特許第6052163号(P6052163)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6052163電気ニッケル製造プロセスにおける炭酸ニッケルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052163
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】電気ニッケル製造プロセスにおける炭酸ニッケルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/06 20060101AFI20161219BHJP
   C25C 1/08 20060101ALI20161219BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20161219BHJP
   C22B 23/00 20060101ALN20161219BHJP
   C22B 3/44 20060101ALN20161219BHJP
   C22B 7/00 20060101ALN20161219BHJP
【FI】
   C01G53/06
   C25C1/08
   C25C7/06 301A
   !C22B23/00 102
   !C22B3/44 101
   !C22B7/00 G
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-271179(P2013-271179)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-124134(P2015-124134A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
(72)【発明者】
【氏名】今村 正樹
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−001760(JP,A)
【文献】 特開2004−307908(JP,A)
【文献】 特開2005−248245(JP,A)
【文献】 特開2007−270291(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02832700(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
C22B1/00−61/00
C25C1/00−7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル湿式製錬法での電解採取工程を含む電気ニッケル製造プロセス系内において、ソーダ灰を溶解して炭酸ナトリウム溶解液を得るソーダ灰溶解ステップと、得られた炭酸ナトリウム溶解液を電解採取工程からの電解廃液と反応させて炭酸ニッケルを析出させる炭酸ニッケル反応ステップと、得られた炭酸ニッケルを含む反応後液を固液分離する分離ステップとを含む炭酸ニッケルの製造方法であって、分離ステップで得られた分離液ソーダ灰溶解ステップに繰り返され、その繰り返しの量を調整することによって分離液の密度を1.05〜1.25g/mlの範囲に制御することを特徴とする炭酸ニッケルの製造方法。
【請求項2】
前記分離ステップで得られた分離液を、ソーダ灰溶解ステップに繰り返すと共に、炭酸ニッケル反応ステップにも繰り返すことを特徴とする、請求項1に記載の炭酸ニッケルの製造方法。
【請求項3】
ニッケル湿式製錬法での電解採取工程を含む電気ニッケル製造プロセス系内において、ソーダ灰を溶解して炭酸ナトリウム溶解液を得るソーダ灰溶解ステップと、得られた炭酸ナトリウム溶解液を電解採取工程からの電解廃液と反応させて炭酸ニッケルを析出させる炭酸ニッケル反応ステップと、得られた炭酸ニッケルを含む反応後液を固液分離する分離ステップとを含む炭酸ニッケルの製造方法であって、分離ステップで得られた分離液ソーダ灰溶解ステップに繰り返され、該ソーダ灰を溶解する量を調整することによって炭酸ナトリウム溶解液の密度を1.11〜1.40g/mlの範囲に制御することを特徴とする炭酸ニッケルの製造方法。
【請求項4】
前記分離ステップで得られた分離液を、ソーダ灰溶解ステップに繰り返すと共に、炭酸ニッケル反応ステップにも繰り返すことを特徴とする、請求項3に記載の炭酸ニッケルの製造方法。
