(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
左右一対の前輪(3L,3R)及び左右一対の後輪(4L,4R)を有し、操舵部材(7)による四輪操舵構成を備えた走行車体(2)上に、圃場に散布する薬液を貯留する薬液タンク(9)を設けた自走型防除機において、
前記前輪(3L,3R)に駆動力を伝達するための車軸(50)を収納した前輪車軸ケース(51)と、前記後輪(4L,4R)に駆動力を伝達するための車軸(92)を収納した後輪車軸ケース(88)とを設け、
前記四輪操舵構成は、
前記前輪車軸ケース(51)の前方に設けられ、操舵部材(7)の操作に応じて走行車体(2)の前進方向に向かって左右方向に作動するピストンロッド(71)を有する操舵シリンダー(70)と、
該操舵シリンダー(70)のピストンロッド(71)の左右端部に回動可能に連結し、ピストンロッド(71)の作動により左右の前輪(3L,3R)を回動操舵する左右一対の前輪操舵アーム(64L,64R、65L,65R)と、
左右の後輪(4L,4R)を回動操舵する左右一対の後輪操舵アーム(81L,81R)と、
一端が左右一対の前輪操舵アーム(64L,64R、65L,65R)に連結し、他端が左右一対の後輪操舵アーム(81L,81R)に連結して、前輪操舵アーム(64L,64R、65L,65R)の回動に連動して左右一対の後輪操舵アーム(81L,81R)を作動させる左右一対のタイロッド(82L,82R)と
を備え、
前記左右一対のタイロッド(82L,82R)と左右一対の後輪操舵アーム(81L,81R)との連結部(84L,84R)は、薬液タンク(9)の底部と後輪車軸ケース(88)との間に設けられ、且つタイロッド(82L,82R)は薬液タンク(9)の底部の下側に亘って設けられていることを特徴とする自走型防除機。
前記左右一対の後輪(4L,4R)の上端の平面視位置よりも左右内側に前記薬液タンク(9)及び前記四輪操舵構成部材(81L,81Rなど)が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の自走型防除機。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいてこの発明の実施態様について説明する。
図1には、薬剤や肥料を圃場に散布する防除散布装置を前部に取り付けた自走型防除機の側面図を示し、
図2〜
図3には、それぞれ、
図1の自走型防除機の正面図、平面図を示している。また、
図4には、薬液を散布している状態の正面図を示す。尚、本明細書では自走型防除機の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右という。また、左右一対の構成部材がある場合、符号Lは左側、符号Rは右側を表している。更に、本明細書では「薬剤」とは栄養剤、農薬など作物に散布が必要な固体物が含まれることもある液状物をいう。
【0017】
図1、
図2に示す通り、自走型防除機1の走行車体2には、車体フレーム2aに左右一対の前輪3L,3Rと左右一対の後輪4L,4Rが設けられていて、走行車体2の前側部には防除散布装置11が取り付けられている。
【0018】
尚、
図2に示す通り、本実施の形態の自走型防除機1では、圃場面から車体フレーム2aまでの最低地上高さHが比較的高く、輪間距離(トレッド)Wが比較的広く構成されている。従来のトラクタなどは、車輪の軸芯の位置が車体フレームに近い位置にあるが、本実施の形態の自走型防除機の車輪の軸芯は、車体フレームの下方にある。
【0019】
そして、走行車体2の左右一対の前輪3L,3R間の上方には、ボンネット5で覆われたエンジンEが搭載されている。左右一対の前輪3L,3Rと左右一対の後輪4L,4Rの間の上方には操縦席6を設け、操縦席6の前方にハンドル(操舵部材)7が設けられている。
【0020】
ハンドル7を左右に操舵すると、後述のように、左右一対の前輪3L,3R及び左右一対の後輪4L,4Rが同時に連動して逆位相に操舵され、小回り走行のできる四輪操舵構成としている。また、操縦席6の回りを取り囲むように薬液タンク9を着脱自在に設け、操縦席6の下方に、薬液タンク9から防除散布装置11に送液するための防除ポンプ10(
図6)が設けられている。
【0021】
また、
図3に示す通り、防除散布装置11は機体前方に位置するセンター散布ブーム11Cと、センター散布ブーム11Cの左右両側に設けられた左右のサイド散布ブーム11L,11Rとで構成されている。
【0022】
そして、防除散布装置11を昇降シリンダー15(
図1参照)により昇降し、開閉レバー17L,17R(
図3参照)を前後操作することで左右のサイド散布ブーム11L,11Rを夫々単独で左右に突出した散布作業状態(
図4参照)と、走行車体2の両側方に沿わせた状態に収容する(
図1〜
図3参照)ように構成している。
【0023】
そして、薬液タンク9の薬液は防除ポンプ10により防除散布装置11に送られ、センター散布ブーム11C及び左右のサイド散布ブーム11L,11Rに複数設けられた散布ノズル14から、薬液が散布される(
図1、4参照)。
【0024】
次に、エンジンEの動力を受けて変速動力を各部に伝達する変速伝動機構について、
図5〜
図7に基づき説明する。エンジンEのクランク軸(図示せず)と同軸に支持された出力軸20と、ミッションケース21側の変速入力軸22との間に主クラッチ23を介在する。この主クラッチ23は、多板クラッチ形態の公知の構成とされ、操縦席6下部のステップ部に配設したクラッチペダル23aの踏み込みによって常時接続状態の動力を切に連動する構成としている。
【0025】
前記主クラッチ23を経由した動力は、変速入力軸22を経てミッションケース21内の伝動機構を連動するが、このミッションケース21は、前後のケース部21f,21rを接合する構成であり、ミッションケース21前後の軸受壁部に各種変速軸等を支持する構成としている。
【0026】
前記変速入力軸22は後方に延長してミッションケース21内に支持構成され変速伝動軸を構成し、複数の変速ギヤを設けている。後方の第2ケース部21rの後壁部に変速入力軸22と同軸芯のPTO軸24を軸支し、前端のボス状部分24aに軸受を設けて上記変速入力軸22の後端を支持する構成である。
