特許第6052172号(P6052172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052172
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】複合半透膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/10 20060101AFI20161219BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20161219BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20161219BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B01D69/10
   B01D71/68
   B01D69/12
   B01D69/02
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-518896(P2013-518896)
(86)(22)【出願日】2013年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2013055526
(87)【国際公開番号】WO2013129610
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年11月6日
(31)【優先権主張番号】特願2012-42964(P2012-42964)
(32)【優先日】2012年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-212629(P2012-212629)
(32)【優先日】2012年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100129160
【弁理士】
【氏名又は名称】古館 久丹子
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】志村 晴季
(72)【発明者】
【氏名】岡部 淳
(72)【発明者】
【氏名】高谷 清彦
(72)【発明者】
【氏名】木村 将弘
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−252541(JP,A)
【文献】 特開2007−275691(JP,A)
【文献】 特表2003−534408(JP,A)
【文献】 特開2009−233666(JP,A)
【文献】 特開2007−182067(JP,A)
【文献】 特表2005−516754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材および多孔性支持層を含む支持膜と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層とを備え、前記多孔性支持層が基材側の第1層とその上に形成された第2層を備える複合半透膜の製造方法であって、
下記工程(a)〜(c)によって前記多孔性支持層を形成する工程を備え、
(a)前記基材に高分子溶液を塗布する工程、
(b)前記基材に前記高分子溶液を含浸させる工程、および
(c)前記高分子溶液を含浸した前記基材を、凝固浴に浸漬させることで前記高分子溶液中の高分子を凝固させる工程
前記工程(a)において、前記基材上に第1層を形成する高分子溶液Aを塗布すると同時に高分子溶液A上に第2層を形成する高分子溶液Bを塗布し、
前記高分子溶液Aの固形分濃度a(重量%)と前記高分子溶液Bの固形分濃度b(重量%)が、1.0<a/b<2.0かつ、15≦a≦30かつ、12≦b≦20の関係式を満たす
ことを特徴とする複合半透膜の製造方法
【請求項2】
前記高分子溶液Aと前記高分子溶液Bとが異なる組成を有する、請求項1に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項3】
テンシロン引張試験機を用いて、25℃の温度条件下、10mm/min、剥離方向180°で前記基材から前記多孔性支持層を剥がしたときの剥離力の最大値を10回測定して得られた値の平均値である剥離強度が、1.1N/25mm以上であり、
前記第1層と前記第2層との界面が連続構造である複合半透膜を製造することを特徴とする請求項1または2に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項4】
前記高分子溶液中の高分子がポリスルホンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。本発明によって得られる複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜などがあり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収などに用いられている。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜およびナノろ過膜の大部分は複合半透膜であり、支持膜上にゲル層とポリマーを架橋した活性層を有するものと、支持膜上でモノマーを重縮合した活性層を有するものとの2種類がある。なかでも、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い分離膜として広く用いられている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開昭55−14706号公報
【特許文献2】日本国特開平5−76740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
逆浸透膜を用いて分離を行う場合、通常は供給水側の塩濃度が高く、透過水側の塩濃度が低い条件で運転される。したがって、支持膜内の塩濃度は低い。しかし何らかの要因で支持膜に高塩濃度の水溶液が浸入することがあると、その後塩濃度の低い透過水と接触することにより除去性能が低下することがある。高塩濃度の水溶液と支持膜が接触しても、除去性能が低下しない複合半透膜を提供する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成をとる。
