(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記下地鋼板は、質量%で、さらにTi:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、Zr:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜0.1%、Cu:0.001〜0.1%、Ni:0.001〜0.1%及びV:0.001〜0.1%から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の焼付け硬化型溶融亜鉛めっき鋼板。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、以下の説明において、成分の量に関し「%」は「質量%」を意味し、「ppm」は「質量ppm」を意味する。
【0017】
本発明の焼付け硬化型溶融亜鉛めっき鋼板は、下地鋼板と、該下地鋼板上に形成されるめっき層とを有する。
【0018】
下地鋼板
本発明における下地鋼板は、質量%で、C:0.015〜0.100%、Si:0.01〜0.30%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.010〜0.070%、S:0.003〜0.020%、Sol.Al:0.01〜0.10%、N:0.002〜0.005%を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる。また、本発明の下地鋼板は、さらに、B:0.0010〜0.0050%を含んでもよい。また、本発明の下地鋼板は、質量%で、さらにTi:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、Zr:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜0.1%、Cu:0.001〜0.1%、Ni:0.001〜0.1%及びV:0.001〜0.1%から選択される少なくとも1種を含有してもよい。まず、下地鋼板の化学成分の限定理由について説明する。
【0019】
C:0.015〜0.100%
Cには、鋼板を強化する効果があり、また、セメンタイトを生成して水素をトラップし、めっきのブリスターを抑制する効果がある。Cの含有量が0.015%未満ではブリスター抑制の効果が十分でない。また、Cの含有量が0.100%を超えると強度が上昇しすぎて、加工性を損なう。したがって、Cの含有量は0.015〜0.100%とする。また、Cの含有量によって、焼付け硬化型溶融亜鉛めっき鋼板の強度を調整できるため、所望の強度に応じて、上記範囲内でCの含有量を決定してもよい。
【0020】
Si:0.01〜0.3%
下地鋼板のSiの含有量を0.01%未満とするには脱珪コストが著しく上昇する。Siの含有量が0.3%を超えると、冷延後の焼鈍処理のための加熱保持中にSi酸化物が形成され、溶融亜鉛めっきの付着を阻害する。したがって、Siの含有量は0.01〜0.3%とする必要がある。
【0021】
Mn:0.1〜1.0%
Mnは、MnSを形成することでSを無害化し、鋼板の加工性を向上すると同時に、鋼板の強化にも寄与する元素である。Mnの含有量が0.1%未満では、MnS形成の効果が十分でない。また、Mnの含有量が1.0%を超えると強度が上昇しすぎて加工性を損なう。したがって、Mnの含有量は0.1〜1.0%とする必要がある。また、Mnの含有量によって、焼付け硬化型溶融亜鉛めっき鋼板の強度を調整できるため、所望の強度に応じて、上記範囲内でMnの含有量を決定してもよい。
【0022】
P:0.010〜0.070%
下地鋼板のPの含有量を0.010%未満とするには脱燐コストが著しく上昇する。Pの含有量が0.070%を超えると、強度が上昇しすぎて加工性を損なう。したがって、Pの含有量は0.010〜0.070%とする必要がある。
【0023】
S:0.003〜0.020%
本発明における下地鋼板では、Sの含有量が0.020%を超えると、成形性劣化や表面欠陥の原因となる。一方、Sの含有量を0.003%未満とするには脱硫コストが著しく上昇する。したがって、Sの含有量を0.003〜0.020%とする必要がある。
【0024】
Sol.Al:0.01〜0.10%
Alは、脱酸のために使用される。Sol.Alの含有量が0.01%未満では、その効果が十分でなく表面欠陥の発生リスクを高める。一方、Sol.Alの含有量が0.10%を超えると脱酸の効果が飽和し、不経済となる。したがって、Sol.Alの含有量は、0.01〜0.10%とする。
【0025】
N:0.002〜0.005%
本発明における下地鋼板では、不純物としてNを含有する場合が多い。Nの含有量が0.005%超えになると成形性劣化や表面欠陥の原因となる。一方、Nの含有量を0.002%未満とするには脱窒コストが著しく上昇する。したがって、Nの含有量は0.002〜0.005%とする必要がある。
