(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1クラッチドラム、第1ピストンおよび第1係合油室を有する第1クラッチと、前記第1クラッチドラムの外周部に固定される第2クラッチドラム、第2ピストンおよび第2係合油室を有する第2クラッチとを備える変速装置において、
前記第1クラッチドラムは、軸方向に延在すると共に第1摩擦係合プレートの外周部が嵌合される第1外筒部と、前記第1外筒部の内側で軸方向に延在すると共に前記第1ピストンの内周部を移動自在に支持する第1内筒部と、前記第1外筒部と前記第1内筒部との径方向における間で前記軸方向に延在する第1中間筒部と、前記第1中間筒部と前記第1外筒部との間で径方向に延在する第1外側環状壁部と、前記第1内筒部と前記第1中間筒部との間で径方向に延在する第1内側環状壁部とを含み、
前記第1外筒部、前記第1内筒部、前記第1中間筒部、前記第1外側環状壁部および前記第1内側環状壁部は、一体に成形され、
前記第1クラッチドラムには、前記第2クラッチの前記第2係合油室内で発生する遠心油圧をキャンセルするための第2キャンセル油室を画成するキャンセル油室画成部が前記第1外筒部の外周面から外方に延びるように一体に成形されており、
前記キャンセル油室画成部の端面は、前記第1外側環状壁部の端面よりも前記第1クラッチドラムの開放端側に位置し、前記第2キャンセル油室は、前記キャンセル油室画成部に対して前記第1クラッチドラムの開放端とは反対側に画成されることを特徴とする変速装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る変速装置としての自動変速機25を含む動力伝達装置20の概略構成図である。同図に示す動力伝達装置20は、前輪駆動車両に搭載される図示しないエンジンのクランクシャフトに接続されると共にエンジンからの動力を図示しない左右の駆動輪(前輪)に伝達可能なものである。図示するように、動力伝達装置20は、トランスミッションケース22や、当該トランスミッションケース22の内部に収容される発進装置(流体伝動装置)23、オイルポンプ24、自動変速機25、ギヤ機構(ギヤ列)40、デファレンシャルギヤ(差動機構)50等を含む。
【0019】
動力伝達装置20に含まれる発進装置23は、エンジンのクランクシャフトに接続される入力側のポンプインペラ23pや、自動変速機25の入力軸(入力部材)26に接続される出力側のタービンランナ23t、ポンプインペラ23pおよびタービンランナ23tの内側に配置されてタービンランナ23tからポンプインペラ23pへの作動油の流れを整流するステータ23s、ステータ23sの回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ23o、ロックアップクラッチ23c、ダンパ機構23d等を有するトルクコンバータとして構成される。ただし、発進装置23は、ステータ23sを有さない流体継手として構成されてもよい。
【0020】
オイルポンプ24は、ポンプボディとポンプカバーとを含むポンプアッセンブリ、ハブを介して発進装置23のポンプインペラ23pに接続された外歯ギヤ、当該外歯ギヤに噛合する内歯ギヤ等を有するギヤポンプとして構成されている。オイルポンプ24は、エンジンからの動力により駆動され、図示しないオイルパンに貯留されている作動油(ATF)を吸引して発進装置23や自動変速機25により要求される油圧を生成する図示しない油圧制御装置へと圧送する。
【0021】
自動変速機25は、8段変速式の変速機として構成されており、
図1に示すように、入力軸26に加えて、ダブルピニオン式の第1遊星歯車機構30、ラビニヨ式の第2遊星歯車機構35、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための4つのクラッチC1,C2,C3およびC4、2つのブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1を含む。
【0022】
自動変速機25の第1遊星歯車機構30は、外歯歯車であるサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ32と、互いに噛合すると共に一方がサンギヤ31に、他方がリングギヤ32に噛合する2つのピニオンギヤ33a,33bの組を自転自在(回転自在)かつ公転自在に複数保持するプラネタリキャリヤ34とを有する。図示するように、第1遊星歯車機構30のサンギヤ31は、トランスミッションケース22に固定されており、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34は、入力軸26に一体回転可能に連結されている。第1遊星歯車機構30は、いわゆる減速ギヤとして構成されており、入力要素であるプラネタリキャリヤ34に伝達された動力を減速して出力要素であるリングギヤ32から出力する。
【0023】
自動変速機25の第2遊星歯車機構35は、外歯歯車である第1サンギヤ36aおよび第2サンギヤ36bと、第1および第2サンギヤ36a,36bと同心円上に配置される内歯歯車であるリングギヤ37と、第1サンギヤ36aに噛合する複数のショートピニオンギヤ38aと、第2サンギヤ36bおよび複数のショートピニオンギヤ38aに噛合すると共にリングギヤ37に噛合する複数のロングピニオンギヤ38bと、複数のショートピニオンギヤ38aおよび複数のロングピニオンギヤ38bを自転自在(回転自在)かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤ39とを有する。第2遊星歯車機構35のリングギヤ37は、自動変速機25の出力部材として機能し、入力軸26からリングギヤ37に伝達された動力は、ギヤ機構40、デファレンシャルギヤ50およびドライブシャフト51を介して左右の駆動輪に伝達される。また、プラネタリキャリヤ39は、ワンウェイクラッチF1を介してトランスミッションケース22により支持され、当該プラネタリキャリヤ39の回転方向は、ワンウェイクラッチF1により一方向に制限される。
【0024】
クラッチC1は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第1サンギヤ36aとを締結(連結)すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチ(摩擦係合要素)である。クラッチC2は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、入力軸26と第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39とを締結(連結)すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC3は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結(連結)すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。クラッチC4は、ピストン、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結(連結)すると共に両者の締結を解除することができる多板摩擦式油圧クラッチである。
【0025】
ブレーキB1は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bをトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共に第2サンギヤ36bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。ブレーキB2は、複数の摩擦プレートやセパレータプレート、作動油が供給される油室等により構成される油圧サーボを有し、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39をトランスミッションケース22に回転不能に固定すると共にプラネタリキャリヤ39のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる多板摩擦式油圧ブレーキである。
【0026】
また、ワンウェイクラッチF1は、第2遊星歯車機構35のプラネタリキャリヤ39に連結(固定)されるインナーレースや、アウターレース、複数のスプラグ、複数のスプリング(板バネ)、保持器等を含み、インナーレースに対してアウターレースが一方向に回転した際に各スプラグを介してトルクを伝達すると共に、インナーレースに対してアウターレースが他方向に回転した際に両者を相対回転させるものである。ただし、ワンウェイクラッチF1は、ローラ式といったようなスプラグ式以外の構成を有するものであってもよい。
【0027】
これらのクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2は、上記油圧制御装置による作動油の給排を受けて動作する。
図2に自動変速機25の各変速段とクラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2、並びにワンウェイクラッチF1の作動状態との関係を表した作動表を示し、
図3に自動変速機25を構成する回転要素間における回転数の関係を例示する速度線図を示す。自動変速機25は、クラッチC1〜C4、ブレーキB1およびB2を