【請求項5】
前記分離液のナトリウム濃度を100g/l以下、塩化物イオン濃度を150g/l以下に制御することを特徴とする、請求項3又は4に記載の炭酸ニッケルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルの湿式製錬法による電気ニッケル製造プロセス内での炭酸ニッケルの製造工程に関するものであり、更に詳しくは、プロセス内でのトータルコストの削減に寄与する炭酸ニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニッケルの湿式製錬の一方法として、塩素浸出電解採取法が使われてきた。即ち、ニッケル硫化物を主成分とする原料を粉砕し、これを塩化物溶液に混合してスラリーとした後、このスラリーに塩素ガスを吹き込むことによりニッケルを含む金属を浸出する。得られたニッケル浸出液はニッケルと共に不純物としてコバルトや鉄などを含むため、これらの不純物を浄液工程で除去した後、得られた塩化ニッケル水溶液から電解法によってカソード上にニッケルを電着させ、電気ニッケルを生産している。
【0003】
上記した塩素浸出電解採取法における浄液工程では、不純物を含むニッケル浸出液に酸化剤と中和剤を同時に添加して酸化還元電位とpHを調整し、不純物を沈殿させることで除去している。この方法は、コバルトや鉄などの重金属イオンが高価数の陽イオンになると、低いpH領域でも水酸化物になりやすいという性質を利用したもので、酸化中和法と呼ばれている。例えば特許文献1には、酸化剤として塩素ガスを用い、中和剤として炭酸ニッケルを使用する塩化ニッケル水溶液の精製方法が記載されている。
【0004】
ところで、塩素浸出電解採取法における上記浄液工程で中和剤として使用される炭酸ニッケルは、例えば特許文献2に記載されているように、塩素浸出電解採取法における電解工程でニッケルの電着に使用した電解廃液とソーダ灰(無水炭酸ナトリウム)を水に溶解した炭酸ナトリウム溶解液とから、下記化学式1に示す反応に基づいて製造することができる。
【0005】
[化1]
NaCO + NiCl → 2NaCl + NiCO
【0006】
具体的には、図1の電気ニッケル製造プロセス内での炭酸ニッケルの製造工程に示すように、ソーダ灰を水に溶解して炭酸ナトリウム溶解液とし(ソーダ灰溶解ステップ)、この炭酸ナトリウム溶解液と電解工程からの電解廃液とから上記化学式1の反応により炭酸ニッケルを析出させる(炭酸ニッケル反応ステップ)。この反応で得られた反応後液は、炭酸ニッケルの固体と未反応の炭酸ナトリウムを含む分離液とに分離される(分離ステップ)。分離回収された固体、即ち炭酸ニッケルは、塩素浸出電解採取法の上記浄液工程に中和剤として供給される。
【0007】
この特許文献2に記載された炭酸ニッケルの製造方法では、原料の炭酸ナトリウムとしてソーダ灰を利用し、塩化ニッケルとして電解廃液を使用している。電解廃液は電解採取工程でニッケルを回収した後の電解液であるが、ニッケルが残存しているため上記化学式1による炭酸ニッケルの生成反応に用いることができる。このように電解廃液を炭酸ニッケルの製造工程で処理することによって、電解廃液中に残存しているニッケルを回収できる利点がある。尚、この方法での炭酸ニッケルの生成量は少ないため、浄液工程では中和剤として炭酸ニッケル以外に炭酸ナトリウムも使用することがある。
【0008】
一方、上記炭酸ニッケルの製造工程の分離ステップで得られた分離液は、炭酸ナトリウム溶解液と電解廃液からニッケル及びニッケルよりも沈澱を作りやすい金属元素を取り除いたものである。従って、分離液はニッケルよりも沈澱を作りにくい金属元素などは溶存したままとなっているため、塩素浸出電解採取法のプロセスの出口にあたる排水処理工程に送って処理する。排水処理工程では、ニッケルよりも沈澱を作りにくい元素をプロセス系内から取り除くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−104809号公報
