特許第6052457号(P6052457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6052457炭素繊維接合部材、その製造方法、炭素繊維部材同士の接合方法、炭素繊維強化部材の製造方法、圧力容器の製造方法、および圧力容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6052457
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】炭素繊維接合部材、その製造方法、炭素繊維部材同士の接合方法、炭素繊維強化部材の製造方法、圧力容器の製造方法、および圧力容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/10 20060101AFI20161219BHJP
   B32B 1/02 20060101ALI20161219BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B32B5/10
   B32B1/02
   F16J12/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-103806(P2016-103806)
(22)【出願日】2016年5月25日
【審査請求日】2016年5月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 隆寛
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−244725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一および第二の炭素繊維部材がそれぞれ帯状部材であり、両帯状部材の端部近傍間に、軟化点が50〜200℃のホットメルト接着剤が挟まれ、前記ホットメルト接着剤にて両帯状部材が接合されている、炭素繊維接合部材。
【請求項2】
前記ホットメルト接着剤の40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、200℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下であることを特徴とする請求項1記載の炭素繊維接合部材。
【請求項3】
帯状の第一の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面と、帯状の第二の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面との間に、軟化点が50〜200℃のシート状のホットメルト接着剤を挟み、
前記ホットメルト接着剤を軟化ないし溶融した後、軟化ないし溶融状態のホットメルト接着剤を固化することを特徴とする、
炭素繊維接合部材の製造方法。
【請求項4】
シート状のホットメルト接着剤の厚みが5mm以下であることを特徴とする、請求項に記載の炭素繊維接合部材の製造方法。
【請求項5】
帯状の第一の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面と、帯状の第二の炭素繊維部材の一の端部近傍の表面との間に、軟化点が50〜200℃のシート状のホットメルト接着剤を挟み、
前記ホットメルト接着剤を軟化ないし溶融した後、軟化ないし溶融状態のホットメルト接着剤を固化することを特徴とする、
炭素繊維部材同士の接合方法。
【請求項6】
シート状のホットメルト接着剤の厚みが5mm以下であることを特徴とする、請求項記載の炭素繊維部材同士の接合方法。
【請求項7】
請求項1または2記載の炭素繊維接合部材に、熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、帯状の含浸部材を得、
前記帯状の含浸部材を、マンドレルの外周部に巻き付け、
前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化した後、
前記マンドレルを除去することを特徴とする、
炭素繊維強化部材の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2記載の炭素繊維接合部材に、熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、帯状の含浸部材を得、
前記帯状の含浸部材を、中空ライナーの外周部に巻き付け、
前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することを特徴とする、
圧力容器の製造方法。
【請求項9】
中空ライナーと、
前記中空ライナーの外周部を覆う補強層を有する圧力容器であって、
前記補強層が、請求項1または2記載の炭素繊維接合部材の巻重体と、熱硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む、
圧力容器。
【請求項10】
第一の炭素繊維部材と、第二の部材と、前記第一の炭素繊維部材および第二の部材の間に挟まれている、軟化点が50〜200℃、40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、200℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下である、ホットメルト接着剤とを有する、炭素繊維接合部材。
【請求項11】
第二の部材が炭素繊維である請求項10記載の炭素繊維接合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤を介して接合された炭素繊維接合部材、およびその製造方法に関する。さらに、本発明は、炭素繊維部材同士の接合方法に関する。
また、本発明は、炭素繊維強化部材の製造方法、圧力容器の製造方法、および圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化複合材料は、軽量かつ機械物性に優れるため、近年、スポーツ、自動車、航空宇宙、建材分野等に広く利用されている。
