特許第6052285号(P6052285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052285
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】変速比制御装置及び変速比制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20161219BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-509084(P2014-509084)
(86)(22)【出願日】2013年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2013055908
(87)【国際公開番号】WO2013150848
(87)【国際公開日】20131010
【審査請求日】2014年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-84020(P2012-84020)
(32)【優先日】2012年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100148231
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 謙治
(72)【発明者】
【氏名】井上 潤
【審査官】 瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−076673(JP,A)
【文献】 特開2011−105202(JP,A)
【文献】 特開平11−182665(JP,A)
【文献】 特開平06−081932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジンと内燃エンジンに接続された自動変速機を備える車両、のための変速比制御装置において、
車両の運転状態を検出する運転状態検出センサ、運転状態検出センサは車両の車速を検出する車速センサを含む、と;
次のようにプログラムされたプログラマブルコントローラ:
運転状態に基づき車両走行負荷を計算し;
車両走行負荷に基づき内燃エンジンの基本最低回転速度を計算し;
車速に応じて増大する第1の値と、車速に応じて増大する第1の値より大きな第2の値とを計算し;
車両が牽引状態かどうかを判定し;
車両が非牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第1の値のうちの小さな方に設定し;
車両が牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第2の値のうちの小さな方に設定し;
内燃エンジンの回転速度が最低エンジン回転速度以上となるように自動変速機の目標変速比を設定し;
自動変速機の変速比を目標変速比へと制御する、とを備えるとともに、
基本最低回転速度は自動変速機が最ロー変速比で車両を駆動する場合に必要な車両駆動力が得られる最低のエンジン回転速度である、変速比制御装置。
【請求項2】
運転状態検出センサは、内燃エンジンの負荷を検出するエンジン負荷センサと、内燃エンジンの回転速度を検出する回転速度センサと、自動変速機の実変速比を検出するセンサと、をさらに含み
コントローラは、エンジン負荷とエンジン回転速度からエンジントルクを計算し、エンジントルクと実変速比から車両の駆動力を計算し、車速から車両の加速度を検出し、車両の駆動力と車両の重量と車両の加速度から車両走行負荷を計算するようにさらにプログラムされる、請求項1の変速比制御装置。
【請求項3】
車室内に設けられた、ドライバが操作する牽引スイッチをさらに備え、コントローラは牽引スイッチがオンの場合に、車両が牽引状態にあると判定するよう、さらにプログラムされる、請求項1または2の変速比制御装置。
【請求項4】
車両は、車両と車両に牽引される牽引車両とを連結するカプラーを備え、
変速比制御装置は、カプラーが牽引車両を連結するとオンになり、カプラーが牽引車両を切り離すとオフになる締結スイッチを備え、
コントローラは締結スイッチがオンの場合に車両が牽引状態にあると判定するよう、さらにプログラムされる、請求項1または2の変速比制御装置。
【請求項5】
内燃エンジンと内燃エンジンに接続された自動変速機を備える車両、のための変速比制御装置において、
車両の運転状態を検出する運転状態検出手段、運転状態検出手段は車両の車速を検出する車速センサを含む、と;
運転状態に基づき車両走行負荷を計算する手段と;
車両走行負荷に基づき内燃エンジンの基本最低回転速度を計算する手段と;
車速に応じて増大する第1の値と、車速に応じて増大する第1の値より大きな第2の値とを計算する手段と;
車両が牽引状態かどうかを判定する手段と;
車両が非牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第1の値のうちの小さな方に設定する手段と;
車両が牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第2の値のうちの小さな方に設定する手段と;
内燃エンジンの回転速度が最低エンジン回転速度以上となるように自動変速機の目標変速比を設定する手段と;
自動変速機の変速比を目標変速比へと制御する手段と、を備えるとともに、
基本最低回転速度は自動変速機が最ロー変速比で車両を駆動する場合に必要な車両駆動力が得られる最低のエンジン回転速度である、変速比制御装置。
【請求項6】
内燃エンジンと内燃エンジンに接続された自動変速機を備える車両、のための変速比制御方法において、
車両の車速を含む車両の運転状態を検出し;
運転状態に基づき車両走行負荷を計算し;
車両走行負荷に基づき内燃エンジンの基本最低回転速度を計算し;
車速に応じて増大する第1の値と、車速に応じて増大する第1の値より大きな第2の値とを計算し;
車両が牽引状態かどうかを判定し;
