特許第6052421号(P6052421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6052421繊維強化熱可塑性樹脂成形材料および繊維強化熱可塑性樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052421
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂成形材料および繊維強化熱可塑性樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20161219BHJP
   C08J 5/10 20060101ALI20161219BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20161219BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20161219BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C08J5/06CER
   C08J5/06CEZ
   C08J5/10
   C08K9/04
   C08K7/06
   C08L101/00
【請求項の数】13
【全頁数】42
(21)【出願番号】特願2015-538185(P2015-538185)
(86)(22)【出願日】2015年7月30日
(86)【国際出願番号】JP2015071648
(87)【国際公開番号】WO2016021479
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2016年3月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-159966(P2014-159966)
(32)【優先日】2014年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-159967(P2014-159967)
(32)【優先日】2014年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-247560(P2014-247560)
(32)【優先日】2014年12月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平田 慎
(72)【発明者】
【氏名】三辻 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】方 素羅
(72)【発明者】
【氏名】土谷 敦岐
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−016909(JP,A)
【文献】 特開2013−166922(JP,A)
【文献】 特開2006−052411(JP,A)
【文献】 特開2002−327108(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/038574(WO,A1)
【文献】 特開2005−256226(JP,A)
【文献】 特開2013−177560(JP,A)
【文献】 特開2006−241623(JP,A)
【文献】 高分子材料大百科,日本,日刊工業新聞社,1999年 7月30日,初版1刷,p.552−p.553
【文献】 プレンアクト、樹脂、溶剤のSP値,Technical News プレンアクト,日本,味の素ファインテクノ株式会社,2016年 7月21日,[平成28年7月21日検索],インターネット,URL,http://www.aft-website.com/wp-content/themes/aft/common/pdf/T-003.pdf
【文献】 特殊グラビア印刷インキ用バインダー樹脂,三洋化成ニュース,日本,三洋化成工業株式会社,2008年12月31日,No.448,p.3,[平成28年7月21日検索],インターネット,URL,http://www.sanyo-chemical.co.jp/pr/pdf/pk73.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08−15/14
C08J 5/04−5/10;5/24
D06M 13/00−15/715
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂[A]と、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低い樹脂[D]が強化繊維[B]に含浸された樹脂含浸強化繊維束[E]と、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低く、かつ、前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差が2.5以上である強化繊維改質成分[C]とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記強化繊維改質成分[C]と前記強化繊維[B]表面とのSP値差が前記強化繊維改質成分[C]と前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差よりも小さく、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部、樹脂[D]を0.2〜12重量部含み、前記樹脂含浸強化繊維束[E]が、前記熱可塑性樹脂[A]および強化繊維改質成分[C]を含む樹脂組成物で被覆された、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項2】
熱可塑性樹脂[A]と、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低く、かつ、前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差が2.5以上である強化繊維改質成分[C]が強化繊維[B]に含浸された樹脂含浸強化繊維束[E]とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記強化繊維改質成分[C]と前記強化繊維[B]表面とのSP値差が前記強化繊維改質成分[C]と前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差よりも小さく、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含み、前記樹脂含浸強化繊維束[E]が、前記熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物で被覆された、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物が、強化繊維改質成分[C]をさらに含む、請求項2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]との200℃における溶融粘度差が10Pa・s以上である、請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂[A]が、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選ばれた樹脂である、請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項6】
前記強化繊維[B]が炭素繊維である、請求項1〜のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
【請求項7】
熱可塑性樹脂[A]および強化繊維[B]を含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、該成形品における強化繊維[B]の重量平均繊維長(L)が0.3〜4mmであり、かつ、該成形品にISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施し、ISO179−1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて、衝撃速度2.9m/secで破壊したとき、成形品破断面からの強化繊維の露出部位の数平均長さが0.1mm以上となる、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項8】
200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低い強化繊維改質成分[C]をさらに含み、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含む、請求項に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項9】
熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]、および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低く、かつ、熱可塑性樹脂[A]とのSP値差が2.5以上である強化繊維改質成分[C]を含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、前記強化繊維改質成分[C]と前記強化繊維[B]表面とのSP値差が前記強化繊維改質成分[C]と前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差よりも小さく、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含み、強化繊維[B]の重量平均繊維長(L)が0.3〜4mmである、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項10】
前記強化繊維[B]表面に付着する強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みが5〜20nmである、請求項8または9に記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]との200℃における溶融粘度差が10Pa・s以上である、請求項10のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂[A]が、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選ばれた樹脂である、請求項11のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【請求項13】
前記強化繊維[B]が炭素繊維である、請求項12のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂成形品および繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に関する。さらに詳しくは、優れた耐衝撃特性を発現し得る繊維強化熱可塑性樹脂成形品と、かかる繊維強化熱可塑性樹脂成形品に適した繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と熱可塑性樹脂を含む成形品は、軽量で優れた力学特性を有するために、スポーツ用品用途、航空宇宙用途および一般産業用途などに広く用いられている。これらの成形品に使用される強化繊維は、その用途によって様々な形態で成形品を強化している。これらの強化繊維としては、アルミニウム繊維やステンレス繊維などの金属繊維、アラミド繊維やPBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維などの有機繊維、シリコンカーバイド繊維などの無機繊維あるいは炭素繊維などが使用されている。比強度、比剛性および軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好適であり、その中でもポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が好適に用いられる。
【0003】
炭素繊維が優れた比強度および比剛性を有することから、炭素繊維で強化された成形品は、優れた機械特性を有する。しかしながら、前述した用途においては、より一層の軽量化や薄型化の要求に伴い、力学特性の更なる向上が求められている。
【0004】
繊維分散性に優れた成形材料として、例えば、複合強化繊維束に熱可塑性樹脂が接着されている成形材料(例えば、特許文献1参照)が提案されている。また、機械的強度、特に衝撃特性に優れた繊維強化熱可塑性樹脂組成物として、ポリカーボネート系樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂、酸変性オレフィン化合物と炭素繊維とで構成されるポリカーボネート系樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)や、強化繊維を含有する芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に、オレフィン系ワックスと、複合ゴム系グラフト共重合体を配合してなる繊維強化熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献3参照)などが提案されている。また、一方、金属腐食性が少なく、熱伝導特性に優れた熱可塑性樹脂組成物として、熱可塑性樹脂および滑剤などからなる熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献4参照)や、熱可塑性樹脂と繊維状フィラーとを含む熱伝導性樹脂材料(例えば、特許文献5参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−56232号公報
【特許文献2】特開2008−38003号公報
【特許文献3】特開平7−238213号公報
【特許文献4】特開2007−31611号公報
【特許文献5】国際公開第2007/116973号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜5に開示されたいずれの技術においても、成形品の衝撃強度が不十分である課題があった。本発明は従来技術の有する課題に鑑み、成形品が衝撃を受けた時の強化繊維の折損が抑制され、優れた衝撃強度を有する繊維強化熱可塑性樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
(1)熱可塑性樹脂[A]と、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低い樹脂[D]が強化繊維[B]に含浸された樹脂含浸強化繊維束[E]と、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低く、かつ、前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差が2.5以上である強化繊維改質成分[C]とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記強化繊維改質成分[C]と前記強化繊維[B]表面とのSP値差が前記強化繊維改質成分[C]と前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差よりも小さく、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部、樹脂[D]を0.2〜12重量部含み、前記樹脂含浸強化繊維束[E]が、前記熱可塑性樹脂[A]および強化繊維改質成分[C]を含む樹脂組成物で被覆された、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
(2)熱可塑性樹脂[A]と、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低く、かつ、前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差が2.5以上である強化繊維改質成分[C]が強化繊維[B]に含浸された樹脂含浸強化繊維束[E]とを含む繊維強化熱可塑性樹脂成形材料であって、前記強化繊維改質成分[C]と前記強化繊維[B]表面とのSP値差が前記強化繊維改質成分[C]と前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差よりも小さく、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含み、前記樹脂含浸強化繊維束[E]が、前記熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物で被覆された、繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
(3)熱可塑性樹脂[A]および強化繊維[B]を含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、該成形品における強化繊維[B]の重量平均繊維長(L)が0.3〜4mmであり、かつ、該成形品にISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施し、ISO179−1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて、衝撃速度2.9m/secで破壊したとき、成形品破断面からの強化繊維の露出部位の数平均長さが0.1mm以上となる、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
(4)熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]、および200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低く、かつ、熱可塑性樹脂[A]とのSP値差が2.5以上である強化繊維改質成分[C]を含む繊維強化熱可塑性樹脂成形品であって、前記強化繊維改質成分[C]と前記強化繊維[B]表面とのSP値差が前記強化繊維改質成分[C]と前記熱可塑性樹脂[A]とのSP値差よりも小さく、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含み、強化繊維[B]の重量平均繊維長(L)が0.3〜4mmである、繊維強化熱可塑性樹脂成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、成形品が衝撃を受けた時の強化繊維の折損が抑制されるため、耐衝撃特性に優れる。強化繊維が導電性を有する場合には、成形品の電磁波シールド性が飛躍的に向上する。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、電気・電子機器、OA機器、家電機器、自動車などの部品、内部部材および筐体などの各種部品および部材に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】強化繊維[B]表面への強化繊維改質成分[C]の付着状態を示す模式図である。
