(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シートクッションのフレームが備える左右のサイドフレーム間に架け渡され、前記エアバッグを下方側から支持する反力板を有し、当該反力板の左右両端部には、シート幅方向外側へ向かうほど上昇するように傾斜した傾斜面がそれぞれ形成され、左右の前記傾斜面上に前記左右の副室が配設されている請求項1に記載の車両用乗員保護装置。
前記エアバッグにおける前記左右の副室を構成する部分は、折られた状態で前記左右のサイドサポート部内に設けられている請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の車両用乗員保護装置。
前記サイドサポート部の側面には、前記シートクッションのシート表皮よりも高剛性に形成された補強板が配設されている請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の車両用乗員保護装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如き車両用乗員保護装置では、前面衝突の形態に応じて左右のエアバッグの作動・非作動を切換制御する必要があるため、制御装置の構成を簡素化する観点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、非対称衝突時に乗員が車両用シートに対して変位することを抑制できると共に、制御装置の構成を簡素化することができる車両用乗員保護装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る車両用乗員保護装置は、シートクッションの座面部の左右両側に上方へ張り出した左右のサイドサポート部が設けられた車両用シートと、前記車両用シートに設けられ、作動することによりガスを発生させるインフレータと、車両の前面衝突を検知又は予知した場合に前記インフレータを作動させる制御装置と、前記座面部内の前部に膨張可能に設けられると共にシート幅方向中央部で左右に区画され、前記インフレータからのガスが供給される左右の主室、及び、
前記左右の主室からシート幅方向外側へ突出して前記左右のサイドサポート部内に膨張可能に設けられると共に
前記左右の主室との間に形成された左右の連通部を介して前記左右の主室に連通された左右の副室を有するエアバッグと、を備えている。
【0007】
なお、請求項1に記載の「座面部内の前部」における「前部」は、座面部を前部と後部とに2等分する場合の前部のことである。また、請求項1において「座面部内の前部に膨張可能に設けられる」には、左右の主室の一部が座面部の後部側に位置している場合が含まれる。さらに、請求項1の「区画」には、左右の主室が分離している場合、すなわちエアバッグがシート幅方向中央部で左右に分割されている場合が含まれる。
【0008】
請求項1に記載の発明では、制御装置が車両の前面衝突を検知又は予知すると、インフレータが作動され、エアバッグの左右の主室にガスが供給される。これにより、左右の主室が膨張すると、シートクッションの座面部の前部が上昇する。ここで、前面衝突の形態が対称衝突である場合、乗員は前方へ慣性移動する。その際には、乗員がシートクッションに潜り込むような姿勢となる所謂サブマリン現象が生じることがあるが、上記のように座面部の前部が上昇することにより、サブマリン現象の発生を防止又は抑制することができる。
【0009】
一方、前面衝突の形態が非対称衝突である場合、乗員は衝突側へ向けて斜め前方へ慣性移動する。その際には、左右の主室のうち衝突側の主室が、乗員からの荷重によって押し潰されるが、左右の主室が区画されていることにより、衝突側の主室から反衝突側の主室へのガスの流れが規制される。それにより、衝突側の主室による乗員拘束力を保持することができる。
【0010】
しかも、衝突側の主室内のガスが、衝突側の連通部を通って衝突側の副室内へ流れ込み、衝突側の副室が膨張する。それにより、衝突側のサイドサポート部を押し上げることができるので、当該サイドサポート部からの反力を乗員に対して良好に付与することができる。以上のことから、本発明によれば、非対称衝突時に乗員が車両用シートに対して変位することを抑制できる。
【0011】
さらに、本発明では、上記のように乗員からの荷重を利用して衝突側の副室を膨張させるため、副室の膨張・非膨張を制御装置によって切換制御する必要がない。それにより、制御装置の構成を簡素化することができる。
【0012】
なお、請求項1に記載の発明は、制御装置の構成の簡素化に寄与することが可能なものであればよく、制御装置の構成が複雑なものを除外するものではない。つまり、請求項1に記載の構成要素を備える車両用乗員保護装置であれば、制御装置の構成が複雑なものであっても、請求項1に記載の発明の技術的範囲に含まれる。
【0013】
