【実施例】
【0018】
(実施例1)
本例は、結晶相の粒径や分散状態の異なる複数のアルミナ質焼結体(試料X1〜X25)を作製し、これらの耐電圧を比較する例である。各試料のアルミナ質焼結体1は、アルミナからなる主相2と、該主相2中に分散された結晶相3とを有する(
図1参照)。結晶相3は、MgAl
2O
4(スピネル)、2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2(コージェライト)、2MgO・SiO
2(フォルステライト)及びMgO・SiO
2(ステアタイト)からなるグループから選ばれる少なくとも1種の化合物からなる。まず、以下のようにして、各試料のアルミナ質焼結体を作製した。本例においては、後述の実施例3において示す自動車のスパークプラグ用の絶縁碍子形状のアルミナ質焼結体を製造する。
【0019】
具体的には、まず、主剤として、純度99.9質量%以上のアルミナからなり、平均粒子径0.4〜3.0μmのα−アルミナ粒子の粉末を準備した。α−アルミナの平均粒子径は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積積算値50%での粒径を意味する。また、助剤として、SiO
2(酸化ケイ素)、MgO(酸化マグネシウム)、及びγ−Al
2O
3(活性アルミナ)の各粉末を準備した。各粉末の純度は97質量%以上である。
【0020】
次いで、撹拌翼を備える混合タンク内に水を添加し、さらに混合タンク内に助剤(SiO
2、MgO、及びγ−Al
2O
3)を添加した。撹拌翼により撹拌を行い、助剤を水に分散させた。次に、混合タンク内に、主剤(α−Al
2O
3)と適量のバインダとを添加し、撹拌翼により撹拌を行った。このようにして、主剤と助剤との混合物スラリーを得た。混合物スラリー中の主剤と助剤との配合割合については、主剤と助剤との合計100質量%に対して、主剤が95〜99質量%であり、助剤が1〜5質量%である。また、助剤の各成分(SiO
2、MgO、γ−Al
2O
3)の配合割合は、結晶相の化合物の種類(スピネル、コージェライト、フォルステライト、又はステアタイト)に応じて適宜調整することができる。
【0021】
次に、上記のようにして得られた混合物スラリーを造粒スプレー乾燥により乾燥させて、造粒粉を得た。この造粒粉を碍子形状に成形し、成形体を得た。次いで、成形体を焼成し、碍子形状のアルミナ質焼結体を得た。焼成温度は1450〜1650℃、焼成時間は1〜3時間である。本例においては、各助剤成分の配合割合を変えることにより、後述の表1に示すように、結晶相の種類、平均粒子径、分散状態(粒径1〜5μmの結晶相の個数)が異なる25種類のアルミナ質焼結体(試料X1〜X25)を得た。
【0022】
各試料のアルミナ質焼結体における結晶相の平均粒子径及び個数は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析により測定した。EPMA分析装置としては、(株)島津製作所製のEPMA−1610を用いた。具体的には、各試料の任意の断面(鏡面研磨面)について、EPMA分析を行った。EPMAにおける倍率は、例えば10000倍である。代表例として試料X6に関するEPMAによる分析結果を
図1に示す。
図1は20μm×20μmの領域を示す。
図1より知られるように、本例のアルミナ質焼結体1は、アルミナ結晶からなる主相2と、主相2に分散された結晶相3とを有する。試料X6の結晶相3は、MgAl
2O
4(スピネル)からなる。
図1において、黒い部分が主相2であり、結晶相3は、白〜灰色の部分である。
【0023】
上述のEPMAによる分析結果に基づいて、アルミナ質焼結体1の断面の任意の100μm×100μmの領域内における結晶相3の平均粒子径を測定した(
図1参照)。各結晶相3の粒径は、EPMA分析結果における各結晶相3の円相当径から求められる。即ち、各結晶相3の面積と同面積の円の直径を結晶相3の粒径とし、その算術平均を求めることにより平均粒子径が求められる。各試料の断面について任意の100μm×100μmの領域内における結晶相3の平均粒子径を後述の表1に示す。
