特許第6052414号(P6052414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6052414電子写真用感光体、その製造方法および電子写真装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052414
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】電子写真用感光体、その製造方法および電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/05 20060101AFI20161219BHJP
   G03G 5/147 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   G03G5/05 104B
   G03G5/147
   G03G5/05 102
【請求項の数】9
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2015-527283(P2015-527283)
(86)(22)【出願日】2014年7月11日
(86)【国際出願番号】JP2014068630
(87)【国際公開番号】WO2015008710
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2015年8月24日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2013/069253
(32)【優先日】2013年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 清三
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二郎
(72)【発明者】
【氏名】江森 弘
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−255580(JP,A)
【文献】 特開平02−096766(JP,A)
【文献】 特開2012−018241(JP,A)
【文献】 特開2005−134606(JP,A)
【文献】 特開2005−234140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G5/00−5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂を含有する感光層を備える電子写真用感光体において、
最外層が、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、結着樹脂、および、下記一般式(1)で表される構造を有する、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(A)と、下記一般式(2)で表される構造を有する、分子内に炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基および少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(B)とを、アゾ系重合開始剤(C)の存在下で重合させてなる高分岐ポリマーを含有することを特徴とする電子写真用感光体。

(一般式(1)中、RおよびRは水素原子またはメチル基を表し、Aは炭素原子数3〜30の脂環基、または、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素原子数2〜12のアルキレン基を表し、mは1〜30の整数を表す)

(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基を表し、Aは炭素原子数2〜6のアルキレン基を表し、nは0〜30の整数を表す)
【請求項2】
前記高分岐ポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算分子量が、重量平均分子量Mwで1000〜200000である請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項3】
前記アゾ系重合開始剤(C)が、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、または、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)である請求項記載の電子写真用感光体。
【請求項4】
単層型正帯電感光体である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体。
【請求項5】
電荷輸送層上に電荷発生層を積層してなる構成を少なくとも含む積層型正帯電感光体である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の電子写真用感光体。
【請求項6】
前記最外層が、該最外層の結着樹脂100質量部に対し、前記高分岐ポリマーを0.3質量部〜6質量部含有する請求項1記載の電子写真用感光体。
【請求項7】
導電性支持体上に、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂を含有する感光層を備える電子写真用感光体の製造方法において、
最外層用の塗布液として、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、結着樹脂、および、下記一般式(1)で表される構造を有する、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(A)と、下記一般式(2)で表される構造を有する、分子内に炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基、および、少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(B)とを、アゾ系重合開始剤(C)の存在下で重合させてなる高分岐ポリマーを含有するものを用いることを特徴とする電子写真用感光体の製造方法。

(一般式(1)中、RおよびRは水素原子またはメチル基を表し、Aは炭素原子数3〜30の脂環基、または、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素原子数2〜12のアルキレン基を表し、mは1〜30の整数を表す)

(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基を表し、Aは炭素原子数2〜6のアルキレン基を表し、nは0〜30の整数を表す)
【請求項8】
請求項1記載の電子写真用感光体を搭載してなることを特徴とする電子写真装置。
【請求項9】
さらに、帯電プロセスおよび現像プロセスを備える請求項記載の電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子写真用感光体(以下、単に「感光体」とも称する)、その製造方法および電子写真装置に関し、詳しくは、電子写真方式のプリンタや複写機、ファクシミリなどに用いられる電子写真用感光体、その製造方法および電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プリンタや複写機、ファクシミリ等の電子写真方式を利用した画像形成装置は、像担持体としての感光体と、感光体の表面を均一に帯電させる帯電装置と、感光体の表面に画像に応じた電気的な像(静電潜像)を書き込む露光装置と、この静電潜像をトナーで現像してトナー像を形成する現像装置と、このトナー像を転写紙に転写する転写装置とを備える。また、この転写紙上のトナーを転写紙に融着させるための定着装置も備えている。
【0003】
