【実施例】
【0016】
図1は、本発明によるヒートポンプサイクル装置の構成を示している。このヒートポンプサイクル装置100は、能力可変型の圧縮機1、四方弁2、冷媒と水との熱交換を行う利用側熱交換器3、流量調整手段である膨張弁4、熱源側熱交換器5、アキュムレータ6を順に冷媒配管11で接続した冷媒回路10を有しており、四方弁2を切り換えることによって冷媒循環方向を切り換えることができるようになっている。
【0017】
この冷媒回路10において、圧縮機1の吐出口付近の冷媒配管11には、圧縮機1から吐出された冷媒の温度を検出するための吐出冷媒温度センサ51が備えられている。また、利用側熱交換器3と膨張弁4との間の冷媒配管11には、膨張弁4付近の冷媒温度を検出する冷媒温度センサ53が、膨張弁4と熱源側熱交換器5との間の冷媒配管11には、熱源側熱交換器5の温度を検出する熱交温度センサ54が、それぞれ備えられている。さらには、圧縮機1の吐出側(四方弁2と利用側熱交換器3との間)の冷媒配管11には、圧力検出手段である圧力センサ50が備えられている。
【0018】
圧縮機1の図示しない密閉容器の下方には、圧縮機1の温度を検出するための圧縮機温度センサ52が備えられている。また、熱源側熱交換器5近傍には、外気温度検出手段である外気温度センサ55が設けられている。
【0019】
熱源側熱交換器5の近傍には、ヒートポンプサイクル装置100の筺体内部に外気を取り込んで熱源側熱交換器5に外気を流通させるファン7が配置されている。ファン7は、図示しない回転数を可変できるモータの出力軸(回転軸)に取り付けられている。尚、膨張弁4は、ステッピングモータを用いて弁の開度をパルス制御可能としたものである。
【0020】
利用側熱交換器3には、冷媒配管11と給湯配管12aとが接続されている。
図1に示すように、給湯配管12aの一端は三方弁31に接続されており、この三方弁31には室内ユニット側配管12cの一端と貯湯タンク側配管12bの一端とが各々接続されている。また、給湯配管12aの他端には、室内ユニット側配管12cの他端と貯湯タンク側配管12bの他端とが接続されている(
図1において、給湯配管12aと貯湯タンク側配管12bと室内ユニット側配管12cとの接続部を接続点13としている)。室内ユニット側配管12cには、床暖房装置やラジエター等の室内ユニット40が設けられており、また、貯湯タンク側配管12bには、貯湯タンク70が設けられている。
【0021】
貯湯タンク70内部の下方には、スパイラル形状に形成された熱交換部71が備えられている。熱交換部71の両端は貯湯タンク側配管12bに接続されており、貯湯タンク側配管12bを流れる湯水が熱交換部71に流れるようになっている。貯湯タンク70の上部には、貯湯タンク70内部に貯留されている湯水を浴槽や洗面台蛇口等に供給するための給湯口73が備えられている。また、貯湯タンク70の下部には、貯湯タンク70内部に水を供給するための入水口72が備えられており、入水口72には図示しない水道管が直結されている。
【0022】
接続点13と利用側熱交換器3との間には、能力可変型の循環ポンプ30が設けられている。循環ポンプ30を駆動することにより、利用側熱交換器3で冷媒と熱交換された水の流れが、
図1に示す矢印90の方向に循環する。尚、利用側熱交換器3から流出した水は、三方弁31の切り換えに応じて室内ユニット側配管12cに流れて室内ユニット40に流入する、あるいは、貯湯タンク側配管12bに流れて貯湯タンク70に流入する。そして、室内ユニット40や貯湯タンク70から流出した水は、接続点13を介して利用側熱交換器3に流入する。
【0023】
以上説明したように、利用側熱交換器3と循環ポンプ30と室内ユニット40と貯湯タンク70とが給湯配管12aと貯湯タンク側配管12bと室内ユニット側配管12cとで接続されて、ヒートポンプサイクル装置100の給湯回路12を構成している。
【0024】