【0024】
また、上述の任意の100μm×100μmの領域内における粒径1μm〜5μmの結晶相3の数を算出した。この所定粒径の結晶相の数も上述のEPMA分析により測定することができる。即ち、各試料の断面の任意の100μm×100μmの領域内における所定粒径の結晶相3の数を算出した。その結果後述の表1に示す。
【0025】
また、各試料の結晶相の結晶構造をX線回折装置((株)リガク製の「RINT2100」)によって調べた。具体的には、測定範囲20.0〜60.0°、スキャン幅0.02°、加速電圧40kV、電流20mAという条件で測定した。XRDパターンの一例として、試料X6の結果を
図2に示す。
図2においては、矢印Aで示されるアルミナ由来のピークの他に、矢印Bで示されるスピネル(MgAl
2O
4)由来のピークが観察された。図示を省略するが、コージェライト、フォルステライト、ステアタイトの結晶相もXRD分析によって調べることができる。各試料の結晶相の構造を表1に示す。
【0026】
次に、耐電圧測定装置を用いて、各試料のアルミナ質焼結体の耐電圧を測定した。具体的には、碍子形状のアルミナ複合焼結体に、耐電圧測定装置の内部電極を挿入した。また、円形リング状の外部電極をアルミナ複合焼結体の外周に嵌め込み、測定点が常にアルミナ焼結体の厚さ1.0±0.05mmとなるように配置した。次いで、内部電極と外部電極との間に、定電圧電源から発振器とコイルとにより発生させた高電圧を印加した。このとき、オシロスコープで電圧値をモニターしながら、30サイクル/秒の周波数で1kV/秒ずつ電圧を上昇させた。そして、アルミナ質焼結体が絶縁破壊したときの電圧を測定し、これを耐電圧とした。その結果を表1に示す。さらに、表1の結果に基づいて、結晶相の平均粒子径と耐電圧との関係を
図3に示し、粒径1〜5μmの結晶相の数と耐電圧との関係を
図4に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より知られるように、試料X1〜X11は、結晶相がスピネルからなるアルミナ質焼結体である。試料X12〜X16は、結晶相がコージェライトからなるアルミナ質焼結体である。試料X17〜X20は、結晶相がフォルステライトからなるアルミナ質焼結体である。試料X21〜X25は、結晶相がステアタイトからなるアルミナ質焼結体である。これらのうち、焼結体断面の任意の100μm×100μmの領域内における結晶相の平均粒子径が0.4μm〜5.3μmの範囲内にあり、かつ粒径1〜5μmの結晶相の数が8個〜412個のアルミナ質焼結体(試料X3〜X9、X13、X14、X18、X19、X23、X24)は、30kV以上という高い耐電圧を示した(表1、
図3、及び
図4参照)。なお、
図3においては、平均粒子径が0.4μm〜5.3μmの領域を矢印で示し、
図4においては、粒径1〜5μmの結晶相の数が8個〜412個の領域を矢印で示している。これに対し、結晶相の平均粒子径が小さすぎたり又は大きすぎたり、さらに、所定粒径の結晶相の数が少なすぎたり又は多すぎたりするアルミナ質焼結体(試料X1、X2、X10〜X12、X15〜X17、X20〜X22、X25)は、耐電圧が低かった(表1、
図3、及び
図4参照)。
【0029】
また、表1、
図3、及び
図4より知られるように、結晶相がMgAl
2O
4からなる場合には、特に、耐電圧の向上効果が顕著になる。したがって、アルミナ質焼結体の結晶相は少なくともMgAl
2O
4からなることが好ましい。
【0030】
また、本例のアルミナ質焼結体を製造するにあたっては、上述のように原料としてα−アルミナの他に活性アルミナを用いている。さらに混合工程を少なくとも2回に分け、α−アルミナからなる主剤を混合する前に、SiO
2、MgO、及びγ−Al
2O
3からなる助剤のうち、少なくとも2種類を予め混合している。そのため、助剤同士の反応性を高めることが可能になる。その結果、本例のように、原料の配合割合を調整することにより、結晶相の平均粒子径を所定の範囲内に調整することが可能になると共に、粒径1μm〜5μmの結晶相の数を上記所定の範囲内に調整することが可能になる。その結果、上述のように、耐電圧の高いアルミナ質焼結体の製造が可能になる。