【0027】
また、前記変速入力軸22と平行に第1カウンタ軸25を設ける。そして、この第1カウンタ軸25と前記入力変速軸22との間に設ける変速ギヤ群の選択により、第1の変速装置としての3段の副変速装置26を構成し、及び、第2の変速装置として前進側高低2速とバック1速を選択できる主変速装置27を構成する。そして、変速入力軸22からの動力は第1の変速装置26(以下、副変速装置26と言う)で変速された変速段を経由した後、第2の変速装置27(以下、主変速装置27と言う)による前進高低2段又はバック速1段のいずれかの変速段を経て前輪3及び後輪4を駆動する構成である。
【0028】
即ち、ミッションケース21の第2ケース部21rに主として収容配置される副変速装置26は、変速入力軸22に固定してギヤ径の異なる3枚の副変速ギヤ28a,28b,28cを設けるとともに、第1カウンタ軸25側にはこれら副変速ギヤ28a〜28cを選択する副変速摺動ギヤ29を設け、この摺動ギヤ29の2段ギヤのうち大径ギヤ29bが前記副変速ギヤ28bに噛合い、小径ギヤ29cが副変速ギヤ28cに噛合う構成とし、摺動ギヤ29のボス部29dに一体成形する最小径ギヤ29aは、第1カウンタ軸25に回転自由に支持され前記副変速ギヤ28aと常時噛合うカウンタギヤ30の内歯ギヤ部30aに噛合う構成である。このように構成されているから、副変速摺動ギヤ29を摺動させて、最小径ギヤ29aをカウンタギヤ30の内歯ギヤ部30aに噛合わせることにより副変速第1速(低速)を得、2段ギヤのうち大径ギヤ29bを副変速ギヤ28bに噛合わせることで副変速第2速(中速)を得、2段ギヤの小径ギヤ29cを副変速ギヤ28cに噛合わせることで副変速第3速(高速)を得る。
【0029】
前記副変速摺動ギヤ29の前記ボス部29dと2段ギヤとは別々に成形され爪クラッチ部29eを常時噛合い状態に組み付けて第1カウンタ軸25に形成したスプラインに摺動自在に嵌合させている。
【0030】
ミッションケース21の前方の第1ケース部21fに収容される部分には主変速装置27を設ける。第1カウンタ軸25の副変速装置26により変速された駆動力は、主変速の高低2速及び後進速を選択されて第2カウンタ軸35に伝達される。
【0031】
すなわち、第1カウンタ軸25の前端部にバック速用中間ギヤ36を遊嵌し、前記副変速装置26側のカウンタギヤ30の前側には低速用中間ギヤ37を遊嵌する。第2カウンタ軸35のスプライン部に嵌合して摺動自在な主変速摺動ギヤ38には、高速用中間ギヤ38aを中心にバック速用内歯ギヤ38b、低速用中間内歯ギヤ38cを前後に形成している。また、前記変速用入力軸22に、正転用カウンタギヤ39をこの変速用入力軸22の回転とは無関係に回転できるように軸支する。この正転用カウンタギヤ39には大小の径の異なる低速用カウンタギヤ39aと高速用のカウンタギヤ39bを形成する。
【0032】
前記正転用カウンタギヤ39のボス部に一体的に成形された正転用カウンタギヤ39cは、第2カウンタ軸35の正転用伝動ギヤ40に常時噛合い、前記バック速用中間ギヤ36は同じく第2カウンタ軸35のバック速用伝動ギヤ41に常時噛合う構成である。
【0033】
前記主変速摺動ギヤ38の低速用中間内歯ギヤ38cを低速用中間ギヤ37に嵌合させると第1カウンタ軸25の副変速装置26により変速された回転動力はこの低速用中間ギヤ37、低速用カウンタギヤ39a、正転用カウンタギヤ39cを経由して正転用伝動ギヤ40を駆動し第2カウンタ軸35に低速の正転動力を伝達する。主変速摺動ギヤ38の高速用中間ギヤ38aを高速用カウンタギヤ39bに噛み合わせると、第1カウンタ軸25の動力は高速用中間ギヤ38a、高速用カウンタギヤ39b、正転用カウンタギヤ39cを経由して正転用伝動ギヤ40を駆動し第2カウンタ軸35に高速の正転動力を伝達する。
【0034】
また、主変速摺動ギヤ38のバック速用内歯ギヤ38bをバック速用中間ギヤ36に嵌合させると第1カウンタ軸25の主変速された回転動力はこのバック速用中間ギヤ36、バック速用伝動ギヤ41を駆動し第2カウンタ軸35に後進速の動力を伝達する。
【0035】
前記第2カウンタ軸35の主変速及び副変速の駆動力は、減速用中間伝動ギヤ群42,43を経て走行伝動軸44に伝達される。走行伝動軸44はミッションケース21の前後に突出し、後部側のスプライン軸部44aは長伝動軸44r(
図17)を介して後輪デフ機構を連動し後車軸を経て後輪4L,4Rを駆動し、前部側のスプライン軸部44bは短伝動軸44f(
図17)を介して後述する前輪デフ機構53(
図8)を駆動し前輪3,3を駆動する。
【0036】
尚、前記主変速装置27の主変速レバー46、副変速装置26の副変速レバー47は操縦席6の左側に併設され、前後方向の案内ガイドに沿って変速操作できる。また該操縦席6の右側には前記PTO軸24に配設したPTOクラッチ機構48を入と切に切り替えるPTOレバー49を備えている。
【0037】
すなわち、PTOクラッチ機構48は、前記PTO軸24の前端の前記ボス状部分24aの前端内周に形成した内歯クラッチ24bと、前記変速入力軸22の後部に形成するスプライン部に支持されるクラッチ体48aを備え、該クラッチ体48aはシフター48bの前後動に伴ってクラッチ体48aを内歯クラッチ24bに係脱させる構成としている。
【0038】
シフター48bは上記PTOレバー49に連動する構成である。シフター48bを固着したシフターステー48cは、変速入力軸22と平行に往復摺動可能にミッションケース21に支持され、このシフターステー48cのミッションケース21から後方に突出する後端側に連動リンク48d(
図6)を介してPTOレバー49の基端部と連携している。
【0039】
PTOレバー49は、その基端側49aが走行車体2の車体フレーム2aを構成する左右一対の走行フレーム2aL,2aRの片方側(図例では右走行フレーム2aR側)に回動自在に取り付けられ、折曲する把持部側49bがこの取付け基部側49aを軸芯として前後に揺動操作可能に設けられ、前方への揺動操作で前記噛合いクラッチ機構48を入りに、後方への揺動操作で前記噛合いクラッチ機構48を切りとする構成である。
