(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記A3000系アルミニウム合金は、A3003、A3203、A3004、A3104、A3005またはA3105である、請求項1または請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、非水電解質二次電池はHEV(Hybrid Electric Vehicle)やEV(Electric Vehicle)等の車載用途へと展開され始めている。現在、車載用の非水電解質二次電池の外装体としては、強度は低いが導電性の高いA1000系アルミニウムが用いられている。また近時では電池の高容量化に伴い、より高い内圧にも耐え得る強度を有しかつ溶接性が良好であるA3000系アルミニウム合金を筐体に用いる検討が開始されている。
【0005】
非水電解質二次電池の信頼性を考える上で、筐体と蓋体との溶接強度、すなわち溶接部の破壊強度は極めて重要である。とりわけ車載用途では、携帯電話等のモバイル用途と比較して高い破壊強度が要求される。そのため車載用途では破壊強度を確保するため、溶接部の溶け込み深さを非常に深く設定する必要が生じている。
【0006】
たとえば筐体の肉厚が0.4mm〜0.5mmである場合に、筐体および蓋体に0.6mm以上の溶け込み深さを有する溶接部を形成して破壊強度を高める検討がなされている。ところが溶け込み深さが深くなると、当然のことながら溶融部も大きくなる。その結果、溶融部にボイドやポロシティといった気泡に起因する欠陥が含まれやすくなり、十分な破壊強度を得ることができない。
【0007】
溶け込み深さが深い場合の溶接に関して、特許文献1ではA1000系アルミニウムの溶融時の粘度(液相粘度)を低くすることにより、溶融部での欠陥の発生を抑制できることが開示されている。これは、液相粘度を低くすることにより、溶接時に溶融状態の金属に対流が生じ、溶融部から気泡が抜けやすくなるからであると考えられる。
【0008】
しかしながら、本発明者がA3000系アルミニウム合金から構成される筐体とA1000系アルミニウムから構成される蓋体との溶接において、特許文献1の技術の適用を行なったところ、溶融時に十分な対流が生じる材料および条件を選択しているにも関わらず、破壊強度はむしろ低下することが明らかとなった。
【0009】
本発明は上記のような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは筐体と蓋体との溶接部における破壊強度が高く、信頼性に優れる非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、A3000系アルミニウム合金から構成される筐体とA1000系アルミニウムから構成される蓋体との溶接部の破壊試験を行なって、溶接部の破壊強度の低下原因を詳細に調査した。その結果、溶接部の破壊は筐体と蓋体との接合部からではなく、筐体側の溶融部と未溶融部(母材)との境界(すなわちボンド部)から発生していることが明らかとなり、筐体側のボンド部は、筐体と蓋体との接合部よりも強度が低くなっているとの知見が得られた。
【0011】
そして該知見に基づき更に研究を重ねたところ、筐体側のボンド部における強度低下の原因は溶融部のマンガン濃度にあることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち本発明の非水電解質二次電池は以下の構成を備える。
【0012】
(1)本発明の非水電解質二次電池は、A3000系アルミニウム合金から構成される筐体と、A1000系アルミニウムから構成される蓋体と、該筐体と該蓋体とを接合する溶接部と、を備え、該溶接部は、筐体側溶融部と蓋体側溶融部とを含み、該A3000系アルミニウム合金のマンガン濃度に対する該筐体側溶融部のマンガン濃度の比率をDとしたとき、0.67≦D≦0.93を満たす。
【0013】
本発明の非水電解質二次電池において筐体に使用されるA3000系アルミニウム合金は、マンガン(Mn)が0.3〜1.5質量%程度添加されたアルミニウム合金であり、Mnの存在により高強度を有する。他方、蓋体に使用されるA1000系アルミニウムは、いわゆる純アルミニウムであり、組成中のMn含有率は0.05質量%以下である。
【0014】
