(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
排気通路に設けられた尿素SCR触媒と、尿素水を排気に添加することにより前記尿素SCR触媒に尿素を供給する尿素水添加弁と、排気通路において前記尿素SCR触媒よりも排気上流側に設けられたパティキュレートフィルタと、同パティキュレートフィルタのフィルタ再生処理時に燃料を排気に添加する燃料添加弁とを備える内燃機関の排気浄化装置において、
前記尿素SCR触媒のアンモニア吸着量及び前記パティキュレートフィルタのPM堆積量がそれぞれについて設定された閾値以上であるときにフィルタ再生処理を行う場合には、前記アンモニア吸着量が前記閾値未満であるときにフィルタ再生処理を行う場合と比較して前記燃料添加弁の目標燃料添加量を少なくするとともに、同目標燃料添加量に向けて実際の燃料添加量を徐々に増大させる
内燃機関の排気浄化装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、内燃機関の排気浄化装置の第1の実施形態について、
図1〜
図5を参照して説明する。
【0013】
内燃機関1の吸気通路2には、内燃機関1に吸入される空気を調量するスロットルバルブ4が設けられている。スロットルバルブ4よりも吸気上流側の部分には、過給機5のコンプレッサハウジング6が設けられている。コンプレッサハウジング6の内部にはコンプレッサホイールが設けられている。
【0014】
また、内燃機関1の排気通路3には、過給機5のタービンハウジング7が設けられている。タービンハウジング7の内部にはタービンホイールが設けられている。タービンホイールとコンプレッサホイールとは回転軸により接続されている。このため、排気の圧力によりタービンホイールが回転すると、コンプレッサホイールが回転し、吸入空気が過給される。
【0015】
過給機5は可変容量式の過給機であり、タービンハウジング7には、排気の流速を調節して過給圧を制御するための複数のベーンが設けられている。このベーンの開度を小さくすると過給圧が上昇して内燃機関1に吸入される吸入空気の量が増大する。このように、過給機5のベーン及びスロットルバルブ4はそれぞれ吸入空気の量を調量する調量機構として機能する。
【0016】
また、排気通路3のタービンハウジング7よりも排気下流側の部分には、酸化触媒8とパティキュレートフィルタ9とが順に設けられている。排気通路3のタービンハウジング7よりも排気上流側の部分には、排気に燃料を添加する燃料添加弁10が設けられている。酸化触媒8は、燃料添加弁10から排気に添加された燃料を燃焼させることにより、パティキュレートフィルタ9に流入する排気の温度を上昇させる。また、排気通路3のパティキュレートフィルタ9よりも排気下流側の部分には、尿素SCR触媒11と同尿素SCR触媒11を通過したアンモニアを酸化するための酸化触媒12とが順に設けられている。尿素SCR触媒11よりも排気上流側の部分には、尿素水添加弁13が設けられている。尿素水添加弁13から排気に添加された尿素水は、熱分解によってアンモニアを生成し、尿素SCR触媒11においてNOxの分解に用いられる。このNOxの分解に用いられなかったアンモニアは、尿素SCR触媒11に吸着される。一方、尿素SCR触媒11に吸着されずに通過したアンモニアは、酸化触媒12において酸化され、水と窒素とに分解される。
【0017】
また、尿素SCR触媒11に吸着されたアンモニアの一部は、尿素SCR触媒11の床温が上昇したときに尿素SCR触媒11から脱離する。このように脱離したアンモニアも酸化触媒12において分解される。ただし、時間当たりのアンモニアの脱離量が多いと、酸化触媒12によって分解しきれないアンモニアが大気に放出される。すなわち、アンモニアのスリップが生じる。尿素SCR触媒11に吸着されているアンモニアの量が多いときほど、また尿素SCR触媒11の床温が高いときほど、このアンモニア脱離量は多くなる。したがって、尿素SCR触媒11におけるアンモニア吸着量が多いときほど、尿素SCR触媒11の床温が高いときほど、アンモニアのスリップ量が多くなる。
【0018】
排気浄化装置の制御部14には各種センサから検出信号が入力される。こうしたセンサとしては、パティキュレートフィルタ9を通過した排気の温度を検出する排気温センサ15、排気通路3においてパティキュレートフィルタ9の排気上流側の部分と下流側の部分との圧力の差を検出する差圧センサ16等がある。制御部14は、これらのセンサからの検出信号に基づいてフィルタ再生処理にかかる一連の処理を実行する。
