特許第6052153号(P6052153)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6052153-切屑除去工具 図000002
  • 特許6052153-切屑除去工具 図000003
  • 特許6052153-切屑除去工具 図000004
  • 特許6052153-切屑除去工具 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052153
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】切屑除去工具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/00 20060101AFI20161219BHJP
   B24B 33/08 20060101ALN20161219BHJP
【FI】
   B23Q11/00 N
   !B24B33/08
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-255446(P2013-255446)
(22)【出願日】2013年12月10日
(65)【公開番号】特開2015-112668(P2015-112668A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124730
【弁理士】
【氏名又は名称】正津 秀明
(72)【発明者】
【氏名】村上 敬一
【審査官】 村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−129010(JP,A)
【文献】 特開昭63−077633(JP,A)
【文献】 特開2012−101168(JP,A)
【文献】 特開2013−046946(JP,A)
【文献】 特開2012−187682(JP,A)
【文献】 米国特許第5586848(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00
B24B 33/08
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに形成される円環形状の隙間に残る切屑を除去する切屑除去工具であって、
前記円環形状の隙間に嵌合可能な略円筒形状に形成され、前記切屑を掻き出す掻き出し部を備える嵌合部と、
前記嵌合部を径方向に縮径又は拡径する拡縮部と、
を備え、
前記嵌合部は、周方向に複数の嵌合片に分割され、
前記嵌合部の内周面には、流体が通過可能な溝が形成される、
切屑除去工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切屑除去工具であって、
前記嵌合部の外周には、前記各嵌合片を径方向内側に付勢する付勢部材が巻装され、
前記掻き出し部は、前記嵌合片の下端部の周方向一側に形成され、
前記溝は、前記嵌合片の内周面における略中央部から下部にかけて、略軸方向に沿って形成され、
前記溝の下端側は、隣接する前記嵌合片の掻き出し部に向けて形成され、
前記嵌合片の内径側の上部には、軸方向に沿ったテーパ形状の第一ガイド部が形成され、
前記拡縮部の下部には、前記第一ガイド部と嵌合可能であり、軸方向に沿ったテーパ形状の第二ガイド部が形成され、
前記第二ガイド部を第一ガイド部に嵌合した状態で、前記第二ガイド部を前記第一ガイド部に対して近接離間する方向へ摺動させることにより、前記嵌合部を径方向に縮径又は拡径させる、
切屑除去工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに形成される円環形状の隙間に残る切屑を除去する切屑除去工具の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに対する穴あけ加工又は切屑加工等によって生じる切屑を除去する切屑除去工具が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1に開示される切屑除去工具は、ワークに形成される円環形状の隙間に挿入可能なヘッド部を具備し、ヘッド部が円筒状に形成されている。
【0003】
そして、特許文献1に開示される切屑除去工具は、ヘッド部を円環形状の隙間に挿入し、軸部によってヘッド部を円環形状の隙間内で回転移動させることによって、ヘッド部に形成される傾斜溝に切屑を捕集する構成とされている。
