(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材及び該印面材を着脱可能に保持する保持体を有する印面材ホルダの前記印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体と、該発熱体の発熱状態を制御する駆動回路と、が設けられ、前記印面材ホルダに保持された印面材を押圧しながら前記印面材に印面を形成する印面形成部と、
センサからの信号に応じて前記印面材の前記発熱体配列方向における長さを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて、前記印面材の前記発熱体配列方向における長さが小さいものほど、前記発熱体の発熱するドット単位の発熱量を減らすように、前記駆動回路に印加する通電信号を補正して前記印面形成部の前記駆動回路を制御する制御部と、
を有する印面形成装置。
前記検出手段は、前記センサにより前記印面材ホルダに設けられた所定パターンの長さを検出することで、前記所定パターンの長さと対応する前記印面材の前記発熱体配列方向における長さを検出し、
前記制御部は、前記検出手段により検出された前記印面材の前記発熱体配列方向における長さに基づいて、前記駆動回路に印加する通電信号を補正して前記印面形成部の前記駆動回路を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の印面形成装置。
前記制御部は、サーマルヘッドへの通電時間を設定するための通電テーブルを有しており、前記補正は、当該通電テーブルで得られた通電時間に対して、前記印面材の前記発熱体配列方向における長さが小さいものほど大きくオフセットを適用するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の印面形成装置。
前記印面形成部が前記印面材を押圧する際、前記印面材と共に前記印面材を保持する前記印面材ホルダも押圧することを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の印面形成装置
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材を着脱可能に保持する印面材ホルダを、前記印面材に熱を加えて印面を形成する印面形成部に対して、相対的に移動させつつ、前記印面材ホルダの前記印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体および該発熱体の発熱状態を制御する駆動回路により前記印面材に印面を形成する際に制御部により、前記印面材の発熱体配列方向における長さの検出結果に基づいて、前記印面材の前記発熱体配列方向における長さが小さいものほど、前記発熱体の発熱するドット単位の発熱量を減らすように、前記駆動回路に印加する通電信号を補正して前記印面形成部の前記駆動回路を制御する印面形成工程、
を有する印面形成方法。
センサにより前記印面材ホルダに設けられた所定パターンの長さを検出することで、前記所定パターンの長さと対応する前記印面材の前記発熱体配列方向における長さを検出することを特徴とする請求項6に記載の印面形成方法。
前記制御部は、サーマルヘッドへの通電時間を設定するための通電テーブルを有しており、前記補正は、当該通電テーブルで得られた通電時間に対して、前記印面材の前記発熱体配列方向における長さが小さいものほど大きくオフセットを適用するものであることを特徴とする請求項6又は7に記載の印面形成方法。
前記印面形成部が前記印面材を押圧する際、前記印面材と共に前記印面材を保持する前記印面材ホルダも押圧することを特徴とする請求項6から9の何れか1項に記載の印面形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《概念・用語の定義》
以下、本発明の実施形態を説明するにあたって、重要な概念・用語の定義を与える。
印面形成装置は、印面材に対して所望の像を形成する装置である。本発明にあっては、いわゆるサーマルプリンタを用いることができる。サーマルプリンタは、サーマルヘッドを有し、複数の発熱体及びそれらを駆動する駆動回路(ドライバ)により、個々の発熱体を選択的に加熱することができる。また、サーマルヘッドは、その近傍に温度センサ(サーミスタ)を有し、環境温度(主にサーマルヘッドの発熱に起因して上昇する温度)を測定し、後述する制御部に環境温度の情報を与え、制御部は、それに基づいて駆動回路を制御する。
印面材は、液状のインクを含浸可能な多孔質のスポンジ体からなり加熱により非多孔質化する熱可塑性の部材である。例えば、多孔質エチレン酢酸ビニル・コポリマー(EVA)を用いることができる。
印面材ホルダは、印面材に対して所望の像を形成すべく印面形成装置に通すために用いる治具である。例えば、印面材を印面材ホルダに保持した状態のものが印面形成装置のユーザに供給される。本明細書にあっては、便宜上、印面材ホルダは、印面材と、それを保持する保持体とを有するものとする。
保持体は、例えば、コートボールからなる厚板紙により構成される。印面形成後、印面材ホルダから印面材を取り出した後は、廃棄される部材である。
【0012】
印面形成部は、サーマルヘッドにより選択的に熱を加えることにより、印面材の表面の所望の箇所を非多孔質化させて、その部分のインクの通過を禁止する処理を施す機構部分である。
印刷(サーマルプリンタによる印刷)は、インクを用いる印刷ではなくて、画像データに応じて、サーマルヘッドの発熱体が選択的に加熱されることにより、印面材の表面を所定の大きさ(サーマルヘッドの発熱体の大きさ)のドットごとに、非多孔質化するか、しないかの処理をすることを意味する。
通電信号は、サーマルヘッドの駆動回路に与える信号であり、サーマルヘッドを発熱させる電力を印加する信号である。
通電テーブルは、通電時間を設定するために制御部が参照するテーブルであり、例えば、サーマルヘッドの近傍に設けられたサーミスタにより測定される環境温度に対応付けて、サーマルヘッドに通電すべき通電時間の長さを決定するために用いられる。
印字データは、印面を形成しようとするユーザが所望する印面を印面材の上に形成するためのデータである。サーマルヘッドによる印刷が、インクの通過を禁止する処理であることに留意すると、印字データは、ユーザが作った印面により押印する印影から見ると、白黒反転および左右反転した画像データである。
搬送部は、印面材ホルダを搬送する機構部分であり、例えばプラテンローラとそれを動かすステッピングモータにより構成することができる。