車両が非牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第1の値のうちの小さな方に設定し;
車両が牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第2の値のうちの小さな方に設定し;
内燃エンジンの回転速度が最低エンジン回転速度以上となるように自動変速機の目標変速比を設定し;
自動変速機の変速比を目標変速比へと制御する、とともに、
基本最低回転速度は自動変速機が最ロー変速比で車両を駆動する場合に必要な車両駆動力が得られる最低のエンジン回転速度である、変速比制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の変速比制御に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国特許庁が2005年に発行した、JP2005−076673Aは、内燃エンジンの出力回転を自動変速機が変速して走行用動力を取り出す車両において、車両が登坂路を走行中の再加速性能を改善するための変速比制御を提案している。
【0003】
この従来技術は、アクセルレータ全開時のエンジントルクのもとで必要エンジン出力を発生させるための、エンジン回転速度下限値Neminを決定している。この従来技術は、実エンジン回転速度がエンジン回転速度下限値Neminを下回らないように、自動変速機の変速比を制御する。結果として、変速比はロー側の変速比領域に制限され、登坂路の中の湾曲路を通過した後の車両の再加速性能が改善される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最ロー変速比で車両を駆動する場合に必要な車両駆動力を得るためのエンジン回転速度下限値は、平坦路走行での騒音抑制を考慮して高くしすぎないように設定することが望ましい。言い換えれば、小さな走行負荷に適合したエンジン回転速度下限値を設定することが望ましい。
【0005】
一方、車両が他の車両を牽引する場合には事情が異なる。他の車両を牽引しつつ車両が平坦路より登坂路にさしかかり、平坦路とほぼ同じ車速で登坂路を走行する場合を考えてみる。その場合には、他の車両を牽引していない状態で平坦路を走行する場合と比べて、車両の走行負荷は明らかに増大する。この場合には、エンジン回転速度下限値を比較的高い値に設定する必要がある。しかし、前述のように小さな走行負荷に適合したエンジン回転速度下限値のもとでは、エンジン回転速度がエンジン回転速度下限値付近まで低下してしまうと、必要な車両駆動力が得られない可能性がある。言い換えれば、小さな走行負荷に適合したエンジン回転速度下限値を適用すると、大きな走行負荷のもとでの走行時に十分な再加速性能を得ることができなくなる。
【0006】
この発明の目的は、大きな走行負荷がかかる走行時にも十分な再加速性能が得られる自動変速機の変速比制御を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の目的を達成するために、この発明は、内燃エンジンと内燃エンジンに接続された自動変速機を備える車両、のための変速比制御装置を提供する。変速比制御装置は車両の運転状態を検出する運転状態検出センサと、プログラマブルコントローラとを備えている。運転状態検出センサは車両の車速を検出する車速センサを含む。コントローラは運転状態に基づき車両走行負荷を計算し、車両走行負荷に基づき内燃エンジンの基本最低回転速度を計算し、車速に応じて増大する第1の値と、車速に応じて増大する第1の値より大きな第2の値とを計算し、車両が牽引状態かどうかを判定する。基本最低回転速度は自動変速機が最ロー変速比で車両を駆動する場合に必要な車両駆動力が得られる最低のエンジン回転速度である。そして、車両が非牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第1の値のうちの小さな方に設定し、車両が牽引状態の場合には、最低エンジン回転速度を基本最低回転速度と第2の値のうちの小さな方に設定し、内燃エンジンの回転速度が最低エンジン回転速度以上となるように、自動変速機の目標変速比を設定し、自動変速機の変速比を目標変速比へと制御するよう、プログラムされる。
【0008】
この発明の詳細並びに他の特徴や利点は、明細書の以下の記載の中で説明されるとともに、添付された図面に示される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】FIG.1は、この発明の第1の実施形態による変速比制御装置の概略構成図である。
図2】FIG.2は、車速と最低エンジン回転速度との関係を説明するダイアグラムである。
図3】FIGS.3A−3Cは、他の車両を牽引して登坂路を一定車速で走行する際の、車両の走行負荷、最低エンジン回転速度、目標エンジン回転速度の変化を示すタイミングチャートである。
図4】FIG.4は、この発明の第1の実施形態によるコントローラが実行する、最低エンジン回転速度Nebestの算出ルーチンを説明するフローチャートである。
図5】FIG.5は、コントローラの基本最低エンジン回転速度算出機能を説明するブロックダイアグラムである。
図6】FIG.6は、コントローラが格納する基本最低エンジン回転速度のマップの特性を示すダイアグラムである。
図7】FIG.7は、コントローラが格納する転がり抵抗のマップの特性を示すダイアグラムである。
図8】FIG.8は、コントローラが格納する、最低エンジン回転速度のマップの特性を示すダイアグラムである。
図9】FIG.9は、コントローラが実行する変速制御ルーチンを説明するためのフローチャートである。
図10】FIG.10は、コントローラが格納する基本目標エンジン回転速度のマップの特性を示すダイアグラムである。
図11】FIG.11は、この発明の第2の実施形態によるコントローラが実行する、牽引状態フラグ設定ルーチンを説明するフローチャートである。
図12】FIG.12は、FIG.11に類似するが、この発明の第3の実施形態を示す。
図13】FIG.13は、この発明の第4の実施形態による牽引車両と牽引車両の概略平面図である。