請求項2に記載の発明に係る車両用乗員保護装置は、請求項1において、前記シートクッションのフレームが備える左右のサイドフレーム間に架け渡され、前記エアバッグを下方側から支持する反力板を有し、当該反力板の左右両端部には、シート幅方向外側へ向かうほど上昇するように傾斜した傾斜面がそれぞれ形成され、左右の前記傾斜面上に前記左右の副室が配設されている。
【0014】
請求項2に記載の発明では、エアバッグが膨張する際には、上記反力板によってエアバッグに対し良好に膨張反力を付与することができる。しかも、この反力板が上記のような傾斜面を備えているので、エアバッグの副室を下方側及びシート幅方向外側から支持することができる。それにより、エアバッグの副室を上方側へ良好に膨張させることが可能になるので、サイドサポート部を効果的に押し上げることが可能になる。
【0015】
請求項3に記載の発明に係る車両用乗員保護装置は、請求項1又は請求項2において、前記シートクッションのシート表皮には、前記左右の副室の膨張によって伸ばされる左右の余長部が設けられている。
【0016】
請求項3に記載の発明では、エアバッグの副室が膨張する際には、シートクッションのシート表皮に設けられた余長部が伸びる。これにより、シート表皮に開裂部(ティアライン)等を設定することなく、サイドサポート部の効果的な押し上げが可能になる。
【0017】
請求項4に記載の発明に係る車両用乗員保護装置は、請求項3において、前記余長部は、前記座面部と前記左右のサイドサポート部との各境界部に設けられている。
【0018】
請求項4に記載の発明では、シートクッションのシート表皮が備える余長部は、座面部と左右のサイドサポート部との各境界部に設けられている。それにより、左右の余長部が目立たないようにすることができるので、シートクッションの外観を良好にすることができる。
【0019】
請求項5に記載の発明に係る車両用乗員保護装置は、請求項1〜請求項4の何れか1項において、前記左右の副室は、前記左右のサイドサポート部の前後方向中間部に設けられている。
【0020】
請求項5に記載の発明では、上記のように構成されているため、非対称衝突時に乗員が車両用シートに対して変位することを効果的に抑制することができる。つまり、通常時にはシートクッションの座面部の後部側に支持されている乗員の腰部が、非対称衝突時の衝撃によって斜め前方へ慣性移動する際には、衝突側のサイドサポート部の前後方向中間部に腰部が干渉する。この点、本発明では、左右のサイドサポート部の前後方向中間部にエアバッグの左右の副室が設けられている。これにより、衝突側の副室の膨張によって、衝突側のサイドサポート部の前後方向中間部が押し上げられるので、当該押し上げられた部位によって腰部の慣性移動を効果的に抑制することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明に係る車両用乗員保護装置は、請求項1〜請求項5の何れか1項において、前記エアバッグにおける前記左右の副室を構成する部分は、折られた状態で前記左右のサイドサポート部内に設けられている。
【0022】
請求項6に記載の発明では、エアバッグの主室から連通部を通って副室に流れ込もうとするガスの圧力が高くなると、エアバッグにおける上記折られた部分が展開することにより、副室の膨張が許容される。つまり、主室から連通部を通って副室に流れ込もうとするガスの圧力の大きさによって、副室の膨張・非膨張を切り換えることができる。それにより、例えば、対称衝突時に副室が不用意に膨張しないようにすることができる。
【0023】
請求項7に記載の発明に係る車両用乗員保護装置は、請求項1〜請求項6の何れか1項において、前記サイドサポート部の側面には、前記シートクッションのシート表皮よりも高剛性に形成された補強板が配設されている。
【0024】
請求項7に記載の発明では、上記の補強板によってサイドサポート部の側面が補強されるので、副室の膨張によって押し上げられたサイドサポート部が、乗員からの荷重によってシート幅方向外側へ倒れ込むことを抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明に係る車両用乗員保護装置では、非対称衝突時に乗員が車両用シートに対して変位することを抑制できると共に、制御装置の構成を簡素化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係る車両用乗員保護装置10について、
図1〜
図6に基づいて説明する。なお、各図に適宜記す矢印FR、矢印UP、矢印OUTは、車両の前方向(進行方向)、上方向、車幅方向の外側をそれぞれ示している。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、車両前後方向の前後、車両左右方向(車幅方向)の左右、車両上下方向の上下を示すものとする。
【0028】
(構成)