制御部とは、印面形成装置の制御部(CPU)をいう。印面形成装置の制御部は、有線通信(USB(登録商標))又は無線通信(Wi−Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、WLAN(登録商標)など)により、パソコン(PC)、スマートフォン、タブレットコンピュータなどと接続されて、連携して機能することができる。
印面材保持は、印面材が印面材ホルダに保持された状態でユーザに供給される場合には、印面材ホルダを製造する工場においてなされる。
印面形成工程は、印面形成装置のユーザが印面材ホルダを用いて印面形成を実行する際になされる工程である。
【0013】
《本発明の核心について》
本発明の課題は、上述したように印面材を印面材ホルダに保持した状態で印面形成をする印面形成装置、印面形成方法を提供することである。そして、とりわけその場合に、印面材の幅の違いによる加熱量の制御についてのものである。
以下、本発明に係る印面形成装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
《
図1、
図2、
図3、
図4を参照しつつ、印面形成装置(サーマルプリンタ)の機械構成について説明する》
図1は、本発明の一実施形態に係る印面形成装置を印面材ホルダとともに示す概略斜視図である。ここで、
図1(a)は、本実施形態に係る印面形成装置の外観斜視図であり、
図1(b)は、そのX−Z面(搬送方向を含む鉛直面)における断面構造を示す斜視断面図である。
図2は、本実施形態に係る印面形成装置の印面材ホルダの排出口周辺の構造を示す概略図である。ここで、
図2(a)は、
図1(b)に示したIIA部(本明細書においては、
図1(b)中に示したローマ数字の「2」に対応する記号として便宜的に「II」を用い、ローマ数字の「5」に対応する記号として便宜的に「V」を用いる。以下、同様。)における断面構造を示す要部断面図である。
図2(b)は、排出口を含む印面製版装置の外観を示す正面図である。
図3は、本実施形態に係る印面形成装置に適用される印面形成部の要部を示す斜視図である。
図4は、本実施形態に係る印面形成装置に適用される印面形成部の要部構成の平面図及び断面図である。
図4(a)は、印面形成部の平面図であり、
図4(b)は、そのX−Z面(搬送方向を含む鉛直面)における断面構造を示す概略断面図である。
【0015】
本実施形態に係る印面形成装置(以下、「プリンタ」と称す)1は、いわゆるサーマルプリンタであって、例えば
図1(a)、
図1(b)に示すように、挿入口10cから挿入された印面材ホルダ20(詳しくは、
図6を参照しつつ後述するが、印面材21と、印面材21を保持する保持体22と、印面材21を保護するフイルム24とを有する。)を排出口10dに向けて搬送する。そして、プリンタ1は、搬送中の印面材ホルダ20上の印面材21にフイルム24の上からサーマルヘッド4を所定の荷重で押し付け、サーマルヘッド4が有する複数の発熱体を選択的に加熱することにより、所望の像(文字、記号、図形など)を表す印面(印章やスタンプを押した時に、文字、記号、図形などからなる印影を形成する部分)を、印面材ホルダ20上の印面材21に形成する。
【0016】
図1(a)、
図1(b)に示すように、互いに直交するX、Y、Z方向を設定する。図面中に記載された方向を示すX、Y、Zの符号について、矢視方向を「+」を付して示し、矢視方向に対する逆方向を「−」を付して示し、両方向を示す場合には、符号(「+」または「−」)を付さない。X方向は、印面を形成する対象物である印面材21を含む印面材ホルダ20を搬送する方向と同じ方向であり、前後方向とも呼ぶ。Y方向は、プリンタ1の幅方向と同じ方向であり、左右方向とも呼ぶ。Z方向は、印面材ホルダ20にサーマルヘッド4を押し付ける方向と同じ方向であり、上下方向とも呼ぶ。
【0017】
図1(a)、
図1(b)に示すように、プリンタ1は、下ケース10aと上ケース10bとから構成されるケース10を備えており、下ケース10aの前後面に印面材ホルダ20を通すための挿入口10cと、排出口10dが形成されている。上ケース10bの上面には入力操作部6が設けられている。入力操作部6は、操作者による操作が行われると、操作内容に応じた信号を出力する。
【0018】
下ケース10aの排出口10dには、例えば
図2(a)、(b)に示すように、排出口10dを構成する下側の内面10eに、排出口10d内に所定の高さで突出するように形成された複数のリブ(支持部)10fが、排出口10dの開口方向(Y方向)に沿って、所定の間隔で配置されている。ここで、複数のリブ10fは、排出口10dから排出される印面材ホルダ20の搬送路上に配置されている。すなわち、複数のリブ10fは、挿入口10cから挿入された印面材ホルダ20がプリンタ1内部を搬送されて、少なくとも、サーマルヘッド4の印面材ホルダ20への押し付け状態が特定の状態に変化した時点で、印面材ホルダ20の一端側(+X方向側)近傍の裏面側(サーマルヘッド4が押し付けられる印面の形成側とは反対側の面、すなわち
図2の下側)に接触して支持するように設けられている。このとき、複数のリブ10fは、印面材ホルダ20が湾曲(変形)しない程度に印面材ホルダ20の裏面に接触するように設けられ、より好ましくは、印面材ホルダ20の搬送(送り量)に影響が及ばない程度に、例えば摩擦が少ない状態で軽く接触する程度に印面材ホルダ20を支持するように設けられている。
【0019】
プリンタ1のケース10に組み込まれる印面形成部は、例えば
図3、
図4に示すように、大別してサーマルヘッド(印面形成部)4と、ステッピングモータ9と、ガイド14と、プラテンローラ(搬送ローラ)12と、を備えている。サーマルヘッド4、ガイド14、プラテンローラ12の両脇には、Y方向に対向する一対の板状のサイドフレーム13が設けられている。
【0020】
プラテンローラ12は、
図4(a)、
図4(b)に示すように、印面材ホルダ20をX方向に搬送するものであり、両サイドフレーム13、13間に渡されて設けられており、両端が各サイドフレーム13を貫通している。プラテンローラ12の両端部は、サイドフレーム13に対して回転自在になるように、サイドフレーム13に支持されている。なお、プラテンローラ12の回転軸の+Y軸の端部には、例えばローラ歯車(図示を省略)が一体的に取り付けられ、ステッピングモータ9の駆動軸に取り付けられた駆動歯車(図示を省略)の回転に伴う駆動力が、複数の電動歯車を介して伝達されることにより、プラテンローラ12が所定の回転速度で回転する。
【0021】
ガイド14には、印面材ホルダ20(印面材21)をプラテンローラ12に導くための傾斜面14aが形成されている。傾斜面14aは、
図4(b)に示すY方向視(+Y方向から見た場合の断面)において、傾斜面14aの延長線EL(図中、一点鎖線にて表記する。搬送経路に相当する。)がプラテンローラ12の外周面に接するように配置されている。ここで、