図14】FIG.14は、この発明の第4の実施形態によるコントローラが実行する、牽引状態フラグ設定ルーチンを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面のFIG.1を参照すると、この発明の第1の実施形態による変速比制御装置は車両41に適用される。車両41は走行用動力源として内燃エンジン1を備える。内燃エンジン1にはV―ベルト式の無段変速機2が接続される。内燃エンジン1は例えばガソリンエンジンで構成される。
【0011】
車両はドライバが操作するアクセルペダル3を備える。内燃エンジン1は電動モータ4に駆動される電子制御スロットル5を備える。アクセルペダル3と内燃エンジン1とは機械的に連結されず、コントローラ31がアクセルペダル3の踏み込み量に応じた目標スロットル開度指令信号を電動モータ4に入力することで、スロットル5の開度は目標スロットル開度tTVOへと制御される。
【0012】
無段変速機2は、トルクコンバータ6、プライマリプーリ7,セカンダリプーリ8,プライマリプーリ7とセカンダリプーリ8に掛け回されたV―ベルト9と、を備える。プライマリプーリ7にはトルクコンバータ6を介して内燃エンジン1の回転が入力される。無段変速機2の出力回転はセカンダリプーリ8に接続されたファイナルドライブギヤ21、22からディファレンシャル23を介して車輪24に伝達される。
【0013】
プライマリプーリ7とセカンダリプーリ8の各々は、V溝を形成する一対のシーブを備える。一対のシーブの一方は可動シーブ、もう一方は固定シーブで構成される。固定シーブに対して可動シーブを接近方向に駆動すると、V溝の幅が狭められる。逆に、固定シーブから可動シーブを離間方向に駆動すると、V溝の幅が広がる。V溝の幅の変化に応じて、V―ベルト9のプライマリプーリ7またはセカンダリプーリ8への巻き付き半径が変化し、結果として、無段変速機2の変速比が変化する。プライマリプーリ7の可動シーブは油圧供給装置10が供給するプライマリプーリ圧Ppriに駆動される。セカンダリプーリ8の可動シーブは油圧供給装置10が供給するセカンダリプーリ圧Psecに駆動される。コントローラ31は。プライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecの供給により、無段変速機2の変速比を目標変速比Itへと制御する
【0014】
スロットル5のスロットル開度と、プライマリプーリ7へ供給するプライマリプーリ圧Ppriと、セカンダリプーリ8へ供給するセカンダリプーリ圧Psecとを制御するコントローラ31は、中央演算装置 (CPU)、読み出し専用メモリ (ROM) 、ランダムアクセスメモリ (RAM) 及び入出力インタフェース (I/O インタフェース) を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラを複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0015】
コントローラ31には、アクセルペダル3の踏み込み量からアクセル開度APOを検出するアクセルペダル踏み込み量センサ32。電子制御スロットル5のスロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサ33、内燃エンジン1の回転速度Neを検出するクランク角センサ34。プライマリプーリ7の回転速度である変速機入力回転速度Ninを検出する回転速度センサ35、セカンダリプーリ8の回転速度である変速機出力回転速度Noutを検出する回転速度センサ36。及び車速VSPを検出する車速センサ37から、それぞれの検出データが信号として入力される。
【0016】
コントローラ31は、これらの信号に基づいて、電子制御スロットル5の目標スロットル開度tTVOと無段変速機2の目標変速比tIを算出する。コントローラ31は、算出した目標スロットル開度tTVOに応じた目標スロットル開度指令信号を電動モータ4に出力することで、電子制御スロットル5のスロットル開度を目標スロットル開度tTVOへと制御する。コントローラ31はまた、算出した目標変速比tIを実現するプライマリプーリ圧Ppriとセカンダリプーリ圧Psecを計算し、計算結果に対応する油圧指令指令を油圧供給装置10に出力することで、無段変速機2の変速比を制御する。
【0017】
FIG.13に示すように、車両41が別の車両42を牽引した状態(以下の説明では「牽引状態」と略称する。)で登坂路を昇る場合には、走行負荷が他の車両を牽引しない場合の走行負荷範囲を超えて特に大きくなる。
【0018】
FIG.2は、最ロー変速比の無段変速機2を介して車両41を駆動する場合に、必要な車両駆動力を得るための最低エンジン回転速度の特性を示す。ここでは、比較例によるエンジン回転速度下限値Nemin1の変化と、この発明による牽引状態でのエンジン回転速度下限値Nemin2の変化とが、車速VSPをパラメータとして重ねて示されている。エンジン回転速度下限値Nemin1とNemin2はいずれもアクセラレータ全開時の値である。比較例によるエンジン回転速度下限値Nemin1は車両の非牽引状態での最低エンジン回転速度に相当する。このダイアグラムによれば、車速VSPが一定車速VSP1の場合には、車両が非牽引状態での最低エンジン回転速度はNemin10、車両が牽引状態での最低エンジン回転速度はNemin20となる。
【0019】
比較例のエンジン回転速度下限値Nemin1は、駆動力要求と、騒音及び振動に関する要求とのバランスを考慮して定められる。すなわち、平坦路走行時にエンジン回転速度下限値Nemin1を高くすれば、最ロー変速比の無段変速機2を介して車両41を駆動する際に発生する車両駆動力が大きくなって走行し易くなる。同時に、内燃エンジン1の発生する騒音が大きくなり運転フィーリングが悪くなる。そこで、エンジン回転速度下限値Nemin1は、平坦路走行でのエンジン騒音によって運転フィーリングが悪くならない範囲で、できるだけ高い回転速度に設定される。
【0020】