給湯配管12aにおける利用側熱交換器3の水の入口側には、利用側熱交換器3に流入する水の温度を検出する入口温度センサ56が、給湯配管12における利用側熱交換器3の水の出口側には、利用側熱交換器3から流出するする水の温度を検出する出口温度センサ57が、それぞれ備えられている。また、貯湯タンク70内部の上下方向の略中央部には、貯湯タンク70内部に滞留する湯水の温度を検出する貯湯タンク温度センサ58が備えられている。
【0025】
以上説明した構成の他に、ヒートポンプサイクル装置100には制御手段60が備えられている。制御手段60は、各温度センサで検出した温度や圧力センサ50で検出した凝縮圧力を取り込み、あるいは、図示しないリモコン等による使用者からの運転要求を取り込み、これらに応じて圧縮機1やファン7や循環ポンプ30の駆動制御、四方弁2の切り換え制御、膨張弁4の開度制御や三方弁31の切り換え制御等といった、ヒートポンプサイクル装置100の運転に関わる様々な制御を行う。
【0026】
図1に示すように、冷媒回路10を暖房サイクルとしてヒートポンプサイクル装置100を運転したときは、四方弁2から流出した冷媒は利用側熱交換器3、膨張弁4、熱源側熱交換器5と順に流れて再び四方弁2に流入する(
図1に示す矢印80)。尚、冷媒回路10を冷房サイクルとしてヒートポンプサイクル装置100を運転したときは、四方弁2から流出した冷媒は熱源側熱交換器5、膨張弁4、利用側熱交換器3と順に流れて再び四方弁2に流入する、というように、暖房サイクルとして運転したとき(矢印80の方向)と逆方向となるが、
図1においてこの場合の冷媒流れ方向の記載は省略している。
【0027】
次に、以上説明した本発明のヒートポンプサイクル装置100における、冷媒回路10の動作やその作用・効果について説明する。尚、以下の説明では、ヒートポンプサイクル装置100の冷媒回路10が暖房サイクルとして運転する場合であって、室内ユニット40を駆動して暖房運転を行う場合と、貯湯タンク70に貯留されている水を所定温度に加熱する沸き上げ運転を行う場合とを例に挙げて説明する。
【0028】
まず、室内ユニット40を駆動して暖房運転を行う場合について説明する。使用者が室内ユニット40のリモコン等を操作してスイッチをオンし、暖房運転を指示すると、制御手段60は、循環ポンプ30を所定の回転数で起動するとともに、室内ユニット側配管12cに湯水が流れるように三方弁31を切り換える。これにより、利用側熱交換器3と室内ユニット40との間で湯水が循環する。
【0029】
また、制御手段60は、冷媒回路10が暖房サイクルとなるように四方弁2を切り換える。具体的には、制御手段60は、圧縮機1の吐出側と利用側熱交換器3とが接続されるよう、また、圧縮機1の吸入側と熱源側熱交換器5とが接続されるよう、四方弁2を切り換えることによって、利用側熱交換器3が凝縮器として機能するように、また、熱源側熱交換器5が蒸発器として機能するようにする。
【0030】
次に、制御手段60は、圧縮機1およびファン7を所定の回転数で起動してヒートポンプサイクル装置100の暖房運転を開始する。制御手段60は、出口水温センサ57で検出された現在の水温、つまり、利用側熱交換器3で加熱された水の温度が、使用者が設定した暖房運転の目標温度である設定温度に対応する水温となるように圧縮機1の回転数を決定し、これに応じた圧縮機1の駆動制御を行う。圧縮機1から吐出された冷媒は四方弁2を通過し、利用側熱交換器3で水と熱交換して凝縮し、さらに膨張弁4で減圧されて熱源側熱交換器5で外気と熱交換して蒸発し、圧縮機1に吸入されて再び圧縮機1で圧縮される過程を繰り返す。
【0031】
一方、利用側熱交換器3で所定温度に加熱された湯水は、循環ポンプ30の駆動によって給湯配管12aに流出し、三方弁31を介して室内ユニット側配管12cを流れて室内ユニット40に流入する。室内ユニット40が設置されている部屋は、室内ユニット40(を流れる湯水)の放熱によって暖房される。室内ユニット40から流出した湯水は、接続点13、循環ポンプ30を介して利用側熱交換器3に流入し、再び冷媒と熱交換を行って加熱される。
