特許第6052139号(P6052139)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052139
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20161219BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20161219BHJP
   F02D 41/18 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   F02D45/00 340G
   F02D45/00 340C
   F02D45/00 366E
   F02D41/04 310F
   F02D41/18 F
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-231262(P2013-231262)
(22)【出願日】2013年11月7日
(65)【公開番号】特開2015-90138(P2015-90138A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】野崎 智裕
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−138270(JP,A)
【文献】 特開2012−017679(JP,A)
【文献】 特開2000−310143(JP,A)
【文献】 特開2007−231884(JP,A)
【文献】 特開平04−311642(JP,A)
【文献】 特開2008−057339(JP,A)
【文献】 米国特許第07305967(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0253801(US,A1)
【文献】 特開2015−90112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00−45/00
F02D 9/00−11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際に検出された吸入空気量の指標値とスロットルバルブの開度から推定される吸入空気量の基準値とのずれを示す特性値を、前記指標値が検出されたときのスロットルバルブの開度と関連付けて学習値として記憶するとともに、各学習値を用いた線形補間により学習が完了していない開度における特性値を各開度に関連付けて算出し、各開度に関連付けられている特性値に基づいてスロットルバルブの特性を学習して吸入空気量の制御に反映させる内燃機関の制御装置であり、
学習値が初期化された後の最初の機関運転時であり、且つ機関回転速度がアイドル回転速度以上である場合には、前記指標値が検出されたときのスロットルバルブの開度と前記特性値とを関連付けて記憶することにより機関回転速度がアイドル回転速度以上となるスロットルバルブの開度における学習値を更新する一方、
学習値が初期化された後の最初の機関運転時であり、且つ機関回転速度がアイドル回転速度未満である場合には、前記指標値が検出されたときのスロットルバルブの開度と前記特性値とを関連付けて記憶することにより機関回転速度がアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度における学習値を更新せずに、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値と等しい値を記憶することによって機関回転速度がアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度における学習値を更新する
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
更新前の学習値と更新後の学習値とが所定値以上乖離しないように各開度における学習値を更新する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スロットルバルブは、デポジットが堆積するなどの経時変化によって、その特性が変化する。すなわち等しい開度であってもデポジットが堆積するほど開口面積が狭くなり、吸入空気量が少なくなる。
【0003】
特許文献1に記載の内燃機関の制御装置では、こうしたスロットルバルブの特性の経時変化に対応するために、スロットルバルブの開度に応じて区分けされた開度領域毎に流量変化率を学習するようにしている。流量変化率は、吸入空気量の基準値とエアフロメータによって実際に検出された吸入空気量の値とのずれの割合を表す指標である。なお、この流量変化率を用いて吸入空気量の基準値を補正することで、経時変化が進んだ現状のスロットルバルブの特性を求めることができる。
【0004】