【特許文献2】特開2012−001760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した特許文献2に記載された炭酸ニッケルの製造方法では、電解廃液中のニッケル濃度が低いためニッケルの供給が律速となり、炭酸ニッケル反応ステップで電解廃液からニッケルを沈澱させる上記化学式1の反応が遅くなる。また、反応終了が近づくにつれて溶存ニッケル濃度と炭酸ナトリウム濃度が減少するため、反応は更に遅くなる。そこで、反応速度を上げるために原料のソーダ灰を当量よりも多く供給して対応しているが、ニッケルを炭酸ニッケルとして回収する点では有利である一方、未反応の炭酸ナトリウムが分離液として系内から失われるという欠点があった。
【0011】
また、近年ではニッケルの需要増加により電解工程の能力増強が求められているが、電解工程の能力増強の結果として炭酸ニッケル製造工程で処理すべき電解廃液の量が増加するため、炭酸ニッケル反応ステップで電解廃液からニッケルを沈澱させる上記化学式1の反応速度を更に上げる必要が生じる。これに対応してソーダ灰の供給量を更に増加させると、系内のナトリウム濃度の上昇が顕著となるだけでなく、不純物が析出して配管が閉塞しやすくなるという問題があった。このような事情から、系内の不純物濃度の増加を抑えながら、ソーダ灰の使用量を削減することが求められていた。
【0012】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、ニッケル湿式製錬法での電解採取工程を含む電気ニッケル製造プロセス系内において、炭酸ニッケル製造工程の原料であるソーダ灰の使用量を削減することができ、更に必要に応じて系内の不純物の増加を抑えることが可能な炭酸ニッケルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、炭酸ニッケルの製造工程の分離ステップで得られる分離液には炭酸ナトリウムが7.0g/l程度溶存していることを確認し、この分離液を炭酸ナトリウム溶解ステップに繰り返して使用することによって、未反応のまま排水処理されていた炭酸ナトリウムを有効に再利用できることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0015】
更に、本発明者らは検討を重ね、上記のごとく分離ステップで得られた分離液をソーダ灰溶解ステップに繰り返す方法において、系内の不純物が増加することに対処する手段として、分離液中や炭酸ナトリウム溶解液中の不純物濃度あるいは密度を管理して制御することによって、配管の閉塞などの不都合を防止できることを見出した。
【0016】
即ち、本発明による炭酸ニッケルの製造方法はニッケル湿式製錬法での電解採取工程を含む電気ニッケル製造プロセス系内において、ソーダ灰を溶解して炭酸ナトリウム溶解液を得るソーダ灰溶解ステップと、得られた炭酸ナトリウム溶解液を電解採取工程からの電解廃液と反応させて炭酸ニッケルを析出させる炭酸ニッケル反応ステップと、得られた炭酸ニッケルを含む反応後液を固液分離する分離ステップとを含む炭酸ニッケルの製造方法であって、分離ステップで得られた分離液をソーダ灰溶解ステップに繰り返され、その繰り返しの量を調整することによって分離液の密度を1.05〜1.25g/mlの範囲に制御することを特徴としている。
【0017】
また、上記本発明による炭酸ニッケルの製造方法はニッケル湿式製錬法での電解採取工程を含む電気ニッケル製造プロセス系内において、ソーダ灰を溶解して炭酸ナトリウム溶解液を得るソーダ灰溶解ステップと、得られた炭酸ナトリウム溶解液を電解採取工程からの電解廃液と反応させて炭酸ニッケルを析出させる炭酸ニッケル反応ステップと、得られた炭酸ニッケルを含む反応後液を固液分離する分離ステップとを含む炭酸ニッケルの製造方法であって、分離ステップで得られた分離液はソーダ灰溶解ステップに繰り返され、該ソーダ灰を溶解する量を調整することによって炭酸ナトリウム溶解液の密度を1.11〜1.40g/mlの範囲に制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来はニッケル湿式製錬法で電気ニッケル製造プロセスの系外に払い出されて排水処理されていた分離液を系内に戻すことにより、その分離液に含まれる炭酸ナトリウムを有効利用することができ、炭酸ニッケル製造工程におけるソーダ灰使用量を削減することができる。しかも、系内の不純物の増加を抑え、配管の閉塞を防止することができるため、電解工程の能力増強に対応することが可能であり、またソーダ灰の使用量の削減と相まって電気ニッケル製造プロセスにおけるトータルコストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】従来の電気ニッケル製造プロセス内での炭酸ニッケルの製造工程を示す概略のフロー図である。