本発明者の研究によれば、筐体側のボンド部における強度低下のメカニズムは次のように説明される。すなわち溶接の際、溶融した金属に対流が生じることにより、筐体のA3000系アルミニウム合金に含まれるMnが、純アルミニウムである蓋体側へと移動する。Mn濃度の減少に伴い、筐体側溶融部は未溶融部よりも強度が低下する。そのため筐体側のボンド部では溶融部と未溶融部との間に強度差が生じ、これらの間で破断しやすくなる。
【0015】
そこで筐体側溶融部のMn濃度と溶接部の破壊強度との関係を調査したところ、母材のMn濃度(すなわちA3000系アルミニウム合金のMn濃度)に対する筐体側溶融部のMn濃度の比率をDとしたとき、比率Dが0.67以上であれば十分な破壊強度を維持できることが明らかになった。また同調査から、比率Dが0.93を超えると筐体側溶融部での対流が過度に少なくなり、筐体と蓋体との境界で融合不良が発生することが明らかとなった。したがって本発明では、比率Dを0.67以上0.93以下に規制する。これによりA3000系アルミニウム合金から構成される筐体と、A1000系アルミニウムから構成される蓋体との溶接部における破壊強度が従来に比して飛躍的に高まり、電池の信頼性が向上する。
【0016】
なお本明細書において「溶融部」とは「JIS Z 3001 番号11205」の用語の定義に基づき、溶接部の中で母材が溶融した部分を示すものとする。
【0017】
またMn濃度の比率Dは、筐体側溶融部のMn濃度を筐体母材のMn濃度で除することにより算出するものとする。
【0018】
(2)溶接部の溶け込み深さは、溶接部における筐体の厚さよりも大きいことが好ましい。このように溶け込み深さを筐体の厚さに比して深く設定することにより、エネルギー密度を低下させずに溶接部の破壊強度を向上させることができる。
【0019】
前述のように従来技術によれば、このような溶け込み深さを設定すると、筐体側のボンド部で強度低下が起こるため、溶接部の破壊強度を向上させることはできない。したがって従来技術では溶け込み深さを深くするためには、筐体の厚さを厚くする必要がありエネルギー密度の低下を免れない。
【0020】
これに対して本発明では、筐体側溶融部のMn濃度が上記の特定範囲に規制されている。そのため筐体側のボンド部で強度低下が起こらない。したがって溶接部の溶け込み深さを深くすることが可能であり、エネルギー密度を低下させずに溶接部の破壊強度を向上させることができる。
【0021】
(3)A3000系アルミニウム合金は、A3003、A3203、A3004、A3104、A3005またはA3105であることが好ましい。これらの合金は強度と溶接性のバランスに優れる。そしてこれらの合金を筐体に用いることにより、電池の内圧が上昇した際に、膨れ等の変形を抑制することができる。
【0022】
(4)溶接部はレーザ溶接部であることが好ましい。溶接部をレーザ溶接によって形成することにより、溶接部の溶け込み深さをより深くすることができる。またレーザ溶接では筐体側溶融部のMn濃度の制御が容易であり、溶接部の破壊強度を更に向上させることができる。
【0023】
(5)本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、A3000系アルミニウム合金から構成される筐体を準備する工程と、A1000系アルミニウムから構成される蓋体を準備する工程と、該筐体と該蓋体とを接合する溶接部を形成する工程と、を備え、該溶接部は、筐体側溶融部と蓋体側溶融部とを含み、該溶接部を形成する工程では、該A3000系アルミニウム合金のMn濃度に対する該筐体側溶融部のMn濃度の比率をDとしたとき、0.67≦D≦0.93となるように溶接を行なう。
【0024】
このように比率Dが特定範囲に属するように溶接を行なうことにより、筐体と蓋体との溶接部における破壊強度が高く、信頼性に優れる非水電解質二次電池を製造することができる。
【0025】
(6)溶接部を形成する工程では、筐体に第1のレーザと蓋体に第2のレーザとをそれぞれ照射し、第1のレーザの照射位置と第2のレーザの照射位置との距離を調節することにより、Dを調整することが好ましい。
【0026】
本発明者の研究によれば、かかる溶接方法を採用することにより、第1のレーザによって形成されるキーホールからの熱伝導と、第2のレーザによって形成されるキーホールからの熱伝導によって、深い溶け込み深さを有する溶接部を形成することができる。そして第1のレーザの照射位置と第2のレーザの照射位置との距離を調節することによってMn濃度の比率Dを所望の範囲に制御することができる。そして第1のレーザと第2のレーザとを並走させることにより、連続的に溶接部を形成し、筐体と蓋体とを強固に接合することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、筐体と蓋体との溶接部における破壊強度が高く、信頼性に優れる非水電解質二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態(「本実施形態」とも記す)についてより詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