FIGS.3A−3Cは、車両が牽引状態で平坦路を走行している状態から、登坂路にさしかかり、登坂路を走行する場合の車両の走行負荷の変化と、エンジンの回転速度の変化を例示している。具体的には、FIGS.3A−3Cは、車両が平坦路を走行中、時刻t1で登坂路にさしかかり、一定車速を維持しようとドライバがアクセルペダルを踏み込み、時刻t3でドライバがアクセルペダルを少し戻し、その後再びアクセルペダルを踏み込んで再加速する状況を示している。この間の車速VSPはFIG.2に示された一定値VSP1にほぼ維持されるものとする。FIG.3Bには、車速VSP1における非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin10と牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin20が重ねて示されている。
FIG.3Aを参照すると、車両の走行負荷は時刻t1に平坦路より登坂路に進入してからしばらくの間が最も大きい。登坂路に進入したあと平坦路と同等の車速が得られるようになると、走行負荷は減少する。
【0021】
FIG.3Bを参照すると、図に示された基本最低エンジン回転速度Nebest0は車両の走行負荷の変化に対して必要な車両駆動力を得るための最低エンジン回転速度を意味する。基本最低エンジン回転速度Nebest0は、牽引状態での登坂路を走行することに伴う走行負荷の増大に対応して増加する。走行負荷が減少すると、基本最低エンジン回転速度Nebest0も減少する。
非牽引状態で平坦路を走行する場合には、基本最低エンジン回転速度Nebest0がエンジン回転速度下限値Nemin10を超えることはない。しかしながら、車両が牽引状態で登坂路を走行する場合には、時刻t2から時刻t6の区間で基本最低エンジン回転速度Nebest0がエンジン回転速度下限値Nemin10を超えてしまう。
【0022】
つまり、平坦路走行に適合したエンジン回転速度下限値Nemin10は牽引状態での登坂路走行には適合しない。FIG.3Cの比較例は、最低エンジン回転速度Nebestにエンジン回転速度下限値Nemin10を適用し、車両が牽引状態で登坂路を走行する場合を示す。この比較例によれば、時刻t3でドライバがアクセルペダルを少し戻すと、目標エンジン回転速度Ne**は時刻t5にエンジン回転速度下限値Nemin10まで低下してしまう。その後、ドライバがアクセルペダルを再び踏み込むと、エンジン回転速度がこの落ち込みから回復するのに時間を要し、車両の再加速性が損なわれることになる。
【0023】
この発明の第1の実施形態による変速比制御装置は、車両が牽引状態で走行中の目標エンジン回転速度Ne**の以上のような立ち上がり遅れを回避するため、FIG.2に示すように、比較例のエンジン回転速度下限値Nemin1よりも高いエンジン回転速度下限値Nemin2を新たに導入する。以下の説明では、エンジン回転速度下限値Nemin2を「牽引状態の最低エンジン回転速度」と称する。一方、エンジン回転速度下限値Nemin1を「非牽引状態の最低エンジン回転速度」と称する。図に示されるように、牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2は、すべての車速域で非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1よりも高い。変速比制御装置は、車両が牽引状態かどうかを判定し、牽引状態と判定した場合には、非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1に代えて、牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2を適用することで、無段変速機2の変速制御を行なう。
【0024】
FIG.3Bを参照して、牽引状態において車速VSPがほぼ一定で平坦路を走行している状態から、登坂路に進入して、登坂路を走行する場合の、最低エンジン回転速度Nebestの変化を説明する。
【0025】
牽引状態におけるエンジン回転速度下限値Nemin2が適用されると、牽引状態の車両が車速をほぼ一定車速VSP1に保って平坦路より登坂路に進入する場合に、登坂中の最低エンジン回転速度はFIG.2のダイアグラムからNemin20となる。FIG.3Bを参照すると、牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin20は、基本最低エンジン回転速度Nebest0の上に位置している。前述のように、基本最低エンジン回転速度Nebest0は車両の走行負荷の変化に対して必要な車両駆動力を得るための最低エンジン回転速度である。したがって、エンジン回転速度が牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin20を下回っても、基本最低エンジン回転速度Nebest0以上に保たれていれば、車両の再加速は速やかに行われる。この発明の第1実施形態では、FIG.3Cに実線で示すように基本最低エンジン回転速度Nebest0をそのまま最低エンジン回転速度Nebestとして適用する。
【0026】
前述のように時刻t3にドライバがアクセルペダル3を一端戻し、その直後に再度アクセルペダル3を踏み込んで再加速する場合に、本発明の第1実施形態では次のようになる。すなわち、登坂路の途中でアクセルペダル3を一端戻すことで、目標エンジン回転速度Ne**は一気に低下するが、目標エンジン回転速度Ne**の低下はFig。3Bの実線に示される最低エンジン回転速度Nebestに到達する時刻t4で止まる。つまり、目標エンジン回転速度Ne**が最低エンジン回転速度Nebestを超えて低下することはない。ドライバがアクセルペダル3を再び踏み込むと、目標エンジン回転速度Ne**は最低エンジン回転速度Nebestから離れて上昇する。
【0027】