【0040】
また、前記走行伝動軸44の後部側であって、ミッションケース21の後部壁に着脱自在に締結固定するメタル部21mに、ブレーキ手段45を設けている。該ブレーキ手段45は、多板のブレーキシューをメタル部21m壁面に押し当てて走行伝動軸44を制動する構成である。これによって、前後左右の四輪を一挙に制動作動する。
【0041】
前記のように、PTO軸24を主クラッチ23と同軸に設けることにより、PTO軸24をミッションケース21の後方に配置し、ミッションケース21の後部壁から後方に突出する軸後端のプーリ31は、側部に接近する防除ポンプ10のプーリ12にベルト掛け伝動によって該ポンプ10を駆動する構成である。防除ポンプ10は、前記一対の走行フレーム2aL,2aRの間に渡る大きさを呈して胴体部10aが左側走行フレーム2aLに立設するブラケット32,32によって固定される。
【0042】
PTOクラッチ機構48を、主クラッチ23を経由してエンジン動力を受ける変速入力軸22とPTO軸24の間に設けることにより、防除ポンプ10は、前記主クラッチ23が入りであっても、PTOレバー49の操作でPTOクラッチ機構48の入り切りに連動でき、オペレータが任意でポンプの駆動状態と非駆動状態とを選択、設定できる。
【0043】
PTOクラッチ機構48は、変速入力軸22と同軸に設けるPTO軸24の前端のボス状部分24aの前端内周に形成した内歯クラッチ24bと、変速入力軸22の後部に形成するスプライン部に支持されるクラッチ体48aを、シフター48bの前後動に伴って係脱させる構成とするが、元々このボス状部分24aには変速入力軸22の後端部を軸支するものであるから、ミッションケース21に特別な支持構成を必要とせず構成を簡単化してコストを低減できる。
【0044】
また、変速入力軸22及びこの変速入力軸22と平行に第1カウンタ軸25を設け、この第1カウンタ軸25と前記入力変速軸22との間に設ける変速ギヤ群の選択により、副変速装置26、及び主変速装置27を構成し、変速入力軸22の動力を副変速装置26で変速された変速段を経由した後、主変速装置27による前進高低速又は後進速の変速段を経て前輪3及び後輪4を駆動する構成であるから、その変速出力は変速出力軸22やPTO軸24の回転に影響しない。
【0045】
図5、7に示すように、前記主クラッチ23を覆うクラッチハウジング34を設けている。このクラッチハウジング34は正面視でU状に形成され、基部34a,34aが前記ミッションケース21の前壁に着脱自在に装着され前側に形成された壁部に軸受部34bを形成している。上面及び下面は主クラッチ23本体が現れるが上面には図外の薄板部材で覆う構成としている。尚、上記軸受部34bには前記エンジンEのクランク軸に連動する出力軸20を支持する構成である。このように構成すると、出力軸20の支持構成がミッションケース21と一体的になり、主クラッチ23の組み付けの際にその精度の向上が図れる。
【0046】
前記ミッションケース21の走行車体2への装着は、
図7等におけるように、前後に亘る左右一対の走行フレーム2aL,2aRにベース部材2B,2Bを一体化して設け、このベース部材2B,2Bにミッションケース21を側方から締結する構成である。
【0047】
前記防除ポンプ10の大小仕様の変更に伴いポンプ搭載スペースが広狭に変化するが、このミッションケース21の装着位置を走行フレーム2aL,2aRに対して前後方向に変更可能に構成すると、上記搭載スペースを確保できる。
【0048】
次に、
図8〜
図12を用いて、前輪伝動機構及び操舵機構について説明する。
図8には、フロントアクスルハウジング(前輪車軸ケース)51の一部断面の概略平面図を示し、
図9には、
図8のA−A断面の概略図を示している。
【0049】
走行車体2の前側下方には、左右一対の前輪3,3へ駆動力を伝達するための前車軸50(
図12)等を収納したフロントアクスルハウジング51が配置されている。
上記フロントアクスルハウジング51の中央後部には、前記走行伝動軸44に短伝動軸44f(
図17)を介して連動する前輪入力軸52を軸支する円筒状ボス部51A(
図9)が形成されており、該前輪入力軸52のベベルギヤ52aはアクスルハウジング51中央部に配設した前輪デフ機構53を連動する。前輪デフ機構53から左右に延出する前車軸50はアクスルハウジング51の左右端部に連結する前輪操向軸ケース54(
図12)の操向軸55にベベルギヤ56,57をもって連結されている。尚、ここでベベルギヤ56は前車軸50の端部に設けられ、ベベルギヤ57はこのベベルギヤ56の従動ベベルギヤであって操向軸55の上部に軸支されている。
【0050】
前記フロントアクスルハウジング51について、詳細に説明する。
図10には、
図8のフロントアクスルハウジング51部の分解平面図を示し、フロントアクスルハウジング51は左右に分割される形態としている。このうち左側分割半部51Lには前記前後の円筒状ボス部51A,51Bを一体的に成形しており、そして内部には円筒状ボス部51Aに直接支持される前輪入力軸52、この前輪入力軸52のピニオンに噛合う大径ベベルギヤ100を軸受支持し、前輪デフ機構53を収容すると共に、前車軸50のうち、左側の前車軸50Lの略全体及び右側の前車軸50Rの一部を収容可能に形成されている。一方、右側分割半部51Rには、右側の前車軸50Rの中間部以降とデフロック機構101を収容可能に形成している。
【0051】
左側分割半部51Lの前記大径ベベルギヤ100の軸受部102において、右側分割半部51Rとフランジ接合してボルト103により着脱自在とし、接合時の進行方向軸線Xはフロントアクスルハウジング51全体の左右中心線となっている。このためフロントアクスルハウジング51は左右バランス良くこの軸線X回りに揺動できる。更に、アクスルハウジング51の分割面は、大径ベベルギヤ100の軸受部102としているから、分割面の強度が確保できる。
【0052】