【0032】
次に、沸き上げ運転を行う場合について説明する。尚、沸き上げ運転時の冷媒回路10の状態や冷媒の流れについては上述した暖房運転時と同じであるため、詳細な説明は省略する。また、以下の説明では、貯湯タンク温度センサ58で検出した温度を貯湯タンク温度Ts、使用者による設定等によって予め定められている貯湯タンク70に貯留する湯水の温度を目標貯湯タンク温度Tsaとする。
【0033】
貯湯タンク70に貯留されている湯水は、給湯口73から流出することによって減少する。入水口72には前述したように水道管が直結されているので、水道管の水圧によって貯湯タンク70には、減少した分だけ入水口72から水が供給される。これにより、貯湯タンク70に貯留されている湯水の温度は低下する。
【0034】
制御手段60は、貯湯タンク70に貯留されている湯水の温度として、貯湯タンク温度センサ58で検出した貯湯タンク温度Tsを常時監視しており、取り込んだ貯湯タンク温度Tsが、目標貯湯タンク温度Tsaから予め定められた所定温度(例えば、5℃)低い温度(以後、沸き上げ開始温度Tsfと記載)以下となれば、貯湯タンク70に貯留されている湯水の温度を目標貯湯タンク温度Tsaとするために沸き上げ運転を開始する。
【0035】
制御手段60は、循環ポンプ30を所定回転数で起動するとともに、貯湯タンク側配管12bに水が流れるように三方弁31を切り換える。これにより、利用側熱交換器3と貯湯タンク70との間で湯水が循環する。利用側熱交換器3で加熱された湯水は、循環ポンプ30の運転によって利用側熱交換器3から給湯配管12aに流出し、三方弁31を介して貯湯タンク側配管12bを流れて貯湯タンク70内部に配置されている熱交換部71に流入する。貯湯タンク70に貯留されている水は、熱交換部71を流れる湯水によって加熱される。熱交換部71から流出した湯水は、接続点13、循環ポンプ30を介して利用側熱交換器3に流入し、再び冷媒と熱交換を行って加熱される。
【0036】
以上説明した沸き上げ運転を行っているとき、貯湯タンク温度Tsが目標貯湯タンク温度Tsaに近づいたときや、利用側熱交換器3に流入する水量が減少したとき等に、利用側熱交換器3における凝縮圧力が上昇して圧縮機1の吐出圧力が上昇する虞がある。また、外気温度が低いときに暖房運転や沸き上げ運転を行っている場合は、蒸発器として機能している熱源側熱交換器5での蒸発圧力が低下することによって、圧縮機1の吸入圧力が低下する虞がある。
【0037】
吐出圧力が上昇したり吸入圧力が低下したりすれば、圧縮機1の圧縮比が性能上限値以上となっている虞があり、この状態で圧縮機1の運転を続けると、圧縮機1の機構部(ベーン等)の摩耗・劣化が早くなって圧縮機1の寿命を縮める虞がある。
【0038】
通常、本実施例のようなヒートポンプサイクル装置では、例えば、圧縮機1の吐出圧力が性能上限値より所定値だけ低い吐出圧力を超えた場合や吸入圧力が性能下限値より所定値だけ高い吸入圧力を下回った場合は、圧縮機1の回転数を下降させる、あるいは、圧縮機1の運転を停止する等の保護制御を行うことによって、吐出圧力を低下させる、および、吸入圧力を上昇させることで圧縮比を性能上限値以下にまで低下させる。
【0039】
しかし、上記保護制御を行っているときは、利用側熱交換器3における凝縮能力が低下するので、その分、利用側熱交換器3で加熱される湯水の温度上昇も遅くなり、暖房運転時に室内温度が設定温度に到達するのに時間がかかったり、熱交換部71による貯湯タンク70内部に滞留する湯水の加熱が遅くなってしまい沸き上げ運転に時間がかかるという問題がある。従って、ヒートポンプサイクル装置100で沸き上げ運転を行うときは、圧縮機1の圧縮比が性能上限値を超えないようにしつつ、できる限り圧縮機1の回転数を高くして圧縮機1を駆動し続けることが望ましい。