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用乗員保護装置10は、車両用シート12と、シートクッションエアバッグ装置14とによって構成されている。車両用シート12は、乗員Pの腰部L(ここでは臀部を含む)及び大腿部Dを支持するためのシートクッション16と、乗員Pの背部Bを支持するためのシートバック18と、乗員Pの頭部Hを支持するためのヘッドレスト20とによって構成されている。この車両用シート12の前後左右上下の方向は、車両の前後左右上下の方向と一致している。
【0029】
図2に示されるように、シートクッション16は、乗員Pが着座する座面部16A(一般部)の左右両側がそれぞれサイドサポート部16Bとされている。左右のサイドサポート部16Bは、座面部16Aに対する腰部L及び大腿部Dの横ずれを抑えるためのものであり、座面部16Aよりも上方へ張り出している。左右のサイドサポート部16Bには、シートクッション16のフレームであるシートクッションフレーム22が備える左右のサイドフレーム24が配設されている。
【0030】
左右のサイドフレーム24は、前端部がフロントフレーム26(
図4参照)によってシート幅方向に連結されており、後端部が図示しないリヤフレームによってシート幅方向に連結されている。フロントフレーム26とリヤフレームとの間には、Sバネによって構成された複数のシートクッションスプリング28(
図4参照)が掛け渡されている。なお、本実施形態では、左右のサイドフレーム24及びフロントフレーム26が板金によって構成されており、上記リヤフレームがパイプ材によって構成されている。
【0031】
また、本実施形態では、フロントフレーム26を構成する板金がシート後方側へ延長されることにより、フロントフレーム26と一体の反力板30が形成されている。この反力板30は、左右のサイドフレーム24間に架け渡されており、シート幅方向中間部がフロントフレーム26の上面よりも一段低くなるように凹んでいる。この反力板30のシート幅方向両端部には、シート幅方向外側へ向かうほど上昇するように傾斜した傾斜面30Aがそれぞれ形成されている。
【0032】
上記構成のシートクッションフレーム22には、ウレタンパッドなどの発泡体からなるシートクッションパッド32が上方側から取り付けられている。このシートクッションパッド32は、座面部16Aに設けられた部位がパッド中央部32Aとされ、左右のサイドサポート部16Bに設けられた部位がパッドサイド部32Bとされている。このシートクッションパッド32の表面は、シート表皮34によって覆われている。
【0033】
シート表皮34は、パッド中央部32Aの表面(上面)を覆うアッパ表皮36と、左右のパッドサイド部32Bの上面を覆う左右のアッパサイド表皮38と、左右のパッドサイド部32Bの側面を覆う左右のサイド表皮40とを備えている。パッド中央部32Aのシート幅方向両端部は、それぞれ縫製部S3において左右のアッパサイド表皮38のシート幅方向内側端部と縫製されている。
【0034】
また、左右のアッパサイド表皮38のシート幅方向外側端部は、それぞれ縫製部S2において左右のサイド表皮40の上端部と縫製されている。左右のサイド表皮40の下端部は、左右のサイドフレーム24の下端部に係止されている。左右のサイド表皮40のシート幅方向内側面には、それぞれ補強板42が取り付けられている。これらの補強板42は、例えば樹脂材料によって左右のサイド表皮40よりも高剛性に形成されたものであり、接着等の手段によって左右のサイド表皮40に取り付けられている。これらの補強板42によって左右のサイド表皮40(左右のサイドサポート部16Bの側面)が補強されている。
【0035】
上記のシート表皮34では、アッパ表皮36と左右のアッパサイド表皮38とが、それぞれ左右の縫製部S3よりも上方側に設けられた左右のティアシームS1(脆弱な縫製部)において更に縫製されている。それにより、このシート表皮34には、座面部16Aと左右のサイドサポート部16Bとの各境界部にそれぞれ余長部46が設けられている。左右のティアシームS1においては、左右の縫製部S2、S3よりも脆弱な糸が用いられており、各ティアシームS1が破断することにより、各余長部46が伸ばされるようになっている。また、左右のティアシームS1は、後述するエアバッグ48の左右の副室58が膨張することによって破断されるように強度が設定されている。
【0036】
一方、シートクッションエアバッグ装置14は、前述したシートクッションパッド32とシートクッションフレーム22との間に設けられたエアバッグ48(シートクッションエアバッグ)を備えている。また、このシートクッションエアバッグ装置14は、インフレータ50(ガス発生装置)と、該インフレータ50の作動を制御する制御装置68とを備えている。
【0037】
エアバッグ48は、例えばナイロン系又はポリエステル系の布材(基布)が縫製されることにより袋状に形成された袋体52を備えている。この袋体52は、平面状に展開された状態で、フロントフレーム26及び反力板30の上面と、シートクッションパッド32の下面との間に配設されており、フロントフレーム26及び反力板30によって下方側から支持されている。この袋体52の内部には、袋体52の材料と同様の布材によって帯状に形成された左右仕切布54(
