したがって、この具体例における制御フローでは、バッテリ25のSOCが第1閾値以上である場合(ステップS2:Yes)、あるいは減速フラグがオン状態である場合(ステップS3:Yes)には、オイルポンプ13や補機14が駆動する回転方向に第1モータ・ジェネレータ2を駆動させる(ステップS11)ように構成されている。つまり、この駆動制御によって駆動される第1モータ・ジェネレータ2におけるロータの回転方向は、オイルポンプ13や補機14が逆転しない方向、すなわち、オイルポンプ13および補機14が駆動する回転方向である。したがって、この変形例により、第1モータ・ジェネレータ2にオイルポンプ13および補機14が連結されていることにより、第1モータ・ジェネレータ2を駆動させる際の負荷が増大するので、その第1モータ・ジェネレータ2を駆動させることによる電力消費を増大させることができる。
【0050】
また、図1を参照して前述した具体例では、図7に示す共線図の状態のように動力分割機構6における各回転要素と構成されている。この発明で対象とすることができる車両には、複数の回転要素を有する遊星歯車機構により構成された動力分割機構が、前述した具体例とは異なるように構成されたものが含まれ、さらに各回転要素とそれに連結されたエンジンおよび二つのモータの組み合わせが前述した具体例とは異なるように構成されたものが含まれる。ここでは、共線図を用いてその変形例における構成について説明し、ここで説明する変形例では、共線図における三本の縦線のうち右端あるいは左端に配置された縦線に該当する回転要素が、前述した出力ギヤ9および第2モータ・ジェネレータ3に連結されているように構成されている。さらに、エンジン1から駆動輪12に到る動力伝達経路中に前述したクラッチK0が設けられ、かつそのクラッチK0が解放状態にある場合について説明する。なお、ここで説明する変形例において、前述した具体例と同様の構成については説明を省略するとともにその参照符号を引用して説明する。
【0051】
まず、共線図における右端の縦線で表現できる回転要素が、出力要素となり出力ギヤ(OUT)9および第2モータ・ジェネレータ(MG2)3に連結された構成例について説明する。この場合、図7から図10に示す共線図の状態となるように構成された例が含まれる。例えば、図8に示す例は、図7に示す例と同様に、動力分割機構6が、シングルピニオン型の遊星歯車機構により構成され、図示するように左側からサンギヤ6S,キャリヤ6C,リングギヤ6Rが配置され、右端の縦線に該当するリングギヤ6Rが出力要素となるように構成されている。この場合、図7に示す例では、サンギヤSに第1モータ・ジェネレータ2が連結され、かつキャリヤCにクラッチK0を介してエンジン1が連結されており、図8に示す例では、キャリヤCに第1モータ・ジェネレータ2が連結され、かつサンギヤSにクラッチK0を介してエンジン1が連結されるように構成されている。また、動力分割機構が、三つの回転要素としてサンギヤSとリングギヤRとキャリヤCとを有するダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている場合には、図9および図10に示す例のように左側からサンギヤS,リングギヤR,キャリヤCの並びで各回転要素が配置され、右端の縦線に該当するキャリヤCが出力要素となるように構成されている。この場合、図9に示す例では、サンギヤSに第1モータ・ジェネレータ(MG1)2を連結させ、かつリングギヤRにクラッチK0を介してエンジン(ENG)1が連結されており、図10に示す例では、リングギヤRに第1モータ・ジェネレータ2が連結され、かつサンギヤSにクラッチK0を介してエンジン1が連結されるように構成されている。
【0052】
一方、前述した例とは反対に共線図における左端の縦線で表現できる回転要素に出力ギヤ(OUT)9および第2モータ・ジェネレータ(MG2)3が連結された構成例について、図11から図14に示す共線図を参照して説明する。図11および図12に示す例では、前述した図7および図8に示す例と同様にシングルピニオン型の遊星歯車機構により構成された動力分割機構6を備え、左端の縦線に該当するサンギヤ6Sが出力要素となるように構成されている。この場合、図11に示す例では、リングギヤRに第1モータ・ジェネレータ2が連結され、かつキャリヤCにクラッチK0を介してエンジン1が連結されており、図12に示す例では、キャリヤCに第1モータ・ジェネレータ2が連結され、かつリングギヤRにクラッチK0を介してエンジン1が連結されるように構成されている。また、図13および図14に示す例では、前述した図9および図10に示す例と同様にダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成された動力分割機構を備え、左側の縦線に該当するサンギヤSが出力要素となるように構成されている。この場合、図13に示す例では、キャリヤCに第1モータ・ジェネレータ2が連結され、かつリングギヤRにクラッチK0を介してエンジン1が連結されており、図14に示す例では、リングギヤRに第1モータ・ジェネレータ2が連結され、かつキャリヤCにクラッチK0を介してエンジン1が連結されるように構成されている。