また、特許文献1には、内燃機関の制御装置に流量変化率の初期値を予め記憶し、未学習の開度領域では、この初期値を用いることが記載されている。また、学習済みの開度領域よりも低開度側に未学習の開度領域がある場合には、学習済みの開度領域のうち、この未学習の開度領域に最も近い開度領域における学習値と等しい値を、この未学習の開度領域における学習値として使用することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012‐17679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、整備等によって学習値が初期化された場合、機関始動後しばらくの間は初期値を用いて求められたスロットルバルブの特性に基づいてスロットルバルブが制御される。このため、スロットルバルブに経時変化が生じて同一開度における吸入空気量が少なくなっているときには、吸入空気量が不足して機関回転速度がアイドル回転速度を下回ることになる。このため、機関回転速度がアイドル回転速度未満に維持され、このアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度領域において学習が行われることとなる。
【0007】
しかし、アイドル回転速度のフィードバック制御により、アイドル運転時のスロットルバルブの開度がアイドル回転速度を維持可能な開度となるよう制御されると、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度領域において学習が行われ、以降はこの学習値に基づいてスロットルバルブが制御される。このため、この学習が行われた後は、機関回転速度がアイドル回転速度未満で維持されることがほとんどなくなり、機関回転速度がアイドル回転速度未満となるような開度領域では学習がほとんど行われなくなる。その結果、学習値が初期化された後にアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度領域において学習された学習値は、それ以降更新されずに維持されることとなる。
【0008】
一方、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度領域では、内燃機関の運転に伴い頻繁に学習値が更新される。なお、スロットルバルブは、デポジットの堆積などの経時変化が進むに連れて、同一の開度における吸入空気量が次第に少なくなるように、その特性が変化する。このため、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度領域で学習される学習値は経時変化に伴い徐々に減少、または増大しつづけることとなる。これに対し、アイドル回転速度未満となる開度領域で学習された学習値は、上述したように一旦学習された後はほとんど更新されない。このため、機関回転速度がアイドル回転速度未満となる開度領域における学習値とアイドル回転速度以上となる開度領域における学習値との乖離はスロットルバルブの経時変化が進むに連れて大きくなる。なお、学習が完了していない開度におけるスロットルバルブの特性は、各学習値を用いた線形補間によって推定される。このため、スロットルバルブの開度が、上述した頻繁に学習値が更新される開度領域と学習値が更新されない開度領域との間で行き来するときには、その開度の変化に伴う吸入空気量の増減幅が過剰に大きくなるおそれがある。すなわち、スロットルバルブの特性が、機関回転速度がアイドル回転速度未満となる開度領域と機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度領域とで大きく変化してしまうおそれがある。したがって、内燃機関の吸入空気量の制御性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明は、こうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸入空気量の制御性の低下を抑制可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための内燃機関の制御装置は、実際に検出された吸入空気量の指標値とスロットルバルブの開度から推定される吸入空気量の基準値とのずれを示す特性値を、指標値が検出されたときのスロットルバルブの開度と関連付けて学習値として記憶するとともに、各学習値を用いた線形補間により学習が完了していない開度における特性値を各開度に関連付けて算出し、各開度に関連付けられている特性値に基づいてスロットルバルブの特性を学習して吸入空気量の制御に反映させる。そして、学習値が初期化された後の最初の機関運転時であり、且つ機関回転速度がアイドル回転速度以上である場合には、指標値が検出されたときのスロットルバルブの開度と特性値とを関連付けて記憶することにより機関回転速度がアイドル回転速度以上となるスロットルバルブの開度における学習値を更新する一方、学習値が初期化された後の最初の機関運転時であり、且つ機関回転速度がアイドル回転速度未満である場合には、指標値が検出されたときのスロットルバルブの開度と特性値とを関連付けて記憶することにより機関回転速度がアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度における学習値を更新せずに、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値と等しい値を記憶することによって機関回転速度がアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度における学習値を更新する。
【0011】
