(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記特許文献2の装置では、ホーム位置から操作部材がスライド変位することで変速レンジがニュートラルレンジに切り替わるよう構成されている。そのため、ドライバーや他の乗員がうっかり操作部材に触れた場合等において、不意に変速レンジがドライブレンジやリバースレンジからニュートラルレンジに切り替わってしまう可能性すなわち誤操作が生じる可能性が高い。
【0009】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、誤操作の発生を抑制しながら比較的簡便に変速レンジを切り替えることのできる車両用シフト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、車室内に設けられた操作部材と、
前記操作部材を、所定のホーム位置から時計まわりおよび反時計まわりに回動可能、かつ、これら回動後の位置からそれぞれ車両前後方向に変位可能に支持するとともに、回動後および変位後の前記操作部材を前記ホーム位置に自動的に復帰させる本体部と、前記操作部材の回動および変位状態を判定する判定部と、前記判定部の判定結果に基づいて、車両の変速レンジを、ニュートラルレンジと、前進方向の走行レンジであるドライブレンジと、後退方向の走行レンジであるリバースレンジとの間で切り替えるレンジ切替部とを備え、前記レンジ切替部は、前記操作部材が前記ホーム位置から回動したことを前記判定部が確認した場合は、前記変速レンジをニュートラルレンジに切り替え、前記操作部材が前記ホーム位置から所定の方向に回動した後この回動後の位置から車両前側に変位したことを前記判定部が確認した場合は、前記変速レンジをリバースレンジに切り替え、前記操作部材が前記ホーム位置から前記リバースレンジに切り替わる方向と反対の方向に回動した後この回動後の位置から車両後側に変位したことを前記判定部が確認した場合は、前記変速レンジをドライブレンジに切り替えることを特徴とする車両用シフト装置を提供する(請求項1)。
【0011】
本発明によれば、操作部材を回動および車両前後方向に変位させるという簡単な操作で、変速レンジをニュートラルレンジとドライブレンジとリバースレンジとのいずれかに切り替えることができるとともに、変速レンジが不意に切り替わるのをより確実に抑制することができ、車両の安全性を確保することができる。
【0012】
具体的には、本発明では、操作部材をホーム位置から回動させるとニュートラルレンジに切り替わるよう構成されているとともに、操作部材をホーム位置から回動させた後さらに車両前後方向に変位操作させると走行レンジに切り替わるよう構成されており、操作部材がホーム位置から回動しない限り、すなわち、操作部材に有効な回転トルクが付与されない限り、変速レンジの切り替えが実施されないようになっている。そのため、誤って手が触れる等により操作部材に予期せぬ力が加えられたとしても、その力の大きさおよびその力が付与された位置が、操作部材に対して有効な回転トルクを付与する大きさかつ位置である場合にしか、変速レンジの切り替え(ニュートラルレンジへの切り替え)が実施されない。従って、予期せぬ変速レンジの切り替わりをより確実に抑制することができる。しかも、例え、操作部材が誤って回動した場合であっても、変速レンジはニュートラルレンジにしか切り替わらず、この誤回動後さらに操作部材が前後方向に動かない限り走行レンジには切り替わらないので、車両の不測の前進、後進を抑制することができる。
【0013】
さらに、本発明では、車両前後方向について、リバースレンジへの切り替え方向とドライブレンジへの切り替え方向とが、異なる方向に設定されている。そのため、これらレンジが誤って切り替えられるのをより確実に回避することができる。
【0014】
特に、本発明では、リバースレンジへの切替方向が前方向に設定されている。そのため、切り替えに特に注意の要するリバースレンジへの誤切り替えをより確実に回避して、安全性をより一層高めることができる。
【0015】
具体的には、指先が前方を向く自然な姿勢で操作部材を把持した状態で操作部材を回動させると、指先は、回動前の状態に対して後側を向く状態となる。そのため、回動操作後において、操作部材を後側に変位させる方が操作の流れは円滑となり、反対の前側に変位させる操作は比較的操作性が悪くなる。また、前記自然な姿勢で操作部材を把持した状態から指先を回動させつつ操作部材を回動させる場合、この回動時の指先の移動方向は後向きとなる。そのため、やはり回動後において、そのまま指先を後向きに移動させて操作部材を後側に変位させる方が操作は容易になり、反対の前側への変位操作は比較的操作性が悪くなる。従って、前記のように、回動操作後、操作部材を前側に変位操作させることでリバースレンジに切り替わるよう、すなわち、比較的操作性の悪い方向に変位操作させることでリバースレンジに切り替わるよう構成されていることで、本発明では、ドライバーが、誤ってリバースレンジへ切り替えてしまうのをより確実に抑制することができる。
【0016】
本発明において、前記変速レンジをリバースレンジに切り替えるために前記操作部材を前記ホーム位置から回動させるのに必要な回転トルクが、この回動後に前記操作部材を車両前側に変位させるのに必要な操作力のトルク換算値よりも小さくなるように、前記本体部が、前記操作部材を支持しているのが好ましい(請求項2)。
【0017】
この構成によれば、リバースレンジへの誤切り替えをより確実に回避することができる。
【0018】
具体的には、この構成では、最終的にリバースレンジに切り替えるために実施する車両前側への操作部材の変位操作に必要な操作力のトルク換算値が、この操作の前段階である回動操作に必要な回転トルクより大きく設定されている。そのため、ドライバーは、回動操作後、前側すなわちリバースレンジ側に操作部材を変位させる際に、抵抗力(手応え)が増加したと感じることになる。従って、ドライバーに、現在の操作がリバースレンジへの切り替え操作であることをより確実に認識させることができ、リバースレンジへの誤切り替えを抑制することができる。
【0019】
ここで、前記トルク換算値は、例えば、前記操作部材の回動中心から外周縁までの距離の最小値と、当該操作部材を車両前側に変位させるのに必要な力との積で算出することができる(請求項3)。
【0020】
このようにすれば、ドライバーが、操作部材の外周縁のうち回動中心からの距離が最小となる部分であってスライド変位させる際の手応えが最も小さくなる部分を把持して、操作部材を車両前側に変位させた場合であっても、この前側(リバースレンジに切り替わる側)に変位操作させる際の手応えを、回動操作時の回動トルクよりも大きくすることができ、ドライバーに、より確実に前記抵抗力を感じさせることができる。
【0021】
また、本発明の別の様態として、前記変速レンジをリバースレンジに切り替えるために前記操作部材を前記ホーム位置から回動させるのに必要な回転トルクが、この回動後に当該操作部材を車両前側に変位させるのに必要な操作力のトルク換算値より大きくなるように、前記本体部が、前記操作部材を支持していてもよい(請求項4)。