炭素繊維強化複合材料は、マトリックス樹脂に炭素繊維を含浸させ、マトリックス樹脂を硬化または固化させたものである。マトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、エネルギー線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の利用が提案されている(特許文献1〜4)。
【0003】
炭素繊維強化複合材料は、特に、圧力容器に代表されるような高耐久性を求められる用途において注目を浴びている。炭素繊維を用いた圧力容器は、アルミニウム製のライナーにマトリックス樹脂を含浸させた炭素繊維束(トウ)を複数層巻き付け、硬化または固化させることで、軽量かつ高強度といった性能を発現させることができる。
しかし、圧力容器のように強度が重視される用途においては、炭素繊維束をライナー外周に何重にも巻き付ける必要があり、使用する炭素繊維束の長さは数千〜数十万m必要となる。巻き付け工程においては、炭素繊維束の連続性が非常に大事であるが、長い繊維束は価格が非常に高い。
そこで、数千〜数十万mほどには長くなく、比較的価格が安い炭素繊維束を途中で繋ぎ合わせて使用することが求められる。
【0004】
例えば、炭素繊維束同士を繋ぎ合わせる方法としては、炭素繊維束同士を結ぶ方法や炭素繊維束同士を接着剤で接合させる方法がある。
前者の場合、作業自体は比較的短時間で行うことはできるが、結び目が存在することで、ライナーへ巻きつけた後に炭素繊維層の構造が崩れ欠陥となり、強度が低下する。なお、結び目に起因する強度低下を解消するために、巻き付け後に結び目を除去する方法もあるが、作業工程の煩雑化を招き、しかも結び目を除去し、残した部分も構造的な欠陥に成り得るため、適切であるとは言い難い。
【0005】
後者、即ち接着剤を用いて炭素繊維束同士を繋ぎ合わせる場合、炭素繊維束の平面性を維持したまま連続性を保つことができ、ライナーへ巻きつけた後に欠陥を生じることがないので高強度を保つことができる。炭素繊維束同士を繋ぎ合わせるための接着剤には炭素繊維束への密着性が求められるので、多くの場合マトリックス樹脂と同種の樹脂が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−098175号公報
【特許文献2】特開2005−206847号公報
【特許文献3】特開2015−193830号公報
【特許文献4】特開2015−187202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、炭素繊維束同士を繋ぎ合わせる接着剤として、熱硬化性樹脂を用いると硬化には非常に長い時間を要する。熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として用いる場合においては、含浸、巻き付け等行った後の硬化は1回で済むが、炭素繊維束の連続性を保つための接着剤として用いる場合は、繋ぎ合わせのたびに複数回硬化工程を経る必要があるため、接合工程が長くなる。そのため、熱硬化性樹脂を炭素繊維束の繋ぎ合わせ用の接着剤として用いることは適切ではない。
硬化時間を短縮するためにエネルギー線硬化性、例えば紫外線硬化性の樹脂を炭素繊維束の繋ぎ合わせに用いる方法もあるが、炭素繊維束がエネルギー線を遮蔽するので硬化が不十分となりやすい。エネルギー線硬化性樹脂をマトリックス樹脂として用いる場合、熱硬化剤を併用したり(特許文献2)、特殊な構造の化合物を用いたりして(特許文献3)硬化不足を補うことが提案されている。エネルギー線硬化性樹脂は熱可塑性や熱硬化性樹脂と比較して高密度に架橋できるので、マトリックス樹脂として用いると強度を高めることは可能である。しかし、炭素繊維束の繋ぎ合わせのための接着剤として用いると、柔軟性に欠け、巻き付けなどの後工程で繋ぎ合わせた部分が剥がれやすくなる。このため、エネルギー線硬化性樹脂を炭素繊維束の繋ぎ合わせ用の接着剤として用いることは適切ではない。
【0008】
一方、炭素繊維束同士を繋ぎ合わせる接着剤として、熱可塑性樹脂を用いると、単純な加熱装置があれば、短時間で炭素繊維束を接合させることが可能である。炭素繊維束は、ライナー外周に巻き付けるので、炭素繊維束の接着に用いるための熱可塑性樹脂は炭素繊維束への密着性に加え、柔軟性も必要となる。しかし、マトリックス樹脂用の熱可塑性樹脂は含浸後の強度を重視するので、柔軟性に欠ける。従って、マトリックス樹脂用の熱可塑性樹脂を、炭素繊維束の接着剤に転用することはできない。
【0009】
本発明の目的は、接合強度、柔軟性、連続性に優れる炭素繊維接合部材を提供することである。
また、本発明の他の目的は、前記炭素繊維接合部材を簡便で工業的生産性にも優れる方法で提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、軟化点が50〜200℃のホットメルト接着剤の利用により前記課題を解決した。
即ち、本発明は、第一の炭素繊維部材と、第二の部材と、前記第一の炭素繊維部材および第二の部材の間に挟まれている軟化点が50〜200℃のホットメルト接着剤とを有する、炭素繊維接合部材に関する。
前記ホットメルト接着剤の40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、200℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下であることが好ましい。
【0011】
また、第二の部材は炭素繊維であることが好ましい。
そして、第一および第二の炭素繊維部材がそれぞれ帯状部材であり、両帯状部材の端部近傍間に、軟化点が50〜200℃のホットメルト接着剤が挟まれ、前記ホットメルト接着剤にて両帯状部材が接合されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、帯状の第一の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面と、帯状の第二の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面との間に、軟化点が50〜200℃のシート状のホットメルト接着剤を挟み、
前記ホットメルト接着剤を軟化ないし溶融した後、軟化ないし溶融状態のホットメルト接着剤を固化することを特徴とする、