このような画像形成装置では、その装置コンセプトにより使用される感光体が異なるが、現在では、大型機や高速機におけるSeやa−Si等の無機系感光体を除き、その優れた安定性、コストおよび使いやすさから、有機顔料を樹脂中に分散させてなる有機感光体(OPC:Organic Photo Conductor)が広く用いられている。この有機感光体は、無機系感光体が正帯電型であることと対照的に、負帯電型であることが一般的である。その理由は、負帯電型有機感光体においては、良好な正孔輸送機能をもつ正孔輸送材料が古くから開発されてきたのに対し、正帯電型有機感光体においては、良好な電子輸送能をもつ電子輸送材料がなかなか開発されてこなかった点にある。
【0004】
一方で、この負帯電型有機感光体用の負帯電プロセスでは、負極性のコロナ放電によるオゾン発生量が、正極性に対し約10倍と圧倒的に多く、感光体への悪影響や、使用環境への悪影響が問題となっている。そのため、この負帯電プロセスでは、ローラ帯電やブラシ帯電のような接触帯電方式を採用することで、オゾン発生量を抑制している。しかし、この接触帯電方式は、正極性の非接触帯電方式に比べてコストが不利であること以外にも、帯電部材の汚染が避けられず、信頼性の面で不十分であることや、感光体の表面電位を均一化しにくいなど、高画質化の点でも不利な面をもっている。
【0005】
これらの問題を解決するためには、正帯電型有機感光体を適用することが有効であり、高性能な正帯電型有機感光体が求められている。正帯電型有機感光体は、上述のような正帯電方式特有のメリットの他にも、一般にキャリア発生位置が感光層の表面近傍であることから、負帯電型有機感光体に比べてキャリアの横方向拡散が少なく、ドット再現性(解像性および階調性)に優れているという利点を有している。そのため、正帯電型有機感光体は、高解像度化の進む各分野で検討されるようになってきている。
【0006】
正帯電型有機感光体には、以下のように、大きく分けて4種類の層構成のものがあり、従来より種々提案されてきている。一つ目は、導電性支持体上に、電荷輸送層および電荷発生層を順次積層した2層構成の機能分離型感光体である(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。二つ目は、上記2層構成の上に表面保護層を積層した3層構成の機能分離型感光体である(例えば、特許文献3、特許文献4および特許文献5参照)。三つ目は、一つ目とは逆に、電荷発生層および電荷(電子)輸送層を順次積層した逆積層の2層構成の機能分離型感光体である(例えば、特許文献6および特許文献7参照)。四つ目は、電荷発生材料、正孔輸送材料および電子輸送材料を同一層中に分散した単層型感光体である(例えば、特許文献6および特許文献8参照)。なお、上記4種類の分類においては、下引き層の有無は考慮しない。
【0007】
このうち、最後の四つ目の単層型感光体については、詳細な検討がなされ、一般的に広く実用化が進められている。その大きな理由は、正孔輸送材料の正孔輸送機能と比較して、輸送能において劣る電子輸送材料の電子輸送機能を、正孔輸送材料が補完する構成をとっていることにあると考えられる。この単層型感光体においては、分散型であるが故に、膜中内部でもキャリア発生は起きるが、感光層の表面近傍に近づくほどキャリア発生量が大きく、正孔輸送距離と比較して電子輸送距離は小さくてすむので、電子輸送能は正孔輸送能ほど高い必要はないものと考えられる。これにより、他の三つのタイプと比較して、実用上十分な環境安定性および疲労特性を実現している。
【0008】
しかし、単層型感光体においては、単一膜にキャリア発生およびキャリア輸送の両機能を持たせていることから、塗布工程の簡素化が可能であって高い良品率および工程能力を得やすいという長所を持つ反面、高感度化・高速化を図るために正孔輸送材料および電子輸送材料の両者を単一層内に多く含有させることで結着樹脂の含有量が低下して、耐久性が低下するという問題があった。よって、単層型感光体において、高感度・高速化と高耐久との両立を図ることには限界があった。
【0009】
また、単層型感光体において結着樹脂の比率が低くなると、ガラス転移点が低くなって、接触部材に対する耐汚染性が悪化するという難点もあった。さらに、特許文献9、特許文献10および特許文献11に開示されているように、油脂・皮脂汚染対策として、単層型の感光層中に可塑剤としてフェニレン化合物を添加すると、ガラス転移点の低下がより助長されてしまう。そのため、有機感光体に接触するローラ等の当接圧が高い装置では、クリープ変形が顕著になり、印字欠陥になって顕在化するという問題もあった。
【0010】
そのため、近年の装置の小型化や高速化、高解像度化、カラー化に対応する感度、耐久性および耐汚染性を両立するためには、従来の単層型正帯電有機感光体では対応が困難であり、新たに、電荷輸送層と電荷発生層とを順次積層した積層型正帯電感光体についても提案されている(例えば、特許文献12および特許文献13参照)。この積層型正帯電感光体の層構成は、上述の一つ目の層構成に類似するものであるが、電荷発生層に含まれる電荷発生材料を少なくするとともに電子輸送材料を含有させ、下層の電荷輸送層に近い厚膜化ができる他、電荷発生層内の正孔輸送材料の添加量を少なくできるため、電荷発生層内の樹脂比率を従来の単層型より多く設定でき、高感度化と高耐久化との両立が図りやすい構成となっている。
【0011】
しかしながら、この積層型正帯電有機感光体も単層型感光体も根本的には、皮脂汚染に対する耐久性は必ずしも十分でなく、人間の鼻の脂や頭皮の皮脂が感光体表面に付着した状態で長時間放置された場合、表面に割れが生じ、白点や黒点等の画像不良が発生する場合があった。
【0012】
感光体の改良に係る従来技術としては、上記の他、外周部に電荷発生機能を有する機能性官能基からなる機能性層を有し、内部に静電的相互作用により吸着が可能な程度の電荷を有する吸着層を有する、コア−シェル型ミクロスフェアである高分子微粒子を用いる技術や(特許文献14参照)、少なくともアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を末端に有するハイパーブランチ構造若しくはデンドリマー構造を有するオリゴマーと、電荷輸送性構造部分を有するラジカル重合性化合物との硬化物を用いる技術(特許文献15参照)が知られている。また、感光体の表面層に、バインダー樹脂と、側鎖に長鎖アルキル基を有する直鎖状のビニル重合体とを含有させる技術(特許文献16参照)や、感光体の保護層を、メルカプト変性シリコーンオイルの存在下においてラジカル重合性モノマーを重合させることによって得られた硬化樹脂よりなるものとすることで、保護層の架橋性を向上させて、表面の潤滑性を向上しようとする技術(特許文献17参照)も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平05−30262号公報
【特許文献2】特開平04−242259号公報
【特許文献3】特公平05−47822号公報
【特許文献4】特公平05−12702号公報
【特許文献5】特開平04−241359号公報
【特許文献6】特開平05−45915号公報
【特許文献7】特開平07−160017号公報
【特許文献8】特開平03−256050号公報
【特許文献9】特開2007−163523号公報
【特許文献10】特開2007−256768号公報
【特許文献11】特開2007−121733号公報
【特許文献12】特開2009−288569号公報
【特許文献13】国際公開第2009/104571号パンフレット
【特許文献14】特開2003−228184号公報
【特許文献15】特開2010−276699号公報
【特許文献16】特開2003−255580号公報