【0022】
この構成によれば、前記構成と反対に、ドライバーは、回動操作後、前側すなわちリバースレンジ側に操作部材を変位させる際に、抵抗力(手応え)が少なくなったと感じることになる。そのため、この抵抗力の減少によって、ドライバーに、現在の操作がリバースレンジへの切り替え操作であることをより確実に認識させることができ、リバースレンジへの誤切り替えを抑制することができる。また、この構成によれば、このようにリバースレンジへの誤切り替えを抑制しつつ、例えば、操作部材が前上がりの傾斜面に設けられている等に伴い操作部材の前方への変位操作が比較的やりにくい場合であっても、操作性を確保することができる。
【0023】
前記構成において、前記トルク換算値は、例えば、前記操作部材の回動中心から外周縁までの距離の最大値と、当該操作部材を車両前側に変位させるのに必要な力との積で算出される(請求項5)。
【0024】
このようにすれば、ドライバーが、操作部材の外周縁のうち回動中心からの距離が最大となる部分であってスライド変位させる際の手応えが最も大きくなる部分を把持して、操作部材を車両前側に変位させた場合であっても、操作部材を前側(リバースレンジに切り替わる側)に変位操作させるのに必要な操作力を、回動操作時の回動トルクよりも小さくすることができ、ドライバーに、より確実に抵抗力の変化を感じさせることができる。
【0025】
また、本発明において、前記変速レンジを前記ドライブレンジに切り替えるために前記操作部材を前記ホーム位置から回動させるのに必要な回転トルクが、この回動後に前記操作部材を車両後側に変位させるのに必要な操作力のトルク換算値よりも小さくなるように、前記本体部が、前記操作部材を支持しているのが好ましい(請求項6)。
【0026】
この構成によれば、ドライブレンジへの切り替え操作の操作性を高く維持しつつ、ドライブレンジへの誤切り替えをより確実に回避することができる。
【0027】
具体的には、この構成では、最終的にドライブレンジに切り替えるために実施する車両後側への操作部材の変位操作に必要な操作力が、この操作の前段階である回動操作に必要な回転トルクすなわち操作力以上に設定されている。そのため、ドライバーは、回動操作後、後側すなわちドライブレンジ側に操作部材を変位させる際に、抵抗力(手応え)が増加したと感じることになる。従って、この構成によれば、ドライバーに、現在の操作がドライブレンジへの切り替え操作であることをより確実に認識させることができ、ドライブレンジへの誤切り替えを抑制することができる。
【0028】
ここで、前記トルク換算値は、例えば、前記操作部材の回動中心から外周縁までの距離の最小値と、当該操作部材を車両後側に変位させるのに必要な力との積で算出することができる(請求項7)。
【0029】
このようにすれば、ドライバーが、操作部材の外周縁のうち回動中心からの距離が最小となる部分であってスライド変位させる際の手応えが最も小さくなる部分を把持して、操作部材を車両後側に変位させた場合であっても、この後側(ドライブレンジに切り替わる側)に変位操作させる際の手応えを、回動操作時の回動トルクよりも大きくすることができ、ドライバーに、より確実に前記抵抗力を感じさせることができる。
【0030】
また、本発明の別の様態として、前記変速レンジをドライブレンジに切り替えるために前記操作部材を前記ホーム位置から回動させるのに必要な回転トルクが、この回動後に前記操作部材を車両後側に変位させるのに必要な操作力のトルク換算値より大きくなるように、前記本体部が、前記操作部材を支持していてもよい(請求項8)。
【0031】
この構成によれば、前記構成と反対に、ドライバーは、回動操作後、後側すなわちドライブレンジ側に操作部材を変位させる際に、抵抗力(手応え)が少なくなったと感じることになる。そのため、この抵抗力の減少によって、ドライバーに、現在の操作がドライブレンジへの切り替え操作であることをより確実に認識させることができ、ドライブレンジへの誤切り替えを抑制することができる。
【0032】
前記構成において、前記トルク換算値は、例えば、前記操作部材の回動中心から外周縁までの距離の最大値と、当該操作部材を車両前側に変位させるのに必要な力との積でで算出される(請求項9)。
【0033】
このようにすれば、ドライバーが、操作部材の外周縁のうち回動中心からの距離が最大となる部分であってスライド変位させる際の手応えが最も大きくなる部分を把持して、操作部材を車両後側に変位させた場合であっても、操作部材を後側(ドライブレンジに切り替わる側)に変位操作させるのに必要な操作力を、回動操作時の回動トルクよりも小さくすることができ、ドライバーに、より確実に抵抗力の変化を感じさせることができる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明したように、本発明の車両用シフト装置によれば、安全性を確保しながら比較的簡便に変速レンジを切り替えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
<実施形態>
(1)全体構成
図1は、本発明の実施形態にかかる車両の車室前部の構成を示す図である。この
図1に示すように、本実施形態にかかる車両は、運転席およびステアリングハンドル4が車両左側に設けられた、いわゆる左ハンドルの車両である。本図に示すように、車室前部には、車幅方向に延びるインストルメントパネル2が設けられている。インストルメントパネル2の運転席側にはメータユニット3が設けられ、このメータユニット3の後方にステアリングハンドル4が設けられている。インストルメントパネル2の車幅方向中央部から車両後方に向かう部分にはセンターコンソール5が設けられ、このセンターコンソール5上には、シフト装置(車両用シフト装置)1とパーキングスイッチ8とインジケータ9とが設けられている。
【0037】
本実施形態において、車両は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジン等の内燃機関からなるエンジン(図示省略)と、エンジンの駆動力を減速しつつ車輪に伝達する自動変速機90(
図15)とを備えている。自動変速機90は、遊星歯車機構を含み、当該歯車機構によって実現される複数の減速比の中から車速やエンジン負荷等に応じた適切な減速比を自動的に選択する有段式の変速機(AT)である。この自動変速機90の変速レンジには、駆動力伝達が切断されるニュートラルレンジと、駆動力伝達が切断された上に出力軸がロックされるパーキングレンジと、前進方向の走行レンジすなわち車両を前進させる方向に駆動力を伝達するレンジであるドライブレンジと、後退方向の走行レンジすなわち車両を後退させる方向に駆動力を伝達するレンジであるリバースレンジとが存在する。
【0038】
パーキングスイッチ8は、自動変速機90の変速レンジをパーキングレンジに切り替えるときに操作されるものである。
図1に示す例では、パーキングスイッチ8は、プッシュ式のボタンスイッチであり、このパーキングスイッチ8が押圧操作される毎に、パーキングレンジの選択/非選択が切り替えられる。パーキングスイッチ8の上面には、パーキングレンジを表す「P」の文字盤が設けられており、パーキングレンジが選択されるとLED等の光源により「P」の文字が強調表示される。