なお本明細書において、たとえば「A3003」等の記号は、JIS規格のアルミニウムおよびアルミニウム合金の材質記号、すなわちアルミニウムを示す「A」とそれに続く4桁の数字とからなる記号を示すものする。また「A3000系」とは4桁の数字のうち左から1番目の数字が「3」であるすべての材質記号を含むものとし、「A1000系」とは4桁の数字(左から2番目の数値は文字「N」であることもある)のうち左から1番目の数字が「1」であるすべての材質記号を含むものとする。
【0031】
<非水電解質二次電池>
図1は本実施形態の非水電解質二次電池の構成の一例を示す模式的な斜視図である。
図1に示す電池101は、筐体10の開口周縁と蓋体20の外周縁とが、全周に亘って溶接されて一体化した外装体100を備えている。ここで筐体10はA3000系アルミニウム合金から構成され、蓋体20はA1000系アルミニウムから構成されている。
【0032】
図2は
図1のII−II線に沿う電池101の模式的な断面図である。また
図3は
図2の領域Aの拡大図である。
図2に示すように外装体100の内部には発電要素、すなわち電極体30および非水電解質(図示せず)が収容されている。筐体10と蓋体20とは嵌合構造を有しており、筐体10と蓋体20とは溶接部WPによって接合されている。なお筐体10と蓋体20は嵌合構造を有していなくてもよく、両者を突き合わせたものであっても構わない。
【0033】
図3に示すように、溶接部WPは筐体側溶融部F1と蓋体側溶融部F2とから構成されており、筐体側溶融部F1と蓋体側溶融部F2との境界に接合部JPを含む。接合部JPでは筐体側溶融部F1と蓋体側溶融部F2とが融合して一体化している。また筐体10は筐体側溶融部F1と母材との境界にボンド部BPを有する。
【0034】
溶接部WPは、溶け込み深さdwを有している。また筐体10は溶接部WPにおいて厚さt1を有し、蓋体20は厚さt2を有している。ここで、dw、t1およびt2は、t1<dw<t2となる関係を満たしている。このようにdw<t2であることにより外装体100の内部へ溶接スパッタが混入することを防止することができる。またt1<dwであることにより、エネルギー密度を低下させずに接合部JPの接合面積を大きくして溶接強度を向上させることができる。
【0035】
筐体側溶融部F1は、溶接時に筐体10を構成する母材が溶融した部分であり、溶融時の対流によってMnが蓋体側溶融部F2に移動したことによって、母材よりも低いMn濃度を有している。本実施形態では、母材であるA3000系アルミニウム合金のMn濃度(C
B)に対する筐体側溶融部F1のMn濃度(C
A)の比率をD(C
A/C
B)としたとき、0.67≦D≦0.93となる関係を満たす。
【0036】
Dが0.67以上であることにより筐体側溶融部F1と母材との強度差に起因するボンド部BPでの強度低下が防止される。さらにDが0.93以下であることにより、溶融時に十分な対流が生じて溶融部から気泡が抜けやすくなるとともに、接合部JPにおける融合不良を防止することができる。したがって本実施形態の電池101は筐体10と蓋体20との溶接部WPにおける破壊強度が高く、信頼性に優れる。
【0037】
(Mn濃度の測定方法および比率Dの算出方法)
本実施形態におけるA3000系アルミニウム合金(母材)と筐体側溶融部F1のMn濃度は、金属材料および合金材料における一般的な成分分析方法を用いて測定することができる。具体的には、たとえば「JIS H 1355:アルミニウム及びアルミニウム合金中のマンガン定量方法」に準拠してMn濃度を測定することができる。そして筐体側溶融部F1のMn濃度(C
A)を母材のMn濃度(C
B)で除することにより比率D(C
A/C
B)を算出することができる。
【0038】
また比率Dは次のようにして算出することもできる。すなわち溶接部WPの断面を切り出し、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)を用いて、該断面の元素分析(面分析)を行なって、筐体側溶融部F1の面内Mn濃度と、母材の面内Mn濃度とをそれぞれ測定し、筐体側溶融部F1の面内Mn濃度(C
