特許第6052160号(P6052160)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052160
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】EGRバルブ装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 26/67 20160101AFI20161219BHJP
【FI】
   F02M26/67
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-268272(P2013-268272)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124640(P2015-124640A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100080045
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100124752
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 真司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 考司
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 真輔
【審査官】 川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−41827(JP,A)
【文献】 特開2012−163017(JP,A)
【文献】 特開2004−204758(JP,A)
【文献】 特開2007−285311(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/56834(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 26/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関より排出される排気ガスの一部(以下、EGRガスと言う)を前記内燃機関の吸気側へ還流させるEGRシステムに用いられるEGRバルブ装置(1)であって、
内部をEGRガスが流れるEGR通路(2)を形成するハウジング(3)と、
このハウジング(3)内に軸受(7)を介して回転自在に支持されると共に、一方の端部が前記EGR通路(2)の内部へ突き出るシャフト(8)と、
このシャフト(8)の一方の端部に固定されて前記EGR通路(2)の内部に配置され、前記シャフト(8)と一体に回転して前記EGR通路(2)の開口面積を可変する弁体(9)と、
前記ハウジング(3)内の前記軸受(7)より反EGR通路側に配置され、前記シャフト(8)の外周面にリップ(11a)を押圧してEGRガスの漏れを防止するオイルシール(11)とを備え、
前記シャフト(8)は、前記EGR通路(2)の内部へ突き出る一方の端部の外周にグリスを保持するグリス溝(8a)が形成され、このシャフト(8)を前記ハウジング(3)内へ挿入する際に、前記グリス溝(8a)に保持されたグリスが前記オイルシール(11)のリップ(11a)に塗布されることを特徴とするEGRバルブ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したEGRバルブ装置(1)において、
前記弁体(9)には、前記シャフト(8)の軸長方向に沿って前記弁体(9)を斜めに貫通する貫通孔(9a)が形成され、
前記シャフト(8)は、前記一方の端部が前記貫通孔(9a)に圧入されると共に、前記貫通孔(9a)より突き出るシャフト先端部を前記弁体(9)に溶接して固定され、且つ、前記貫通孔(9a)に圧入される範囲内に前記グリス溝(8a)が形成されていることを特徴とするEGRバルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関より排出される排気ガスの一部をEGRガスとして吸気系に還流させるEGRバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関の燃焼室より排出される排気ガスの一部(EGRガスと呼ぶ)を内燃機関の吸気系に再循環させるEGRバルブ装置が知られている(特許文献1参照)。
このEGRバルブ装置は、EGRガスが流れるEGR通路の開口面積を可変するEGRバルブの開度に応じてEGRガス量を調整する。
EGRバルブは、図3に示すように、軸受100を介してハウジング110に回転自在に支持されるシャフト120と、このシャフト120の先端部に溶接固定されてEGR通路130内に配置される円板状の弁体140とで構成される。なお、EGR通路130の前後に記載した矢印は、EGRガスの流れ方向を示している。
【0003】
シャフト120を通すハウジング110の内部には、シャフト120の軸長方向において軸受100より反EGR通路側(図示上側)にEGRガスの漏れを防止するオイルシール150が配置される。このオイルシール150は、シャフト120の外周面に押圧されるゴム製のリップを有し、ハウジング110の内部にシャフト120を挿入する際に、耐摩耗性を向上させるためのグリスがリップ内に塗布される。