【0053】
上述したように、図7から図14に示す例では、共線図における左右いずれか一方の縦線に該当する回転要素が出力要素となるように構成されているため、それ以外の回転要素に連結された第1モータ・ジェネレータ2の回転数がその出力要素となる回転要素の回転数よりも高回転状態となる場合では、その動力分割機構における出力要素以外の全ての回転要素がその出力要素よりも高回転状態となる。したがって、その図7から図14に示す例ではクラッチK0が解放している状態を示しているので、そのクラッチK0が解放状態において第1モータ・ジェネレータ2が正方向に回転しかつ正方向のトルクを出力するように駆動制御することによりバッテリ25の電力を消費させることができる。つまり、この発明におけるハイブリッド車両の制御装置では、エンジン1を始動(クランキング)させるため、あるいはエンジン1の回転数を制御するため以外の目的で第1モータ・ジェネレータ2を駆動制御するように構成されており、エンジン1と動力伝達系統とを接続させるクラッチK0が解放されてその接続が遮断されている状態で電力を消費させるために第1モータ・ジェネレータ2を駆動させるように構成されている。さらに、前述したように、MG1回転数が出力要素の回転数よりも高回転となるように第1モータ・ジェネレータ2を駆動制御させることにより、その電力消費量を増大させることができる。なお、図7から図14および後述する図16において、横線と接するように記載された黒点は、停止中のエンジン1を示し、エンジン1の回転が停止していることを示している。
【0054】
加えて、その遊星歯車機構により構成された動力分割機構は、それがシングルピニオン型であるかダブルピニオン型であるかを問わず、図7から図14に示す共線図の状態では、各回転要素の回転状態を示す実線Lの傾きが大きくなるほどに、ピニオンギヤPの自転回転数が高回転状態となる。例えば、図7に示す共線図を用いてピニオンギヤPの自転回転数を説明すると、ピニオンギヤPに該当する縦線を回転要素を示す縦線の右端に示し、そのピニオンギヤPの縦線と前述した実線Lとの交点X1、横線から交点X1までを長さY1として、またキャリヤCに該当する縦線と実線Lとの交点X2、横線から交点X2までを長さY2とした場合、ピニオンギヤPの自転回転数は、長さY2と長さY1との偏差により表される。したがって、MG1回転数が出力要素の回転数よりも大きい状態で、そのMG1回転数と出力要素の回転数との差分が大きくなるように第1モータ・ジェネレータ2を駆動させることにより、実線Lの傾きは大きくなるのでピニオンギヤPの自転回転数が増大して、第1モータ・ジェネレータ2の負荷が増大し電力消費量が増大する。したがって、図7から図14に示す例では、クラッチK0が解放状態で第1モータ・ジェネレータ2をエネルギ損失が増大する方向へ駆動させるので、バッテリ25のSOC消費率が大きくなり、バッテリ25が過充電状態になることを回避することができる。
【0055】
また、この発明の一例におけるハイブリッド車両の制御装置では、車両Veが後進走行する場合に、前述したようなクラッチK0が解放状態でロックされている状況下でバッテリ25の電力消費を促進させるように第1モータ・ジェネレータ2を駆動制御することを禁止させるように構成されている。その後進走行中に第1モータ・ジェネレータ2を電力消費させるように駆動制御することを禁止する制御例の一例を図15に制御フローとして示してある。なお、図15に示す制御例において、図4を参照して前述した制御処理と同様の構成についてはその説明を省略する。
【0056】
具体的には、図15に示す制御例では、バッテリ25のSOCが第1閾値以上である場合(ステップS2:Yes)、あるいは減速フラグがオン状態である場合(ステップS3:Yes)には、車両Veが後進走行中であるか否かを判断する(ステップS21)。例えば、ステップS21の処理では、出力ギヤ9の回転方向や出力軸8の回転方向、あるいは第2モータ・ジェネレータ3の回転方向によって車両Veが後進走行中であるか否かを判断するように構成されていてもよい。すなわち、出力軸8が負回転方向に回転していることを検知した場合などに車両Veが後進走行中であると判断される。つまり、ステップS21における処理は、車両Veが後進走行中であることを識別できる後進フラグがオン状態であるか否かを判断するように構成されてもよい。車両Veが後進走行していることによりステップS21で肯定的に判断された場合、このルーチンを終了する。また、そのステップS21で肯定的に判断された場合には、第1モータ・ジェネレータ2を前述したようにバッテリ25の電力を消費させるように駆動させることを禁止するための指令信号を出力するように構成されてもよい。一方、車両Veが後進走行中でないことによりステップS21で否定的に判断された場合には、前述したステップS4に進み、第1モータ・ジェネレータ2をバッテリ25の電力を消費させるように駆動させる駆動制御を実施するように構成されている。なお、そのステップS21で否定的に判断された場合には、車両Veが前進走行している場合が含まれる。