上記構成では、学習値が初期化された後の最初の機関運転時には、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度のうち学習が完了している最小の開度における学習値と等しい値を記憶することによって機関回転速度がアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度における学習値を更新する。こうした更新の方法によれば、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値と、機関回転速度がアイドル回転速度未満となる開度における学習値との乖離が生じなくなる。そのため、スロットルバルブの開度がこれらの開度の間で行き来するときにその開度の変化に伴う学習値の増減が生じなくなる。その結果、スロットルバルブの開度の変化に伴う学習値の増減幅が過剰に大きくなってしまうことを抑制することができる。このため、各開度に関連付けられた特性値を用いて補正されるスロットルバルブの特性が、機関回転速度がアイドル回転速度未満となる開度領域と機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度領域とで大きく変化することを抑制できる。したがって、吸入空気量の制御性の低下を抑制することができる。
【0012】
また、学習値が初期化された後の最初の機関運転時には機関回転速度がアイドル回転速度未満に維持されるおそれがある。しかし、その最初の機関運転時に機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度において一旦学習が行われると、以降は機関回転速度がアイドル回転速度未満となるようにスロットルバルブが制御されることはほとんどない。すなわち、学習値が初期化された後、2回目以降の機関運転時には、実際に検出された吸入空気量の指標値に基づいて算出された特性値をスロットルバルブの開度と関連付けて記憶することによる学習値の更新を行うようにしていた場合であっても、アイドル回転速度未満となる開度における学習値が更新される機会はほとんどない。
【0013】
この点、上記構成では、学習値が初期化された後の最初の機関運転時に、上述した方法による学習値の更新が行われるため、機関回転速度がアイドル回転速度未満となる開度における学習値と、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度における学習値との乖離が大きくなりやすい状況のときに、こうした乖離を抑制するように学習値を更新することができる。
【0014】
また、学習が完了していない開度における特性値として初期値を用いるようにした場合には、既に学習が完了している開度における学習値と、学習が完了していない開度に関連付けられている特性値との乖離が大きくなることがあり、学習が完了している開度領域と学習が完了していない開度領域とでスロットルバルブの特性が大きく変化するおそれがある。
【0015】
この点、上記構成では、学習が完了していない開度における特性値を、各学習値を用いた線形補間により算出するようにしているため、学習が完了していない開度に関連付けられている特性値として予め設定された初期値を用いる場合に比べて、学習が完了している開度における学習値と、学習が完了していない開度に関連付けられている特性値との乖離が少なくなる。このため、上記構成によれば、学習が完了している開度領域と学習が完了していない開度領域とでスロットルバルブの特性が大きく変化することを抑制でき、吸入空気量の制御性を向上させることができる。
【0016】
また、上記内燃機関の制御装置では、更新前の学習値と更新後の学習値とが所定値以上乖離しないように各開度における学習値を更新することが望ましい。
上記構成によれば、学習値の更新時にその変化量が制限されるため、学習値の急激な変動を抑制できる。その結果、この学習値並びに、学習値から線形補間によって算出される特性値を用いて補正されるスロットルバルブの特性が更新前と更新後とで大きく変化することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態の内燃機関の制御装置とその制御対象である内燃機関との関係を示す模式図。
図2】同実施形態の内燃機関の制御装置に記憶されている学習値とスロットルバルブの開度との関係を示すグラフ。
図3】同実施形態の内燃機関の制御装置に記憶されているスロットルバルブの初期特性と学習後の特性とを示すグラフ。
図4】同実施形態の内燃機関の制御装置において実行される学習値の更新にかかる一連の処理の手順を示すフローチャート。
図5】同実施形態の内燃機関の制御装置において実行される学習値の更新について模式的に示すグラフであり、(a)は開度毎の学習値の更新について示すグラフ、(b)は学習値同士を線形補間した状態を示すグラフ、(c)は新たに学習値が更新された状態を示すグラフ。