【0039】
シフト装置1は、自動変速機90の変速レンジをパーキングレンジ以外のレンジ(つまりドライブ、リバース、ニュートラルのいずれかのレンジ)に切り替えるときに操作されるものである。詳しくは後述するが、シフト装置1は、回動操作および回動後の位置から車両前後方向にスライド操作可能な装置である。このシフト装置1に対する操作パターンの違いにより、自動変速機90の変速レンジがドライブ、リバース、ニュートラルのいずれかのレンジに切り替わる。
【0040】
インジケータ9は、ドライブ、リバース、ニュートラルのうち現在選択されている変速レンジを表示するものである。
図2は、シフト装置1の周辺を拡大して示す平面図である。この
図2に例示されるインジケータ9の場合、リバースレンジを表す「R」、ニュートラルレンジを表す「N」、ドライブレンジを表す「D」の文字盤が設けられている。そして、シフト装置1の操作に応じてドライブ、リバース、ニュートラルのいずれかのレンジが選択されたときには、その選択中のレンジに対応した文字(R,N,Dのいずれか)が強調表示されるようになっている。なお、
図2における「home」の文字は、ダイヤル10のホーム位置がこの位置にあることを表したものである。
【0041】
さらに、前記のようなインジケータ9による変速レンジの表示に加えて、
図1に示す例では、メータユニット3にも変速レンジが表示されるようになっている。すなわち、メータユニット3は、その所定箇所(例えばスピードメータとタコメータとの間)に液晶画面等からなる表示部を有しており、その表示部に、選択中の変速レンジに対応した文字(P,R,N,D)が表示されるようになっている。
【0042】
シフト装置1の具体的構造について説明する。
【0043】
図3は、シフト装置1の概略斜視図である。
図4は、シフト装置1を操作する際の操作例を示した図である。
図5〜
図7は、シフト装置1の分解図である。
【0044】
これらの図および
図2に示すように、シフト装置1は、ダイヤル(操作部材)10と、ダイヤル10を回動可能に、かつ、回動後、その回動後の位置から車両前後方向にスライド変位可能に支持する本体部11とを有している。以下、車両前後方向を単に前後方向といい、この方向の前側・前方を単に前側・前方といい、この方向の後側・後方を単に後側・後方という。また、各図において、「前」は、車両前後方向の前側を意味し、「後」は車両前後方向の後側を意味している。
【0045】
ダイヤル10は、ドライバー(乗員)により把持される部分である。ダイヤル10は、
図2に示す状態となる位置をホーム位置として、このホーム位置から時計周り(右方向)および反時計周り(左方向)に回動可能に、かつ、これら回動後の位置から前後方向にスライド変位可能に支持されている。本実施形態では、ダイヤル10は、ホーム位置から時計回りに回動した場合は、その回動後の位置から後方にのみスライド変位可能に、ホーム位置から反時計周りに回動した場合は、その回動後の位置から前方にのみスライド変位可能に支持されている。また、ダイヤル10は、ダイヤル10の中心Oを中心として回動するよう支持されている。なお、ダイヤル10の回動中心位置は、この位置(ダイヤル10の中心)に限定されるものではない。ただし、ダイヤル10を把持して回動操作させる場合、手首側を固定して手先側を回動させる方が操作は容易であるため、ダイヤル10の回動中心はダイヤル10の前端よりも後方、より好ましくは前後中央および前後中央より後側がよい。
【0046】
本実施形態では、ダイヤル10は、
図2に示すように、ホーム位置にある状態で、前後方向に延びる線を中心として線対称となる形状を有している。また、ダイヤル10は、その中心線上に位置する後端部を頂点とする正三角形の各辺を外側に膨出するように湾曲させた形状を有している。すなわち、ダイヤル10は、前方に膨出するように湾曲する前端面10aと、この前端面10aの車幅方向両側端からそれぞれ後端に向かって外側に膨出するように湾曲する側面10b、10cとを有している。ドライバーは、例えば、
図4に示すように、その親指と小指とをそれぞれ両側面10b、10cに当て、他の指を前端面10aにあてた状態でダイヤル10を把持することができる。
【0047】
図5〜
図7に示すように、本体部11は、上面が開口した箱状の筐体50と、筐体50の上面にその開口を覆うように取り付けられるカバー部40とを有する。ダイヤル10は、このカバー部40の上方に配置されている。本体部11は、さらに、カバー部40を貫通してダイヤル10から下方に延びるとともに主として筐体50内に収容されるロッド30と、筐体50内に収容されるスライドブロック20とを有している。
【0048】
ロッド30は、カバー部40に形成された挿通孔40aに挿通されてダイヤル10から下方に延びる棒状の軸部31と、回動側ディテント用脚部35と、一対のガイド用脚部32、33とを有している。
【0049】
ロッド30の軸部31はダイヤル10の下面にこれと一体に回動およびスライド変位可能に固定されており、ロッド30は、ダイヤル10と一体に回動および前後方向にスライド変位する。本実施形態では、軸部31は、平面視でその中心軸とダイヤル10の中心(ダイヤル10の回動中心O)とが一致するようにダイヤル10に固定されており、ロッド30は、軸部31の中心軸を中心としてダイヤル10と一体に回動する。なお、ロッド30が回動および前後方向にスライド変位可能なように、カバー部40に形成された前記挿通穴40aの内径は、ロッド30の軸部31の外径よりも所定量大きい値に設定されている。以下、ロッド30およびダイヤル10の回動中心を単に回動中心Oという場合がある。
【0050】
回動側ディテント用脚部35は、軸部31の上下中間位置から水平方向に突出する棒状部材である。本実施形態では、回動側ディテント用脚部35は、ダイヤル10がホーム位置にある状態で、軸部31から真直ぐ前方に突出するように設けられている。この回動側ディテント用脚部35は、
図6等に示すように、軸部31の外周面から前方に延びる中空状の脚本体部35bと、脚本体部35bの先端からさらに前方に突出する付勢部35aとを有している。付勢部35aは、脚本体部35bの内部に設けられた圧縮スプリング(図示省略)により前方に押圧されている。このような付勢部35aは、圧縮スプリングを押し戻す後向きの力を受けて後退し、その力が減少すると前進するというように、脚本体部35bに対し前後方向に進退自在に支持されている。
【0051】
各ガイド用脚部32、33は、それぞれ棒状部材であって、軸部31の外周面のうち互いに対向する部分からそれぞれ水平方向に突出した後下方に延びている。本実施形態では、これらガイド用脚部32,33は、ダイヤル10がホーム位置にある状態で、一方のガイド用脚部32が、軸部31の外周面から真直ぐ前方に突出した後下方に延びるよう、他方のガイド用脚部33が、軸部31の外周面から真直ぐ後方に突出した後下方に延びるよう構成されている。
【0052】