【特許文献17】特開2012−93403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、単層型の正帯電有機感光体においても、上記特許文献12,13に開示されているような積層型正帯電有機感光体においても、高感度・高速化、高耐久化、および、グリス等の油脂による汚染に対する耐性については両立できるものの、人体由来の皮脂付着に対する汚染、すなわち、クラック発生による画像欠陥発生を完全には防止できるものではなかった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解消して、高解像度かつ高速の正帯電方式の電子写真装置に適用され、動作安定性に優れるとともに、画像メモリーや、接触部材または油脂若しくは皮脂による汚染で生ずるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高感度・高速応答でかつ高耐久な電子写真用感光体、その製造方法および電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、皮脂によるクラック発生防止策について鋭意検討した結果、特定構造の高分岐ポリマーを、最外層の塗布液中に溶解させ、塗布液中に分散させた状態で、最外層を塗布することにより、最外層に高分岐ポリマーを含有させることができ、これにより、人体由来の皮脂から染み出す油を水平方向へ拡散させて、皮脂によるクラックの発生を防止できることを見出した。
【0017】
感光体の表面上に皮脂を10日間付着させた後、クラックが発生した部分の皮脂は変色している場合が多く、皮脂からの油で溶け出した電荷輸送材料が表面の皮脂の方向に移動しやすくなっているものと考えられ、具体的には、以下のメカニズムがあるものと推測される。
【0018】
すなわち、感光層の膜中に残留溶媒が存在すると、皮脂から浸透した油によって溶け出した正孔輸送材料あるいはその分解物が膜表面の皮脂の方向に移動しやすくなる。その後、電子輸送材料が移動することで、膜中の空隙がより大きくなり、この大きくなった空隙に応力が集中することで、クラックが発生するものと考えられる。
【0019】
したがって、その対策としては、一つ目には皮脂から膜中への油の浸透を抑制すること、二つ目には油によって溶出あるいは分解しにくい電荷輸送材料を用いること、三つ目にはこれら電荷輸送材料あるいは分解物の移動を阻害するものを添加すること、四つ目にはできるだけ残留応力の小さい膜に製膜すること等が考えられる。
【0020】
かかる観点から、本発明者らはさらに検討した結果、できる限り感光体本来の特性を生かした対策、つまり、電気特性および外観品質を損なわない範囲で、一つ目の対策である皮脂からの膜中への油の浸透を抑制するとともに、三つ目の電荷輸送材料等の皮脂への移動を阻害するような材料を最外層表面に偏析させることが有効であるとの考えから、本発明に至った。
【0021】
すなわち、本発明の電子写真用感光体は、導電性支持体上に、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂を含有する感光層を備える電子写真用感光体において、最外層が、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料、結着樹脂、および、下記一般式(1)で表される構造を有する、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(A)と、下記一般式(2)で表される構造を有する、分子内に炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基、および、少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(B)とを、アゾ系重合開始剤(C)の存在下で重合させてなる高分岐ポリマーを含有することを特徴とするものである。
(一般式(1)中、RおよびRは水素原子またはメチル基を表し、Aは炭素原子数3〜30の脂環基、または、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素原子数2〜12のアルキレン基を表し、mは1〜30の整数を表す)
(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基を表し、Aは炭素原子数2〜6のアルキレン基を表し、nは0〜30の整数を表す)
【0022】
本発明においては、感光体の最外層に、高分岐ポリマーに長鎖アルキル基や脂環基を導入して得られる親油性高分岐ポリマーを改質剤として添加し、偏析させることで、上記油の浸入と材料の移動とを阻害することができる。高分岐ポリマーにおいては積極的に枝分かれ構造が導入されているので、高分岐ポリマーは線状ポリマーと比較して分子の絡み合いが少なく、微粒子的挙動を示し、樹脂に対する分散性が高い点に特徴を有する。具体的には、かかる高分岐ポリマーは、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(A)と、分子内に炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基、および、少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマー(B)とを、アゾ系重合開始剤(C)の存在下で重合させることにより得ることができる。
【0023】
なお、高分岐ポリマーの電子写真用感光体への適用例として、電荷発生層に添加することで電荷発生機能を向上する目的で提案された特許文献14記載の技術や、表面保護層に添加することで耐磨耗性を向上する目的で提案された特許文献15に記載の技術があるが、これらは、その構造および作用効果において本発明とは異なるものであり、本発明では、最表面の層に特定構造の高分岐ポリマーを偏析させることで、人体由来の油を水平方向に拡散させて、その感光体内部への浸入を阻止するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、上記構成としたことにより、高解像度かつ高速の正帯電方式の電子写真装置に適用され、動作安定性に優れるとともに、画像メモリーや、接触部材または油脂若しくは皮脂による汚染で生ずるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高耐久な電子写真用感光体、その製造方法および電子写真装置を実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の単層型正帯電感光体の一構成例を示す模式的断面図である。
図2】本発明の積層型正帯電感光体の一構成例を示す模式的断面図である。
図3】本発明の電子写真装置の一構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。本発明は、以下の説明により何ら限定されるものではない。
図1および2に、本発明の電子写真用感光体の一構成例を示す模式的断面図を示す。図1は、導電性支持体1上に、下引き層2を介して単層型の感光層3を積層した構成であり、図2は、導電性支持体1上に、下引き層2を介して電荷輸送層4および電荷発生層5を順次積層した構成である。本発明において、下引き層2は基本的に不要であるが、必要に応じ、図のように設けてもよい。
【0027】
図示する本発明の電子写真用感光体は、最外層に、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂に加えて、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーと、分子内に長鎖アルキル基または脂環基および少なくとも1個のラジカル重合性二重結合を有するモノマーとを、重合開始剤の存在下で重合させて得られた高分岐ポリマーを含有させた、正帯電の電子写真用感光体である。本発明においては、感光体の最外層である感光層または電荷発生層の塗布液中に、特定の分子量を持つ長鎖アルキル基や脂環基が導入された高分岐ポリマーを溶解、含有させ、感光層を形成することで、皮脂によるクラックの発生を防止するものである。前述したように、本発明において用いる高分岐ポリマーは樹脂に対する分散性が高く、かつ、脂環基を有するために親油性が高い。そのため、感光体の最外層にこの高分岐ポリマーを含有させることで、これが感光体表面に偏析して、表面に付着した人体由来の皮脂と結合し、皮脂を表面方向に拡散させることにより、感光体内部への局所的な皮脂の浸入を阻止することによって、電荷輸送材料等の皮脂への移動を阻害することができる。これにより、皮脂の付着に起因するクラックの発生を防止することが可能となるものである。また、本発明に係る高分岐ポリマーは、感光体本来の電気特性や外観品質を損なうこともない。