炭素繊維接合部材の製造方法に関する。
前記シート状のホットメルト接着剤の厚みは5mm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、帯状の第一の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面と、帯状の第二の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面との間に、軟化点が50〜200℃のシート状のホットメルト接着剤を挟み、
前記ホットメルト接着剤を軟化ないし溶融した後、軟化ないし溶融状態のホットメルト接着剤を固化することを特徴とする、
炭素繊維部材同士の接合方法に関する。
前記シート状のホットメルト接着剤の厚みは5mm以下であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、前記本発明の炭素繊維接合部材に、熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、帯状の含浸部材を得、
前記帯状の含浸部材を、マンドレルの外周部に巻き付け、
前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化した後、
前記マンドレルを除去することを特徴とする、
炭素繊維強化部材の製造方法に関する。
【0015】
さらに、本発明は、前記本発明の炭素繊維接合部材に、熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、帯状の含浸部材を得、
前記帯状の含浸部材を、中空ライナーの外周部に巻き付け、
前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化することを特徴とする、
圧力容器の製造方法の製造方法に関する。
【0016】
さらに、本発明は、中空ライナーと、前記中空ライナーの外周部を覆う補強層を有する圧力容器であって、
前記補強層が、前記本発明の炭素繊維接合部材の巻重体と、熱硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む圧力容器に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、接合強度、柔軟性、連続性に優れる炭素繊維接合部材を提供することができる。本発明の炭素繊維接合部材により、強度に優れる圧力容器や他の炭素繊維強化部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の炭素繊維接合部材の接合部の一例を示す断面図。
図2】本発明の炭素繊維接合部材の接合部の一例を示す断面図。
図3】本発明の炭素繊維接合部材の一例を示す斜視図。
図4】本発明の圧力容器の断面の一例を示す図。
図5】マンドレルを用いる本発明の炭素繊維強化部材の製造方法の一例を示す図。
図6】マンドレルを用いる本発明の炭素繊維接合部材の接合部の一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の炭素繊維接合部材について説明する。
本発明の炭素繊維接合部材は、第一の炭素繊維部材と、第二の部材とが、軟化点は50℃〜200℃であるホットメルト接着剤を介して接合されている。
接合後の炭素繊維接合部材にマトリックス樹脂を含浸する際、マトリックス樹脂は40℃程度に加温されている。軟化点が50℃以上のホットメルト接着剤を用いて、第一の炭素繊維部材と第二の部材とを接合することにより、含浸時に接合部が軟化しないので強度が低下し難い。ホットメルト接着剤の軟化点は60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがより好ましい。
接合後の柔軟性の点から軟化点が200℃以下のホットメルト接着剤を用いることが重要である。また、小型の加熱装置での接合という点でも軟化点は200℃以下のものが好適である。
なお、本発明で表現する、「○○〜△△」とは、「○○以上△△以下」を意味する。
【0020】
また、本発明のホットメルト接着剤の40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、200℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下であることが好ましい。40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であることで、接合後に高い接着力を発現し、さらに、前述のマトリックス樹脂への含浸工程においても高い接着力を維持することができる。また、本発明のホットメルト接着剤の200℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下であることが好ましい。200℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下であることで、接着工程で加熱した際、ホットメルト接着剤が炭素繊維束中に効率良く染込み冷却後の接着力が向上する。
40℃における貯蔵弾性率は1.0×10〜1.0×10Paであることがより好ましく、さらに、1.0×10〜1.0×10Paであることがより好ましい。40℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以下であることで、接合部位の柔軟性を向上できる。
【0021】
ホットメルト接着剤は厚さ5mm以下のシート状であることが好ましい。シート状であることで、第一の部材と第二の部材との間に積層する際、平面的に均一に各部材と接することができるため接合した際の接着力が向上する。また、シート状のホットメルト接着剤の厚さが5mm以下であることで、短時間で軟化させることができ、さらに、接合後の柔軟性も向上する。シート状のホットメルト接着剤の厚さは、0.01〜5mmであることが好ましく、0.02〜3mmであることがより好ましい。
【0022】