スライドブロック20は、ブロック状の本体部21と、この本体部21の側面からそれぞれ外側に突出する一対のガイド用突片22,22と、一方のガイド用突片22からさらに外側に突出するスライド側被検出体23と、本体部21の下面から下方に突出するスライド側ディテント用脚部25と、本体部21の前側に設けられた回動側誘導部材24とを有する。
【0053】
スライドブロック20の本体部21には、上下に貫通してロッド30の軸部31が挿通される貫通孔21aが形成されている。この貫通孔21a内の内径はロッド30の軸部31の外径と同程度であって軸部31が貫通孔21a内で回動可能な大きさに設定されている。そのため、ロッド30がダイヤル10とともに回動した場合は、ロッド30の軸部31がこの貫通孔21a内で回動するだけとなりスライドブロック20は回動しない。一方、ロッド30がダイヤル10とともに前後方向にスライド変位した場合には、スライドブロック20は、ロッド30およびダイヤル10と一体にスライド変位する。換言すると、ロッド30およびダイヤル10は、スライドブロック20によって、ロッド30の軸部31の中心軸およびダイヤル10の中心を中心として回動可能に支持されている。
【0054】
本実施形態では、スライドブロック20の本体部21は、車幅方向に延びる略直方体状である。ガイド用突片22,22は、それぞれ、このスライドブロック20の本体部21の車幅方向両側面からそれぞれ車幅方向外側に突出している。
【0055】
スライド側ディテント用脚部25は、前記回動側ディテント用脚部35と同様の構造を有する。すなわち、スライド側ディテント用脚部25は、スライドブロック20の本体部21の下面から下方に延びる中空状の脚本体部25bと、この脚本体部25bの先端からさらに下方に突出する付勢部25aとを有している。付勢部25aは、脚本体部25bの内部に設けられた圧縮スプリング(図示省略)により下方に押圧されており、圧縮スプリングを押し戻す上向きの力を受けて脚本体部25bに対して上方に移動し、その力が減少すると下方に移動する。
【0056】
図12は、スライドブロック20周辺を拡大して示した平面図である。この
図12に示すように、回動側誘導部材24は、スライドブロック20の本体部21の前面からアーチ状に前方に突出しており、回動側誘導部材24と本体部21との間には所定の空間が区画されている。そして、回動側誘導部材24には、この本体部21の前面と対向して前方に凹むように湾曲する回動側誘導面24aが形成されている。回動側誘導部材24と本体部21との間の空間には、ロッド30の回動側ディテント用脚部35が配置されている。この配置状態において、回動側誘導面24aには、回動側ディテント用脚部35の付勢部35aの先端(前端)が、圧縮スプリングによる押圧力を受けて常時押し付けられている。この回動側誘導面24aと回動側ディテント用脚部35とは、ダイヤル10がホーム位置から回動した際に、ダイヤル10をホーム位置に自動的に戻す回動側のモメンタリ機構を構成する。モメンタリ機構の詳細および回動側誘導面24aの詳細については後述する。
【0057】
筐体50の車幅方向両側面には、それぞれ、スライドブロック20のガイド用突片22,22を前後方向にスライド変位可能に支持する一対のスライドブロック支持部51,51が形成されている。具体的には、各スライドブロック支持部51は、筐体50の側面からそれぞれ内側に突出して前後方向に延びる案内壁部51a,51bを有している。これら案内壁部51a、51bは上下に離間しており、これら案内壁部51a、51bの間には前後方向に延びる案内溝51cが区画されている。スライドブロック20のガイド用突片22、22はこの案内溝51c内に挿入されており、これによりガイド用突片22,22ひいてはスライドブロック20は、案内溝51cに沿って前後方向にスライド変位可能に支持されている。
【0058】
一方側の案内溝51cの底面すなわち筐体50の側面には貫通孔59が形成されている。この貫通孔59には、スライドブロック20のスライド側被検出体23が筐体50の外側面から外側に突出するように挿通されている。この貫通孔59は、スライド側被検出体23が前後方向にスライド変位可能なように前後方向に延びる長孔状を有している。
【0059】
筐体50の底面には、ロッド30のガイド用脚部32、33がそれぞれ挿通されるロッド案内溝52、53が形成されている。各ロッド案内溝52、53にガイド用脚部32、33がそれぞれ挿通された状態で、ロッド30は、軸部31の下端部が筐体50の底面に当接するように筐体50内に配設されている。
【0060】
図8は、筐体50の平面図である。この
図8に示すように、ロッド案内溝52,53は、それぞれ、平面視で回動中心Oを中心とする円の円周に沿って延びる円弧状の回動側溝52a、53aと、この回動側溝52a、53aと連通してこの回動側溝52a、53aの両端からそれぞれ前後方向に延びるRレンジ側溝52b、53bと、Dレンジ側溝52c、53cとからなる。
【0061】
具体的には、回動側溝52a、53aは、回動中心Oを通り前後方向に延びるライン上の位置から時計回り方向および反時計回り方向にそれぞれ同じ角度分(例えばそれぞれ15°づつ)延びている。
【0062】
そして、前側に形成されたロッド案内溝52は、回動側溝52aの反時計回り方向の端部(左側端部)から前方に延びるRレンジ側溝52bと、回動側溝52aの時計回り方向の端部(右側端部)から後方に延びるDレンジ側溝52cとを有する。一方、後側に形成されたロッド案内溝53は、回動側溝53aの反時計周り方向の端部(右側端部)から前方に延びるRレンジ側溝53bと、回動側溝51bの時計回り方向の端部(左側端部)から後方に延びるDレンジ側溝53cとを有する。
【0063】
ロッド案内溝52、53が前記のように構成されていることで、ダイヤル10がホーム位置にありガイド用脚部32,33が軸部31から真直ぐ前方および後方にそれぞれ突出している状態から、ダイヤル10およびロッド30が時計周りに回動した場合には、これらダイヤル10およびロッド30は、回動後の位置から前方にしか移動できないようになっている。一方、前記状態から反時計周りに回動した場合には、ダイヤル10およびロッド30は、回動後の位置から後方にしか移動できないようになっている。
【0064】
ダイヤル10、ロッド30およびスライドブロック20の回動およびスライド変位の様子を、
図9(a)〜(c)および
図10(a)〜(c)に示す。
【0065】
図9(a)〜(c)は、ダイヤル10の回動およびスライド変位の様子を示した図である。
図10(a)〜(c)は、
図9(a)〜(c)に対応したロッド30およびスライドブロック20の様子を示した図である。
図9(a)および
図10(a)は、ダイヤル10がホーム位置にあるときの状態を示している。前述のように、ダイヤル10がホーム位置にある状態では、ロッド30は、ガイド用脚部32、33が軸部31から真直ぐ前方および後方に突出している姿勢となる。
【0066】
この状態から、
図9(b)のようにダイヤル10が反時計回りに回動すると、
図10(b)に示すように、ガイド用脚部32、33は、ロッド案内溝52、53の回動側溝52a、53aに沿って反時計周りに移動する。ガイド用脚部32、33が回動側溝52a、53aの端部に当接すると、ロッド30およびダイヤル10はそれ以上回動することができなくなる。