【0057】
例えば、車両Veが後進走行中に電力を消費させるように第1モータ・ジェネレータ2を駆動制御した場合には、そのMG1トルクが車両Veを後進方向に加速させる駆動トルクとして伝達されてしまい、運転者が意図しない加速が生じてしまう可能性がある。例えば、図16に示すように、後進走行かつ減速中に前述した第1モータ・ジェネレータ2をバッテリ25の電力を消費させる駆動制御を実施すると、第1モータ・ジェネレータ2のトルクが梃子作用によって出力要素であるリングギヤRに負方向のトルクとして作用するため、このリングギヤRでは、各モータ・ジェネレータ2,3によるトルクがそれぞれ反対向きに作用する。このため、第1モータ・ジェネレータ2によるトルクによってその第2モータ・ジェネレータ3による制動トルクが減じられて回生制動力が低下してしまう場合や、第1モータ・ジェネレータ2によるトルクが制動トルクよりも大きく作用することにより後進方向に加速してしまう場合がある。なお、図16に示す状態では、エンジン1と動力分割機構6との間に設けられたクラッチK0を解放させているのでエンジン1とキャリヤCとの間でトルクの伝達が遮断されている。
【0058】
しかしながら、図15を参照して前述したように、この具体例によれば、車両Veが後進走行中に前述した第1モータ・ジェネレータ2の駆動制御を実行しないように制御できる構成を備えていることにより、車両Veが後進走行中にMG1トルクにより車両Veの挙動が運転者の意図しないものになることを回避することができる。特に車両Veが後進走行中かつ減速中に、前述したような第1モータ・ジェネレータ2の駆動制御を禁止させる構成を備えていることにより、第2モータ・ジェネレータ3から出力されるMG2トルク(回生トルク)を制動力として駆動輪12に作用させることができる。すなわち、後進走行中にMG1トルクによる影響が低減された状態でMG2トルクを制動トルクとして利用することができ、第2モータ・ジェネレータ3による回生トルクを要求制動力を満たす制動トルクとして駆動輪12に作用させることができる。
【0059】
また、この発明の一例におけるハイブリッド車両の制御装置では、車両Veが停車中に、バッテリ25の電力を消費させるように第1モータ・ジェネレータ2を駆動制御するように構成することができる。その制御例を図17に示し、ここでは、図17を参照して具体的に説明するとともに、前述した具体例と同様の構成については説明を省略しその参照符号を引用して説明する。図17に示すように、クラッチK0が解放状態でロックされていることによりステップS1で肯定的に判断された場合、バッテリ25のSOCが所定の第1閾値以上であるか否かを判断する(ステップS31)。第1閾値とは、比較的に高い値であり、例えばバッテリ25が過充電となることを防止するために予め設定された所定値であってもよい。なお、このステップS31の処理における第1閾値は、図6を参照して前述したステップS2の処理における第1閾値とは異なる値に設定されてもよい。SOCが第閾値よりも低いことによりステップS31で否定的に判断された場合、このルーチンは終了する。
【0060】
一方、SOCが第1閾値以上であることによりステップS31で肯定的に判断された場合、車両Veが停車中であるか否かを判断する(ステップS32)。このステップS32の処理は、出力軸8の回転数がゼロもしくはゼロ回転付近の回転数であって予め設定された所定回転数以内であるか否かを判断するように構成されてもよい。車両Veが停車中でいないこと、すなわち走行中であることによりステップS32で否定的に判断された場合には、このルーチンを終了する。一方、車両Veが停車中であることによりステップS32で肯定的に判断された場合、バッテリ25の電力を消費させるように第1モータ・ジェネレータ2を駆動させる(ステップS33)。このステップS33による駆動制御処理は、例えば図5に示すパワートレーン例を備えている場合には、第1モータ・ジェネレータ2がオイルポンプ13や補機14を駆動させる回転方向すなわちそれらオイルポンプ13等を逆転させない方向に駆動制御される。言い換えれば、このステップS33は、前述した図6に示すステップS11の処理構成と同様に構成することができる。
【0061】
そして、第1モータ・ジェネレータ2を駆動制御することにより、SOCが所定の第2閾値以下となったか否かを判断する(ステップS34)。このステップS34における第2閾値は、前述したステップS31における第1閾値よりも小さい値であって、図6を参照して前述したステップS2における第2閾値とは異なる値に設定されてもよい。この場合、このステップS34における第2閾値は、そのステップS2における第2閾値よりも大きい値に設定されてもよい。このように、停車中に設定される第2閾値を走行中に設定される第2閾値よりも大きい値とすることで、停車後の発進時に車両Veがモータ走行することができるためのSOCを確保させておくことができる。SOCが第2閾値よりも高いことによりステップS34で否定的に判断された場合にはリターンしてステップS34の判断処理を繰り返す。一方、SOCが第2閾値以下であることによりステップS34で肯定的に判断された場合には、ステップS6に進み、ステップS33の制御により駆動されている第1モータ・ジェネレータ2を停止させる。