図2】本発明による電気ニッケル製造プロセス内での炭酸ニッケルの製造工程を示す概略のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による電気ニッケル製造プロセス内での炭酸ニッケルの製造方法では、図2に示すように、分離ステップから産出する分離液を、電気ニッケル製造プロセス内のソーダ灰溶解ステップに繰り返すか、あるいはソーダ灰溶解ステップと共に炭酸ニッケル反応ステップに繰り返すことを特徴とし、この点で図1に示す従来の炭酸ニッケルの製造方法と相違している。
【0021】
上記本発明による炭酸ニッケルの製造方法によれば、従来は系外の排水処理工程に払い出されていた分離液を、ソーダ灰溶解ステップ又はソーダ灰溶解ステップと炭酸ニッケル反応ステップに繰り返すことによって、分離液中に7.0g/l程度の濃度で含まれている炭酸ナトリウムを有効に利用することができる。その結果、電気ニッケル製造プロセス内での炭酸ニッケル製造工程に供給するソーダ灰の使用量を削減することができる。
【0022】
分離液には未反応の炭酸ナトリウム等が溶存しているが、分離液中に炭酸ニッケルや炭酸ナトリウムの固体成分が混入している場合には、その分離液をソーダ灰溶解ステップと共に炭酸ニッケル反応ステップにも繰り返すことが好ましい。これによって繰り返された固体成分は、炭酸ニッケル反応ステップにおいて種結晶として働き、炭酸ニッケルの生成を促進する効果があると考えられる。また、この炭酸ニッケル反応ステップへの繰り返し方法を採る場合には、分離ステップでの固液分離が完全でなくてもよいという利点もある。
【0023】
上記炭酸ニッケル反応ステップに供給される電解廃液は塩酸酸性又は硫酸酸性のいずれであっても安定した操業が可能であり、排水処理工程でのニッケル損失を最小化することができる。また、電解工程からの電解廃液の流量は一定しているため、炭酸ニッケル反応ステップに供給される液量と、ソーダ灰溶解ステップを出入りすべき液量はいずれも一定となる。即ち、炭酸ニッケル製造工程の操業においては、ソーダ灰溶解ステップに添加される水量と繰り返される分離液の液量の合計が常に一定値となるように操業すればよい。
【0024】
尚、ソーダ灰使用量を削減する方法として、上述した特許文献2に記載されているように、分離ステップで得られる固体を分離液と共に浄液工程に送り、未反応の炭酸ナトリウムを浄液工程で消費することによって、工場全体のソーダ灰使用量を削減する方法が考えられる。しかし、この方法では系外に払い出される分離液の量が減少するため、系内の不純物濃度が上昇する結果、例えば配管に澱物が析出して閉塞したり、ナトリウムイオン濃度の上昇により電気ニッケルの硬度が増加して品質低下をきたしたり、硫酸イオン濃度の上昇により浸出工程で浸出が不十分になったりする危険がある。
【0025】
上記した本発明による炭酸ニッケルの製造方法によれば、分離液中に溶存している未反応の炭酸ナトリウムを繰り返し使用することが可能となる一方、繰り返しによって排水処理工程に送られる分離液の量が減少するため、炭酸ニッケル製造工程の内外でナトリウムイオンや塩化物イオン等の不純物濃度が上昇しやすくなる。例えば、ナトリウムイオン濃度が高いと、ソーダ灰溶解ステップでソーダ灰が溶解し難くなり、炭酸ニッケル反応ステップでの反応速度が低下する等の不都合が生じる。
【0026】
このような不純物濃度の上昇による弊害を除くためには、分離液の不純物濃度を監視し、予め定めた管理上限濃度よりも高い濃度になった場合には、排水処理工程に送る分離液の量を増やして調整すればよい。具体的には、分離液のナトリウム濃度を100g/l以下に、塩化物イオン濃度を150g/l以下に管理し、排水処理工程に送る分離液の量を調整することにより不純物濃度を制御することができる。
【0027】
上記のごとく不純物元素毎に分離液中の濃度を測定する代わりに、分離液の密度を1.05〜1.25g/mlの範囲に制御することによっても、不純物濃度を制御することができる。即ち、分離液の密度が1.25g/mlを超えた場合はソーダ灰溶解ステップに送液する分離液の量を減少させ、密度が1.05g/mlを下回った場合にはソーダ灰溶解ステップに送る分離液の量を増加させて調整する。分離液の密度は、密度計を用いて連続的又は定期的に測定すればよい。また、測定した密度に応じて分離液が自動的に添加又は停止するプログラムを用いれば、操業安定性並びに経済性の面で更に有利である。