図2】強化繊維[B]表面に付着する強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みを示す模式図である。
図3】本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。
図4】本発明の成形材料の好ましい横断面形態の一例を示す概略図である。
図5】本発明の成形材料の好ましい横断面形態の一例を示す概略図である。
図6】本発明における樹脂含浸強化繊維束[E]の横断面形態の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品(以下、「成形品」と記載する場合がある)は、熱可塑性樹脂[A]および強化繊維[B]を含む。成形品は、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低い強化繊維改質成分[C]をさらに含むことが好ましい。
【0011】
成形品は、衝撃速度2.9m/secで破壊したとき、成形品破断面から露出した強化繊維[B]の露出部位の数平均長さ(「露出繊維長(L)」と記載する場合がある)が0.1mm以上となることが好ましい。露出繊維長(L)は、成形品に衝撃が加わった際に、強化繊維[B]が成形品破断面において破断されることなく引き抜かれる程度を示す指標である。Lが0.1mm以上であれば、強化繊維[B]の引き抜きによりエネルギー吸収量を大きくすることができるため、成形品の衝撃強度が向上する。Lは0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がより好ましい。なお、成形品破断面からの露出繊維長(L)は、衝撃速度により影響を受けるが、本発明においては、衝撃速度2.9m/secにおける露出繊維長(L)に着目した。
【0012】
本発明において、露出繊維長(L)の測定は、次の方法より行うことができる。まず、成形品に衝撃速度2.9m/secの衝撃を加えて成形品を破壊する。次に、破壊された成形品の破断面を、光学顕微鏡(50〜1000倍)にて観察する。成形品破断面から露出している強化繊維[B]から無作為に選んだ1000本の強化繊維[B]の長さを計測し、その数平均値を、露出繊維長(L)とする。なお、成形品における破断面が平面でない場合は、選択した各強化繊維[B]ごとに破断面を特定して露出繊維長(L)を算出する。
【0013】
成形品中における露出繊維長(L)を前記範囲にするためには、後述する本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いることが好ましい。本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を用いると、後述のように、射出成形時の強化繊維[B]の繊維折損を抑制することができる。また、強化繊維[B]として破断伸度の高い繊維を用いることや、成形条件を調整することなども、成形品中における露出繊維長(L)を前記範囲にするために好ましい。成形条件としては、例えば、射出成形の場合、背圧や保圧力などの圧力条件、射出時間や保圧時間などの時間条件、シリンダー温度や金型温度などの温度条件などが挙げられる。
【0014】
成形品において、成形品内部に存在する強化繊維[B]の重量平均繊維長(L)は、0.1〜4mmが好ましい。成形品に衝撃が加わった際、成形品内部に発生したクラックは、強化繊維を迂回したり、強化繊維と熱可塑性樹脂との界面を剥離させたり、強化繊維を破断したり引き抜いたりしながら進展する。このとき、強化繊維の破断または引き抜きによるエネルギー吸収が大きいため、クラックの進展に際して強化繊維の破断または引き抜きが生じやすいほど、成形品の衝撃強度が向上すると考えられる。成形品内部に存在する強化繊維が長いほど、クラックの進展に際して強化繊維を迂回しにくいため、強化繊維の破断や引き抜きが生じやすく、かつ、引き抜き時の摩擦が大きくなることから、成形品の衝撃強度を向上させることができると考えられる。成形品内部に存在する強化繊維[B]の重量平均繊維長(L)が0.1mm以上であれば、成形品の衝撃強度がより向上する。Lは0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。一方で、重量平均繊維長(L)が4mm以下であれば、強化繊維[B]同士の単糸間での絡み合いが抑制され、強化繊維[B]の分散性がより向上するため、成形品の衝撃強度がより向上する。Lは2.5mm以下がより好ましい。ここで、「重量平均繊維長」とは、単純に数平均を取るのではなく、重量平均分子量の算出方法を繊維長の算出に適用して、繊維長の寄与を考慮した下記の式から算出される平均繊維長を指す。ただし、下記の式は、強化繊維[B]の繊維径および密度が一定の場合に適用される。
重量平均繊維長=Σ(Mi×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの強化繊維の個数 。
【0015】
上記重量平均繊維長の測定は、次の方法により行うことができる。成形品をガラス板間に挟んだ状態で200〜300℃に設定したホットステージの上に設置して加熱溶融し、強化繊維[B]が均一分散したフィルムを得る。該フィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察する。無作為に選んだ1000本の強化繊維[B]の繊維長を計測して、上記式を用いて重量平均繊維長(L)を算出する。
【0016】
なお、成形品中における強化繊維[B]の重量平均繊維長(L)は、例えば、後述する強化繊維[B]の種類や、成形条件などにより調整することができる。成形条件としては、例えば、射出成形の場合、背圧や保圧力などの圧力条件、射出時間や保圧時間などの時間条件、シリンダー温度や金型温度などの温度条件などが挙げられる。
【0017】
次に、成形品の構成成分について詳細に記す。
【0018】
熱可塑性樹脂[A]は、成形温度(溶融温度)が200〜450℃であるものが好ましい。具体的には、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリールスルホン樹脂、ポリアリールケトン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリーレンスルフィドスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル、フッ素樹脂等が挙げられる。これらはいずれも、電気絶縁体に相当する。これらを2種以上用いることもできる。これらの樹脂は、末端基が封止または変性されていてもよい。
【0019】
前記熱可塑性樹脂の中でも、電気・電子機器や自動車部品の用途に用いる場合には、軽量で力学特性や成形性のバランスに優れるポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリアリーレンスルフィド樹脂から選ばれた樹脂がより好ましい。ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0020】
ポリプロピレン樹脂は、無変性のものであっても、変性されたものであってもよい。
【0021】
無変性のポリプロピレン樹脂としては、具体的には、プロピレンの単独重合体や、プロピレンとα−オレフィン、共役ジエン、非共役ジエンおよび他の熱可塑性単量体から選ばれた少なくとも1種の単量体との共重合体などが挙げられる。共重合体としては、ランダム共重合体あるいはブロック共重合体を挙げることができる。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、1−ノネン、1−オクテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等の、プロピレンを除く炭素数2〜12のα−オレフィンなどが挙げられる。共役ジエンまたは非共役ジエンとしては、例えば、ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。例えば、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン・1−ブテン共重合体などが好適なものとして挙げられる。プロピレンの単独重合体は、成形品の剛性を向上させる観点から好ましい。プロピレンとα−オレフィン、共役ジエンおよび非共役ジエンなどから選ばれた少なくとも1種の単量体とのランダム共重合体あるいはブロック共重合体は、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から好ましい。
【0022】
また、変性ポリプロピレン樹脂としては、酸変性ポリプロピレン樹脂が好ましく、重合体鎖に結合したカルボン酸および/またはカルボン酸塩基を有する、酸変性ポリプロピレン樹脂がより好ましい。上記酸変性ポリプロピレン樹脂は種々の方法で得ることができる。例えば、無変性のポリプロピレン樹脂に、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、および/または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体を、グラフト重合することにより得ることができる。
【0023】
ここで、中和されているか、中和されていないカルボン酸基を有する単量体、または、ケン化されているか、ケン化されていないカルボン酸エステル基を有する単量体としては、例えば、エチレン系不飽和カルボン酸、その無水物、エチレン系不飽和カルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0024】
エチレン系不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸などが例示される。その無水物としては、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などが例示できる。
【0025】
エチレン系不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル類;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジヒドロキシエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0026】
これらを2種以上用いることもできる。これらの中でも、エチレン系不飽和カルボン酸の酸無水物類が好ましく、さらには無水マレイン酸が好ましい。
【0027】
成形品の力学特性を向上させるためには、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂を共に用いることが好ましい。特に難燃性および力学特性のバランスの観点から、無変性ポリプロピレン樹脂と変性ポリプロピレン樹脂の重量比が95/5〜75/25となるように用いることが好ましい。より好ましくは95/5〜80/20、さらに好ましくは90/10〜80/20である。
【0028】
ポリアミド樹脂とは、アミノ酸、ラクタム、あるいはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とする樹脂である。その主要原料としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン;アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0029】
耐熱性や強度に優れるという点から、200℃以上の融点を有するポリアミド樹脂が特に有用である。その具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン6T/6)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリラウリルアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン12/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミド/ポリカプロアミドコポリマー(ナイロン66/6I/6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ(2−メチルペンタメチレン)テレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/M5T)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0030】
ポリアミド樹脂の重合度は、特に制限はないが、成形時の流動性に優れ、薄肉の成形品が容易に得られることから、98%濃硫酸25mlにポリアミド樹脂0.25gを溶解した溶液の25℃で測定した硫酸相対粘度ηが1.5〜5.0の範囲であることが好ましく、2.0〜3.5の範囲がより好ましい。ここで、硫酸相対粘度ηは、樹脂濃度1g/100mlの98%硫酸溶液について、25℃の恒温槽内でオストワルド粘度計を用いて測定した流下速度のと、同様に測定した98%硫酸の流下速度に対する比で表される。
【0031】
ポリカーボネート樹脂とは、二価フェノール類とカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。2種以上の二価フェノール類または2種以上のカーボネート前駆体を用いて得られる共重合体であってもよい。反応方法の一例として、界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができる。例えば、特開2002−129027号公報に記載の公知のポリカーボネート樹脂を使用できる。
【0032】
二価フェノール類としては、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン(ビスフェノールAなど)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、ビスフェノールAが好ましく、衝撃強度により優れたポリカーボネート樹脂を得ることができる。一方、ビスフェノールAと他の二価フェノール類を用いて得られる共重合体は、高耐熱性または低吸水率の点で優れている。
【0033】
カーボネート前駆体としては、例えば、カルボニルハライド、炭酸ジエステルまたはハロホルメートなどが挙げられる。具体的には、ホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノール類のジハロホルメートなどが挙げられる。
【0034】
上記二価フェノー類ルとカーボネート前駆体からポリカーボネート樹脂を製造するにあたっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノール類の酸化を防止する酸化防止剤などを使用してもよい。
【0035】
また、ポリカーボネート樹脂は、三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であってもよいし、芳香族または脂肪族(脂環族を含む)の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性脂肪族アルコール(脂環族を含む)を共重合した共重合ポリカーボネート樹脂であってもよいし、二官能性カルボン酸および二官能性脂肪族アルコールを共に共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、これらのポリカーボネート樹脂を2種以上用いてもよい。
【0036】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、限定されないが、粘度平均分子量が10,000〜50,000のものが好ましい。粘度平均分子量が10,000以上であれば、成形品の強度をより向上させることができる。粘度平均分子量は15,000以上がより好ましく、18,000以上がさらに好ましい。一方、粘度平均分子量が50,000以下であれば、成形加工性が向上する。粘度平均分子量は40,000以下がより好ましく、30,000以下がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂を2種以上用いる場合、少なくとも1種のポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が上記範囲にあることが好ましい。この場合、他のポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量が50,000を超える、好ましくは80,000を超えるポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。かかるポリカーボネート樹脂は、エントロピー弾性が高く、ガスアシスト成形等を併用する場合に有利となる他、高いエントロピー弾性に由来する特性(ドリップ防止特性、ドローダウン特性、およびジェッティング改良などの溶融特性を改良する特性)を発揮する。
【0037】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
ηsp/C=[η]+0.45×[η](ただし[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−4×M0.83
C=0.7 。
【0038】
ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、限定されないが、200℃における溶融粘度が10〜25000Pa・sであることが好ましい。200℃における溶融粘度が10Pa・s以上であれば、成形品の強度をより向上させることができる。溶融粘度は20Pa・s以上がより好ましく、50Pa・s以上がさらに好ましい。一方、200℃における溶融粘度が25,000Pa・s以下であれば、成形加工性が向上する。溶融粘度は20,000Pa・s以下がより好ましく、15,000Pa・s以下がさらに好ましい。
【0039】
ポリカーボネート樹脂として、三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”(登録商標)、“ノバレックス”(登録商標)、帝人化成(株)製“パンライト”(登録商標)、出光石油化学(株)製“タフロン”(登録商標)などとして上市されているものを用いることもできる。
【0040】
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、これらのランダムまたはブロック共重合体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。中でもポリフェニレンスルフィド樹脂が特に好ましく使用される。