【0062】
さらに、この発明の変形例におけるハイブリッド車両の制御装置として、車両Veに設けられた所定の手動スイッチが運転者により操作されたことを検知した場合に、前述した停車時の駆動制御を開始するように構成されてもよい。その手動スイッチは、例えば車室内の運転席の周辺に設けられており、運転者により手動操作を受け付けるように構成された検知手段である。例えば、運転者によりその手動スイッチがオン状態に操作された場合、その手動操作を検知することにより、前述した図17に示すステップS33における駆動制御を実行するように構成されている。なお、この手動スイッチを検知することにより駆動制御を開始する場合であっても、SOCが前述した第2閾値以下となった場合には、前述したステップS6の制御により第1モータ・ジェネレータ2の駆動を停止させるように構成されている。
【0063】
ここで、この発明におけるハイブリッド車両の制御装置と、上述した具体例との対応関係について説明すると、この発明における第1モータは前述した具体例における第1モータ・ジェネレータ2に相当し、この発明における第2モータは前述した具体例における第2モータ・ジェネレータ3に相当する。
【0064】
以上説明したように、各具体例におけるハイブリッド車両の制御装置によれば、エンジンから駆動輪に到る動力伝達経路中にクラッチを備えるハイブリッド車両において、そのクラッチが解放状態に維持された係合できない状態が生じたとしても、充電量が第1閾値より大きくなった場合にバッテリの電力を消費させるように第1モータ・ジェネレータを駆動させるように構成されているため、バッテリが過充電になることを回避することができる。そのため、第2モータ・ジェネレータを発電機として機能させて発電した電力をバッテリに充電することが可能であるため、例えば減速中に第2モータ・ジェネレータによる回生トルクを制動トルクとして駆動輪に伝達させることができる。このように第2モータ・ジェネレータを回生制御することによるMG2トルクを制動トルクとして利用できるので、例えば降坂路などで車両が継続的に減速する場合に、ブレーキペダル操作を頻繁に行うことを低減でき、ブレーキの耐久性を向上させることができる。さらに、そのクラッチが係合不能な場合に、バッテリが過充電になることを回避することができるとともに、モータ走行する際に必要になる電力量をバッテリ内に確保させておくことができる。すなわち、SOCをハイブリッド車両が走行可能かつ停車可能な状態に保つことができる。
【0065】
また、バッテリの充電量が第1閾値よりも高くなることが予測された場合に、予め過充電を回避するための駆動制御を実施することができる。例えばカーナビなどによる道路情報により、走行継続した場合の進路中に降坂路が含まれる場合、例えばその降坂路が長距離や急傾斜である場合など、かつクラッチが解放状態にロックされている場合であっても、その降坂路を走行中にバッテリが過充電状態になりモータトルクを制動トルクとして利用できなくなることを回避することができる。
【0066】
なお、動力源を構成しているエンジンと、第1モータ・ジェネレータと、第2モータ・ジェネレータとの動力性能もしくは駆動特性は互いに異なっている。例えば、エンジンは、低トルクかつ低回転数の領域から高トルクかつ高回転数の領域までの広い運転領域で運転でき、またエネルギ効率はトルクおよび回転数がある程度高い領域で良好になる。これに対してエンジンの回転数やエンジンの回転を停止させる際のクランク角度などの制御および駆動トルクとして作用する動力を出力する第1モータ・ジェネレータは、低回転数で大きいトルクを出力する特性を有する。また、駆動輪へトルクを出力する第2モータ・ジェネレータは、第1モータ・ジェネレータよりも高回転数で運転でき、かつ最大トルクが第1モータ・ジェネレータよりも小さい特性を有する。そのため、この発明で対象とする車両は、動力源を構成しているエンジンや各モータ・ジェネレータを有効に利用して、エネルギ効率あるいは燃費が良好になるように制御される。
【符号の説明】
【0067】
1…エンジン(ENG)、 2…第1モータ・ジェネレータ(MG1)、 3…第2モータ・ジェネレータ(MG2)、 4…出力軸(クランクシャフト)、 5…入力軸、 6…動力分割機構、 6S…サンギヤ、 6C…キャリヤ、 6R…リングギヤ、 6P…ピニオンギヤ、 7…ロータ軸、 8…出力軸、 9…出力ギヤ、 10…減速機構、 11…ロータ軸、 13…オイルポンプ、 K0…クラッチ。
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