(1)基材および多孔性支持層を含む支持膜と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層とを備える複合半透膜であって、前記多孔性支持層が基材側の第1層とその上に形成された第2層を備え、かつ、25℃の温度条件下で、10mm/min、剥離方向180°で前記基材から前記多孔性支持層を剥がして測定される剥離強度が、1.1N/25mm以上であることを特徴とする複合半透膜。
(2)前記第1層と前記第2層との界面が連続構造である(1)記載の複合半透膜。
(3)多孔性支持層が、基材上に第1層を形成する高分子溶液Aを塗布すると同時に第2層を形成する高分子溶液Bを塗布した後に、凝固浴に接触させて相分離させることで形成される(2)記載の複合半透膜。
(4)高分子溶液Aと高分子溶液Bとが異なる組成を有する(3)記載の複合半透膜。
(5)高分子溶液Aの固形分濃度a(重量%)と高分子溶液Bの固形分濃度b(重量%)が、1.0<a/b<2.0 かつ、15≦a≦30 かつ、12≦b≦20の関係式を満たす(4)記載の複合半透膜。
(6)前記基材が、ポリエステルを主成分として含有する長繊維不織布である(1)〜(5)のいずれか一項に記載の複合半透膜。
【発明の効果】
【0007】
本発明によって、支持膜が高塩濃度の水溶液に接触した後でも、高い除去性能を維持できる複合半透膜が実現される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.複合半透膜
複合半透膜は、基材および多孔性支持層を含む支持膜と、前記多孔性支持層上に設けられた分離機能層とを備える。該基材と多孔性支持層との剥離強度が1.1N/25mm以上であることを特徴とする。
【0009】
(1−1)分離機能層
分離機能層は、複合半透膜において溶質の分離機能を担う層である。分離機能層の組成および厚み等の構成は、複合半透膜の使用目的に合わせて設定される。
【0010】
(ポリアミド製分離機能層)
例えば、分離機能層は、ポリアミドを主成分として含有してもよい。分離機能層を構成するポリアミドは、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能アミンまたは多官能酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。
【0011】
なお、本書において、「XがYを主成分として含有する」とは、YがXの50重量%以上を占めることを意味し、Xが実質的にYのみを含有する構成を含む。
【0012】
ポリアミド分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内が好ましく、0.1〜0.5μmの範囲内がより好ましい。ここで、多官能アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基であるアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミンなどの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4−アミノピペリジン、4−アミノエチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の第一級アミノ基および/または第二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDA)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。2種以上を同時に用いる場合、上記アミン同士を組み合わせてもよく、上記アミンと一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンを組み合わせてもよい。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとして、例えば、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン等を挙げることができる。
【0013】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物としては、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物としては、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましい。また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能酸塩化物は一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることがより好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとさらに好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いてもよい。
【0014】
(1−2)支持膜
本発明において支持膜は、基材と、前記基材上に設けられる多孔性支持層とを備えるものであり、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。
【0015】
支持膜の厚さは、複合半透膜の強度および複合半透膜を膜エレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、支持膜の厚さは、30〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは50〜250μmの範囲内である。
【0016】
なお、本書において、特に付記しない限り、各層または膜の厚さとは、それぞれ平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値である。すなわち、各層または膜の厚さは、各層または膜の断面を観察した際に、層または膜の厚さ方向に直交する方向(層または膜の面方向、水平方向)に20μm間隔で測定した20点の厚さの平均値を算出することで求められる。
【0017】
本発明者らは、基材と多孔性支持層との接着性に着目し、鋭意検討を行った。その結果、高塩濃度の水溶液が浸透した多孔性支持層を低塩濃度の水溶液に接触させると、水が濃度差を原動力として急激に多孔性支持層内に流入し、基材と多孔性支持層との間に部分的な剥離が発生することで膜に欠陥が生じ、塩除去率が低下する場合があることを見出した。すなわち、基材と多孔性支持層の剥離強度を向上させれば、高塩濃度の水溶液と支持層が接触しても、複合半透膜は高い塩除去率を維持できる。