A)を母材の面内Mn濃度(C
B)で除することにより比率D(C
A/C
B)を算出することもできる。
【0039】
なお蓋体側溶融部F2は、筐体側溶融部F1からのMnの移動によって、蓋体母材であるA1000系アルミニウムよりもMn濃度が増加している。蓋体側溶融部F2のMn濃度が増加することにより、蓋体側溶融部F2のMn濃度が筐体側溶融部F1のMnに近づき、接合部JPにおける両者の融合度が高まる。ここで筐体側溶融部F1のMn濃度(C
A)に対する蓋体側溶融部F2のMn濃度(C
C)の比率D’(C
C/C
A)は、0.11以上0.57以下であることが好ましい。
【0040】
以下、本実施形態の非水電解質二次電池を構成する各部について説明する。
(筐体)
筐体10は、上部が開口した有底缶であり、Al−Mn系合金であるA3000系アルミニウム合金から構成される。A3000系アルミニウム合金としては、A3003、A3203、A3004、A3104、A3005またはA3105を用いることができる。これらのうちA3003、A3004またはA3104が強度および溶接性に優れ、筐体10として特に好適である。
【0041】
また本実施形態では、上記に列記した合金に焼きなまし処理や加工硬化処理等の調質が施されたものも用いることができる。たとえばA3003−O、A3003−H、A3003−T等を用いることができる。
【0042】
前述のようにA3000系アルミニウム合金は化学成分中にMnを含む。筐体10を構成するA3000系アルミニウム合金(母材)のMn濃度(C
B)は、好ましくは0.3質量%以上1.5質量%以下であり、より好ましくは0.8質量%以上1.5質量%以下であり、特に好ましくは1.0質量%以上1.5質量%以下である。
【0043】
なおA3000系アルミニウム合金は、Mnの他、次の化学成分を含有し得る。すなわちSi(0.6質量%以下)、Fe(0.8質量%以下)、Cu(0.05質量%以上0.30質量%以下)、Zn(0.1質量%以上0.4質量%以下)、ならびに残部としてAlおよび不可避不純物を含有し得る。また、Mg(1.3質量%以下)、Cr(0.2質量%以下)およびTi(0.10質量%以下)をさらに含有することもできる。
【0044】
筐体10の厚さ(肉厚)は特に制限されないが、膨れ防止の観点およびエネルギー密度の観点から、0.2mm以上1.0mm以下であることが好ましく、0.3mm以上0.8mm以下であることがより好ましく、0.4mm以上0.7mm以下であることが特に好ましい。また溶接部における筐体10の肉厚(厚さt1)は、前述のように溶け込み深さdwよりも小さいことが好ましい。厚さt1は、0.7mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることが特に好ましい。なお筐体10は
図2に示すような嵌合構造を有さず、側壁全体に亘ってほぼ均等な肉厚を有するものであってもよい。
【0045】
(蓋体)
蓋体20は、純アルミニウム材であるA1000系アルミニウムから構成される。A1000系アルミニウムとしては、たとえばA1N99、A1N90、A1085、A1080、A1070、A1060、A1050、A1230、A1N30、A1100、A1200またはA1N00を用いることができる。またA1000系アルミニウムについても、調質が施されたもの、たとえばA1050−O等を用いることができる。
【0046】
A1000系アルミニウムは、Al(99.00質量%以上)の他、次の化学成分を含有し得る。すなわちSi(0.006質量%以上1.0質量%以下)、Fe(0.004質量%以上1.0質量%以下)およびCu(0.008質量%以上0.20質量%以下)を含有し得る。またMn(0.05質量%以下)、Mg(0.10質量%以下)、Zn(0.10質量%以下)、Ti(0.10質量%以下)および不可避不純物をさらに含有していてもよい。
【0047】
蓋体20は、電極端子21、注液孔(図示せず)、ガス排出弁(図示せず)、電流遮断機構(図示せず)等を備えることができる。蓋体20の厚さt2は、特に制限されないが、0.6mm以上の溶け込み深さを確保するとの観点から、0.8mm以上3.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上2.0mm以下であることがより好ましく、1.2mm以上1.6mm以下であることが特に好ましい。
【0048】
(電極体)
本実施形態において上記の外装体100には、任意の発電要素が収容され得る。たとえば