図6】第2の実施形態の内燃機関の制御装置において実行される学習値の更新について模式的に示すグラフであり、(a)は開度毎の学習値の更新について示すグラフ、(b)は学習値同士を線形補間した状態を示すグラフ、(c)は新たに学習値が更新された状態を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、内燃機関の制御装置の第1の実施形態について、図1図5を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、内燃機関の燃焼室1には、吸気通路2と排気通路3とがそれぞれ接続されている。吸気通路2には、スロットルバルブ4が設けられている。スロットルバルブ4はその開度によって燃焼室1に導入される吸入空気の量を調節するものであり、スロットルモータ5によって駆動される。スロットルモータ5には、スロットルバルブ4の開度を検出するためのスロットルセンサ6が内蔵されている。また、吸気通路2におけるスロットルバルブ4よりも吸気上流側の部分には、吸気通路2を流れる吸入空気量を検出するエアフロメータ7が配設されている。
【0020】
内燃機関には、同内燃機関を総括的に制御する制御装置8が設けられている。制御装置8には、エアフロメータ7、スロットルセンサ6、及び内燃機関の機関回転速度NEを検出するためのクランク角センサ9を始めとして、内燃機関に設けられた各種のセンサ類から検出信号が入力される。制御装置8は、これらの検出信号に基づいて各種演算処理を実行し、内燃機関を制御する。例えば、エアフロメータ7によって実際に検出された吸入空気量の検出値とスロットルバルブ4の開度から推定される吸入空気量の基準値とのずれを示す特性値として流量損失率を算出し、この流量損失率を検出値が検出されたときのスロットルバルブ4の開度と関連付けて学習値として記憶する学習制御を実行する。また、学習制御により学習された学習値を用いた線形補間により、学習が完了していない開度における流量損失率を各開度に関連付けて算出する。そして、各開度に関連付けられている流量損失率に基づいてスロットルバルブ4の経時変化後の特性を学習し、この学習後のスロットルバルブ4の特性に基づいて燃焼室1に吸入される空気の量を制御する吸入空気量制御を実行する。
【0021】
次に、図2及び図3を参照して、学習制御について説明する。
図2に示すように、制御装置8には、流量損失率の初期値が予め記憶されている。この初期値は、スロットルバルブ4のすべての開度において「1.0」に設定されている。なお、流量損失率は、エアフロメータ7によって実際に検出された吸入空気量の検出値が、スロットルバルブ4の開度から推定される吸入空気量の基準値からどの程度ずれているのかを割合で示したものであり、検出値を基準値で割った商である。したがって検出値と基準値とにずれが生じていない場合には「1.0」となる。一方、スロットルバルブ4に経時変化が生じて同一開度における吸入空気量が少なくなると、検出値が低下して同検出値と基準値とのずれが大きくなるため、流量損失率は「1.0」よりも低い値となる。すなわち、流量損失率は、スロットルバルブ4の経時変化に伴い初期値から徐々に減少する傾向を有している。
【0022】
そして、機関運転の実行中に、スロットルバルブ4の開度が一定であり、且つ機関回転速度NEが安定している等、所定の学習条件が成立すると、制御装置8は、エアフロメータ7で実際に検出された吸入空気量の検出値と、この検出値が検出されたスロットルバルブ4の開度における吸入空気量の基準値とのずれから流量損失率を算出する。そして、この流量損失率を検出値が検出されたスロットルバルブ4の開度と関連付けて学習値として記憶する。換言すれば、スロットルバルブの開度と関連付けられた流量損失率のうち、制御装置8に記憶されたものが学習値である。
【0023】
図2は、学習値の初期値と、スロットルバルブ4の各開度TH1,TH2,TH3,TH4,TH5,TH6における学習値とを示すグラフである。このように学習値が更新されると、制御装置8は、図2の実線で示すように、学習が完了していない開度における流量損失率を、既に学習が完了している上記各開度における学習値を用いた線形補間によって各開度に関連付けて算出する。そして、こうして流量損失率が算出されると、これら流量損失率に基づいて経時変化が進んだ現状のスロットルバルブ4の特性を学習する。
【0024】
図3に一点鎖線で示すように、制御装置8には、スロットルバルブ4の開度と同開度から推定される吸入空気の量との関係を示す初期特性が予めマップ値として記憶されている。そして、この初期特性と流量損失率とに基づいて、例えば、初期特性に流量損失率を乗算して補正することにより、図3に実線で示すように、経時変化が進んだ現状のスロットルバルブ4の特性を学習する。制御装置8は、この学習後の特性に基づいて吸入空気量制御を実行する。
【0025】
次に、図4のフローチャートを参照して、学習制御における学習値の更新にかかる一連の処理について説明する。なお、この処理は制御装置8によって所定周期毎に繰り返し実行される。
【0026】
図4に示すように、この処理では、まず学習値が初期化された後の最初の機関運転時であるか否かを判断する(ステップS1)。なお、このステップS1の処理では、すべての開度において流量損失率が初期値「1.0」となっている場合に学習値が初期化された後であると判断する。また、学習値が初期化された後の最初の機関始動から機関停止までの間を最初の機関運転時とする。このステップS1の処理において否定判定となった場合(ステップS1:NO)、すなわち、学習値が初期化されていない場合や、学習値が初期化された後であっても最初の機関運転時ではない場合には、通常の学習値更新処理を実行して(ステップS4)、本処理を終了する。なお、通常の学習値更新処理では、上述したように、所定の学習条件が成立し、実際に検出された吸入空気量の検出値に基づいて流量損失率が算出されると、この流量損失率をスロットルバルブ4の開度と関連付けて記憶することにより、学習値が更新される。