【0031】
試料X3〜X9、X13、X14、X18、X19、X23、X24の作製においては、各助剤成分(SiO
2、MgO、及びγ−Al
2O
3)の配合割合を
図5に示す範囲(ドットによる網掛け領域)に調整した。即ち、各助剤成分の組成比を、SiO
2:MgO:γ−Al
2O
3=a:b:c(a+b+c=100質量%)とすると、各助剤成分を頂点とする三角座標において、A(10、85、5)、B(85、10、5)、C(10、10、80)の3点で囲まれる範囲内に助剤成分の配合(点(a、b、c))が調整されている。上記範囲内で助剤成分を配合することにより、結晶相の平均粒子径及び所定の大きさの結晶相の数を上述の所望の範囲内に調整することが可能になる。その結果、上述のように耐電圧の高いアルミナ質焼結体の製造が可能になる。
【0032】
一方、上述の3点で囲まれる範囲外において、MgOが多くかつγ−All
2O
3が少ない領域や、MgOが少なくかつSiO
2が多い領域においては、ガラス相が生成する。即ち、この場合には、MgAl
2O
4、2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2、2MgO・SiO
2、及びMgO・SiO
2からなるグループから選ばれる少なくとも1種の化合物からなる結晶相が十分に生成しない。また、上述の3点で囲まれる範囲外におけるSiO
2が少なく、γ−Al
2O
3が多い領域においては、焼結が十分に進行せず、目的の複合酸化物の生成が進行しなくなる。
【0033】
(実施例2)
本例は、実施例1における試料X4〜X6と同じ配合組成のアルミナ質焼結体を実施例1とは異なる製造方法により製造し、これらの結晶相の平均粒子径、結晶相の個数、耐電圧を調べる例である。本例においては、試料X4と同じ配合組成で作製した3種類のアルミナ質焼結体(試料X26〜試料X28)、試料X5と同じ配合組成で作製した3種類のアルミナ質焼結体(試料X29〜試料X31)、試料X6と同じ配合組成で作製した3種類のアルミナ質焼結体(試料X32〜試料X34)についてそれぞれ説明する。
【0034】
試料X26、試料X29、及び試料X32は、活性アルミナを用いなかった点を除いては、実施例1と同様にして作製したアルミナ質焼結体である。試料X26、試料X29、及び試料X32は、活性アルミナを用いない代わりにα−アルミナの量を増やすことにより、各試料X4、試料X5、試料X6とそれぞれ同じ配合組成で原料を混合し、その他は実施例1と同様にして作製した。
【0035】
試料X27、試料X30、及び試料X33は、実施例1のように主剤と助剤とをそれぞれ別々に混合するのではなく、主剤と助剤とを一度に混合タンク内に添加した点を除いては、実施例1と同様にして作製したアルミナ質焼結体である。
試料X28、試料X31、試料X34は、活性アルミナを用いずに、さらに、主剤と助剤とを一度に混合タンク内に添加した点を除いては、実施例1と同様にして作製したアルミナ質焼結体である。
【0036】
これらの試料X26〜X34についても、実施例1と同様に、結晶相の平均粒子径と、粒径1〜5μmの結晶相の個数、耐電圧を調べた。その結果を表2に示す。なお、表2における「検出不可」とは、非晶質のガラス相が形成されていたことを意味する。また、表2には、比較用として、実施例1において作製した試料X4〜6の結果を併記する。
【0037】
【表2】
【0038】
表2並びに実施例1の表1より知られるように、活性アルミナを使用し、SiO
2、MgO、及びγ−Al
2O
3から選ばれる少なくとも2種以上を水等の液体中で混合し、その後にα−アルミナ等の残りの原料を混合することにより、結晶相の平均粒子径及び粒径1μm〜5μmの結晶相の数を所定の範囲内に調整することが可能になる。即ち、この場合には、結晶相の平均粒子径が0.4μm〜5.3μmであり、粒径1μm〜5μmの結晶相の数が8個〜412個のアルミナ質焼結体の製造が可能になる(表2の試料X4、試料X5、試料X6、並びに実施例1の表1参照)。これに対し、活性アルミナを使用しなかった場合や、主剤と助剤とを一度に混合した場合には、平均粒子径や特定の大きさの結晶相の数を上記範囲に調整することが困難になる(試料X26〜X34)。その結果、耐電圧に優れたアルミナ質焼結体が得られない。