【0041】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きな重合体を得る方法など、任意の方法によって製造することができる。
【0042】
得られたポリアリーレンスルフィド樹脂に、空気中加熱による架橋/高分子量化、窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下での熱処理、有機溶媒、熱水、酸水溶液などによる洗浄、酸無水物、アミン、イソシアネート、官能基含有ジスルフィド化合物などの官能基含有化合物による活性化などの種々の処理を施してもよい。
【0043】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を加熱により架橋/高分子量化する方法としては、例えば、空気、酸素などの酸化性ガス雰囲気下あるいは前記酸化性ガスと窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で、加熱容器中で所定の温度において、希望する溶融粘度が得られるまで加熱を行う方法を例示することができる。加熱処理温度は200〜270℃の範囲が好ましく、加熱処理時間は2〜50時間の範囲が好ましい。処理温度と処理時間を調整することによって、得られるポリマーの粘度を所望の範囲に調整することができる。加熱処理装置としては、通常の熱風乾燥機、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置などが挙げられる。効率よく、より均一に加熱処理する観点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いることが好ましい。
【0044】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を窒素などの不活性ガス雰囲気下あるいは減圧下で熱処理する場合、加熱処理温度は200〜270℃の範囲が好ましく、加熱処理時間は2〜50時間の範囲が好ましい。減圧下で処理する場合、圧力は7,000Nm−2以下が好ましい。加熱処理装置としては、通常の熱風乾燥機、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置などが挙げられる。効率よく、より均一に加熱処理する観点から、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いることが好ましい。
【0045】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を有機溶媒で洗浄する場合、有機溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの含窒素極性溶媒;ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホンなどのスルホキシド・スルホン系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒;ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコールなどのアルコールもしくはフェノール系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの有機溶媒のなかでも、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどが好ましく使用される。有機溶媒による洗浄の方法としては、例えば、有機溶媒中にポリアリーレンスルフィド樹脂を浸漬せしめる方法などが挙げられる。必要により、適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒中でポリアリーレンスルフィド樹脂を洗浄する際の洗浄温度は、常温〜150℃が好ましい。なお、有機溶媒洗浄を施されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、残留している有機溶媒を除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。
【0046】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を熱水で洗浄する場合、熱水洗浄によるポリアリーレンスルフィド樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するために、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水洗浄は、通常、所定量の水に所定量のポリアリーレンスルフィド樹脂を投入し、常圧であるいは圧力容器内で加熱、撹拌することにより行われる。ポリアリーレンスルフィド樹脂と水との割合は、好ましくは水1リットルに対し、ポリアリーレンスルフィド樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0047】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を酸処理する方法としては、例えば、酸または酸の水溶液にポリアリーレンスルフィド樹脂を浸漬せしめる方法などが挙げられる。必要により、適宜撹拌または加熱することも可能である。酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸;クロロ酢酸、ジクロロ酢酸などのハロ置換脂肪族飽和カルボン酸、アクリル酸、クロトン酸などの脂肪族不飽和モノカルボン酸;安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸などのジカルボン酸;および硫酸、リン酸、塩酸、炭酸、珪酸などの無機酸性化合物などが挙げられる。これらの酸のなかでも、酢酸または塩酸が好ましく用いられる。酸処理を施されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、蒸留水または脱イオン水であることが好ましい。
【0048】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/秒の条件下で80Pa・s以下であることが好ましく、20Pa・s以下であることがより好ましい。溶融粘度の下限については特に制限はないが、5Pa・s以上であることが好ましい。溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンスルフィド樹脂を併用してもよい。なお、溶融粘度は、キャピログラフ(東洋精機(株)社製)装置を用い、ダイス長10mm、ダイス孔直径0.5〜1.0mmの条件により測定することができる。
【0049】
ポリアリーレンスルフィド樹脂として、東レ(株)製“トレリナ”(登録商標)、DIC(株)製“DIC.PPS”(登録商標)、ポリプラスチックス(株)製“ジュラファイド”(登録商標)などとして上市されているものを用いることもできる。
【0050】
本発明における強化繊維[B]としては、特に限定はされないが、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの有機繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維などの高強度高弾性率繊維を挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。
【0051】
強化繊維[B]は、熱可塑性樹脂[A]に対する繊維補強効果により、成形品の力学特性を向上し得るものである。さらに、強化繊維が導電性や熱伝導特性など、固有の特性を有する場合、熱可塑性樹脂[A]単体では為し得ない、それらの性質を成形品に付与することができる。力学特性のさらなる向上、および、成形品の軽量化効果の観点から、強化繊維の中でもPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などの炭素繊維が好ましい。得られる成形品の強度と弾性率とのバランスの観点から、PAN系炭素繊維がさらに好ましい。また、導電性を付与する目的においては、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維も好ましく用いられる。
【0052】
さらに、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定される繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度比[O/C]が0.05〜0.5であるものが好ましい。表面酸素濃度比が0.05以上であることにより、炭素繊維表面に十分な官能基量を確保でき、熱可塑性樹脂[A]とより強固な接着を得ることができることから、成形品の強度をより向上させることができる。表面酸素濃度比は0.08以上がより好ましく、0.1以上がさらに好ましい。一方、表面酸素濃度比の上限には特に制限はないが、炭素繊維の取扱い性および生産性のバランスから一般的に0.5以下が好ましく、0.4以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0053】
炭素繊維の表面酸素濃度比は、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めるものである。まず、炭素繊維表面にサイジング剤などが付着している場合には、溶剤で炭素繊維表面に付着しているサイジング剤などを除去する。炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べて、測定サンプルとする。測定サンプルをX線光電子分光法装置の試料チャンバーにセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち、X線源としてAlKα1、2を用いて、測定を行う。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせる。K.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりC1sピーク面積を求める。K.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりO1sピーク面積を求める。
【0054】
ここで、表面酸素濃度比とは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出する。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用いる場合には、感度補正値を1.74とする。
【0055】
表面酸素濃度比[O/C]を0.05〜0.5に調整する手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、電解酸化処理、薬液酸化処理および気相酸化処理などの手法を挙げることができる。中でも電解酸化処理が好ましい。
【0056】
また、強化繊維[B]の平均繊維径は、特に限定されないが、成形品の力学特性と表面外観の観点から、1〜20μmが好ましく、3〜15μmがより好ましい。強化繊維束とした場合の単繊維数は、特に制限はないが、100〜350,000本が好ましく、生産性の観点から、20,000〜100,000本がより好ましい。
【0057】
強化繊維[B]とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂[A]の接着性を向上する等の目的で、強化繊維[B]は表面処理されたものであってもかまわない。表面処理の方法としては、例えば、電解処理、オゾン処理、紫外線処理等を挙げることができる。
【0058】
強化繊維[B]の毛羽立ちを防止したり、強化繊維[B]とマトリックス樹脂である熱可塑性樹脂[A]との接着性を向上するなどの目的で、強化繊維はサイジング剤で被覆されたものであってもかまわない。特に、炭素繊維の場合、サイジング剤を付与することにより、熱可塑性樹脂[A]との接着性および成形品の特性を向上させることができる。
【0059】
サイジング剤としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリエステル、乳化剤あるいは界面活性剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。サイジング剤は、水溶性または水分散性であることが好ましい。強化繊維[B]として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維との濡れ性に優れるエポキシ樹脂が好ましく、多官能エポキシ樹脂がより好ましい。
【0060】
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、マトリックス樹脂との接着性を発揮しやすい脂肪族エポキシ樹脂が好ましい。脂肪族エポキシ樹脂は、柔軟な骨格のため、架橋密度が高くとも靭性の高い構造になりやすく、炭素繊維とマトリックス樹脂を剥離しにくくさせるため、成形品の強度をより向上させることができる。
【0061】
多官能の脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ジグリシジルエーテル化合物、ポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。ジグリシジルエーテル化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。また、ポリグリシジルエーテル化合物としては、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパングリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0062】
脂肪族エポキシ樹脂の中でも、3官能以上の脂肪族エポキシ樹脂が好ましく、反応性の高いグリシジル基を3個以上有する脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物がより好ましい。脂肪族のポリグリシジルエーテル化合物は、柔軟性、架橋密度およびマトリックス樹脂との相溶性のバランスがよく、接着性をより向上させることができる。これらの中でも、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールグリシジルエーテルまたはポリプロピレングリコールグリシジルエーテルがさらに好ましい。
【0063】
サイジング剤の付着量は、サイジング剤と強化繊維[B]を含む強化繊維束100重量%中、0.01〜10重量%が好ましい。サイジング剤付着量が0.01重量%以上であれば、熱可塑性樹脂[A]との接着性をより向上させることができる。0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましい。一方、サイジング剤付着量が10重量%以下であれば、熱可塑性樹脂[A]の物性をより高いレベルで維持することができる。5重量%以下がより好ましく、2重量%以下がさらに好ましい。
【0064】
サイジング剤の付与手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、サイジング剤を溶媒(分散させる場合の分散媒含む)中に溶解または分散させたサイジング処理液を調製し、該サイジング処理液を強化繊維に付与した後に、溶媒を乾燥・気化させ、除去する方法が挙げられる。サイジング処理液を強化繊維に付与する方法としては、例えば、ローラーを介して強化繊維をサイジング処理液に浸漬する方法、サイジング処理液の付着したローラーに強化繊維を接する方法、サイジング処理液を霧状にして強化繊維に吹き付ける方法などが挙げられる。また、サイジング処理液の付与方法は、バッチ式および連続式のいずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましい。この際、強化繊維に対するサイジング剤の付着量が適正範囲内で均一になるように、サイジング処理液濃度、温度、糸条張力などを調整することが好ましい。また、サイジング処理液付与時に強化繊維を超音波で加振させることは、より好ましい。
【0065】
乾燥温度と乾燥時間はサイジング剤の付着量によって調整すべきである。サイジング処理液に用いる溶媒の完全な除去および乾燥に要する時間を短くし、一方、サイジング剤の熱劣化を防止し、サイジング処理された強化繊維[B]が固くなって束の拡がり性が悪化することを防止する観点から、乾燥温度は、150℃以上350℃以下が好ましく、180℃以上250℃以下がより好ましい。
【0066】
サイジング処理液に使用する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン等が挙げられるが、取扱いが容易である点および防災の観点から、水が好ましい。従って、水に不溶、もしくは難溶の化合物をサイジング剤として用いる場合には、乳化剤、界面活性剤を添加し、水性分散液として用いることが好ましい。具体的には、乳化剤または界面活性剤としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体、オレフィン−無水マレイン酸共重合体、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリアクリル酸ソーダ等のアニオン系乳化剤;ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン等のカチオン系乳化剤;ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンエーテルエステル共重合体、ソルビタンエステルエチルオキサイド付加物等のノニオン系乳化剤等を用いることができる。相互作用の小さいノニオン系乳化剤が、サイジング剤に含まれる官能基の接着効果を阻害しにくく好ましい。
【0067】
成形品は、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低い強化繊維改質成分[C]をさらに含むことが好ましい。強化繊維改質成分[C]は、成形時、例えば射出成形の場合はシリンダー内において、熱可塑性樹脂[A]よりも流動しやすい。また、後述するように、強化繊維改質成分[C]と、熱可塑性樹脂[A]や強化繊維[B]との組み合わせを選択することにより、熱可塑性樹脂[A]との親和性よりも強化繊維[B]との親和性を高くすることが可能となり、成形材料中において、強化繊維改質成分[C]を強化繊維[B]近傍へ局在化させることができる。そのため、成形材料中において、流動しやすい強化繊維改質成分[C]を強化繊維[B]と熱可塑性樹脂[A]の間に存在させることが可能となり、射出成形時のシリンダー内での剪断応力による強化繊維[B]の繊維折損を抑制することができる。また、強化繊維改質成分[C]が強化繊維[B]と熱可塑性樹脂[A]の間に存在することにより、成形品破断時に、強化繊維[B]の破断よりも引き抜きが優先して起こり、強化繊維[B]へのクラック進展を抑制することができる。その結果、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。なお、成形温度は200〜450℃が一般的であり、熱可塑性樹脂[A]の種類に応じて適宜設定されるが、本発明においては、成形時の強化繊維改質成分[C]の流動性の指標として、200℃における溶融粘度に着目した。