【0018】
基材と多孔性支持層との接着性は使用する基材の材質などで異なるが、180°剥離試験を行った際の剥離強度が、1.1N/25mm以上であることが好ましい。剥離強度の上限は、場合によっては多孔性支持層の破壊強度を超える場合があるため、規定することが出来ないが、剥離される場合には、通常、7.5N/25mm未満である。剥離強度が1.1N/25mm以上であることで、高塩濃度の水溶液と支持層が接触しても、複合半透膜は高い塩除去率を維持できる。
【0019】
[多孔性支持層]
本発明においては、多孔性支持層は多層構造を有することが好ましい。多層構造を有する多孔性支持層は、基材と接触する第1層およびポリアミド分離機能層と接触する第2層の2つの層からなる。第1層は、基材と密着され、高い剥離強度を実現する。第2層は、実質的に膜性能を決定する分離機能層の重合場、および/または分離機能層に対して直接的に機械的強度を与える。基材と多孔性支持層との剥離強度は、支持体のミクロ相分離構造、ポリマーの占める体積分率、および前記ポリマー素材の強度等によって最適に制御することができる。しかし、強度の高い支持体が、同時に最適な分離機能層の支持体として機能するわけではない。例えば、多孔性支持層を形成するポリマーの占める体積分率が高い多孔性支持層は高い剥離強度を有するが、モノマー水溶液を保持できる空間が小さいことから、重合場としては不適である。また、強度が高く基材との親和性に優れた多孔性支持層も高い剥離強度を有するが、素材によってはポリアミド分離機能層と良好な接着性を有しない場合も多い。よって、剥離強度を担う第1層と、重合場として機能する第2層は、機能的に分離されることが好ましい。
【0020】
本発明の多孔性支持層の第1層は、強度の高い素材であること、基材と密着して高い剥離強度を実現すること、寸法安定性に優れていて高圧濾過などに用いた場合にも剥離や破損などがないこと、さらには分離機能層を透過した透過水の移送に際し抵抗を極小化することが要求される。基材と密着して高い剥離強度を発現するため、第1層に用いる素材は基材と親和性が高い素材であることが好ましい。基材にポリエステル系重合体を使用した場合には、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなどが使用され;ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用される。中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。これらの素材の中では化学的、機械的、および熱的に安定性が高く、さらに基材との接着性に優れることからポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンがより好ましい。
【0021】
一般に造水性能に優れる分離機能層は、厚さ100nm以下の薄膜であり機械的強度に劣る。そのため、分離機能層を直接的に支持する本発明の多孔性支持層の第2層は、平滑性に優れていて凹凸のない均一な表面構造を形成させ得ること、第2層形成時に製膜液の裏抜けがなくピンホールのない構造を形成し得ること、分離機能層との接着性が良好であること、寸法安定性に優れていて高圧濾過などに用いた場合にも剥離や破損などがないこと、さらには分離機能層の重合場としてアミン等のモノマーを保持・放出し得ることが要求される。
【0022】
第2層に用いる素材には、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーまたはこれらのコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホンなどのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。より好ましくは酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、およびポリフェニレンスルホンが挙げられ、さらに、これらの素材の中では分離機能層の重合場としてアミン等のモノマーを保持・放出し得る構造の形成が容易である点から、ポリスルホンが好ましい。
【0023】
多孔性支持層の素材としてポリスルホンを用いる場合、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でN−メチルピロリドンを展開溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定した場合の質量平均分子量(Mw)が、好ましくは10000〜200000、より好ましくは15000〜100000の範囲内にあるものが好ましい。Mwが10000以上であることで、多孔性支持層として、好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。また、Mwが200000以下であることで、溶液の粘度が適切な範囲となり、良好な成型性を実現することができる。
【0024】
多孔性支持体は、例えば、上記ポリスルホンを溶解させたN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)溶液を、基材上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、得ることができる。この方法によって得られた多孔性支持層は、表面に直径1〜30nmの微細な孔を多数有するものとなる。
【0025】
上記の支持膜の厚みは、複合半透膜の強度およびそれを膜エレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、30〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは50〜250μmの範囲内である。また、多孔性支持層の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜100μmの範囲内である。基材の厚みは10〜250μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜200μmの範囲内である。なお、前記多孔性支持層の厚みは、基材中に多孔性支持層が含浸している場合、その部分の厚みも含む。また、前記基材の厚みは基材全体の厚みを示し、基材中に多孔性支持層が含浸している場合、その部分の厚みも含む。