図4(b)に示すように、排出口10dの内面10eに設けられたリブ10fは、その上面が傾斜面14aの延長線ELに接するように、突出高さや形状、配置が設定されている。
【0022】
なお、
図4(b)に示すように、傾斜面14(a)の凹部14bには、センサ3が設けられている。センサ3は、印面材ホルダ20と接触しないように印面材ホルダ20の軌道よりも若干−Z側に配置されている。また、
図4(a)に示すZ方向視(+Z側から見た場合の平面図)において、センサ3は、印面材ホルダ20の切欠22aがセンサ3上を通過するように左側のサイドフレーム13よりも若干+Y側であってプラテンローラ12よりも若干−側に配置されている。
図4(a)に破線で示す検知走査線SLはセンサ3の光軸Lと交叉しX方向に延びる線である。センサ3は、反射型光学センサであり、+Z方向に光を出射する発光素子と、センサ対象物(ここでは、印面材ホルダ20)に当たって−Z方向に反射した光を受光する受光素子とを有する。センサ3は、受光素子において受光した光の光量に応じた信号を出力する。この信号に基づいて、印面材ホルダ20に嵌め込まれた印面材21の種類(サイズ)が特定される。
【0023】
サーマルヘッド4は、
図2(a)、
図4(b)に示すようにプラテンローラ12に対向するように設けられる。サーマルヘッド4は、X方向に搬送される印面材ホルダ20上の印面材21をフイルム24を介して押圧する。サーマルヘッド4における印面材21を押圧する押圧部4aは、Y方向に沿った直線帯状に設けられている。ここで、押圧部4aの長さ(Y方向の長さ)は、印面材21の幅(Y方向に沿った長さ)よりも長くなるように設けられている。これにより、印面材21の幅方向に沿って延びる直線帯状の部分が一様に、押圧部4aによって押圧されて変形する。そして押圧部4aには、印面の形成(製版)時に選択的に加熱される複数の発熱体(図示を省略)が、押圧部4aの延在方向(Y方向)に沿って配列されている。また、サーマルヘッド4には、押圧部4aに配列される複数の発熱体の各々の発熱状態を制御するための駆動回路を備えたICチップ(ドライバIC)4bが設けられている。ドライバIC4bは、複数の発熱体が設けられた押圧部4aに対して、例えば印面材ホルダ20の搬送方向とは逆方向(−X方向)の位置に配置されている。このような構成により、印面材21の直線帯状の部分(押圧部4aによって押圧され変形する部分)では、加熱され発熱する発熱体に対応した箇所が加熱されることになる。
【0024】
ここで、一般的なサーマルヘッド4は、プリント基板(PCB)の一面側に、複数の発熱体が設けられた押圧部4aと、各発熱体の発熱状態を制御するためのドライバIC4bとが近接して配置されている。これは、プリント基板のサイズを小さくするとともに、コストアップを抑制するための構成であり、汎用品はほとんどこの形態を採用している。
【0025】
なお、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔(
図2(a)中に、「H」と表記する)は、後述する印面材ホルダ20の構成に応じて、予め設定された一定値に設定されているものであってもよいし、サーマルヘッド4、又は、プラテンローラ12をZ方向に移動させて、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hを調整するための機構(
図2(a)中に、「32」と表記する。)を備えているものであってもよい。このようなサーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32を用いることにより、サーマルヘッド4の印面材21への押圧力を変化させることができる。特に、印面材21のサイズ(特に、幅方向の寸法)が異なる印面材ホルダ20に印面を形成(製版)する場合においては、印面材21のサイズによってサーマルヘッド4の押圧部4aの押し付け状態が変化することがあるため、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32は、適切な印面形成を行うために極めて有益である。このような間隔Hの調整機構32は、例えば、センサ3により印面材ホルダ20の切欠22aを走査することにより、制御部2により特定された印面材ホルダ20の印面材21のサイズに基づいて、間隔Hが調整制御される。ここで、間隔Hが小さく設定されるほど、サーマルヘッド4の印面材21への押圧力は大きくなる。
【0026】
《制御部(CPU)によって制御されて機能する機能構成について》
次に、本実施形態に係るプリンタ1の機能構成、すなわち制御部(CPU)によって制御されて機能する機能構成について説明する。
図5は、本実施形態に係る印面形成装置(プリンタ1)のシステム構成のブロック図である。
図5に示すように、プリンタ1は、中央制御回路2を備え、中央制御回路2には、センサ3、サーマルヘッド4、電源回路5、モータードライバ8、表示画面制御回路47、メモリ制御回路48、UI(ユーザインターフェイス)制御回路49、USB制御回路40、Bluetooth(登録商標)モジュール・無線LANモジュール41を有している。
また、モータードライバ8にはステッピングモータ9が接続され、表示画面制御回路47には表示デバイス43が接続され、USB制御回路40には、PC(パーソナルコンピュータ)44が接続されている。
なお、センサ3は、本例の場合、反射型光学センサで構成されており、印面材ホルダに設けられた切欠の検出を行う。中央制御回路2は、センサ3からの信号を検出することで、印字開始位置やメディアサイズなどの検出・通電制御を行う。
また、表示デバイス43、表示画面制御回路47、UI制御回路49、USB通信制御回路(USB通信制御回路)40、又はBluetooth(登録商標)モジュール・無線LANモジュール41等は、必ずしも全てが必要な訳ではない。
【0027】
図1において、中央制御回路(制御部)2は、システム全体の制御を行っている。なお、この図では各回路のほとんどは中央制御回路2とのみ接続されているが、バスを通じて各回路同士がデータ通信を行うことももちろん可能である。中央制御回路2は、CPU(central processing unit)を含む回路であり、当該CPUが必要に応じてコンピュータプログラムを読み込んで実行することにより、さまざまな機能(例えば、搬送量検出、寸法設定、寸法判定、位置検出、加熱制御、押圧力制御など)を実現する。
メモリ制御回路48は、ROM(read only memory)やRAM(Random Access Memory)等のデバイスを含み、それらの制御を行っている。表示デバイス43は、例えばLCD(liquid crystal display)等の表示装置を指し、表示画像制御回路47では、表示デバイス43へのデータ転送等やバックライトの点灯、消灯等の制御をしている。