【0026】
残部が鉄および不可避的不純物
本発明における下地鋼板に含まれる必須成分は上記の通りであり、残部は鉄と、鋼原料もしくはその製造工程で混入し得る不可避不純物元素よりなる。
【0027】
また、本発明における下地鋼板は、前述した各成分元素の作用効果を阻害しない範囲で、更に他の元素が少量含まれていてもよい。本発明の効果を害さない元素、不可避不純物元素としては、例えば、Mo、Cr、Ti、Nb、V、Cu、Ni、B、Ca、Zrなどが例示される。しかし、これらの元素は強度を高めるなどの効果があるが、一方、含有量が多すぎると延性や表面性状を劣化させる。そこで、各任意成分の含有量を、Moは0.5%以下、Crは1.0%以下、Tiは0.2%以下、Nbは0.1%以下、Vは0.1%以下、Cuは1.0%以下、Niは1.0%以下、Caは0.005%以下、Zrは0.1%以下にそれぞれ抑えるべきである。
【0028】
上記の任意元素の中でも、本発明においては、下地鋼板がB:0.0010〜0.0050%をさらに含有することが好ましい。
【0029】
B:0.0010〜0.0050%
Bは、固溶Nと結合して粗大なBNを生成し、Nを無害化させる効果があり、必要に応じて添加される。Bの含有量が0.0010%未満では、上記効果が十分でなく、0.0050%を超えると、時効性を過度に上昇させ、ストレッチャーストレインを発生させやすくなる。Bを添加する場合、Bの含有量は0.0010〜0.0050%が好ましい。
【0030】
また、上記任意成分の中でも、本発明においては、下地鋼板がTi:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、Zr:0.001〜0.1%、Cr:0.001〜0.1%、Cu:0.001〜0.1%、Ni:0.001〜0.1%及びV:0.001〜0.1%から選択される少なくとも1種をさらに含有することが好ましい。
【0031】
Ti:0.001〜0.1%
下地鋼板がTiを含むと、Tiは固溶Nと結合してTiNを生成する。このようにTiは、Nを無害化する効果を有する。Tiの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分でなく、Tiの含有量が0.1%を超えるとTiCを過剰に形成して、伸びが劣化する。したがって、Tiを含有する場合、Tiの含有量は0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0032】
Nb:0.001〜0.1%
下地鋼板がNbを含むと、NbCの析出による析出強化の効果がある。Nbの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分でなく、Nbの含有量が0.1%を超えるとNbCが過剰に生成して、伸びが劣化する。したがって、Nbを含有する場合、Nbの含有量は0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0033】
Zr:0.001〜0.1%
Zrを含むとZrCの析出による析出強化の効果がある。Zrの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分でなく、Zrの含有量が0.1%を超えるとZrCが過剰に生成して、伸びが劣化する。したがって、Zrを含有する場合、Zrの含有量は0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0034】
Cr:0.001〜0.1%
Crを含むと固溶強化の効果がある。Crの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分でなく、Crの含有量が0.1%を超えると、伸びが劣化する。したがって、Crを含有する場合、Crの含有量は0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0035】
Cu:0.001〜0.1%
Cuを含むと固溶強化の効果がある。Cuの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分でなく、Cuの含有量が0.1%を超えると、伸びが劣化する。したがって、Cuを含有する場合、Cuの含有量は0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0036】
Ni:0.001〜0.1%
Niを含むと固溶強化の効果がある。Niの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分でなく、Niの含有量が0.1%を超えると、伸びが劣化する。したがって、Niを含有する場合、Niの含有量は0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0037】