図8に示すように、発電要素は、いずれも帯状のシート部材である正極板31と負極板32とをセパレータ33を挟んで巻回して得た巻回式の電極体30とすることができる。電極体30は、
図2に示すように外装体100に収容され、集電リード22を介して蓋体20に設けられた電極端子21に接続される。
【0049】
ここで正極板31に含まれる正極活物質としては、たとえば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiNi
aCo
bO
2(a+b=1、0<a<1、0<b<1)、LiMnO
2、LiMn
2O
4、LiNi
aCo
bMn
cO
2(a+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1)、LiFePO
4等のリチウム含有遷移金属酸化物を用いることができる。また負極板32に含まれる負極活物質としては、Li
+が電気化学的に挿入・脱離できる黒鉛、コークス等の炭素系材料や、Liと合金化・脱合金化が可能である珪素(Si)、錫(Sn)を用いることができる。セパレータ33としては、ポリオレフィン系材料(たとえばポリエチレン、ポリプロピレン)からなる微多孔膜が用いられる。
【0050】
(非水電解質)
電極体30とともに外装体100に収容される非水電解質も特に制限されない。たとえば非水電解質は、非プロトン性溶媒に溶質(リチウム塩)が溶解した液状の非水電解質とすることができる。非プロトン性溶媒としては、たとえばエチレンカーボネート(EC:Ethylene Carbonate)、プロピレンカーボネート(PC:Propylene Carbonate)およびビニレンカーボネート(VC:Vinylene Carbonate)等の環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC:Dimethyl Carbonate)、エチルメチルカーボネート(EMC:Ethyl Methyl Carbonate)およびジエチルカーボネート(DEC:Diethyl Carbonate)等の鎖状カーボネート類等を用いることができる。
【0051】
また溶質であるリチウム塩としては、たとえば、ヘキサフルオロ燐酸リチウム(LiPF
6)、テトラフルオロ硼酸リチウム(LiBF
4)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(Li(CF
3SO
2)
2N)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(Li(CF
3SO
3))等を用いることができる。なお本実施形態の非水電解質はゲル状あるいは固体状とすることもできる。
【0052】
<非水電解質二次電池の製造方法>
以上に説明した本実施形態の非水電解質二次電池は、以下のような製造方法によって製造することができる。
図9は本実施形態の非水電解質二次電池の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図9に示すように、本実施形態の非水電解質二次電池の製造方法は、工程S100、工程S200、工程S300および工程S400を備える。以下、各工程について説明する。
【0053】
(工程S100)
工程S100は、A3000系アルミニウム合金から構成される筐体10を準備する工程である。筐体10は従来公知の方法によって準備することができる。たとえば筐体10は、A3000系アルミニウム合金からなる板材を深絞り加工することによって準備することができる。
【0054】
(工程S200)
工程S200は、A1000系アルミニウムから構成される蓋体20を準備する工程である。蓋体20は従来公知の方法によって準備することができる。たとえば蓋体20は、A1000系アルミニウムの押出成形や、板材のプレス成形によって準備することができる。
【0055】
(工程S300)
工程S300は、電極体30を作製する工程である。電極体30を構成する正極板31および負極板32は、従来公知の混練、塗工、乾燥、圧延の各プロセスを経て作製され得る。電極体30は、正極板31、負極板32およびセパレータ33を、正極板31と負極板32とがセパレータ33を介して対向するように巻回または積層することにより作製することができる。
【0056】
(工程S400)
工程S400は、筐体10と蓋体20とを接合する溶接部WPを形成する工程である。筐体10と蓋体20との溶接方法としては、たとえば、レーザ溶接、電子ビーム溶接、プラズマ溶接およびアーク溶接を用いることができる。またあるいはこれらを組み合わせた方法を用いてもよい。