また、さまざまな機能を実現するために必要なコンピュータプログラムは、ROM等に格納されており、必要に応じてRAMに書き込まれて参照され、利用される。この印面形成装置は、パソコン(又はスマートフォン)側にドライバソフトおよびアプリケーションプログラムをインストールし、USB接続などにより連携して動作するものである。したがって、印面形成装置内のコンピュータプログラムと、パソコンなどの外部機器にインストールされたコンピュータプログラムとが連携してさまざまな機能を実現する。
【0028】
例えば、PC44と接続または無線接続が必須の構成を有する機種の印面形成装置(プリンタ)の場合は、ユーザは、PC44又は不図示の携帯電話端末等のGUI(Graphical User Interface)上で操作を実施するため、ハードウェア側において表示画面制御回路47と表示デバイス43は必須ではない。
UI(ユーザインターフェイス)制御回路49は、キーボードやマウス、リモコンやボタン、タッチパネル等の入力デバイスからユーザがパソコンなどを介して、又は本印面形成装置(プリンタ)に設けた入力装置を介して入力した情報をもとに、メニュー画面表示等の制御を行う。電源回路5は、電源IC(integrated circuit)等からなり、各回路に必要な電源を作り出して供給する。
【0029】
サーマルヘッド4は、中央制御回路2から出力されたデータと印刷信号を受け取り、ヘッド内部のドライバICにて通電ドットの制御を行い、ヘッドに接している多孔質エチレン酢酸ビニル・コポリマー(以下、EVA)などの印面材に対して印刷(印面の形成又は印字、以下同様)を行う。本印面形成装置における「印刷」は、インクを用いる印刷ではなくて、画像データに応じて、サーマルヘッド4の発熱体が選択的に加熱されることにより、印面材21の表面をドット(発熱体の単位)ごとに、非多孔質化するか、しないかの処理をすることを意味する。
なお、本システムの構成例では、中央制御回路2から他の回路が受け取るのはデータと信号のみであり、印刷に必要な電力は電源回路5から得ている。因みに、本例の装置では、サーマルヘッド4は、200dpi、すなわち200ドット/25.4mmの解像度(1dot当たり0.125mmの解像度)で48mmの有効印字幅を有している。
モータードライバ8は、ステッピングモータ9を駆動する駆動回路であり、中央制御回路2から出力される信号を受け取り、駆動用のパルス信号及び電力をステッピングモータ9に供給する。なお、中央制御回路2から受け取るのは励磁信号のみで、実際の駆動電力は電源回路5から得ている。
【0030】
制御部(中央制御回路)2は、モータードライバ8に出力した信号のパルス数を数えることによりステッピングモータ9をどれだけ回転させたか、つまりプラテンローラ12により印面材ホルダを何mm搬送したかを正確に把握することが出来る。
本実施形態におけるプリンタ1は、1−2相励磁駆動を採用しており、ギア比は1ライン(0.125mm)当たり16ステップとなるように構成されている。すなわち、1ステップで、0.0078mmの搬送を行う。
なお、制御部2におけるプラテンローラ12による搬送距離の算出を、パルス数に基づいて行わずに他の方法を用いても良い。例えば、プラテンローラ12の回転数をロータリーエンコーダにより検出し、検出された回転数に基づいてプラテンローラ12による搬送距離を算出しても良い。
【0031】
《印面材ホルダの構成について》
次に、プリンタ1により印面を形成(製版)する印面材ホルダ20について、
図6及び
図7を参照しつつ説明する。
図6は、本実施形態に係るプリンタにより印面が形成される印面材ホルダの一例を示す概略図である。
図6(a)は、印面材ホルダ20の印面形成側(印面材21を保持する側)を示す平面図である。
図6(b)は、
図6(a)に示したVIB−VIB線(本明細書においては
図6(a)中に示したローマ数字の「6」に対応する記号として便宜的に「VI」を用いる。)に沿った断面構造を示す概略断面図である。
図6(c)は、
図6(b)に示したVIC部における断面構造を示す要部断面図である。
図7は、印面を形成した印面材を貼り付けた押し印の一例を示す概略図である。
図7(a)は、印面材側から見た押し印の斜視図であり、
図7(b)は、印面材側を底面とした時(押し印として使用する際に紙などに置く時)の押し印の側面図である。
【0032】
印面材ホルダ20は、印面材21と、印面材21を保持する保持体22と、印面材21を保護するフイルム24とを有する。
図6(a)、(b)に示すように、保持体22は、印面材21を中央部に固定して保持している。
印面材21は、実際に印面となる主面21aを有する。印面材21は、液状のインクを含浸可能な多孔質のスポンジ体、例えば、多孔質エチレン酢酸ビニル・コポリマー(以下、「EVA」と記す。)で構成され、押圧により変形可能となっている。EVAは無数の気泡を有しており、この気泡の中にインクを含浸する。
印面材ホルダ20のうち、保持体22とフイルム24とは、印面材21の印面形成時に用いられる治具であり、印面形成の終了後には印面材21と分離されて廃棄(又は再利用)される。保持体22は、
図6(b)、(c)に示すように、コートボールからなる上部厚板紙22cと下部厚板紙22dとを貼り合わせて構成されている。また、
図6(a)に示すように、保持体22の一方の側部(図面右方)に切欠22aが形成されている。ここで、保持体22は、センサ3からの光を高い反射率で反射させるために、その表面が例えば、白色に形成されている。
【0033】
上部厚板紙22cには、
図6(b)、(c)に示すように、その中央部に印面材21を固定するための位置決め孔22eが形成されている。この位置決め孔22eに、印面材21が嵌め込まれて固定される。下部厚板紙22dは、
図6(a)、(b)に示すように、上部厚板紙22cと外形が同一に形成されており、位置決め孔22が設けられていない。下部厚板紙22dと上部厚板紙とが張り合わされた状態において、下部厚板紙22dは、印面材21の裏面21b全体に接している。
【0034】
印面材21の主面21a(
図6(b)の左側の面、又は、
図6(c)の上側の面)は、
図6(b)、(c)に示すように、上部厚板紙22cの上面(
図6(b)の左側の面、又は、
図6(c)の上側の面)から若干突出するように構成されている。本実施形態においては、上部厚板紙22cと下部厚板紙22dとを合わせた厚さは、例えば、1.2mmに設定され、これに対して、フイルム24、印面材21をも含む印面材ホルダ20の全体の厚さは、例えば1.8mmに設定されている。すなわち、この例においては、上部厚板紙22cに対して印面材21が0.6mm突出するように設定されている。
【0035】
また、