【0019】
次に、フィルタ再生処理について説明する。この制御は、所定周期毎に繰り返し実行される。
図2に示すように、この一連の処理では先ず、フィルタ再生要求があるか否かを判定する(ステップS21)。この処理では、パティキュレートフィルタ9のPM堆積量が第1の所定量PM1以上となってから同所定量PM1よりも小さい第2の所定量PM2未満になるまでの期間、フィルタ再生要求有りと判定される。ここで、PM堆積量が第1の所定量PM1以上であるときは、パティキュレートフィルタ9のPM捕捉能力が低下していると判断することができる。一方、PM堆積量が第2の所定量PM2未満であれば、十分なPM捕捉能力が確保できると判断することができる。また、PM堆積量は、差圧センサ16によって検出される差圧ΔPが大きいほど多くなるため、この差圧ΔPに基づいて推定することができる。このステップS21の処理において否定判定となった場合には、本処理を終了する。
【0020】
一方、ステップS21の処理において肯定判定となると、次にステップS22の処理に移行する。この処理では、尿素SCR触媒11におけるアンモニア吸着量が閾値α以上であるか否かを判定する。アンモニア吸着量は、内燃機関1の運転状態及び尿素SCR触媒11に流入する排気の温度の履歴、並びに尿素水添加弁13から添加された尿素水の積算量などによって推定することができる。ステップS22の処理において否定判定となった場合には、燃料添加弁10の目標燃料添加量を所定量Q0に設定してフィルタ再生処理を実行する(ステップS26)。上記閾値αは、フィルタ再生処理の実行に伴って酸化触媒12の分解能力を超える量のアンモニアが尿素SCR触媒11から脱離するか否かを判定するための判定値である。したがって、アンモニア吸着量がこの閾値α以上であるときには、アンモニアのスリップ量が増大する可能性が高くなる。
【0021】
一方、ステップS22の処理において肯定判定となった場合には、次にステップS23の処理に移行して、PM堆積量が閾値β以上であるか否かを判定する。なお、この閾値βは、パティキュレートフィルタ9においてPMの急激な燃焼が生じるか否かを判定するための判定値であり、第1の所定量PM1よりも小さい値に設定されている。そして、このステップS23の処理において否定判定となった場合には、燃料添加弁10の目標燃料添加量を上記所定量Q0よりも小さい所定量Q1に設定し(Q1<Q0)、フィルタ再生処理を実行する(ステップS25)。なお、所定量Q1は、
図3に示すマップに基づき、アンモニア吸着量に応じて可変設定される。すなわち、アンモニア吸着量が多いときほど、所定量Q1は小さくなる。
【0022】
他方、ステップS23の処理において肯定判定となった場合には、燃料添加弁10の目標燃料添加量を所定量Q1に設定するとともに、フィルタ再生処理を開始し、同所定量Q1に向けて実際の燃料添加量を徐々に増大させる(ステップS24)。この燃料添加量の徐変制御は、
図4のマップに示すように、PM堆積量やアンモニア吸着量が多いときほど燃料添加量を少なくし、フィルタ再生処理によってPM堆積量やアンモニア吸着量が減少したときには、燃料添加量を多くすることによって行われる。こうしてステップS24、ステップS25、又はステップS26の処理を実行すると本処理を終了する。
【0023】
次に、
図5を参照して、こうした一連の処理における排気浄化装置の動作態様を説明する。
図5(a)〜(d)の一点鎖線は、フィルタ再生要求があると判断された時刻t1から燃料添加量をアンモニア吸着量やPM堆積量によらず所定量Q0に固定してフィルタ再生処理を実行した場合の動作態様を示している。この場合には、フィルタ再生処理の開始後にPMの急激な燃焼が生じ、
図5(e)に一点鎖線で示すようにパティキュレートフィルタ9の床温が急激に上昇する。このため、尿素SCR触媒11の床温が上昇して多量のアンモニアが尿素SCR触媒11から脱離して排気中に放出される。その結果、
図5(f)に一点鎖線で示すように、酸化触媒12で分解しきれないアンモニアが大気中に放出され、アンモニアのスリップ量が増大することとなる。
【0024】
本実施形態では、時刻t1において、
図5(c)に実線で示すように、アンモニア吸着量が閾値α以上であり、
図5(a)に実線で示すようにPM堆積量が閾値β以上であることに基づいて、燃料添加量が、上述した
図4のマップに基づいて設定され、
図5(d)に実線で示すように、所定量Q1に向けて徐々に増量するように燃料添加が行われる。