図2及び
図4では図示省略)が縫い付けられている。
【0038】
このエアバッグ48は、座面部16A内の前部に膨張可能に設けられた左右の主室56(主室部)を有している。左右の主室56は、上記の左右仕切布54によってシートクッション16の幅方向中央部で左右に区画されている。また、このエアバッグ48は、左右のサイドサポート部16B内に膨張可能に設けられた左右の副室58(副室部)を有している。左右の主室56と左右の副室58との間では、エアバッグ48が括れており、左右の副室58よりも車両前後方向の寸法が短い狭幅な左右の連通部60が形成されている。これら左右の連通部60を通して左右の主室56と左右の副室58とが連通されている。
【0039】
図1に示されるように、平面視では、左右の主室56が略矩形状を成しており、左右の副室58が略円形状を成している。左右の副室58は、左右の主室56よりもシート前後方向及びシート幅方向の寸法が短く設定されており、左右の主室56の後部からシート幅方向外側へ突出している。これら左右の副室58は、左右のサイドサポート部16Bの前後方向中間部に設けられている。
【0040】
詳細には、左右の副室58は、左右のサイドサポート部16Bの前後方向中間部において、シートクッション16の前後方向中央よりも前方側(前寄り)に位置している。また、左右の副室58は、シートクッション16の前後方向において、乗員Pの股の付け根(
図1において符号Mを付した部位)と同じぐらいの位置に中心が位置するように配設されている。この乗員Pは、例えばAM50ダミー(米国成人男性の50パーセンタイルのダミー)と同等の体格とされている。また、
図2に示されるように、左右の副室58は、反力板30に設けられた左右の傾斜面30A上に配設されている。
【0041】
一方、インフレータ50は、所謂シリンダータイプとされており、フロントフレーム26のシート幅方向中央部に形成された凹部62内に配設されている。このインフレータ50は、エアバッグ48の前端部内に収容されており、
図5に示されるように、左右仕切布54を貫通している。このインフレータ50は、軸線方向一端側が左側の主室56の前端部に位置しており、軸線方向他端側が右側の主室56の前端部に位置している。このインフレータ50の軸線方向両端部には、それぞれガス噴出部50Aが設けられている。
【0042】
上記のインフレータ50には、車両に搭載されたECU64が電気的に接続されている。このECU64には、車両が前面衝突をしたことを検出する衝突検出部66が電気的に接続されている。この衝突検出部66は、例えば車両の前後方向の加速度を検出する前後加速度センサによって構成されており、ECU64と共に制御装置68を構成している。
【0043】
ECU64は、衝突検出部66からの信号に基づいて車両が前面衝突をしたことを検知した際にインフレータ50を作動させる。この前面衝突には、フルラップの前面衝突(対称衝突)だけでなく、オフセット衝突、斜突及び微小ラップ衝突(何れも非対称衝突)が含まれている。なお、ECU64に前面衝突を予知(予測)するプリクラッシュセンサが電気的に接続されている場合には、プリクラッシュセンサからの信号に基づいて、ECU64が前面衝突を予知した際にインフレータ50が作動される構成にしてもよい。
【0044】
インフレータ50が作動すると、インフレータ50の軸線方向両端部に設けられたガス噴出部50Aからそれぞれガスが噴出される。それにより、エアバッグ48の左右の主室56内に個別にガスが供給され、左右の主室56が膨張する。また、左右の主室56に供給されたガスは、左右の連通部60を通って左右の副室58に供給される。それにより、左右の副室58が左右の主室56に遅れて膨張し始める。なお、上記のインフレータ50は、エアバッグ48の容量と比較して低出力なものとされており、左右の主室56及び左右の副室58の全てを完全に膨張させる程の出力を備えていない。但し、このインフレータ50は、左右の主室56を十分に膨張させることができる程度の出力を備えている。
【0045】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0046】
上記構成の車両用乗員保護装置10では、車両が前面衝突をすると、ECU64によってインフレータ50が作動され、エアバッグ48の左右の主室56にガスが供給される。これにより、左右の主室56が膨張すると、シートクッション16の座面部16Aの前部が上昇する。
【0047】
ここで、前面衝突の形態が対称衝突である場合、乗員Pは前方へ慣性移動する。その際には、乗員Pがシートクッション16に潜り込むような姿勢となる所謂サブマリン現象が生じることがあるが、上記のように座面部16Aの前部が上昇することにより、サブマリン現象の発生を防止又は抑制することができる。