図6(b)、(c)に示すように、印面材ホルダ20は、保持体22の上面及び印面材21の上面を被覆するフイルム24を有する。フイルム24は、PET(Polyethylene Terephtalate)またはポリイミド等を基材として作られており、耐熱性と熱伝導性と表面平滑性とを有している。ここで、フイルム24の耐熱性に関しては、印面形成時のサーマルヘッド4の温度及び印面材21の溶融点よりも高い温度に耐えられるものが用いられている。また、フイルム24の熱伝導性に関しては、印面形成時のサーマルヘッド4の熱を印面材21に伝達して、印面材21を良好に溶融させられるものが用いられている。フイルム24の表面平滑性に関しては、印面形成時に接触するサーマルヘッド4の押圧部4aが摩擦が少ない状態で程良く滑るものが用いられている。
【0036】
図6(c)に示すように、上部厚板紙22cと下部厚板紙22dとは、例えば両面粘着シート25により貼り合わされている。また、フイルム24は、保持体22の周囲部の表面、つまり印面材21が嵌め込まれている上部厚板紙22cの表面に両面粘着シート26により粘着されている。フイルム24と印面材21との間、印面材21と下部厚板紙22dとの間は、接触しているだけであって、貼り合わされてはいない。
【0037】
なお、
図6においては、本実施形態に係るプリンタ1において印面形成の対象となる印面材ホルダ20の一例を示したが、印面材21のサイズ(
図6(a)の縦方向及び横方向の寸法)が異なる、複数の種類の媒体20を印面形成の対象とすることができる。ここで、各種類の印面材ホルダ20の厚さ、及び、幅寸法(
図6(a)の横方向の寸法)は、それぞれ同一に設定され、印面材ホルダ20の長さ寸法(
図6(a)の縦方向の寸法)は、印面材21のサイズに応じて異なるように設定される。また、各種類の印面材ホルダ20の印面材21のサイズに対応して、1対1の関係で、保持体22にサイズ(例えば縦方向の寸法)の異なる切欠22aが設けられている。そして、プリンタ1のセンサ3により保持体22の切欠22aを走査して、そのサイズを検出することにより、印面材ホルダ20の印面材21の種類(サイズ)が特定される。
【0038】
印面材21は、プリンタ1における印面の形成が終了した後に、保持体22から取り出される。そして、取り出された印面材21は、例えば
図7(a)、(b)に示すように、球状の持ち手51と方形の台木52とから構成される押し印50の台木52の下面(
図7(b)における台木52の下方側の面)に両面粘着シート53等により貼り付けられる。
【0039】
《印面形成の原理について》
次に、印面材21に印面を形成する原理について説明する。
印面材21は、EVAで構成されている。EVAは熱可塑性の物性を有するので、例えば70℃〜120℃の熱で加熱すると、熱を加えた箇所は軟化し、一度軟化した箇所は冷えると硬化する。そして、硬化した箇所は気泡部分が埋まり非多孔質化され、その部分はインクを通さなくなる。
本実施形態に係るプリンタ1は、この印面材21(EVA)の特性を利用して、サーマルヘッドでEVAの表面の任意の箇所を約1msecから5msec程度加熱することにより、EVAの表面の任意の箇所を非多孔質化させて、その部分のインクの通過を禁止する。なお、印面材21は、熱裁断機によって予め方形に裁断されている。このため、印面材21の4つの側面(端面)は、いずれも裁断の際に加えられた熱によって非多孔質化されており、インクを通過させない。なお、印面材21の裏面21bも加熱処理が施されており、インクを通過させない。これによって、印面となる主面21a以外の面からインクが滲み出ることを防止している。
【0040】
印面の形成(熱印刷)において、インクを透過させる部分は加熱せず、透過させない部分は加熱することで、スタンプ押印時に得たい印影に応じたインク透過部分を形成することができる。なお、印面の形成時に誤差が生じ得ること、および、印面材21の側面(端面)がインクを通過しないことを考慮して、印面材21のサイズは、所望の印影サイズよりも若干大きく設定されている。例えば、印影のサイズが45mm×45mmの場合には、印面材21のサイズは48mm×48mmに設定される。
【0041】
《印面形成動作について》
次に、本実施形態に係るプリンタ1において、所望の印面を形成する印面形成動作について説明する。なお、以下に示す各機能は、読み取り可能なプログラムコードの形態で制御部2(さらに詳しく言えば、ROM)に格納されており、このプログラムコードにしたがった動作が逐次実行される。なお、
図5のシステムブロック図に示されるように、この印面形成装置(プリンタ1)は、通常はパソコンやスマートフォンなどと連携して動作するものである。ここでは、煩雑な説明となるのを防ぐべく、プリンタ1内における動作に限定して説明する。
【0042】
図8は、本実施形態に係るプリンタによる印面の形成状態を示す概略断面図である。
プリンタ1の印面形成動作においては、まず、制御部2は、入力操作部6が押圧され、入力操作部6からプリンタ1を起動する信号が入力されると、プリンタ1のイニシャル動作を実行する。プリンタ1のイニシャル動作においては、制御部2は、モータードライバ8に駆動信号を送り、ステッピングモータ9を所定時間回転させる。これにより、プラテンローラ12が所定時間回転し、プリンタ1内に印面材ホルダ20が残っていた場合でも、その印面材ホルダ20が排出口10dからプリンタ1外に排出される。
【0043】
イニシャル動作の終了後、制御部2は、
図8(a)に示すように、プリンタ1の操作者により印面材ホルダ20が挿入口10cからプリンタ1に挿入された状態において、入力操作部6から印面形成を開始する開始信号(例えば、上記イニシャル動作後において、入力操作部6から出力される、入力操作部6を押圧操作したことを示す信号)が入力されると、ステッピングモータ9を回転させて、プラテンローラ12を回転させる。これにより、印面材ホルダ20は、ガイド14(傾斜面14a)に沿って+X方向に搬送される。
【0044】
ここで、複数の種類(サイズ)の印面材ホルダ20を印面形成の対象とする場合には、制御部2は、センサ3により印面材ホルダ20(保持体22)の切欠22aの長さを検出し、印面材ホルダ20の種類(印面材21のサイズ)を特定する。そして、制御部2は、特定された印面材ホルダ20の種類に基づいて、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32を制御して、印面材ホルダ20の種類に応じた間隔Hを設定する。これにより、印面材ホルダ20の種類に応じて、サーマルヘッド4の印面材21への押圧力が適切に設定される。また、印面材21の幅をも検出するので、幅に応じた加熱時間(サーマルヘッドへの通電時間)の制御をも行う(これについては、
図9、