【0026】
なお、本明細書において、特に付記しない限り、各層および膜の厚みとは、平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。すなわち、各層および膜の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0027】
精密ろ過膜や限外ろ過膜においては、多孔性支持層中でポリマーが占める体積分率を減少させることにより、多孔性支持層の透過抵抗が減少する。この方法で直接的に分離膜の透水性を向上させることができるが、この技術と、本発明の技術は異なる。逆浸透膜のように、多孔性支持層と比較して分離機能層の透過抵抗が十分に高い場合、多孔性支持層の透過抵抗の低下は、複合半透膜の透水性向上の直接的な主要因とならない場合が多い。本発明の技術は、界面重合時に多孔性支持層から反応場へのモノマー溶液の供給効率を増加させ、高い表面積を有する分離機能層を実現することにより、高い透水性を得るものである。
【0028】
さらに本発明の多孔性支持層は第1層とその上に形成される第2層の界面が連続構造であることが好ましい。本発明における連続構造とは、第1層とその上に形成される第2層の界面にスキン層を形成しない構造を指す。ここでいうスキン層とは、高い密度を有する部分を意味する。具体的には、スキン層の表面細孔は、1nm以上50nm以下の範囲内にある。第1層と第2層との界面にスキン層が形成された場合には、多孔性支持層中に高い抵抗が生じるため、その結果、透過流速は劇的に低下する。
【0029】
[基材]
支持膜を構成する基材としては、例えば、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体等が主成分として挙げられる。なかでも、機械的強度、耐熱性、耐水性等により優れた支持膜を得ることができることから、ポリエステル系重合体であることが好ましい。
【0030】
ポリエステル系重合体とは、酸成分とアルコール成分からなるポリエステルである。
【0031】
酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸およびフタル酸などの芳香族カルボン酸;アジピン酸やセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;およびシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などを用いることができる。
【0032】
また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0033】
なお、「主成分としてポリエステルを含有する」と「主成分としてポリエステル系重合体を含有する」とは同義である。ポリエステル系重合体を構成する酸成分とアルコール成分の割合は、通常用いられる範囲であれば、特に限定されない。
【0034】
ポリエステル系重合体の例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂およびポリブチレンサクシネート樹脂等が挙げられ、またこれらの樹脂の共重合体も挙げられる。
好ましくはポリエチレンテレフタレートのホモポリマーまたはこれらのコポリマーである。
【0035】
本発明における基材は、前記重合体等からなる布帛状のものである。該基材に用いられる布帛には、強度、流体透過性の点で前記重合体等が繊維状のものを用いることが好ましい。
【0036】
布帛としては、長繊維不織布及び短繊維不織布のいずれも好ましく用いることができる。
【0037】
特に、基材として長繊維不織布を用いた場合、多孔性支持層を構成する高分子重合体の溶液を流延した際の浸透性に優れ、多孔性支持層が剥離すること、基材の毛羽立ち等により膜が不均一化すること、及びピンホール等の欠点が生じることを抑制できる。そのため、基材は特に、長繊維不織布からなることが好ましい。中でも、該長繊維不織布は、熱可塑性連続フィラメントより構成されるものがより好ましい。
【0038】
以上より、本発明における基材は、主成分としてポリエステルを含有する長繊維不織布であることが好ましい。
【0039】
長繊維不織布および短繊維不織布は、成形性、強度の点で、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維が、多孔性支持層側の表層の繊維よりも縦配向していることが好ましい。すなわち、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維の繊維配向度が、多孔性支持層側の表層における繊維の繊維配向度よりも小さいことを意味する。
【0040】
上記構造をとることで複合半透膜の強度を保つことができ、膜破れ等を防ぐ高い効果が実現されるので好ましい。
【0041】
より具体的には、前記長繊維不織布のおよび短繊維不織布、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度は、0°〜25°であることが好ましい。また、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度と、多孔性支持層側の表層における繊維配向度との配向度差が10°〜90°であることが好ましい。
【0042】
分離膜の製造工程やエレメントの製造工程においては加熱する工程が含まれるが、加熱により多孔性支持層または分離機能層が収縮する現象が起きる。特に連続製膜において張力が付与されていない幅方向において顕著である。収縮することにより、寸法安定性等に問題が生じるため、基材としては熱寸法変化率が小さいものが望まれる。不織布において多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向度と多孔性支持層側表層における繊維配向度との差が10°〜90°であると、熱による幅方向の変化を抑制することもでき、好ましい。
【0043】
本明細書において「繊維配向度」とは、基材が不織布である場合の、該繊維の向きを示す指標である。具体的には、繊維配向度とは、連続製膜を行う際の製膜方向、つまり不織布基材の長手方向と、不織布基材を構成する繊維の長手方向とがなす角度の平均値である。すなわち、繊維の長手方向が製膜方向と平行であれば、繊維配向度は0°である。また、繊維の長手方向が製膜方向に直角、すなわち不織布基材の幅方向に平行であれば、その繊維の配向度は90°である。よって、繊維配向度が0°に近いほど縦配向であり、90°に近いほど横配向であることを示す。