【0068】
強化繊維改質成分[C]としては、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低い化合物であれば特に限定されないが、強化繊維[B]と熱可塑性樹脂[A]の間に存在しやすいものとして、滑剤が好ましく用いられる。
【0069】
滑剤としては、例えば、鉱物油、合成油、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級アルコール、ポリオルガノシロキサン、合成ワックス、ポリアルキレングリコール、フッ素脂肪酸エステル、フッ素オイルなどが挙げられる。ここで、「高級」とは、炭素数8以上であることを指す。これらを2種以上用いてもよい。具体的には、高級脂肪酸としては、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ヤシ酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。高級脂肪酸金属塩としては、前記高級脂肪酸の亜鉛塩、カルシウム塩などが挙げられる。高級脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸モノグリセライド、ソルビタンモノステアレート、ソルビンモノパルミテートなどが挙げられる。高級脂肪酸アミドとしては、エルシルアミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ヤシ酸アミド等が挙げられる。高級アルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコールラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコートなどが挙げられる。ポリオルガノシロキサンとしては、シリコーンオイル、シリコーンゴムなどが挙げられる。合成ワックスとしては、パラフィンワックス、オレフィン系ワックス、ケトンワックス、エステルワックスなどが挙げられる。ポリアルキレングリコールとしては、ステアリン酸ワックスなどが挙げられる。フッ素オイルとしては、トリフルオロクロロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレングリコールなどが挙げられる。これらの中でも、オレフィン系ワックスまたはポリオルガノシロキサンが好ましい。オレフィン系ワックスやポリオルガノシロキサンは耐熱性が高く、溶融混練や成形の工程を経ても成形材料や成形品に残存しやすいことから、強化繊維[B]の折損抑制効果をより向上させ、衝撃強度をより向上させることができる。
【0070】
オレフィン系ワックスとしては、ポリオレフィンワックスが好ましく、ポリエチレンワックスおよび/または1−アルケン重合体(α−オレフィンの重合体を含む)ワックスがより好ましい。ポリエチレンワックスとしては現在一般に広く知られているものが使用でき、例えば、エチレンを高温高圧下で重合したもの、ポリエチレンを熱分解したもの、ポリエチレンから低分子量成分を分離精製したものなどが挙げられる。オレフィン系ワックスは、各種の官能基で変性されているものでもよい。
【0071】
ポリオルガノシロキサンとしては、シリコーンオイルが好ましい。シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル等が挙げられる。取り扱い性の観点から、シリコーンオイルの20℃における動粘度は、1×10−2/s以下が好ましい。ポリオルガノシロキサンは、各種の官能基で変性されているものでもよい。
【0072】
強化繊維改質成分[C]のSP値と熱可塑性樹脂[A]のSP値との差は、1.0以上が好ましく、2.5以上がより好ましく、3.0以上が最も好ましい。SP値とは溶解度パラメーターを指し、2成分のSP値差が小さいほど溶解度が大きくなることが知られている。さらに、強化繊維改質成分[C]と強化繊維[B]表面(強化繊維[B]表面にサイジング剤が付着している場合は、サイジング剤)とのSP値差が強化繊維改質成分[C]と熱可塑性樹脂[A]とのSP値差よりも小さいことが好ましい。また、強化繊維改質成分[C]と強化繊維[B]表面とのSP値差は、1.0以下であることが好ましい。それにより、熱可塑性樹脂[A]よりも強化繊維[B]表面と強化繊維改質成分[C]の親和性を高くすることが可能となる。これにより、前述のとおり、成形材料中において、強化繊維改質成分[C]を強化繊維[B]近傍へ局在化させ、成形時の剪断応力による強化繊維[B]の繊維折損や、衝撃を受けた際の強化繊維[B]へのクラック進展を抑制することができ、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。したがって、熱可塑性樹脂[A]と強化繊維[B]表面(強化繊維[B]にサイジング剤が付着している場合は、サイジング剤)および強化繊維改質成分[C]のSP値差が上記の範囲になるように強化繊維改質成分[C]を選択することが好ましい。
【0073】
なお、SP値の測定方法は複数知られているが、本発明においては、Fedorsの方法により求められるSP値を用いる(SP値基礎・応用と計算、2005年3月31日 第1版、発行者 谷口彰敏、発行 株式会社情報機構、66〜67頁参照)。
【0074】
強化繊維改質成分[C]としては、熱可塑性樹脂[A]成分と親和性の低い構造を有し、かつ強化繊維[B]表面と反応可能な官能基を有するものが好ましく、例えば、各種の官能基で修飾された滑剤などを挙げることができる。かかる官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、エステル基、アミノ基、アルコキシシリル基などを挙げることができる。
【0075】
滑剤を前記官能基により修飾する方法としては、例えば、(1)滑剤に上記の官能基および滑剤と反応性のある官能基を有する化合物を反応させる方法、(2)滑剤の合成時に上記の官能基を有する化合物を共重合する方法、(3)滑剤、官能基を有する化合物およびラジカル発生剤を加熱下で混合して反応させる方法、および(4)滑剤を熱酸化させることにより修飾する方法などを挙げることができる。
【0076】
強化繊維改質成分[C]としては、カルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有するポリオレフィンワックスがより好ましい。中でも、無水マレイン酸とα−オレフィンとの共重合体がさらに好ましい。共重合されるα−オレフィンの炭素数の平均値は、10〜60が好ましく、16〜60がより好ましく、25〜55がさらに好ましい。
【0077】
カルボキシル基またはカルボン酸無水物基をポリオレフィンワックスに導入する方法としては、例えば、マレイン酸や無水マレイン酸などの化合物と、ポリエチレン、1−アルケン(α−オレフィンを含む)の重合体、1−アルケン(α−オレフィンを含む)とエチレンの共重合体などのポリマーとを、加熱下で、ラジカル発生剤の存在下または非存在下で混合して反応させる方法や、エチレン、プロピレン、炭素数4以上の1−アルケン(α−オレフィンを含む)等を重合する際に、マレイン酸や無水マレイン酸を共重合する方法などが挙げられる。共重合する方法としては、溶融重合法やバルク重合法などが挙げられる。後者の方法は熱負荷が少なく、官能基量の調整が容易である点でより好ましい。
【0078】
強化繊維改質成分[C]における官能基量は、0.05meq/g以上が好ましい。官能基を0.05meq/g以上有することにより、強化繊維[B]との親和性が向上し、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。官能基量は、0.1meq/g以上がより好ましく、0.5meq/g以上がさらに好ましい。一方、官能基量の上限は特に限定されないが、10meq/g以下が一般的である。ここで、1eq(1当量)とは、滑剤1g当り、例えばカルボキシル基の場合はカルボキシル基が1モル分存在することをいい、カルボン酸無水物基の場合には、カルボン酸無水物基が0.5モル分存在することをいう。
【0079】
強化繊維改質成分[C]の200℃における溶融粘度は、熱可塑性樹脂[A]の200℃における溶融粘度よりも低ければ特に限定されないが、強化繊維改質成分[C]と熱可塑性樹脂[A]の200℃における溶融粘度差は、10Pa・s以上が好ましい。溶融粘度差が10Pa・s以上であれば、成形材料中において強化繊維改質成分[C]が強化繊維[B]表面により局在化し易くなる。溶融粘度差は、100Pa・s以上がより好ましく、1000Pa・s以上がさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂[A]および強化繊維改質成分[C]の溶融粘度は、粘弾性測定器を用いて、40mmのパラレルプレートを使用し、0.5Hz、200℃の条件下で測定を行い求めることができる。
【0080】
強化繊維改質成分[C]の200℃における溶融粘度は、0.01〜50Pa・sが好ましい。200℃における溶融粘度が0.01Pa・s以上であれば、強化繊維改質成分[C]を起点とする破壊をより抑制し、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。200℃における溶融粘度は0.03Pa・s以上がより好ましい。一方、200℃における溶融粘度が50Pa・s以下であれば、成形時に強化繊維改質成分[C]が移動しやすくなり、強化繊維改質成分[C]が、強化繊維[B]の表面により局在化しやすいため、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。200℃における溶融粘度は40Pa・s以下がより好ましく、30Pa・s以下がさらに好ましい。溶融粘度が前記範囲にある強化繊維改質成分[C]は、例えばカルボキシル基および/またはカルボン酸無水物基を有するポリオレフィンワックスの場合、上市された種々の溶融粘度を有するワックスの中から、所望の溶融粘度を有するものを選択することにより得ることができる。
【0081】
強化繊維改質成分[C]の重量平均分子量は、500〜40,000が好ましい。重量平均分子量が500以上であれば、熱可塑性樹脂[A]との混練性に優れ、成形性に優れる。重量平均分子量は2,000以上がより好ましい。一方で、重量平均分子量が40,000以下であれば、射出成形時により強化繊維[B]へ含浸し易くなる。なお、強化繊維改質成分[C]の重量平均分子量の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0082】
また、成形品内に存在する強化繊維[B]表面(以下、「繊維表面」と記載する場合がある)に、強化繊維改質成分[C]が10〜90%付着していることが好ましい。繊維表面への強化繊維改質成分[C]の付着率を10%以上とすることにより、成形品に衝撃が加わった際に、成形品内に生じたクラックが強化繊維[B]に直接進展せず、強化繊維改質成分[C]表面を進展する。その際、熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]の親和性が低いため、界面剥離が発生し、クラックが強化繊維[B]を迂回する。その結果、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。付着率は30%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。一方、繊維表面への強化繊維改質成分[C]の付着率を90%以下とすることにより、強化繊維[B]表面に存在するカップリング剤の効果も維持することができ、熱可塑性樹脂[A]と強化繊維[B]との適度な界面接着を維持することができる。その結果、成形品の衝撃強度および曲げ強度をより向上させることができる。付着率は85%以下がより好ましい。なお、繊維表面への[C]の付着率は、熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]の親和性を適度に低下させるように熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]を選択して、繊維表面に強化繊維改質成分[C]を優先的に局在化させることにより、前記範囲に調整することができる。
【0083】
繊維表面における強化繊維改質成分[C]の付着率は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することができる。成形品中の強化繊維[B]の繊維長手方向に対する垂直断面を切り出し、倍率40000倍でTEM観察を行う。図1に、TEMにより観察される、強化繊維[B]表面への強化繊維改質成分[C]の付着状態を示す模式図を示す。図1において、符号2は強化繊維[B]、符号3は強化繊維改質成分[C]を示す。
【0084】
上記、強化繊維改質成分[C]の付着率は、次の方法により測定することができる。前述したTEM観察画像から無作為に5本の強化繊維[B]を選択する。選択された強化繊維[B](2)の直径と、強化繊維[B]の円周表面に存在する、強化繊維改質成分[C](3)の端部距離(LcI)を測定する。ここで、端部距離とは、強化繊維[B]円周表面と平行方向における強化繊維改質成分[C]の長さを示す。強化繊維[B]円周表面上に存在する強化繊維改質成分[C]の端部距離をそれぞれ測定し、下記(1)式から付着率[%]を算出する。このとき、強化繊維改質成分[C]が強化繊維[B]表面全体を隙間なく覆っている場合は、付着率は100%とする。無作為に選択した5本の強化繊維[B]について付着率を測定し、その数平均値を算出する。
強化繊維改質成分付着率[%]={TEM断面観察から検出された、強化繊維改質成分[C]の各端部距離(LcI)の総和/[繊維長手方向に対して垂直断面における強化繊維[B]の直径(D)×円周率(π)]}×100 (1) 。
【0085】
また、成形品において、繊維表面に付着する強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みが5〜20nmであることが好ましい。繊維表面に付着する強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みを5nm以上とすることにより、成形品に衝撃が加わった際に、成形品内に生じたクラックが強化繊維[B]に直接進展せず、強化繊維改質成分[C]表面を進展する。その際、熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]の親和性が低いため、界面剥離が発生し、クラックが強化繊維[B]を迂回する。その結果、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。一方、繊維表面へ付着する強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みを20nm以下とすることにより、強化繊維[B]表面に存在するカップリング剤の効果も維持することができ、熱可塑性樹脂[A]と強化繊維[B]との適度な界面接着を維持することができる。その結果、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。なお、繊維表面に付着する強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みは、強化繊維改質成分[C]の配合量を後述する好ましい範囲とし、熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]の親和性を適度に低下させるように熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]を選択して、繊維表面に強化繊維改質成分[C]を優先的に局在化させることにより、前記範囲に調整することができる。
【0086】
強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することができる。成形品中の強化繊維[B]の繊維長手方向に対する垂直断面を切り出し、倍率40000倍でTEM観察を行う。図2に、TEMにより観察される、強化繊維[B]表面に付着する強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みを示す模式図を示す。図2において、符号2は強化繊維[B]、符号3は強化繊維改質成分[C]を示す。
【0087】
上記、強化繊維改質成分[C]の皮膜厚みは、次の方法より測定することができる。前述したTEM観察画像から無作為に5本の強化繊維[B]を選択する。選択された強化繊維[B]の円周表面に存在する強化繊維改質成分[C](3)の最大膜厚(LcII)を測定する。無作為に選択した5本の強化繊維[B]について最大膜厚(LcII)を測定し、その数平均値を算出する。
【0088】
成形品は、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含むことが好ましい。成形品が強化繊維[B]を1重量部以上含むことにより、衝撃強度や曲げ強度をより向上させることができ、40重量部以下含むことにより、強化繊維[B]の分散性を向上させて衝撃強度をより向上させることができる。また、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含むことにより、強化繊維改質成分[C]の付着率や皮膜厚みを前述の好ましい範囲に容易に調整することができる。強化繊維改質成分[C]を0.5重量部以上含むことがより好ましく、1重量部以上含むことがさらに好ましい。一方、強化繊維改質成分[C]を7重量部以下含むことがより好ましく、5重量部以下含むことがさらに好ましい。
【0089】
成形品は、本発明の目的を損なわない範囲で、他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、特に限定されないが、例えば、前記熱可塑性樹脂[A]とは異なる熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、難燃剤、導電付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。エラストマーやゴム成分を含有した場合、衝撃強度をより向上させることができる。また、熱可塑性樹脂[A]とは異なる熱可塑性樹脂(以下、熱可塑性樹脂[F]と呼ぶ場合がある)を含有した場合、強化繊維[B]の折損抑制効果をより向上させ、成形品の力学特性、例えば曲げ強度、衝撃強度をさらに向上させることができる。熱伝導フィラー[G]を含有した場合、成形品の熱伝導率を向上させることができる。
【0090】