上記フロントアクスルハウジング51の左側分割半部51Lには中間部上面にフレームとの接合固定用台座51aLを一体に成形し、右側分割半部51Rに同様の接合固定用台座51aR(
図8、
図10)を成形している。
【0053】
これらの固定用台座51aL,51aRは、前後の軸線X回りの揺動動作による揺動ストッパとしての機能を併せ持つ。即ち、固定用台座51aL又は51aRが走行フレーム2aL又は2aRに当たるまで上方に揺動し得る構成であり(
図11(B))、これら固定用台座51aL,51aRはストッパとしての機能を果たすので、特別のストッパ構成を要しない。
【0054】
また、左右の分割半部51L,51Rの夫々端部側に、前輪操向軸ケース54の後述する筒状上部54aを着脱自在に接合するフランジ51Lb,51Rb(
図12)を一体的に成形している。
【0055】
また、前記フロントアクスルハウジング51の右側分割半部51Rに、前記デフロック機構101の操作連動部105(
図10)を備える。ボス部105aに嵌合して回転する回転体105bに偏芯配置される作動ピン105cを設け、回転体105cの回転作動に伴って該作動ピン105cが左右動し、この左右動をデフロック機構101の摺動爪部に伝達して、デフロック状態又は非デフロック状態に切替できる。左側分割半部51Lの開放部側でデフロック機構101を構成するため、組み付け易い。尚、回転体105bは外部操作により作動アーム105dを介して回動操作されデフロックできる。この作動アーム105は、常時はデフロック解除の方向にバネで付勢されている。
【0056】
前記のように、フロントアクスルハウジング51を左右の分割半部51L,51Rに形成することにより、特に左側分割半部51Lに形成する前後筒状ボス部51A,51Bの構成は軸線X上に配置されるために高精度の同軸度加工を要求されるが、前後共に分割左半部51Lに一体的に成形する上、分割されて取り扱いも容易となるため、機械加工上で上記精度を確保し易い。
【0057】
分割左半部51Lには、入力軸52、大径ベベルギヤ100、デフ機構53、左右車軸50L,50Rを配置しているため、右側分割半部51Rを連結、接合する以前の状態において、入出力軸の回転作動の確認を行なうことができる。
【0058】
そして、
図12に示す通り、前輪操向軸ケース54は、アクスルハウジング51の終端側への外嵌合部とこのアクスルハウジング51のフランジを介して連結されて上方に突出する筒状上部54aと、下部に至るほど漸次小径となるよう形成された円錐状部54bと、軸受58(
図12)を備えファイナルケース59を操向軸55回りに回動自在に支持する筒状下部54cからなり、前車軸50の端部から操向軸55へのベベルギヤ56,57を備えている。またファイナルケース59は、右前輪3を支持する前輪軸66が軸支され、操向軸55の下端のベベルギヤ60及びこれと噛み合う従動ベベルギヤ61を備えている。尚、ファイナルケース59は前輪操向軸ケース54の下部を外側嵌合する嵌合部59aとこの嵌合部59aの外側面に連結して上記従動ベベルギヤ61を囲う側面部59bからなる。
【0059】
前輪操向軸ケース54の操向軸55は鉛直線に対して下端側が車体の左右外方に向かうように傾斜状態に設けられ、ファイナルケース59、内装するベベルギヤ等の伝動機構及び前輪3はこの傾斜する操向軸55回りに回動自在に設けられている。
【0060】
前記前輪操向軸ケース54の筒状上部54aの頂部にボス部54dを形成し、このボス部54dに対してスリーブを介して回動自在に嵌合する回動部材62と前記ファイナルケース59とを前輪操向軸ケース54に沿って吊持状に連結部材63で着脱自在に連結している。この連結部材63の上下方向途中部に環状部63aを形成し、前記前輪操向軸ケース54の円錐状部54bに外嵌合させている。すなわち、円錐状部54bの外側にスリーブを介して鍔状の環状部63aを回動自在に嵌合する構成である。この環状部63aの上面に後述する操舵シリンダー機構70に連動してファイナルケース59を回動操舵するナックルアーム64を取り付けている。
【0061】
上記連結部材63の環状部63aの上下位置は、操向軸55の上部に取り付ける従動ベベルギヤ57の軸支のために厚さを大きくした箇所の直下であって、前輪操向軸ケース54のうち比較的強度の高い部分に嵌合させている。このため、ナックルアーム64を経て伝達される操舵シリンダー機構70からの操舵力を集中して受けるが、連結部材63が環状部63aを形成して前輪操向軸ケース54に外嵌合するため、ナックルアーム64に伝わる操舵荷重は前輪操向軸ケース54で分担して受けることで、連結部材63の変形やひずみを防止する。
【0062】
更に環状部63aの位置を、前輪操向軸ケース54の操向軸55やベベルギヤ57を支持する軸受部のために肉厚に形成した部分(
図12のZ1<Z2)の近傍に配置することにより、上記操舵荷重を受けるための補強構造を呈するため、操舵荷重を直接受けない円錐状部54bを可及的に薄く成形できる。すなわち、Z1<Z2のZ2部分は強度的に強く、このZ2部分に環状部63aを配置することで、支持強度が強くなる。
【0063】
また、環状部63aの前側面63af(
図13)は、走行車体2の進行方向Fを基準として、左前輪3L側に向けて所定角度βだけ傾斜した傾斜面形状を有している。また、その環状部63aの上面に固定されたナックルアーム64は、進行方向Fを基準として、環状部63aの前側面63afと同様に、左前輪3L側に向けて所定角度γだけ傾斜して固定されている(
図13(A))。
【0064】
畝や作物を跨ぐ作業形態のため、圃場面から車体フレーム2aまでの最低地上高さHを出来るだけ高くする必要がある自走型防除機にあっては、作物に傷をつけないよう、出来るだけ障害とならないような構造にする必要があるが、上記の傾斜構成により、作物が走行車体2の下部をスムーズに流れるので、作物に傷がつきにくい。
【0065】
一方、従来、ナックルアームは、ファイナルケースからオフセットさせて取り付けるが、操向軸ケースの上部に設けた回動自在な回動部材か、連結部材に取り付けるかのどちらかであるため、最低地上高さHが高いと、ファイナルケースを回動させるための各部の構造体に曲げ応力が強くかかり破損し易いという問題がある。