【0025】
こうして燃料添加が行われると、パティキュレートフィルタ9に堆積したPMが徐々に焼失するため、パティキュレートフィルタ9のPM堆積量が減少する。そして、PM堆積量が閾値β未満となる時刻t2では、
図5(c)に実線で示すように未だアンモニア吸着量が閾値α以上であるため、燃料添加量の徐変制御は停止され、同燃料添加量は通常時の所定量Q0よりも小さい所定量Q1に設定される。その後、アンモニア吸着量が閾値α未満となる時刻t3では、燃料添加量を通常時の目標燃料添加量である所定量Q0に設定し、フィルタ再生処理を継続する。その後、PM堆積量が減少して第2の所定量PM2未満となる時刻t4においてフィルタ再生処理が終了する。
【0026】
次に、この排気浄化装置の作用について説明する。
アンモニア吸着量が閾値α以上であり、PM堆積量が閾値β以上であるときには、フィルタ再生処理の実行中における燃料添加量が通常時の所定量Q0よりも少ない所定量Q1に設定されるとともに、同所定量Q1に向けて実際の燃料添加量が徐々に増大する。このため、
図5(e)に実線で示すように、フィルタ再生処理に伴う急激なPMの燃焼が抑制され、パティキュレートフィルタ9の床温の上昇が緩やかになる。これにより、
図5(f)に実線で示すように、尿素SCR触媒11の床温が急激に上昇することが抑えられ、尿素SCR触媒11から時間当たりに脱離するアンモニアの量が少なくなるため、アンモニアのスリップ量の増大が抑えられる。また、燃料添加によりPMの焼失が進みPMの急激な燃焼が生じる可能性が少なくなるに連れて燃料添加量が増大するため、PMの急激な燃焼を抑制しつつ、フィルタ再生処理の時間短縮を図ることができるようになる。
【0027】
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)フィルタ再生処理の実行中における燃料添加量を制御することにより、PMの急激な燃焼を抑制してフィルタ再生処理時におけるアンモニアのスリップ量の増大を抑えることができるとともに、フィルタ再生処理の時間短縮を図ることができる。
【0028】
(第2の実施形態)
次に、内燃機関の排気浄化装置の第2の実施形態について、
図6〜
図8を参照して説明する。この排気浄化装置では、フィルタ再生処理の実行中に、吸入空気量制限処理を行う点で上記第1の実施形態と異なっている。排気浄化装置の構成については同様であるため、共通の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0029】
図6を参照して、制御部14が実行する吸入空気量制限処理の一連の処理について説明する。この制御は、所定周期毎に繰り返し実行される。
この処理ではまず、フィルタ再生処理が実行中であるか否かを判定する(ステップS61)。フィルタ再生処理が実行中である場合(ステップS61:YES)には、次にステップS62の処理に移行して、パティキュレートフィルタ9の床温の上昇速度が閾値ΔTs以上であるか否かを判定する。パティキュレートフィルタ9の床温の上昇速度は、排気温の変化に基づいて推定することができる。そして、この処理において肯定判定となった場合には、吸入空気量制限処理を実行する(ステップS63)。吸入空気量制限処理では、スロットルバルブ4の開度を所定開度だけ小さくするとともに、過給機5のベーンの開度を所定開度だけ大きくする。その結果、吸気通路2の通路断面積が絞られ、過給圧が低下するため、吸入空気の量が減少する。その後、本処理を終了する。
【0030】
一方、ステップS62の処理において否定判定となった場合には、次にステップS64の処理に移行して、フィルタ再生処理の開始時におけるパティキュレートフィルタ9の床温が閾値T0以上であるか否かを判定する。そして、この処理において肯定判定となった場合には、上述した吸入空気量制限処理を実行して(ステップS63)、本処理を終了する。
【0031】
また、ステップS61,S64の各処理において否定判定となった場合には、吸入空気量制限処理を実行せずに本処理を終了する。
次に、
図7及び
図8を参照して、この排気浄化装置の作用について説明する。
【0032】
図7(a)に一点鎖線で示すように、時刻t71においてフィルタ再生処理が開始されると、上述したように燃料添加弁10の燃料添加量が制限されるが、こうした場合であっても、PMの燃焼速度を十分に抑制できず、パティキュレートフィルタ9の床温の上昇速度が大きくなる場合がある。
【0033】
本実施形態では、