熱可塑性樹脂[F]としては、強化繊維[B]の折損抑制効果をより向上させる観点から、スチレン系樹脂が好ましい。スチレン系樹脂とは、芳香族ビニル系単量体を重合成分として含むものであり、芳香族ビニル系単量体と、これと共重合可能な他の成分との共重合体であってもよい。他の成分としては、例えば、芳香族以外のビニル系単量体や、ゴム成分などが挙げられる。また、共重合の態様としては特に限定されるものではなく、例えば、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合などが挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。また、スチレン系樹脂の態様としては、単一のスチレン系樹脂でもよいし、他の成分およびスチレン系樹脂がいわゆるコアシェル構造を形成したものであってもよい。
【0091】
芳香族ビニル系単量体の具体例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレン、およびo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。特にスチレンやα−メチルスチレンが好ましく用いられる。
【0092】
また、芳香族ビニル系単量体と共重合可能な他のビニル系単量体を共重合することが好ましい。共重合成分を選択することにより、耐薬品性、耐熱性、衝撃強度などの所望の特性をより向上させることができる。共重合可能な他のビニル系単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。特にアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0093】
スチレン系樹脂は、芳香族ビニル系単量体と共重合可能なゴム成分との共重合体である、ゴム変性スチレン系樹脂を含むことがさらに好ましい。ゴム成分で構成されるソフトセグメントが、成形時に強化繊維[B]に加わる外力を緩和するため、より大きな繊維折損効果を期待でき、成形品の曲げ強度および衝撃強度をより向上させることができる。
【0094】
ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、水素化スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体、およびイソプレンゴムなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。中でもポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴムが好ましい。
【0095】
上記スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン(PS)樹脂、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、変性AS樹脂、アクリロニトリル−アクリル酸エステル−スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体(AES樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸エステル−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS樹脂)、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR樹脂)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS樹脂)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS樹脂)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS樹脂)などが挙げられる。強化繊維[B]の折損抑制効果をより向上させ、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、ゴム変性スチレン系樹脂である、MBS樹脂、SBS樹脂またはSEBS樹脂が好ましく、SEBS樹脂がより好ましい。
【0096】
ここで、SEBS樹脂は、特に限定されるものではないが、スチレン−ブタジエンブロック共重合体に水素添加してなる、水添ブロック共重合体であることがより好ましい。好ましいSEBS樹脂として、市販されているものでは、旭化成ケミカルズ(株)製“タフテック”(登録商標)、(株)クラレ製“セプトン”(登録商標)、クレイトンポリマージャパン(株)製“クレイトン”(登録商標)などが挙げられる。
【0097】
また、成形品における熱可塑性樹脂[F]の含有量は、成分[A]〜[C]の合計100重量部に対して0.5〜10重量部が好ましい。熱可塑性樹脂[F]の含有量を0.5重量部以上とすることにより、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。熱可塑性樹脂[F]の含有量は、1重量部以上が好ましく、2重量部以上がより好ましい。一方、熱可塑性樹脂[F]の含有量を10重量部以下とすることにより、成形品の剛性が向上し、曲げ強度、曲げ弾性をより向上させることができる。熱可塑性樹脂[F]の含有量は、7重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
【0098】
熱伝導フィラー[G]としては、前記強化繊維[B]以外の、熱伝導特性を有するフィラーが選択される。フィラー形状としては、板状、鱗片状、粒状、不定形状、破砕品などの非繊維状形状が挙げられる。具体例としては、マイカ、タルク、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、ワラステナイト、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、金属粉、金属フレーク、金属リボン、金属酸化物(アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン等)、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。なお、金属粉、金属フレーク、金属リボンを構成する金属の具体例としては、銀、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、ステンレス、鉄、黄銅、クロム、錫などが例示できる。
【0099】
これらの中でも、成形品の熱伝導率をより向上させる観点から、熱伝導率が20W/mK以上であるものが好ましい。熱伝導率が20W/mK以上である熱伝導フィラー[G]としては、例えば、金属粉、金属フレーク、金属リボン;ベリリア、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの金属酸化物;窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素などの金属窒化物;これらの熱伝導性物質で被覆された無各種機フィラー、カーボン粉末、黒鉛;あるいは黒鉛化度の比較的高い、カーボンフレーク、鱗片状カーボンおよびカーボンナノチューブなどが挙げられる。なお、熱伝導フィラー[G]の熱伝導率は、原則としてレーザーフラッシュ法で測定した値を指すが、炭素系の材料から構成される熱伝導フィラーなど、レーザーフラッシュ法により直接測定できない場合には、測定が可能な方法、例えば、定常法により流れ方向で測定した熱伝導率の値を使用する。定常法による熱伝導率の測定は、ISO型ダンベル試験片から、20mm×20mm×4mm厚の試験片を切り出し、アルバック理工製GH−1Sを用いて、80℃における厚み方向の熱伝導率を測定することにより行うことができる。これにより、成形品の厚み方向、すなわち、成形時の樹脂の流れに対して垂直方向の熱伝導率を測定することができる。また、前記ISO型ダンベル試験片から20mm×4mm×4mm厚の試験片を5枚切り出し、流れ方向を垂直にして、試験片5枚を横に並べ、アルバック理工製GH−1Sを用いて、80℃における熱伝導率を測定することにより、成形時の樹脂の流れ方向の熱伝導率を測定することができる。
【0100】
熱伝導率が20W/mK以上である熱伝導性フィラーの中でも、成形品の軽量化の観点から、アルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化珪素、カーボン粉末、黒鉛、カーボンフレーク、鱗片状カーボンおよびカーボンナノチューブなどが好ましい。中でも、熱伝導特性により優れ、比較的安価である黒鉛がより好ましい。
【0101】
黒鉛は、成形品の熱伝導率を向上させる効果を奏する。さらに、興味深いことに、黒鉛を含有することにより、成形品における強化繊維[B]の露出繊維長(L)および重量平均繊維長(L)をより長くすることができ、成形品の曲げ強度や曲げ弾性率などの機械特性をより向上させることができる。この理由については断定できないが、おそらく、強化繊維[B]の周囲に黒鉛が存在することにより、成形時に黒鉛が剪断力を受けて剪断力を分散するため、強化繊維[B]の折損を抑制し、強化繊維[B]の露出繊維長(L)および重量平均繊維長(L)をより長くすることができるものと推定される。
【0102】
黒鉛としては、特に限定されないが、天然黒鉛、各種の人工黒鉛などが挙げられる。天然黒鉛としては、例えば、土状黒鉛、塊状黒鉛、鱗片状黒鉛などが挙げられる。人工黒鉛とは、無定形炭素を熱処理することにより不規則な配列の微小黒鉛結晶を人工的に配向させたものであり、一般炭素材料に使用される人工黒鉛の他、キッシュ黒鉛、分解黒鉛、熱分解黒鉛などが挙げられる。一般炭素材料に使用される人工黒鉛は、石油コークスや石炭系ピッチコークスを主原料として、黒鉛化処理により製造することができる。これらの中でも、衝撃特性と熱伝導特性をより向上させる観点から、鱗片状黒鉛が好ましい。
【0103】
また、成形品における黒鉛の粒径は、10〜100μmであることが好ましい。成形品中に含まれる黒鉛の粒径を10μm以上とすることにより、熱伝導のパス形成を効率的に進めることができ、熱伝導率をより向上させることができる。一方、成形品中に含まれる黒鉛の粒径を100μm以下とすることにより、成形品の外観を向上させることができる。
【0104】
ここで、黒鉛の粒径とは、成形品の断面を、倍率を200〜2000倍として写真撮影し、写真上に観察される黒鉛のうち、粒径の大きいものから50個選択し、50個の粒径を測定した平均値をいう。なお、写真上に観察される黒鉛が円形でない場合には、最大径を粒径として測定する。
【0105】
なお、成形品における黒鉛の粒径を前記範囲にするための方法としては、例えば、黒鉛の粒径が後述する好ましい範囲にある繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を成形する方法などが挙げられる。
【0106】
また、成形品における熱伝導フィラー[G]の含有量は、成分[A]〜[C]の合計100重量部に対して、1〜40重量部が好ましい。熱伝導フィラー[G]の含有量が1重量部以上であれば、成形品の熱伝導率、曲げ強度および曲げ弾性率をより向上させることができる。熱伝導フィラー[G]の含有量は、3重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましい。一方、熱伝導フィラー[G]の含有量が40重量部以下であれば、成形品の剛性を適度に抑え、曲げ強度をより向上させることができる。熱伝導フィラー[G]の含有量は、35重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましい。
【0107】
次に、本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(以下、「成形材料」と記載する場合がある)について詳細に説明する。なお、本発明において「成形材料」とは、成形品を射出成形などで成形する際に用いる原料材を意味する。
【0108】
成形材料は、樹脂含浸強化繊維束[E]が、熱可塑性樹脂[A]によって被覆された構造を有することが好ましい。ここで、「被覆された構造」とは、樹脂含浸強化繊維[E]の表面に熱可塑性樹脂[A]が配置されて、両者が接着している構造を指す。また、樹脂含浸強化繊維束[E]とは、強化繊維[B]の束に、強化繊維改質成分[C]および/または後述の樹脂[D]が含浸されたものである。
【0109】
本発明の成形材料の第一の態様は、熱可塑性樹脂[A]と、強化繊維改質成分[C]が強化繊維[B]束に含浸された樹脂含浸強化繊維束[E]とを含み、前記樹脂含浸強化繊維束[E]が前記熱可塑性樹脂[A]または前記熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物で被覆された態様である。本発明の成形材料の第二の態様は、熱可塑性樹脂[A]と、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低い樹脂[D]が強化繊維[B]に含浸された樹脂含浸強化繊維束[E]と、強化繊維改質成分[C]とを含み、前記樹脂含浸強化繊維束[E]が、前記熱可塑性樹脂[A]および前記強化繊維改質成分[C]を含む樹脂組成物で被覆された態様である。第一の態様においては、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維を[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含むことが好ましい。第二の態様においては、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[A]を50〜98.9重量部、強化繊維を[B]を1〜40重量部、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部、樹脂[D]を0.2〜12重量部含むことが好ましい。樹脂[D]を0.2〜12重量部含むことにより、射出成形時に、強化繊維[B]の熱可塑性樹脂[A]内への分散性をより向上させることができる。成形材料が強化繊維[B]を1重量部以上含むことにより、衝撃強度や曲げ強度をより向上させることができる。また、強化繊維[B]を40重量部以下含むことにより、強化繊維[B]の分散性を向上させて衝撃強度をより向上させることができる。強化繊維[B]を3重量部以上含むことがより好ましく、5重量部以上含むことがさらに好ましい。一方、強化繊維[B]を30重量部以下含むことが好ましく、20重量部以下含むことがさらに好ましい。また、強化繊維改質成分[C]を0.1〜10重量部含むことにより、強化繊維改質成分[C]の付着率や皮膜厚みを前述の好ましい範囲に容易に調整することができる。強化繊維改質成分[C]を0.5重量部以上含むことがより好ましく、1重量部以上含むことがさらに好ましい。一方、強化繊維改質成分[C]を7重量部以下含むことがより好ましく、5重量部以下含むことがさらに好ましい。
【0110】
図3は、本発明の成形材料の好ましい縦断面形態の一例を示す概略図である。なお、縦断面とは、円筒状の成形材料の場合、円筒の軸心方向を含む面での断面を意味する。図3において、符号1は熱可塑性樹脂[A]、符号4(黒部分)は強化繊維[B]、符号5(白部分)は強化繊維改質成分[C]および/または後述する樹脂[D]、符号6は樹脂含浸強化繊維束[E]を示す。図3に示す成形材料は、強化繊維[B](4)の各単繊維が成形材料の軸心方向にほぼ平行に配列され、強化繊維[B](4)の長さは成形材料の長さと実質的に同じ長さである。
【0111】
ここで言う、「ほぼ平行に配列されている」とは、強化繊維[B]の長軸の軸線と、成形材料の長軸の軸線とが、同方向を指向している状態を示す。軸線同士のなす角度は好ましくは20°以下であり、より好ましくは10°以下であり、さらに好ましくは5°以下である。また、「実質的に同じ長さ」とは、成形材料内部で強化繊維[B]が意図的に切断されていたり、成形材料全長よりも有意に短い強化繊維[B]が実質的に含まれたりしないことを示す。成形材料全長よりも短い強化繊維[B]の量は、特に限定されないが、成形材料全長の50%以下の長さの強化繊維[B]の含有量が、全強化繊維[B]中30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。強化繊維[B]が成形材料と実質的に同じ長さを有することにより、得られる成形品中の強化繊維長を長くすることができ、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。強化繊維[B]および成形材料の長さは、それぞれ10mm以下が好ましく、8mm以下がより好ましい。強化繊維[B]および成形材料の長さは、それぞれ3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましい。成形材料は、長手方向にほぼ同一の断面形状を保ち、連続であることが好ましい。
【0112】
成形材料の断面形態は、樹脂含浸強化繊維束[E]が、熱可塑性樹脂[A]によって被覆された構造であれば図に示されたものに限定されないが、図3の縦断面形態に示されるように、樹脂含浸強化繊維束[E]が芯材となり、熱可塑性樹脂[A]で層状に挟まれて配置されている構成が好ましい。また図4の横断面形態に示されるように、樹脂含浸強化繊維束[E]を芯構造として、その周囲を熱可塑性樹脂[A]が被覆するような芯鞘構造に配置されている構成が好ましい。また、図5に示されるような複数の樹脂含浸強化繊維束[E]を熱可塑性樹脂[A]が被覆するように配置する場合、樹脂含浸強化繊維束[E]の数は2〜6程度が望ましい。
【0113】
樹脂含浸強化繊維束[E]と熱可塑性樹脂[A]の境界付近で部分的に熱可塑性樹脂[A]が樹脂含浸強化繊維束[E]の一部に入り込み、樹脂含浸強化繊維束[E]を構成する強化繊維改質成分[C]および/または樹脂[D]に含浸しているような状態になっていてもよい。
【0114】
熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]としては、先に例示したものを用いることができる。また、成形材料におけるこれら各成分の作用効果は、先に説明したとおりである。
【0115】
また、成形材料は、成形材料内に存在する強化繊維[B]表面の少なくとも一部に、強化繊維改質成分[C]が付着していることが好ましい。
【0116】
樹脂[D]は、200℃における溶融粘度が熱可塑性樹脂[A]よりも低く、前述した強化繊維改質成分[C]とは異なる化合物である。樹脂[D]は、強化繊維[B]とともに樹脂含浸強化繊維束[E]を形成し、成形時に熱可塑性樹脂[A]を強化繊維[B]に含浸させることを助け、また、強化繊維[B]が熱可塑性樹脂[A]中に分散することを助ける、いわゆる含浸助剤かつ分散助剤としての役割を持つ。
【0117】