【0027】
一方、ステップS1の処理において肯定判定となると(ステップS1:YES)、次にステップS2の処理に移行する。ステップS2の処理では、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満であるか否かを確認する。そして、ステップS2の処理において否定判定となった場合(ステップS2:NO)、すなわち、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上であると判断された場合には、通常の学習値更新処理を実行して(ステップS4)、本処理を終了する。
【0028】
他方、ステップS2の処理において肯定判定となった場合(ステップS2:YES)、すなわち、学習値が初期化された後の最初の機関運転時であり、且つ機関回転速度NEがアイドル回転速度未満であると判断した場合には、低回転速度領域における学習値更新処理を実行して(ステップS3)、本処理を終了する。なお、低回転速度領域における学習値更新処理では、実際に検出された吸入空気量の検出値に基づいて算出された流量損失率をスロットルバルブ4の開度と関連付けて記憶することによる学習値の更新を行わない。その替わりに、制御装置8は、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値と等しい値を記憶することによって機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となるスロットルバルブの開度における学習値を更新する。
【0029】
次に、図5を参照して、本実施形態の作用について説明する。
学習値が初期化されると、機関始動後しばらくの間は初期特性に基づいてスロットルバルブ4が制御される。このため、スロットルバルブ4に経時変化が生じて同一開度における吸入空気量が少なくなっているときには、吸入空気量が不足して機関回転速度NEがアイドル回転速度を下回り、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満に維持されることとなる。その結果、こうした回転速度領域において学習が行われる場合がある。
【0030】
この点、本実施形態では、学習値が初期化された後の最初の機関運転時には、機関回転速度NEに応じて更新処理の態様を切り替え、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となる低回転速度領域では、通常の学習値更新処理による学習値の更新を行わない。その替わりに、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値と等しい値を記憶することによって学習値を更新する。
【0031】
このため、図5(a)に示すように、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となる開度領域にある開度TH1,TH2における流量損失率がそれぞれ算出されたとしても、その値は各開度TH1,TH2における学習値として記憶されない。
【0032】
一方、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上のときは通常の学習値更新処理による学習値の更新が実行される。このため、開度TH3,TH4,TH5における流量損失率がそれぞれ算出されると、その値が各開度TH3,TH4,TH5における学習値としてそれぞれ記憶される。
【0033】
そして、図5(b)に示すように、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度における学習値が更新されると、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となる開度TH1,TH2における学習値が、開度TH3における学習値と等しい値を記憶することによって更新される。すなわち、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となる開度における学習値が、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度TH3における学習値と等しい値を記憶することによって更新される。その結果、各開度TH1,TH2,TH3におけるそれぞれの学習値は同じ値になる。なお、学習が完了していない開度における流量損失率は、上述した線形補間によって算出される。
【0034】
その後、図5(c)に示すように、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち、開度TH3よりも小さい開度である開度TH6において新たに学習値が更新されると、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値は、開度TH6における学習値となる。このため、開度TH1,TH2におけるそれぞれの学習値として開度TH6における学習値と等しい値が新たに記憶され、これにより開度TH1,TH2,TH6における学習値が同じ値となる。そして、更新後の学習値を用いた線形補間により、学習の完了していない開度に関連付けて流量損失率が算出される。
