(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052238
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】時系列二次元分布データの補正方法及び判定方法
(51)【国際特許分類】
G01J 5/48 20060101AFI20161219BHJP
G01J 5/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
G01J5/48 E
G01J5/00 101A
G01J5/48 A
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-113054(P2014-113054)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-227798(P2015-227798A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2015年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126701
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真吾
(72)【発明者】
【氏名】中村 善幸
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−215685(JP,A)
【文献】
特開平1−185422(JP,A)
【文献】
特開2003−248812(JP,A)
【文献】
特開平09−015056(JP,A)
【文献】
特開平08−062048(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0220888(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00− 5/62
G01K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間を隔てて測定された2つ以上の二次元分布データのそれぞれを、同一測定対象物が存在する範囲を同じエリアとして3つ以上のエリアに区分し、
各エリア別に二次元分布データの代表値を決めるステップ1と、
ステップ1で決めた直前の測定時の各エリアの代表値とステップ1で決めた今回測定時の各エリアの代表値とから、直前の測定時から今回測定時までの各エリアの代表値の変化量を計算するステップ2と、
ステップ1で決めた今回測定時の各エリアの代表値に基づいて今回測定時の全エリアにおける代表値の平均値及び標準偏差を計算するステップ3と、
ステップ3で得られた平均値に対して、ステップ3で得られた標準偏差に予め設定された係数を乗じた値以上離れている今回測定時のエリアの代表値を除外するステップ4と、
ステップ4で除外されなかった今回測定時の各エリアの代表値に基づいて除外されなかったエリアにおける代表値の平均値を計算するステップ5と、
ステップ2で得られた各エリアの変化量からステップ5で得られた平均値を減じて各エリアの変化量を補正するステップ6との、
ステップ1〜6からなる補正方法を用いて、時間を隔てて測定された2つ以上の二次元分布データを補正することを特徴とする時系列二次元分布データの補正方法。
【請求項2】
請求項1に記載される時系列二次元分布データの補正方法のステップ6で得られた各エリアの変化量の補正データを予め設定された閾値と比較し、閾値を超えた補正データを特異データと判定することを特徴とする時系列二次元分布データの判定方法。
【請求項3】
前記二次元分布データが、複数の異なる方向から撮影した赤外線熱画像データであって、被撮物の同じ部位に対応する撮像範囲を同じエリアとして設定することを特徴とする、請求項2に記載の時系列二次元分布データの判定方法。
【請求項4】
前記二次元分布データが、耐火物を内部に配した収容容器鉄皮の表面を複数の異なる方向から撮影した赤外線熱画像データであって、前記各エリアの代表値を各エリア内の最高温度とし、収容容器の同じ部位に対応する撮像範囲を同じエリアとして設定し、各エリアの温度変化量の補正データに基づいて耐火物損傷状態を把握することを特徴とする、請求項2に記載の時系列二次元分布データの判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線熱画像データなどの時系列二次元分布データの補正方法及び判定方法に関し、詳しくは、時系列二次元分布データの経時変化を正確に把握するために時系列二次元分布データを補正する方法、及び、この補正方法を利用して時系列二次元分布データのなかから異常発生などを警告する特異データを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線を用いて非接触で物体の表面温度を測定し、測定される表面温度から内部の状態を把握する方法が行われている。