【0067】
この状態から、
図9(c)のようにダイヤル10が前方にスライド操作されると、
図10(c)に示すように、ガイド用脚部32、33は、ロッド案内溝52、53のRレンジ側溝52b、53bに沿って前方に移動する。また、ロッド30とともに、スライドブロック20が前方に移動する。このとき、スライドブロック20のガイド用突片22、22は、筐体50に形成された案内溝51cに沿って摺動する。ガイド用脚部32、33がRレンジ側溝52b、53bの前端に当接すると、ロッド30およびダイヤル10はそれ以上変位することができなくなる。
【0068】
一方、図示していないが、ダイヤル10がホーム位置にある状態から時計周りに回動した場合は、ガイド用脚部32、33は、ロッド案内溝52、53の回動側溝52a、53aに沿って時計周りに移動する。そして、ガイド用脚部32、33が回動側溝52a、53aの端部に当接した状態でダイヤル10が後方にスライド操作されると、ガイド用脚部32、33は、ロッド案内溝52、53のDレンジ側溝52c、53cに沿って後方に移動し、ロッド30とともにスライドブロック20が後方に移動する。
【0069】
図5に戻り、筐体50には、スライドブロック20のスライド側ディテント用脚部25と対向する位置に、スライド側誘導部材55が設けられている。スライド側誘導部材55の上面には、下方に凹み側面視で略半球状のスライド側誘導面55aが形成されている。スライド側誘導面55aには、スライド側ディテント用脚部25の先端部、つまり付勢部25aの先端が、圧縮スプリングによる押圧力を受けて常時押し付けられている。このスライド側誘導面55aとスライド側ディテント用脚部25とは、ダイヤル10およびロッド30がホーム位置から前後方向に変位した際に、これをホーム位置に自動的に戻すためのスライド変位側のモメンタリ機構を構成する。モメンタリ機構の詳細およびスライド側誘導面55aの詳細については後述する。
【0070】
図3、
図5等に示すように、筐体50のうち貫通孔59が形成された側面には、ダイヤル10の前後方向の変位量を検出する変位量センサ61が設けられている。具体的には、変位量センサ61は、ダイヤル10の前後方向の変位量として、ダイヤル10と一体にスライド変位するスライドブロック20に設けられたスライド側被検出体23の前後方向の変位量を検出する。スライド側被検出体23は、この変位量センサ61のハウジング61a内に挿入されており、このハウジング61a内に設けられたセンサ部(不図示)によりスライド側被検出体23の位置が検出される。
【0071】
また、筐体50の下面には、ダイヤル10の回動量を検出する回動量センサ62が設けられている。具体的には、回動量センサ62は、ダイヤル10の回動量として、ダイヤル10と一体に回動するロッド30のガイド用脚部33の回動量を検出する。ガイド用脚部33の先端は、この回動量センサ62のハウジング62a内に挿入されており、このハウジング62a内に設けられたセンサ部(不図示)によりガイド用脚部33の回動量が検出される。
【0072】
(2)モメンタリ機構、回動側誘導面24aおよびスライド側誘導面55aの詳細構成
まず、回動側のモメンタリ機構および回動側誘導面24aについて説明する。
【0073】
図11(a)〜(c)は、
図9(a)〜(c)および
図10(a)〜(c)に対応した図であり、ダイヤル10の回動およびスライド変位時の回動側ディテント用脚部35の様子を示したものである。
図11(a),(b)に示すように、また、前述のように、ダイヤル10の回動時には、スライドブロック20は変位しない。そのため、ダイヤル10の回動に伴って、回動側ディテント用脚部35は、回動中心Oを中心として回動側誘導面24aに沿って回動する。
【0074】
回動側誘導面24aは、
図12に示すように、その前端P1が、回動中心Oを通り真直ぐ前方に延びるライン上に位置し、この前端P1から、この前端P1よりも車幅方向外側かつ後方の所定位置に向かって湾曲する形状を有している。
図11(a)に示すように、また、前述のように、回動側ディテント用脚部35は、ダイヤル10がホーム位置にある状態で、軸部31から真直ぐ前方に突出するように設けられており、この状態において、回動側ディテント用脚部35の付勢部35aは、回動側誘導面24aの前端P1と当接する。
【0075】
図12に示すように、回動側誘導面24aの回動中心Oからの距離は、前端P1から車幅方向外側に離間するほど短くなっている。そのため、付勢部35aは、回動側誘導面24aの前端P1に当接している状態において脚本体部35bから最も進出し、前端P1から離間するほど後退する。付勢部35aが後退すると、それに伴い圧縮スプリングは圧縮され、付勢部35aには圧縮スプリングの反発力が加えられる。このとき、この反発力を受けて、付勢部35aは、回動側誘導面24aに強く押し付けられ、この押し付け力は、付勢部35aを前端P1に戻そうとする力に変換される。そのため、付勢部35a(ロッド30およびダイヤル10)に対しドライバーの手による操作力(ロッド30およびダイヤル10を回動させる力)が加えられていない状態では、付勢部35aは回動側誘導面24aの前端P1に当接する位置に保持され、これにより、ダイヤル10はホーム位置に保持される。また、ホーム位置にあるダイヤル10が操作力を受けて回動しこれに伴い付勢部35aが前端P1から離間する位置に配置された後、この操作力が解除されると、圧縮スプリングの力によって付勢部35aは前端P1に当接する位置に戻され、これに伴いダイヤル10はホーム位置に自動的に復帰する。
【0076】
ここで、前記付勢部35aに加えられる圧縮スプリングの反発力は、ダイヤル10の回動に対する抵抗力として働く。すなわち、ドライバーは、この圧縮スプリングの反発力に抗する力をダイヤル10に加えない限りダイヤル10を回動させることができず、本実施形態では、この圧縮スプリングの反発力に抗する力および回転トルクが、ダイヤル10を回動させるために必要な力および回転トルクとなる。
【0077】
本実施形態では、回動側誘導面24aは、左右対称、すなわち、回動中心Oと前端P1とを通るラインを中心線として線対称な形状を有している。そのため、付勢部35aを前端P1から回動させるのに必要な力および回転トルク、すなわち、ダイヤル10をホーム位置から回動させるのに必要な力および回転トルクは、時計回り方向と反時計回り方向とで同一となる。
【0078】
次に、スライド側のモメンタリ機構およびスライド側誘導面55aについて説明する。
【0079】
図13(a)〜(c)は、
図9(a)〜(c)、
図10(a)〜(c)および
図11(a)〜(c)に対応した図であり、ダイヤル10の回動およびスライド変位時のスライド側ディテント用脚部25の様子を示したものである。
図14は、スライド側誘導面55aとスライド側ディテント用脚部25とを拡大して示した図である。
図13(b),(c)に示すように、ダイヤル10が回動後スライド変位するのに伴って、スライド側ディテント用脚部25は、スライド側誘導面55aに沿ってスライド変位する。
【0080】
図14に示すように、また、前述のように、スライド側誘導面55aは、下方に凹み側面視で略半球状を有している。また、
