特許第6052208号(P6052208)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6052208鋼帯の連続式酸洗装置および鋼帯の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052208
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】鋼帯の連続式酸洗装置および鋼帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23G 3/02 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   C23G3/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-43845(P2014-43845)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-168843(P2015-168843A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】森枝 雅史
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−106965(JP,U)
【文献】 国際公開第1999/046426(WO,A1)
【文献】 実開昭64−037469(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23G 1/00−5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を連続的に酸洗する連続式酸洗装置であって、ダムにより鋼帯進行方向に分割された酸洗槽と、前記酸洗槽の底面に設置された熱交換器と、前記ダムとで前記熱交換器を挟み込むように設置された保護ダムとを備え、
前記熱交換器は、前記ダムに近接して鋼帯進行方向上流側にのみ設置されており、前記保護ダムは、上端が前記熱交換器の上端より高くかつ前記酸洗槽内の酸液の液面より低くなっているとともに、酸液が通過可能なスリットを有するスリット構造付き保護ダムであることによって、前記熱交換器と前記鋼帯との接触防止と前記熱交換器へのスケールの堆積抑止を行うことを特徴とする鋼帯の連続式酸洗装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼帯の連続式酸洗装置を用いて鋼帯を連続的に酸洗することにより、鋼帯を製造することを特徴とする鋼帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯を連続的に酸洗する連続式酸洗装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延鋼板や珪素鋼板などの鋼帯の表面スケールを除去するために、鋼帯を連続的に酸洗する連続式酸洗装置が用いられている。
【0003】
図6は、その続式酸洗装置の基本的な構成を示すものである。図6に示すように、連続式酸洗装置10は、酸洗液(酸液)2が満たされた酸洗槽6を備えており、酸洗槽6は複数のダム1により鋼帯3の進行方向d1に分割されている(ここでは、酸洗槽6a、6b、6c、6dの4個に分割)。そして、酸洗によって消耗した酸液2を補給するために、ダム1の高さを鋼帯進行方向d1に向かって順に高くし、酸液を鋼帯進行方向d1とは逆に、鋼帯3の出口側から順次各ダム1をオーバーフローさせて鋼帯進行方向d1上流側の酸洗槽に供給している(ここでは、酸洗槽6d→6c→6b→6aの順)。
【0004】
このような連続式酸洗装置10においては、通常、酸液2として、硫酸、塩酸などの希釈液が用いられ、酸洗効率を上げるために、その温度を80〜90℃程度に保っている。
【0005】
そして、酸液2を昇温保持するために、図3に示すように、蒸気パイプ7により直接蒸気を酸液2中に投入したり、図4図5に示すように、蒸気を用いた側面設置型の熱交換器8もしくは底面設置型の熱交換器5を設置したりしている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0006】
なお、図5に示した底面設置型熱交換器5においては、鋼帯3と側面設置型熱交換器5の接触を防止するために、上端が底面設置型熱交換器5の上端より高くかつ酸液2の液面より低い保護ダム9を設置している。
【0007】
ただし、図3に示した蒸気パイプ7による方法は、蒸気を直接酸液2中に投入するため、図4図5に示した側面設置型熱交換器8や底面設置型熱交換器5に比べて廃液が増加するという欠点がある。
【0008】
また、図4に示した側面設置型熱交換器8は、耐酸性の樹脂チューブなどを用いて熱交換を行うため廃液の増加は無いが、酸洗槽6の側面からの張り出し寸法が蒸気パイプでは80mm程度で有るのに比べ250mm程度が必要であり、鋼帯3の蛇行などによって熱交換器8を破損する事故が多く発生し、維持管理に多大の費用を要すると共に操業に悪影響を与えている。