【0028】
また、上記本発明による炭酸ニッケルの製造方法では、分離液の繰り返し使用に伴い、ソーダ灰溶解ステップと炭酸ニッケル反応ステップの間の長い配管が閉塞しやすくなる。このソーダ灰溶解ステップと炭酸ニッケル反応ステップの間にある配管の閉塞は、繰り返された不純物が配管内の液温勾配と液温との比較差によって析出するためと考えられる。この不純物による配管の閉塞は、ソーダ灰溶解ステップからの炭酸ナトリウム溶解液の濃度を制御することによって防止することができる。
【0029】
即ち、ソーダ灰溶解ステップからの炭酸ナトリウム溶解液の濃度を測定し、その炭酸ナトリウム濃度に基づいてソーダ灰溶解ステップに供給するソーダ灰の量を調節する。炭酸ナトリウム溶解液の濃度が高すぎると、下流の配管が閉塞する恐れがあるため、供給するソーダ灰の量を減らして対処する。具体的には、炭酸ナトリウム溶解液のナトリウム濃度が50〜110g/lの範囲、炭酸イオン濃度が60〜140g/lの範囲となるように、供給するソーダ灰の量を調節して制御することが好ましい。
【0030】
炭酸ナトリウムの溶解度は40℃で328g/kgとして知られているが、工業的には温度やpHの変化、共存する塩などを考慮して、炭酸ナトリウム溶解液の濃度の上限は250g/lとするのが望ましい。このとき、ナトリウムイオンと炭酸イオンの物質量が等しいならば、それぞれの濃度は110g/lと140g/lに対応する。逆に炭酸ナトリウム溶解液中の濃度が低すぎると、多くの液量が必要になるため、ポンプ等の負担が大きいうえ、分離液に溶存するニッケル量が多くなりすぎるので、下限を110g/lとして管理する。このとき、ナトリウムイオンと炭酸イオンの物質量が等しいならば、それぞれの濃度は50g/lと60g/lに対応する。
【0031】
炭酸ナトリウム溶解液のナトリウム濃度と炭酸イオン濃度についても、上記した分離液のナトリウム濃度と同様に、元素毎に溶解液の濃度を測定する代わりに密度を判断指標としてもよい。具体的には、炭酸ナトリウム溶解液の密度を測定し、測定した密度が1.11〜1.40g/mlの範囲となるように供給するソーダ灰の量を調節して制御する。尚、炭酸ナトリウム溶解液の測定密度が上記分離液の測定密度を下回る場合、繰り返した分離液にはソーダ灰を溶解することができないので、炭酸ナトリウム溶解液の目標密度を分離液の目標密度よりも高く設定する必要がある。
【0032】
上記したように本発明の炭酸ニッケル製造の製造方法によれば、ソーダ灰溶解ステップに供給するソーダ灰の使用量を削減することができ、炭酸ニッケル製造工程の処理能力を向上させることができる。そのため、操業資材費だけでなく設備費の削減にも資するところが大きい。更に、分離液の系内への繰り返しにより、排水処理工程で処理する分離液の量が減少するため、排水処理工程の負荷も低減される。
【0033】
また、炭酸ニッケル製造工程内でナトリウムなどの不純物の量が増えた場合には、分離液中におけるナトリウムなどの不純物濃度の増加あるいは分離液の密度の増加として知ることができる。この場合には、系内に繰り返す分離液の量を減少させると共に、その減少分だけ水を多く添加すればよく、不純物濃度を一定に制御することができる。
【0034】
しかも、このようにして炭酸ニッケル製造工程内の不純物濃度を一定範囲に制御できるので、ニッケル硫化物を主成分とする原料中の不純物などの外乱要因への対処も容易になり、電気ニッケル、電気コバルト、硫酸ニッケルなど各製品の品質が向上するため、本発明の工業的価値はきわめて大きい。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
電気ニッケル製造プロセス系内の炭酸ニッケル製造工程において、図2に示すように分離ステップで産出された分離液の10体積%(0.1m)をソーダ灰溶解ステップに繰り返して操業した。
【0036】
このとき、分離液中の未反応炭酸ナトリウム濃度は7.0g/l、ナトリウムイオン濃度は45g/l、塩化物イオン濃度は60g/lであった。また、炭酸ナトリウム溶解液のナトリウム濃度は90〜100g/lの範囲、炭酸イオン濃度は110g/lであった。