【0035】
以上のように、本実施形態では、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満のときに、実際に検出された吸入空気量の検出値に基づいて算出された流量損失率をスロットルバルブ4の開度と関連付けて記憶することによる学習値の更新が行われない。その替わりに、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となる開度における学習値が、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値と等しい値を記憶することによって更新される。こうした更新の方法によれば、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となる開度における学習値と、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度における学習値との乖離が生じなくなる。そのため、スロットルバルブ4の開度がこれらの開度の間で行き来するときにその開度の変化に伴う学習値の増減が生じなくなる。
【0036】
また、学習値が初期化された後の最初の機関運転時には機関回転速度NEがアイドル回転速度未満に維持されるおそれがある。しかし、その最初の機関運転時に機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度において一旦学習が行われると、以降は機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となるようにスロットルバルブ4が制御されることはほとんどない。すなわち、学習値が初期化された後、2回目以降の機関運転時には、実際に検出された吸入空気量の検出値に基づいて算出された流量損失率をスロットルバルブ4の開度と関連付けて記憶することによる学習値の更新を行うようにしていた場合であっても、アイドル回転速度未満となる開度における学習値が更新される機会はほとんどない。
【0037】
この点、本実施形態によれば、学習値が初期化された後の最初の機関運転時に、上述した低回転速度領域における学習値更新処理を行うようにしている。このため、学習値が初期化された後の最初の機関運転時のように、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満となる開度における学習値と、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度における学習値との乖離が大きくなりやすい状況のときに、こうした乖離が抑制されるように学習値が更新される。
【0038】
また、学習が完了していない開度における流量損失率として初期値を用いるようにした場合には、既に学習が完了している開度における学習値と、学習が完了していない開度に関連付けられている流量損失率(初期値)との乖離が大きくなることがある。このため、学習が完了している開度領域と学習が完了していない開度領域とでスロットルバルブ4の特性が大きく変化するおそれがある。
【0039】
この点、本実施形態では、学習が完了していない開度における流量損失率が、各学習値を用いた線形補間により算出される。
また、内燃機関では、機関運転時のフリクションや機関負荷によって、アイドル運転を維持するために必要な吸入空気量が変化する。このため、スロットルバルブ4の開度が所定開度未満であるか否かに基づいて機関回転速度NEがアイドル回転速度未満であるか否かを判定する場合には、その判定を適切に行うことができないおそれがある。また、アイドル回転速度を維持するために必要な吸入空気量の最低流量を予め設定し、吸入空気量がこの最低流量未満であるか否かに基づいて機関回転速度NEがアイドル回転速度未満であるか否かを判定する場合であっても、同最低流量は機関運転時のフリクション等によって変化するため、その判定を適切に行うことができないおそれがある。
【0040】
この点、本実施形態では、クランク角センサ9によって機関回転速度NEを検出し、実際の機関回転速度NEがアイドル回転速度未満であるか否かを判断するようにしている。このため、機関運転時のフリクションや機関負荷が変動したとしても、機関回転速度NEがアイドル回転速度未満であるか否かを適切に判断することができる。
【0041】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)スロットルバルブ4の開度の変化に伴う学習値の増減幅が過剰に大きくなってしまうことを抑制することができる。このため、各開度に関連付けられた流量損失率を用いて補正されるスロットルバルブ4の特性が、機関回転速度がアイドル回転速度未満となる開度領域と機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度領域とで大きく変化することを抑制できる。したがって、吸入空気量の制御性の低下を抑制することができる。
【0042】
(2)学習値が初期化された後の最初の機関運転時に、低回転速度領域における学習値更新処理が実行される。このため、機関回転速度がアイドル回転速度未満となる開度における学習値と、機関回転速度がアイドル回転速度以上となる開度における学習値との乖離が大きくなりやすい状況のときに、こうした乖離を抑制するように学習値を更新することができる。