【0044】
繊維配向度は以下のように測定する。
まず、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取する。次に、そのサンプルの表面を走査型電子顕微鏡で100〜1000倍の倍率で撮影する。撮影像の中で、各サンプルあたり繊維を10本選び、不織布の長手方向(縦方向、または製膜方向とも言う。)を0°としたときの、前記繊維が前記長手方向となす角度を測定する。
つまり不織布1サンプルあたり計100本の繊維について、角度を測定する。こうして測定された100本の繊維についての角度の平均値を算出する。得られた角度の平均値の小数点以下第一位を四捨五入して得られる値が、繊維配向度として定義される。
【0045】
基材の厚さは10〜250μmの範囲内にあることが機械的強度及び充填密度の点から好ましく、より好ましくは20〜200μmの範囲内である。
【0046】
2.複合半透膜の製造方法
次に、上記複合半透膜の製造方法について説明する。製造方法は、支持膜の形成工程および分離機能層の形成工程を含む。
【0047】
(2−1)支持膜の形成工程
該基材上に多孔性支持層を設ける工程には、基材に多孔性支持層を構成する高分子溶液を塗布する工程、前記基材に前記高分子溶液を含浸させる工程、および前記高分子溶液を含浸した前記基材を、高分子の良溶媒と比較して前記高分子の溶解度が小さい溶液(以下、単に「非溶媒」と称する。)を満たした凝固浴に浸漬させて前記高分子を凝固させ、高分子の三次元網目構造を形成させる工程を含んでもよい。
【0048】
また、支持膜の形成工程は、多孔性支持体の成分である高分子を、その高分子の良溶媒に溶解して高分子溶液を調製する工程を、さらに含んでいてもよい。良溶媒は、高分子の種類や高分子量によって、適宜適切なものを選択して用いる。
【0049】
前記高分子溶液の基材への含浸工程を制御することで、所定の構造をもつ支持膜を得ることができる。高分子溶液の基材への含浸を制御するためには、例えば、基材上に高分子溶液を塗布した後、非溶媒による凝固浴に浸漬させるまでの時間を制御する方法、或いは高分子溶液の温度または濃度を制御することにより高分子溶液の粘度を調製する方法等が挙げられ、これらの方法を組み合わせて用いることも可能である。
【0050】
基材上に多孔性支持層の成分である高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、通常0.1〜5秒間の範囲であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子溶液の粘度などによって適宜調製することができる。
【0051】
第1層を形成する高分子溶液Aが多孔性支持層の主成分としてポリスルホンを含有する場合、高分子溶液Aのポリスルホン濃度(すなわち固形分濃度a)は、好ましくは15重量%以上であり、より好ましくは17重量%以上である。また、高分子液Aのポリスルホン濃度は、好ましくは30重量%以下であり、より好ましくは25重量%以下である。高分子濃度が15重量%以上であることで必要な剥離強度が得られる。また、高分子濃度が30重量%以下であることで、透水性を有する構造を得ることができる。
【0052】
高分子溶液Bが、同じくポリスルホンを主成分として含有する場合、高分子液Bのポリスルホン濃度(すなわち固形分濃度b)は、好ましくは12重量%以上であり、より好ましくは13重量%以上である。また、高分子液Bのポリスルホン濃度は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは17重量%以下である。この範囲内であれば、ポリアミド分離機能層を形成する際、相分離によって形成した細孔から効率良くアミン水溶液を供給することができる。
【0053】
高分子溶液Aと高分子溶液Bがいずれもポリスルホンを主成分として含有する場合、ポリスルホン濃度、すなわち固形分濃度aと固形分濃度bとは、1.0<a/b<2.0の関係式を満たすことが好ましく、1.2<a/b<1.6であることがより好ましい。また、固形分濃度aと固形分濃度bとが、上述のそれぞれの好ましい数値範囲を満たしつつ、かつ上記関係式を満たすことが、多孔性支持層からのアミン水溶液の供給性と剥離強度を両立するために、より好ましい。
【0054】
高分子溶液塗布時の高分子溶液の温度は、ポリスルホンを用いる場合、通常10〜60℃の範囲内で塗布するとよい。この範囲内であれば、高分子溶液が析出することなく、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により支持膜が基材に強固に接合し、本発明の支持膜を得ることができる。なお、高分子溶液の好ましい温度範囲は、用いる高分子溶液の粘度などによって適宜調製すればよい。
【0055】
支持膜の形成においては、基材上に第1層を形成する高分子溶液Aを塗布すると同時に第2層を形成する高分子溶液Bを塗布することが好ましい。高分子溶液Aを塗布後に硬化時間を設けた場合には、高分子溶液Aの相分離によって形成される第1層の表面に密度の高いスキン層が形成され、透過流速を大幅に低下させる。そのため、高分子溶液Aが相分離により密度の高いスキン層を形成しない程度に、同時に高分子溶液Bを塗布することが重要である。例えば、「同時に塗布される」とは、高分子溶液Aが、基材に到達する前に、高分子溶液Bと接触している状態、つまり、高分子溶液Aが基材に塗布されたときには、高分子溶液Bが高分子溶液A上に塗布されている状態を含む。
【0056】
基材上への高分子溶液の塗布は、種々のコーティング法によって実施できるが、正確な量のコーティング溶液を供給できるダイコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング等の前計量コーティング法が好ましく適用される。さらに、本発明の多層構造を有する多孔性支持層の形成においては、第1層を形成する高分子溶液と第2層を形成する高分子溶液を同時に塗布する二重スリットダイ法がさらに好ましく用いられる。
第1層を形成する高分子溶液Aの組成と第2層を形成する高分子溶液Bの組成は、互いに異なっていてもよい。「組成が異なる」とは、含有する高分子の種類およびその固形分濃度、添加物の種類およびその濃度、並びに溶媒の種類のうち、少なくとも1つの要素が異なることを意味する。溶媒は、高分子の良溶媒であれば同一の溶媒でも、異なる溶媒でも良い。高分子・溶媒ともに、適宜、製造する支持膜の強度特性、高分子溶液の基材への含浸を勘案して、より広い範囲で調整することができる。