【0028】
本発明においては、正帯電感光体の最外層である単層の感光層または積層の電荷発生層に、上記高分岐ポリマーを含有させるものであればよく、これにより、本発明の所期の効果を得ることができるものである。本発明において、それ以外の層、すなわち、下引き層の有無等については、所望に応じ適宜決定することができ、特に制限されるものではない。
【0029】
上記高分岐ポリマーの構成単位であるモノマー(A)の構造の具体例としては、下記一般式(1)で表されるもの、モノマー(B)の構造の具体例としては、下記一般式(2)で表されるものが、それぞれ挙げられる。但し、本発明に係る高分岐ポリマーは、これら例示構造のものに限定されるものではない。
(一般式(1)中、RおよびRは水素原子またはメチル基を表し、Aは炭素原子数3〜30の脂環基、または、ヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素原子数2〜12のアルキレン基を表し、mは1〜30の整数を表す)
(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素原子数6〜30のアルキル基または炭素原子数3〜30の脂環基を表し、Aは炭素原子数2〜6のアルキレン基を表し、nは0〜30の整数を表す)
【0030】
上記一般式(1)中、Aで表されるヒドロキシ基で置換されていてもよい炭素原子数2〜12のアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、2−ヒドロキシトリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、ペンタメチレン基、2,2−ジメチルトリメチレン基、ヘキサメチレン基、ノナメチレン基、2−メチルオクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基等が挙げられる。具体的には、イソプレン、ブタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等が挙げられる。
【0031】
上記一般式(1)中、Aで表される炭素原子数3〜30の脂環基としては、具体的にはシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、(2−(1−((メタ)アクリロイルオキシ)−2−メチルプロパン−2−イル)−5−エチル−1,3−ジオキサン−5−イル)メチル(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、(2−(1−((メタ)アクリロイルオキシ)−2−メチルプロパン−2−イル)−5−エチル−1,3−ジオキサン−5−イル)メチル(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
上記モノマー(B)は、ビニル基または(メタ)アクリル基のいずれか一方を少なくとも1つ有することが好ましい。
上記一般式(2)中、Rで表される炭素原子数6〜30のアルキル基としては、ヘキシル基、エチルヘキシル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、アラキル基、ベヘニル基、リグノセリル基、セロトイル基、モンタニル基、メリッシル基等が挙げられる。中でも、アルキル基の炭素原子数は、好ましくは10〜30であり、より好ましくは12〜24である。また、Rで表されるアルキル基は、直鎖状または分岐状のいずれであってもよい。より優れた耐汚染性を付与するために、Rは直鎖状アルキル基であることが好ましい。
【0033】
上記一般式(2)中、Rで表される炭素原子数3〜30の脂環基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基、ノルボルネニル基、メンシル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(2)中、Aで表される炭素原子数2〜6のアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、ペンタメチレン基、2,2−ジメチルトリメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。
【0035】
なお、上記一般式(1),(2)中、nは、耐汚染性の観点から、0であることが好ましい。
【0036】
このようなモノマー(B)としては、例えば、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5−トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、4−tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルネン(メタ)アクリレート、メンシル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレート、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン(メタ)アクリレート、2−ヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−ラウリルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−ステアリルオキシエチル(メタ)アクリレート、2−シクロヘキシルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリメチレングリコール−モノラウリルエーテル−(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコール−モノラウリルエーテル−(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコール−モノラウリルエーテル−(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール−モノステアリルエーテル−(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール−モノステアリルエーテル−(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール−モノラウリルエーテル−(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコール−モノステアリルエーテル−(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコール−モノステアリルエーテル−(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらモノマー(B)は、単独で使用してもよいし、2種類以上を併用しても構わない。
【0037】
本発明におけるアゾ系重合開始剤(C)としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、ジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)等を挙げることができる。中でも、構成材料に対する表面改質効果と電気特性が良好である点から、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)およびジメチル1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボキシレート)が好ましい。
【0038】
本発明に用いる高分岐ポリマーは、具体的に、上記モノマー(A)とモノマー(B)とを、モノマー(A)に対し所定量のアゾ系重合開始剤(C)の存在下で重合させることにより得ることができる。本発明において、モノマー(A)とモノマー(B)とを共重合させる際の比率は、モノマー(A)のモル数に対し、モノマー(B)が好適には5〜300モル%、より好適には10〜150モル%となるものとする。また、アゾ系重合開始剤(C)は、モノマー(A)のモル数に対し、好適には5〜200モル%、より好適には50〜100%となる量で使用する。