【0066】
これに対して、本実施形態の上記構成によれば、前輪操向軸ケース54の上部側は、ナックルアーム64を配置する高さであり、この高さの近くに環状部63aを設けることは、ファイナルケース59を回動させる為の連結部材63に対して不要な曲げ応力をかけない様にすることが出来る。また、前輪操向軸ケース54を筒状上部54aから下方に向けてその径が小さくなる略円錐状としたことにより、環状部63aや下部筒部54cを少ない部品数で安価に構成できる。また、連結部材63と環状部63aとが一体構成としたことによりこの構造体を少ない部品数で安価に構成できる。
【0067】
次いで、左右前輪3及び後輪4を連動して操舵する操舵シリンダー機構70の構成について説明する。
走行車体2の前下方において、フロントアクスルハウジング51の前方には、左右一対の前輪3L,3Rを操舵する操舵シリンダー機構70を配設する。
【0068】
この操舵シリンダー機構70は、複動形両側ロッドのシリンダー部70a(
図9)を備えており、この操舵シリンダー機構70のピストンロッド71をそれぞれタイロッド72L,72Rを介して前記ナックルアーム64L,64Rに連結している。ナックルアーム64と後述する連動アーム65は前輪3を操舵する操舵アームとして機能する。
【0069】
ハンドル7の回動基部に図示しない油圧分配器(ハンドル回動量に応じて流れる油の量と流れる方向が変化(
図16(B)の左室70L側又は右室70R側))を設け、この油をシリンダー部70aに送油する。
【0070】
操舵シリンダー機構70の一方(右室70R)に圧油を供給するとピストン69が作動してピストンロッド71が左側に伸び出しタイロッド72Lを介してナックルアーム64Lを左向きに回動し左側前輪3Lは左に旋回される(
図8中実線矢印G及びI)。このときピストンロッド71の移動に連れて右側のタイロッド72Rは引かれてナックルアーム64Rを引いて右側前輪3Rも左に旋回される(同点線矢印J及びK)。尚、タイロッド72L,72Rはそれぞれボールジョイント73L,73Rによりピストンロッド71の左右端部に連結される。ナックルアーム64L、64Rは、左右一対のボールジョイント74L、74Rにより、左右一対のタイロッド72L、72Rと回動自在に連結されている。
【0071】
上記ナックルアーム64の環状部63aへの取付構成を
図13(B)に示す。ナックルアーム64の基部に縦方向の取付部64aを一体成形、又は溶接等の手段によって付加し、ナックルアーム64の基部に縦方向のボルト67、横方向のボルト68で固定している。このように構成することによって、ボルトの緩みもなく強固にナックルアーム64を連結部材63に取り付けることができる。
【0072】
図9において、操舵シリンダー機構70のシリンダー部70aはチャネル状に折曲げられた板金部材で、その凹部にシリンダー部70aの円筒状本体の外周面の約半分を収納して固定したシリンダーハウジング75が設けられている。
【0073】
また、上記シリンダーハウジング75のほぼ中央には、後方、即ちフロントアクスルハウジング51側に向かって伸びた円筒状嵌合部76が、図例では溶接構造によって一体的に設けられている。円筒状嵌合部76の内部は筒状内部空間に形成される。一方前記フロントアクスルハウジング51の中央には、前輪入力軸52を支持する後側の円筒状ボス部51Aに対して前側の対称位置に、上記シリンダーハウジング75に設けられた円筒状嵌合部76を嵌合する前側円筒状ボス部51Bが一体成形されている。そして、上記円筒状嵌合部76が、前側円筒状ボス部51Bに挿入された後、その連結部分は、抜け防止及び回転防止用の締結部材である固定ピン77が貫通されて固定されている。
【0074】
上記のように、フロントアクスルハウジング51の中央部には、その前側に円筒状ボス部51Bを後方に円筒状ボス部51Aを設けて軸線Xを中心として回動可能に支持する前後一対の支持メタル(ピボットメタル)78A,78Bが夫々ボルトナットにより強固に取り付けられている。尚、これら支持メタル78A,78Bのそれぞれフロントアクスルハウジング51から離れた側の端面を小径部とし、この小径部によって形成された規制端面78a,78bを前記円筒状ボス部51A及び円筒状ボス部51Bの後端面及び前端面に対向させることによって、該フロントアクスルハウジング51の前後方向のずれを規制できる。
【0075】
上記支持メタル78A,78Bの形状は、フロントアクスルハウジング51の前後側それぞれに成形される円筒状ボス部51A,51Bの外形形状を同一に構成することにより、これら支持メタル78A,78Bを前後共通に構成でき、部品点数の削減を行なうことができる。
【0076】
また、操舵シリンダー機構70のピストンロッド71の移動量を制御するため、ピストン69を挟んで左右に配置された空間である左室70L又は右室70R(
図16(B))に対して作動油を給排する油圧ホース79L,79Rが、前側の支持メタル78Bの左右側を経由して操舵シリンダー機構70のシリンダー部70aに接続されている。
【0077】
本実施形態の自走型防除機では、以下に詳述するが、ハンドル7の操作に連動して操舵シリンダー機構70のピストンロッド71が作動することで前輪3と後輪4が逆位相に操舵され、小回り走行のできる四輪操舵構成としている。前輪側と後輪側にそれぞれ操舵用シリンダーを設ける場合は、構造が複雑になると共に、車両全体の重量も大きくなり、製造コストも掛かってしまう。しかし、本構成により、一つのシリンダー部70aにより四輪操舵が可能で簡単な操舵構成を備えていることから、車両全体の重量や製造コストを抑えることができる。
【0078】
尚、操舵シリンダー機構70の装着状態を示す