ホットメルト接着剤に含まれる樹脂成分として、例えば、ABS、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、プロピレン−エチレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/オクテン共重合体などのポリオレフィン、シクロペンタジエンとエチレンおよび/またはプロピレンとの共重合体などの環状ポリオレフィン、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/アクリル酸エチル共重合体(EEA)、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体などの極性基が導入されたポリオレフィン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、アクリル酸変性ポリプロピレン、スチレン系エラストマー、ゴムなどの酸変性ポリプロピレンなどがあげられる。
【0023】
接合強度を向上させる為に、ホットメルト接着剤に粘着付与剤などを添加しても良い。主な粘着付与剤は、特に限定されないがフェノール樹脂、変性フェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、キシレンフェノール樹脂、シクロペンタジエン−フェノール樹脂、キシレン樹脂、脂肪族系、脂環族系、芳香族系等の石油樹脂、水素添加された脂肪族系、脂環族系、芳香族系等の石油樹脂、フェノール−変性石油樹脂、ロジンエステル樹脂、水素添加されたロジンエステル樹脂、低分子量ポリスチレン系樹脂、テルペン樹脂、水素添加されたテルペン樹脂などの粘着付与樹脂が含まれていることが好ましい。粘着付与樹脂は、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
ホットメルト接着剤には、低粘度化するなどの目的でワックスなどを添加しても良い。主なワックスは、特に限定されないが、カルナバワックス、キャンデリアワックス、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、これらのワックスの酸化物、エチレンーアクリル酸共重合体、エチレンーメタクリル酸共重合体等が挙げられる。ワックスは、単独もしくは2種類以上を組み合わせて使用できる。
【0025】
ホットメルト接着剤の添加剤として、必要により各種のものが使用可能である。例えば着色剤やブロッキング防止剤、無機フィラー、酸化防止剤、難燃剤、可塑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、重金属不活性化剤などである。
【0026】
着色剤としては、赤、青、緑、黄などの慣用公知の着色剤を使用することができ、顔料、染料、色素のいずれでもよく、例えば、モノアゾ系、ジズアゾ系、アゾレーキ系、ベンズイミダゾロン系、ペリレン系、ジケトピロロピロール系、縮合アゾ系、アントラキノン系、キナクリドン系、フタロシアニン系、アントラキノン系があり、顔料系はピグメント、ペリレン系、モノアゾ系、縮合アゾ系、イソインドリノン系、酸化チタン、カーボンなどが挙げられる。
【0027】
ブロッキング防止剤としてはシリコーン、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド、ステアリン酸アミドやベヘニン酸アミドなどの飽和脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0028】
無機フィラーとしては、金属、金属酸化物及び金属水酸化物など粒子、繊維状などが挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、珪酸カルシウム、チタン酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム繊維、フレーク状ガラス、タルク、カオリン、モンモリロナイト、マイカ、スメクタイト、有機化モンモリロナイト、有機化マイカ、有機化スメクタイト、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸一水素カルシウム、ワラストナイト、シリカ、ゼオライト、アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミナ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、カーボンナノチーブ、グラファイト、銅、銀、アルミニウム、ニッケル、鉄、フッ化カルシウム、雲母、モンモリナイト、アパタイトなどが挙げられる。
【0029】
酸化防止剤としては、高分子量ヒンダード多価フェノール、トリアジン誘導体、高分子量ヒンダード・フェノール、ジアルキル・フェノール・スルフィド、2,2−メチレン−ビス−(4−メチル−6−第三−ブチルフェノール)、4,4−メチレン−ビス−(2,6−ジ−第三−ブチルフェノール)、2,6−ジ−第三−ブチルフェノール−p−クレゾール、2,5−ジ−第三−ブチルヒドロキノン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノン、ジブチル・ジチオカルバミン酸ニッケル、1−オキシ−3−メチル−4−イソプロピルベンゼン、4,4−ブチリデンビス−(3−メチル−6−第三−ブチルフェノール)、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
【0030】
難燃剤としては、燐含有化合物系難燃剤、ハロゲン含有化合物系難燃剤、スルホン酸金属塩系難燃剤、珪素含有化合物系難燃剤等が挙げられる。
【0031】
可塑剤としては、フタル酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、脂肪族二塩基酸エステル系可塑剤、脂肪族一塩基酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、エポキシ系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、テトラヒドロフタル酸エステル系可塑剤、グリコール系可塑剤、およびビスフェノールAアルキレンオキサイド誘導体などが挙げられる。
【0032】