図2の作動表に示す状態とすることで前進1〜8速の変速段と後進1速および2速の変速段とを提供する。なお、クラッチC1,C2、ブレーキB1およびB2の少なくとも何れかは、ドグクラッチといった噛み合い係合要素とされてもよい。
【0028】
ギヤ機構40は、自動変速機25の第2遊星歯車機構35のリングギヤ37に連結されるカウンタドライブギヤ41と、自動変速機25の入力軸26と平行に延在するカウンタシャフト42に固定されると共にカウンタドライブギヤ41に噛合するカウンタドリブンギヤ43と、当該カウンタドリブンギヤ43から軸方向に離間するようにカウンタシャフト42に一体に成形(あるいは固定)されたドライブピニオンギヤ(ファイナルドライブギヤ)44と、ドライブピニオンギヤ44に噛合すると共にデファレンシャルギヤ50に連結されるデフリングギヤ(ファイナルドリブンギヤ)45とを有する。
【0029】
図4は、動力伝達装置20の要部を示す部分断面図である。同図は、動力伝達装置20の自動変速機25に含まれるクラッチC3およびC4の周辺の構成を示すものである。図示するように、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結するクラッチ(第2クラッチ)C3は、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結するクラッチ(第1クラッチ)C4の周囲に配置される。
【0030】
クラッチC3は、クラッチハブ(第2クラッチハブ)3と、内周部がクラッチハブ3に嵌合される複数の摩擦プレート(第2摩擦係合プレート)304fと、クラッチドラム(第2クラッチドラム)300と、外周部がクラッチドラム300に嵌合される複数のセパレータプレート(第2摩擦係合プレート)304sおよびバッキングプレート304bと、摩擦プレート304fとセパレータプレート304sとを押圧して摩擦係合させるピストン(第2ピストン)305とを有する。クラッチハブ3は、動力入力部材としての第1遊星歯車機構30のリングギヤ32に連結されて当該リングギヤ32と一体に回転する。クラッチドラム300は、動力出力部材(動力の伝達対象)としての第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結されて当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。クラッチハブ3に嵌合される摩擦プレート304fは、両面に摩擦材が貼着された環状部材であり、クラッチドラム300に嵌合されるセパレータプレート304sは、両面が平滑に形成された環状部材である。
【0031】
図4および
図5に示すように、クラッチC3のクラッチドラム300は、当該クラッチドラム300(自動変速機25)の軸方向に延在すると共に図示しない連結部材を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結される略円筒状の外筒部(第2外筒部)301と、外筒部301の基端(
図4における右端)から内方に延出された略円盤状の環状壁部(第2環状壁部)302と、環状壁部302の内周部から外筒部301の内側に位置するように当該外筒部301と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム300の軸方向に延在する略円筒状の内筒部(第2内筒部)303とを含む。外筒部301、環状壁部302および内筒部303は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部302は、外筒部301の基端と内筒部303の基端との間で径方向に延在する。このように構成されるクラッチドラム300では、外側の外筒部301と内側の内筒部303とがそれぞれリブとして機能することから、その強度を良好に向上させることができる。
【0032】
クラッチドラム300の外筒部301の内周面には、各セパレータプレート304sの外周部に形成された凹凸部と係合可能なスプライン301sが形成されており、外筒部301のスプライン301sには、クラッチハブ3に嵌合された複数の摩擦プレート304fと交互に並ぶように複数のセパレータプレート304sが嵌合される。また、バッキングプレート304bは、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図4における左側)に配置される摩擦プレート304fと当接可能となるように外筒部301のスプライン301sに嵌合され、当該外筒部301に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。
【0033】
内筒部303は、外筒部301よりも短尺に形成されており、内筒部303の外周面と当該内筒部303を囲む外筒部301の内周面とによりピストン305の内周部が軸方向に移動自在に支持される。そして、ピストン305の内周部と内筒部303の外周面との間およびピストン305の外周部と外筒部301の内周面との間には、シール部材が配置され、クラッチドラム300の環状壁部302とピストン305の背面との間には、クラッチC3を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室(第2係合油室)306が画成される。すなわち、クラッチC3では、クラッチドラム300とピストン305とにより係合油室306が画成される。なお、本実施形態において、最もエンジン側(
図4における右側)に位置するセパレータプレート304sと当接するピストン305の押圧部の外周部には、外筒部301のスプライン301sと係合可能な凹凸部が形成されており、ピストン305は、スプライン301sによってもガイドされる。更に、
図4および
図5に示すように、内筒部303には、それぞれ係合油室306と連通する複数の油孔(貫通孔)303xが周方向に間隔おいて形成されており、内筒部303の内周面303iには、それぞれ対応する油孔303xを囲む複数の浅い凹部303rが形成されている。
【0034】
クラッチC4は、クラッチハブ(第1クラッチハブ)4と、内周部がクラッチハブ4に嵌合される複数の摩擦プレート(第1摩擦係合プレート)404fと、クラッチドラム(第1クラッチドラム)400と、外周部がクラッチドラム400に嵌合される複数のセパレータプレート(第1摩擦係合プレート)404sおよびバッキングプレート404bと、摩擦プレート404fとセパレータプレート404sとを押圧して摩擦係合させるピストン(第1ピストン)405とを有する。クラッチハブ4は、動力入力部材としての第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34に連結されて当該プラネタリキャリヤ34と一体に回転する。クラッチドラム400は、動力出力部材(動力の伝達対象)としての第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結されて当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。クラッチハブ4に嵌合される摩擦プレート404fは、両面に摩擦材が貼着された環状部材であり、クラッチドラム400に嵌合されるセパレータプレート404sは、両面が平滑に形成された環状部材である。
【0035】
図4、
図6および
図7に示すように、クラッチC4のクラッチドラム400は、クラッチドラム400(自動変速機25)の軸方向に延在すると共に図示しない連結部材を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結される略円筒状の外筒部(第1外筒部)401と、外筒部401の一端から内方に延出された略円盤状の環状壁部(第1環状壁部)402と、環状壁部402の内周部から外筒部401の内側に位置するように当該外筒部401と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム400の軸方向に延在する略円筒状の内筒部(第1内筒部)403とを含む。外筒部401、環状壁部402および内筒部403は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部402は、外筒部401の基端と内筒部403の基端との間で径方向内側に延在する。
【0036】
クラッチドラム400の外筒部401の内周面には、各セパレータプレート404sの外周部に形成された凹凸部と係合可能なスプライン401sが形成されており、外筒部401のスプライン401sには、クラッチハブ
4に嵌合された複数の摩擦プレート
404fと交互に並ぶように複数のセパレータプレート
404sが嵌合される。また、バッキングプレート
404bは、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図4における左側)に配置される摩擦プレート404fと当接可能となるように外筒部401のスプライン401sに嵌合され、当該外筒部401に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。
【0037】
クラッチドラム400の環状壁部402は、外筒部401の基端から内筒部403側すなわち径方向内側に延出された外側壁部(第1外側環状壁部)402aと、外側壁部402aに対して外筒部401から離間する方向にオフセットされて当該外側壁部402aよりもエンジン側(クラッチドラム400の遊端部(開放端)と反対側、