樹脂[D]の200℃における溶融粘度は、0.01〜10Pa・sが好ましい。200℃における溶融粘度が0.01Pa・s以上であれば、樹脂[D]を起点とする破壊をより抑制し、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。溶融粘度は、0.05Pa・s以上がより好ましく、0.1Pa・s以上がさらに好ましい。一方、200℃における溶融粘度が10Pa・s以下であれば、樹脂[D]を強化繊維[B]の内部まで含浸させやすい。このため、成形材料を成形する際、強化繊維[B]の分散性をより向上させることができる。溶融粘度は、5Pa・s以下がより好ましく、2Pa・s以下がさらに好ましい。ここで、樹脂[D]の200℃における溶融粘度は、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により測定することができる。
【0118】
樹脂[D]としては、熱可塑性樹脂[A]と親和性の高いものが好ましい。熱可塑性樹脂[A]との親和性が高い樹脂[D]を選択することによって、成形材料の製造時や成形時に、熱可塑性樹脂[A]と効率よく相溶するため、強化繊維[B]の分散性をより向上させることができる。
【0119】
樹脂[D]は、マトリックス樹脂である熱可塑性樹脂[A]との組み合わせに応じて適宜選択される。例えば、成形温度が150〜270℃の範囲であればテルペン樹脂が好適に用いられ、成形温度が270〜320℃の範囲であれば、エポキシ樹脂が好適に用いられる。具体的には、熱可塑性樹脂[A]がポリプロピレン樹脂である場合は、樹脂[D]はテルペン樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂[A]がポリカーボネート樹脂やポリアリーレンスルフィド樹脂である場合は、樹脂[D]はエポキシ樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂[A]がポリアミド樹脂である場合は、樹脂[D]はテルペンフェノール樹脂が好ましい。
【0120】
なお、後述の通り、強化繊維[B]に樹脂[D]を含浸させて樹脂含浸強化繊維束[E]を得るのに際し、樹脂[D]を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)は100〜300℃が好ましい。そこで、本発明においては、樹脂[D]の強化繊維[B]への含浸性の指標として、樹脂[D]の200℃における溶融粘度に着目した。200℃における溶融粘度が上記の好ましい範囲であれば、かかる好ましい溶融温度範囲において、強化繊維[B]への含浸性に優れるため、強化繊維[B]の分散性がより向上し、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。
【0121】
樹脂[D]の200℃における2時間加熱後の溶融粘度変化率は、2%以下が好ましい。ここで、溶融粘度変化率は、下記(2)式により求められる。
(溶融粘度変化率[%])={|(200℃にて2時間加熱後の200℃における溶融粘度−200℃にて2時間加熱前の200℃における溶融粘度)|/(200℃にて2時間加熱前の200℃における溶融粘度)}×100 (2) 。
【0122】
後述のとおり、強化繊維[B]に樹脂[D]を含浸させて樹脂含浸強化繊維束[E]となすに際し、樹脂[D]を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)は100〜300℃が好ましい。そこで、かかる溶融粘度変化率を2%以下にすることで、長時間にわたり樹脂含浸強化繊維束[E]を製造する場合においても、含浸むらなどを抑制し、樹脂含浸強化繊維束[E]の安定した製造を確保できる。溶融粘度変化率は、より好ましくは1.5%以下であり、さらに好ましくは1.3%以下である。
【0123】
なお、樹脂[D]の溶融粘度変化率は、次の方法により求めることができる。まず、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により200℃における溶融粘度を測定する。次いで、樹脂[D]を200℃の熱風乾燥機に2時間静置した後、同様に200℃における溶融粘度を測定し、前記(2)式により溶融粘度変化率を算出する。
【0124】
また、樹脂[D]は、10℃/分昇温(空気中)条件で測定した成形温度における加熱減量が5重量%以下であることが好ましい。かかる加熱減量が5重量%以下であれば、含浸時の分解ガスの発生を抑制し、樹脂含浸強化繊維束[E]内部のボイド発生を抑制することができる。また、成形時の揮発を抑制し、成形品内部の揮発分に由来する欠陥を抑制することができる。より好ましくは3重量%以下である。
【0125】
なお、本発明において「加熱減量」とは、加熱前の樹脂[D]の重量を100%とし、前記加熱条件における加熱後の樹脂[D]の重量減量率を表し、下記(3)式により求めることができる。なお、加熱前後の重量は、白金サンプルパンを用いて、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件にて、成形温度における重量を熱重量分析(TGA)により測定することにより求めることができる。
(加熱減量)[重量%]={(加熱前重量−加熱後重量)/加熱前重量}×100 (3) 。
【0126】
前記強化繊維束[B]に前記強化繊維改質成分[C]および/または前記樹脂[D]を溶融含浸させ、樹脂含浸強化繊維[E]を得る。
【0127】
樹脂[D]として好ましく用いられるエポキシ樹脂は、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であって、実質的に硬化剤が含まれておらず、加熱しても、いわゆる三次元架橋による硬化をしないものである。エポキシ樹脂は、グリシジル基を有すると、強化繊維[B]と相互作用しやすくなり、樹脂含浸強化繊維束[E]と馴染みやすく、含浸しやすいので好ましい。また、成形加工時の強化繊維[B]の分散性をより向上させることができる。
【0128】
ここで、グリシジル基を有する化合物としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0129】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エーテル結合を有する脂肪族エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0130】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0131】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、アミノフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0132】
脂環式エポキシ樹脂としては、例えば、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等が挙げられる。
【0133】
中でも、粘度と耐熱性のバランスに優れるため、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0134】
また、樹脂[D]として用いられるエポキシ樹脂の数平均分子量は、200〜5000であることが好ましい。エポキシ樹脂の数平均分子量が200以上であれば、成形品の力学特性をより向上させることができる。数平均分子量は800以上がより好ましく、1000以上がさらに好ましい。一方、エポキシ樹脂の数平均分子量が5000以下であれば、強化繊維[B]への含浸性に優れ、強化繊維[B]の分散性をより向上させることができる。数平均分子量は4000以下がより好ましく、3000以下がさらに好ましい。なお、エポキシ樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0135】
また、テルペン樹脂としては、例えば、有機溶媒中でフリーデルクラフツ型触媒存在下、テルペン単量体を、必要に応じて芳香族単量体等と重合して得られる単独重合体または共重合体などが挙げられる。
【0136】
テルペン単量体としては、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、d−リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノーレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオール、サビネン、パラメンタジエン類、カレン類等の単環式モノテルペンなどが挙げられる。また、芳香族単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0137】
中でも、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテンおよびd−リモネンから選ばれたテルペン単量体が熱可塑性樹脂[A]との相溶性に優れるため好ましい。さらに、これらのテルペン単量体の単独重合体がより好ましい。また、これらテルペン樹脂を水素添加処理して得られる水素化テルペン樹脂が、より熱可塑性樹脂[A]、特にポリプロピレン樹脂との相溶性に優れるため好ましい。
【0138】
また、テルペン樹脂のガラス転移温度は、特に限定しないが、30〜100℃であることが好ましい。ガラス転移温度が30℃以上であると、成形加工時に樹脂[D]の取扱性に優れる。また、ガラス転移温度が100℃以下であると、成形加工時の樹脂[D]の流動性を適度に抑制し、成形性を向上させることができる。
【0139】
また、テルペン樹脂の数平均分子量は、200〜5000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。また、数平均分子量が5000以下であれば、テルペン樹脂の粘度が適度に低いことから含浸性に優れ、成形品中における強化繊維[B]の分散性をより向上させることができる。なお、テルペン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0140】
テルペンフェノール樹脂は、テルペン単量体とフェノール類を、触媒により反応させたものである。ここで、フェノール類としては、フェノールのベンゼン環上に、アルキル基、ハロゲン原子および/または水酸基を1〜3個有するものが好ましく用いられる。その具体例としては、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ブチルフェノール、t-ブチルフェノール、ノニルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、クロロクレゾール、ヒドロキノン、レゾルシノール、オルシノールなどを挙げることができる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、フェノールおよびクレゾールが好ましい。
【0141】
また、テルペンフェノール樹脂の数平均分子量は、200〜5,000であることが好ましい。数平均分子量が200以上であれば、成形品の曲げ強度および引張強度をより向上させることができる。また、数平均分子量が5,000以下であれば、テルペンフェノール樹脂の粘度が適度に低いことから含浸性に優れ、成形品中における強化繊維[B]の分散性をより向上させることができる。なお、テルペンフェノール樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0142】
強化繊維[B]に強化繊維改質成分[C]および/または樹脂[D]を含浸させて樹脂含浸強化繊維[E]を得る方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂[D]を含浸させる場合、強化繊維[B]に樹脂[D]を供給し、樹脂[D]を強化繊維[B]と接触させる工程(工程(I))と、工程(I)で得られた、樹脂[D]と接触した状態の強化繊維[B]を加熱して、樹脂[D]を強化繊維[B]に含浸させる工程(工程(II))を含む方法などが挙げられる。以下、樹脂[D]を含浸させる場合を例に説明するが、強化繊維改質成分[C]を含浸させる場合も同様である。
【0143】
上記工程(I)において、樹脂[D]を供給して強化繊維[B]と接触させる方法は特に限定されないが、例えば、強化繊維に油剤、サイジング剤、マトリックス樹脂などを付与する場合に用いられる任意の方法を用いることができる。中でも、ディッピングもしくはコーティングが好ましく用いられる。
【0144】
ここで、ディッピングとは、ポンプにて樹脂[D]を溶融バスに供給し、該溶融バス内に強化繊維[B]を通過させる方法をいう。強化繊維[B]を樹脂[D]の溶融バスに浸すことで、確実に樹脂[D]を強化繊維[B]に含浸させることができる。また、コーティングとは、例えば、リバースロール法、正回転ロール法、キスロール法、スプレイ法、カーテン法などのコーティング手段を用いて、強化繊維[B]に樹脂[D]を塗布する方法をいう。ここで、リバースロール法、正回転ロール法、キスロール法とは、ポンプで溶融させた樹脂[D]をロールに供給し、該ロールと強化繊維[B]を接触させることにより、強化繊維[B]に樹脂[D]の溶融物を塗布する方法をいう。さらに、リバースロール法は、2本のロールが互いに逆方向に回転し、樹脂[D]を塗布する方法であり、正回転ロール法は、2本のロールが同じ方向に回転し、樹脂[D]を塗布する方法である。通常、リバースロール法および正回転ロール法では、さらにロールを設置して、強化繊維[B]をロールで挟むことにより、樹脂[D]を確実に含浸させる方法が用いられる。一方で、キスロール法は、強化繊維[B]とロールが接触しているだけで、樹脂[D]を含浸させる方法である。そのため、キスロール法は比較的粘度の低い場合の使用が好ましい。いずれのロール方法を用いても、強化繊維[B]をロールに接触させながら走らせることで、強化繊維の単位長さ当たりに所定量の樹脂[D]を含浸させることができる。スプレイ法は、霧吹きの原理を利用したもので、溶融した樹脂[D]を霧状にして強化繊維[B]に吹き付ける方法である。カーテン法は、溶融した樹脂[D]を小孔から自然落下させて、または溶融槽からオーバーフローさせて、強化繊維[B]に塗布する方法である。カーテン法は、塗布に必要な量を調節しやすいため、樹脂[D]の損失を少なくできる。
【0145】
上記の工程において、樹脂[D]を供給する際の溶融温度(溶融バス内の温度)は、100〜300℃が好ましい。溶融温度が100℃以上であれば、樹脂[D]の粘度を適度に抑え、含浸むらを抑制することができる。150℃以上がより好ましい。一方、溶融温度が300℃以下であれば、長時間にわたり製造した場合にも、樹脂[D]の熱分解を抑制することができる。250℃以下がより好ましい。100〜300℃の溶融状態で強化繊維[B]と接触させることで、樹脂[D]を安定して供給することができる。
【0146】
次いで、工程(I)で得られた、樹脂[D]と接触した状態の強化繊維[B]を加熱して、樹脂[D]を強化繊維[B]に含浸させる工程(工程(II))について説明する。具体的には、樹脂[D]と接触した状態の強化繊維[B]に対して、樹脂[D]が溶融する温度において、ロールやバーで張力をかける、拡幅および集束を繰り返す、圧力や振動を加えるなどの操作により、樹脂[D]を強化繊維[B]の内部まで含浸するようにする工程である。より具体的な例として、加熱された複数のロールやバーの表面に強化繊維[B]を接触するように通して拡幅などを行う方法を挙げることができる。中でも、絞り口金、絞りロール、ロールプレス、ダブルベルトプレスを用いて含浸させる方法が好適に用いられる。ここで、絞り口金とは、進行方向に向かって、口金径の狭まる口金のことであり、強化繊維[B]を集束させながら、余分に付着した樹脂[D]を掻き取ると同時に、含浸を促す口金である。また、絞りロールとは、ローラーで強化繊維[B]に張力をかけることで、余分に付着した樹脂[D]を掻き取ると同時に、含浸を促すローラーのことである。また、ロールプレスは、2つのロール間の圧力で連続的に強化繊維[B]内部の空気を除去すると同時に、含浸を促す装置であり、ダブルベルトプレスとは、強化繊維[B]の上下からベルトを介してプレスすることで、含浸を促す装置である。
【0147】
工程(II)において、樹脂[D]の供給量の80〜100重量%が強化繊維[B]に含浸されていることが好ましい。含浸量が80重量%以上であれば、工程(II)における樹脂[D]に起因する揮発成分の発生を抑制し、樹脂含浸強化繊維[E]内部のボイド発生を抑制することができる。経済性および生産性の観点から供給量に対する含浸量が高いほど好ましい。含浸量は、より好ましくは、85〜100重量%であり、さらに好ましくは90〜100重量%である。
【0148】
また、工程(II)において、樹脂[D]の最高温度が150〜400℃であることが好ましい。最高温度が150℃以上であれば、樹脂[D]を十分に溶融してより効果的に含浸させることができる。最高温度は180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。一方、最高温度が400℃以下であれば、樹脂[D]の分解反応などの好ましくない副反応を抑制することができる。最高温度は380℃以下がより好ましく、350℃以下がさらに好ましい。
【0149】
工程(II)における加熱方法としては、特に限定されないが、具体的には、加熱したチャンバーを用いる方法や、ホットローラーを用いて加熱と加圧を同時に行う方法などが例示できる。
【0150】
また、樹脂[D]の架橋反応や分解反応などの好ましくない副反応の発生を抑制する観点から、非酸化性雰囲気下で加熱することが好ましい。ここで、非酸化性雰囲気とは酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を含有しない雰囲気、すなわち、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指す。特に、経済性および取り扱いの容易さの面から、窒素雰囲気が好ましい。
【0151】
また、前記工程(I)、(II)の前段階において、強化繊維[B]束を予め開繊してもよい。開繊とは収束された強化繊維束を分繊させる操作であり、樹脂[D]の含浸性をさらに高める効果が期待できる。開繊により、強化繊維束の厚みは薄くなる。開繊前の強化繊維束の幅をb(mm)、厚みをa(μm)、開繊後の強化繊維束の幅をb(mm)、厚みをa(μm)とした場合、開繊比=(b/a)/(b/a)を2.0以上とすることが好ましく、2.5以上とすることがさらに好ましい。
【0152】
強化繊維束の開繊方法としては、特に制限はなく、例えば凹凸ロールを交互に通過させる方法、太鼓型ロールを使用する方法、軸方向振動に張力変動を加える方法、垂直に往復運動する2個の摩擦体により強化繊維束の張力を変動させる方法、強化繊維束にエアを吹き付ける方法などを利用できる。
【0153】
図6は、樹脂含浸強化繊維束[E]の横断面形態の一例を示す概略図である。なお、横断面とは、樹脂含浸強化繊維束[E]の軸心方向に直交する面での断面を意味する。強化繊維[B]2の各単繊維1間に、強化繊維改質成分[C]または/および樹脂[D]5が満たされている。すなわち、強化繊維改質成分[C]および/または樹脂[D]の海に、強化繊維[B]の各単繊維が島のように分散している状態である。
【0154】