時刻t2からt6の区間では、本発明の第1実施形態による最低エンジン回転速度Nebestは比較例の最低エンジン回転速度Nebestより高いので、その分、目標エンジン回転速度Ne**の落ち込みが少なくなる。結果として、牽引状態での登坂路走行時に時刻t2からt6の区間で発生する目標エンジン回転速度Ne**の立ち上がり遅れが抑制され、牽引状態での登坂路走行時における再加速性能を改善することができる。
【0028】
なお、牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2は、非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1よりも高いので、牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2を採用すると、内燃エンジンの発生する騒音は大きくなる。しかしながら、非牽引状態での平坦路走行時と相違して、牽引状態での登坂路走行時には、牽引負荷の存在をドライバが認識しているので、エンジン騒音が多少大きくなっても許容されると考えられる。
【0029】
FIG.4を参照して、以上の制御のためにコントローラ31が実行する最低エンジン回転速度Nebestの算出ルーチンを説明する。コントローラ31は車両の走行中にこのルーチンを一定間隔、例えば10ミリ秒ごと、に実行する。
【0030】
ステップS1でコントローラ31は基本最低エンジン回転速度Nebest0を算出する。
【0031】
FIG.5を参照して、基本最低エンジン回転速度Nebest0の算出方法を説明する。
【0032】
コントローラ31は、車両駆動力算出部26、車両加速度算出部27、走行負荷算出部28、基本最低エンジン回転速度算出部29とで構成される基本最低エンジン回転速度算出部25を備える。
【0033】
車両駆動力算出部26はエンジントルクと無段変速機2の実変速比から車両の駆動力Fd(ニュートン(N))を算出する。例えば、エンジントルクと変速比をパラメータとする所定のマップを予め作成しておき、エンジントルクと実変速比からそのマップを検索することにより、車両の駆動力Fdを求めることができる。エンジントルクについては、エンジンの負荷と回転速度をパラメータとする所定のマップを予め作成しておき、エンジンの負荷と回転速度からそのマップを検索することにより、エンジントルクを求めればよい。実際の変速比rIは、回転速度センサ35が検出する変速機入力回転速度Ninと回転速度センサ36が検出する変速機出力回転速度Noutから次式により算出する。
【0034】
rI=Nin/Nout (1)
【0035】
車両加速度算出部27は車速センサ37が検出する車速VSPに基づいて車両の加速度αを算出する。車両の加速度αは車速VSPの微分値であるので、所定時間当たりの車速VSPの変化量を求め、求めた値を車両の加速度αとすればよい。
【0036】
走行負荷算出部28は、次式(2)の運動方程式に基づき車両駆動力Fdと車両加速度αから走行負荷(N)を算出する。
【0037】
F=M・α=Fd−R−X=Fd−(R+X) (2)
ただし、M:車両重量;
R:ころがり抵抗(空気抵抗を含む)(N);
X:登坂路走行や牽引状態で増える抵抗(N)。
【0038】
式(2)において、
R+X=Rdrv (3)
とおき、Rdrvを「走行負荷」と定義する。式(3)から分かるように、走行負荷は牽引状態によって増える抵抗だけでなく、登坂路走行によって増える抵抗をも含む。比較例では転がり抵抗Rまでは考慮しているが、登坂路走行や牽引状態で増える抵抗Xについては考慮していない。走行負荷Rdrvは次式(4)で得られる。
【0039】
Rdrv=Fd−M・α (4)
【0040】
式(4)は式(2)式を変換することで得られる。車両駆動力Fdと車両加速度αは前述の方法で算出する。これらを車両重量Mとともに式(4)に代入すれば、走行負荷Rdrvを算出できる。
【0041】
基本最低エンジン回転速度算出部29は、走行負荷RdrvからFIG.6に示す特性の予めコントローラ31のROMに格納されたマップを参照して、基本最低エンジン回転速度Nebest0を算出する。基本最低エンジン回転速度Nebest0は最ロー変速比の無段変速機2を介して車両41を駆動する場合に必要な車両駆動力が得られる最低のエンジン回転速度を意味する。基本最低エンジン回転速度Nebest0は、平坦路であるか登坂路であるか、及び牽引状態であるか牽引状態でないかを考慮して決められる。すなわち、これらは走行負荷Rdrvとして、FIG.6の基本最低エンジン回転速度Nebest0のマップのパラメータに用いられている。図に示すように走行負荷Rdrvが大きくなるほど、高い基本最低エンジン回転速度Nebest0が必要とされる。
【0042】
再びFIG.4を参照すると、コントローラ31は、ステップS1で基本最低エンジン回転速度Nebest0を算出した後、ステップS2で牽引フラグから車両41が牽引状態にあるか否かを判定する。
【0043】
FIG.5を参照すると、コントローラ31はこの判定に用いる牽引フラグを、転がり抵抗算出部52、減算部53、比較部54とで構成される牽引状態判定部51において設定する。この図に示す各ブロックもコントローラの各機能を、仮想的なユニットとして示したものであり、物理的な存在を意味しない。
【0044】
ころがり抵抗算出部52は、車速VSPからFIG.7に示す特性のあらかじめコントローラ31のROMに格納されたマップを参照して、転がり抵抗R(N)を算出する。なお、転がり抵抗Rには車両の空気抵抗も含まれる。減算部53は式(3)に基づき、走行負荷Rdrvから転がり抵抗Rを差し引くことで、登坂路走行や牽引状態による増加抵抗X(N)を算出する。
【0045】
比較部54は登坂路走行や牽引状態による増加抵抗Xとしきい値(N)を比較する。登坂路走行や牽引状態で増える抵抗Xがしきい値以上の場合には、牽引状態であると判断し、牽引状態フラグを1に設定する。なお、牽引状態フラグはエンジンの始動時または車両の運転開始時にゼロに初期設定される。ここで、牽引状態であると判断される場合には、牽引状態での登坂路走行時の他に、牽引状態での平坦路走行や非牽引状態での登坂路走行が含まれる。一方、登坂路走行や牽引状態による増加抵抗Xがしきい値未満の場合には、非牽引状態であると判断し、牽引状態フラグをゼロにリセットする。