図4における右側)に位置すると共に、外側壁部402aと内筒部403との間で径方向に延在する内側壁部(第1内側環状壁部)402bとを含む。これにより、環状壁部402には、外側壁部402aを介して外筒部401の反対側に位置するように、当該外筒部401よりも縮径された外周面402oおよび内周面402iを有すると共に外筒部401と内筒部403との径方向における間でクラッチドラム400の軸方向に延在する縮径部(第1中間筒部)402nが形成される。また、クラッチドラム400の内筒部403は、外筒部401よりも長尺に形成されており、内筒部403の外周面と縮径部402nの内周面402iとによりピストン405が軸方向に移動自在に支持される。
【0038】
本実施形態において、クラッチC4のピストン405は、内筒部403の外周面により移動自在に支持される基部(内周部)405pと、縮径部402nの内周面402iにより移動自在に支持される筒状部405qと、最もエンジン側(図における右側)に位置するセパレータプレート404sと当接する押圧部405rとを有し、押圧部405rの外周部には、外筒部401のスプライン401sと係合可能な凹凸部が形成されている。これにより、ピストン405は、スプライン401sによってもガイドされる。そして、ピストン405の基部405pと内筒部403の外周面との間およびピストン405の筒状部405qと縮径部402nの内周面402iとの間には、シール部材が配置され、クラッチドラム400の内側壁部402bとピストン405の背面との間には、クラッチC4を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室(第1係合油室)406が画成される。すなわち、クラッチC4では、クラッチドラム400とピストン405とにより係合油室406が画成される。また、内筒部403には、それぞれ係合油室406と連通する複数のC4係合油室用油孔403xが周方向に間隔おいて形成されており、係合油室406には、入力軸26等に形成された油路(図示省略)や当該複数のC4係合油室用油孔403xを介して作動油が給排される。
【0039】
更に、クラッチドラム400の内筒部403は、ピストン405よりも第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図4における左側)に位置するようにキャンセルプレート407を一体回転するように支持する。キャンセルプレート407の内周部は、内筒部403に装着されたスナップリングにより軸方向に支持され、キャンセルプレート407の外周部とピストン405の筒状部405qの内周面との間には、シール部材が配置される。これにより、キャンセルプレート407は、係合油室406内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室(第1キャンセル油室)408をピストン405と共に画成する。また、内筒部403には、それぞれ遠心油圧キャンセル室408と連通する複数のC4キャンセル室用油孔403yが周方向に間隔おいて形成されており、ピストン405とキャンセルプレート407との間には、複数のリターンスプリング409が配置される。
【0040】
上述のように構成されるクラッチC4の周囲に配置されるクラッチC3のクラッチドラム300は、外筒部401の少なくとも一部を囲むようにクラッチC4のクラッチドラム400の外周面に固定される。すなわち、クラッチドラム300の内筒部303は、その先端面がクラッチドラム400(環状壁部402)の外側壁部402aの背面と当接するようにクラッチドラム400の縮径部402nに嵌合され、内筒部303の内周面303iは、縮径部402nの外周面402oに溶接(例えば、電子ビーム溶接またはレーザー溶接)により接合される。これにより、上述のように外側の外筒部301と内側の内筒部303とをそれぞれリブとして機能させてクラッチドラム300の強度を良好に向上させつつ、内筒部303とクラッチドラム400との接合部を内径側に寄せても、内筒部303(内周面303i)およびクラッチドラム400の縮径部402n(外周面402o)の軸長、すなわち内筒部303とクラッチドラム400との接合長さを充分に確保してクラッチドラム300および400の接合強度をより向上させることができる。この結果、自動変速機25では、クラッチドラム300および400が第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bと一体に回転する際に、クラッチドラム300の外筒部301の遊端部(
図4における左端部)が遠心力により外方に拡がるのを良好に抑制することが可能となる。また、クラッチドラム300を内筒部303の先端がクラッチドラム400の外側壁部402aの背面と当接するように縮径部402nに嵌合することで、外側壁部402aによりクラッチドラム300を軸方向に精度よく位置決めすることができる。なお、電子ビームをクラッチドラム400の開放端側から垂直(クラッチドラム400の軸方向)に照射してクラッチドラム300の内筒部303の先端面をクラッチドラム400(環状壁部402)の外側壁部402aの背面に溶接してもよい。これにより、クラッチドラム300および400の接合強度をより一層高めて全体の剛性を向上させることができる。
【0041】
そして、本実施形態の自動変速機25では、クラッチC4のクラッチドラム400(ドラム外周面すなわち外筒部401)に、外側のクラッチC3の係合油室306内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室308をクラッチドラム300およびピストン305と共に画成する円環状のキャンセル油室画成部410が一体成形されている。キャンセル油室画成部410は、
図4に示すように、外筒部401の外周面から外方(径方向外側)すなわちクラッチドラム300の外筒部301の内周面に向けて延出され、キャンセル油室画成部410の外周面は、クラッチC3のピストン305の内周面と摺接する。図
4に示すように、クラッチドラム400の開放端側に位置するキャンセル油室画成部410の端面410zは、クラッチドラム400の開放端側に位置する環状壁部402の外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の遊端部(開放端)側に位置する。
【0042】
このように、外筒部401、環状壁部402(外側壁部402a、内側壁部402b並びに縮径部402n)および内筒部403を含むクラッチC4のクラッチドラム400にクラッチC3用のキャンセル油室画成部410を一体に成形することにより、クラッチC3およびC4の部品点数や組立工数を低減化すると共に、クラッチドラム400における各部の精度、すなわち外筒部401、環状壁部402、内筒部403およびキャンセル油室画成部410の位置精度を容易に向上させることができる。また、外筒部401、環状壁部402、内筒部403およびキャンセル油室画成部410を一体に成形することで、外筒部401および内筒部403をリブとして機能させると共にキャンセル油室画成部410の肉厚を確保してクラッチドラム400の強度を良好に確保することが可能となり、クラッチドラム400をアルミニウム合金等の軽量な素材により構成して軽量化することができる。更に、本実施形態において、キャンセル油室画成部410は、クラッチドラム400の外側壁部402aよりも第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図4における左側)に位置するように当該外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットされる。すなわち、キャンセル油室画成部410の端面410zは、外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の遊端部(開放端)側に位置する。このように、キャンセル油室画成部410を外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットすることで、外筒部401の基端、すなわち外筒部401と外側壁部402aとの連続部(コーナー部)周辺での応力集中を抑制してクラッチドラム400の強度をより向上させることが可能となる。
【0043】
また、キャンセル油室画成部410の外周面とピストン305の内周面との間には、DリングあるいはOリングといったシール部材411が配置され、それにより、キャンセル油室画成部410および外側壁部402aの背面(
図4における右側の面)とピストン305との間に遠心油圧キャンセル室308が画成される。更に、キャンセル油室画成部410の背面とピストン305との間には、複数のリターンスプリング309が配置される。上述のように、クラッチドラム300は、内筒部303の先端がクラッチドラム400の外側壁部402aの背面と当接するように縮径部402nに嵌合される。従って、内筒部303により支持されるピストン305や、ピストン305とキャンセル油室画成部410との間に配置されるリターンスプリング309の位置決め精度を向上させることができる。そして、本実施形態では、キャンセル油室画成部410の背面に、ピストン305に向けて突出して対応するリターンスプリング309の一端と係合する複数の突起410pが等間隔に形成されている。
【0044】