また、表面温度の瞬時値だけではなく、表面温度の経時変化を求め、その変化度合いから内部の状態を推定する方法も行われている。しかしながら、赤外線は水蒸気や障害物によってその強度が変化するので、広範囲のデータを処理する場合、水蒸気や障害物などに起因する正確でないデータ(以下、「不適値」と記す)の排除が必要になる。不適値を排除しないまま判定した場合には、正確な判定はできない。そこで、不適値を除去する或いは不適値が測定データに取り込まれないようにする方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高温ガス配管の複数のエリアを測定し、それらの正常時における相関特性を求めて推定値を算出し、この推定値との差異に基づいて高温ガス配管の内部配管及び断熱材の損傷の有無を判定する方法が開示されている。また、特許文献2には、観測衛星による時系列の観測データから、時系列の観測データに基づいて設定された閾値によって雲やノイズなどの影響を取り除く方法が開示されている。
【0004】
溶銑などを収容する容器に関しては、特許文献3には、収容容器からの溶銑の払い出し直後と溶銑の払い出しから一定時間後の収容容器鉄皮の表面温度を測定し、つまり、攪乱要因の影響が少ない状態、換言すれば、測定されるデータに不適値が入らないようにした状態で鉄皮表面温度の変化を求め、求めた温度変化に基づいて耐火物ライニング層の厚みを判定する方法が開示されている。また、特許文献4には、収容容器の使用回数と、耐火物ライニング層が正常の場合での鉄皮表面温度の変化との関係を事前に求めておき、使用回数を補助データとして併せて利用することで、収容容器の耐火物ライニング層の厚みを精度良く判定する方法が開示されている。
【0005】
ところで、赤外線を用いて非接触で物体の表面温度を時系列的に測定する場合、同一の赤外線熱画像測定装置で測定対象物の同一箇所を測定することは一般的に行われない。これは、測定対象物が移動したり、測定対象物が移動しない場合もその測定装置を用いて別の測定対象物を測定したりすることがあるからである。この場合、前回の測定位置と今回の測定位置とが一致しないときには、経時変化を正確に捉えることはできない。
【0006】
この問題を解決するために、特許文献5には、赤外線熱画像測定装置に前回の測定データを保存しておき、赤外線熱画像測定装置で測定される今回の測定データを前回の測定データに重ね合わせ、これによって温度変化を精度良く把握することのできる赤外線熱画像測定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−207534号公報
【特許文献2】特開2003−296702号公報
【特許文献3】特開2008−261021号公報
【特許文献4】特開2009−79872号公報
【特許文献5】特開2009−162571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術を、溶銑や溶鋼を収容する溶融物収容容器に適用した場合には以下の問題がある。
【0009】
例えば、内部に耐火物を施工した溶融物収容容器において、局部的に発生する耐火物の損傷に伴う収容容器鉄皮の表面温度上昇を赤外線熱画像測定装置で把握する場合、待機期間の長くなった収容容器では、鉄皮全体の表面温度が低下するとともに、本来高温になるべき耐火物局部損傷部分の鉄皮表面温度も低い値となる。この場合、全体の温度データが、通常(正常)時の温度データ範囲から逸脱するので、蓄積されたデータによる補正ができず、更には、高温部の温度測定値による異常発生判定すらも不可能となる場合が発生する。
【0010】
特許文献1、3、4のように、収容容器鉄皮の時間毎の温度変化率を計算する方法では、赤外線熱画像測定装置を複数設ける必要があり、収容容器の移動ルートが複雑な場合や、設備的な制約により赤外線熱画像測定装置が複数設けられない場合は、異常発生を見逃すこととなる。同じ理由で、特許文献2の衛星画像のデータ補正に用いる経時変化のデータも適用が難しい場合が多い。
【0011】
耐火物の損傷、特に亀裂の発生による高温溶融物の耐火物への侵入は、耐火物が冷えたことによる収縮に起因することが多く、収容容器の全体的な温度が低くなった場合にこそ異常発生判定が重要となる。
【0012】