【0057】
本発明の良溶媒とは、高分子材料を溶解するものである。良溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという);テトラヒドロフラン;ジメチルスルホキシド;テトラメチル尿素、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド;アセトン、メチルエチルケトン等の低級アルキルケトン;リン酸トリメチル、γ−ブチロラクトン等のエステルおよびラクトン;並びにこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0058】
前記樹脂の非溶媒としては、通常水が使われるが、高分子を溶解しないもの/ほとんど溶解しないものであればよい。高分子の種類によって異なるものの、例えば水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。
【0059】
凝固浴としては、通常水が使われるが、非溶媒を用いればよい。組成によって支持膜の膜形態が変化し、それによって複合膜の膜形成性も変化する。また、凝固浴の温度は、−20℃〜100℃が好ましい。さらに好ましくは10〜30℃である。温度が100℃以下であることで、熱運動による凝固浴面の振動の大きさが抑えられ、多孔性支持層の膜表面を平滑に形成することができる。また、温度が−20℃以上であることで、凝固速度を比較的速く保つことができ、良好な製膜性が実現される。
【0060】
次に、上記条件下で得られた支持膜を、膜中に残存する製膜溶媒を除去するために熱水洗浄する。このときの熱水の温度は50〜100℃が好ましく、さらに好ましくは60〜95℃である。この範囲より高いと、支持膜の収縮度が大きくなり、透水性が低下する。逆に、前記範囲よりも低いと残存する溶媒の除去効果が小さい。
【0061】
また、上記高分子溶液は、支持膜の孔径、空孔率、親水性、弾性率などを調節するための添加剤を適宜含有してもよい。孔径および空孔率を調節するための添加剤としては、水;アルコール類;ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の水溶性高分子またはその塩;塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム等の無機塩;ホルムアルデヒド、ホルムアミド等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
親水性や弾性率を調節するための添加剤としては、種々の界面活性剤が挙げられる。
【0063】
次に、複合半透膜を構成する分離機能層の形成工程の一例として、ポリアミドを主成分とする層の形成を挙げて説明する。ポリアミド分離機能層の形成工程では、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する水と非混和性の有機溶媒溶液とを用い、支持膜の表面で界面重縮合を行うことにより、ポリアミド骨格を形成する工程を含む。前記有機溶媒溶液と水とは非混和性である。
【0064】
多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1重量%以上20重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の範囲内である。この範囲であると十分な透水性と塩およびホウ素の除去性能を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0065】
界面重縮合を支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を支持膜に接触させる。接触は、支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を支持膜にコーティングする方法や支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、5秒以上10分以下の範囲内であることが好ましく、10秒以上3分以下の範囲内であるとさらに好ましい。
【0066】
多官能アミン水溶液を支持膜に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、複合半透膜形成後に液滴残存部分が欠点となって複合半透膜の除去性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、日本国特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0067】
次いで、多官能アミン水溶液を接触し、十分に液切りした後の支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層を形成させる。
【0068】
水と非混和性の有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物濃度は、0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であると好ましく、0.02重量%以上2.0重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。多官能酸ハロゲン化物濃度が0.01重量%以上であることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下であることで副反応の発生を抑制することができる。
【0069】
水と非混和性の有機溶媒は、多官能酸ハロゲン化物を溶解し、支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。非混和性の有機溶媒の好ましい例として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
【0070】
多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を支持膜へ接触させる方法は、多官能アミン水溶液を支持膜へ被覆する方法と同様に行えばよい。
【0071】