更に、本実施形態の自動変速機25では、クラッチドラム300の内筒部303の周囲に画成されるクラッチC3の係合油室306や遠心油圧キャンセル室308に作動油を給排可能とするために、クラッチドラム400の内側壁部402bに径方向かつ放射状に延びる複数(油孔303xと同数)の係合油室用油路(第1油路)402xと、当該複数の係合油室用油路402xと軸方向からみて重ならないように交互に径方向かつ放射状に延びる複数のキャンセル室用油路(第2油路)402yとが形成されている。このように、係合油室用油路402xとキャンセル室用油路402yとをクラッチドラム400の内側壁部402b内の概ね同一平面上に形成することで、クラッチドラム400ひいてはクラッチC3,C4の軸長の増加を抑制することができる。更に、係合油室用油路402xとキャンセル室用油路402yとを軸方向からみて交互に形成することにより、環状の係合油室306や遠心油圧キャンセル室308に対して概ね均等に作動油を供給することが可能となる。
【0045】
各係合油室用油路402xは、入力軸26等に形成された油路(図示省略)を介して図示しない油圧制御装置と接続されると共に、内筒部303の内周面303iに形成された浅い凹部303r(
図4および
図5参照)を介して内筒部303の対応する油孔303xと連通する。このように、内筒部303の内周面303iに各油孔303xを囲む凹部303rを形成しておくことで、クラッチドラム300をクラッチドラム400に接合する際に、内側壁部402bの複数の係合油室用油路402xと内筒部303の複数の油孔303xとが完全に正対してなくても、係合油室用油路402xと油孔303xとをより確実に連通させることが可能となる。なお、内筒部303の内周面303iに各油孔303xを囲む凹部303rを形成する代わりに、縮径部402nの外周面402oに各係合油室用油路402xの開口部を囲む凹部303rを形成してもよい。
【0046】
また、各キャンセル室用油路402yは、入力軸26等に形成された油路を介して油圧制御装置(ドレン油路)と接続される。更に、本実施形態では、クラッチドラム400の外側壁部402aの背面と縮径部402nの外周面402oとに、略L字状に延びる複数の凹部402r(
図4および
図7参照)が等間隔に形成されている。各キャンセル室用油路402yの外周面402o側の端部は、対応する凹部402r内で開口し、各凹部402rの外側壁部402a側の端部は、それぞれクラッチC3の遠心油圧キャンセル室308と連通する。これにより、クラッチC3の遠心油圧キャンセル室308には、入力軸26に形成された油路(図示省略)や各キャンセル室用油路402y、各凹部402rを介して作動油(ドレン油)が給排されることになる。そして、本実施形態では、
図4および
図7に示すように、クラッチドラム400の内筒部403の内周面に、キャンセル室用油路402yの内側の開口と、クラッチC
4の遠心油圧キャンセル室408に連通するC4キャンセル室用油孔403yとを1個ずつ連通させる複数の凹部403rが形成されており、各キャンセル室用油路402yと各C4キャンセル室用油孔403yとには、当該凹部403rを介して作動油(ドレン油)が給排される。なお、クラッチドラム400の外側壁部402aの背面と縮径部402nの外周面402oとに複数の凹部402rを形成する代わりに、凹部402rと同様の凹部をクラッチドラム300の内筒部303に形成してもよい。
【0047】
以上説明したように、動力伝達装置20の自動変速機25を構成するクラッチ(第1クラッチ)C4のクラッチドラム(第1クラッチドラム)400は、軸方向に延在すると共にセパレータプレート(第1摩擦係合プレート)404sの外周部が嵌合される外筒部(第1外筒部)401と、外筒部401の内側で軸方向に延在すると共にピストン(第1ピストン)405の基部(内周部)405pを移動自在に支持する内筒部(第1内筒部)403と、外筒部401と内筒部403との間で径方向に延在するように外筒部401および内筒部403と一体に成形された環状壁部402とを含む。また、環状壁部402は、外筒部401と内筒部403との径方向における間で軸方向に延在する縮径部(第1中間筒部)402nと、縮径部402nと外筒部401との間で径方向に延在する外側壁部(第1外側環状壁部)402aと、内筒部403と縮径部402nとの間で径方向に延在する内側壁部(第1内側環状壁部)402bとを有する。更に、クラッチC4の周囲に配置されるクラッチ(第2クラッチ)C3のクラッチドラム(第2クラッチドラム)300は、外筒部401の少なくとも一部を囲むようにクラッチドラム400に固定される。そして、クラッチドラム400には、クラッチC3の係合油室(第2係合油室)306内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室(第2キャンセル油室)308を画成するキャンセル油室画成部410が外筒部401の外周面から外方に延びるように一体に成形され、キャンセル油室画成部410の端面410zは、外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の開放端(遊端部)側に位置する。これにより、クラッチC4および当該クラッチC4の周囲に配置されるクラッチC3の部品点数や組立工数を低減化すると共に、強度を確保しつつクラッチC3およびC4を軽量化することが可能となる。
【0048】
また、クラッチC3のクラッチドラム300では、外側の外筒部301と内側の内筒部303とがそれぞれリブとしての機能することから、その強度を良好に向上させることが可能となる。更に、内筒部303の内周面303iをクラッチドラム400の外周面に溶接することで、両者の接合強度を良好に確保することができる。この結果、クラッチドラム
300が回転する際に、クラッチドラム300の外筒部301の遊端部(開放端)が遠心力により外方に拡がるのを良好に抑制することが可能となる。ただし、内筒部303の内周面303iをクラッチドラム400の外周面に溶接する代わりに、接着剤を介してクラッチドラム400の外周面に接合してもよい。
【0049】
更に、上記実施形態のように、端面410zが外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の遊端部(開放端)側に位置するようにキャンセル油室画成部410を外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットすることで、外筒部401の基端すなわち外筒部401と外側壁部402aとの連続部(コーナー部)周辺での応力集中を抑制してクラッチドラム400の強度をより向上させることができる。更に、上記実施形態のように、内筒部303の内周面303iと縮径部402nの外周面402oとを接合することで、内筒部303およびクラッチドラム400の縮径部402nの軸長、すなわち内筒部303とクラッチドラム400との接合長さを良好に確保して、両者の接合強度をより向上させることが可能となる。
【0050】
また、上記実施形態において、クラッチドラム300の内筒部303は、その先端面がクラッチドラム400(環状壁部402)の外側壁部402aの背面と当接するようにクラッチドラム400の縮径部402nに嵌合される。これにより、外側壁部402aによりクラッチドラム300を軸方向に精度よく位置決めすると共に、内筒部303により支持されるピストン305や、ピストン305とキャンセル油室画成部410との間に配置されるリターンスプリング309の位置決め精度を向上させることが可能となる。
【0051】
続いて、
図8から
図11を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る変速装置について説明する。
【0052】
図8は、本発明の第2の実施形態に係る変速装置としての自動変速機25Bを含む動力伝達装置20Bを示す要部拡大断面図である。同図は、動力伝達装置20Bの自動変速機25Bに含まれるクラッチC3およびC4の周辺の構成を示すものである。図示するように、第1遊星歯車機構30のリングギヤ32と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結するクラッチ(第2クラッチ)C3は、第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34と第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bとを締結するクラッチ(第1クラッチ)C4の周囲に配置される。
【0053】
クラッチC3は、クラッチハブ(第2クラッチハブ)3と、内周部がクラッチハブ3に嵌合される複数の摩擦プレート(第2摩擦係合プレート)304fと、クラッチドラム(第2クラッチドラム)300と、外周部がクラッチドラム300に嵌合される複数のセパレータプレート(第2摩擦係合プレート)304sと、摩擦プレート304fとセパレータプレート304sとを押圧して摩擦係合させるピストン(第2ピストン)305とを含む。クラッチハブ3は、動力入力部材としての第1遊星歯車機構30のリングギヤ32に一体化(連結)され、当該リングギヤ32と一体に回転する。クラッチドラム300は、動力出力部材(動力の伝達対象)としての第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結され、当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。クラッチハブ3に嵌合される摩擦プレート304fは、両面に摩擦材が貼着された環状部材であり、クラッチドラム300に嵌合されるセパレータプレート304sは、両面が平滑に形成された環状部材である。
【0054】
図8および
図9に示すように、クラッチC3のクラッチドラム300は、当該クラッチドラム300(自動変速機25B)の軸方向に延在すると共に図示しない連結部材を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結される略円筒状の外筒部(第2外筒部)301と、外筒部301の基端(