【0048】
一方、前面衝突の形態が非対称衝突である場合、乗員Pは衝突側へ向けて斜め前方へ慣性移動する。例えば、車両前部の右側が非対称衝突をすることにより、
図1に示される矢印Jの方向の衝突荷重が車両前部に入力された際には、乗員Pの腰部Lの重心Cが
図1の矢印K方向へ慣性移動する。その際には、左右の主室56のうち右側(衝突側)の主室56が、乗員Pの大腿部Dや腰部Lからの荷重F(
図3参照)によって押し潰される。しかしながら、左右の主室56が区画されていることにより、衝突側の主室56から反衝突側(左側)の主室56へのガスの流れが規制される。それにより、衝突側の主室56による乗員拘束力を保持することができる。
【0049】
上記の効果につき、
図6に示される比較例100を用いて説明する。この比較例100では、エアバッグ48が左右仕切布54及び左右の副室58を備えておらず、反力板30が左右の傾斜面30Aを備えていない。また、この比較例100では、シート表皮34が左右の余長部46を備えておらず、左右の補強板42も省略されている。それ以外の構成は、本実施形態と同様である。この比較例100では、非対称衝突時における大腿部D等からの荷重Fによってエアバッグ48の衝突側(
図6では右側)の部分が押し潰された際には、エアバッグ48内のガスが衝突側からガスが反衝突側へ流れてしまう(
図6の矢印G参照)。それにより、エアバッグ48による乗員拘束力が低下してしまうが、本実施形態ではこれを回避することができる。
【0050】
しかも、本実施形態では、衝突側の主室56が、乗員Pの大腿部Dや腰部Lからの荷重Fによって押し潰されると、衝突側の主室56内のガスが、衝突側の連通部60を通って衝突側の副室58内へ流れ込み、衝突側の副室58が膨張する。それにより、
図3に示されるように、衝突側のサイドサポート部16Bを押し上げることができるので、当該サイドサポート部16Bからの反力を乗員Pの腰部Lに対して良好に付与することができる。上述した効果は、車両前部の左側が非対称衝突をした際にも同様に得ることができる。
【0051】
以上のことから、本実施形態によれば、非対称衝突時に乗員Pが車両用シート12に対して変位することを抑制できる。
【0052】
さらに、本実施形態では、上記のように乗員Pからの荷重Fを利用して衝突側の副室58を膨張させるため、副室58の膨張・非膨張を制御装置68によって切換制御する必要がない。それにより、制御装置68の構成を簡素化することができ、低コスト化を図ることが可能になる。つまり、副室58の膨張・非膨張を切換制御するためには、ECU64によって対称衝突と非対称衝突とを判別する必要がある。その場合、衝突検出部66が対称衝突と非対称衝突とを検出可能でなければならないため、衝突検出部66の構成が複雑になるが、本実施形態ではこれを回避することができる。しかも、インフレータ50が、左右の主室56及び左右の副室58の全てを完全に膨張させる程の出力を要求されないため、インフレータ50の低出力化が可能である。従って、この点からも低コスト化を図ることが可能になる。
【0053】
また、本実施形態では、シートクッションフレーム22の左右のサイドフレーム24間に架け渡された反力板30によってエアバッグ48が下方側から支持されている。このため、エアバッグ48が膨張する際には、反力板30によってエアバッグ48に対し良好に膨張反力を付与することができる。
【0054】
しかも、この反力板30の左右両端部には、シート幅方向外側へ向かうほど上昇するように傾斜した傾斜面30Aがそれぞれ形成されており、左右の傾斜面30A上に左右の副室58が配設されている。これにより、膨張した副室58を下方側及びシート幅方向外側から支持することができる。それにより、副室58を上方側へ良好に膨張させることが可能になるので、サイドサポート部16Bを効果的に押し上げることが可能になる。さらに、膨張した副室58が乗員Pからの荷重によってシート幅方向外側へ倒れ込まないように、副室58を傾斜面30Aによって支持することができる。
【0055】
また、本実施形態では、エアバッグ48における衝突側の副室58が膨張する際には、シート表皮34の衝突側のティアシームS1が破断することにより、衝突側の余長部46が伸ばされる。これにより、シートクッションのシート表皮34に設けられた余長部が伸びる。これにより、シート表皮34に開裂部(ティアライン)等を設定することなく、サイドサポート部16Bの効果的な押し上げが可能になる。しかも、シート表皮34に設けられた左右の余長部46は、座面部16Aと左右のサイドサポート部16Bとの各境界部に設けられている。これにより、左右の余長部46が目立たないようにすることができるので、シートクッション16の外観を良好にすることができる。
【0056】