【0039】
重合方法としては、公知の方法、例えば、溶液重合、分散重合、沈殿重合、塊状重合等が挙げられ、中でも、溶液重合または沈殿重合が好ましい。特に、分子量の制御の点から、有機溶媒中での溶液重合により、反応を実施することが好ましい。
【0040】
この際に用いられる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン、オルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素類、塩化メチル、臭化メチル、クロロホルム等のハロゲン化物、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエステル類もしくはエステルエーテル類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メチルセロソルブ等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、並びに、これら2種以上からなる混合溶媒が挙げられる。有機溶媒の量は、モノマー(A)1質量部に対し、1〜100質量部とすることができる。
【0041】
また、重合の際の温度は50〜200℃であり、より好ましくは、アゾ系重合開始剤(C)の10時間半減期温度よりも20℃以上高い温度で実施する。重合後に得られる高分岐ポリマーは、貧溶媒中で再沈殿、析出させる等の任意の方法で回収することができる。
【0042】
本発明に用いる高分岐ポリマーとしては、具体的には、国際公開第2012/128214号パンフレットに記載の高分岐ポリマー1〜16、18〜36が挙げられる。また、本発明に用いる高分岐ポリマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィによるポリスチレン換算分子量は、好適には1000〜200000であり、より好適には2000〜100000であり、さらに好適には5000〜60000である。
【0043】
本発明に用いる高分岐ポリマーはハイパーブランチポリマーと呼ばれ、デンドリマーのように高分岐した樹状構造を持つが、デンドリマーのように全ての分岐部位が重合するのではなく、分岐が不完全な樹状構造であるという特徴を持つ。高分岐ポリマーの分岐度は、一般に、末端部位と分岐部位および未分岐部位の各量から推定したり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)と光散乱計測とを組合せて、樹脂の回転半径を求めることにより、推測することができる。一般的に、高分岐ポリマーと、同原料を用いて合成した同分子量の直鎖状や櫛状のポリマーとを、溶媒に溶解させた際の溶液の粘度やGPCでの分子量で比較すると、高分岐ポリマーは球状構造を取ることから分子絡み合いが低く低粘度を示し、回転半径が小さいことからGPC溶出時間が遅く、GPC上の分子量が低く計測されるという特徴を持つ。
【0044】
<単層型感光体>
[導電性支持体]
導電性支持体1は、感光体の一電極としての役目を担うのと同時に、感光体を構成する各層の支持体ともなっている。導電性支持体1は、円筒状や板状、フィルム状などのいずれの形状でもよく、材質的には、アルミニウムやステンレス鋼、ニッケルなどの金属類の他、ガラスや樹脂などの表面に導電処理を施したものでもよい。
【0045】
[下引き層]
下引き層2は、本発明において基本的には不要であるが、必要に応じて設けることが可能である。下引き層2は、樹脂を主成分とする層や、アルマイトなどの金属酸化皮膜からなり、導電性支持体と感光層との密着性を向上する目的や、感光層への電荷の注入性を制御する目的で、設けられる。下引き層に用いられる樹脂材料としては、カゼインやポリビニルアルコール、ポリアミド、メラミン、セルロースなどの絶縁性高分子、および、ポリチオフェンやポリピロール、ポリアニリンなどの導電性高分子が挙げられ、これらの樹脂は単独、あるいは適宜組み合わせて混合して用いることができる。また、これらの樹脂に、二酸化チタンや酸化亜鉛などの金属酸化物を含有させることもできる。
【0046】
[感光層]
感光層3は、主として、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂よりなる。
【0047】
(電荷発生材料)
電荷発生材料としては、X型無金属フタロシアニンを単独、若しくは、α型チタニルフタロシアニン、β型チタニルフタロシアニン、Y型チタニルフタロシアニン、γ型チタニルフタロシアニン、アモルファス型チタニルフタロシアニンを単独、または、これらを適宜組合せて用いることができ、画像形成に使用される露光光源の光波長領域に応じて好適な物質を選ぶことができる。高感度化の観点からは、量子効率の高いチタニルフタロシアニンが最適である。
【0048】
(正孔輸送材料)
正孔輸送材料としては、各種ヒドラゾン化合物やスチリル化合物、ジアミン化合物、ブタジエン化合物、インドール化合物等を単独、あるいは適宜組合せて用いることができるが、トリフェニルアミン骨格を含むスチリル系化合物が、コストおよび性能面で好適である。なお、低分子量のトリフェニルアミンを、クラック対策の可塑剤として、必要に応じ使用することも可能である。
【0049】
(電子輸送材料)
電子輸送材料としては、高移動度の材料であるほど好ましく、ベンゾキノンやスチルベンキノン、ナフトキノン、ジフェノキノン、フェナントレンキノン、アゾキノン等のキノン系材料が好ましい。これらは、電荷輸送層への注入性や結着樹脂との相溶性から、単独で用いる他、2種以上の材料を用いて、析出を抑えつつ、電子輸送材料の含有量を増加させることも好ましい。
【0050】
(結着樹脂)
結着樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールZ型、ビスフェノールA型−ビフェニル共重合体などのポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などを、それぞれ単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。この中でも、顔料の分散性、輸送材料および高分岐ポリマーとの相溶性および偏析具合によって樹脂が決定される。また、残留応力が残りにくい樹脂を選定することが有効であり、ポリカーボネートでは、ビスフェノールA型あるいはZ型とビフェニル共重合体との重合比を、電子写真プロセスにより最適化した樹脂が好適である。
【0051】
(高分岐ポリマー)
本発明において使用する高分岐ポリマーは、分岐構造をした粒子形状の樹脂であることから、所望の性質を示す官能基を、球状粒子表面に多く存在する末端部分に付けることが可能であり、油に対する性質を制御できる特徴がある。本発明の親油性効果を出すため末端にアルキル基をつけた高分岐ポリマーは、表面に偏析する性質があり、水平方向に油を拡散させるため、少量の添加で効果が大きい。感光体の基本特性としての電気特性や外観特性、疲労特性を良好に確保する観点からは、高分岐ポリマーは、層中の結着樹脂100質量部に対し、0.3質量部〜6質量部、特には、0.5質量部〜4質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0052】
(その他の添加剤)
感光層中には、所望に応じ、耐環境性や有害な光に対する安定性を向上させる目的で、酸化防止剤や光安定剤などの劣化防止剤を含有させることができる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0053】
また、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。さらに、膜硬度の調整や、摩擦係数の低減、潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子を含有させてもよい。さらにまた、必要に応じて、電子写真特性を著しく損なわない範囲で、その他公知の添加剤を含有させることもできる。