帯電防止剤としては、プラスチックの帯電防止剤として汎用されているものでよく、具体的には、非イオン界面活性剤(例えば、多価アルコールの脂肪酸エステル、アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物、及びアルキルアミンのエチレンオキサイド付加物の脂肪酸エステルなど)、陰イオン界面活性剤(例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩など)、陽イオン界面活性剤(例えば、脂肪族アミン塩、4級アンモニウム塩など)、両性界面活性剤(例えばイミダゾリン型、ベタイン型など)が挙げられる。
【0033】
光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物及びベンゾエイト系化合物などが挙げられる。
【0034】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0035】
重金属不活性化剤としては、サリチル酸誘導体、ヒドラジド誘導体又はシュウ酸アミド誘導体などが挙げられる。
【0036】
ホットメルト接着剤は、ホットメルトアプリケーター、ガン、スプレー、コーティング等を用いて、部材に直接塗布する方法や、ホットメルト接着剤をインフレーション法、Tダイ法、溶液流延法、カレンダー法などの他、離型紙又はフィルムなどの上にスリットコーティングしてフィルム状にした後、部材と積層する方法などにより用いることができる。
【0037】
本発明で接合する部材のうち、第一の部材は炭素繊維である。
また、第二の部材は炭素繊維に限定されず、ガラス繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維などの繊維材料、熱延鋼、冷延鋼、亜鉛メッキ鋼、電気亜鉛めっき鋼、溶融亜鉛めっき鋼、合金化溶融亜鉛めっき鋼、亜鉛合金めっき鋼、銅めっき鋼、亜鉛―ニッケルめっき鋼、亜鉛―アルミめっき鋼、鉄−亜鉛メッキ鋼、アルミメッキ鋼、アルミニウム−亜鉛メッキ鋼、スズめっき鋼、アルミ、ステンレス鋼、銅、アルミ合金、電磁鋼板などの金属材料、ポリオレフィン、塩化ビニル、ポリスチレン、ABS、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、フッ素樹脂などのプラスチック材料、CFRPやGFRPなどの繊維強化プラスチック材料、紙、布、木材、コンクリート、タイル、皮革、ゴム、ガラスを使用することが可能であり、適宜適切な樹脂組成のホットメルト接着剤を選択してしようすることができる。例えば、第一の部材に炭素繊維、第二の部材にアルミを用いた炭素繊維接合においては、圧力容器製造時にアルミライナーへ炭素繊維を巻き付ける際、巻き始め位置の固定を容易に行うことができる。また、特に、第一、第二の部材ともに炭素繊維を用いると圧力容器などの炭素繊維部材の製造において比較的短距離の炭素繊維に連続的を持たせることができるため製造コストを抑えることができる。
【0038】
本発明で接合する部材の形状は特に限定されない。例えば、糸状同士、リボン状同士、シート状同士、立体物同士、またはそれらの組み合わせなどの接合が可能であり、接合面積も、点接着、線接着、面接着等必要に応じて適宜選択して接合することもできる。
【0039】
本発明の炭素繊維接合部材は、例えば以下のようにして、第一の炭素繊維部材と第二の炭素繊維部材とを接合し製造することができる。
即ち、帯状の第一の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面と、帯状の第二の炭素繊維部材の一方の端部近傍の表面との間に、軟化点が50〜200℃のシート状のホットメルト接着剤を挟み、
前記ホットメルト接着剤を軟化ないし溶融した後、軟化ないし溶融状態のホットメルト接着剤を固化することにより、前記炭素繊維部材同士を接合することにより得ることができる。
帯状の第一の炭素繊維部材の一方の端部近傍は、帯状の第一の炭素繊維部材の終端部と、帯状の第二の炭素繊維部材の一方の端部近傍は、帯状の第二の炭素繊維部材の始端部と、それぞれ言い換えることができる。図3に示すように終端部と始端部とをホットメルト接着剤で接合することにより、帯状の両部材(炭素繊維束)を接合し、より長尺の炭素繊維接合部材を、連続性を保ちつつ得ることができる。
【0040】
次にマンドレルを用いる炭素繊維強化部材の製造方法について説明する。
帯状の炭素繊維部材同士を接合した炭素繊維接合部材に、熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、帯状の含浸部材を得、
前記帯状の含浸部材を、マンドレルの外周部に巻き付け、
前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化した後、
前記マンドレルを除去し、炭素繊維強化部材を得ることができる。
例えば、図5に示すように、巻き芯(クリール)(6)に巻かれていた帯状の第一の炭素繊維部材(7)に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、マンドレル外周部に巻きつける。巻き芯(6)上に残る帯状の第一の炭素繊維部材(7)の量を検知し、巻き終りに連動するように、巻き芯(6’)に巻かれていた帯状の第二の炭素繊維部材(7’)を送り出す。図6に示すように、帯状の第一の炭素繊維部材(7)の終端部と、巻き芯(6’)に巻かれていた帯状の第二の炭素繊維部材(7’)の始端部との間にホットメルト接着剤を挟み、両部材の接合体である炭素繊維接合部材を得る。そして、前記炭素繊維接合部材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、マンドレル外周部に巻きつけ、マンドレル外周部に樹脂含浸繊維を連続的に巻き付けた中間体(11)を得る。次いで、前記中間体(11)を加熱し、含浸させた熱硬化性樹脂組成物を硬化する。硬化後、マンドレルを除去し、中空の炭素繊維強化部材を得る。
【0041】
次に中空ライナーを用いる圧力容器、およびその製造方法について説明する。
帯状の第一の炭素繊維部材(7)の終端部と、帯状の第二の炭素繊維部材(7’)の始端部との間にホットメルト接着剤を挟み、両部材の接合体である炭素繊維接合部材を得る。そして、前記炭素繊維接合部材に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、中空ライナーの外周部に巻き付け、含浸させた熱硬化性樹脂組成物を硬化する。