【0046】
しきい値は、エンジン回転速度下限値として牽引状態のNemin2を用いるか、非牽引状態のNemi1を用いるかを判別するための値である。しきい値は予め適合により設定しておく。
【0047】
再びFIG.4を参照すると、コントローラ31はステップS2で牽引判定部51から出力される牽引状態フラグを判定する。牽引フラグが1の場合は、コントローラ31はステップS3の処理を行なう。牽引フラグがゼロの場合は、コントローラ31はステップS7の処理を行なう。
【0048】
ステップS3で、コントローラ31は車速センサ37が検出する車速VSPからFIG.8の実線に示す特性の予めROMに格納されたマップを参照して、牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2を算出する。FIG.8の実線に示すように牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2は車速VSPが大きくなるほど高くなる値である。FIG.8のマップはあらかじめ適合により設定しておく。
【0049】
コントローラ31は次のステップS4で、基本最低エンジン回転速度Nebest0と牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2とを比較する。基本最低エンジン回転速度Nebest0が牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2以上の場合には、コントローラ31はステップS5で最低エンジン回転速度Nebestとして牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2を設定する。ここで、最低エンジン回転速度Nebestとして牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2を設定するのは、騒音抑制を考慮しているためである。
【0050】
一方、ステップS4で、基本最低エンジン回転速度Nebest0が牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2未満の場合には、コントローラ31はステップS6で最低エンジン回転速度Nebestとして基本最低エンジン回転速度Nebest0を設定する。目標エンジン回転速度が基本最低エンジン回転速度Nebest0以上である限りは、牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2を下回っても再加速に関する問題は生じない。再加速に支障がない限り、騒音抑制のために目標エンジン速度を低くすることが望ましい。そこで、コントローラ31はステップS6で最低エンジン回転速度Nebestとして基本最低エンジン回転速度Nebest0を設定する。
【0051】
一方、ステップS7でコントローラ31は、車速センサ37により検出される車速VSPからFIG.8の破線に示す特性の予めROMに格納されたマップを参照して、非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1を算出する。図の破線に示すように非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1も車速VSPが高くなるほど高くなる値である。牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin2はこの非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1よりも全ての車速域で高くなっている。
【0052】
ステップS8でコントローラ31は、基本最低エンジン回転速度Nebest0と非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1を比較する。基本最低エンジン回転速度Nebest0が非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1以上の場合には、コントローラ31はステップS9で、最低エンジン回転速度Nebestとして非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1を設定する。基本最低エンジン回転速度Nebest0が非牽引状態のエンジン回転速度下限値Nemin1未満の場合には、コントローラ31はステップS10で、最低エンジン回転速度Nebestとして基本最低エンジン回転速度Nebest0を設定する。
【0053】
以上のようにして設定した最低エンジン回転速度NebestはRAMに記憶させておく。
【0054】
FIG.9を参照して、コントローラ31が最低エンジン回転速度Nebestを用いて実行する無段変速機2の変速制御ルーチンを説明する。コントローラ31は車両の走行中にこのルーチンを一定間隔、例えば10ミリ秒ごと、に実行する。
【0055】
ステップS21でコントローラ31は、車速VSP、アクセル開度APOからFIG.10に示す特性のマップを参照して、基本目標エンジン回転速度Ne*を算出する。
【0056】
ステップS22でコントローラ31は基本目標エンジン回転速度Ne*を最低エンジン回転速度Nebestと比較する。基本目標エンジン回転速度Ne*が最低エンジン回転速度Nebest以下の場合には、コントローラ31は目標エンジン回転速度Ne**を最低エンジン回転速度Nebestで制限すべくに、目標エンジン回転速度Ne**として最低エンジン回転速度Nebestを設定する。
【0057】