図14および
図13(a)、(b)に示すように、スライド側ディテント用脚部25は、ダイヤル10が前後方向にスライド変位していない状態で、スライド側誘導面55aの底部Q1と当接するように配置されている。従って、スライド側ディテント用脚部25の付勢部25aは、スライド側誘導面55aの底部Q1に当接している状態において脚本体部25bから最も進出し、底部Q1から離間するほど後退する。そのため、前記回動側ディテント用脚部35と同様に、スライド側ディテント用脚部25に内蔵されている圧縮スプリングの反発力によって、付勢部25a(ロッド30およびダイヤル10)に対しドライバーの手による操作力(ロッド30およびダイヤル10をスライド変位させる力)が加えられていない状態では、付勢部25aはスライド側誘導面55aの底部Q1に当接する位置に保持され、これにより、ダイヤル10はホーム位置に保持される。また、ホーム位置にあるダイヤル10が操作力を受けてスライド変位しこれに伴い付勢部25aが底部Q1から離間する位置に配置された後、この操作力が解除された場合には、前記圧縮スプリングの反発力によって付勢部25aは底部Q1に当接する位置に戻され、これに伴いダイヤル10はホーム位置に自動的に復帰する。そして、この付勢部25aに加えられる圧縮スプリングの反発力が、ダイヤル10のスライド変位に対する抵抗力として働き、この圧縮スプリングの反発力に抗する力が、ダイヤル10をスライド変位させるのに必要な力となる。
【0081】
本実施形態では、スライド側誘導面55aは、前後方向に線対称、すなわち、底部Q1を通り車幅方向に延びるラインを中心線として線対称な形状を有している。そのため、付勢部25aを底部Q1から変位させるのに必要な力、すなわち、ダイヤル10を回動後スライド変位させるのに必要な力は、前後方向で同一となる。
【0082】
次に、回動側のモメンタリ機構とスライド側のモメンタリ機構との関係について説明する。
【0083】
本実施形態では、シフト装置1は、ダイヤル10を回動させる際にドライバーが感じる手応えが、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させる際に感じる手応えよりも小さくなるように、すなわち、ダイヤル10を回動させた後ダイヤル10をスライド変位させようとした際に手応えが大きくなったとドライバーが感じるように、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクT_rが、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させるのに必要な操作力のトルク換算値T_sよりも小さくなるように構成されている。
【0084】
前記トルク換算値T_sは、ダイヤル10を回動させる際に生じる手応えを回動時に必要な回転トルクで表した場合において、ダイヤル10をスライド変位させる際の手応えをこれと同じ指標で表したパラメータである。具体的には、トルク換算値T_sは、トルク換算値T_s=(スライド変位させるのに必要な操作力F_s)×(ダイヤル10の回動中心Oからドライバーがダイヤル10を把持している部分までの距離d)で表すことができる。
【0085】
ドライバーがダイヤル10を把持している部分は、ドライバー毎あるいは操作時の状況等によって異なるが、本実施形態では、ドライバーがダイヤル10のどこを把持していても、回動時に必要な回転トルクT_rが前記トルク換算値T_sよりも小さくなるように、前記(ダイヤル10の回動中心Oからドライバーがダイヤル10を把持している部分までの距離d)を、トルク換算値T_sが最も小さくなる距離、すなわち、回動中心Oからダイヤル10の外周縁までの距離の最小値としている。
図2に例示したダイヤル10では、この
図2においてd1で表した長さが、この最小値となる。
【0086】
前述のように、本実施形態では、ダイヤル10を回動させるために必要な回転トルクT_rは、主に、回動側ディテント用脚部35の摺動抵抗に抗する回転トルク、より詳細には、回転側ディテント用脚部35と回動側誘導面24aとの間に生じる摺動抵抗であって回動側ディテント用脚部35に内蔵されている圧縮スプリングの反発力に比例する摩擦抵抗に抗する回転トルクである。ここで、この圧縮スプリングの反発力は、回動側誘導面24aの形状により決定される回動側ディテント用脚部35の付勢部35aの後退量と、圧縮スプリングのばね定数とによって決定される。
【0087】
また、ダイヤル10をスライド変位させるために必要な操作力F_sは、主に、スライド側ディテント用脚部25の摺動抵抗に抗する力、より詳細には、スライド側ディテント用脚部25とスライド側誘導面55aとの間に生じる摺動抵抗であってスライド側ディテント用脚部25に内蔵されている圧縮スプリングの反発力に比例する摩擦抵抗に抗する力である。ここで、この圧縮スプリングの反発力は、スライド側誘導面55aの形状により決定されるスライド側ディテント用脚部25の付勢部25aの後退量と、圧縮スプリングのばね定数とよって決定される。
【0088】
従って、本実施形態では、これら圧縮スプリングのばね定数と、回動側誘導面24aおよびスライド側誘導面55aの形状とが、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクT_rと前記トルク換算値T_sとが前記関係「T_r<T_s=(スライド変位させるのに必要な操作力F_s)×d1」を満足するように設定されている。
【0089】
また、本実施形態では、前記手応えの変化を確実にドライバーに認識させることができるよう、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクT_rの最大値が、前記トルク換算値T_sよりも小さくなるように構成されているとともに、前記手応えの変化をスライド変位操作開始後早い段階で認識できるよう、この回転トルクT_rと比較されるトルク換算値がスライド変位操作開始時における値に設定されている。
【0090】
例えば、
図12等に示した例では、回動側ディテント用脚部35に内蔵されている圧縮スプリングのばね定数と回動側誘導面24aの形状とは、ダイヤル10の回動量が大きくなるほどダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクが大きくなるよう、すなわち、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクT_rの最大値が、ダイヤル10の最大回動時における回転トルクとなるよう構成されている。すなわち、
図12に示すように、最大回動時における回動側ディテント用脚部35と回動側誘導面24aとの当接位置をP2として、回転トルクT_rの最大値が、点P2と回動中心Oとの距離r2と、点P2に位置する際に回動側ディテント用脚部35の付勢部35aに付与される圧縮スプリングの反発力F_P2に比例する摺動抵抗力F_P2(r)とをかけた値とされている(T_rの最大値=r2×F_P2(r))。
【0091】
また、