このような製造方法により、中空ライナーと、前記中空ライナーの外周部を覆う補強層を有する圧力容器を得ることができ、前記補強層は、炭素繊維接合部材の巻重体と、熱硬化性樹脂組成物の硬化物とを含む層である。
即ち、本発明の圧力容器は、数千〜数十万mの連続した炭素繊維部材(束)の巻重体と熱硬化性樹脂組成物の硬化物とによって、中空ライナーを補強したものということができる。
また、本発明の圧力容器は、中空ライナーと、前記中空ライナーの外周部を覆う補強層の他に、開口部を閉鎖する鏡板を有することができる。開口部は筒状の胴の両端に設けることもできるし、図4に示すように胴部を有底筒状とし一方の端部を開口部とすることもできる。筒状の胴の両端に開口部を設ける場合、両端の鏡板の1つは口金取り付け部を有し、他方は口金取り付け部を有すことができる。
【0042】
[含浸工程]
マンドレルを用いる炭素繊維強化部材の製造方法、中空ライナーを用いる圧力容器の製造方法における含浸工程について説明する。
熱硬化性樹脂組成物を炭素繊維部材や炭素繊維接合部材(以下、まとめて炭素繊維材料ともいう)に含浸する方法は、公知のフィラメントワインディング法における方法を採用すればよく、特に限定はされない。例えば、熱硬化性樹脂組成物を定量的に付着させたロールに炭素繊維材料を接触させ、炭素繊維材料に熱硬化性樹脂組成物を転写させるタッチロール方式や、熱硬化性樹脂組成物に炭素繊維材料を漬け込み、その後余分な熱硬化性樹脂組成物を絞り取るなどするディップ方式が例示できる。熱硬化性樹脂組成物を含浸させた炭素繊維材料を樹脂含浸繊維材料ともいう。
【0043】
本発明の製造方法に用いることのできる硬化性樹脂組成物は、特に限定されず、公知の硬化性樹脂組成物を使用できる。また、硬化方法は、熱、光(紫外線〜可視光線)、電子線、など適宜選択することが可能であり、一種類、または二種類以上の方法を併用して行うことができるが、圧力容器の場合、信頼性の観点から熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0044】
硬化性樹脂組成物として、例えば、エポキシ樹脂と硬化剤の混合物が挙げられ、エポキシ樹脂としては、例えば、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂に代表されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂等が挙げられるが、一種類または二種類以上併用して使用することができる。
【0045】
硬化剤としては、特に限定されず光硬化剤や熱硬化剤が使用でき、光硬化剤としては、紫外線領域から近赤外領域に感光性を有する公知のものが使用できる。
紫外線ラジカル硬化剤としては、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ベンゾフェノン類等が挙げられる。ベンゾイン類としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等の誘導体が挙げられる。アセトフェノン類としては、アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン等の誘導体が挙げられる。アントラキノン類としては、2−メチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン等の誘導体が挙げられる。チオキサントン類としては、チオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン等の誘導体が挙げられる。ベンゾフェノン類としては、ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン等の誘導体が挙げられる。その他としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等、公知のものを使用することができる。
紫外線カチオン硬化剤としては、紫外線でエポキシ基をカチオン重合させることができるカチオン触媒を使用することができる。具体的には、ジアゾニウム化合物、スルホニウム化合物、ヨードニウム化合物、金属錯体化合物など様々な化合物が知られており、「機能材料」1985年10月号5項、「UV・EB硬化技術の応用と市場」シーエムシー社1989年発行78頁などに詳細な記述がある。具体例としては、トリフェニルスルホニウム6フッ化アンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリフェニルユードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−4−チオフェノキシフェニルヘキサフルオロアンチモネート、4,4’−ビス(ビス(p−2−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホニオ)フェニルスルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート等(商品名としては、日本曹達(株)製CI−2855等)が挙げられ、一種類、または二種類以上併用して用いることができる。
【0046】
熱硬化剤としては、特に限定されないが、例えば、酸無水物類や、脂肪族アミン、芳香族アミン、ポリアミド、複素環状アミン等のアミン類等やイソシアネート類などが挙げられ、アミン類として、例えば、エチレンジアミン、3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、m−キシレンジアミン、キシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、4,4−メチレンビ(2−エチル−6−メチルアニリン)、ジアミノジフェニルエーテルなどが挙げられ、イソシアネート類として、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、またはそれらのブロック化物などが挙げられ、一種類、または二種類以上併用して用いることができる。