図8および
図9における右端)から内方に延出された略円盤状の環状壁部(第2環状壁部)302と、環状壁部302の内周部から外筒部301の内側に位置するように当該外筒部301と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム300の軸方向に延在する略円筒状の内筒部(第2内筒部)303とを含む。外筒部301、環状壁部302および内筒部303は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部302は、外筒部301の基端と内筒部303の基端との間で径方向に延在する。このように構成されるクラッチドラム300では、外側の外筒部301と内側の内筒部303とがそれぞれリブとして機能することから、その強度を良好に向上させることができる。
【0055】
クラッチドラム300の外筒部301の内周面には、各セパレータプレート304sの外周部に形成された凹凸部と係合可能なスプライン301sが形成されており、外筒部301のスプライン301sには、クラッチハブ3に嵌合された複数の摩擦プレート304fと交互に並ぶように複数のセパレータプレート304sが嵌合される。また、外筒部301のスプライン301sには、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図8における左側)に配置される摩擦プレート304fと当接可能となるようにバッキングプレートが嵌合され、当該バッキングプレートは、外筒部301に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。
【0056】
内筒部303は、外筒部301よりも短尺に形成されており、内筒部303の外周面と当該内筒部303を囲む外筒部301の内周面とによりピストン305が軸方向に移動自在に支持される。本実施形態において、最もエンジン側(
図8における右側)に位置するセパレータプレート304sと当接するピストン305の押圧部の外周部には、外筒部301のスプライン301sと係合可能な凹凸部が形成されており、ピストン305は、スプライン301sによってもガイドされる。また、ピストン305と内筒部303の外周面との間およびピストン305と外筒部301の内周面との間には、シール部材が配置され、クラッチドラム300の環状壁部302とピストン305の背面との間には、クラッチC3を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室(第2係合油室)306が画成される。すなわち、クラッチC3では、クラッチドラム300とピストン305とにより係合油室306が画成される。更に、内筒部303には、
図8および
図9に示すように、それぞれ係合油室306と連通する複数の油孔(貫通孔)303xが周方向に間隔をおいて形成されている。
【0057】
クラッチC4は、クラッチハブ(第1クラッチハブ)4と、内周部がクラッチハブ4に嵌合される複数の摩擦プレート(第1摩擦係合プレート)404fと、クラッチドラム(第1クラッチドラム)400と、外周部がクラッチドラム400に嵌合される複数のセパレータプレート(第1摩擦係合プレート)404sと、摩擦プレート404fとセパレータプレート404sとを押圧して摩擦係合させるピストン(第1ピストン)405とを有する。クラッチハブ4は、動力入力部材としての第1遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34に一体化(連結)され、当該プラネタリキャリヤ34と一体に回転する。クラッチドラム400は、動力出力部材(動力の伝達対象)としての第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結(固定)され、当該第2サンギヤ36bと一体に回転する。クラッチハブ4に嵌合される摩擦プレート404fは、両面に摩擦材が貼着された環状部材であり、クラッチドラム400に嵌合されるセパレータプレート404sは、両面が平滑に形成された環状部材である。
【0058】
図8および
図9に示すように、クラッチC4のクラッチドラム400は、当該クラッチドラム400(自動変速機25B)の軸方向に延在すると共に図示しない連結部材を介して第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bに連結される略円筒状の外筒部(第1外筒部)401と、外筒部401の一端から内方に延出された略円盤状の環状壁部(第1環状壁部)402と、環状壁部402の内周部から外筒部401の内側に位置するように当該外筒部401と同方向(同軸)に延出されてクラッチドラム400の軸方向に延在する略円筒状の内筒部(第1内筒部)403とを含む。外筒部401、環状壁部402および内筒部403は、例えばアルミニウム合金等を鋳造することにより一体に成形され、環状壁部402は、外筒部401の基端と内筒部403の基端との間で径方向内側に延在する。
【0059】
また、クラッチドラム400の内筒部403内には、鉄製のスリーブ500が嵌合(圧入)され、スリーブ500内には、クラッチC3およびC
4を収容するトランスミッションケース22に固定されて当該トランスミッションケース22の一部を構成する例えばアルミ合金製の環状のフロントサポート(前側の支持部)22fの筒状部220が嵌挿される。これにより、クラッチドラム400すなわち内筒部403は、フロントサポート22fすなわちトランスミッションケース22により回転自在に支持される。なお、フロントサポート22fの筒状部220には、ワンウェイクラッチ23oを介して発進装置23(トルクコンバータ)のステータ23sに連結されたステータシャフト230が回転不能に連結(固定)される。
【0060】
クラッチドラム400の外筒部401の内周面には、各セパレータプレート404sの外周部に形成された凹凸部と係合可能なスプライン401sが形成されており、外筒部401のスプライン401sには、クラッチハブ4に嵌合された複数の摩擦プレート404fと交互に並ぶように複数のセパレータプレート404sが嵌合される。また、外筒部401のスプライン401sには、最も第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図8における左側)に配置される摩擦プレート404fと当接可能となるようにバッキングプレートが嵌合され、当該バッキングプレートは、外筒部401に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。
【0061】
クラッチドラム400の環状壁部402は、外筒部401の基端から内筒部403側すなわち径方向内側に延出された外側壁部(第1外側環状壁部)402aと、外側壁部402aに対して外筒部401から離間する方向にオフセットされて当該外側壁部402aよりもエンジン側(クラッチドラム400の遊端部(開放端)と反対側すなわち
図8おける右側)に位置すると共に、外側壁部402aと内筒部403との間で径方向に延在する内側壁部(第1内側環状壁部)402bとを含む。これにより、環状壁部402には、外側壁部402aに対して外筒部401の反対側に位置するように、当該外筒部401の外周面よりも縮径された外周面402oを有すると共に外筒部401と内筒部403との径方向における間でクラッチドラム400の軸方向に延在する縮径部(第1中間筒部)402nが形成される。
【0062】
また、クラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)は、縮径部402nの外周面402oよりも内筒部403に近接すると共にピストン405に向けて(
図8および
図9における左側に向けて)延びるように形成された第2中間筒部420と、縮径部402nの外周面402oと第2中間筒部420との径方向における間で内側壁部402bの内表面から外側(
図8および
図9における右側)に向けて窪むように形成された環状凹部402cとを有する。クラッチドラム400の内筒部403は、外筒部401よりも長尺に形成されており、当該内筒部403の外周面によりピストン405が軸方向に移動自在に支持される。
【0063】
クラッチC4のピストン405は、内筒部403の外周面により移動自在に支持される受圧部(内周部)405aと、当該受圧部405aの外周部から延出されて最もエンジン側(図における右側)に位置するセパレータプレート404sと当接する押圧部405bと、受圧部405aの外周部から押圧部405bとは反対側に延出された円筒状の延出部405cと、延出部405cの内周面よりも径方向外側で当該延出部405cとは反対側に延びる凹円柱面405dとを有する。押圧部405bの外周部には、クラッチドラム400の外筒部401のスプライン401sと係合可能な凹凸部が形成されている。これにより、ピストン405は、スプライン401sによってもガイドされる。また、ピストン405の延出部405cは、クラッチドラム400の環状壁部402に形成された環状凹部402cに挿入(嵌合)され、延出部405cの内周面は、環状凹部402cを規定する第2中間筒部420の外周面(円柱面)421に摺接する。
【0064】