本発明の界面重縮合工程においては、支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆い、かつ、接触させた多官能酸ハロゲン化物を含む水と非混和性の有機溶媒溶液を支持膜上に残存させておくことが肝要である。このため、界面重縮合を実施する時間は、0.1秒以上3分以下が好ましく、0.1秒以上1分以下であるとより好ましい。界面重縮合を実施する時間が0.1秒以上3分以下であることで、支持膜上を架橋ポリアミド薄膜で十分に覆うことができ、かつ多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を支持膜上に保持することができる。
【0072】
界面重縮合によって支持膜上にポリアミド分離機能層を形成した後は、余剰の溶媒を液切りする。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1分以上5分以下であることが好ましく、1分以上3分以下であるとより好ましい。短すぎると分離機能層が完全に形成せず、長すぎると有機溶媒が過乾燥となってポリアミド分離機能層に欠損部が発生し、膜性能が低下する。
【0073】
3.複合半透膜の利用
複合半透膜は、例えば、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントは、直列または並列に接続されて圧力容器に収納されることで、複合半透膜モジュールを構成することもできる。
【0074】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0075】
流体分離装置の操作圧力は高い方が塩除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、1.0MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると塩除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHは、高くなると海水などの高塩濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケール(難溶性物質の沈殿)が発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化も懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0076】
複合半透膜によって処理される原水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L〜100g/LのTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量/体積」で表されるが、1リットルの重量を1kgと見なして「重量比」で表されることもある。なお、定義によれば、0.45μmのフィルターで濾過した溶液を39.5〜40.5℃の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分から換算する。
【実施例】
【0077】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0078】
<半透膜の作製>
(実施例1)
ポリスルホンとDMF溶液を混合し、90℃で2時間攪拌することにより、ポリスルホン25重量%のDMF溶液(高分子溶液A)およびポリスルホン17重量%のDMF溶液(高分子溶液B)を調製した。調製した高分子溶液はそれぞれ室温まで冷却し、別々の押出機に供給して高精度濾過した。その後、濾過した高分子溶液は二重スリットダイを介し、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(糸径:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm/sec)上に高分子溶液Aを70μmの厚みで、高分子溶液Bを90μmの厚みで同時にキャストし、直ちに純水中に浸漬して5分間洗浄することによって微多孔性支持膜を得た。
【0079】
得られた微多孔性支持膜を、m−PDAの4.0重量%水溶液中に2分間浸漬した後、膜面が鉛直になるようにゆっくりと引き上げた。エアーノズルから窒素を吹き付けることで支持膜表面から余分なm−PDA水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド0.12重量%を含む25℃のn−デカン溶液を膜表面が完全に濡れるように塗布した。1分間静置した後、膜から余分なn−デカン溶液を除去するために膜面を1分間鉛直に保持して液切りした。その後、45℃の水で2分間洗浄することで、支持膜上に分離機能層を設けられた膜を得た。
【0080】
(実施例2)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン15重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2における複合半透膜を得た。
【0081】
(実施例3)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン18重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン13重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3における複合半透膜を得た。
【0082】
(実施例4)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン17重量%のNMP溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン16重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4における複合半透膜を得た。
【0083】
(実施例5)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン21重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例5における複合半透膜を得た。
【0084】
(実施例6)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン12重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6における複合半透膜を得た。