【0037】
分離液及び炭酸ナトリウム溶解液の密度を密度計(アズビル社製;型番:DSTJ3000Ace)で測定したところ、分離液の密度は1.10g/ml及び炭酸ナトリウム溶解液の密度は1.22g/mlであった。この条件にて30日間操業を続けたが、炭酸ニッケル製造工程での不具合は発生しなかった。
【0038】
上記操業において、分離液として排水処理工程に送られることで系内から失われた未反応炭酸ナトリウムの量は、下記数式1により計算したところ、分離ステップで産出された分離液の液量1mにつき6.3kgであった。
【0039】
[数1]
分離液中の未反応炭酸ナトリウム量7.0g/l×排水処理工程に排出された分離液量0.9m=6.3kg
【0040】
また、分離液として排水処理工程に送られることで系内から失われたニッケル量は、下記数式2により計算したところ、分離ステップで算出された分離液の液量1mにつき0.09kgであった。
【0041】
[数2]
分離液中のニッケル濃度0.1g/l×排水処理工程に排出された分離液量0.9m=0.09kg
【0042】
[比較例1]
電気ニッケル製造プロセス系内の炭酸ニッケル製造工程において、図2に示すように、分離ステップで産出された分離液を系内に繰り返すことなく、分離液の全量を排水処理工程に排出した以外は上記実施例1と同様に操業した。
【0043】
このとき、分離液中の未反応炭酸ナトリウム濃度は7.0g/l、ナトリウムイオン濃度は35g/l、塩化物イオン濃度は42g/lであった。また、炭酸ナトリウム溶解液のナトリウム濃度は80〜88g/lの範囲、炭酸イオン濃度は110g/lであった。
【0044】
分離液及び炭酸ナトリウム溶解液の密度を上記実施例1と同様に測定したところ、分離液の密度は1.08g/ml及び炭酸ナトリウム溶解液の密度は1.19g/mlであった。この条件で30日間操業を続けたが、炭酸ニッケル製造工程での不具合は発生しなかった。
【0045】
上記操業において、プラント全体での平均的なソーダ灰の使用量は従来どおりであった。分離液として排水処理工程に送られることで系内から失われた未反応炭酸ナトリウムの量は、下記数式3により計算したところ、分離ステップで産出された分離液の液量1mにつき7.0kgであった。
【0046】
[数3]
分離液中の未反応炭酸ナトリウム量7.0g/l×排水処理工程に排出された分離液量1.0m=7.0kg
【0047】
また、分離液として排水処理工程に送られることで系内から失われたニッケル量は、下記数式4により計算したところ、分離ステップで算出された分離液の液量1mにつき0.1kgであった。
【0048】
[数4]
分離液中のニッケル濃度0.1g/l×排水処理工程に排出された分離液量1.0m=0.1kg
【0049】
上記実施例1と比較例1を比較すると、系内から失われた未反応炭酸ナトリウムの量は実施例1では比較例1に対して0.7kg低減することができた。また、ソーダ灰の使用量は、電解廃液のニッケル濃度にもよるが、通常は分離ステップで産出された分離液の液量1mにつき35〜70kgであるところを、実施例1によればソーダ灰の使用量の1.0〜2.0%を削減することができた。更に、ニッケル損失は実施例1の方が0.01kg少ないことから、本発明によればソーダ灰の使用量を削減できるだけでなく、ニッケル損失の低減にも有効であることが分かった。
【0050】
[参考例1]
電気ニッケル製造プロセス系内の炭酸ニッケル製造工程において、図1に示すように分離ステップで産出された分離液の全量をソーダ灰溶解ステップに繰り返した以外は上記実施例1と同様に操業した。その際、ソーダ灰溶解ステップに供給するソーダ灰の供給量は、炭酸ナトリウム溶解液の濃度や密度に関係なく、分離液中の未反応炭酸ナトリウム濃度が7.0g/lとなるように調節した。
【0051】
このとき、分離液中のナトリウムイオン濃度は100g/l、塩化物イオン濃度は150g/lであった。また、分離液の密度は最大で1.42g/ml、炭酸ナトリウム溶解液の密度は最大で1.54g/mlであった。
【0052】
この操業の間、分離液及び炭酸ナトリウム溶解液の密度は6日かけて徐々に上昇した。更に操業を続けると炭酸ナトリウム溶解液の配管が不純物の析出により閉塞したため、炭酸ニッケル製造工程内の全ての送液を停止した。
図1
図2