図10を参照しつつ、後述する)。
【0045】
そして、
図8(b)に示すように、印面材ホルダ20が+X方向にさらに搬送されると、サーマルヘッド4の押圧部4aが保持体22の上面を経由して、印面材21に達する。印面材ホルダ20の印面材21は、サーマルヘッド4の下に引き込まれ、予め設定された所定の押圧力で押圧されながら搬送され、サーマルヘッド4の押圧部4aにY方向に配列された発熱体からの熱を受けて印面形成が行われる。
具体的には、制御部2は、入力された画像データに基づいて、印面材ホルダ20の搬送(ステッピングモータ9の回転)と、サーマルヘッド4の複数の発熱体のいずれを発熱されるかと、を連携させながら制御し、印面材21の画像データに応じた位置を選択的に加熱して、インクの透過部分と非透過部分とを画像データに応じて形成することで、印面を形成する。
【0046】
このとき、印面材21に適用されるEVAは、多孔質のスポンジ体で非常に柔らかいため、適切に印面形成(熱印刷)を行うために、通常の熱印刷を行うプリンタよりも強くサーマルヘッド4の発熱体を、印面材ホルダ20の印面材21に押し付ける必要がある。そのため、
図6(b)、(c)に示したように、印面材21の主面21aが保持体22の上面から突出するように構成されている。また、印面材ホルダ20の印面材21に対するサーマルヘッド4の押し付け状態は、
図8(b)に示すように、サーマルヘッド4の発熱体が配列された押圧部4aに加え、発熱体の近傍に配置されたドライバIC4bも印面材21に押し付けられて、印面材21に食い込んだ状態にある。
【0047】
そして、印面材21に印面を形成しつつ、印面材ホルダ20が+X方向にさらに搬送されると、
図8(c)に示すように、サーマルヘッド4が印面材21の−X方向の端部(終端部)に達し、印面材21と保持体22との間の境界部分を通過する。このとき、印面材ホルダ20の保持体22の搬送方向(+X方向)の端部側は、少なくとも排出口10dに達し、その近傍の裏面側(サーマルヘッド4が押し付けられる印面の形成側とは反対側の面、図面下面側)に、排出口10dの内面10eに設けられた複数のリブ10fが接触して、印面材ホルダ20を支持している。
【0048】
ここで、印面材21は、保持体22よりも厚み方向に突出して構成されているため、この境界部分には段差が存在する。また、サーマルヘッド4の押圧部4aの近傍(−X方向)にはドライバIC4bが配置されている。加えて、印面材21に対してサーマルヘッド4が強く押し付けられているため、上記の境界部分をサーマルヘッド4が通過することによって、まず、サーマルヘッド4のドライバIC4bが段差を降りる状態となる。このとき、印面材ホルダ20(印面材21)へのサーマルヘッド4のドライバIC4bによる押圧力が瞬間的に解除された状態となり、
図8(c)中に矢印Fで示すように、印面材ホルダ20を回転(+X方向の端部を下方に付勢させ、−X方向の端部を情報に付勢)させる力が加わる。
【0049】
ここで、プリンタ1の排出口10dに、リブ10fが配置されていない構成においては、印面材ホルダ20の+X方向の端部側が支持されていない状態にあるため、サーマルヘッド4のドライバIC4bが印面材21と保持体22との間の段差を降りた瞬間に、印面材ホルダ20に生じる力Fによって印面材ホルダ20が回転して、プラテンローラ12による印面材ホルダ20の送り量(送り密度)が変化する。そのため、印面が形成される印面材21の主面21aに、送り量の変化に起因する印刷ムラ(例えばY方向にライン状に延在する凹凸)が生じて、適切な印面形成が行われない可能性がある。
【0050】
これに対して、本実施形態にあっては、
図2および
図4に示したように、排出口10dの下側の内面10eに、印面の形成動作中に搬送される印面材ホルダ20の搬送経路である傾斜面14aの延長線ELに上面が接するように形成された複数のリブ(突出部材)10fが配置されている。これにより、印面材ホルダ20は、傾斜面14aとプラテンローラ12と排出口10dに設けられた複数のリブ10fとにより、搬送経路上に支持されている。したがって、サーマルヘッド4のドライバIC4bが、印面材21と保持体22との間の段差を降りた瞬間に、印面材ホルダ20に生じる力Fによって印面材ホルダ20が回転する現象が抑制されて、適切な印面形成が行われる。
【0051】
そして、印面材ホルダ20が+X方向にさらに搬送されて、印面材ホルダ20への印面の形成が完了すると、印面材ホルダ20がプリンタ1の排出口10dから排出される。その後、制御部2は、ステッピングモータ9を停止することによりプラテンローラ12を停止させて、一連の印面形成動作を終了する。ここで、制御部2においてステッピングモータ9を停止するタイミングは、例えば、印面材ホルダ20の後端がセンサ3を通過してから所定時間経過後に設定される。
【0052】
《保持体22及びフイルム24の役割について》
EVAは1.5mmの厚さを持つ部材であり、高い弾性と摩擦係数を有する。このため、EVAをそのままサーマルプリンタに挿入して搬送を行おうとしても、サーマルヘッドとEVAとの摩擦力が大きく、安定した直進性の搬送を行うことが出来ない。つまり、EVAは摩擦力が大きいことと、ゴムのように柔らかいため、たとえサーマルプリンタ側に直進安定性を得るためのガイドが取り付けられていても、搬送中に少しでも曲がりができると、EVA自体が屈曲してしまい、結果的にすぐに斜行が発生する。
上記のEVAの搬送上の困難は、サーマルヘッドが発熱していない非加熱の状態の場合でも起きる現象であるが、サーマルヘッドが発熱した場合、サーマルヘッドは発熱開始後の数ミリ秒で約200度近くまで温度が上がるため、EVA表面を加熱した瞬間に表面が軟化し、軟化した部分にサーマルヘッドが埋まってしまい、EVAの搬送が全く出来なくなってしまうという現象が生じる。
端面ヘッドを用いる方式や、ヘッドを移動駆動するためにキャリッジを組み込む方式の場合は、上記の問題が起きないが、この方式は、機構の大型化と使用部材のコストの大幅な上昇を招くという不都合がある。
【0053】
本発明においては、機構の大型化とコストの大幅上昇を招くことなく、通常のサーマルヘッドを用いたプリンタ1により、上記のように搬送性に難のあるEVAを印面版として印面形成を行うために、印面材ホルダ20、保持体22を用い、フイルム24で保護することとしたものである。
また、印面材21は、上部厚板紙22cの位置決め孔24で位置固定され、下部厚板紙22dにより下面から保持されると共に上面をフイルム24により被覆されているので印面材ホルダ20に保持された状態のままの形を維持し、X方向、Y方向の外力が加わっても変形しない。
したがって、印面材ホルダ20が搬送される通りに印面材21もまた、それにしたがって搬送される。印面材ホルダ20が直進搬送されれば、印面材21もその通りに直進搬送される。また、フイルム24は、印面材21、つまりEVAの溶融点よりも高い温度に耐熱性を有している。
