(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052142
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】内燃機関の遮熱膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/18 20060101AFI20161219BHJP
F02B 77/11 20060101ALI20161219BHJP
F16J 10/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
C25D11/18 301A
F02B77/11 A
F16J10/00 A
F16J10/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-236677(P2013-236677)
(22)【出願日】2013年11月15日
(65)【公開番号】特開2015-96634(P2015-96634A)
(43)【公開日】2015年5月21日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100113011
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 秀和
(72)【発明者】
【氏名】山下 英男
【審査官】
内藤 康彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−060620(JP,A)
【文献】
特開2005−298945(JP,A)
【文献】
特開2005−350741(JP,A)
【文献】
特開平08−158095(JP,A)
【文献】
特開平06−192887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室の壁面を構成する部材に陽極酸化皮膜を形成する内燃機関の遮熱膜の形成方法であって、
前記部材の表面にアルマイト皮膜を形成する工程と、
前記部材の温度を、前記燃焼室内で想定される最高温度以上、かつ、前記部材の軟化温度よりも低い温度にした状態で、前記アルマイト皮膜に封孔剤を塗布する工程と、
を備えることを特徴とする内燃機関の遮熱膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の遮熱膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の燃焼室の壁面を構成する部材に遮熱膜を形成する技術が知られている。例えば、特許文献1には、アルミニウムやその合金を母材とする燃焼室の壁面を構成する部材にアルマイトからなる陽極酸化皮膜を形成する技術が開示されている。燃焼室の壁面を構成する部材に陽極酸化皮膜のような遮熱膜が形成されることにより、燃焼室の壁面における断熱性が向上する。この結果、内燃機関における燃焼の熱効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−060620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の陽極酸化皮膜は、内燃機関の燃焼室内で高温に曝されると、燃焼室の壁面を構成する部材の熱膨張に引っ張られて亀裂が発生することがある。この結果、燃焼ガスと燃焼室の壁面を構成する部材とが直接接触して、内燃機関における断熱性が損なわれる恐れがある。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、燃焼室が高温になった際の陽極酸化皮膜の亀裂の発生を防止することができる内燃機関の遮熱膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するため、
内燃機関の燃焼室の壁面を構成する部材に陽極酸化皮膜を形成する内燃機関の遮熱膜の形成方法であって、
前記部材の表面にアルマイト皮膜を形成する工程と、
前記部材
の温度を、前記燃焼室内で想定される最高温度以上、かつ、前記部材の軟化温度よりも低い温度にした状態で、前記アルマイト皮膜
に封孔剤を塗布する工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、