【0040】
そこで、本発明のヒートポンプサイクル装置100では、暖房運転時や沸き上げ運転時に
図2に示す回転数制御テーブル200を用いて圧縮機1の回転数制御を行うことで、圧縮機1の圧縮比が性能上限値を超えないようにしつつ、暖房運転時の室内温度の迅速な設定温度への到達や迅速な沸き上げ運転の完了を実現している。以下、回転数制御テーブル200を用いた圧縮機1の回転数制御について詳細に説明する。
【0041】
制御手段60の図示しない記憶部には、
図2に示す回転数制御テーブル200が記憶されている。この回転数制御テーブル200は、予め実施された試験の結果等に基づいて作成し制御手段60に記憶されているものである。回転数制御テーブル200は、縦軸が後述する各制御領域を区画するための領域規定凝縮圧力Pcsとされており、その目盛は0MPaから圧縮機1の吐出圧力の性能上限値に対応した凝縮圧力値である4.5MPa(凝縮圧力上限値)までとなっている。また、横軸が外気温度Toとされており、その目盛は、例えばヒートポンプサイクル装置100の使用温度範囲である−20℃から35℃までとなっている。
【0042】
そして、
図2に示すように、回転数制御テーブル200は、凝縮圧力上限値:4.5MPa以下の凝縮圧力において、所定外気温度である−5℃を境に温度が高い方をゾーン1、温度の低い方をゾーン2に分け、各ゾーンにおいて領域規定凝縮圧力Pcsの低い方から順に、圧縮機1の回転数上昇を許可する圧縮機回転数上昇許可領域、圧縮機1の回転数上昇を禁止する圧縮機回転数上昇禁止領域、圧縮機1の回転数を下降させる圧縮機回転数下降領域、に凝縮圧力により区画している。
【0043】
次に、ゾーン1、ゾーン2の順で、各ゾーンについて詳細に説明する。ゾーン1では、
図2に示すように、領域規定凝縮圧力Pcsが第1閾値である3.7MPaまでの領域を圧縮機回転数上昇許可領域、3.7MPa以上3.8MPa未満の領域を圧縮機回転数上昇禁止領域、3.8MPa以上4.5MPa未満の領域を圧縮機回転数下降領域としている。そして、圧縮機回転数上昇禁止領域では、圧縮機1の回転数上昇を禁止する制御Dが定められており、圧縮機回転数下降領域では、圧縮機1の回転数を所定の回転周波数下降率(例えば、−1.0Hz/秒)で下降させる制御Eが定められている。
【0044】
また、圧縮機回転数上昇領域は、領域規定凝縮圧力Pcsによりさらに3つの領域に区画されており、領域規定凝縮圧力Pcsが0MPa以上3.0MPa未満の領域では、圧縮機1の回転周波数上昇率を0.3Hz/秒とした制御Aが、3.0MPa以上3.5MPa未満の領域では、圧縮機1の回転周波数上昇率を0.2Hz/秒とした制御Bが、3.5MPa以上3.7MPa未満の領域では、圧縮機1の回転周波数上昇率を0.1Hz/秒とした制御Cが、それぞれ定められている。尚、上記3.0MPaや3.5MPaが本発明の第2閾値である。
【0045】
前述したように、暖房運転や沸き上げ運転を行っているときは、圧縮機1の圧縮比が性能上限値を超えないようにしつつ、できる限り圧縮機1の回転数を高くして圧縮機1を駆動し続けることが望ましい。つまり、上記ゾーン1においては、凝縮圧力が上昇しても制御Dを行う圧縮機回転数上昇禁止領域に凝縮圧力が留まるよう制御すれば、凝縮圧力が3.8MPa未満に収まり、凝縮圧力が圧縮機回転数下降領域を規定する凝縮圧力となって、圧縮機1の回転数を下降させる制御(制御E)を行わずに済む。
【0046】
一方で、凝縮圧力を圧縮機回転数上昇禁止領域を規定する値に上昇させるまでの圧縮機1の回転数制御を、凝縮圧力の上昇に応じて圧縮機回転数上昇許可領域で定めた制御A、制御B、制御Cの順に行う。これにより、回転数の上昇速度が徐々に遅くなって凝縮圧力が3.8MPa以上にオーバーシュートすることを抑制できるので、凝縮圧力が圧縮機回転数上昇禁止領域に確実に留まるよう制御することができる。