【0043】
(3)学習が完了していない開度における流量損失率を、既に学習が完了している開度における学習値を用いた線形補間により算出するようにしたため、既に学習が完了している開度における学習値と、学習が完了していない開度における流量損失率との乖離を抑制できる。このため、学習が完了している開度領域と学習が完了していない開度領域とでスロットルバルブ4の特性が大きく変化することを抑制でき、吸入空気量の制御性を向上させることができる。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、内燃機関の制御装置の第2の実施形態について、図6を参照して説明する。なお、本実施形態では、更新前の学習値と更新後の学習値とが所定値以上乖離しないように各開度における学習値を更新する点が、上記第1の実施形態と異なっている。また、第1の実施形態と同様の処理については、その詳細な説明を省略する。
【0045】
本実施形態では、各開度に関連付けて新たに流量損失率が算出されると、この新たに算出された流量損失率と現在記憶されている学習値とが所定値α以上乖離しているか否かが判断される。そして、新たに算出された流量損失率と現在記憶されている学習値とが所定値α以上乖離していないと判断された場合には、新たに算出された流量損失率を学習値として記憶することにより学習値が更新される。一方、新たに算出された流量損失率と現在記憶されている学習値とが所定値α以上乖離していると判断された場合には、更新前後における学習値が所定値α以上乖離しないように制限して学習値が更新される。すなわち、新たに算出された流量損失率ではなく、現在記憶されている学習値から所定値α減算した値を新たな学習値として記憶することにより学習値が更新される。こうした方法によって学習値の更新が行われることにより、更新前の学習値と更新後の学習値とが所定値α以上乖離しないように各開度における学習値が更新される。
【0046】
次に、図6を参照して、本実施形態の作用について説明する。
図6(a)に示すように、開度TH4,TH5では、各開度において新たに算出されたそれぞれの流量損失率が更新前の学習値(初期値)から所定値α以上乖離していない。このため、新たに算出された流量損失率を各開度に関連付けて記憶することで、学習値が更新される。
【0047】
一方、開度TH3では、同開度において新たに算出された流量損失率が更新前の学習値(初期値)から所定値α以上乖離している。このため、開度TH3では、初期値から所定値α減算した値を記憶することによって学習値が更新される。
【0048】
また、図6(b)に示すように、開度TH3は、機関回転速度NEがアイドル回転速度以上となる開度のうち既に学習が完了している最小の開度である。このため、同開度TH3における学習値GKが更新されると、同学習値GKと等しい値が開度TH1,TH2における学習値として記憶される。その後、各学習値を用いた線形補間により学習が完了していない開度における流量損失率が各開度に関連付けて算出される。
【0049】
また、図6(c)に示すように、開度TH3における流量損失率がその後新たに算出された場合には、この流量損失率は更新前の学習値GKから所定値α以上乖離していないため、新たに算出された流量損失率を記憶することによって、学習値が更新される。
【0050】
以上説明した第2の実施形態によれば、上記(1)〜(3)と同様の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(4)学習値の更新時にその変化量が制限されるため、学習値の急激な変動を抑制できる。その結果、この学習値並びに、学習値から線形補間によって算出される流量損失率を用いて補正されるスロットルバルブ4の特性が更新前と更新後とで大きく変化することを抑制できる。
【0051】
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記各実施形態では、実際に検出された吸入空気量の指標値として、エアフロメータ7によって検出された吸入空気量の検出値を用いたが、例えば、吸気通路2内の圧力を検出する圧力センサの検出値など他の指標を用いてもよい。こうした構成であっても、上記(1)〜(4)と同様の効果を得ることができる。
【0052】
・上記実施形態では、特性値として流量損失率を用いたが、例えば実際に検出された吸入空気量の指標値と基準値との差など、実際に検出された吸入空気量の指標値とスロットルバルブの開度から推定される基準値とのずれを示す値であれば特性値として異なるパラメーターを用いてもよい。
【0053】
・上記各実施形態では、学習が完了していない開度における特性値を、既に学習が完了している開度における学習値を用いた線形補間によって算出した。しかし、ほとんどの開度における学習値を更新することができ、線形補間を行う必要がない場合などには、この構成を省略してもよい。こうした構成であっても、上記(1)及び(2)と同様の効果を得ることはできる。
【符号の説明】
【0054】
1…燃焼室、2…吸気通路、3…排気通路、4…スロットルバルブ、5…スロットルモータ、6…スロットルセンサ、7…エアフロメータ、8…制御装置、9…クランク角センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6