【0039】
(実施例3)
本例は、実施例1のアルミナ質焼結体からなる絶縁碍子を備えるスパークプラグの例である。
図6に示すごとく、スパークプラグ4は、自動車用エンジンの点火栓などに適用される。スパークプラグ4は、エンジンの燃焼室を区画形成するエンジンヘッド(図示略)に設けられたねじ穴に挿入されて固定される。スパークプラグ4は、導電性の例えば低炭素鋼等の鉄鋼材料等からなる円筒形状の取付金具41を有している。この取付金具41の外周面には、エンジンブロック(図示略)に固定するための取付用ネジ部415が設けられている。本例において、取付用ネジ部415の呼び径は10mm以下であり、取付用ネジ部415は、JIS(日本工業規格)でいうM10以下のものである。
【0040】
取付金具41の内部には、絶縁碍子42が収納されて固定されている。絶縁碍子42は、実施例1の試料X5のアルミナ複合焼結体からなる。この絶縁碍子42の先端部421は、取付金具41の先端部411から突出している。絶縁碍子42の軸孔425には中心電極43が固定されており、中心電極43は取付金具41に対して絶縁保持されている。中心電極43は、例えば内材がCu等の熱伝導性に優れた金属材料、外材がNi基合金等の耐熱性及び耐食性に優れた金属材料により構成された円柱体からなる。
【0041】
図6に示されるように、中心電極43は、その先端部431が絶縁碍子42の先端部421から突出するように設けられている。このようにして、中心電極43は、その先端部431が突出した状態で、取付金具41に収納されている。
【0042】
一方、接地電極44は、例えばNiを主成分とするNi基合金からなる柱形状をなすものである。本例の接地電極44は、角柱形状をなしており、一端側が取付金具41の先端部411に溶接などにより固定されている。接地電極44の中間部は略L字に曲げられている。接地電極44の他端側の側面441は、火花放電ギャップ40を介して中心電極43の先端部431と対向している。
【0043】
中心電極43の先端部431には、貴金属チップ45が先端部431から突出して設けられている。また、接地電極44の側面441には、貴金属チップ46が側面441から突出して設けられている。これら貴金属チップ45、46は、Ir(イリジウム)合金やPt(白金)合金等からなり、電極母材43、44にレーザ溶接や抵抗溶接等にて接合されている。
【0044】
火花放電ギャップ40は、2つの貴金属チップ45、46の先端面間の空隙である。この火花放電ギャップ40の大きさは、例えば1mm程度にすることができる。
【0045】
また、絶縁碍子42の先端部421とは反対側の部位において、絶縁碍子42の軸孔425には中心電極43の取り出し用のステム47が設けられている。このステム47は、導電性を有し、棒状であり、絶縁碍子42の軸孔425内部において、中心電極43と導電性のガラスシール48を介して電気的に接続されている。
【0046】
本例のスパークプラグ1は、実施例1の試料X5のアルミナ質焼結体からなる絶縁碍子42を有している。そのため、絶縁碍子42は、高い耐電圧性能を発揮することができる。それ故、スパークプラグ1の小型化及び高電圧化が可能になる。なお、本例においては、実施例1の試料X5のアルミナ質焼結体を用いた例について説明したが、実施例1において高い耐電圧を示した試料X3、X4、X6〜X9、X13、X14、X18、X19、X23、X24のアルミナ質焼結体を用いることもできる。即ち、断面における任意の100μm×100μmの領域内における結晶相の平均粒子径が0.4μm〜5.3μmの範囲内にあり、かつ粒径1〜5μmの結晶相の数が8〜412個のアルミナ質焼結体からなる絶縁碍子を用いることにより、本例と同様の効果を得ることができる。