そして、ピストン405の受圧部405aと内筒部403の外周面との間には、DリングあるいはOリングといったシール部材が配置され、ピストン405の延出部405cの内周面と第2中間筒部420の外周面421との間には、DリングあるいはOリングといったシール部材90が配置される。これにより、クラッチドラム400の環状壁部402(内側壁部402b)とピストン405の受圧部405aの背面との間かつ延出部405cの外周面よりも径方向内側には、クラッチC4を係合させるための作動油(係合油圧)が供給される係合油室(第1係合油室)406が画成される。すなわち、自動変速機25Bでは、クラッチドラム400とピストン405とによりクラッチC3の係合油室306よりも径方向内側に係合油室406が画成される。
【0065】
更に、クラッチドラム400の内筒部403は、ピストン405よりも第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図8および
図9における左側)に位置するようにキャンセルプレート407を一体回転するように支持する。キャンセルプレート407の内周部は、内筒部403に装着されたスナップリングにより軸方向に支持される。また、キャンセルプレート407の外周部には、リップシール(シール部材)91が装着され、当該シール部材91は、ピストン405に形成された凹円柱面405dに摺接する。これにより、キャンセルプレート407は、係合油室406内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室(第1キャンセル油室)408をピストン405と共に画成する。更に、ピストン405とキャンセルプレート407との間には、複数のリターンスプリング409が配置される。
【0066】
上述のように構成されるクラッチC4の周囲に配置されるクラッチC3のクラッチドラム300は、外筒部401の少なくとも一部を囲むようにクラッチC4のクラッチドラム400の外周面に固定される。すなわち、クラッチドラム300の内筒部303は、その先端がクラッチドラム400(環状壁部402)の外側壁部402aの背面と当接するようにクラッチドラム400の縮径部402nに嵌合され、内筒部303の内周面303iは、縮径部402nの外周面402oに溶接(例えば、電子ビーム溶接またはレーザー溶接)により接合される。これにより、クラッチドラム300および400は、ピストン305と共にクラッチC3の係合油室306を画成し、かつピストン405と共に係合油室306よりも径方向
内側にクラッチC4の係合油室406を画成する1体のドラム部材を構成する。
【0067】
この結果、外側の外筒部301と内側の内筒部303とをそれぞれリブとして機能させてクラッチドラム300の強度を良好に向上させつつ、内筒部303とクラッチドラム400との接合部を内周側に寄せても、内筒部303(内周面303i)およびクラッチドラム400の縮径部402n(外周面402o)の軸長、すなわち内筒部303とクラッチドラム400との接合長さを充分に確保してクラッチドラム300および400の接合強度をより向上させることができる。従って、自動変速機25Bでは、クラッチドラム300および400が第2遊星歯車機構35の第2サンギヤ36bと一体に回転する際に、クラッチドラム300の外筒部301の遊端部(
図9における左端部)が遠心力により外方に拡がるのを良好に抑制することが可能となる。また、クラッチドラム300を内筒部303の先端面がクラッチドラム400の外側壁部402aの背面と当接するように縮径部402nに嵌合することで、外側壁部402aによりクラッチドラム300を軸方向に精度よく位置決めすることができる。
【0068】
更に、自動変速機25Bでは、クラッチC4のクラッチドラム400(外筒部401)に、外側のクラッチC3の係合油室306内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室308をクラッチドラム300およびピストン305と共に画成する環状のキャンセル油室画成部410が一体成形されている。キャンセル油室画成部410は、
図8および
図9に示すように、外筒部401の外周面から外方すなわち環状凹部402cよりも径方向外側にクラッチドラム300の外筒部301の内周面に向けて延出される。そして、
図8および
図9に示すように、キャンセル油室画成部410の端面410zは、環状壁部402の外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の遊端部(開放端)側に位置する。
【0069】
このように、外筒部401、環状壁部402(外側壁部402a、内側壁部402b並びに縮径部402n)および内筒部403を含むクラッチC4のクラッチドラム400にクラッチC3用のキャンセル油室画成部410を一体に成形することにより、クラッチC3およびC4の部品点数や組立工数を低減化すると共に、クラッチドラム400における各部の精度、すなわち外筒部401、環状壁部402、内筒部403およびキャンセル油室画成部410の位置精度を容易に向上させることができる。また、外筒部401、環状壁部402、内筒部403およびキャンセル油室画成部410を一体に成形することで、外筒部401および内筒部403をリブとして機能させると共にキャンセル油室画成部410の肉厚を確保してクラッチドラム400の強度を良好に確保することが可能となり、クラッチドラム400をアルミニウム合金等の軽量な素材により構成して軽量化することができる。更に、本実施形態において、キャンセル油室画成部410は、クラッチドラム400の外側壁部402aよりも第1および第2遊星歯車機構30,35側(
図9における左側)に位置するように当該外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットされる。すなわち、キャンセル油室画成部410の端面410zは、外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の遊端部(開放端)側に位置する。このように、キャンセル油室画成部410を外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットすることで、外筒部401の基端周辺での応力集中を抑制してクラッチドラム400の強度をより向上させることが可能となる。
【0070】
また、キャンセル油室画成部410の外周面は、クラッチC3のピストン305の内周面と摺接し、キャンセル油室画成部410とピストン305の内周面との間には、DリングあるいはOリングといったシール部材が配置される。これにより、キャンセル油室画成部410および外側壁部402aの背面(
図8および
図9における右側の面)とピストン305との間に遠心油圧キャンセル室308が画成される。更に、キャンセル油室画成部410の背面とピストン305との間には、複数のリターンスプリング309が配置される。上述のように、クラッチドラム300は、内筒部303の先端がクラッチドラム400の外側壁部402aの背面と当接するように縮径部402nに嵌合される。従って、内筒部303により支持されるピストン305や、ピストン305とキャンセル油室画成部410との間に配置されるリターンスプリング309の位置決め精度を向上させることができる。そして、本実施形態においても、キャンセル油室画成部410の背面に、ピストン305に向けて突出して対応するリターンスプリング309の一端と係合する複数の突起が等間隔に形成されている。
【0071】
引き続き、
図8から
図11を参照しながら、クラッチC3の係合油室306および遠心油圧キャンセル室308並びにクラッチC4の係合油室406および遠心油圧キャンセル室408に作動油を供給するための油路構造について説明する。なお、
図10は、
図9におけるA−A線に沿った断面図であり、
図10の一点鎖線よりも図中下側は、
図9における一点鎖線よりも左側の範囲を示し、
図10の一点鎖線よりも図中上側は、
図9における一点鎖線よりも右側の範囲を示す。また、
図11は、クラッチドラム400の軸心側から内筒部403の内表面をみた状態を示す模式図であり、同図における破線は、スリーブ500の要素を示し、同図における二点鎖線は、フロントサポート22fの要素を示す。
【0072】
図8から
図10に示すように、自動変速機25Bでは、クラッチドラム300の内筒部303の周囲に画成されるクラッチC3の係合油室306や遠心油圧キャンセル室308に作動油を給排可能とするために、クラッチドラム400の内側壁部402bに径方向かつ放射状に延びる複数(油孔303xと同数、本実施形態では、4本)の係合油室用油路402xと、当該複数の係合油室用油路402xと軸方向からみて重ならないように交互に径方向かつ放射状に延びる複数(本実施形態では、4本)のキャンセル室用油路402yとが形成されている。各係合油室用油路402xは、クラッチドラム300の内筒部303の対応する油孔303xと連通する。各キャンセル室用油路402yは、クラッチドラム400の外側壁部402aの背面と縮径部402nの外周面402oとに略L字状に延びると共に遠心油圧キャンセル室308と連通するように形成された複数の凹部402r(
図8および
図9参照)の中の対応する一つと連通する。
【0073】
このように、係合油室用油路402xとキャンセル室用油路402yとをクラッチドラム400の内側壁部402b内の概ね同一平面上に形成することで、クラッチドラム400ひいてはクラッチC3,C4の軸長の増加を抑制することができる。更に、係合油室用油路402xとキャンセル室用油路402yとを軸方向からみて交互に形成することにより、環状の係合油室306や遠心油圧キャンセル室308に対して概ね均等に作動油を供給することが可能となる。また、クラッチドラム400の内筒部403には、それぞれ係合油室406と連通する複数(本実施形態では、4個)のC4係合油室用油孔403xが周方向に間隔をおいて形成されている。
【0074】