【0054】
(組成)
感光層内の機能材料(電荷発生材料、電子輸送材料および正孔輸送材料)の和と結着樹脂との質量比率は、所望の特性を得るために35:65〜65:35の範囲で設定される。機能材料の質量比率が、感光層中の65質量%より多く、すなわち、結着樹脂の量が35質量%より少ないと、膜減り量が大きくなって、耐久性が低下する他、ガラス転移点の低下によりクリープ強度が不足して、トナーフィルミングや外部添加材、紙粉のフィルミングが起きやすくなり、さらに、接触部材汚染(クリープ変形)が生じ易くなり、グリス等の油脂による汚染性、皮脂汚染性も悪化する傾向となる。また、上記機能材料の質量比率が、感光層中の35質量%より少なく、すなわち、結着樹脂の量が65質量%より多いと、所望の感度特性を得ることが困難となり、実用に適さなくなるおそれがある。一般に、耐久性を確保しつつ、部材汚染、油脂汚染および皮脂汚染を抑制する観点からは、結着樹脂比率を高くすることが望ましい。
【0055】
電荷発生材料の含有比率は、膜全体の0.5〜3質量%が好適であり、0.8〜1.8質量%であることがより好適である。電荷発生材料が少なすぎると感度特性が不足する他、干渉縞の発生の可能性が高まり、多すぎると帯電特性や疲労特性(繰り返し使用安定性)が不十分になりやすい。
【0056】
電子輸送材料と正孔輸送材料との質量比率は、1:1〜1:4の範囲で変えることができるが、一般に、正孔と電子との輸送バランスより、1:1〜1:3の範囲で使われることが、感度特性、帯電特性および疲労特性面でより好ましい。
【0057】
(溶剤)
感光層の溶剤としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等を挙げることができ、各種材料の溶解性、液安定性および塗工性の観点より、適宜選択することができる。
【0058】
(膜厚)
感光層の膜厚は、実用上有効な性能を確保する観点より、12〜40μmの範囲が好適であり、好ましくは15〜35μmであり、より好ましくは20〜30μmである。
【0059】
<積層型感光体>
[導電性支持体]
導電性支持体1は、単層型感光体の場合と同様である。
【0060】
[下引き層]
下引き層2は、単層型感光体の場合と同様であり、本発明において基本的には不要であるが、必要に応じて設けることが可能である。
【0061】
[電荷輸送層]
電荷輸送層4は、主として正孔輸送材料と結着樹脂とにより構成される。
【0062】
(正孔輸送材料)
電荷輸送層4に使用される正孔輸送材料は、単層型感光体の場合と同様であるが、内側の層になることから、単層型有機感光体に対して、低分子量のトリフェニルアミンを、クラック対策の可塑剤として、より多く使用することが可能である。
【0063】
(結着樹脂)
電荷輸送層4の結着樹脂は、単層型感光体の場合と同様であるが、内側の層であることから、機械強度があまり要求されなくなる一方、電荷発生層5を塗布した際の溶出しにくさが要求される。この観点から、電荷発生層の液の溶剤に溶出しにくい樹脂が好適であり、分子量が高い樹脂を用いることが好ましい。
【0064】
(その他の添加剤)
電荷輸送層4中には、所望に応じ、耐環境性の安定性を向上させる目的で、酸化防止剤や光安定剤などの劣化防止剤を含有させることができる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0065】
また、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。さらに、膜硬度の調整や、摩擦係数の低減、潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子を含有させてもよい。さらにまた、必要に応じて、電子写真特性を著しく損なわない範囲で、その他公知の添加剤を含有させることもできる。
【0066】
(組成)
電荷輸送層4における正孔輸送材料と結着樹脂との質量比率は、1:3〜3:1(25:75〜75:25)の範囲とすることができ、好適には、1:1.5〜1.5:1(40:60〜60:40)の範囲である。正孔輸送材料の含有量が、電荷輸送層4中の25質量%より少ないと、一般に輸送機能が不足し、残留電位が高くなる他、装置内の露光部電位の環境依存性が大きくなり、画像品質の環境安定性が悪化してしまうので、使用に適さなくなるおそれがある。一方、正孔輸送材料の含有量が、電荷輸送層4中の75質量%より多くなり、すなわち、結着樹脂が電荷輸送層4中の25質量%より少なくなると、電荷発生層5を塗布した際の溶出の弊害が発生するおそれがある。
【0067】
(溶剤)
電荷輸送層4の溶剤としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等を挙げることができ、各種材料の溶解性、液安定性および塗工性の観点より、適宜選択することができる。
【0068】
(膜厚)
電荷輸送層4の膜厚は、後述する電荷発生層5との兼ね合いで決められるが、実用上有効な性能を確保する観点より、3〜40μmの範囲が好適であり、より好適には5〜30μm、さらに好適には10〜20μmである。
【0069】
[電荷発生層]
電荷発生層5は、電荷発生材料の粒子を、正孔輸送材料および電子輸送材料が溶解した結着樹脂中に分散させた塗布液を塗布するなどの方法により形成される。電荷発生層5は、光を受容してキャリアを発生する機能をもつとともに、発生した電子を感光体表面に運び、正孔を上記電荷輸送層4に運ぶ機能を有する。電荷発生層5は、キャリアの発生効率が高いことと同時に、発生した正孔の電荷輸送層4への注入性が重要であり、電場依存性が少なく、低電場でも注入の良いことが望ましい。
【0070】
(電荷発生材料)
電荷発生材料は、単層型感光体の場合と同様であり、画像形成に使用される露光光源の光波長領域に応じて好適な物質を選ぶことができる。高感度化の観点からは、量子効率の高いチタニルフタロシアニンが最適である。
【0071】
(正孔輸送材料)
正孔輸送材料としては、電荷輸送層に正孔を注入する必要上、電荷輸送層の電荷輸送材料とのイオン化ポテンシャルの差異が小さいことが好ましく、具体的には、0.5eV以内が好ましい。特に、本発明において、電荷発生層5は電荷輸送層4上に塗布形成されるので、電荷発生層5の塗布時に、電荷輸送層4の塗布液への溶出の影響を抑えて、電荷発生層5の液状態を安定化させるために、電荷輸送層4に含まれる正孔輸送材料が電荷発生層5にも含まれていることが好ましく、より好ましくは、電荷輸送層4および電荷発生層5で用いる正孔輸送材料として、同じものを使用する。
【0072】
(電子輸送材料)
電子輸送材料は、単層型感光体の場合と同様であり、高移動度の材料であるほど好ましいが、電荷輸送層への注入性や結着樹脂との相溶性から、単独で用いる他、2種以上の材料を用いて、析出を抑えつつ、電子輸送材料の含有量を増加させることも好ましい。
【0073】
(結着樹脂)
電荷発生層用の結着樹脂としては、ビスフェノールA型やビスフェノールZ型、ビスフェノールA型−ビフェニル共重合体などのポリカーボネート系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などをそれぞれ単独、あるいは適宜組み合わせで混合して用いることができる。中でも、電荷発生材料の分散安定性、正孔輸送材料および電子輸送材料との相溶性、機械的安定性、化学的安定性、熱的安定性の点から、ポリカーボネート系樹脂が好適である。特には、上記正孔輸送材料と同様に、電荷発生層5の塗布時に電荷輸送層4の塗布液への溶出の影響を抑えて、電荷発生層5の液状態を安定化するために、電荷輸送層4に含まれる結着樹脂が電荷発生層5にも含まれていることが好ましく、より好ましくは、電荷輸送層4および電荷発生層5で用いる結着樹脂として、同じものを使用する。
【0074】
(高分岐ポリマー)
本発明において適用する高分岐ポリマーは、上述した通りであり、単層型感光体の場合と同様である。高分岐ポリマーの添加量についても、単層型感光体の場合と同様とすることができる。
【0075】