封孔剤の塗布の段階で、燃焼室の壁面を構成する部材を高温に晒すことができる。そして、仮に、部材の高温化に伴ってアルマイト皮膜に亀裂が発生した場合には、封孔剤によって予めこれを塞いでおくことができる。従って、本発明によれば、内燃機関の運転中の部材の熱膨張による陽極酸化皮膜の分断を防止することができる。この結果、アルマイト皮膜の内部への燃焼ガス及び燃料の侵入を抑制することができる。また、陽極酸化皮膜の断熱性が損なわれることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態における遮熱膜について表した図である。
【
図2】封孔処理を行う温度について説明するための図である。
【
図3】陽極酸化皮膜の製膜処理工程と、エンジン内が高温場になった場合の陽極酸化皮膜について表した図である。
【
図4】封孔剤構成1について説明するための図である。
【
図5】封孔剤構成2について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
以下、本実施の形態に係る内燃機関の遮熱膜の形成方法について、
図1、
図2、そして
図3を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、内燃機関の燃焼室の壁面を構成する部材に形成されている遮熱膜について表した図である。
図1(a)には、内燃機関の燃焼室の壁面を構成する部材(以下、部材10という。)が表されている。部材10は、アルミニウム合金が母材である。部材10の表面には、遮熱膜として陽極酸化皮膜20が形成されている。以下に、陽極酸化皮膜20について説明する。
【0011】
図1に示すように、陽極酸化皮膜20は、アルマイト皮膜14と封孔剤16とから構成されている。アルマイト皮膜14は、部材10の母材であるアルミニウム合金を陽極酸化処理することにより形成される多孔質皮膜である。アルマイト皮膜14と部材10との間には、バリア層12が形成されている。
【0012】
封孔剤16は、アルマイト皮膜14の内部に形成された連通孔Aを封止して、アルマイト皮膜14の内部への燃焼ガス及び燃料の侵入を抑制し、陽極酸化皮膜20の断熱性が損なわれることを防止する目的で設けられるものである。封孔剤16としては、塗布硬化後、シリカ等の耐熱性のある材質が主成分として作用する材料(好ましくはポリシラザン又は、ポリシロキサン)が用いられる。また、熱膨張による応力緩和のため、亀裂部のみは弾性係数の低い材料であっても構わない。さらに、封孔剤16を塗布することにより、陽極酸化皮膜20の表面の粗度を改善することができる。さらに、陽極酸化皮膜20の強度を向上させることができる。このように、封孔剤16は、陽極酸化皮膜20のもつ性能を維持し、陽極酸化皮膜20の信頼性を向上させるために塗布されている。
【0013】
ところで、エンジン運転中は、燃焼室内の温度が上昇して部材10が熱膨張を引き起こす。このときに、部材10の熱膨張に引っ張られて陽極酸化皮膜20に亀裂が生じることがある。これについて、以下に
図1(b)を用いて説明する。なお、本明細書中において、部材10が熱膨張を引き起こす部材10の周囲の温度を高温場と表現する。
【0014】
図1(b)は、エンジン運転中に引き起こされる陽極酸化皮膜20の変化について表した図である。
図1(b)には、エンジン運転中に燃焼室内が高温場に変化した際に、陽極酸化皮膜20に亀裂が発生する様子が示されている。この亀裂は、燃焼室内が高温場になると熱膨張したアルミニウム合金に陽極酸化皮膜20が引っ張られることで発生する。これは、アルマイトの熱膨張率がアルミニウム合金の約1/5であるために引き起こされる。この亀裂の発生により、アルマイト皮膜14、バリア層12、そして封孔剤16が同時に分断してしまう。この結果、陽極酸化皮膜20のもつ性能が維持できなくなる。
【0015】
そこで、本実施の形態では、部材10に陽極酸化皮膜20を形成する製膜処理において、温度を高温場に設定してアルマイト皮膜14に封孔剤16を塗布する封孔処理を行う。これにより、エンジン運転中に燃焼室が高温場になった場合でも、陽極酸化皮膜20のもつ性能が維持できる。以下、
図2及び
図3を参照して、この封孔処理について詳述する。
【0016】
図2は、封孔処理を行う温度について説明するための図である。
図2の縦軸は、ピストンの温度変化を示している。ここで、ピストンは、部材10の具体例として用いられている。
図2の横軸は、エンジン回転数の変化を示している。
図2には、ピストンの温度変化とエンジン回転数との関係を示す実線が示されている。
【0017】