図14に示すように、前記トルク換算値T_sは、スライド側ディテント用脚部25がスライド側誘導面55aの底部Q1における値に設定されている。そして、前記トルク換算値T_sは、点Q1に位置する際にスライド側ディテント用脚部25の付勢部25aに付与される圧縮スプリングの反発力F_Q1に比例する摺動抵抗力F_Q1(x)と、ダイヤル10の回動中心Oからドライバーがダイヤル10を把持している部分までの距離の最小値d1とをかけた値(T_s=F_Q1(x)×d1)とされている。
【0092】
従って、この例では、各圧縮スプリングのばね定数と回動側誘導面24aおよびスライド側誘導面55aの形状とは、r2×F_P2(r)<F_Q1(x)×d1の関係を満足するように設定され、これにより、ダイヤル10を回動させる際にドライバーが感じる手応えが、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させる際に感じる手応えよりも小さくなるように構成されている。
【0093】
なお、この実施形態では、前述のように、回動側誘導面24aおよびスライド側誘導面55aは、左右対称および前後対象に設定されており、ドライバーが感じる手応えは、ダイヤル10の回動方向によらず、また、スライド方向によらず同じとなっている。
【0094】
(3)制御系統
図15は、本実施形態のシフト装置1に関する制御系統を示すブロック図である。本図に示されるコントローラ100は、周知のCPU、RAM、ROM等を含むマイクロコンピュータからなるもので、シフト装置1の操作状態に応じて自動変速機90の変速動作を制御する等の機能を有している。なお、
図15ではコントローラ100が一体のブロックとして表されているが、コントローラ100は、例えば車体側と自動変速機90側とにそれぞれ分割して設けられた複数のマイクロコンピュータから構成されるものであってもよい。
【0095】
コントローラ100は、前述したパーキングスイッチ8、変位量センサ61、回動量センサ62、自動変速機90(より詳しくはその変速アクチュエータ90a)、インジケータ9、およびメータユニット3と電気的に接続されている。なお、自動変速機90の変速アクチュエータ90aとは、例えば、自動変速機90に内蔵されるクラッチやブレーキ等の摩擦締結要素の締結・解放を切り替えるソレノイドバルブ等のことである。
【0096】
コントローラ100は、判定部100a、レンジ切替部100bを機能的に有している。
【0097】
判定部100aは、ダイヤル10の操作状態を判定するものである。具体的には、判定部100aは、回動量センサ62からの信号に応じてダイヤル10がホーム位置から回動操作されたか否かを判定する。また、判定部100aは、変位量センサ61からの信号に応じて、ダイヤル10が前方に変位したか否か、および、ダイヤル10が後方に変位したか否かを判定する。
【0098】
レンジ切替部100bは、判定部100aにより判定されたダイヤル10の操作状態に基づいて、自動変速機90の変速レンジの切り替えを実行する。
【0099】
ダイヤル10がホーム位置から所定量回動操作されたと判定部100aにより判定されると、レンジ切替部100bは、変速レンジをニュートラルレンジに切り替える。本実施形態では、ダイヤル10の回動方向によらず(時計周りか反時計周りかによらず)ダイヤル10が所定の回動量だけ回動されたことが判定部100aにより判定されると、レンジ切替部100bは、変速レンジをニュートラルレンジに切り替える。ここで、本実施形態では、前記所定の回動量は、ホーム位置から、ロッド30のガイド用脚部32、33がロッド案内溝52、53の回動側溝52a、53aの各端部に当接する位置まで、ダイヤル10が回動する量とほぼ同じ値に設定されている。
【0100】
また、レンジ切替部100bは、ダイヤル10が回動後の位置から前方に所定のスライド量以上変位したと判定部100aにより判定されると、変速レンジをリバースレンジに切り替える。一方、レンジ切替部100bは、ダイヤル10が回動後の位置から後方に所定のスライド量以上変位したと判定部100aにより判定されると、変速レンジをリバースレンジに切り替える。本実施形態では、前記所定のスライド量は、回動後、ロッド30のガイド用脚部32、33がロッド案内溝52、53のRレンジ側溝52b、53bの前端およびDレンジ側溝52c、53cの後端に当接する位置までダイヤル10がスライド変位する量とほぼ同じ値に設定されている。
【0101】
また、コントローラ100は、変速レンジの切り替えに伴い、インジケータ9およびメータユニット3の表示を変更する制御(現在の変速レンジを表示する制御)等を実行する。
【0102】
(4)作用等
以上説明したように、本実施形態にかかるシフト装置1では、ダイヤル10は、ホーム位置から時計回りおよび反時計回りに回動することで変速レンジがニュートラルレンジに切り替わり、この回動後の位置から前後方向にスライド変位することで変速レンジがリバースレンジとドライブレンジのいずれかに切り替わるようになっており、このシフト装置1では、ダイヤル10を回動させない限り、変速レンジが切り替わらないよう構成されている。
【0103】
そのため、誤って手が触れる等によりダイヤル10に予期せぬ力が加えられたとしても、その力の大きさおよびその力が付与された位置が、ダイヤル10に対して有効な回転トルクを付与する大きさかつ位置である場合にしか、変速レンジの切り替えが実施されない。従って、このシフト装置1では、予期せぬ変速レンジの切り替わりをより確実に抑制することができる。例えば、ドライバーにより操作される操作部材がスライド変位することで変速レンジの切り替えが実施される構成を採用した場合には、操作部材のどの部分であってもこの操作部材に対してスライドさせる方向に所定の力が加えられると、操作部材がスライドして変速レンジが切り替わってしまうのに対して、本実施形態に係るシフト装置1では、ダイヤル10に対して所定の力が加えられた場合であってもその力の作用位置がダイヤル10の回動中心Oに近い場合には、ダイヤル10の回動を回避することができる。
【0104】
また、このシフト装置1では、例え、ダイヤル10が誤って回動した場合であっても、変速レンジはニュートラルレンジにしか切り替わらず、この誤回動後さらにダイヤル10が前後方向に動かない限り走行レンジ(ドライブレンジ、リバースレンジ)には切り替わらないので、車両の不測の前進、後進を抑制することができる。
【0105】
また、このシフト装置1では、ダイヤル10を回動させた後、前側にスライド変位させると、リバースレンジに切り替わり、後側にスライド変位させるとドライブレンジに切り替わるようになっており、これらレンジの切替えに必要なスライド変位の方向が互いに逆方向に設定されている。そのため、これらレンジが誤って切り替えられるのを回避することができる。
【0106】
特に、このシフト装置1では、リバースレンジへのこのスライド変位方向が前方に設定されている。そのため、切り替えに特に注意の要するリバースレンジへの誤切り替えをより確実に回避して、安全性を高めることができる。
【0107】
具体的には、
図16(a)に示すように、ドライバーは、通常、指先が前方を向く自然な姿勢でダイヤル10を把持する。そして、この状態から、