したがって、サーマルヘッド4の発熱で印面材21の表面が溶融してもフイルム24は溶融しない。つまりフイルムとしての被覆性を失うことはない。また、フイルム24は、サーマルヘッド4との摩擦力は極めて低い。
このため、サーマルヘッド4は、フイルム24の被覆性により、溶融して軟化した印面材21の中に埋没することなく、また、フイルム24との間の低摩擦性により、フイルム24の面に沿って容易に発熱印字(印面形成)を続けていくことができる。このようにして印面材21への印面形成が完了する。
【0054】
《印面形成後の印面材を取り出した後の用い方》
このように、印字データを用いてサーマルヘッドでEVA表面を加熱することにより、ユーザ独自の印影を有する印面形成を行うとともに、フイルム24が印面材の形状に沿って、剥がれ易いものとすることができる。印面材を印面形成して出来上がった印面版を印面材ホルダ20から取り出すには、保持体22をミシン目27(
図6(a)参照)に沿って折り曲げて、印面材21を引き出すだけでよい。その後、台木52に印面形成後の印面材を貼り付けて、印面を一定時間インクに浸す、あるいはインクの粘性によっては印面に塗り付けて所定時間放置する。それによりインクが印面版の内部に含浸する。ユーザは、印面表面の余剰のインク汚れをふき取る、あるいは何度か試し押しをした後、持ち手51を指で持って、押印対象物に押し付けると、印面から含浸インクが押し出されて印影が押印される。
【0055】
《サーマルヘッドと印面材との接触について》
本発明を適用してサーマルヘッドの加熱対象となるのは、印面材ホルダ20(保持体22に保持された印面材21)である。
すなわち、印面材である多孔質EVAとサーマルヘッドの間にPETフイルムを介在させて、熱可塑したEVAを問題なく搬送させるため、及び、弾性率の低いEVAが印刷中に斜行(あるいは屈曲)してしまうことを防ぐために、コートボールを基材とした保持体22にEVAをセットし、PETフイルムで押さえつけるように封入した構造である(
図6(b)、(c)参照)。
しかしながら、印面材としてのEVAは1.0mm以上の厚みを有するため、通常であれば、端面ヘッドを用いてプリンタを構成する必要がある。
というのも、仮に印面材が硬質であった場合、
図9(a)に示すように、サーマルヘッドの端面が印面材に突き当たってしまい、サーマルヘッドの発熱体が印面材に触れることが出来ないためである。
通常、この様に厚みのあるメディアに対して印刷を行う場合、サーマルヘッドの端面部分に発熱体のある、いわゆる端面ヘッドを用いる。(たとえば、厚みのあるカードへの印刷など)
しかしながら、端面ヘッドは製造コストが高く、搭載した場合には製品価格が大きく上がってしまう。
そこで、本プリンタでは、多孔質EVAが(ゴムのような)低い弾性率を有するという物理的性質を持つことに着目し、高い押圧で押しつけることで、サーマルヘッド端面をEVAの中に押し込み、結果として発熱体をEVAと接触させ、コスト的に有利な通常のサーマルヘッドでの印刷を可能としている(
図9(b))。
【0056】
《印面材の横幅と印面材にかかる押圧との関係》
本発明に係る印面形成装置で用いる印面材ホルダ20に対する印刷においては、印面材21を構成するEVAの幅によってサーマルヘッドからかかる単位長さ当たりの押圧(以下、単に押圧)が変化する。ここで、印面材21(EVA)の幅とは、サーマルヘッドの主走査方向(サーマルヘッドの発熱体が並ぶ方向)についての幅であり、印面材ホルダ20を印面形成装置に挿入する方向(搬送方向)とは直交する向きについての幅である。
図2(a)、
図4(b)、
図8などに示したように、本発明に係る印面形成装置では、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32を設けることにより、サーマルヘッド4が印面材21に対して押圧するようになっている。そして、この間隔Hの調整機構32は、例えば、コイルばねによって実現され得る。そしてこのコイルばねは、印面材21全体に対して押圧する力が一定であると考えられるため、その結果として、印面材21に加わる単位長さ当たりの押圧は、印面材の幅の違いにより変化する。
【0057】
すなわち、印面材の幅が小さいものの場合は、幅が大きいものに比べて、単位長さ当たりの押圧が大きくなるため、一律の加熱量(通電時間)で制御すると、幅の狭いEVAではドットが潰れ気味(所望の印影よりも多くの部分で非多孔質化が起こり、インクの通過を禁止する状態)に、幅の広いEVAではカスレ気味(所望の印影に比べて非多孔質化が起こらない部分ができてしまい、インクの通過を禁止できない状態)になるという課題が発生する。
【0058】
《印面材の潰れ量の違い》
本発明に係る印面形成装置では、サーマルヘッド4とプラテンローラ12との間隔Hの調整機構32により、押圧力をかけることで印面材(EVA)をつぶし、発熱体とEVAを接触させている。しかしながら、EVAの横幅によって、EVAにかかる押圧(線圧)が変化するという課題が発生する。
例えば、本実施形態における印面形成装置(サーマルプリンタ)は、45mm幅のEVAに対し約408g/cmの押圧がかかるように設計されている。30mm幅のEVAでは、612g/cmとなり、15mm幅のEVAでは1225g/cmに達する。
押圧が変化すると、EVAに対する発熱体の当たり方や熱の伝わり方が変化するため、たとえば30mm幅で設定した加熱量のまま他のEVA幅に加熱を行うと、押圧の高くなる狭い幅のEVAだとドットが潰れ気味に、逆に、押圧の低くなる幅の広いEVAだとカスレ気味になる。押圧が高いと、発熱体が完全にEVAの中に埋まるが、押圧が低いと、表面をなぞる程度しか埋まらないためである。
このときの印面材の潰れ量については、上記の押圧を本実施形態における印面材21(EVA)にかけると、EVA潰れ量は15mm幅で約0.5mm程度(保持体(コートボール)22の部分にヘッドが突き当たるため、0.5mmの潰れ量で止まるが、保持体(コートボール)22により保持されていなければ、もっと潰れる可能性がある)、30mm幅では約0.45mm程度、45mm幅では約0.3mm程度である。
【0059】
《通電テーブル》
そこで本発明に係る印面形成装置では、印刷時に用いる印面材ホルダ20に保持される印面材21(EVA)の幅の違いをセンサ3で読み取って取得する。つまり、印面材ホルダ20に設けられた切欠22aをセンサ3で読み取ることにより、制御部2は、印面材21の幅についての情報を取得する。そしてその幅についての情報によって加熱量(通電時間の長さ)を変化させることで、上記の課題に対応する。