かかる樹脂含浸強化繊維束[E]を、熱可塑性樹脂[A]または熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物で被覆することにより、本発明の成形材料を得ることができる。このような構造を得る方法としては、溶融した熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物を樹脂含浸強化繊維束[E]に接するように配置し、冷却・固化する方法が好ましい。その手法については、特に限定されないが、具体的には、押出機と電線被覆法用のコーティングダイを用いて、樹脂含浸強化繊維束[E]の周囲に連続的に熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物を被覆するように配置する方法や、ロール等で扁平化した樹脂含浸強化繊維束[E]の片面あるいは両面から、押出機とTダイを用いて溶融したフィルム状の熱可塑性樹脂[A]を含む樹脂組成物を配置し、ロール等で一体化させる方法などを挙げることができる。
【0155】
成形材料は、必ずしも単一の成形材料から構成されている必要はなく、2種以上の成形材料の組み合わせであってもよい。2種以上の成形材料を組み合わせる場合、その製造方法としては、(i)熱可塑性樹脂[A]と、強化繊維[B]に強化繊維改質成分[C]を含浸してなる樹脂含浸強化繊維束[E]とを含む成形材料(ブレンド成分1)、ならびに、(ii)熱可塑性樹脂[A]と強化繊維改質成分[C]とを溶融混練してなる樹脂組成物からなる成形材料(ブレンド成分2)を、各成分の含有量が前記範囲になるようにドライブレンドする方法が挙げられる。ここで、ブレンド成分1とブレンド成分2の混合比率(ブレンド成分1/ブレンド成分2)は75/25〜25/75(重量比)が好ましく、70/30〜30/70がより好ましく、67/33〜33/67がさらに好ましい。かかる混合比率において、各成分の含有量が前記好ましい範囲になるように、ブレンド成分1およびブレンド成分2の組成を調整することが好ましい。
【0156】
成形材料は、本発明の目的を損なわない範囲で、前記成分[A]〜[C]、および必要に応じて樹脂[D]に加えて、他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、前記熱可塑性樹脂[F]、前記熱伝導フィラー[G]などが挙げられる。熱可塑性樹脂[F]を含有することにより、成形品の力学特性、例えば曲げ強度や衝撃強度をさらに向上させることができる。また、熱伝導フィラー[G]を含有することにより、成形品の熱伝導率を向上させることができる。
【0157】
熱可塑性樹脂[F]としては、先に例示したものを用いることができる。中でも、成形品の衝撃強度をより向上させる観点から、ゴム変性スチレン系樹脂である、MBS樹脂、SBS樹脂、SEBS樹脂が好ましく、SEBS樹脂がより好ましい。
【0158】
成形材料における熱可塑性樹脂[F]の含有量は、成分[A]〜[C]の合計100重量部に対して、0.5〜10重量部が好ましい。熱可塑性樹脂[F]の含有量を0.5重量部以上とすることにより、成形品の衝撃強度をより向上させることができる。1重量部以上が好ましく、2重量部以上がより好ましい。一方、熱可塑性樹脂[F]の含有量を10重量部以下とすることにより、成形品の剛性が向上し、曲げ強度、曲げ弾性をより向上させることができる。含有量は7重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。
【0159】
熱伝導フィラー[G]としては、先に例示したものを用いることができる。中でも黒鉛が好ましい。黒鉛を含有することにより、成形品における強化繊維[B]の露出繊維長(L)および重量平均繊維長(L)をより長くすることができ、成形品の曲げ強度や曲げ弾性率などの機械特性をより向上させることができる。さらに、成形品の厚み方向の熱伝導率を高くすることができる。
【0160】
成形材料における黒鉛の粒径は、50〜500μmであることが好ましい。成形材料中における黒鉛の粒径が50μm以上であると、強化繊維[B]の折損をより抑制することができる。黒鉛の粒径は、60μm以上がより好ましく、70μm以上がさらに好ましい。一方、成形材料中における黒鉛の粒径が500μm以下であると、成形品における分散性を向上させ、外観を向上させることができる。黒鉛の粒径は、400μm以下がより好ましく、300μm以下がさらに好ましい。また、成形材料における黒鉛の粒径を前述の好ましい範囲にすることにより、成形品中の黒鉛の粒径を前述の好ましい範囲に容易に調整することができる。
【0161】
成形材料において、熱伝導フィラー[G]の含有量は、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対し、1〜40重量部が好ましい。熱伝導フィラー[G]の含有量が1重量部以上であれば、成形品の熱伝導率、曲げ強度および曲げ弾性率をより向上させることができる。含有量は、3重量部以上が好ましく、5重量部以上がより好ましい。一方、熱伝導フィラー[G]の含有量が40重量部以下であれば、成形品の剛性を適度に抑え、曲げ強度をより向上させることができる。含有量は、35重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましい。
【0162】
本発明の成形材料は、例えば、射出成形やプレス成形などの手法により成形されて成形品となる。成形材料の取扱性の点から、樹脂含浸強化繊維束[E]と熱可塑性樹脂[A]は、成形が行われるまでは、接着されたまま分離せず、前述したような形状を保っていることが好ましい。樹脂含浸強化繊維束[E]と熱可塑性樹脂[A]は、形状(サイズ、アスペクト比)、比重および質量が全く異なるため、樹脂含浸強化繊維束[E]と熱可塑性樹脂[A]が分離した場合、成形までの材料の運搬、取り扱い時および成形工程での材料移送時等に分級し、成形品の力学特性にバラツキを生じたり、流動性が低下して金型詰まりを起こしたり、成形工程でブロッキングしたりする場合がある。成形材料が図4に例示されるような芯鞘構造であれば、熱可塑性樹脂[A]が樹脂含浸強化繊維束[E]を拘束し、より強固な複合化ができるので好ましい。
【0163】
本発明の成形材料は、連続であってもよいし、ある長さに切断してもよい。成形材料の長さは、1〜50mmの範囲が好ましく、かかる長さに調整することにより、成形時の流動性および取扱性を十分に高めることができる。このように適切な長さに切断された成形材料としてとりわけ好ましい態様としては、射出成形用の長繊維ペレットが例示できる。
【0164】
また、本発明の成形材料は、連続かつ長尺のままでも成形法によっては使用可能である。例えば、熱可塑性ヤーンプリプレグとして、加熱しながらマンドレルに巻き付け、ロール状成形品を得ることができる。このような成形品の例としては、液化天然ガスタンクなどが挙げられる。また、本発明の成形材料を、連続かつ長尺のまま、複数本一方向に引き揃えて加熱・融着させることにより、一方向熱可塑性プリプレグを作製することも可能である。このようなプリプレグは、軽量性、高強度、弾性率および耐衝撃特性が要求されるような分野、例えば自動車部材などに適用が可能である。
【0165】
本発明の成形材料を成形することにより、成形品を得ることができる。成形方法としては、特に限定しないが、射出成形、オートクレーブ成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、スタンピング成形などの生産性に優れた成形方法を挙げることができる。これらを組み合わせて用いることもできる。また、インサート成形、アウトサート成形などの一体化成形にも適用することができる。さらに、成形後に、加熱による矯正処置や、熱溶着、振動溶着、超音波溶着などの生産性に優れた接着工法を活用することもできる。これらの中でも、金型を用いた成形方法が好ましい。特に射出成形機を用いた成形方法により、連続的に安定した成形品を得ることができる。射出成形の条件としては、特に規定はないが、例えば、射出時間:0.5秒〜10秒、より好ましくは2秒〜10秒、背圧:0.1MPa〜15MPa、より好ましくは2〜10MPa、さらに好ましくは2MPa〜8MPa、保圧力:1MPa〜50MPa、より好ましくは1MPa〜30MPa、保圧時間:1秒〜20秒、より好ましくは5秒〜20秒、シリンダー温度:200℃〜320℃、金型温度:20℃〜100℃の条件が好ましい。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするための樹脂を注入する金型の温度を示す。これらの条件、特に射出時間、背圧および金型温度を適宜選択することにより、成形品における強化繊維[B]の露出繊維長(L)および重量平均繊維長(L)を前述の好ましい範囲に調整することができる。
【0166】
本発明の成形品の用途としては、例えば、インストルメントパネル、ドアビーム、アンダーカバー、ランプハウジング、ペダルハウジング、ラジエータサポート、スペアタイヤカバー、フロントエンドなどの各種モジュール;シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナ、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品・部材および外板;ランディングギアポッド、ウィングレット、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリング、リブなどの航空機関連部品・部材および外板;モンキー、レンチ等の工具類;電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、電子レンジ、音響機器、トイレタリー用品、レーザーディスク(登録商標)、冷蔵庫、エアコンなどの家庭・事務電気製品部品;パーソナルコンピューター、デジタルカメラ、携帯電話などの筐体や、パーソナルコンピューターの内部でキーボードを支持する部材であるキーボード支持体などの電気・電子機器用部材などが挙げられる。強化繊維[B]として、導電性を有する炭素繊維を使用した場合、電磁波シールド性が付与されるため、電気・電子機器用部材により好ましく用いることができる。
【実施例】
【0167】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定するものではない。まず、各種特性の評価方法について説明する。
【0168】
(1)溶融粘度
各実施例および比較例に用いた熱可塑性樹脂[A]、強化繊維改質成分[C]、樹脂[D]について、40mmのパラレルプレートを用いて、0.5Hzにて、粘弾性測定器により200℃における溶融粘度を測定した。また、樹脂[D]を200℃の熱風乾燥機に2時間静置した後、同様に200℃における溶融粘度を測定した。
【0169】
(2)成形品破断面における強化繊維[B]の露出繊維長
各実施例および比較例により得られた80mm×10mm×4mm厚の試験片に、ISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施した。ノッチ加工を施した試験片に、ISO179−1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて、衝撃速度2.9m/secの衝撃を加えて破壊した。破壊された試験片の破断面を、光学顕微鏡(50〜1000倍)にて観察した。成形品破断面から露出している強化繊維[B]から無作為に選んだ1000本の強化繊維[B]の長さを計測し、その数平均値を露出繊維長(L)とした。なお、成形品における破断面が平面でない場合は、選択した各強化繊維[B]ごとに破断面を特定して露出繊維長(L)を算出した。
【0170】
(3)成形品中の強化繊維[B]の重量平均繊維長
各実施例および比較例により得られた80mm×10mm×4mm厚の試験片に、ISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施した。ノッチ加工を施した試験片に、ISO179−1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて、衝撃を加えて破壊した。破壊した試験片を、200〜300℃に設定したホットステージの上にガラス板間に挟んだ状態で設置して加熱し、強化繊維[B]が均一分散したフィルムを得た。強化繊維[B]が均一分散したフィルムを、光学顕微鏡(50〜200倍)にて観察した。無作為に選んだ1000本の強化繊維[B]の繊維長を計測した。各実施例においてはいずれも共通の強化繊維を使用したため、強化繊維の密度および径は同一であることから、下記式から重量平均繊維長(L)を算出した。
重量平均繊維長=Σ(Mi×Ni)/Σ(Mi×Ni)
Mi:繊維長(mm)
Ni:繊維長Miの繊維の個数 。
【0171】
(4)成形品中の繊維表面への強化繊維改質成分[C]付着率
各実施例および比較例により得られた80mm×10mm×4mm厚の試験片に、ISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施した。ノッチ加工を施した試験片について、ISO179−1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて破壊した試験片から、強化繊維[B]の繊維長手方向に対する垂直断面を切り出し、倍率40000倍でTEM観察を行った。TEM観察画像から無作為に5本の強化繊維[B]を選択し、強化繊維[B]の直径と、強化繊維[B]の円周表面に存在する、強化繊維改質成分[C]の端部距離(LcI)を測定した。ここで、端部距離(LcI)とは、図1に示すように、強化繊維[B]円周表面と平行方向における強化繊維改質成分[C]の長さを示す。強化繊維[B]円周表面上に存在する強化繊維改質成分[C]の端部距離をそれぞれ測定し、下記(1)式から付着率[%]を算出した。このとき、強化繊維改質成分[C]が強化繊維[B]表面全体を隙間なく覆っている場合は、付着率は100%とした。無作為に選択した5本の強化繊維[B]について付着率を測定し、その数平均値を算出した。
強化繊維改質成分付着率[%]={TEM断面観察から検出された、強化繊維改質成分[C]の各端部距離(LcI)の総和/[繊維長手方向に対して垂直断面における強化繊維[B]の直径(D)×円周率(π)]}×100 (1) 。
【0172】
(5)成形品中の繊維表面に付着した強化繊維改質成分[C]の皮膜厚み
各実施例および比較例により得られた80mm×10mm×4mm厚の試験片に、ISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施した。ノッチ加工を施した試験片について、ISO179−1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて破壊した試験片から、強化繊維[B]の繊維長手方向に対する垂直断面を切り出し、倍率40000倍でTEM観察を行った。TEM観察画像から無作為に5本の強化繊維[B]を選択し、図2に示すように、強化繊維[B]の円周表面に存在する強化繊維改質成分[C]の最大膜厚(LcII)を測定した。無作為に選択した5本の強化繊維[B]について最大膜厚(LcII)を測定し、その数平均値を算出した。
【0173】
(6)成形品の繊維分散性
各実施例および比較例により得られた、80mm×80mm×3mm厚の試験片表裏それぞれの面に存在する未分散強化繊維束の個数を目視でカウントした。50枚の試験片について、未分散強化繊維束の合計個数を求め、以下の基準に基づき、繊維分散性の判定を行った。A、Bを合格とした。
A:未分散強化繊維束が1個未満
B:未分散強化繊維束が1個以上10個未満
C:未分散強化繊維束が10個以上 。
【0174】
(7)成形品の曲げ強度および曲げ弾性率
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片について、ISO 178に準拠し、3点曲げ試験冶具(圧子半径5mm)を用いて支点距離を64mmに設定し、試験速度2mm/分の試験条件にて曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。試験機として、“インストロン”(登録商標)万能試験機5566型(インストロン社製)を用いた。
【0175】
(8)成形品の衝撃強度
各実施例および比較例により得られた80mm×10mm×4mm厚の試験片に、ISO 2818:1994に準拠して、ノッチ角度45°、深さ2mmのノッチ加工を施した。ノッチ加工を施した試験片について、ISO179−1:2010に準拠し、1.0Jのハンマーを用いて、ノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。
【0176】
(9)成形品の熱伝導率測定
各実施例および比較例により得られたISO型ダンベル試験片から、20mm×20mm×4mm厚の試験片を切り出し、アルバック理工製GH−1Sを用いて、80℃における試験片の厚み方向の熱伝導率を測定した。また、前記ISO型ダンベル試験片から20mm×4mm×4mm厚の試験片を5枚切り出し、成形時の樹脂の流れ方向を垂直にして、試験片5枚を横に並べ、アルバック理工製GH−1Sを用いて、80℃における流れ方向の熱伝導率を測定した。
【0177】
(参考例1)炭素繊維の作製
ポリアクリロニトリルを主成分とする共重合体を原料として用い、紡糸、焼成処理および表面酸化処理の各工程を経て、総単糸数24,000本、単繊維径7μm、単位長さ当たりの質量1.6g/m、比重1.8g/cm、表面酸素濃度[O/C]0.12の均質な炭素繊維[B−1]を得た。この炭素繊維のストランド引張強度は4880MPa、ストランド引張弾性率は225GPaであった。
【0178】
ここで、表面酸素濃度比は、表面酸化処理を行った後の炭素繊維を用いて、X線光電子分光法により、次の手順にしたがって求めた。まず、炭素繊維束を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べて、測定サンプルとした。測定サンプルをX線光電子分光法装置の試料チャンバーにセットした後、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち、X線源としてAlKα1、2を用いて、測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sの主ピークの運動エネルギー値(K.E.)を1202eVに合わせた。K.E.として1191〜1205eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりC1sピーク面積を求めた。K.E.として947〜959eVの範囲で直線のベースラインを引くことによりO1sピーク面積を求めた。O1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として、表面酸素濃度[O/C]を算出した。X線光電子分光法装置として、国際電気社製モデルES−200を用い、感度補正値を1.74とした。
【0179】