【0004】
しかし、ワークが例えば粗材である場合には、円環形状の隙間の大きさにバラつきが生じる。特許文献1に開示される切屑除去工具では、円環形状の隙間の大きさにバラつきが生じている場合には、円環形状の隙間にヘッド部を挿入した際に、ヘッド部がワークに干渉し、ワークが損傷するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−129010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は、ワークに干渉することなく、円環形状の隙間に挿入できる切屑除去工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、ワークに形成される円環形状の隙間に残る切屑を除去する切屑除去工具であって、前記円環形状の隙間に嵌合可能な略円筒形状に形成され、前記切屑を掻き出す掻き出し部を備える嵌合部と、前記嵌合部を径方向に縮径又は拡径する拡縮部と、を備え、前記嵌合部は、周方向に複数の嵌合片に分割され、前記嵌合部の内周面には、流体が通過可能な溝が形成されるものである。
【0009】
請求項2においては、請求項1に記載の切屑除去工具であって、前記嵌合部の外周には、前記各嵌合片を径方向内側に付勢する付勢部材が巻装され、前記掻き出し部は、前記嵌合片の下端部の周方向一側に形成され、前記溝は、前記嵌合片の内周面における略中央部から下部にかけて、略軸方向に沿って形成され、前記溝の下端側は、隣接する前記嵌合片の掻き出し部に向けて形成され、前記嵌合片の内径側の上部には、軸方向に沿ったテーパ形状の第一ガイド部が形成され、前記拡縮部の下部には、前記第一ガイド部と嵌合可能であり、軸方向に沿ったテーパ形状の第二ガイド部が形成され、前記第二ガイド部を第一ガイド部に嵌合した状態で、前記第二ガイド部を前記第一ガイド部に対して近接離間する方向へ摺動させることにより、前記嵌合部を径方向に縮径又は拡径させるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の切屑除去工具によれば、ワークに干渉することなく、円環形状の隙間に挿入できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】切屑除去工具の構成を示す模式図。
図2】同じく側面断面視を表す模式図。
図3図1のAA断面視を表す模式図。
図4】切屑除去工具の作用を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図3を用いて、切屑除去工具100の構成について説明する。
なお、図1では、切屑除去工具100の構成を斜視にて模式的に表している。また、図2では、切屑除去工具100の構成を側面断面視にて模式的に表している。さらに、図3では、切屑除去工具100の構成を平面断面視(図2のAA断面視)にて模式的に表している。また、以下では、図1乃至図3に記載される軸方向、径方向、周方向に従って説明するものとする。
【0013】
切屑除去工具100は、本発明の切屑除去工具に係る実施形態である。本実施形態の切屑除去工具100は、エンジンのシリンダブロックW2に設けられるステムガイドW1の周りに形成される円環形状の隙間Sに残る切屑を除去する工具である。
【0014】
切屑除去工具100は、嵌合部10と、拡縮部20と、輪状弾性体30と、を具備している。
【0015】
嵌合部10は、円環形状の隙間Sに嵌合されるものである。嵌合部10は、略円筒形状に構成され、複数の嵌合片11から構成されている。嵌合片11は、略円筒形状の嵌合部10を平面視にて周方向へ略等角に分割したものである。
【0016】
本実施形態の嵌合部10は、平面視にて略120°の弧を形成する3枚の嵌合片11が略円筒形状となるように組み合わされて構成されている。このように、嵌合部10は、略円筒形状に形成されるとともに、周方向に複数の嵌合片11・11・・・に分割されている。
【0017】
嵌合部10の軸方向における上部から略中央部にかけては、輪状弾性体30が周方向に巻装されている。本実施形態の嵌合部10には、2つの輪状弾性体30が周方向に巻装されており、各嵌合片11・11・・・は輪状弾性体30・30により径方向内側に付勢されている。
【0018】