また、収容容器鉄皮の表面温度の測定に用いる赤外線熱画像測定装置は設置位置に制限があることが多く、且つ、収容容器の行き先は一般的に複数であり、この場合、毎回の表面温度を測定し、温度変化を把握するには、複数の場所に赤外線熱画像測定装置を設置せざるを得ず、したがって、熱画像上の範囲がずれるケースが発生する。この場合、特許文献5のように、熱画像を重ね合わせて変化を観察する方法は適用できない。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、赤外線熱画像データなどの時系列二次元分布データの経時変化を正確に把握するべく、時系列二次元分布データから不適値を取り除くための補正方法を提供することであり、また、この補正方法を利用して時系列二次元分布データのなかから異常発生などを警告する特異データを精度良く判定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]時間を隔てて測定された2つ以上の二次元分布データのそれぞれを、同一測定対象物が存在する範囲を同じエリアとして3つ以上のエリアに区分し、
各エリア別に二次元分布データの代表値を決めるステップ1と、
ステップ1で決めた直前の測定時の各エリアの代表値とステップ1で決めた今回測定時の各エリアの代表値とから、直前の測定時から今回測定時までの各エリアの代表値の変化量を計算するステップ2と、
ステップ1で決めた今回測定時の各エリアの代表値に基づいて今回測定時の全エリアにおける代表値の平均値及び標準偏差を計算するステップ3と、
ステップ3で得られた平均値に対して、ステップ3で得られた標準偏差に予め設定された係数を乗じた値以上離れている今回測定時のエリアの代表値を除外するステップ4と、
ステップ4で除外されなかった今回測定時の各エリアの代表値に基づいて除外されなかったエリアにおける代表値の平均値を計算するステップ5と、
ステップ2で得られた各エリアの変化量からステップ5で得られた平均値を減じて各エリアの変化量を補正するステップ6との、
ステップ1〜6からなる補正方法を用いて、時間を隔てて測定された2つ以上の二次元分布データを補正することを特徴とする時系列二次元分布データの補正方法。
[2]上記[1]に記載される時系列二次元分布データの補正方法のステップ6で得られた各エリアの変化量の補正データを予め設定された閾値と比較し、閾値を超えた補正データを特異データと判定することを特徴とする時系列二次元分布データの判定方法。
[3]前記二次元分布データが、複数の異なる方向から撮影した赤外線熱画像データであって、被撮物の同じ部位に対応する撮像範囲を同じエリアとして設定することを特徴とする、上記[2]に記載の時系列二次元分布データの判定方法。
[4]前記二次元分布データが、耐火物を内部に配した収容容器鉄皮の表面を複数の異なる方向から撮影した赤外線熱画像データであって、前記各エリアの代表値を各エリア内の最高温度とし、収容容器の同じ部位に対応する撮像範囲を同じエリアとして設定し、各エリアの温度変化量の補正データに基づいて耐火物損傷状態を把握することを特徴とする、上記[2]に記載の時系列二次元分布データの判定方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、赤外線熱画像データによる表面温度分布などの時系列二次元分布データを解析する際に、二次元データの経時変化を複数のエリア毎に把握するようにするとともに、二次元データの全体的な経時変化を補正するようにしたので、二次元データが全体的な経時変化を伴う場合においても、局部的な二次元データの経時変化を的確に捉えることが可能となる。また、二次元分布データごとに同一測定対象物が存在する範囲を同じエリアとして設定するので、同じ被測定体に対する二次元分布データの採取位置が異なる場合でも、正確な二次元データの変化が把握できるようになり、測定毎に位置がずれる場合でも二次元データの変化を確実に捉えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の補正方法を適用して補正した合計63個の鉄皮表面温度変化量データのヒストグラムである。
【
図2】本発明の補正方法を適用する前の合計63個の鉄皮表面温度変化量データのヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。
【0018】
本発明者らは、時系列二次元分布データから不適値を効率的に取り除くことを目的として、内部に耐火物が施工された高温溶融物収容容器鉄皮の表面温度を赤外線熱画像測定装置で撮影し、その温度分布及び収容容器の使用回数毎の温度変化を詳細に調査した。その結果、測定毎に撮影された熱画像の位置がずれていること、異なる方向から撮影された複数の熱画像間で同一部位の熱画像上での位置が異なること、収容容器の稼働状況に応じて鉄皮表面温度が全体的に大きく変動することの3点を確認した。