目標エンジン回転速度Ne**として最低エンジン回転速度Nebestを設定するのは、次の理由からである。すなわち、前述のように最低エンジン回転速度Nebestは、最ロー変速比の無段変速機2を介して車両41を駆動する場合に必要な車両駆動力が得られるように設定された最低のエンジン回転速度である。基本目標エンジン回転速度Ne*が最低エンジン回転速度Nebest以下の場合に、目標エンジン回転速度Ne**として基本目標エンジン回転速度Ne*を設定すると、最ロー変速比の無段変速機2を介して車両41を駆動する際に、必要な車両駆動力が得られなくなる。そこで、目標エンジン回転速度Ne**として、基本目標エンジン回転速度Ne*に代えて最低エンジン回転速度Nebestを設定することで、最ロー変速比の無段変速機2を介して車両41を駆動する際の車両駆動力が不足しないようにするのである。
【0058】
一方、基本目標エンジン回転速度Ne*が最低エンジン回転速度Nebest以上の場合は、目標エンジン回転速度Ne**として基本目標エンジン回転速度Ne*をそのまま出力しても、最ロー変速比の無段変速機2を介して車両41を駆動する際に、必要な車両駆動力を得ることができる。つまり、目標エンジン回転速度Ne**を最低エンジン回転速度Nebestに制限する必要がないので、基本目標エンジン回転速度Ne*をそのまま目標エンジン回転速度Ne**として出力する。
【0059】
ステップS25でコントローラ31は、目標エンジン回転速度**を、回転速度センサ36により検出される変速機出力回転速度Noutで除算することにより、つまり次式(5)により無段変速機2の目標変速比tIを算出する。
【0060】
tI=Ne**/Nout (5)
【0061】
ステップS26でコントローラ31は、目標変速比tIを油圧アクチュエータ10への指令信号に変換して出力する。
【0062】
この実施形態では、走行負荷に基づきコントローラ31が、FIG.4の最低エンジン回転速度Nebestの算出ルーチンを実行する。すなわちステップS2で車両の走行負荷が所定値以上かどうかを判定し、車両の走行負荷が所定値以上の場合は、ステップS5又はS6で最低エンジン回転速度Nebestを設定する。車両の走行負荷が所定値未満の場合は、ステップS9またはS10で最低エンジン回転速度Nebestを設定する。ステップS9またはS10で設定される最低エンジン回転速度Nebestを第2の値、ステップS5またはS6で設定される最低エンジン回転速度Nebestを第1の値とすると、第2の値は第1の値より大きい。コントローラ31はこのようにして設定した最低エンジン回転速度Nebestを用いて、FIG.9の変速制御ルーチンの実行により、ステップS21−S25で無段変速機2の目標変速比tIを決定し、ステップS26で無段変速機2の変速比をも目標変速比tIへと制御する。
【0063】
したがって、牽引状態での登坂など走行負荷が増大した状態での走行においては、非牽引状態のように走行負荷が小さい状態における最低エンジン回転速度が適用されず、走行負荷が増大した状態での走行においても好ましい再加速性能を維持することができる。
【0064】
詳細には、コントローラ31は、第1の値と第2の値とを走行負荷に応じて設定する。すなわち、ステップS6とS10で用いる基本最低エンジン回転速度Nebest0をFIG.5に示す走行負荷算出部28が算出する走行負荷Rdrvに基づき算出する。そのため、走行負荷Rdrvの変化に応じて最適の基本最低エンジン回転速度Nebest0を算出することができ、車両の再加速性能とエンジン騒音の抑制という相反する課題を同時に満たすうえで好ましい効果が得られる。
【0065】
さらに、この発明の第1の実施形態による変速比制御装置は、内燃エンジン1の負荷としてアクセルペダル踏み込み量センサ32が検出したアクセル開度APOと、エンジンの回転速度Neを検出するクランク角センサ34と、車速VSPを検出する車速センサ37とを備えている。コントローラ31はFIG.5に示す駆動力算出部26において、アクセル開度APOとエンジン回転速度Neからマップを参照してエンジントルクを算出する。駆動力算出部26においてはさらに、エンジントルクと無段変速機2の実変速比とから車両の駆動力Fdが計算される。一方、車両加速度算出部27において車速VSPから車両加速度αが算出される。そして、走行負荷算出部28において、駆動力Fdと車両加速度αから走行負荷Rdrvが算出される。
【0066】
アクセルペダル踏み込み量センサ32と、クランク角センサ34と、車速センサ37とは、変速比制御装置においても使用されていたセンサであるしたがって、新たなセンサ等を追加することなく走行負荷Rdrvを求めることができる。また、このような計算方法により、別の車両42を牽引することによって増加する抵抗や登坂路を登坂することによって増加する抵抗についても、走行負荷Rdrvに含めることができる。
【0067】
次にFIG.11を参照して、この発明の第2の実施形態を説明する。
【0068】
FIG.11はこの発明の第2の実施形態によるコントローラ31が実行する牽引状態フラグ設定ルーチンを示す。第1の実施形態においては、牽引判定部51で牽引状態フラグを設定していたが、この実施形態では、コントローラ31が牽引状態フラグ設定ルーチンを実行することで牽引状態フラグを設定する。コントローラ31は車両の走行中にこの牽引状態フラグ設定ルーチンを一定間隔、例えば10ミリ秒ごと、に実行する。
【0069】
この実施形態においては、FIG.1に示すように、車両が備えるナビゲーションシステム38からコントローラ31に車両が走行する路面の勾配θ(%)が入力される。コントローラ31は、ステップS31で路面勾配θ(%)をしきい値としての10(%)と比較する。なお、路面勾配θは、走行路面上の2点の高さの差と距離から次式(6)によりtanθとして求める。
【0070】
tanθ=(2点の高さの差)/(2点を結ぶ距離) (6)
【0071】
路面勾配θは次式(7)により求めることができる。
【0072】
θ=arctan{(2点の高さの差)/(2点を結ぶ距離)} (7)
【0073】
式(7)で用いるarctanの関数をナビゲーションシステム38に予め組み込んでおくことも好ましい。さて、コントローラ31はステップS31で路面勾配θが10(%)以上であれば、牽引状態であると判断して、ステップS32で牽引状態フラグを1にセットする。牽引状態フラグは内燃エンジン1の始動時または車両の運転開始時にゼロに初期設定される。ステップS31で路面勾配θが10(%)未満の場合には、コントローラ31は牽引状態でないと判断して、ステップS33で牽引状態フラグをゼロにリセットする。