図14のように、油圧シリンダー機構70はフロントアクスルハウジング51の前側において、その下端縁がフロントアクスルハウジング51の高さ以下にならないよう構成している。即ち、正面視においてフロントアクスルハウジング51の上下中央位置に前側円筒状ボス部51Bを形成し、フロントアクスルハウジング51の上下長さに対して短く構成される操舵シリンダー機構70の下縁が常時フロントアクスルハウジング51の下縁よりも上位になるよう構成されている。したがって、操舵シリンダー機構70が地上高さの向上を阻害することがない。また、この配置状態は、フロントアクスルハウジング51が軸線X回りに揺動しても両者の関係は変わらないため、この揺動の有無や大小に関わりなく、前輪切れ角を一定とし、操舵性能を向上させることができる。
【0079】
尚、
図14に示すように、操向軸55の中心軸線Bと前輪3の接地点を含む回転面Vとのなす角度θによって、正面視でV字構成としている。そして、操向軸55の中心軸線Bの延長線が略接地部近傍で交差する関係(位置Cで示す)に設けている。このようにすると、地面からの操舵抵抗を小さくし、大型で大容量の操舵シリンダーを必要としない。尚、最低地上高さHの確保と共に、アクスルハウジング51の外周面や前輪操向軸ケース54の外周面には比較的大きな凸部がなく作物に対して損傷を与えない構成としている。
【0080】
また、左右一対の前輪3L,3Rを中心に説明した上記構成は、基本的には左右一対の後輪4L,4Rについても、同様に適用される。
これにより、支持メタル78A,78Bを中心としてアクスルハウジング51全体が左右に揺動する時に、操舵シリンダー機構70も、同じ軸線Xを中心として容易に揺動可能であり、車重を受ける支持メタル78A,78Bをアクスルハウジング51から離すことなく構成でき、また、操舵シリンダー機構70を受け付けるための長くて丈夫な保持具を別途設ける必要が無い。
【0081】
よって、本実施の形態によれば、アクスルハウジング51と操舵シリンダー機構70とを簡単な構成で連結でき、且つ強度的にも強く連結できる。
次に、
図12,
図15及び
図16を用いて、左右一対のナックルアーム64L,64Rと左右一対のタイロッド72L,72Rとの連結構造について更に説明する。
【0082】
図15は、左前輪3L側に連結されるタイロッド72Lとボールジョイント74Lとの固定状態を説明するための概略背面図である。
図12(A)に示す通り、操向軸55の中心軸線Bは、鉛直線Dに対して内側へ角度αだけ傾斜しており、これに対して、操舵シリンダー機構70やタイロッド72L,72Rは、ほぼ水平に配置されている為、本実施の形態では、タイロッド72L,72Rとナックルアーム64L,64Rとの連結に用いられるボールジョイント74L,74Rを、
図15に示す通り、角度αだけ傾斜させてタイロッド72L,72Rの先端部に固定する構成とした。この傾斜角度αは、
図12に示した操向軸55の中心軸線Bが鉛直線Dとなす角度と同じである。この構成により、操舵シリンダー機構70の動きが、タイロッド72L,72R、ボールジョイント74L,74R、ナックルアーム64L,64R等を介してスムーズに左右前輪3L,3Rに伝達される。
【0083】
ところで、従来の構成では、タイロッドに真っ直ぐに固定されて水平に配置されたボールジョイントに対して、もともと傾斜した回動軸(
図12の操向軸55に相当)に対して垂直に配置されているナックルアームを連結するためには、ナックルアーム自体の形状の一部をボールジョイントとの連結面に合わせて斜め形状とする必要があった。そのため、従来は、左右のナックルアームはそれぞれ形状が異なっていた。
【0084】
しかし、上記した構成によれば、ボールジョイント74L,74R自体を、
図12に示す通り、角度αだけ傾斜させているため、ナックルアーム64L,64Rは、左右が同じ形状にできるので、部品作成時の型点数、及び部品の種類を削減することができる。
【0085】
尚、
図12、
図15を用いて説明した上記構成では、左前輪3L側を中心に説明したが、右前輪3R側についても同様の構成であるので、その説明は省略する。
また、左右一対の前輪3L,3Rを中心に説明した上記構成は、基本的には左右一対の後輪4L,4Rについても、同様に適用される。
図19に示すように、後車軸92を内装するリヤアクスルハウジング(後輪車軸ケース)88の左右に後輪操向軸ケース86を取り付け、その内部に操向軸87を傾斜姿勢で軸支する。後輪操向軸ケース86の下部にはファイナルケース93を操向軸87回りに回動自在に支持している。後輪操向軸ケース86の頂部には操向軸87軸芯回りに回動可能な回動部材80を設け、この回動部材80と上記ファイナルケース93を連結部材89で連結する。連結部材89には前輪3の連結部材63のように、途中に後輪操向軸ケース86を嵌合する環状部89aを、前輪3側の連結部材63や環状部63aと同様の構成として設けている。
【0086】
後車軸92からの駆動力はベベルギヤ機構による伝動と相俟って操向軸87、ファイナルケース93内の後輪軸94を経て後輪4に至る。具体的には、後車軸92と操向軸87の間のベベルギヤ95,96、操向軸87と後輪軸94の間のベベルギヤ97,98を介して後輪4に伝動される。
【0087】
次いで、
図17、
図18に基づき、前輪3と後輪4の操舵による連動構成について説明する。
蓋状の前記回動部材62を延長して前後輪を操舵連動する、後述する前後タイロッド82L,82Rの連動アーム65を形成している。このとき、前輪3L,3Rにおいては、連動アーム65L,65Rはともに
図17に示すように走行車体2の内向き(左右内側)に延長して形成する。一方、後輪4L,4Rの蓋状の回動部材80L,80Rの夫々に延長する連動アーム(後輪操舵アーム)81L,81Rはともに
図19に示すように走行車体2の外向き(左右外側)に延長して形成している。
【0088】
そして、上記左前輪3Lの連動アーム65Lと左後輪4Lの連動アーム81Lを前後タイロッド82Lで連結し、右前輪3Rの連動アーム65Rと右後輪4Rの連動アーム81Rを前後タイロッド82Rで連結する。このように構成したことから、左右前輪3L,3Rが左向き(矢印L)に操向されると、前後タイロッド82L,82Rを介して左右後輪4L,4Rは右向き(矢印M)に操向され、四輪操舵の状態となった左小回り旋回できる(
図17中の実線矢印で示す)。逆に左右前輪3L,3Rが右向き(矢印N)に操向されると、これに連れて左右後輪4L,4Rは左向き(矢印O)に操向され右小回り旋回できる(同図中点線矢印で示す)。