V:0.001〜0.1%
Vを含むとVCの析出による析出強化の効果がある。Vの含有量が0.001%未満では、上記効果が十分でなく、Vの含有量が0.1%を超えるとVCが過剰に生成して、伸びが劣化する。したがって、Vを含有する場合、Vの含有量は0.001〜0.1%であることが好ましい。
【0038】
次いで、下地鋼板の金属組織について説明する。本発明の金属組織は、フェライト相とセメンタイト相から構成され、フェライト平均粒径が10〜30μmであり、単位体積あたりのフェライトとセメンタイトの界面の表面積が1.0〜10.0/mm(mm
2/mm
3)である。
【0039】
フェライト相とセメンタイト相
フェライト相は強度と加工性を高める効果があり、セメンタイト相は水素トラップによりブリスター発生抑制の効果がある。パーライト相はフェライト相とセメンタイト相の層状組織であるので、フェライト相とセメンタイト相から構成されるものである。また、ベイナイト、マルテンサイトなどの低温変態相は、加工性の観点から極力発生させない方が望ましいが、それぞれ5体積%以下であれば影響が少ないので発生してもよい。その他に、含有金属元素の炭化物、窒化物、硫化物がそれぞれの元素含有量に応じて含まれてもよい。なお、金属組織がフェライト相とセメンタイト相から構成されることは、実施例に記載の方法で確認することができる。
【0040】
フェライト平均粒径が10〜30μm
フェライト平均粒径が10μm未満では加工性が劣化する。また、フェライト平均粒径が30μmを超えると、プレス加工などにより変形しやすくなり、結晶粒ごとの変形量の差異に起因した鋼板表面の凹凸が発生し、成形品の美観を損なう。したがって、フェライト平均粒径は10〜30μmとする必要がある。なお、フェライト平均粒径とは、実施例に記載の方法で測定して得られるフェライト平均粒径である。
【0041】
単位体積あたりのフェライトとセメンタイトの界面の表面積が1.0〜10.0/mm
単位体積あたりのフェライトとセメンタイトの界面の表面積を1.0〜10.0/mmに制御することにより、溶融亜鉛めっきのブリスター発生を抑制できる。当該表面積が1.0/mm未満ではこの効果が十分でなく、10.0/mmを超えると鋼板の局部延性が低下し、加工性が劣化する。
【0042】
なお、フェライトとセメンタイトの界面の表面積の測定は様々な方法がある。本発明では次のようにして測定して得られる値を採用する。鋼板の任意の断面を研磨、腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM)でフェライト相、セメンタイト相を識別分離したのち、線分法で、上記表面積を測定する(例えば、日本金属学会会報,vol.10(1971),p279. 解説記事「定量金属組織学」参照)。上記の測定における計測には市販の画像解析ソフト(例えば、住友金属テクノロジー(株)社製「粒子解析」)を用いてもよい。
【0043】
鋼中水素濃度が0.1ppm未満
水素は、冷間圧延後の熱処理工程で雰囲気ガスから侵入し、めっき処理のときに鋼板中に封入され、めっき後のブリスター発生の原因となる。したがって、鋼板中の水素濃度はめっき後に評価することが必要である。その値が0.1ppm以上では、金属組織を適正に制御してもブリスターの発生抑制が困難である。そのため、鋼中水素濃度は0.1ppm未満でなければならない。
【0044】
なお、めっき後の鋼中水素濃度は、めっき層を除去せずに、不活性ガス溶融−熱伝導度法で測定する。酸洗でめっき除去を行うと、その際に鋼中に水素が侵入し、また、機械的にめっきを除去すると、水素が放出され、水素濃度が減少するため、めっき層を除去せずに分析する必要がある。なお、昇温分析法は亜鉛めっきが水素放出を抑制するため、適さない。
【0045】
めっき層
めっき層には、Znを主体として含む亜鉛めっき層以外に、合金化反応によって亜鉛めっき中に鋼中のFeが拡散しできたFe−Zn合金を主体として含む合金化亜鉛めっき層を含む。
【0046】
めっき層には、Zn以外にFe、Al、Sb、Pb、Bi、Mg,Ca、Be、Ti、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、P、B、Sn、Zr、Hf、Sr、V、Se、REMを本発明の効果を害さない範囲で含んでもよい。
【0047】
めっき層の亜鉛付着量が鋼板表面積に対し40〜100g/m
2
めっき層の亜鉛付着量は鋼板表面積に対し40〜100g/m
2である。亜鉛付着量が上記の範囲にあれば、自動車外板用途をはじめとする加工用鋼板に対して、必要な耐食性と加工性、また、耐ブリスター性を付与できる。より具体的には、亜鉛付着量が40g/m
2未満では、十分な耐食性が得られない。また、亜鉛付着量が100g/m