【0057】
前述のように本実施形態は、溶け込み深さの深い溶接部を形成することを目的の一つとしている。上記に列記した溶接方法のうち、レーザ溶接および電子ビーム溶接は溶け込み深さの深い溶接に適している。さらに溶接作業性を考慮すると、本実施形態の溶接方法としてはレーザ溶接が特に好ましい。
【0058】
レーザ溶接を採用する場合、レーザの種類としてはYAGレーザ、CO
2レーザ、半導体レーザ、ディスクレーザ、ファイバーレーザ等を用いることができる。またレーザの発振はパルス発振であってもよいし、連続発振であってもよい。
【0059】
工程S400では、母材のMn濃度に対する筐体側溶融部F1のMn濃度の比率Dが0.67≦D≦0.93となるように溶接を行なう。これにより溶接部WPにおける破壊強度を飛躍的に向上させることができる。
【0060】
ここで比率Dは、たとえば次のような方法によって制御することができる。
図4および
図5を参照してその内容を説明する。
図4は本実施形態の溶接方法を図解する模式的な平面図であり、
図5は
図4のIII−III線に沿う模式的な断面図である。
図4中の矢印は、溶接の進行方向(レーザの走査方向)を示している。
【0061】
図4および
図5に示すように、本実施形態では筐体10と蓋体20とを突き合わせ、筐体10および蓋体20にそれぞれ小径のレーザを照射する。このとき筐体10に照射されるレーザを第1のレーザとし、蓋体20に照射されるレーザを第2のレーザとする。また第1のレーザの照射位置Lb1と第2のレーザの照射位置Lb2との距離、すなわちレーザビーム間ピッチを距離Lとする。
【0062】
第1のレーザは筐体10にキーホールを形成し、第2のレーザは蓋体20にキーホールを形成する。そしてこれらのキーホールからの熱伝導によって筐体10と蓋体20とが融合して接合部JPが形成される。そして距離Lを保ったまま、第1のレーザと第2のレーザとを蓋体20の周縁に沿って並走させることにより、連続的に接合部JPを含む溶接部WPが形成され、筐体10と蓋体20とが一体化する。
【0063】
ここで比率Dは、レーザビーム間ピッチ(距離L)を調節することにより、所望の範囲に調整することができる。たとえば距離Lを大きくすると、筐体10から蓋体20へのMn移動量が減少して比率Dを大きくすることができる。また距離Lを小さくすると、筐体10から蓋体20へのMn移動量が増加して比率Dを小さくすることができる。
【0064】
距離Lの具体的な値については、レーザ溶接時の諸条件、たとえばレーザ出力、レーザビーム径、溶接速度、溶け込み深さ、母材の厚さ等に応じて適宜調整することができる。
【0065】
以上、角形電池を例示して本実施形態を説明したが、本実施形態の非水電解質二次電池の形状はこれに限定されるものではなく、その形状は円筒形とすることもできる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
以下のようにして、実施例1に係る非水電解質二次電池を複数作製した。
【0068】
(工程S100)
A3000系アルミニウム合金である「A3003−O」から構成される筐体10を準備した。筐体10の肉厚は0.5mmであり、溶接部WPとなるべき嵌合部分の肉厚(厚さt1)は0.4mmであった。
【0069】
(工程S200)
A1000系アルミニウムである「A1050−O」から構成される蓋体20を準備した。蓋体20の厚さt2は1.4mmであった。
【0070】
(工程S300)
LiCoO
2を正極活物質として含む正極板31と、天然黒鉛を負極活物質として含む負極板32と、ポリエチレン製のセパレータ33とを準備した。そして
図8を参照して正極板31と負極板32とがセパレータ33を介して対向するように、これらを巻回することにより電極体30を得た。
【0071】
(工程S400)
電極体30を蓋体20に設けられた電極端子21に集電リード22を介して接続した。次いで電極体30を筐体10に挿入するとともに、筐体10と蓋体20とを嵌合させた。
【0072】
次いで
図4を参照して、筐体10と蓋体20とを接合する溶接部WPを形成した。すなわち、筐体10に第1のレーザと蓋体20に第2のレーザをそれぞれ照射して、それらを並走させることにより、筐体10および蓋体20の周縁全体に亘って連続的に溶接部WPを形成した。このとき第1のレーザの照射位置Lb1と第2のレーザの照射位置Lb2との距離Lは0.15mmとした。また第1のレーザおよび第2のレーザのレーザ出力は溶け込み深さが約0.6mmとなるように調整した。さらにレーザビーム径はφ0.04mmとし、溶接速度(走査速度)は400mm/sとした。