【0019】
本発明者らは、先ず、撮影された熱画像の位置ずれによる影響の緩和、及び、異なる角度から撮影された熱画像データでの比較を可能にするために、撮影された熱画像に対し、赤外線熱画像測定装置ごとの撮影対象の同一範囲を含むようにエリアを区切り、各エリアの最高温度を各エリアの代表値とし、この代表値と、前回撮影された同一エリアの最高温度つまり代表値とから各エリアでの表面温度の経時変化を計算して求め、この経時変化に基づいて耐火物の異常損耗や耐火物の亀裂部への溶融鉄の侵入などの異常発生の判定を行うことにした。
【0020】
しかしながら、内部の耐火物を全面更新した直後の収容容器や長期間停止していた収容容器の場合には、収容容器鉄皮の表面温度が急激に上昇し、つまり、鉄皮表面温度の変化量が大きくなり、異常発生として誤認識される場合が発生した。
【0021】
これを防止するために、鉄皮全体で表面温度の変化を補正する方法を検討した。その結果、下記に示す6つのステップで補正する方法を見いだした。
【0022】
ステップ1:各エリアの二次元分布データの代表値を決める。代表値とは、例えば前述したエリア内最高温度が好適である。
【0023】
ステップ2:ステップ1で決めた直前の測定時の各エリアの代表値とステップ1で決めた今回測定時の各エリアの代表値とから、直前の測定時から今回測定時までの各エリアの代表値の変化量を計算する。
【0024】
ステップ3:ステップ1で決めた今回測定時の各エリアの代表値に基づいて今回測定時の全エリアにおける代表値の平均値及び標準偏差を計算する。
【0025】
ステップ4:ステップ3で得られた平均値に対して、ステップ3で得られた標準偏差に予め設定された係数を乗じた値以上離れている今回測定時のエリアの代表値を除外する。この場合、標準偏差に乗じる係数の値は1.0または1.0の近傍(0.8〜1.2)が望ましく、大きな値を設定すると何れの代表値も除外できなくなり、小さな値を設定すると大半の代表値が除外されてしまうので、つまり何れも補正ができなくなるので好ましくない。
【0026】
ステップ5:ステップ4で除外されなかった今回測定時の各エリアの代表値に基づいて除外されなかったエリアにおける代表値の平均値を計算する。
【0027】
ステップ6:ステップ2で得られた各エリアの変化量からステップ5で得られた平均値を減じて各エリアの変化量を補正する。
【0028】
即ち、本発明の時系列二次元分布データの補正方法は、上記のステップ1〜6からなる補正方法を用いて、時間を隔てて測定された2つ以上の二次元分布データを補正し、時系列二次元分布データから誤認などの原因となる不適値を取り除くという方法である。つまり、本発明は、複数の二次元データ上の同一対象の存在部分をそれぞれの同一エリアとして区分し、データの経時変化を計算可能にするとともに、各エリア毎のデータの経時変化の分布から、変化の値を補正し、局部的な変化を把握できるようにしたものである。
【0029】
本発明において、エリアを設定する際に、データ採取時の位置ずれなどを勘案し、各エリアを一部重ねたり、対象範囲の外側もエリアに含めたりすることが好ましい。また、エリアを設定する際、補正の精度向上につながることから、なるべく多くのエリアに区分することが好ましい。
【0030】
上記の6つのステップを適用して、過去の直近の1回の測定データと比較するだけで、測定データの全体的な変化を排除することができ、局所的な経時変化を正確に捉えることができる。
【0031】
また、本発明において、時系列二次元分布データのなかから異常発生などを警告する特異データを判定する場合には、上記のステップ6で得られた各エリアの変化量の補正データを予め設定された閾値と比較し、閾値を超えた場合にその補正データを特異データとして判定する。この場合の閾値は、異常が発生した場合での変化量と正常の場合での変化量とを予め把握しておき、両者の変化量の間の任意の値を閾値と設定すればよい。
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、赤外線熱画像データによる表面温度分布などの二次元分布データを解析する際に、二次元データの経時変化を複数のエリア毎に把握するようにするとともに、二次元データの全体的な経時変化を補正するようにしたので、二次元データが全体的な経時変化を伴う場合においても、局部的な二次元データの経時変化を的確に捉えることが可能となる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0034】