加熱量の変化について具体的に説明すると、まず45mm幅において、印字カスレなく印刷が出来る通電テーブルを作成する。ここで、通電テーブルとは、主に環境温度の違いに応じて通電時間を設定するためのテーブルである。サーマルヘッド4には、温度センサ(サーミスタ)が設けられており、サーマルヘッド4の発熱に伴い上昇する温度をリアルタイムで測定し、逐一、制御部2に送る。サーマルヘッド4の近傍の温度(環境温度)は、サーマルヘッドの動作状況により大きく変化し得る。例えば、ベタ印刷が連続すると環境温度は常温に比べて著しく上昇する。そこで、一般に、サーマルヘッドを用いるには、その近傍にサーミスタを設けて、環境温度を測定し、逐一、制御部(CPU)に送り、制御部には、通電テーブル(環境温度の違いに対応して通電時間の長さを変化させるための参照テーブル)を備えて、当該通電テーブルを参照して、サーマルヘッドの駆動回路に制御信号を送る。それに基づいて、駆動回路は、通電信号をサーマルヘッドに印加し、発熱体が発熱する。
【0060】
《通電時間に対するオフセット値の設定》
本発明に係る印面形成装置では、30mm幅では、各ドット(発熱体の単位)において当該通電テーブルに基づく通電時間の長さから約500μsec程度、加熱時間(通電時間)を減少させる。すなわち、500μsecのオフセット値を設ける。
同様に、15mm幅では、各ドットにおいて当該通電テーブルから約1000μsec程度、加熱時間を減少させる。すなわち、1000μsecのオフセット値を設ける。
なお、ここでのオフセット値は計算により理論値を求めることが困難であるため、実験により決定した。また、温度条件によってオフセット値を異なるものとすることもできる。
また、オフセット値を一定値の減算とせずに、通電時間の長さに一定の比率を掛けるものとしてもよい。例えば、45mm幅を100%とするとき、30mm幅に対しては90%とし、15mm幅に対しては85%とする。
【0061】
上記をまとめたマトリックスを、
図10に示す。
図10は、印面材の幅と、押圧、潰れ量、オフセットの値との関係を示す図である。
図10の最上欄に示すのは、印面材の幅のサイズであり、左から順に15mm、30mm、45mmである。
図10に示すように、単位長さ当たりの押圧は、幅が小さいほど、大きい。それに伴い、印面材の潰れ量は、幅の小さい印面材ほど大きい。オフセットは、印面材の幅の違いによる印面形成の潰れや、カスレを防ぐべく、幅の小さい印面材に対して通電時間を短くするための値である。
なお、ここに掲げた値は、本実施形態に係る印面形成装置における参考値である。設計条件が異なる装置においては、異なる値となる。
【0062】
《オフセットを適用する引き金》
ここまでの説明においては、印面材ホルダ20に設けられた切欠22aをセンサ3が読み取って、印面材21の幅(発熱体の配列方向における印面材の長さ)を制御部2が取得して、それを引き金として本発明のオフセットを適用するとしたが、ユーザが印面材21のサイズを指定し、それに基づいて、当該オフセットを適用することとしても良い。
さらに言えば、ユーザが印面形成装置に接続されたパソコンやスマートフォンのアプリケーションソフトを用いて指定した印面材21のサイズ(特に、幅)と、印面形成装置がセンサ3により印面材ホルダ20に設けられた切欠22aを読み取って取得した印面材21のサイズ(特に、幅)とが一致した時にのみ本発明のオフセットを適用して印面形成処理を実行し、一致しない場合は、印面形成処理をしないようにしても良い。これにより、ユーザが指定した印面サイズと挿入した印面材ホルダとが不一致の場合に、印面材ホルダ20(印面材21)を無駄にしなくて済む。
【0063】
《発明の作用、効果について》
本発明を適応することで、EVA幅により押圧が変化し、発熱体のEVAへの当たり方が変化しても、潰れやカスレのない印面を作成することが可能となる。
すなわち、印面材ホルダを用いて印面形成を行う場合において、EVA幅によって加熱量を変化させる(補正する)ことで、メディア幅変化に伴う押圧の変化を吸収し、メディア幅によらず安定した印刷品位を実現することが可能になった。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明は特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
【0065】
[付記1]
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材及び該印面材を着脱可能に保持する保持体を有する印面材ホルダの前記印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体と、該発熱体の発熱状態を制御する駆動回路と、が設けられ、前記印面材ホルダに保持された印面材を押圧しながら前記印面材に印面を形成する印面形成部と、
前記駆動回路に印加する通電信号を補正して、前記印面材の前記発熱体配列方向における長さが小さいものほど、前記発熱体の発熱するドット単位の発熱量を減らすように、前記印面形成部の前記駆動回路を制御する制御部と、
を有する印面形成装置。
【0066】
[付記2]
前記制御部は、サーマルヘッドへの通電時間を設定するための通電テーブルを有しており、前記補正は、当該通電テーブルで得られた通電時間に対して、前記印面材の前記発熱体配列方向についての長さが小さいものほど大きくオフセットを適用するものであることを特徴とする付記1記載の印面形成装置。
【0067】
[付記3]
前記オフセットは、所定の長さの時間を減算、又は所定の割合を乗算することによってなされることを特徴とする付記2記載の印面形成装置。
【0068】
[付記4]
加熱により非多孔質化可能な多孔質の印面材を着脱可能に保持する印面材ホルダを、前記印面材に熱を加えて印面を形成する印面形成部に対して、相対的に移動させつつ、前記印面材ホルダの前記印面材が保持された面に沿う方向に配列された複数の発熱体および該発熱体の発熱状態を制御する駆動回路により前記印面材に印面を形成する際に、前記駆動回路に印加する通電信号を補正して、前記印面材の前記発熱体配列方向における長さが小さいものほど、前記発熱体の発熱するドット単位の発熱量を減らすように、前記印面形成部の前記駆動回路を制御する印面形成工程、
を有する印面形成方法。
【0069】
[付記5]
前記制御部は、サーマルヘッドへの通電時間を設定するための通電テーブルを有しており、前記補正は、当該通電テーブルで得られた通電時間に対して、前記印面材の前記発熱体配列方向における長さが小さいものほど大きくオフセットを適用するものであることを特徴とする付記4記載の印面形成方法。
【0070】
[付記6]
前記オフセットは、所定の長さの時間を減算、又は所定の割合を乗算することによってなされることを特徴とする付記5記載の印面形成方法。