次に、サイジング剤として、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(エポキシ当量:140g/eq)を2重量%になるように水に溶解させたサイジング処理液を調製した。付着量が1.0重量%になるよう、浸漬法により前記炭素繊維に前記サイジング剤を付与し、230℃で乾燥を行い、炭素繊維[B−1]の束を得た。こうして得られた炭素繊維のサイジング剤付着量は1.0重量%であった。また、サイジング剤のSP値を算出した結果、10であった。
【0180】
(参考例2)樹脂含浸強化繊維束[E]の作製
塗布温度150℃に加熱されたロール上に、各実施例および比較例に示すエポキシ樹脂[D−1]を加熱溶融した液体の被膜を形成させた。ロール上に一定した厚みの被膜を形成するため、リバースロールを用いた。このロール上に、参考例1で得られた連続した炭素繊維[B−1]束を、接触させながら通過させて、エポキシ樹脂[D−1]を付着させた。次に、エポキシ樹脂が付着した炭素繊維束を、窒素雰囲気下において、温度250℃に加熱されたチャンバー内にて、5組の直径50mmのロールプレス間を通過させた。この操作により、エポキシ樹脂[D−1]を炭素繊維束の内部まで含浸させ、樹脂含浸強化繊維束[E−1]を得た。
【0181】
(参考例3)熱可塑性樹脂組成物の作製
JSW製TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、ダイス直径5mm、バレル温度290℃、スクリュー回転数150rpm)を使用し、各実施例および比較例に示す熱可塑性樹脂[A]、強化繊維改質成分[C]、熱可塑性樹脂[F]、熱伝導フィラー[G]を、各実施例および比較例に示す組成比になるようにドライブレンドしたものをメインホッパーから供給し、下流の真空ベントより脱気を行いながら、溶融混練した。溶融樹脂組成物をダイス口から吐出し、得られたストランドを冷却後、カッターで切断して熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0182】
各実施例および比較例に用いた原料を以下に示す。
【0183】
熱可塑性樹脂[A−1]
ポリカーボネート樹脂(帝人化成(株)製、「“パンライト”(登録商標)L−1225L」)を用いた。200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、14000Pa・sであった。
【0184】
熱可塑性樹脂[A−2]
ポリアミド6樹脂(東レ(株)製、「“アミラン”(登録商標)CM1001」)を用いた。200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、1000Pa・sであった。
【0185】
熱可塑性樹脂[A−3]
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”(登録商標)J137G)とマレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製“アドマー”(登録商標)QE840)(PP)を重量比85/15でペレットブレンドしたものを用いた。200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、50Pa・sであった。
【0186】
強化繊維改質成分[C−1]
カルボキシル基を有するオレフィン系ワックス(三菱化学(株)製“ダイヤカルナ”(登録商標)30)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、0.03Pa・sであった。また、GPCにより測定した重量平均分子量は9,000であった。本発明に関わるGPCの測定方法は以下の通り実施した。
使用機種:ウォーターズ社製「150C」 測定温度:140℃ 溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB) カラム:「AD806M/S」(3本) 流速:1.0mL/分 分子量標準物質:標準ポリスチレン
強化繊維改質成分[C−2]
官能基で変性されたオレフィン化合物(三洋化成(株)製“ユーメックス”(登録商標)1010)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、20Pa・sであった。また、(C−1)と同様の測定条件にて、GPCにより測定した重量平均分子量は30,000であった。
【0187】
強化繊維改質成分[C−3]
水溶性ナイロン(東レ(株)製“AQナイロン”(登録商標)P70)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、20Pa・sであった。また、GPCにより測定した重量平均分子量は1,000であった。なお、重量平均分子量1,000以下の成分量の測定は、以下の通り実施した。
使用機種:東ソー社製「HLC−8320GPC」 測定温度:40℃ 溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)(トリフルオロ酢酸ナトリウム濃度10mmol/l)
カラム:「TSKgel SuperHM−H」(2本) 流速:0.3mL/分 分子量標準物質:ポリメチルメタクリレート(PMMA)
樹脂[D−1]
固体のビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学(株)製“jER”(登録商標)1004AF、軟化点97℃)を用いた。これを含浸助剤塗布装置内のタンク内に投入し、タンク内の温度を200℃に設定し、1時間加熱して溶融状態にした。この時の、200℃における溶融粘度を上記(1)に記載の方法により測定した結果、1Pa・sであった。また、溶融粘度変化率を算出した結果、1.1%であった。
【0188】
熱可塑性樹脂[F−1]
旭化成ケミカルズ(株)製 水添スチレン・ブタジエンブロック共重合体(SEBS樹脂)“タフテック”(登録商標)M1943を用いた。
【0189】
熱伝導フィラー[G−1]
(株)中越黒鉛工業所製 鱗片状黒鉛CFW−50Aを用いた。
【0190】
(実施例1)
参考例2に従い、炭素繊維[B−1]に樹脂[D−1]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維束[E−1]を日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通した。一方、参考例3に従って作製した、熱可塑性樹脂[A−1]および強化繊維改質成分[C−1]を含む樹脂組成物をTEX−30α型2軸押出機のメインホッパーから供給して溶融混練し、溶融した状態で前記ダイ内に吐出させ、樹脂含浸強化繊維束[E−1]の周囲を被覆するように連続的に配置した。この時、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]、強化繊維改質成分[C]および樹脂[D]が表1記載の配合量となるように、樹脂組成物の吐出量を調整した。得られた連続状の成形材料を冷却後、カッターで切断して、長さ7mmの長繊維ペレット状の樹脂成形材料を得た。
【0191】
得られた長繊維ペレット状の成形材料を、住友重機械工業社製SE75DUZ−C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、スクリュー回転数:100rpm、背圧力:10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:100℃の条件で射出成形することにより、ISO型引張ダンベル試験片、80mm×80mm×3mm厚の試験片および80mm×10mm×4mm厚の試験片(成形品)を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするために成形材料を注入する金型の温度を示す。得られた試験片(成形品)を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置した後、前述の方法により評価した。評価結果を表1に示した。
【0192】
(実施例2)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維改質成分[C−1]が0.5重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が89.5重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0193】
(実施例3)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維改質成分[C−1]が5.0重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が85.0重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0194】
(実施例4)
成形時のスクリュー回転数を200rpmに変更した以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0195】
(実施例5)
強化繊維改質成分[C−1]を[C−2]に変更した以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0196】
(実施例6)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維改質成分[C−1]が15重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が75.0重量部となるようにし、成形時の背圧力を30MPaとした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0197】
(実施例7)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂[F−1]が2.0重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。また、熱伝導率を測定した結果、厚み方向の熱伝導率は0.4W/m・Kであり、流れ方向の熱伝導率は1.0W/m・Kであった。
【0198】
(実施例8)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、樹脂[D−1]が0重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0199】
(実施例9)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維改質成分[C−1]が0重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が90.0重量部となるようにし、背圧力を1MPaとした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0200】
(実施例10)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、熱伝導フィラー[G−1]を25.0重量部となるようにした以外は、実施例7と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。また、熱伝導率を測定した結果、厚み方向の熱伝導率は1.1W/m・Kであり、流れ方向の熱伝導率は3.5W/m・Kであった。
【0201】
(実施例11)
参考例2に従い、炭素繊維[B−1]に樹脂[D−1]を含浸して得られた樹脂含浸強化繊維束[E−1]を日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)の先端に設置された電線被覆法用のコーティングダイ中に通した。一方、参考例3に従って作製した、熱可塑性樹脂[A−1]および強化繊維改質成分[C−1]を含む樹脂組成物をTEX−30α型2軸押出機のメインホッパーから供給して溶融混練し、溶融した状態でダイ内に吐出させ、樹脂含浸強化繊維束[E−1]の周囲を被覆するように連続的に配置した。この時、熱可塑性樹脂[A]、強化繊維[B]および強化繊維改質成分[C]の合計100重量部に対して、熱可塑性樹脂[A−1]が74.0重量部、強化繊維[B−1]が20.0重量部、強化繊維改質成分[C−1]が3.0重量部となるように、樹脂組成物の吐出量を調整した。得られた連続状の成形材料を冷却後、カッターで切断して、長さ7mmの長繊維ペレット(X−1)を得た。
【0202】
次に、参考例3に従い、熱可塑性樹脂[A−1]が43.0重量部、強化繊維改質成分[C−1]が3.0重量部、熱可塑性樹脂[F−1]が4重量部、熱伝導フィラー[G−1]が50重量部からなる樹脂成形材料(Y−1)を得た。
【0203】
上記により得られた長繊維ペレット(X−1)と樹脂成形材料(Y−1)を、(X−1)および(Y−1)の合計100重量部に対して、(X−1)が50.0重量部、(Y−1)が50.0重量部となるようにドライブレンドして成形材料を作製した。得られた成形材料について、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。また、熱伝導率を測定した結果、厚み方向の熱伝導率は1.0W/m・Kであり、流れ方向の熱伝導率は3.2W/m・Kであった。
【0204】
(実施例12)
熱可塑性樹脂[A−1]を[A−2]に変更した以外は、実施例8と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0205】
(実施例13)
熱可塑性樹脂[A−1]を[A−3]に変更し、強化繊維改質成分[C−1]を[C−3]に変更した以外は、実施例8と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0206】
(比較例1)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維改質成分[C−1]が0重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が90.0重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0207】
(比較例2)
強化繊維改質成分を[C−3]に変更した以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0208】
(比較例3)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維[B−1]が0.5重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が96.5重量部となるようにし、さらに、背圧力を50MPaに変更した以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0209】
(比較例4)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維[B−1]が50重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が47.0重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0210】
(比較例5)
成分[A]〜[C]の合計100重量部に対し、強化繊維改質成分[C−1]が0重量部、熱可塑性樹脂[F−1]が2.0重量部、熱可塑性樹脂[A−1]が90.0重量部となるようにした以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0211】
(比較例6)
上記に示した強化繊維(B−1)束に、表2に示す割合で樹脂(D−1)を含浸させた樹脂含浸繊維束(E)、および、熱可塑性樹脂(A−1)を、日本製鋼所(株)TEX−30α型2軸押出機(スクリュー直径30mm、L/D=32)に供給し、スクリュー回転速度を200rpmで溶融混練した。ダイ先端から吐出されるストランドを冷却固化後、カッターでペレット長7mmに切断し、繊維含有溶融混練ペレットを作製した。この時、成分(A)〜(C)の合計100重量部に対し、熱可塑性樹脂(A−1)が87.0重量部、強化繊維(B)が10重量部、強化繊維改質成分(C−1)が3.0重量部となるように、調整した。
【0212】
得られた繊維含有溶融混練ペレットを、住友重機械工業社製SE75DUZ−C250型射出成形機を用いて、射出時間:10秒、背圧力:10MPa、保圧時間:10秒、シリンダー温度:300℃、金型温度:100℃の条件で射出成形することにより、ISO型引張ダンベル試験片、80mm×80mm×3mm厚の試験片および80mm×10mm×4mm厚の試験片を作製した。ここで、シリンダー温度とは、射出成形機の成形材料を加熱溶融する部分の温度を示し、金型温度とは、所定の形状にするために成形材料を注入する金型の温度を示す。得られた試験片を、温度23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室に24時間静置した後、前述の方法により評価した。評価結果を表2に示した。
【0213】
【表1】
【0214】
【表2】
【0215】
実施例1〜13いずれの材料も優れた分散性および衝撃強度を示した。熱可塑性樹脂[F]を配合した実施例7は、実施例1との比較において、衝撃強度の向上効果が確認できた。また、熱伝導フィラー[G]を配合した実施例10は、実施例7との比較において、優れた熱伝導特性および曲げ特性を示した。
【0216】
一方、強化繊維改質成分[C]を含まない比較例1は、強化繊維[B]の露出繊維長および重量平均繊維長が短く、衝撃強度が低かった。熱可塑性樹脂[A]とSP値差が小さい強化繊維改質成分[C]を用いた比較例2も、強化繊維[B]の露出繊維長および重量平均繊維長が短く、衝撃強度が低かった。また、強化繊維[B]の配合量が少なく、さらに射出成形時の背圧力が高い比較例3も、強化繊維[B]の重量平均繊維長および露出繊維長が短く、強化繊維[B]による補強効果が弱く衝撃強度が低かった。また、強化繊維[B]の配合量が多い比較例4は、射出成形時に繊維の交絡が増加し、強化繊維[B]の重量平均繊維長および露出繊維長が短く、衝撃強度が低かった。強化繊維改質成分[C]を含まず、熱可塑性樹脂[F]を配合した比較例5は、露出繊維長が短く、衝撃強度が低かった。溶融混練にて作製した成形材料を用いた比較例6は、成形品内における強化繊維[B]の重量平均繊維長が短いため、露出繊維長も短く、衝撃強度が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明の繊維強化熱可塑性樹脂成形品は、優れた衝撃強度を有するため、種々の用途に展開できる。特に、電気・電子機器、OA機器、家電機器、自動車の部品・内部部材および筐体などの各種部品・部材に好適である。
【符号の説明】
【0218】
1 熱可塑性樹脂[A]
2 強化繊維[B]
3 強化繊維改質成分[C]
4(黒部分) 強化繊維[B]
5(白部分) 強化繊維改質成分[C]および/または樹脂[D]
6 樹脂含浸強化繊維束[E]
図1
図2
図3
図4
図5
図6