更に、内筒部403の内周面には、係合油室用油路402xと連通する複数(本実施形態では、4個)のC3係合油室用凹部(第2係合油室用凹部)403aと、C4係合油室用油孔403xと連通する複数(本実施形態では、4個)のC4係合油室用凹部(第1係合油室用凹部)403bとが、それぞれ周方向に間隔をおいて並ぶように形成されている。本実施形態において、C3係合油室用凹部403aとC4係合油室用凹部403bとは、
図11に示すように、1個ずつクラッチドラム400の軸方向に並ぶように内筒部403の内周面に配設される。
【0075】
加えて、内筒部403の内周面には、キャンセル室用油路402yと連通する複数(本実施形態では、4個)のC3キャンセル室用凹部(第2キャンセル室用凹部)403cと、C4キャンセル室用油孔403yと連通する複数(本実施形態では、4個)のC4キャンセル室用凹部(第1キャンセル室用凹部)403dとが、互に間隔をおいて周方向に並ぶと共にC3係合油室用凹部403aおよびC4係合油室用凹部403bと周方向に間隔をおいて並ぶように形成されている。C3係合油室用凹部403aおよびC4係合油室用凹部403bとC3キャンセル室用凹部403cまたはC4キャンセル室用凹部403dとの周方向における間隔L1は、
図11に示すように、C3キャンセル室用凹部403cとC4キャンセル室用凹部403dとの周方向における間隔L2よりも長く定められる。
【0076】
一方、クラッチドラム400を回転自在に支持するフロントサポート22fの筒状部220の外周面には、
図8に示すように、何れも環状の凹部(溝)であるC3係合油圧供給油路(第2係合油圧供給油路)223、C4係合油圧供給油路(第1
係合油圧供給油路)224およびキャンセル室用供給油路(キャンセル油供給油路)234が形成されている。C3係合油圧供給油路223は、筒状部220により支持された内筒部403のC3係合油室用凹部403aの内側に位置するように当該筒状部220の基端側(
図8における右端側)に形成され、フロントサポート22fに形成された複数の径方向油路221の対応する何れか、複数の軸方向油路222に対応する何れか、および複数の油孔225の対応する何れかを介して図示しない油圧制御装置に接続される。
【0077】
C4係合油圧供給油路224は、筒状部220により支持された内筒部403のC4係合油室用凹部403bの内側に位置するように当該筒状部220の遊端側(
図8における左端側)に形成され、フロントサポート22fに形成された複数の径方向油路221の対応する何れか、複数の軸方向油路222に対応する何れか、および複数の油孔225の対応する何れかを介して油圧制御装置に接続される。また、キャンセル室用供給油路234は、筒状部220の軸方向におけるC3係合油圧供給油路223とC4係合油圧供給油路224との間に位置するように当該筒状部220に形成され、フロントサポート22fに形成された複数の径方向油路221の対応する何れか、複数の軸方向油路222に対応する何れか、および複数の油孔225の対応する何れかを介して油圧制御装置(ドレン油路)に接続される。
【0078】
そして、クラッチドラム400の内筒部403内に嵌合されるスリーブ500には、
図11に示すように、それぞれ複数の油孔503および504と、それぞれ複数のC3キャンセル油供給孔(第
2キャンセル油供給孔)534cおよびC4キャンセル油供給孔(第
1キャンセル油供給孔)534dとが形成されている。油孔503は、内側のC3係合油圧供給油路223と外側のC3係合油室用凹部403aとを連通させるようにスリーブ500に形成される。また、油孔504は、内側のC4係合油圧供給油路224と外側のC4係合油室用凹部403bとを連通させるようにスリーブ500に形成される。
【0079】
更に、C3キャンセル油供給孔534cは、内側のキャンセル室用供給油路234と外側のC3キャンセル室用凹部403cとを連通させて当該キャンセル室用供給油路234からC3キャンセル室用凹部403cに作動油(キャンセル油)を供給するようにスリーブ500に形成される。また、C4キャンセル油供給孔534dは、内側のキャンセル室用供給油路234と外側のC4キャンセル室用凹部403dとを連通させて当該キャンセル室用供給油路234からC4キャンセル室用凹部403dに作動油(キャンセル油)を供給するようにスリーブ500に形成される。
【0080】
これにより、フロントサポート22fの油路221、222等を介して筒状部220のC3係合油圧供給油路223に供給された油圧制御装置からの作動油(クラッチC3の係合油圧)は、スリーブ500の油孔503、内筒部403のC3係合油室用凹部403a、内側壁部402bの係合油室用油路402x、およびクラッチドラム300の内筒部303の油孔303xを介してクラッチC3の係合油室306に供給される。また、フロントサポート22fの油路221、222等を介して筒状部220のC4係合油圧供給油路224に供給された油圧制御装置からの作動油(クラッチC4の係合油圧)は、スリーブ500の油孔504、内筒部403のC4係合油室用凹部403bおよびC4係合油室用油孔403xを介してクラッチC4の係合油室406に供給される。
【0081】
更に、フロントサポート22fの油路221、222等を介して筒状部220のキャンセル室用供給油路234に供給された油圧制御装置からの作動油(キャンセル油すなわちドレン油)は、スリーブ500のC3キャンセル油供給孔534c、内筒部403のC3キャンセル室用凹部403c、内側壁部402bのキャンセル室用油路402y、および凹部402rを介してクラッチC3の遠心油圧キャンセル室308に供給される。また、フロントサポート22fの油路221、222等を介して筒状部220のキャンセル室用供給油路234に供給された油圧制御装置からの作動油(キャンセル油すなわちドレン油)は、スリーブ500のC4キャンセル油供給孔534d、内筒部403のC4キャンセル室用凹部403d、およびC4キャンセル室用油孔403yを介してクラッチC4の遠心油圧キャンセル室408に供給される。
【0082】
また、本実施形態において、それぞれ複数のC3キャンセル油供給孔534cおよびC4キャンセル油供給孔534dは、
図11に示すように、周方向に一列に並ぶように(ただし、僅かに軸方向にズレていてもよい)スリーブ500に配設される。これにより、C3キャンセル油供給孔534cおよびC4キャンセル油供給孔534dに対して、フロントサポート22fの筒状部220に形成された共通(単一)のキャンセル室用供給油路234から作動油(キャンセル油)を供給することが可能となる。従って、自動変速機25Bでは、クラッチドラム400の内筒部403すなわちクラッチC3およびC4の軸長の増加を抑制することが可能となる。
【0083】
以上説明したように、第2の実施形態に係る自動変速機25Bを構成するクラッチ(第1クラッチ)C4のクラッチドラム(第1クラッチドラム)400も、軸方向に延在すると共にセパレータプレート(第1摩擦係合プレート)404sの外周部が嵌合される外筒部(第1外筒部)401と、外筒部401の内側で軸方向に延在すると共にピストン(第1ピストン)405の受圧部(内周部)405aを移動自在に支持する内筒部(第1内筒部)403と、外筒部401と内筒部403との間で径方向に延在するように外筒部401および内筒部403と一体に成形された環状壁部402とを含む。また、環状壁部402は、外筒部401と内筒部403との径方向における間で軸方向に延在する縮径部(第1中間筒部)402nと、縮径部402nと外筒部401との間で径方向に延在する外側壁部(第1外側環状壁部)402aと、内筒部403と縮径部402nとの間で径方向に延在する内側壁部(第1内側環状壁部)402bとを有する。更に、クラッチC4の周囲に配置されるクラッチ(第2クラッチ)C3のクラッチドラム(第2クラッチドラム)300は、外筒部401の少なくとも一部を囲むようにクラッチドラム400に固定される。そして、クラッチドラム400には、クラッチC3の係合油室(第2係合油室)306内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室(第2キャンセル油室)308を画成するキャンセル油室画成部410が外筒部401の外周面から外方に延びるように一体に成形され、キャンセル油室画成部410の端面410zは、外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の開放端(遊端部)側に位置する。これにより、自動変速機25Bにおいても、クラッチC4および当該クラッチC4の周囲に配置されるクラッチC3の部品点数や組立工数を低減化すると共に、強度を確保しつつクラッチC3およびC4を軽量化することが可能となる。
【0084】
更に、自動変速機25Bを構成するクラッチC3のクラッチドラム300においても、外側の外筒部301と内側の内筒部303とがそれぞれリブとしての機能することから、その強度を良好に向上させることが可能となる。更に、内筒部303の内周面303iをクラッチドラム400の外周面に溶接することで、両者の接合強度を良好に確保することができる。この結果、クラッチドラム
300が回転する際に、クラッチドラム300の外筒部301の遊端部(開放端)が遠心力により外方に拡がるのを良好に抑制することが可能となる。ただし、内筒部303の内周面303iをクラッチドラム400の外周面に溶接する代わりに、接着剤を介してクラッチドラム400の外周面に接合してもよい。
【0085】