2を超えるとめっき鋼板の表面摩擦係数が上昇して、加工性が劣化する。また、めっき層による鋼板中の水素の封じ込め効果が増し、ブリスターが発生しやすくなる。したがって、めっき層の亜鉛付着量が鋼板表面積に対し40〜100g/m
2である必要がある。
【0048】
焼付け硬化型溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
本発明の焼付け硬化型溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について、好ましい方法、条件について説明する。
【0049】
上記下地鋼板の成分組成が上記の範囲になるように鋼スラブを製造する。鋼スラブの製造方法は特に限定されず、例えば、転炉、電気炉等、公知の溶製方法を採用して鋼を溶製し、その後、連続鋳造法により鋼スラブ(鋼素材)とする方法が挙げられる。
【0050】
鋼スラブをそのまま熱間圧延してもよいし、任意の温度まで冷却後、加熱炉中などで再加熱後熱間圧延してもよい。再加熱する場合の加熱温度は1150℃〜1300℃とすることが好ましい。上記加熱温度が1150℃未満では、変形抵抗が大きく、所望の板厚まで圧延が困難になる場合がある。一方、上記加熱温度が1300℃を超えると鋳塊の表面酸化が著しくなり、しばしば製品の表面外観を損ねる場合がある。
【0051】
熱間圧延工程は、常法にて粗圧延、仕上圧延後、600℃までの平均冷却速度を100℃/sec以上として、500℃以下で巻き取ることが、フェライトとセメンタイトの界面の表面積を所望の範囲に調整するために好ましい。さらに好ましくは巻き取り温度350℃以下である。
【0052】
熱間圧延後に冷間圧延を行い、冷間圧延後に熱処理を行う。その際、100℃/sec以上の平均昇温速度で600℃以上まで加熱することが、フェライトとセメンタイトの界面の表面積を所望の範囲に調整するために好ましい。
【0053】
さらに、800〜870℃まで加熱し、この温度範囲で10sec以上保持した後、600〜700℃までを平均冷却速度10〜30℃/secで冷却することが好ましい。好ましい理由は以下の通りである。
【0054】
加熱温度が800℃未満では高い伸びが得られない。一方、870℃を超えると、鋼板への水素侵入が顕著となり、めっき後にブリスターの発生が増加する。
【0055】
保持時間が10sec未満では高い伸びが得られない。保持時間の上限は定めないが生産性の観点からは10分以下が望ましい。
【0056】
平均冷却速度が10℃/sec未満では冷却に時間を要し、生産性が低下する。一方、平均冷却速度が30℃/secを超えると鋼中に固溶Cが過飽和に残留して、伸びを劣化させる。
【0057】
また、この熱処理は特定の雰囲気ガス中で行うことが好ましい。ブリスター抑制および自動車外板としての優れた表面外観を得るためには、この時の雰囲気ガスが重要である。
好ましい雰囲気ガスとは、水素濃度3〜15体積%、酸素濃度0.001〜0.1体積%、CO濃度100〜2000体積ppm、残部窒素の混合ガスよりなり、かつ露点が−30〜−60℃である。この雰囲気ガスの使用が好ましい理由は以下の通りである。
【0058】
水素濃度が3体積%未満では、加熱中にFeまたは合金元素が酸化され、めっき表面外観が劣化する。一方、水素濃度が15体積%を超えると、加熱中に鋼板への水素の侵入が顕著となり、めっき後にブリスターの発生が増加する。
【0059】
酸素濃度が0.001体積%未満では鋼板への水素侵入が顕著となる。一方、酸素濃度が0.1体積%超えでは鋼板表面の酸化によりめっき表面外観が劣化する。
【0060】
CO濃度が100体積ppm未満では、鋼中のCが脱炭し、所望の材質が得られない。一方、CO濃度が2000体積ppmを超えると、鋼板表面にグラファイトが析出してめっき表面外観を著しく損なう。
【0061】
露点が−30℃超えではFe中の合金元素が酸化してめっき表面外観を損なう。一方、−60℃未満では、鋼板への水素侵入が顕著となり、めっき後にブリスターの発生が増加する。
【0062】
加熱、冷却後、溶融亜鉛めっきを施すが、このときの溶融亜鉛浴中のAl濃度は0.1〜1%が適当である。溶融亜鉛めっき後、合金化処理を行ってもよい。
【0063】
さらに、伸長率1.2〜2.0%で調質圧延を実施してもよい。伸長率が1.2%未満では、降伏伸びが発生してプレス成形後の表面性状が劣化する。一方、伸長率2.0%を超えると、伸びが顕著に劣化する。
【実施例】
【0064】
実施例1
表1に示す鋼成分、組成を有する鋼塊を溶解、鋳造した。これを1250℃に加熱し、板厚3.6mmまで熱間圧延した。熱間圧延における最終パス出側温度は860℃であった。100〜250℃/secの平均冷却速度で冷却後、300〜350℃で巻き取った。続いて冷間圧延を行い、板厚1.2mmとし、さらに熱処理を実施した。この熱処理の条件は、水素濃度10体積%、酸素濃度0.01体積%、CO濃度500体積ppm、残部が窒素、露点−50℃の雰囲気ガス、平均加熱速度は100〜150℃/secで750℃に加熱、300sec保持とした。