【0085】
参考例7)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン22重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、参考例7における複合半透膜を得た。
【0086】
参考例8)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン31重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、参考例8における複合半透膜を得た。
【0087】
参考例9)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、参考例9における複合半透膜を得た。
【0088】
参考例10)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン15重量%のDMF溶液を用いた。単スリットダイコーターを用いて、高分子溶液Aを70μmの厚みでキャストし、直ちに純水中に浸漬して5分間洗浄した。続いて、得られた多孔性支持層の表層の水を除去した後、高分子溶液Bを90μmの厚みでキャストし、直ちに純水中に浸漬して5分間洗浄することによって微多孔性支持膜を得た。この他は、実施例1と同様にして、参考例10における複合半透膜を得た。
【0089】
参考例11)
実施例1において、高分子溶液Aとして酢酸セルロース17重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、参考例11における複合半透膜を得た。
【0090】
参考例12)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリアクリロニトリル17重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、参考例12における複合半透膜を得た。
【0091】
参考例13)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリアクリロニトリル15重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、参考例13における複合半透膜を得た。
【0092】
参考例14)
実施例1において、高分子溶液Aとしてポリフェニレンスルフィドスルホン17重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、参考例14における複合半透膜を得た。
【0093】
(比較例1)
ポリスルホン15重量%のDMF溶液のみを、二重スリットダイではなく単スリットダイコーターを用いて、220μmの厚みで不織布上に塗布した以外は、実施例1と同様の手順によって支持膜を得た。
【0094】
得られた支持膜上に、実施例1と同様の手順によって分離機能層を形成した。
【0095】
(比較例2)
高分子溶液としてポリスルホン17重量%のDMF溶液を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例2における複合半透膜を得た。
【0096】
(比較例3)
高分子溶液Aとしてポリスルホン13重量%のDMF溶液を用い、高分子溶液Bとしてポリスルホン20重量%のDMF溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3における複合半透膜を得た。
【0097】
(比較例4)
高分子溶液として酢酸セルロース17重量%のDMF溶液を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例4における複合半透膜を得た。
【0098】
(比較例5)
高分子溶液としてポリアクリロニトリル17重量%のDMF溶液を用いた以外は、比較例1と同様にして、比較例5における複合半透膜を得た。
【0099】
<耐剥離性の測定>
実施例、比較例における複合半透膜の耐剥離性は、テンシロン試験機(株式会社 エイ・アンド・デイ製 RTG−1210)を用いて測定した。圧力印加および通水を経ていない新品の膜試料に対し、25℃において、10mm/minのつかみ移動速度で、剥離方向180°で剥離を行うことで、剥離力の最大値を求めた。この操作を1つの試料について10回行い、得られた値の平均を算出することにより、剥離強度を得た。
【0100】
<脱塩率(TDS除去率)>
温度25℃、pH6.5の海水(供給水に該当)を、操作圧力5.5MPaで複合半透膜に供給することで、24時間に渡ってろ過処理を行った。得られた透過水を、TDS除去率の測定に用いた。
【0101】
東亜電波工業株式会社製電気伝導度計で供給水および透過水の電気伝導度を測定することにより、実用塩分を得た。既知濃度のNaCl水溶液についてイオン伝導度測定を行って検量線を作成し、これを用いて上記で測定されたイオン伝導度の値からTDS濃度を算出し、次の式により脱塩率すなわちTDS除去率を求めた。
TDS除去率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
【0102】
<膜透過流束>
24時間の上記水処理操作により得られた透過水量について、膜面の見かけ面積1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m/m/日)として表した。
【0103】
<高塩濃度水溶液・純水接触試験>
複合半透膜を温度25℃,NaCl濃度10重量%,pH6.5の水溶液に1日浸漬し、その後純水に6時間浸漬した。この処理を10回繰り返した試料について、上記の方法で脱塩率と膜透過流束を測定した。
【0104】
以上の結果を表1に示す。本発明により、支持膜が高塩濃度の水溶液に接触した後でも、脱塩率の変化が小さい複合半透膜が得られることが分かる。
【0105】
【表1】
【0106】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2012年2月29日出願の日本特許出願2012−042964及び2012年9月26日出願の日本特許出願2012−212629に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の複合半透膜は、特に、かん水や海水の脱塩に好適に用いることができる。