各嵌合片11の下部における、周方向の一側端部(本実施形態では、平面視における時計回りの正方向側(以下、正側とする)端部)には、下方へいくに従って周方向一側へ延出する掻き出し部15が形成されている。掻き出し部15は、嵌合片11の軸方向中途部から下端にかけて形成されている。
【0019】
掻き出し部15を形成する、嵌合片11における周方向の一側端面は、軸方向に対して傾斜しており、その軸方向に対する傾斜角度は、下方へいくに従って大きくなっている。また、掻き出し部15の下端部と嵌合片11の下端面とがなす角度は、鋭角となるように形成されており、本実施形態では、前記角度は略60°となるように形成されている。
【0020】
各嵌合片11の下部における、周方向の他側端部(本実施形態では、平面視における時計回りの負方向側(以下、負側とする)端部)には、開口部16が形成されている。開口部16は、嵌合片11の周方向の他側端部における側面を切り欠いて形成されている。
【0021】
開口部16においては、周方向の他側端部から一側へ向けての切欠量が、下方へ行くに従って大きくなるように形成されている。開口部16は、嵌合片11の軸方向中途部から下端にかけて形成されている。
【0022】
そして、隣接する嵌合片11・11における一方の嵌合片11の掻き出し部15と、他方の嵌合片11の開口部16とで、嵌合片11の下部に、側面視にて略平行四辺形状の開口を形成している。
【0023】
各嵌合片11の内径側(内周面)かつ軸方向の略中途部から下端部にかけては、溝18が形成されている。溝18は、軸方向と略平行となるように形成されている。
【0024】
溝18の上端部には溝入口18Aが形成されている。溝18の下端部は、周方向における負側に屈曲しており、開口部16を形成する嵌合片11の周方向の他側端面まで形成されている。そして、溝18の下端部が溝出口18Bとして形成されている。
【0025】
溝出口18Bは、開口部16において隣接する嵌合片11の掻き出し部15に向けて形成されている。言い換えれば、溝出口18Bは、嵌合片11の開口部16において下部の負側に向けて形成されている。
【0026】
各嵌合片11の内径側の上部には、第一ガイド部11Aがそれぞれ形成されている。第一ガイド部11Aは、嵌合片11を嵌合部10として略円筒形状になるように組み合わせた状態において、軸方向の下方に向かって縮径するように形成されるテーパ孔である。
【0027】
言い換えれば、第一ガイド部11Aは、嵌合片11を嵌合部10として略円筒形状になるように組み合わせた状態において、嵌合部10の内径が軸方向の下方に向かうに従い先細り形状となる、軸方向に沿ったテーパ形状に形成されている。
【0028】
拡縮部20は、嵌合部10に対して軸方向に摺動することによって、嵌合部10の外径寸法を縮径又は拡径するものである。拡縮部20は、略円柱形状に構成されている。拡縮部20は、嵌合部10と同軸上に配置され、嵌合部10に対して近接離間する方向へ摺動可能に構成されている。
【0029】
拡縮部20の下部には、第二ガイド部20Aが形成されている。第二ガイド部20Aは、軸方向の下方に向かって縮径するように形成されている。言い換えれば、軸方向の下方に向かうに従い先細り形状となる、軸方向に沿ったテーパ形状の拡縮部20の下部が、第二ガイド部20Aとして構成されている。第二ガイド部20Aは、嵌合部10の上方から、第一ガイド部11Aに嵌合可能に構成されている。
【0030】
輪状弾性体30は、平面視にて径方向に向けて弾性力を有するものである。輪状弾性体30は、輪状に構成されている。輪状弾性体30は、略円筒形状の嵌合部10の周方向に巻装されている。輪状弾性体30の外周に巻装される輪状弾性体30は、各嵌合片11を径方向内側に付勢している。
【0031】
なお、切屑除去工具100では、圧縮空気供給装置(図示略)によって、略円筒形状に構成される嵌合部10の内部に圧縮空気が供給されるものとする。例えば、一の嵌合片11に開口部を設け、圧縮空気供給装置と開口部とをホースによって接続し、嵌合部10の内部に圧縮空気を供給する構成とすることができる。
【0032】
図4を用いて、切屑除去工具100の作用について説明する。
なお、図4では、切屑除去工具100の作用を図4(A)、図4(B)、図4(C)の順に側面断面視にて模式的に表している。
【0033】
図4(A)に示すように、まず、作業者は、切屑除去工具100の拡縮部20を嵌合部10に対し軸方向の下向きに摺動させる。このとき、拡縮部20の第二ガイド部20Aが、軸方向に沿って嵌合部10の第一ガイド部11Aに近接する方向へ摺動し、それぞれの嵌合片11は、径方向の外向きに移動する。それぞれの嵌合片11が径方向の外向きに移動することによって、嵌合部10は拡径される。