また、本実施形態では、左右の副室58は、左右のサイドサポート部16B内の前後方向中間部に設けられている。これにより、非対称衝突時に乗員Pが車両用シート12に対して変位することを効果的に抑制することができる。つまり、通常時にはシートクッション16の座面部16Aの後部側に支持されている乗員Pの腰部Lが、非対称衝突時の衝撃によって斜め前方へ慣性移動する際には、衝突側のサイドサポート部16Bの前後方向中間部に腰部Lが干渉する。この点、本実施形態では、左右のサイドサポート部16B内の前後方向中間部にエアバッグ48の左右の副室58が設けられている。これにより、衝突側の副室58が膨張することにより、衝突側のサイドサポート部16Bの前後方向中間部が押し上げられるので、当該押し上げられた部位によって腰部Lの慣性移動を効果的に抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、左右のサイドサポート部16Bの側面には、シート表皮34よりも高剛性に形成された補強板42が配設されている。この補強板42によってサイドサポート部16Bの側面が補強されるので、副室58の膨張によって押し上げられたサイドサポート部16Bが、乗員Pからの荷重Fによってシート幅方向外側へ倒れ込むことを効果的に抑制することができる。
【0058】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、前記第1実施形態と基本的に同様の構成・作用については、前記第1実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0059】
<第2の実施形態>
図7(A)〜
図7(B)には、本発明の第2実施形態に係る車両用乗員保護装置が備えるエアバッグ48及び反力板30の部分的な構成が示されている。この実施形態では、エアバッグ48における左右の副室58を構成する部分が、二つ折りにされた(折られた)状態で左右のサイドサポート部16B内に設けられている点で、前記第1実施形態とは異なっている。
【0060】
この実施形態では、インフレータ50が作動した際には、エアバッグ48の主室56から連通部60を通って副室58に流れ込もうとするガスの圧力が高くなると、エアバッグにおける上記折られた部分が展開することにより、副室58の膨張が許容される。つまり、主室56から連通部60を通って副室58に流れ込もうとするガスの圧力の大きさによって、副室58の膨張・非膨張を切り換えることができる。それにより、例えば、対称衝突時に副室58が不用意に膨張しないようにすることができる。
【0061】
<実施形態の補足説明>
前記各実施形態では、サイドサポート部16Bの側面に補強板42が配設された構成にしたが、本発明はこれに限らず、補強板42が省略された構成にしてもよい。
【0062】
また、前記各実施形態では、左右の副室58が左右のサイドサポート部16Bの前後方向中間部に設けられた構成にしたが、本発明はこれに限らず、左右の副室が左右のサイドサポート部の前端部から前後方向中間部にかけて設けられた構成にしてもよい。
【0063】
また、前記各実施形態では、シート表皮34の左右の余長部46が、座面部16Aと左右のサイドサポート部16Bとの各境界部に設けられた構成にしたが、本発明はこれに限らず、余長部46の位置は適宜変更可能である。例えば、アッパサイド表皮38のシート幅方向中間部に余長部が設けられる構成にしてもよい。
【0064】
また、前記各実施形態では、シート表皮34に左右の余長部46が設けられた構成にしたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、アッパサイド表皮38が伸縮性のある材料によって形成される場合などには、左右の余長部46を省略してもよい。
【0065】
また、前記各実施形態では、反力板30が左右の傾斜面30Aを備えた構成にしたが、本発明はこれに限らず、反力板の構成は適宜変更することができる。
【0066】
さらに、前記各実施形態では、反力板30がフロントフレーム26と一体に形成された構成にしたが、本発明はこれに限らず、反力板30がフロントフレーム26と別体に形成された構成にしてもよい。また、シートクッションスプリング28やフロアパネル等によってエアバッグ48に膨張反力を付与することができる場合には、反力板30を省略してもよい。
【0067】
また、前記各実施形態では、インフレータ50が、エアバッグ48の容量と比較して低出力なものとされた構成にしたが、本発明はこれに限らず、インフレータが、エアバッグの容量と比較して適切な出力とされた構成にしてもよい。
【0068】
また、前記各実施形態では、エアバッグ48が左右の副室58を備えた構成にしたが、左右の副室58が省略された構成にしてもよい。その場合でも、比較例100における前述した如き問題を解消することができるので、非対称衝突時に乗員Pが車両用シート12に対して変位することを抑制できる。
【0069】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。