溶鋼を収容する取鍋の鉄皮表面温度を赤外線熱画像測定装置によって測定し、得られた取鍋鉄皮表面温度測定データを本発明を適用して補正した。
【0035】
連続鋳造機の鋳造位置(スイングタワーまたはレードルカー)に上架された、250トンの溶鋼を収容する取鍋の鋳造開始直前の取鍋鉄皮表面温度を、それぞれの取鍋が上架される毎に、3つの赤外線熱画像測定装置によって取鍋周囲の斜め下方の3方向から測定した。
【0036】
具体的には、取鍋の側壁鉄皮に関して、取鍋の排滓側を起点として中心角40°毎に取鍋周方向に均等な9個のエリアを設定した。これらのエリアを更に上下に2分割し、取鍋側壁を総数18個のエリアに区分した。表面温度測定位置である各連続鋳造機(本実施例では、連続鋳造機A及び連続鋳造機Bの2つの連続鋳造機)に、それぞれ3台の赤外線熱画像測定装置を設置した。ここでは、連続鋳造機Aに設置した赤外線熱画像測定装置をA1、A2、A3と表示、連続鋳造機Bに設置した赤外線熱画像測定装置をB1、B2、B3と表示する。
【0037】
連続鋳造機Aにおいては、取鍋の排滓側を基点として取鍋中心に対し、赤外線熱画像測定装置A1は中心角90°の位置、赤外線熱画像測定装置A2は180°の位置、赤外線熱画像測定装置A3は290°の位置で測定し、一方、連続鋳造機Bにおいては、赤外線熱画像測定装置B1は中心角80°の位置、赤外線熱画像測定装置B2は中心角200°の位置、赤外線熱画像測定装置B3は中心角300°の位置で測定した。連続鋳造機A及び連続鋳造機Bにおいて、側壁鉄皮の温度測定エリアを、赤外線熱画像測定装置A1、B1は、取鍋の排滓側を基点とする中心角0°から120°までの6エリア、赤外線熱画像測定装置A2、B2は、中心角120°から240°までの6エリア、赤外線熱画像測定装置A3、B3は、中心角240°から360°までの6エリアとした。
【0038】
また更に、取鍋底面の測定エリアとして、各赤外線熱画像測定装置にそれぞれ1つずつ設定し、各赤外線熱画像測定装置でそれぞれ7個(取鍋の側面6エリア+取鍋底面1エリア)のエリアを測定した。
【0039】
本実施例では、これらの多数の測定エリアのうち、一例として、赤外線熱画像測定装置A3、B3で測定した特定の1つの取鍋(取鍋番号48)の表面温度測定データの解析結果を示す。
【0040】
取鍋番号48の取鍋の鉄皮表面を、転炉から溶鋼を受鋼するつど、連続鋳造機Aまたは連続鋳造機Bで経時的に測定した10回の取鍋表面温度測定データについて、本発明を適用して補正した。表面温度の測定間隔は、表1に示すように、最小3時間14分、最大11時間31分、平均5時間12分であり、これらの取鍋表面温度測定データのうち、2〜10回目の合計9回の測定データについて本発明を適用して補正した。今回の補正においては、標準偏差に乗じる係数の値は1.0とした。
【0041】
【表1】
【0042】
図1は、7つのエリアを9回のタイミングで本発明の補正方法を適用して補正した合計63個の鉄皮表面温度変化量データのヒストグラムであり、一方、
図2は、補正する前の合計63個の鉄皮表面温度変化量データのヒストグラムである。尚、
図1及び
図2には、その図中に、レーザー測距計による取鍋内壁耐火物の凹凸測定によって実際に耐火物の異常が検出された時点の直前の温度変化量データが存在したヒストグラムの位置を☆印で表示している。また、
図1及び
図2の横軸において、正値は温度上昇を示し、負値は温度降下を示している。
【0043】
図2の補正なしのデータでは、鉄皮表面温度の温度上昇及び温度降下ともに非常に広い分布となっており、☆印のついた位置の周辺にも多数の温度変化量データが存在し、耐火物の異常発生を補正前の温度変化量データから検出することは困難であった。一方で
図1の補正後のヒストグラムを見ると、本発明による補正を行うことで温度変化量の範囲が狭くなっており、耐火物異常のあった☆印の温度変化量データは、他の温度データと容易に区別できることがわかった。つまり、本発明を適用して補正した温度変化量データにおいて、温度変化量の閾値を80℃以上とすることで、耐火物異常を容易に検出できることが確認できた。
【0044】
上記のように本発明を適用して取鍋鉄皮の表面温度変化を整理することで、耐火物の異常発生時のデータが温度上昇側で確認できた。このデータは、補正前には正常時のデータ群の中に埋もれており、補正なしでは異常判定ができないことがわかる。つまり、本発明は異常判定に非常に有効な方法であるといえる。
【0045】
尚、上記説明は取鍋鉄皮表面の温度データを処理して異常判定に用いる方法について説明したが、本発明はこれに限るものでなく、異常判定を行わない場合の局部的な変化の把握や、温度以外のデータ補正に用いることも当然可能である。