(その他の添加剤)
電荷輸送層4中には、所望に応じ、耐環境性の安定性を向上させる目的で、酸化防止剤や光安定剤などの劣化防止剤を含有させることができる。このような目的に用いられる化合物としては、トコフェロールなどのクロマノール誘導体およびエステル化化合物、ポリアリールアルカン化合物、ハイドロキノン誘導体、エーテル化化合物、ジエーテル化化合物、ベンゾフェノン誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チオエーテル化合物、フェニレンジアミン誘導体、ホスホン酸エステル、亜リン酸エステル、フェノール化合物、ヒンダードフェノール化合物、直鎖アミン化合物、環状アミン化合物、ヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0076】
また、形成した膜のレベリング性の向上や潤滑性の付与を目的として、シリコーンオイルやフッ素系オイル等のレベリング剤を含有させることもできる。さらに、膜硬度の調整や、摩擦係数の低減、潤滑性の付与等を目的として、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等の金属硫酸塩、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の金属窒化物の微粒子を含有してもよい。さらにまた、必要に応じて、電子写真特性を著しく損なわない範囲で、その他公知の添加剤を含有させることもできる。
【0077】
(組成)
電荷発生層5における各々の機能材料(電荷発生材料、電子輸送材料および正孔輸送材料)の配分量については、以下のように設定される。まず、本発明においては、電荷発生層5中の電荷発生材料の含有率が、電荷発生層5中の1〜4質量%、特には1.5〜3.0質量%であることが好ましい。また、電荷発生層5における機能材料(電荷発生材料、電子輸送材料および正孔輸送材料)の和と結着樹脂との質量比率は、所望の特性を得るために35:65〜65:35の範囲で設定されるが、耐久性を確保しつつ、部材汚染、油脂汚染および皮脂汚染を抑制する観点から、上記質量比率を50以下:50以上として、結着樹脂の量を多くすることが好ましい。
【0078】
上記機能材料の質量比率が、電荷発生層5中の65質量%より多く、すなわち、結着樹脂の量が35質量%より少ないと、膜減り量が大きくなって、耐久性が低下する他、ガラス転移点の低下によりクリープ強度が不足して、トナーフィルミングや外部添加材、紙粉のフィルミングが起きやすくなり、さらに、接触部材汚染(クリープ変形)が生じ易くなり、グリス等の油脂による汚染性および皮脂汚染性も悪化する。また、上記機能材料の質量比率が、電荷発生層5中の35質量%より少なく、すなわち、結着樹脂の量が65質量%より多いと、所望の感度特性を得ることが困難となり、実用に適さなくなるおそれがある。
【0079】
電子輸送材料と正孔輸送材料との質量比率は、1:5〜5:1の範囲で変えることができるが、本発明においては、電荷発生層5の下層に正孔輸送機能をもつ電荷輸送層4が存在するので、単層型有機感光体における一般的な上記質量比率の範囲である1:5〜2:4の正孔輸送材料リッチの組成とは逆に、5:1〜4:2の範囲が好適となり、特には、4:1〜3:2の範囲が、総合的な特性面でより好ましい。このように、本発明に係る積層型感光体では、下層である電荷輸送層4中に正孔輸送材料を多量に配合できるので、単層型感光体とは異なり、上層である電荷発生層5において、皮脂付着によるクラック発生の一要因である正孔輸送材料の含有量を低く抑えることができる特徴がある。
【0080】
(溶剤)
電荷発生層5の溶剤としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類等を挙げることができる。このうち、一般的に、沸点が高いものが好ましく、具体的には沸点が60℃以上のもの、特には沸点が80℃以上のものを用いることが好適である。中でも、高感度化のために高量子効率のチタニルフタロシアニンを電荷発生材料に用いた場合には、比重が重くかつ沸点が80℃以上であるジクロロエタンを、電荷発生層を形成する際に用いる溶媒として用いることが、分散安定性および電荷輸送層の溶出しにくさの点で好適である。
【0081】
(膜厚)
電荷発生層5の膜厚は、電荷輸送層4との兼ね合いで決められるが、実用上有効な性能を確保する観点より、3μm〜40μmの範囲が好適であり、好ましくは5μm〜30μmであり、より好ましくは10μm〜20μmである。
【0082】
本発明の感光体の製造方法は、少なくとも電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂を含有する感光層を備える電子写真用感光体を製造するに際し、最外層の塗布液として、電荷発生材料、正孔輸送材料、電子輸送材料および結着樹脂に加えて、上記本発明に係る高分岐ポリマーを含有するものを用いる点に特徴を有する。これにより、表面の耐汚染性に優れ、繰返し使用時においても安定した電気特性を有し、転写耐性や耐ガス性にも優れた感光体を得ることができるものであり、それ以外の、製造工程の詳細や塗布液の作製に使用する溶剤等については特に制限されるものではなく、常法に従い、適宜実施することが可能である。例えば、本発明の製造方法における上記塗布液は、浸漬塗布法や噴霧塗布法等の種々の塗布方法に適用することが可能であり、いずれかの塗布方法に限定されるものではない。
【0083】
(電子写真装置)
本発明の電子写真装置は、上記本発明の感光体を搭載してなるものであり、各種マシンプロセスに適用することにより所期の効果が得られるものである。具体的には、ローラやブラシなどの帯電部材を用いた接触帯電方式、コロトロン、スコロトロンなどの帯電部材を用いた非接触帯電方式等の帯電プロセス、および、非磁性一成分、磁性一成分、二成分などの現像方式(現像剤)を用いた接触現像および非接触現像方式などの現像プロセスにおいても十分な効果を得ることができる。
【0084】
一例として、図3に、本発明の電子写真装置の一構成例を示す概略構成図を示す。図示する本発明の電子写真装置60は、導電性支持体1と、その外周面上に被覆された下引き層2および感光層300とを含む、本発明の電子写真用感光体7を搭載する。さらに、この電子写真装置60は少なくとも帯電プロセスと現像プロセスを備える。電子写真装置60は、感光体7の外周縁部に配置された、ローラ帯電部材21と、このローラ帯電部材21に印加電圧を供給する高圧電源22と、像露光部材23と、現像ローラ241を備えた現像器24と、給紙ローラ251および給紙ガイド252を備えた給紙部材25と、転写帯電器(直接帯電型)26と、クリーニングブレード271を備えたクリーニング装置27と、除電部材28と、から構成される。また、本発明の電子写真装置60は、カラープリンタとすることができる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の具体的態様を、実施例を用いてさらに詳細に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0086】
<電子写真用感光体の作製実施例>
導電性支持体としては、φ30mm×長さ244.5mm、および、φ30mm×長さ252.6mmの2種類の形状で、表面粗さ(Rmax)0.2μmに切削加工されたアルミニウム製の0.75mm肉厚管を用いた。
【0087】
〔実験に用いた材料〕
(電荷発生材料)
電荷発生材料には、下記構造式1および2で示される無金属フタロシアニン(CG−1)およびY型チタニルフタロシアニン(CG−2)を用いた。
構造式1(CG−1)
構造式2(CG−2)
【0088】
(正孔輸送材料)
正孔輸送材料には、下記構造式3〜5で示されるスチリル化合物(HT−1、HT−2、HT−3)を用いた。
構造式3(HT−1)
構造式4(HT−2)
構造式5(HT−3)
【0089】
(電子輸送材料)
電子輸送材料には、下記構造式6〜8で示されるキノン系化合物(ET−1、ET−2、ET−3)を用いた。
構造式6(ET−1)
構造式7(ET−2)
構造式8(ET−3)
【0090】