【0047】
[巻き付け工程]
マンドレルを用いる炭素繊維強化部材の製造方法、中空ライナーを用いる圧力容器の製造方法における巻き付け工程について説明する。マンドレルや中空ライナーは、「駆体」とまとめることがある。
樹脂含浸繊維材料の駆体への巻き付け方としては、樹脂含浸繊維材料を駆体にらせん状に巻き付けるヘリカル巻き、駆体の芯の回転軸に対して垂直方向に樹脂含浸繊維材料を巻き付けるフープ巻きなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0048】
(マンドレル)、(中空ライナー)
マンドレルは、熱硬化性樹脂組成物の硬化後に脱芯される。中空ライナーは、熱硬化性樹脂組成物の硬化後に容器等の成形物の内層となる。
マンドレルや中空ライナーの材料としては、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄などの金属材料;ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0049】
(光照射)
巻き付け工程と同時または巻き付け工程後に、樹脂含浸繊維材料に光照射をしてもよい。樹脂含浸繊維材料に照射する光としては、紫外線〜近赤外線領域の光を使用する。紫外線とは280〜400nm、可視光とは400〜780nm、近赤外線とは780〜1200nmの波長領域の光線を指す。中でも、光の照射時間が比較的短くて済み、空気の影響が比較的少ない、紫外線が好ましい。
【0050】
本発明において使用される光源としては、LEDランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、蛍光灯、自然光、太陽光、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、近赤外ランプ、赤外ランプなどが挙げられる。この中でも、LEDランプを使用することで、光源由来の発熱を抑えることができるため、作業性の点から好ましい。
【0051】
光の照射時間は、光源の有効波長、光源の出力、光源から樹脂含浸繊維材料までの距離、樹脂含浸繊維材料の厚さ、硬化性樹脂組成物の量、硬化性樹脂組成物の増粘の程度などにより適宜決定すればよく、特に限定はされない。
具体的には、硬化性樹脂組成物中のラジカル重合性不飽和基および/またはエポキシ基が部分的に反応して、硬化性樹脂組成物が適度に増粘するように、樹脂含浸繊維材料の照射面の積算光量が10〜20000mJ/cm2となるように光を照射することが好ましい。
【0052】
[加熱工程]
駆体に樹脂含浸繊維材料が巻き付けられた中間体を加熱し、熱硬化性樹脂組成物を硬化させる手段としては、加熱炉、赤外線ランプなどが挙げられる。
加熱温度、加熱時間等の加熱条件は、樹脂含浸繊維材料の厚さ、硬化性樹脂組成物の量や種類などにより適宜決定すればよく、特に限定はされない。
【0053】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0054】
[ホットメルト接着剤の軟化点測定]
ホットメルト接着剤の軟化点は、ビカット軟化温度試験機(テスター産業社製、TP−102)を用いてJIS K 7206の規定に準拠し測定を行った。
【0055】
[ホットメルト接着剤の貯蔵弾性率測定]
ホットメルト接着剤を厚さ100μm、幅5mm、長さ15mmの短冊状にして、DVA試験機(アイティー計測制御株式会社製、DVA−200)を用いて(測定温度:25℃〜250℃、昇温速度:10℃/分、測定周波数:10Hz)40℃及び200℃の貯蔵弾性率をそれぞれ測定した。
【0056】
<実施例1>[接合]
ホットメルト接着剤1(東ソー社製、エチレンー酢酸ビニル系、ウルトラセン638)を幅10mmの炭素繊維束(三菱レイヨン社製、PYROFIL TR 30S 3L)に長さ10mmの範囲に厚さ100μmになるように塗布し、固化した。その後、塗布部に新たに同じ炭素繊維束を重ねた。
塗布部位に対してヒートシール試験機(テスター産業社製、TP−701−B HEAT SEAL TESTER)を用いて、温度200℃、加圧圧力0.1MPaで20秒間、加熱し、ホットメルト接着剤を溶融し、炭素繊維束同士を接合し、試験片を得た。
【0057】
[接合強度評価]
得られた試験片を引張試験機(島津製作所製、AGS−X、TCE−N300)を用いて、温度40℃及び60℃で引張速度10mm/分で引張せん断試験を行い、破断直前の応力を接着力とした。得られた接合強度から以下の基準で評価した。
5:50N/cm以上
4:40N/cm以上、50N/cm未満
3:30N/cm以上、40N/cm未満
2:20N/cm以上、30N/cm未満
1:20N/cm未満
【0058】
[柔軟性評価]
上記方法で試験片を作製した後、接合部位を直径2mmの芯材に巻き、180度折り曲げた。折り曲げた状態で5分間保持した後、元の状態(0度)に戻し、上記方法と同様に接合強度の試験を行い、折り曲げ後の接合強度(40℃)を測定した。折り曲げ前後の接合強度の変化率を以下の式より求めた。
接合強度の変化率(%)=100×(折り曲げ後の接合強度)/(折り曲げ前の接合強度)
得られた接合強度の変化率(%)から以下の基準で評価した。
5:95%以上
4:90%以上、95%未満
3:80%以上、90%未満
2:70%以上、80%未満
1:70%未満
【0059】
<実施例2〜11>
以下、実施例1と同様にして、炭素繊維束同士を接合し、接合強度、柔軟性を評価した。結果は表1に示す。なお、表1に示すホットメルト接着剤は以下のものを用いた。
・ホットメルト接着剤2:東レ社製、ポリアミド系、AQナイロンA−90
・ホットメルト接着剤3:三井化学社製、変性ポリオレフィン系、アドマーSE810
・ホットメルト接着剤4:日本合成化学製、ポリエステル系、ポリエスターG―125
・ホットメルト接着剤5:東レ社製、ポリアミド系、AQナイロンP−70
・ホットメルト接着剤6:旭化成社製、スチレン系、アサフレックス810
・ホットメルト接着剤7:住友化学社製、アクリル系、スミペックスLG2
・ホットメルト接着剤8:アルケマ社製、ポリアミド系、プラタミドM1276
・ホットメルト接着剤9:BASF社製、ポリウレタン系、エラストラン1198A