図2に示される実線において、ピストン温度が最高値になる点が最高出力点として表示されている。また、
図2には、アルミニウム合金が軟化する温度(以下、Al合金軟化温度という。)が示されている。ここで、本実施の形態において、封孔処理を行う温度である封孔剤塗布温度は、Al合金軟化温度と最高出力点との間の温度で設定される。これは、アルミニウム合金が軟化することなく、かつエンジンの燃焼室内で想定される最高温度以上の温度で封孔処理を行うためである。次に、封孔剤塗布温度で封孔処理を行う製膜処理の工程について、
図3を参照して説明する。なお、部材10を高温場の環境に置くことにより、部材10の温度を封孔剤塗布温度にまで上昇させることができる。
【0018】
図3は、陽極酸化皮膜20の製膜処理工程と、エンジン内が高温場になった場合の陽極酸化皮膜20について表した図である。
図3(a)は、従来の技術で形成した陽極酸化皮膜20について表した図である。従来の技術では、常温場において陽極酸化処理が施されて、部材10にアルマイト皮膜14が形成される。ここで、常温場とは、アルミニウム合金が熱膨張を引き起こすことのない部材10の周囲の温度をいう。
【0019】
次に、常温場において封孔処理が施されて、アルマイト皮膜14に封孔剤16が塗布される。
【0020】
図3(a)には、エンジン運転中に燃焼室が高温場になった際、従来の技術によって形成された陽極酸化皮膜20に亀裂が発生する様子が示されている。従来の技術では、この亀裂が生じることで陽極酸化皮膜20のもつ性能が維持できなくなっていた。
【0021】
図3(b)は、本実施の形態の陽極酸化皮膜20の形成方法について説明するための図である。本実施の形態では、常温場において陽極酸化処理が施されて、部材10にアルマイト皮膜14が形成される。次に、アルマイト皮膜14が形成された部材10を高温場の環境に置くことにより、部材10が熱膨張を引き起こし、アルマイト皮膜14に亀裂が生じる。次に、亀裂が生じたアルマイト皮膜14に封孔剤16を塗布する。これにより、アルマイト皮膜14の亀裂が生じている部分にも封孔剤16が含浸する。
【0022】
このように、アルマイト皮膜14の亀裂が生じている部分にも封孔剤16を含浸させ封孔処理を行うことによって、エンジン運転中に燃焼室が高温場になり部材10が熱膨張を引き起こしたときにも、陽極酸化皮膜20の構造を維持させることができる。このため、部材10の熱膨張による陽極酸化皮膜20の分断を防止することができる。この結果、アルマイト皮膜14の内部への燃焼ガス及び燃料の侵入を抑制することができる。また、陽極酸化皮膜20の断熱性が損なわれることを防止できる。
【0023】
[封孔剤構成1]
また、燃焼室内が高温場になっても陽極酸化皮膜20のもつ性能を維持させるために、封孔剤の熱膨張率をアルミニウム合金の熱膨張率と同等のものにする構成(以下、封孔剤構成1という。)をとる手法がある。以下に、封孔剤構成1について
図4を参照して説明する。
【0024】
図4は、封孔剤構成1について説明するための図である。
図4に示す陽極酸化皮膜20には、部材のアルミニウム合金と熱膨張率が同等の封孔剤160が封孔処理されている。
図4には、部材10がエンジン運転中に熱膨張を引き起こす様子が表されている。
図4には、部材10の熱膨張に引っ張られてアルマイト皮膜14に亀裂が生じる様子が表されている。しかし、封孔剤160は、部材10の熱膨張に引っ張られても、その構造を維持している。これは、封孔剤160が部材10と同等の熱膨張率を有するためである。このように、エンジン運転中に燃焼室が高温場になった場合でも封孔剤160には亀裂が生じない。
【0025】
[封孔剤構成2]
また、燃焼室内が高温場になっても陽極酸化皮膜20のもつ性能を維持するために、封孔剤とアルマイト皮膜との間に熱膨張率がアルミニウム合金と同等の層を設ける構成(以下、封孔剤構成2という。)をとる手法がある。封孔剤構成2について、
図5を参照して説明する。
【0026】
図5は、封孔剤構成2について説明するための図である。
図5に示す封孔剤構成2の陽極酸化皮膜20において、封孔剤16とアルマイト皮膜14との間に中間層18が設けられている。中間層18は、アルミニウム合金と同等の熱膨張率をもっている。中間層18は、アルマイト皮膜14と封孔剤16との熱膨張差を緩和する目的で設けられている。これにより、封孔剤16が部材10の熱膨張に引っ張られて分断することを防止できる。
【符号の説明】
【0027】
10 部材
12 バリア層
14 アルマイト皮膜
16 封孔剤
20 陽極酸化皮膜