【0065】
この熱処理後、平均冷却速度10℃/secで700℃まで冷却し、続けて平均冷却速度15℃/secで500℃まで冷却した。その後、0.1〜1%のAlを含有する溶融亜鉛浴中でめっきを施した。室温まで冷却後、伸長率1.4〜1.6%の調質圧延を行った。
【0066】
こうして製造した溶融亜鉛めっき鋼板を以下の方法で評価を行った。フェライト平均粒径は圧延方向の断面を鏡面研磨し、3%ナイタールで腐食後、100倍の光学顕微鏡像から、切断法(JIS G0552−1977)で測定した。
【0067】
フェライトとセメンタイトの界面の表面積は、上記サンプルを用い、走査型電子顕微鏡(SEM)でフェライト相、セメンタイト相を識別分離したのち、線分法で測定した。
【0068】
鋼中水素は、めっき鋼板をそのまま、不活性ガス溶融−熱伝導度法(水素分析機器: LECO社製 RH−402型)で測定した。
【0069】
引張特性は、JIS 5号試験片(JIS Z2201)を圧延方向の直角方向から採取し、JIS Z2241に準拠して測定した。
【0070】
塗装焼付け硬化量(BH)は、JIS G3135附属書に準拠して行った。
【0071】
ブリスターは鋼板表面積1m
2当たりに存在する直径0.1mm以上のめっき膨れ箇所を目視および10倍の拡大鏡で観察し、個数を計測した。
【0072】
耐食性は、日本パーカライジング(株)製化成処理液PB−SX35Tで化成処理を施し、その後、日本ペイント(株)製カチオン電着塗料パワーニクス110を約20μm厚みで塗装した。その後、カッターで塗膜にクロスカットを入れ、自動車技術会で定めた複合腐食試験(JASO−M609)を180サイクル(60日)行い、クロスカットからの膨れ幅(片側最大膨れ幅)を測定した。その結果、膨れ幅が5mm以下を良好、5mmを超えるものを×と評価した。
【0073】
プレス成形性は500mm角のかまぼこ状パンチを用いて、しわ押さえ力20トンで成形高さ60mmまで絞り成形を行い、割れの有無およびプレス品の表面性状の良否を目視で評価した。
【0074】
表2に評価結果を示す。本結果より明らかなように、本発明方法により製造した鋼板は引張特性、塗装焼付け硬化量、耐ブリスター性、プレス成形性においていずれも優れる。一方、本発明条件外の鋼板はいずれかの特性が劣る。例えば、鋼板1、2はC量が低いため、フェライトとセメンタイトの界面が十分に生成せず、ブリスターが発生した。鋼板9はC量が高いため、セメンタイトが過剰に生成し、伸びが低下して、プレス成形性が劣化した。鋼10はMn量が高いため、伸びが低下して、プレス成形性が劣化した。鋼11、12はSi量またはP量が高いため、伸びが低下して、プレス成形性が劣化し、また、めっき不良が発生した。鋼14はB量が高いため、降伏伸びが発生し、プレス成形性試験において、ストレッチャーストレインが発生した。
【0075】
実施例2
表1に示す鋼を用いて、表3に示す製造条件で板厚1.2mmの溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。こうして製造した溶融亜鉛めっき鋼板を実施例1と同様の方法で評価を行った。表4に評価結果を示す。本結果より明らかなように、本発明方法により製造した鋼板は引張特性、塗装焼付け硬化量、耐ブリスター性、プレス成形性においていずれも優れる。一方、本発明条件外の鋼板はいずれかの特性が劣る。例えば、鋼板Aは鋼成分が本発明範囲から外れるため、フェライトとセメンタイトの界面が十分に生成せず、ブリスターが発生した。鋼板Bは熱間圧延後の冷却速度が低いため、フェライトとセメンタイトの界面が十分に生成せず、ブリスターが発生した。鋼板Cは熱延巻き取り温度が高いため、フェライトとセメンタイトの界面が十分に生成せず、ブリスターが発生した。鋼板Fは熱処理の雰囲気ガス中の水素濃度が高く、めっき鋼板中の水素濃度が高いため、ブリスターが発生した。鋼板Gは熱処理の雰囲気ガス中の酸素濃度が低く、めっき鋼板中の水素濃度が高いため、ブリスターが発生した。鋼板Iは熱処理の雰囲気ガスの露点が低く、めっき鋼板中の水素濃度が高いため、ブリスターが発生した。鋼板Jは熱処理温度が低く、フェライト結晶粒径が小さいため、伸びが低く、プレス成形性が劣化した。鋼板Kは熱処理温度が高く、めっき鋼板中の水素濃度が高いため、ブリスターが発生した。また、フェライト結晶粒径が大きいため、プレス成形性試験において肌荒れ欠陥が発生した。鋼板Oは溶融亜鉛めっきの付着量が多いため、ブリスターが発生した。また、プレス成形試験においても割れが発生した。鋼板Pは溶融亜鉛めっきの付着量が少ないため、耐食性が不十分であった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】