【0089】
前後タイロッド82L,82Rは、フロントアクスルハウジング51から後方外方に向けて延出し、薬液タンク9の前側下方を通過し、リヤアクスルハウジング88に至る構成である。このうち左側の前後タイロッド82Lは走行車体2の左側の昇降ステップ85の支持部を経由して前後に延出させている。
【0090】
上記の連動アーム65,81に対する前後タイロッド82L,82Rの各連結は、ボールジョイントによって行なわれる。即ち、前輪3L,3Rの連動アーム65L,65Rには、該アーム65L,65Rの先端部上側にボールジョイント83L,83Rのアーム等の連結部側を突出させ、後輪4L,4R側の連動アーム81L,81Rは該アーム81L,81Rの先端部下側にボールジョイント84L,84Rのアーム等連結部側を突出させる。
【0091】
このため、前後タイロッド82L,82Rの各前端側は連動アーム65L,65Rの上面側で連結されるのに対し、各後端側は連動アーム81L,81Rの下面側に連結される。
図12に示すように、前輪操向軸ケース54の操向軸55の中心軸線Bは鉛直線Dに対して下端側が車体外方に向かうよう角度αだけ傾斜する状態に設けられ、同様に後輪4における後輪操向軸ケース86も内装の操向軸87の中心軸線が傾斜状に構成するものである(
図19)。
【0092】
従って、前輪3L,3R側の連動アーム65L,65Rは走行車体2の内向きに延長していることから低位に、後輪4L,4L側の連動アーム81L,81Rは走行車体2の外向きに延長していることから高位になり、上記のようなボールジョイントの配置によって前後タイロッド82L,82Rは略水平姿勢となって(
図18)、最低地上高の高位置の確保に有利であるとともに、薬液タンク9や昇降ステップ85など走行車体2を構成する構成部材との干渉を回避する構成を容易化できる。これにより、当該干渉によるトラブルを未然に防ぐことができる。
【0093】
ところで、前輪3側の前記回動部材62と連動アーム65は一体成形されるものであるが、後輪4側の回動部材80と連動アーム81の一体成形品と同一形状として生産コストの低減を図ることができる。即ち、前輪3側の連結部材63を連結するためのボルト挿通孔63bは回動部材62の連動アーム65の回動軸芯に対して対称位置に必要であること(
図12(A))、一方後輪側連結部材89のボルト挿通孔89bは連動アーム81の基部に必要であるが(
図19)、前輪3側及び後輪4側ともに回動部材と連動アームの一体成形品は同一形状に製作し、夫々の装着位置に応じてボルト挿通孔63b又は89bを穿設加工するものである。尚、予めボルト挿通孔63b及び89bを共に加工しておくこともできる。この場合は部品個数の管理の工数を低減できる。
【0094】
そして、フロントアクスルハウジング51が走行車体2に対して進行方向軸線X回りに揺動するが、一方のリヤアクスルハウジング88は走行車体2の車体フレーム2aと一体的に装着される。ところがボールジョイント83L,83R、84L,84Rによる接続によって、左右の誤差を吸収できる。
【0095】
リヤアクスルハウジング88の左右に連結する後輪操向軸ケース86L,86Rの構成は前記フロントアクスルハウジング51に連結する前輪操向軸ケース54L,54Rと同様の構成であるため、部品の共通化が可能となってコスト低減や組み立て工数低減に効果がある。
【0096】
前輪3側の前記連動アーム65及び後輪4側の前記連動アーム81は、ハンドル7が直進の状態にあるとき、平面視においてそれぞれフロントアクスルハウジング51及びリヤアクスルハウジング88の投影面内に略位置するよう形成している。車体の点検整備等に際し、車体をクレーンで吊り上げるが、その時フロントアクスルハウジング51又はリヤアクスルハウジング88にバンドやロープ類の吊上げ帯90を巻きかける。この場合上記のように構成したことから、ハンドル7が直進にセットして吊上げ帯90(
図8)を巻きかけると、この吊上げ帯90で連動アーム65及び81を直進状態に保持する形態となって、クレーン吊上げと共に車輪3,4がフリーとなって自重で操向軸回りに回動しようとしてもこれを阻止して、前輪3及び後輪4は略直進状態を維持でき、不測の前・後輪3,4回転による偏荷重状態を来たさず安全に点検作業を行うことができる。
【0097】
図20には、
図1の自走型防除機の薬液タンク9と操舵機構との位置関係を示した平面図を示す。また、
図21及び
図22には、
図1の自走型防除機の別の例を示す。
図21及び
図22には、薬液タンク9と操舵機構との位置関係を示した平面図及び背面図を示している。また、
図23には、
図21の自走型防除機の薬液タンク9を省略した場合の平面図を示す。
【0098】
図20には、
図17の平面図に薬液タンク9を配置した場合の図を示している。尚、各部品の形状の違いは多少あるものの、基本構成は同じである。
上記説明した自走型防除機は、トレッド1500mmのもので標準型の防除機である。
【0099】
一方、
図21及び
図22に示す自走型防除機はトレッド1200mmのもので小型の防除機である。小型の防除機も標準型の防除機も全体形状はほぼ同じであるが、トレッドの狭い小型の防除機では、左右方向の幅を抑える必要があるため、
図17等に示すフロントアクスルハウジング51やリヤアクスルハウジング88の長さ(左右方向幅)が狭く形成されている。また、短伝動軸44fと長伝動軸44rの位置及び第1ケース部21fと第2ケース部21rの位置が前後で逆転しているが、その他の点では上記説明した自走型防除機とほぼ同じ構成であるので、詳しい説明は省略する。また、対応する部材には同じ符号を付している。
【0100】
そして、本実施形態及び別実施形態の自走型防除機では、後輪4L,4R側の連動アーム81L,81Rと前後タイロッド82L,82Rとを連結するボールジョイント84L,84Rの位置が薬液タンク9底部とリヤアクスルハウジング88の間にあり、且つ前後タイロッド82L,82Rは薬液タンク9底部の下側を通過するように配置されている。
【0101】