【0073】
(後工程)
蓋体20に設けられた注液孔から、非水電解質(EC:EMC:DEC=3:5:2(体積比)、LiPF
6;1.0mol/L)を注液した。続いて注液孔を封止栓によって塞ぐことにより外装体100を密閉した。以上のようにして実施例1に係る非水電解質二次電池を得た。
【0074】
<実施例2、実施例3、比較例1および比較例2>
表1に示すように、工程S400においてレーザ溶接時の距離Lを変更することを除いては、実施例1と同様にして実施例2、実施例3、比較例1および比較例2に係る非水電解質二次電池を複数得た。
【0075】
【表1】
【0076】
<評価>
以下のようにして各電池の評価を行なった。
【0077】
(Mn濃度の測定)
各電池の溶接部WPの断面を切り出し、市販のEPMA装置を用いて筐体側溶融部F1および筐体10側の未溶融部(母材)の面内Mn濃度をそれぞれ測定し、筐体側溶融部F1における面内Mn濃度(C
A)を母材の面内Mn濃度(C
B)で除することにより比率D(C
A/C
B)を算出した。結果を表1に示す。
【0078】
(破壊強度の測定)
図6および
図7を参照して溶接部WPの破壊試験を行なった。すなわち各電池から
図6に示す溶接部WPを含む試験片を切り出し、市販の引張試験機を用いて、筐体10側を矢印の方向に引っ張って、
図7に示すように筐体10と蓋体20とが破断に至るまでの距離当たり強度を測定した。なお試験数は10セルとした。
【0079】
そして測定結果に基づき、溶接部WPの破壊強度を次の「A」および「B」の2水準で評価した。結果を表1に示す
A:10セルの破壊強度の平均値が35N/mm以上
B:10セルの破壊強度の平均値が30N/mm以上35N/mm未満。
【0080】
<結果と考察>
表1に示すように、比率Dが0.55であった比較例1の溶接部WPは十分な破壊強度を有していなかった。また比較例1では10セルすべてが筐体側のボンド部BPから破断していた。この理由は、筐体側溶融部F1のMn濃度が減少することにより、筐体側溶融部F1と筐体母材との強度差が生じ、ボンド部BPが破断しやすくなったからであると考えられる。
【0081】
また比率Dが0.95であった比較例2の溶接部WPも十分な破壊強度を有していなかった。さらに比較例2では10セルうち2セルで接合部JPに融合不良が発生していた。この理由は、比較例2ではビーム間ピッチ(距離L)を広くして溶接を行なうことによりMnの移動量を抑制することができたが、その一方で溶融部の対流が小さくなり接合部JPへの熱伝導が不十分になったからであると考えられる。
【0082】
上記の比較例に対して、比率Dが0.67以上0.93以下であった実施例1〜3はいずれも優れた破壊強度を示した。これは、比率Dが0.67以上0.93以下であることにより、筐体側溶融部F1のMn濃度を過度に低下させずに、筐体10と蓋体20とを十分に融合させることができたからであると考えられる。
【0083】
以上の結果から、A3000系アルミニウム合金から構成される筐体と、A1000系アルミニウムから構成される蓋体と、該筐体と該蓋体とを接合する溶接部と、を備え、該溶接部は、筐体側溶融部と蓋体側溶融部とを含み、該A3000系アルミニウム合金のMn濃度に対する該筐体側溶融部のMn濃度の比率をDとしたとき、0.67≦D≦0.93を満たす、実施例に係る非水電解質二次電池は、かかる条件を満たさない比較例に比し、筐体と蓋体との溶接部における破壊強度が高く、信頼性に優れることを確認することができた。
【0084】
またさらに、A3000系アルミニウム合金から構成される筐体を準備する工程と、A1000系アルミニウムから構成される蓋体を準備する工程と、該筐体と該蓋体とを接合する溶接部を形成する工程と、を備え、該溶接部は、筐体側溶融部と蓋体側溶融部とを含み、該溶接部を形成する工程では、該A3000系アルミニウム合金のMn濃度に対する該筐体側溶融部のMn濃度の比率をDとしたとき、0.67≦D≦0.93となるように溶接を行なう製造方法によれば、筐体と蓋体との溶接部における破壊強度が高く、信頼性に優れる非水電解質二次電池を製造できることを確認することができた。
【0085】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0086】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。