すなわち、シャフト120は、軸長方向の略中央部にグリスを保持する溝部(グリス溝121と呼ぶ)が全周に形成されており、このシャフト120をハウジング110内に挿入することで、グリス溝121に保持されているグリスがリップに掻き取られる様にしてリップ内に塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−285311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、EGR通路130内に配置される弁体140には、実機環境において排気脈動圧が印加され、EGR通路130の開口面積が最小となるバルブ全閉時に排気脈動圧が最大となる。
ここで、シャフト120の軸受け構成は、軸長方向の中央部付近を軸受100で受ける片持ち構造となっている。このため、シャフト120の先端部に固定される弁体140に排気脈動圧が加わると、シャフト先端部が作用点および軸受部が支点となって、排気脈動圧の大きさに応じた曲げモーメントがシャフト120に加わる。その結果、シャフト120に撓が生じ、その撓み量に応じた応力がグリス溝121に発生する。
【0006】
グリス溝121に発生する応力は、グリス溝121が切り欠き形状となっているため、グリス溝121が形成されていない単純な円柱形状と比較すると数倍にもなる。従って、グリス溝121に発生する応力値がシャフト材の許容値を超えると、シャフト120が折損に至る恐れがある。
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、弁体に排気脈動圧が印加されてシャフトが撓んだ場合に、シャフトのグリス溝に発生する応力を低下させることができるEGRバルブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、内燃機関より排出される排気ガスの一部(以下、EGRガスと言う)を内燃機関の吸気側へ還流させるEGRシステムに用いられるEGRバルブ装置であって、内部をEGRガスが流れるEGR通路を形成するハウジングと、このハウジング内に軸受を介して回転自在に支持されると共に、一方の端部がEGR通路の内部へ突き出るシャフトと、このシャフトの一方の端部に固定されてEGR通路の内部に配置され、シャフトと一体に回転してEGR通路の開口面積を可変する弁体と、ハウジング内の軸受より反EGR通路側に配置され、シャフトの外周面にリップを押圧してEGRガスの漏れを防止するオイルシールとを備え、シャフトは、EGR通路の内部へ突き出る一方の端部の外周にグリスを保持するグリス溝が形成され、このシャフトをハウジング内へ挿入する際に、グリス溝に保持されたグリスがオイルシールのリップに塗布されることを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、弁体が固定されるシャフトの一方の端部にグリス溝が形成されるので、排気脈動圧が弁体に印加されてシャフトが撓んでも、グリス溝に発生する応力を低減できる。つまり、シャフトが撓んだ場合の支点となる軸受け部(軸受に支持されている部分)にグリス溝を形成していないので、特許文献1の従来技術と比較して、グリス溝に発生する応力を小さくできる。
また、軸受け部にグリス溝を形成する必要がないので、軸受け部のシャフト形状を円柱形状にできる。このため、シャフトの軸受け部に発生する最大応力が低減されるので、特許文献1に開示されたシャフト形状と比較して許容排気脈動圧値を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1に係るEGRバルブ装置の断面図である。
図2図1に示すEGRバルブ装置の要部を示す断面図である。
図3】従来技術に係るEGRバルブ装置の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0011】
〔実施例1〕
本発明のEGRバルブ装置1は、エンジン(本発明の内燃機関)より排出される排気ガスの一部(EGRガスと呼ぶ)を吸気側に還流させるEGRシステムに用いられて、エンジンの排気管と吸気管(共に図示せず)とを連通する排ガス還流管に接続される。
EGRバルブ装置1は、図1に示すように、EGR通路2を形成するハウジング3と、EGR通路2を流れるEGRガス量を調整するEGRバルブ(後述する)と、このEGRバルブを駆動するバルブ駆動手段と、EGRバルブの開度を検出する回転角センサ等を備える。
【0012】
ハウジング3は、例えばアルミダイカストにより製造され、ハウジング3の内部をEGR通路2が図示左右方向に貫通して形成される。但し、EGR通路2は、EGRガスが流入するIN側(図示左側)とEGRガスが流出するOUT側(図示右側)との間にEGRガスの流れ方向が変化する屈曲部が設けられている。つまり、屈曲部よりIN側のEGR通路2の軸心方向とOUT側のEGR通路2の軸心方向とが所定の角度で交差している。また、屈曲部よりIN側のEGR通路2には、金属製(例えばステンレス製)の円筒ノズル4が挿入されている。なお、図1に示すEGR通路2の前後に記載した矢印は、EGRガスの流れ方向を示している。
【0013】
EGR通路2のIN側が開口するハウジング3のIN側端面には、排気管に繋がるIN側の排ガス還流管5が接続され、EGR通路2のOUT側が開口するハウジング3のOUT側端面には、吸気管に繋がるOUT側の排ガス還流管(図示せず)が接続される。
EGRバルブは、ハウジング3内に二つの軸受6、7を介して回転自在に支持されるシャフト8と、このシャフト8の一方の端部に固定される円板状の弁体9とで構成される。弁体9の外周には、EGR通路2を全閉するバルブ全閉時(図1に示す状態)のシール性を確保するためにシールリング10が装着される。