【0009】
これに対して、図5に示した底面設置型熱交換器5は、酸洗槽6の側面には酸洗槽6の底面に位置する底面設置型熱交換器5へ蒸気を導くチューブを配するのみであるので、酸洗槽6の側面からの張り出し寸法は蒸気パイプ7と同等の80mm程度とすることができるため、鋼帯3の蛇行による熱交換器5の破損が発生しにくい。
【0010】
このように、図5に示した底面設置型熱交換器5を設置する方法は、図3に示した蒸気パイプ7により直接蒸気を投入する方法や図4に示した側面設置型熱交換器8を設置する方法に比べて優れている。
【0011】
しかし、底面設置型熱交換器5を設置する方法は、操業異常時等の鋼帯3の張力低下時に鋼帯3の高さ位置が下がることで底面設置型熱交換器5と接触する可能性がある。そのため、上述したように、上端が底面設置型熱交換器5の上端より高くかつ酸液2の液面より低い保護ダム9を設置して鋼帯3の接触を防いでいるが、鋼帯3の随伴流がダム1に衝突した際に発生する下方への酸液2の流れが保護ダム9により底面設置型熱交換器5周辺で滞り、酸洗により除去されたスケールが底面設置型熱交換器5に堆積して、底面設置型熱交換器5の性能が低下する等といった問題がある。
【0012】
これに対して、酸液の流れの滞留および熱交換器の損傷への対策として、特許文献3では、上端が酸液の液面より高くかつ開口部を備えた邪魔壁をダムの前に設け、その邪魔壁とダムの間に熱交換器を設置することによって、邪魔壁の開口部によって酸液の流れの滞留を回避しながら、邪魔壁により熱交換器と鋼帯の接触を防止するようにしている。
【0013】
また、堆積したスケールによる熱交換器の性能低下等の対策として、特許文献4では、熱交換器に圧縮空気または酸液を吹き付けることによって、熱交換器に堆積したスケールを洗い流すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】実開昭61−102308号公報
【特許文献2】実開昭62−106965号公報
【特許文献3】実開昭64−37469号公報
【特許文献4】特開2003−213466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、鋼帯の連続式酸洗装置において、酸洗槽の底面に熱交換器を設置し、その熱交換器と鋼帯が接触するのを防止すために保護ダムを設置した場合、その保護ダムにより熱交換器周辺の酸液の流れが滞り、酸洗により除去されたスケールが堆積するという問題がある。
【0016】
この対策として、特許文献3のように、上端が酸液の液面より高くかつ開口部を備えた邪魔壁をダムの前に設け、その邪魔壁とダムの間に熱交換器を設置することによって、酸液の流れの滞留を回避しながら、邪魔壁により熱交換器と鋼帯の接触を防止することや、特許文献4のように、熱交換器に圧縮空気や酸液を吹き付けることによって、熱交換器に付着したスケールを洗い流すことが考えられる。
【0017】
しかしながら、特許文献3のように、上端が酸液の液面より高い邪魔壁をダムの前に設けた場合、構造上、ダムの前で鋼帯が酸液中から露出するため、邪魔壁を設置しない場合に比べて鋼帯の酸液通過長さが減少し、酸洗効率が悪化するという問題がある。
【0018】
また、特許文献4のように、熱交換器に圧縮空気や酸液を吹き付けた場合、圧縮空気分の原単位の悪化や鋼帯への気泡の付着による酸洗ムラの発生という問題や、吹き付け用ポンプなどが必要となり、設備の維持管理に多大な労力と費用がかかるという問題がある。
【0019】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、鋼帯の連続式酸洗装置において、酸洗槽の底面に熱交換器を設置した場合に、酸洗効率の悪化や設備維持管理の煩雑化を招くことなく、熱交換器と鋼帯の接触防止と熱交換器へのスケールの堆積抑止を効率的に行うことができる、鋼帯の連続式酸洗装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0021】
[1]鋼帯を連続的に酸洗する連続式酸洗装置であって、ダムにより鋼帯進行方向に分割された酸洗槽と、前記酸洗槽の底面に設置された熱交換器と、前記ダムとで前記熱交換器を挟み込むように設置された保護ダムとを備え、
前記保護ダムは、上端が前記熱交換器の上端より高くかつ前記酸洗槽内の酸液の液面より低くなっているとともに、酸液が通過可能なスリットを有するスリット構造付き保護ダムであることを特徴とする鋼帯の連続式酸洗装置。
【0022】
[2]前記[1]に記載の鋼帯の連続式酸洗装置を用いて鋼帯を連続的に酸洗することにより、鋼帯を製造することを特徴とする鋼帯の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、鋼帯の連続式酸洗装置において、酸洗槽の底面に熱交換器を設置した場合に、前記熱交換器を保護する保護ダムとして、上端が前記熱交換器の上端より高くかつ前記酸洗槽内の酸液の液面より低くなっているとともに、酸液が通過可能なスリットを有するスリット構造付き保護ダムを備えるようにしているので、鋼帯が酸液中から露出することがほぼ無いため、操業異常時等の鋼帯の張力低下時に鋼帯の高さ位置が下った場合でも、酸洗効率の悪化を招くことなく、熱交換器と鋼帯の接触を防止できるとともに、鋼帯の随伴流がダムに衝突した際に発生する下方への酸液の流れがスリット内を通るため、ダムとで保護ダムで挟み込まれた熱交換器周辺の酸液の流れを速めることになり、設備維持管理の煩雑化を招くことなく、熱交換器へのスケールの堆積が抑止できる。