(結着樹脂)
結着樹脂には、下記構造式9〜11で示される構造単位からなるポリカーボネート系樹脂(NR−1、NR−2、NR−3)を用いた。
構造式9(NR−1)
構造式10(NR−2)
構造式11(NR−3)
【0091】
(高分岐ポリマー)
国際公開第2012/128214号パンフレットに記載の下記方法に従い、高分岐ポリマーを合成した。
すなわち、まず、窒素流入下の200mlフラスコ中にトルエン53gを入れ、5分以上攪拌し、110℃に液温を上げ、還流させた。窒素流入下、別の100mlフラスコにモノマー(A)としてのトリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジメタノールジ(メタ)アクリレート6.6g(20mmol)、モノマー(B)としてのラウリルアクリレート2.4g(10mmol)、開始剤(C)としての2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)3.0g(12mmol)およびトルエン53gを入れ、攪拌し、氷冷して0℃とした。
【0092】
200mlフラスコ中のトルエンに、100mlフラスコの溶液を30分間かけて滴下し、滴下終了後、1時間攪拌した。この反応溶液を減圧下80gのトルエンを揮発溜去させたのち、ヘキサン/エタノール(質量比1:2)330gに添加、沈殿させた。この液を減圧濾過、真空乾燥し、白色粉末のポリマーを6.4g得た(国際公開第2012/128214号パンフレットに記載の高分岐ポリマー1,BR1)。このポリマーを、国際公開第2012/128214号パンフレットに記載のGPC測定方法に従い測定した際のポリスチレン換算分子量は、Mw=7800であった。
【0093】
また、各実施例中の高分岐ポリマーBR2〜9は以下の通りである。
BR2:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー2(Mw=13,000)
BR3:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー3(Mw=10,000)
BR4:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー4(Mw=8,200)
BR5:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー8(Mw=10,000)
BR6:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー9(Mw=6,600)
BR7:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー10(Mw=13,000)
BR8:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー26(Mw=9,500)
BR9:上記パンフレット記載の高分岐ポリマー27(Mw=8,800)
【0094】
(添加剤)
酸化防止剤としては、キリン協和フーズ(株)製のヒンダードフェノール系酸化防止剤であるジブチルヒドロキシトルエン(BHT)を最外層に対し、0.49質量%添加した。また、潤滑剤としては、信越化学(株)製ジメチルシリコーンオイルKF−56を最外層に対し、0.01質量%添加した。
【0095】
(溶剤)
溶剤としては、1,2−ジクロロエタンを用いた。
【0096】
(塗布液の作製)
<単層型感光体用塗布液>
上記正孔輸送材料、電子輸送材料、結着樹脂、高分岐ポリマーおよび添加剤を所望の重量比になるよう計量し、所定の溶剤を入れた容器に加え、溶解させた。次に、所定の重量比になるよう秤量した上記電荷発生材料を加え、ダイノーミル(シンマルエンタープライズ社のMULTILAB)で分散して、単層型感光体用塗布液を作製した。材料組成比を、下記の表2,3に示す。
【0097】
<積層型感光体用塗布液>
(電荷輸送層用塗布液)
下記表中に示すように、3種類の材料組成になるよう、ジクロロエタン溶剤を用いて、電荷輸送層用塗布液を作製した。
【0098】
【表1】
【0099】
(電荷発生層用塗布液)
上記正孔輸送材料、電子輸送材料、結着樹脂、高分岐ポリマーおよび添加剤を所望の重量比になるよう計量し、所定の溶剤を入れた容器に加えて溶解させた。次に、所定の重量比になるよう秤量した上記電荷発生材料を加え、ダイノーミル(シンマルエンタープライズ社のMULTILAB)で分散して、電荷発生層用塗布液を作製した。材料組成比を、下記の表4,5に示す。
【0100】
(感光体の作製)
<単層型感光体>
上記単層型感光体塗布液を、上記導電性支持体上に浸漬塗工した後、110℃にて60分間熱風乾燥し、下記の表2,3の材料組成にて、30±2μmの膜厚の感光体を得た。
【0101】
<積層型感光体>
上記電荷輸送用塗布液を、上記導電性支持体上に浸漬塗工した後、110℃にて30分熱風乾燥し、15±1μmの膜厚の電荷輸送層を得た。次に、上記電荷発生層用塗布液を浸漬塗工した後、110℃にて30分熱風乾燥して、全膜厚30±2μmの積層型感光体を得た。
【0102】
(感光体の評価)
(1)疲労特性(電気特性)
CG−1を用いたφ30mm×長さ244.5mm形状の感光体については、ブラザー工業(株)製の市販の24枚機のモノクロレーザープリンタ(HL−2450)で、10℃20%RH環境下にて、10秒間欠で印字面積率4%の画像を5,000枚まで印刷し、現像部での電位変化量を測定した。
CG−2を用いたφ30mm×長さ252.6mm形状の感光体については、ブラザー工業(株)製の市販の16枚機のカラーLEDプリンタ(HL−3040)で、10℃20%RH環境下にて、10秒間欠で印字面積率4%の画像を5,000枚まで印刷し、黒色トナーの感光体の現像部での電位変化量を測定した。
いずれの装置も、帯電電位の変化量は30V以内を○、30〜70Vを△、70V以上を×として判定した。
【0103】
(2)耐汚染性(人体頭皮による油汚染耐性)
頭皮を感光体表面に接触させ、10日間放置後に、上記モノクロレーザープリンタにて、1on2offパターンの中間調画像を印字し、クラックによる白点欠陥および黒点結果の有無を調べた。30箇所中、画像欠陥0箇所のものを○、1〜3箇所のものを△、4箇所以上を×とした。
【0104】
(3)外観特性(平滑性)
表面状態を200倍の光学顕微鏡で観察し、平滑性を官能評価した。高分岐ポリマー未添加品とまったく同じものを○、若干変化がみられるものを△、外観上の平滑性が損なわれているものを×とした。
【0105】
得られた結果を下記の表6〜9に示す。なお、表中の数値はすべて質量%を示す。
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
【表7】
【0112】
【表8】
【0113】
【表9】
【0114】
上記表中の結果から、最外層に、特定構造を有する高分岐ポリマーを含有させることで、皮脂の付着によるクラックに起因する画像欠陥の発生を効果的に抑制できることが確かめられた。また、高分岐ポリマーの含有量を、層中の結着樹脂に対し所定量の範囲とすることで、他の電気特性および外観品質についても良好なレベルを実現できることが確認された。
【0115】
以上の結果、本発明によれば、高解像度かつ高速の正帯電方式の電子写真装置に適用され、動作安定性に優れるとともに、皮脂による汚染で生ずるクラックに起因する画像欠陥の発生がなく、安定して高画像品質が得られる、高感度・高速応答でかつ高耐久な電子写真用感光体、その製造方法およびそれを用いた電子写真装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0116】
1 導電性支持体
2 下引き層
3 単層型感光層
4 電荷輸送層
5 電荷発生層
7 電子写真用感光体
21 ローラ帯電部材
22 高圧電源
241 現像ローラ
24 現像器
251 給紙ローラ
252 給紙ガイド
25 給紙部材
26 転写帯電器(直接帯電型)
271 クリーニングブレード
27 クリーニング装置
28 除電部材
60 電子写真装置
300 感光層
図1
図2
図3