【0034】
このとき、略円筒形状に構成される嵌合部10を構成する各嵌合片11・11・・・には、輪状弾性体30による付勢力が径方向の内向きに作用しているが、各嵌合片11・11・・・は、輪状弾性体30の付勢力に抗して、径方向外側へ移動する。
【0035】
なお、作業者は、切屑除去工具100の嵌合部10を、嵌合部10の内径がステムガイドW1の外径よりも大きくなるまで拡径するものとする。
【0036】
図4(B)に示すように、次に、作業者は、切屑除去工具100の嵌合部10をステムガイドW1に挿入し、ステムガイドW1の上部に緩く(嵌合部10とステムガイドW1とに隙間がある状態に)嵌合させる。さらに、この状態で、切屑除去工具100の拡縮部20を嵌合部10に対し軸方向の上向きに摺動させる。
【0037】
このとき、拡縮部20の第二ガイド部20Aが、軸方向に沿って嵌合部10の第一ガイド部11Aから離間する方向に摺動し、それぞれの嵌合片11は輪状弾性体30の付勢力により径方向の内向きに移動する。それぞれの嵌合片11が平面視にて径方向の内向きに移動することによって、嵌合部10は縮径される。
【0038】
ここで、切屑除去工具100の嵌合部10をステムガイドW1の上部に緩く嵌合させた状態にて嵌合部10が平面視にて縮径されることによって、嵌合部10がステムガイドW1の上部に隙間がない状態で嵌合される。これにより、各嵌合片11の溝18とステムガイドW1とに囲まれた通路が形成される。
【0039】
図4(C)に示すように、次に、作業者は、切屑除去工具100を嵌合部10の下端が隙間Sの下端部(底部)に到達するまで軸方向の下方に向けて移動させ、切屑除去工具100を平面視における周方向の正側に少なくとも1回転させる。同時に、作業者は、圧縮空気供給装置によって、嵌合部10の内部に圧縮空気を供給する。
【0040】
このとき、隙間Sの下端部に残っていた切屑は、回転操作される嵌合片11の掻き出し部15によって掻き出される。一方、圧縮空気供給装置によって、嵌合部10の内部に供給された圧縮空気の一部は、溝入口18Aから嵌合片11の溝18とステムガイドW1とで形成される通路内に供給され、通路を経由して溝出口18Bから掻き出し部15に向かって吹き出される。このようにして、嵌合部10の内周面に形成される溝18を通過した空気が掻き出し部15に向かって吹き出される。
【0041】
そして、掻き出し部15に向かって吹き出された圧縮空気は、嵌合片11の掻き出し部15によって掻き出された切屑を隙間Sから隙間Sの外部に吹き飛ばす。隙間Sの下端部に残っていた切屑は、隙間Sから隙間Sの外部に吹き飛ばされることによってシリンダブロックW2から除去される。
【0042】
切屑除去工具100の効果について説明する。
切屑除去工具100によれば、ステムガイドW1に干渉することなく、円環形状の隙間Sに嵌合部10を挿入できる。
【0043】
従来、シリンダブロックW2が粗材である場合には、円環形状の隙間Sの大きさにバラつきがあり、円筒形状のヘッド部を備える切屑除去工具では、円環形状の隙間Sの大きさのバラつきによっては、円環形状の隙間Sにヘッド部を挿入した際に、ヘッド部がシリンダブロックW2に干渉し、シリンダブロックW2が損傷するおそれがあった。
【0044】
切屑除去工具100によれば、拡縮部20の第二ガイド部20Aを嵌合片11の第一ガイド部11Aに摺動させて、嵌合部10を縮径又は拡径させることによって、ステムガイドW1に干渉することなく、円環形状の隙間Sに嵌合部10を挿入できる。
【0045】
なお、本実施形態では、圧縮空気供給装置によって、略円筒形状に構成される嵌合部10の内部に圧縮空気を供給し、溝18を経由させて、切屑を吹き飛ばす構成としたが、これに限定されない。
【0046】
例えば、クーラント噴射装置によって、略円筒形状に構成される嵌合部10の内部にクーラントを供給し、溝18を経由させて、切屑を吹き飛ばす構成としても良い。つまり、溝18を経由した流体を、掻き出し部15に向かって吹き出すことにより、切屑を吹き飛ばす構成であればよい。
【符号の説明】
【0047】
10 嵌合部
11 嵌合片
11A 第一ガイド部
15 掻き出し部
18 溝
20 拡縮部
20A 第二ガイド部
100 切屑除去工具
S 隙間
W1 ステムガイド
W2 シリンダブロック
図1
図2
図3
図4