図7(a)、(b)に実線で示すように、パティキュレートフィルタ9の床温の上昇速度が閾値ΔTs以上となる時刻t72〜t73の期間に吸入空気量制限処理が実行される。
図7(c)、(d)に示すように、この処理が実行されると、スロットルバルブ4の開度が小さくなり、また過給機5のベーンの開度が大きくなるように、スロットルバルブ4及びベーンの各駆動機構がそれぞれ制御される。その結果、排気の流量が減少してフィルタ再生処理時にパティキュレートフィルタ9に流入する酸素の量が減少し、PMの燃焼速度が減少する。したがって、
図7(a)に実線で示すように、パティキュレートフィルタ9の床温の過度な上昇が抑制される。
【0034】
また、
図8(a)に一点鎖線で示すように、フィルタ再生処理における燃料添加量が同じであっても、フィルタ再生処理の開始時におけるパティキュレートフィルタ9の床温が高いときほど、フィルタ再生処理の実行中におけるPMの燃焼速度が上昇しやすく、パティキュレートフィルタ9の床温が高温となりやすい。
【0035】
本実施形態では、
図8(a)、(b)に実線で示すように、フィルタ再生処理が開始される時刻t81でのパティキュレートフィルタ9の床温が閾値T0以上であるときには、フィルタ再生処理が実行される全期間において吸入空気量制限処理が実行される。
図8(c)、(d)に示すように、この処理が実行されると、スロットルバルブ4の開度が小さくなり、また過給機5のベーンの開度が大きくなるように、スロットルバルブ4及びベーンの各駆動機構がそれぞれ制御される。その結果、排気の流量が減少してフィルタ再生処理時にパティキュレートフィルタ9に流入する酸素の量が減少し、PMの燃焼速度が減少する。したがって、
図8(a)に実線で示すように、パティキュレートフィルタ9の床温の過度な上昇が抑制される。
【0036】
以上説明した第2の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(2)フィルタ再生処理の実行中における吸入空気量を制御することにより、PMの燃焼速度が更に減少し、パティキュレートフィルタ9の床温の過度な上昇が抑制されるため、尿素SCR触媒11の床温が急激に上昇することに起因するアンモニアのスリップ量の増大を一層好適に抑えることができる。
【0037】
(その他の実施形態)
上記各実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・上記第2の実施形態では、吸入空気量制限処理においてスロットルバルブ4の開度を所定開度だけ小さくし、ベーンの開度を所定開度だけ大きくする例を説明したが、例えば、
図9に示すように、パティキュレートフィルタ9の床温の上昇速度に基づいてスロットルバルブ4やベーンの開度を可変設定するようにしてもよい。すなわち、パティキュレートフィルタ9の床温の上昇速度が大きいときほど、スロットルバルブ4の開度を小さくするとともにベーンの開度を大きくするようにしてもよい。また同様に、フィルタ再生処理の開始時におけるパティキュレートフィルタ9の床温に基づいてスロットルバルブ4やベーンの開度を可変設定するようにしてもよい。すなわち、パティキュレートフィルタ9の床温が高いときほど、スロットルバルブ4の開度を小さくするとともにベーンの開度を大きくするようにしてもよい。
【0038】
・パティキュレートフィルタ9の床温の上昇速度に基づく吸入空気量制限処理と、フィルタ再生処理の開始時におけるパティキュレートフィルタ9の床温に基づく吸入空気量制限処理の双方を実行するようにしたが、いずれか一方の吸入空気制限処理を実行することとしてもよい。
【0039】
・吸入空気量制限処理では、スロットルバルブ4の開度及び過給機5のベーンの開度の双方を制御するようにしたが、いずれか一方の開度のみを同様に制御するようにしてもよい。
【0040】
・上記各実施形態では、アンモニア吸着量が閾値α以上であるときの目標燃料添加量である所定量Q1をアンモニア吸着量に応じて可変設定する例を示したが、同所定量Q1が通常時の目標燃料添加量である所定量Q0よりも小さいのであれば、その値を固定値としてもよい。
【0041】
・上記各実施形態では、燃料添加量の徐変制御を、PM堆積量やアンモニア吸着量が多いときほど燃料添加量を少なくし、フィルタ再生処理によってPM堆積量やアンモニア吸着量が減少したときには、燃料添加量を多くすることによって行うようにした。こうした制御に替えて、PMの急激な燃焼を抑制することのできる一定の速度をもって燃料添加量を徐々に増大させることによって徐変制御を行ってもよい。