【0074】
走行負荷Rdrvに基づいて牽引状態にあるか否かを判定する第1の実施形態のコントローラ31は、牽引状態での登坂路走行にかぎらず、牽引状態での平坦路走行や非牽引状態での登坂路走行についても、牽引状態と判定する可能性がある。この実施形態によれば、路面勾配θに基づいて牽引状態かどうかを判定するので、牽引状態での平坦路走行時に牽引状態と判定されることはない。この実施形態は、したがって、第1の実施形態の簡易版に相当する。この実施形態によるコントローラ31は、FIG.11の牽引状態フラグ設定ルーチンの実行により設定した牽引状態フラグを用いてFIG.4の最低エンジン回転速度Nebestの算出ルーチンを実行する。
【0075】
この実施形態によれば簡易な構成でこの発明を実行することが可能である。
【0076】
FIG.12を参照して、この発明の第3の実施形態を説明する。
【0077】
第1の実施形態及び第2の実施形態によるコントローラ31は、ドライバの意思に関係なく車両が牽引状態にあるかどうかを判定していた。この実施形態においては、FIG.1に示すように車両の運転席にドライバが操作する牽引スイッチ39が設けられる。コントローラ31は牽引スイッチ39のON/OFFに基づいて車両が牽引状態にあるかどうかを判定する。
【0078】
そのために、この実施形態によるコントローラ13は、第2の実施形態のFIG.11の牽引状態フラグ設定ルーチンに代えて、FIG.12の牽引状態フラグ設定ルーチンを実行する。他の構成は、第2の実施形態のコントローラ13と同じである。
【0079】
この実施形態では、牽引状態と非牽引状態の最低エンジン回転速度の切り換えを実質的にドライバにゆだねることとなる。すなわち、牽引状態での登坂路走行に必要な駆動力を得たいとドライバが思えば、ドライバは牽引スイッチ39をOFFからONに切換える。
【0080】
FIG.12を参照すると、コントローラ13はステップS41で牽引スイッチ39がONかどうかを判定する。牽引スイッチ39がONの場合は、コントローラ31は牽引状態であると判断し、ステップS32で牽引状態フラグを1に設定する。牽引状態フラグは他の実施形態と同様に内燃エンジン1の始動時または車両の運転開始時にゼロに初期設定される。一方、ステップS41で牽引スイッチ39がONでない場合は、コントローラ31は牽引状態でないと判断し、ステップS33で牽引状態フラグをゼロにリセットする。
【0081】
この実施形態によるコントローラ31は、FIG.12の牽引状態フラグ設定ルーチンの実行により設定した牽引状態フラグを用いてFIG.4の最低エンジン回転速度Nebestの算出ルーチンを実行する。
【0082】
この実施形態によれば、ドライバの要求に応じた最低エンジン回転速度の切り換えを行なうことができる。
【0083】
FIGS.13と14を参照して、この発明の第4の実施形態を説明する。
【0084】
FIG.13を参照すると、この実施形態では、車両41と被駆動車両42とを一対のカプラー43と44で結合する。カプラー43と44は操作に応じて締結され、解放される。
【0085】
一対のカプラー43と44が締結されているかどうかを判定するため、この実施形態による変速比制御装置は、一対のカプラー43と44が締結された状態でONになり、一対のカプラー43と44の非締結状態でOFFとなる締結スイッチ45を備える。運転席にも、締結スイッチ45からの信号に応じて、一対のカプラー43と44が締結状態で点灯し、非締結状態で消灯するランプを設けておく。コントローラ31は締結スイッチ45からの信号に基づいて牽引状態にあるかどうかの判定を行なう。
【0086】
この実施形態によるコントローラ13は、第2の実施形態のFIG.11の牽引状態フラグ設定ルーチンに代えて、FIG.14の牽引状態フラグ設定ルーチンを実行する。他の構成は、第2の実施形態のコントローラ13と同じである。
【0087】
FIG.14を参照すると、コントローラ31はステップS51では締結スイッチ45がONかどうかを判定する。締結スイッチ45がONであれば、コントローラ31は牽引状態であると判断し、ステップS32で牽引状態フラグを1にセットする。牽引状態フラグは他の実施形態と同様に内燃エンジン1の始動時または車両の運転開始時にゼロに初期設定される。一方、ステップS51で締結スイッチ45がONでない場合には、コントローラ31は牽引状態でないと判断し、ステップS33で牽引状態フラグをゼロにリセットする。
【0088】
この実施形態によるコントローラ31は、FIG.14の牽引状態フラグ設定ルーチンの実行により設定した牽引状態フラグを用いてFIG.4の最低エンジン回転速度Nebestの算出ルーチンを実行する。
【0089】
この実施形態によれば、カプラー43と44の締結状態と非締結状態を確実に最低エンジン回転速度の切り換え反映させることができる。
【0090】
以上の説明に関して2012年4月2日を出願日とする日本国における特願2012−84020号、の内容をここに引用により合体する。
【0091】
以上、この発明をいくつかの特定の実施例を通じて説明してきたが、この発明は上記の各実施例に限定されるものではない。当業者にとっては、クレームの技術範囲でこれらの実施例にさまざまな修正あるいは変更を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上のように、この発明の変速比制御によれば、車両が別の車両を牽引して登坂路を走行する際の再加速性能を改善することができる。別の車両を牽引する機会の多い牽引用車両にこの発明を適用することで、車両の再加速性能の維持と騒音の抑制に関して好ましい効果を期待することができる。
【0093】
この発明の実施例が包含する排他的性質あるいは特長は以下のようにクレームされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14