・ホットメルト接着剤10:日本合成化学製、ポリエステル系、ポリエスターG―130
・ホットメルト接着剤11:日本合成化学製、ポリエステル系、ポリエスターG―155
【0060】
<比較例1>
ホットメルト接着剤12(東ソー社製、エチレンー酢酸ビニル系、ウルトラセン634)を用い、実施例1と同様に試験片を作製し、接合強度等の評価を行った。結果は表1に示す。なお、ホットメルト接着剤12の軟化点は50℃より小さいため貯蔵弾性率の測定、及び、接合強度が低いため柔軟性の評価は実施しなかった。
【0061】
<比較例2>
ホットメルト接着剤13:日本合成化学社製、ポリエステル系、ポリエスターG−165を用い、実施例1と同様にして、試験片を作製し、接合強度等の評価を行った。結果は表1に示す。なお、ホットメルト接着剤13の軟化点は200℃より大きいため、貯蔵弾性率の測定は実施しなかった。
【0062】
<実施例12>
ホットメルト接着剤1(東ソー社製、エチレンー酢酸ビニル系、ウルトラセン638)を縦10mm×横10mm×厚さ0.1mmのシート状に加工して、炭素繊維束(三菱レイヨン社製、PYROFIL TR 30S 3L)同士との間に挟み、同様の条件でホットメルト接着剤を溶融し、炭素繊維束同士を接合し、試験片を作製し、実施例1と同様の方法で、接合強度、及び柔軟性を評価した。結果は表2に示す。
【0063】
<実施例13、14>
ホットメルト接着剤1(東ソー社製、エチレンー酢酸ビニル系、ウルトラセン638)を表2に示す厚さのシート状に加工して、実施例12と同様に試験片を作製して同様の評価を行った。結果は表2に示す。
【0064】
<実施例15>
[圧力容器の作製]
実施例1の方法と同様にしてホットメルト接着剤1(東ソー社製、エチレンー酢酸ビニル系、ウルトラセン638)を用いて炭素繊維束(三菱レイヨン社製、PYROFIL TR 30S 3L)を接合した長炭素繊維束(300mの長さの炭素繊維束同士を1回接合した合計600m)を、40℃のマトリックス樹脂(三菱化学社製、エポキシ樹脂、JER827、90部と同社製、エポキシ硬化剤、JERキュアST11、10部の混合物)に含浸させ、アルミニウムライナー(外径:100mm、長さ:400mm、肉厚:5mm)に、第一層目にフープ層を1.0mm、第二層目にヘリカル層を2.0mm巻きつけた。巻きつけ終了後、中間体を130℃、24時間加熱した後、室温まで冷却した後、開口部にバルブを取り付け、圧力容器T−1を作製した。
【0065】
[耐圧性試験]
圧力容器T−1を加圧破壊試験機に設置し、圧力容器が破裂するまで容器内に負荷を与え、破裂した時点の圧力を破壊圧力とし、以下の基準で耐圧性を評価した。結果は表3に示す。
5:破壊圧力 40MPa以上
4:破壊圧力 35MPa以上40MPa未満
3:破壊圧力 30MPa以上35MPa未満
2:破壊圧力 25MPa以上30MPa未満
1:破壊圧力 25MPa未満
【0066】
<実施例16〜18>
実施例に対して、表3に示すよう炭素繊維束の接合回数のみ変更した以外(総炭素繊維長さは同じ)は実施例と同様の方法で圧力容器T−2〜T−4を作製し、同様の評価を行った。結果は表3に示す。
【0067】
<比較例3>
[圧力容器の作製]
ホットメルト接着剤1を使用せずに、炭素繊維束(三菱レイヨン社製、PYROFIL TR 30S 3L)を本結びにより接合した長炭素繊維束(20mの長さの炭素繊維束同士を29回接合した合計600m)を用いた以外は実施例15と同様にして圧力容器T−5を作製した。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表1に示すように、実施例1〜11はホットメルト接着剤の軟化点が50〜200℃であるため凝集力が維持され、40℃での接合強度や柔軟性に優れる。特に、実施例4〜11ではホットメルト接着剤の軟化点が60℃以上、80℃以上であるため、さらに高温である60℃での接合強度にも優れる。また、実施例2〜11は40℃での貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であるため、40℃での接着力に優れる。一方、比較例1では軟化点が50℃以下であるために、40℃及び60℃での接着力に劣る。また、比較例2では、軟化点が200℃より大きいために、柔軟性に劣る。
表2に示すように、ホットメルト接着剤をシート状にすることにより接合する部材との接着面が均一になり接着力及び柔軟性がより向上する。
表3に示すように、本発明の接合方法により接合した炭素繊維束で製造した圧力容器は耐圧性に優れる。一方、本結びにより接合した炭素繊維束で製造した圧力容器は巻き時に結び目の存在により積層時に炭素繊維強化樹脂層の斑が生じて耐圧性に劣る。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の接合部材により、炭素繊維束同士を接合し圧力容器の製造を行うことができる以外に、ゴルフシャフト、ラケットなどのスポーツ用品、防弾チョッキ、ヘルメット、手袋などの保護具、また、自動車、二輪車、航空機、ロケット、鉄道車両などの輸送機器、住宅用のドア、パーテーション、壁材などの建材、プロペラシャフト等にも用いることができ、産業上の利用価値が非常に高いと言える。
【符号の説明】
【0073】
(1):炭素繊維接合部材
(2−1):第一の炭素繊維部材
(2−2):第二の部材
(2−3):第二の炭素繊維部材
(3):ホットメルト接着剤
(4):圧力容器
(5):中空ライナー
(6)、(6’):巻き芯
(7)、(7’):第一、第二の炭素繊維部材
(7−1)、(7’−1):第一、第二の炭素繊維部材の端部近傍
(8):接合工程
(9):含浸工程
(10):ガイド
(11):中間体
【要約】
【課題】 本発明の目的は、接合強度、柔軟性、連続性に優れる炭素繊維接合部材を提供し、前記炭素繊維接合部材を簡便で工業的生産性にも優れる方法で提供することである。
【解決手段】 第一の炭素繊維部材と、第二の部材と、前記第一の炭素繊維部材および第二の部材の間に挟まれている軟化点が50〜200℃のホットメルト接着剤とを有する、炭素繊維接合部材。
【選択図】 図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6