また、自動変速機25Bにおいても、端面410zが外側壁部402aの端面402zよりもクラッチドラム400の遊端部(開放端)側に位置するようにキャンセル油室画成部410を外側壁部402aから外筒部401の軸方向にオフセットすることで、外筒部401の基端すなわち外筒部401と外側壁部402aとの連続部(コーナー部)周辺での応力集中を抑制してクラッチドラム400の強度をより向上させることができる。更に、内筒部303の内周面303iと縮径部402nの外周面402oとを接合することで、内筒部303およびクラッチドラム400の縮径部402nの軸長、すなわち内筒部303とクラッチドラム400との接合長さを良好に確保して、両者の接合強度をより向上させることが可能となる。
【0086】
更に、自動変速機25Bにおいても、クラッチドラム300の内筒部303は、その先端面がクラッチドラム400(環状壁部402)の外側壁部402aの背面と当接するようにクラッチドラム400の縮径部402nに嵌合される。これにより、外側壁部402aによりクラッチドラム300を軸方向に精度よく位置決めすると共に、内筒部303により支持されるピストン305や、ピストン305とキャンセル油室画成部410との間に配置されるリターンスプリング309の位置決め精度を向上させることが可能となる。
【0087】
また、自動変速機25Bのクラッチ(第1クラッチ)C4を構成するピストン405は、環状壁部402に向けて軸方向に延びる筒状の延出部405cを有し、クラッチドラム400の環状壁部402は、縮径部402nの外周面402o、すなわちクラッチドラム300および400の接合面よりも内筒部403に近接すると共にピストン405に向けて延びるように形成された第2中間筒部420と、縮径部402nの外周面402oよりも内筒部403に近接するように形成されると共にピストン405の延出部405cが挿入(嵌合)される環状凹部402cとを有する。そして、ピストン405の延出部405cは、環状壁部402の環状凹部402c内に挿入(嵌合)され、延出部405cの内周面と第2中間筒部420の外周面421との間には、シール部材90が配置される。これにより、ピストン405と環状壁部402とによって、延出部405cの外周面よりも径方向内側にクラッチC4の係合油室(第1係合油室)406が画成される。
【0088】
このように、クラッチC4のピストン405の延出部405cの内周面と環状壁部402の環状凹部402cを規定する第2中間筒部420の外周面421とを摺接させると共に、延出部405cの内周面と第2中間筒部420の外周面421との間にシール部材90を配置して係合油室406を画成することで、クラッチドラム400とクラッチドラム300との接合面と、延出部405cの内周面に摺接する第2中間筒部420の外周面421との距離をより長くすることができる。これにより、クラッチドラム400(縮径部402n)の外周面402oにクラッチドラム300を溶接する際に、熱の影響により第2中間筒部420の外周面421に歪みが生じてしまうのを良好に抑制することが可能となる。
【0089】
ここで、クラッチC4のクラッチドラム400には、環状凹部402cよりも径方向外側に延出してクラッチC3のピストン305と対向し、係合油室306内で発生する遠心油圧をキャンセルするための遠心油圧キャンセル室308を画成するキャンセル油室画成部410が一体成形される。このため、クラッチドラム400(縮径部402n)の外周面402oにクラッチドラム300を溶接する前に、クラッチドラム300内にピストン405やリターンスプリング409、シール部材等を予め組み付けておく必要があるが、上述のように、自動変速機25Bでは、クラッチドラム400とクラッチドラム300との溶接後に第2中間筒部420の外周面421の寸法精度を良好に確保することができる。従って、クラッチドラム400とクラッチドラム300との溶接後に、第2中間筒部420の外周面421の表面処理や洗浄を行う必要がなくなる。この結果、クラッチC4の寸法精度や自動変速機25B全体の組立性をより向上させることが可能となる。
【0090】
また、ピストン405は、延出部405cの内周面よりも径方向外側で当該延出部405cとは反対側に延びると共にクラッチC4のキャンセルプレート407の外周部に装着されたシール部材91と摺接する凹円柱面405dを有する。これにより、
図9等からわかるように、クラッチC4の遠心油圧キャンセル室(第1キャンセル油室)408のチャンバ径(外径)を係合油室406のチャンバ径(外径)よりも大きくすることが可能となり、遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のキャンセル性能を良好に確保してリターンスプリング409の剛性(ばね定数)を低下させることができる。この結果、クラッチC4の係合に際して係合油室406に供給されるべき油圧(クラッチC4の係合油圧)を低下させることが可能となるので、自動変速機25Bが搭載される車両の燃費をより向上させることができる。
【0091】
このように、自動変速機25Bでは、クラッチC4の遠心油圧キャンセル室408のチャンバ径が係合油室406のチャンバ径よりも大きくされることで当該遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のキャンセル性能を充分に高く確保することができる。従って、クラッチC4では、
図8および
図9に示すように、キャンセルプレート407の内周部に少なくとも1つの油孔407hを形成して、遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のゼロ基点B0を油孔407hの最外周点まで径方向外側にずらすことができる(
図9参照)。これにより、キャンセルプレート407の油孔407hから遠心油圧キャンセル室408に流入した作動油(キャンセル油)の一部を流出させて第1遊星歯車機構30のサンギヤ31とピニオンギヤ33aとの噛合部や、ピニオンギヤ33bとピニオンギヤ33aとの噛合部、ピニオンギヤ33bとリングギヤ32との噛合部等の潤滑に供することが可能となる。
【0092】
そして、自動変速機25Bでは、クラッチドラム300と共にドラム部材を構成するクラッチドラム400の内筒部403の内周面に、径方向に延在して外側のクラッチC3の遠心油圧キャンセル室308と連通するキャンセル室用油路402yおよびキャンセル室用供給油路(キャンセル油供給油路)234に連通するC3キャンセル室用凹部(第2キャンセル室用凹部)403cと、内側のクラッチC4の遠心油圧キャンセル室408と連通するように内筒部403に形成されたC4キャンセル室用油孔403yおよびキャンセル室用供給油路234とに連通するC4キャンセル室用凹部(第1キャンセル室用凹部)403dとが周方向に間隔をおいて形成される。
【0093】
これにより、クラッチC3の遠心油圧キャンセル室(第2キャンセル油室)308における遠心油圧のゼロ基点を変えることなく、クラッチC4の遠心油圧キャンセル室408における遠心油圧のゼロ基点B0を上述のように径方向外側に移動させることができる。従って、自動変速機25Bでは、遠心油圧キャンセル室308および408の双方における遠心油圧のキャンセル性能を良好に確保することが可能となる。
【0094】
すなわち、クラッチドラム400の内筒部403の内周面に、キャンセル室用油路402yに作動油(キャンセル油)を供給するC3キャンセル室用凹部403cと、C4キャンセル室用油孔403yに作動油(キャンセル油)を供給するC4キャンセル室用凹部403dとを独立に設けることで、遠心油圧キャンセル室308および408で遠心油圧のゼロ基点を独立に設定することが可能となる。この結果、自動変速機25Bでは、内側のクラッチ(第1クラッチ)C4の遠心油圧キャンセル室408におけるキャンセル性能と、外側のクラッチ(第2クラッチ)C3の遠心油圧キャンセル室308におけるキャンセル性能との調整の自由度を向上させることができる。
【0095】
また、上記実施形態において、C3係合油室用凹部403aおよびC4係合油室用凹部403bとC3キャンセル室用凹部403cまたはC4キャンセル室用凹部403dとの周方向における間隔L1は、C3キャンセル室用凹部403cとC4キャンセル室用凹部403dとの周方向における間隔L2よりも長く定められる。これにより、C3係合油室用凹部403aおよびC4係合油室用凹部403bとC3キャンセル室用凹部403cまたはC4キャンセル室用凹部403dとの間におけるシール性を良好に確保し、C3係合油室用凹部403aやC4係合油室用凹部403bとC3キャンセル室用凹部403cまたはC4キャンセル室用凹部403dとの間で作動油が行き来してしまうのをより良好に抑制することが可能となる。
【0096】
更に、上記実施形態において、クラッチドラム400の内筒部403に嵌合されるスリーブ500には、C3キャンセル室用凹部403cに作動油(キャンセル油)を供給する複数のC3キャンセル油供給孔534cと、C4キャンセル室用凹部403dに作動油(キャンセル油)を供給する複数のC4キャンセル油供給孔534dとが周方向に一列に並ぶように配設され、C3キャンセル油供給孔534cおよびC4キャンセル油供給孔534dには、内筒部403よりも内側に設けられた共通のキャンセル室用供給油路234から作動油(キャンセル油)が供給される。これにより、クラッチドラム400の内筒部403すなわちクラッチC3およびC4の軸長の増加を抑制することが可能となる。
【0097】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。また、上記発明を実施するための形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。