本構成によれば、前輪3L,3Rの連動アーム65L,65Rと後輪4L,4R側の連動アーム81L,81Rを連結する前後タイロッド82L,82Rが薬液タンク9底部の下方に位置することで、薬液タンク9と干渉することがない。
【0102】
そして、具体的には、走行車体2の左右の走行フレーム2aL,2aRに、リヤアクスルハウジング88に固着したリフトブラケット106L,106Rを各々接合してボルト締結している。すなわち、リヤアクスルハウジング88の左側分割半部88Lと右側分割半部88Rから鉛直方向に延びるリフトブラケット106L,106Rを左右各々設け、左右の走行フレーム2aL,2aRにリフトブラケット106L,106Rの左右内側が各々固着する構成とする。そして、左右のリフトブラケット106L,106Rの上面により薬液タンク9の底部を支持している。
【0103】
従来の防除機の構造では(例えば、特許文献1の
図1)、車体フレームの上面に直接薬液タンクを載せていたが、リフトブラケット106L,106Rを設けることで、左右の走行フレーム2aL,2aRと薬液タンク9間の空間を確保できる。そして、このように薬液タンク9をリフトブラケット106L,106Rにより持ち上げることで、前後タイロッド82L,82Rを配置する空間を形成できる。また、リフトブラケット106L,106Rは左右の走行フレーム2aL,2aRとリヤアクスルハウジング88に固着しているため、これらが一体となって薬液タンク9を支持することで、安定した支持構成となる。
【0104】
そして、リヤアクスルハウジング88の左側分割半部88Lと右側分割半部88Rの左右方向の長さを変えることで、トレッド幅を変えれば、小型の防除機と標準型の防除機にリヤアクスルハウジング88が兼用できる。図示例では、左側分割半部88Lを右側分割半部88Rよりも短くしているが、その逆でもよい。このことは、フロントアクスルハウジング51の左側分割半部51Lと右側分割半部51Rでも同様である。
【0105】
標準型の防除機の場合は、左側分割半部88Lと右側分割半部88Rを共に左右同じ長さのものを使用し、小型の防除機の場合は、生産現場で左側分割半部88L(又は右側分割半部88R)を左右幅の短いものに変えるだけで組み立てることができる。従って、部品点数が同じで長さの異なる部品を組み立てるだけで済むので、誤って組み立てたり、作業が煩雑になったりすることを防止でき、製造の品質が安定する。
【0106】
また、
図12及び
図19に示すように、前後タイロッド82L,82Rと前後の連動アーム65,81とのボールジョイント83L,83Rによる連結部について、前側の連結部は前輪3の前輪操向軸ケース54の操向軸55よりも機体左右内側に設け、後ろ側のボールジョイント84L,84Rによる連結部は後輪操向軸ケース86の操向軸87よりも機体左右外側に設けている。
【0107】
従って、
図17、
図20及び
図21に示すように前後タイロッド82L,82Rは平面視で後方に拡がるハの字状となり、圃場の枕地における旋回作業において作物を引っ掛けない構造になっている。すなわち、前後タイロッド82L,82Rの一方側の端が内側によるため、作物に当接する確率が低くなることで、作物の損傷を防止できる。
【0108】
また、前後タイロッド82L,82Rと後輪4L,4R側の連動アーム81L,81Rとのボールジョイント84L,84Rによる連結部を、連動アーム81L,81Rの左右外側端部の高い位置に設け(
図19及び
図22)、できるだけ薬液タンク9の底部に近い位置にすれば、圃場面から高い位置に配置できる。
【0109】
上述のように、前後タイロッド82L,82Rを平面視で後方に拡がるハの字状とした場合に、前後タイロッド82L,82Rの後方位置をできるだけ高くすることで、草丈の高い品種にも対応でき、機体の後ろ側だけでも当接しにくくなる。
【0110】
そして、小型の防除機においても、前輪3の連動アーム65を前輪操向軸ケース54の最上部に取り付け、後輪4の連動アーム81を後輪操向軸ケース86の最上部に取り付けている。すなわち、左右前後の各操向軸ケース54,86の最上部に各連動アーム65,81を取り付けることで、生産現場での量産ラインにおいて作業者が立って作業する時に操舵関係の部品の組み立てがし易いというメリットがある。
【0111】
また、連動アーム65,81の取り付け部分が低い位置にあると、走行時の泥はねによって汚れやすくなるが、高い位置に設けることで泥はね等を防止できる。
また、平面視で後輪4のタイヤ幅Y(
図22)上に薬液タンク9や後輪4L,4Rの連動アーム81L,81Rなどが位置しないように、後輪4L,4Rの上端よりも機体左右内側に薬液タンク9、連動アーム81L,81R及び前後タイロッド82L,82R等を配置している。
【0112】
水田などの水気の多い場所での作業では走行時の泥はねにより連動アーム81の取り付け部分が汚れたり、泥による摩耗が発生したりすることで、連動アーム81やその周辺の回動部材80(
図19)などの後輪4側の操舵機構の構造物の寿命を縮める原因になる。しかし、これらの構造物をタイヤ幅Yよりも内側に配置することで、泥はねによる汚れや摩耗の発生を防止できるため、構造物の寿命の短縮を抑制できる。
【0113】
また、
図14の正面図に示した前輪3L,3Rと同様に、後輪4L,4Rも背面視で操向軸87の中心軸線と後輪4の下端と上端を結ぶ線とのなす角度によってV字構成としている。そして、左右の前輪3L,3R間及び左右の後輪4L,4R間の距離が上方に行くほど拡がるように、正面視及び背面視で逆ハの字状に前輪3L,3R及び後輪4L,4Rを取り付けている。
【0114】
自走型防除機1の走行時の泥はねにより、泥が前輪3L,3Rや後輪4L,4Rの左右外側に掛かっても、これらの車輪3,4が上方ほど左右外側に向かって傾斜していることで、泥は傾斜面に当たって落下するため、泥が前輪3L,3Rや後輪4L,4Rの左右内側に入り込むことを防止できる。
【0115】
これらの車輪3,4の左右内側には操舵機構の構造物が配置されていることから、本構成により、標準型や小型などの防除機の型式に関わらず、水気の多い水田などでの防除作業における泥の持ち上げによる上記構造物等の汚れや摩耗等のダメージを軽減できる。