【0024】
すなわち、本発明によって、酸洗効率の悪化や設備維持管理の煩雑化を招くことなく、熱交換器と鋼帯の接触防止と熱交換器へのスケールの堆積抑止を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態を示す側面図である。
図2図1におけるA−A矢視断面図である。
図3】従来技術を示す図である。
図4】従来技術を示す図である。
図5】従来技術を示す図である。
図6】鋼帯の連続式酸洗装置の基本的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1は、本発明一実施形態における鋼帯の連続式酸洗装置10Aを示す側面図であり、図2は、図1におけるA−A矢視断面図である。
【0028】
まず、本発明一実施形態における鋼帯の連続式酸洗装置10Aの基本的な構成は、前述した図6に示した連続式酸洗装置10と同様である。
【0029】
すなわち、この実施形態における連続式酸洗装置10Aは、酸洗液(酸液)2が満たされた酸洗槽6を備えており、酸洗槽6は複数のダム1により鋼帯3の進行方向d1に分割されている。そして、酸洗によって消耗した酸液2を補給するために、ダム1の高さを鋼帯進行方向d1に向かって順に高くし、酸液を鋼帯進行方向d1とは逆に、鋼帯3の出口側から順次各ダム1をオーバーフローさせて、鋼帯進行方向d1上流側の酸洗槽に供給している。
【0030】
そして、図1は、鋼帯進行方向d1に分割されている酸洗槽6の一部分を抽出して示した図である。
【0031】
図1図2に示すように、この連続式酸洗装置10Aは、ダム1の鋼帯進行方向d1上流側に近接して、酸洗槽6の底面に底面設置型熱交換器5が設置されており、さらに、その底面設置型熱交換器5を保護するための保護ダム4が底面設置型熱交換器5をダム1とで挟み込むように設置されている。
【0032】
そして、この保護ダム4は、上端が底面設置型熱交換器5の上端より高くかつ酸洗槽6内の酸液2の液面より低くなっているとともに、酸液2が通過可能なスリット4aを有するスリット構造付き保護ダム4となっている。
【0033】
これにより、この連続式酸洗装置10Aにおいては、スリット構造付き保護ダム4の上端が底面設置型熱交換器5の上端より高くかつ酸洗槽6内の酸液2の液面より低くなっているので、鋼帯3が酸液2中から露出することがほぼ無いため、操業異常時等の鋼帯3の張力低下時に鋼帯3の高さ位置が下った場合でも、酸洗効率の悪化を招くことなく、底面設置型熱交換器5と鋼帯3の接触を防止することができる。
【0034】
また、鋼帯3周辺で随伴流f1が発生し、その随伴流f1がダム1と衝突した際に下部への流れf2が発生した場合に、その下部への流れf2がスリット構造付き保護ダム4のスリット4aを通過するため、ダム1とスリット構造付き保護ダム4で挟み込まれた底面設置型熱交換器5周辺の酸液2の流れを速めることになり、設備維持管理の煩雑化を招くことなく、底面設置型熱交換器5へのスケールの堆積を抑止することができる。
【0035】
すなわち、この実施形態においては、酸洗効率の悪化や設備維持管理の煩雑化を招くことなく、底面設置型熱交換器5と鋼帯3の接触防止と底面設置型熱交換器5へのスケールの堆積抑止を効率的に行うことができる。
【実施例1】
【0036】
図5に示した従来技術による連続式酸洗装置を用いた場合は、3ヶ月程度の使用で、底面設置型熱交換器5へのスケールの堆積によって、熱交換効率の低下や、偏熱の発生による底面設置型熱交換器5の変形・損傷が生じていた。そのため、しばしば、底面設置型熱交換器5の交換等が必要になっていた。
【0037】
これに対して、上記の本発明の一実施形態における連続式酸洗装置を用いた場合は、6ヶ月間の使用でも、底面設置型熱交換器5へのスケールの堆積が抑止され、熱交換効率の低下や、偏熱の発生による底面設置型熱交換器5の変形・損傷は生じなかった。
【0038】
このように、本発明の連続式酸洗装置を用いることにより、酸洗効率の悪化や設備維持管理の煩雑化を招くことなく、熱交換器と鋼帯の接触防止と熱交換器へのスケールの堆積抑止を効率的に行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
1 ダム
2 酸液
3 鋼帯
4 スリット構造付き保護ダム
4a スリット
5 底面設置型熱交換器
6 酸洗槽
6a、6b、6c、6d 酸洗槽
7 蒸気パイプ
8 側面設置型熱交換器
9 保護ダム
10 連続式酸洗装置
10A 連続式酸洗装置
d1 鋼帯進行方向
f1 鋼帯の随伴流
f2 随伴流がダムに衝突して発生する下方向への流れ
図1
図2
図3
図4
図5
図6