図16(b)に示すようにダイヤル10を回動させると、この
図16(b)に矢印で示したように、指先は、回動前の状態に対して後側を向く状態となる。そのため、
図16(b)に示す回動操作後において、ダイヤル10を後側に変位させる方が、後側に変位させるよりも、操作の流れは円滑となり、回動操作後においてダイヤル10を前側へスライド変位させる操作は比較的やりにくくなる。また、前記姿勢で指先を回動させつつダイヤル10を回動させる場合、この回動時の指先の移動方向は後向きとなる。そのため、やはり回動後において、そのまま指先を後向きに移動させて操作部材を後側に変位させる方が操作の流れは円滑となり、前側への変位操作は比較的不自然な流れとなる。詳細には、
図17(a)に示すように、回動後にダイヤル10を後方にスライド操作する場合には、回動終わりにおける回動操作方向Y1とその後の後方へのスライド操作の操作方向Y2との角度θ_Dは90度より小さく抑えられる。これに対して、
図17(b)に示すように、回動後にダイヤル10を前方にスライド操作する場合では、回動終わりにおける回動操作方向Y3とその後の前方へのスライド操作の操作方向Y4との角度θ_Rは90度より大きくなる。従って、このシフト装置1では、前記のように、回動操作後ダイヤル10を前側に変位操作させることでリバースレンジに切り替わるよう構成されていることで、ドライバーが、誤ってリバースレンジへ切り替えてしまうのを抑制することができる。
【0108】
また、このシフト装置1では、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクT_rが、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させるのに必要な操作力のトルク換算値T_sよりも小さくされて、これにより、ダイヤル10を回動させる際にドライバーが感じる手応えが、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させる際に感じる手応えよりも小さくなり、ダイヤル10を回動させた後ダイヤル10をスライド変位させようとした際に手応えが大きくなったとドライバーが感じるように構成されている。
【0109】
そのため、走行レンジ(リバースレンジおよびドライブレンジ)への切り替えが行われようとしていることを、ドライバーにより確実に認識させることができ、走行レンジへの誤切替を抑制することができる。
【0110】
<変形例>
前記実施形態では、ダイヤル10をドライブレンジに切り替える側とリバースレンジに切り替える側とで、回動操作後にスライド変位する際の手応えの変化が同じ場合(回動操作後手応えが同じ量増加する)場合について説明したが、手応えの変化をドライブレンジ側とリバースレンジ側とで異ならせてもよい。
【0111】
例えば、回動後の手応えの増加量がリバースレンジ側の方が大きくなるようにしてもよい。具体的には、
図12等に示した例では、スライド側誘導面55aのうち底部Q1から前側部分の曲率を後側部分の曲率よりも大きくして、前側部分の方が圧縮スプリングの反発力すなわち抵抗力が大きくなるように構成すれば、リバースレンジ側の前記手応えの増加量を大きくすることができる。
【0112】
また、手応えを変化させる構成を、ドライブレンジ側とリバースレンジ側との一方のみに適用するようにしてもよい。
【0113】
また、前記実施形態では、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクを、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させるのに必要な操作力のトルク換算値T_sよりも小さくして、ダイヤル10を回動させた後ダイヤル10をスライド変位させようとした際に手応えが大きくなったとドライバーに感じさせることで、走行レンジ(リバースレンジ、ドライブレンジ)への切り替えが行われようとしていることを、ドライバーに認識させる場合について説明したが、回動操作時に比べてスライド変位操作時の手応えを小さくすることで、前記切り替えが行われようとしていることをドライバーに認識させるようにしてもよい。すなわち、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクを、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させるのに必要な操作力のトルク換算値T_sよりも大きくして、手応えを減少させるようにしてもよく、これによっても、前記切り替えが行われようとしていることをドライバーに認識させることができ、誤切替を抑制することができる。なお、この場合には、ダイヤル10のスライド変位操作が比較的容易になるため、
図18に示すように、センターコンソール5の少なくとも一部が傾斜しており、この傾斜部分にシフト装置1を取付けた場合において、比較的操作がやりにくい前方へのスライド変位の操作を容易とし操作性を確保することができる。すなわち、このように取り付けた場合には、シフト装置1が前上がりとなるため、ダイヤル10を前方へスライド変位させるためには、ダイヤル10を前上がりにスライドさせねばならず、比較的操作が困難となるが、前記のようにすれば、この前方へのスライド変位に必要な操作力が小さく抑えられるため、操作性を確保することができる。
【0114】
また、前記実施形態では、ダイヤル10の回動方向について、ドライブレンジへの切り替え方向を時計回りとし、リバースレンジへの切り替え方向を反時計回りとした場合について説明したが、これらの方向は、反対に設定されていてもよい。
【0115】
また、本シフト装置1が適用される車両は左ハンドル車に限らず、右ハンドル車であってもよい。
【0116】
また、前記ダイヤル10の具体的構成は前記に限らない。
【0117】
また、前記実施形態では、ダイヤル10の回動角度として15度を例示したが、この角度の具体的値はこれに限らない。ただし、回動操作の容易性から90度以下に設定するのが好ましい。
【0118】
また、前記実施形態では、スライド側ディテント用脚部25、回動側ディテント用脚部35に内蔵されている圧縮スプリングのばね定数と回動側誘導面24aおよびスライド側誘導面55aの形状によって、ダイヤル10を回動させるのに必要な回転トルクと、回動後にダイヤル10を前後にスライド変位させるのに必要な操作力のトルク換算値とを異ならせるよう構成した場合について説明したが、これらを異ならせるための具体的構成はこれに限らない。ただし、このように圧縮スプリングのばね定数等の設計によって前記回転トルクとトルク換算値とを異ならせる構成にすれば、モメンタリ機構を利用してこの構成を実現することができ、構成を簡素化することができる。
【0119】
また、前記各実施形態のシフト装置は、エンジン(内燃機関)と車輪との間に介設された有段式の自動変速機90の変速レンジを切り替え操作するものであったが、本発明が適用可能な変速機は、有段式の自動変速機に限られず、例えば無段式の変速機(CVT)であってもよい。さらには、電気自動車に用いられる変速機のように、前進/後退を電気的に切り替えるものにも本発明を適用することができる。