【0014】
二つの軸受6、7の具体例として、図1では軸受6にボールベアリング、軸受7に滑り軸受を用いている。二つの軸受6、7の間には、EGRガスの漏れを防止するためのオイルシール11が配設される。このオイルシール11は、図2に示すように、径方向の内周にゴム製のリップ11aを有し、このリップ11aがシャフト8の外周面に押圧されることでシャフト8の外周を気密にシールしている。
また、シャフト8の軸長方向において軸受7のEGR通路2側、すなわち反オイルシール側には、EGRガスに含まれるカーボンデポジット等の異物が軸受7内の摺動隙間へ侵入することを防止するシール部材12が配置される。
【0015】
バルブ駆動手段は、電力の供給を受けて回転トルクを発生するモータ(図示せず)と、このモータの回転トルクを増幅してシャフト8に伝達するギヤトレインとで構成される。
モータは、例えば直流モータであり、ECU(図示せず)によって通電制御される。
ギヤトレインは、複数の平歯車を噛み合せて構成される。具体的には、モータの出力軸に取り付けられるピニオンギヤ(図示せず)と、シャフト8の他方の端部に取り付けられるバルブギヤ13(図1参照)と、ピニオンギヤの回転をバルブギヤ13に伝達する中間ギヤ(図示せず)とで構成される歯車減速手段である。
【0016】
回転角センサは、例えば、バルブギヤ13の内周に永久磁石14が取り付けられ、この永久磁石14の内側にホールIC15を配置して構成される。ホールIC15は、バルブギヤ13と共に永久磁石14が回転することで、ホール素子を貫く磁束密度に比例した電気信号をECUへ出力する。
ECUは、アクセル開度やエンジン回転数等から把握されるエンジンの運転状態に応じてEGRバルブの目標開度を演算し、ホールIC15によって検出されるEGRバルブの実開度が目標開度と一致するようにモータへの供給電力をフィードバック制御する。
【0017】
続いて、本発明の特徴を有するEGRバルブの構成を詳細に説明する。
EGRバルブのシャフト8は、図1に示すように、OUT側のEGR通路2の軸心方向と直交して配置され、一方の端部がIN側のEGR通路2の内部へ突き出ている。この一方の端部の外周には、図2に示すように、グリス溝8aが全周に形成され、シャフト8をハウジング3の内部へ挿入する前に、予めグリス溝8aにグリスが塗布される。
このシャフト8をハウジング3の内部へ挿入する際に、グリス溝8aに保持されたグリスがオイルシール11のリップ11aに掻き取られる様にしてリップ11a内に塗布される。なお、シール部材12、軸受7、オイルシール11、軸受6は、シャフト8をハウジング3の内部へ挿入する以前にハウジング3の内部に組み付けられる。
また、オイルシール11のリップ11aの内径をD1、グリス溝8aが形成されたシャフト8の外径をD2とすると、D2>D1の寸法関係が成立している(図2参照)。
【0018】
弁体9は、EGR通路2の内部に配置されて、シャフト8の軸長方向に対し所定の角度だけ傾斜した状態でシャフト8の一方の端部に固定され、シャフト8と一体に回転することでIN側のEGR通路2の開口面積を可変する。この弁体9には、図2に示すように、シャフト8の軸長方向に沿って弁体9を斜めに貫通する貫通孔9aが形成され、この貫通孔9aにシャフト8の一方の端部が圧入される。また、貫通孔9aより突き出るシャフト8の先端部を弁体9に溶接(例えばTIG溶接、レーザ溶接)して両者が結合される。
ここで、弁体9の貫通孔9aに圧入されるシャフト8の軸方向範囲、つまりシャフト8の全周が貫通孔9aに覆われる部分をシャフト圧入部と呼ぶ時に、上記のグリス溝8aはシャフト圧入部に形成されている。よって、シャフト8の一方の端部を弁体9の貫通孔9aに圧入した状態で、グリス溝8aが貫通孔9aより外側に露出することはない。
【0019】
〔実施例1の作用および効果〕
実施例1のEGRバルブ装置1は、弁体9が固定されるシャフト8の一方の端部にグリス溝8aを形成しているので、排気脈動圧が弁体9に印加されてシャフト8が撓んだ場合でも、グリス溝8aに発生する応力を低減できる。つまり、弁体9に排気脈動圧が印加されてシャフト8が撓んだ場合に、その支点となるシャフト軸受け部(軸受7に支持されている部分)にグリス溝8aが形成されていないので、特許文献1の従来技術と比較してグリス溝8aに発生する応力が小さくなる。
【0020】
また、シャフト軸受け部の形状は、段差や切り欠き等が形成されていない単純な円柱形状である。つまり、シャフト軸受け部にグリス溝8aが形成されていないので、シャフト軸受け部に発生する最大応力が低減される。これにより、特許文献1に開示されたシャフト形状と比較して許容排気脈動圧値を向上できるので、例えばシャフト8の折損を回避するためにシャフト径を大きくする等の大幅な設計変更は不要である。
さらに、グリス溝8aが形成されたシャフト8の一方の端部を弁体9の貫通孔9aに圧入し、貫通孔9aより突き出るシャフト先端部を弁体9に溶接するので、溶接部位にグリスが付着することはない。つまり、グリス溝8aが貫通孔9aの内部に隠れているので、グリス溝8aに存在するグリスが溶接強度に悪影響を与えることはなく、従来と同等の溶接強度を確保できる。
【符号の説明】
【0021】
1 EGRバルブ装置
2 EGR通路
3 ハウジング
7 軸受
8 シャフト
8a グリス溝
9 弁体
9a 弁体に形成される貫通孔
11 オイルシール
11a オイルシールのリップ
図1
図2
図3