【0047】
尚、圧縮機回転数上昇禁止領域で実行する制御Dは、圧縮機1の回転数上昇を禁止する制御であり、回転数を上昇させることによって凝縮圧力が3.8MPa以上とならないようにしている。また、圧縮機回転数下降領域で実行する制御Eは、圧縮機1の回転周波数を所定速度で下降させる(本実施例では、1秒間に1.0Hzの速度で下降させる)制御であり、凝縮圧力が凝縮圧力上限値である4.5MPaに到達して圧縮機1を停止する(圧縮機停止制御を実行する)ことにならないようにしている。
【0048】
一方、ゾーン2は、領域規定凝縮圧力Pcsの低い方から順に、圧縮機回転数上昇許可領域、圧縮機回転数上昇禁止領域、圧縮機回転数下降領域、に凝縮圧力により区画している点はゾーン1と同じであるが、各領域を区画する領域規定凝縮圧力(第1閾値や第2閾値)を、外気温度に応じて異ならせている。
【0049】
具体的には、ゾーン2における各領域を区画する領域規定凝縮圧力Pcsは、予め定められた所定の計算式によって算出され、本実施例では、外気温度が1℃変化する毎に領域規定凝縮圧力Pcsを0.1MPa変化させる(
図2に記載の、0.1MPa/℃)。
【0050】
例えば、圧縮機回転数上昇許可領域を区画する領域規定凝縮圧力Pcsは、ゾーン1で3.7MPaであったものが外気温度:−20℃では、2.2MPa(3.7MPa−0.1MPa×15℃、で計算)となっている。また、圧縮機回転数上昇禁止領域を区画する領域規定凝縮圧力Pcsは、ゾーン1で3.8MPaであったものが外気温度:−20℃では、2.3MPa(3.8MPa−0.1MPa×15℃、で計算)となっている。
【0051】
従って、ゾーン2では、
図2に示すように、例えば外気温度が−20℃のとき、領域規定凝縮圧力Pcsが0MPa以上2.2MPa未満の領域を圧縮機回転数上昇許可領域(2.2MPaが第1閾値)、2.2MPa以上2.3MPa未満の領域を圧縮機回転数上昇禁止領域、2.3MPa以上4.5MPa未満の領域を圧縮機回転数下降領域としている。そして、ゾーン1の場合と同様に、圧縮機回転数上昇禁止領域では、圧縮機1の回転数上昇を禁止する制御Dが定められており、圧縮機回転数下降領域では、圧縮機1の回転周波数を所定の下降率(例えば、−1.0rps/秒)で下降させる制御Eが定められている。
【0052】
また、圧縮機回転数下降領域では、ゾーン1と同様に領域規定凝縮圧力Pcsによりさらに3つの領域に区画されているが、各々の領域を区画する領域規定凝縮圧力Pcsは、ゾーン1で3.0MPaであったものが外気温度:−20℃では、1.5MPa(3.1MPa−0.1MPa×15℃、で計算)、ゾーン1で3.5MPaであったものが外気温度:−20℃では、2.0MPa(3.5MPa−0.1MPa×15℃、で計算)となっている。尚、上記1.5MPaや2.0MPaが本発明の第2閾値である。
【0053】
これにより、上記3つの領域は、領域規定凝縮圧力Pcsが0MPa以上1.5MPa未満の領域では、圧縮機1の回転周波数上昇率を0.3Hz/秒とした制御Aが、1.5MPa以上2.0MPa未満の領域では、圧縮機1の回転周波数上昇率を0.2Hz/秒とした制御Bが、2.2MPa以上2.4MPa未満の領域では、圧縮機1の回転周波数上昇率を0.1Hz/秒とした制御Cが、それぞれ定められている。
【0054】
外気温度が低いとき(本実施例では、外気温度が−5℃以下であるとき)は、蒸発器として機能している熱源側熱交換器5における蒸発圧力が低下し、これにより圧縮機1の吸入圧力も低下する。このとき、ゾーン1で定めている各領域を区画する領域規定凝縮圧力Pcsで各制御A〜Eを実行すれば、吐出圧力と吸入圧力との差が大きくなって圧縮機1の圧縮比が性能上限値を超えてしまう虞がある。
【0055】
そこで、本実施例では、回転数制御テーブル200において、外気温度が−5℃以下の低外気温度時は、外気温度に応じて各制御A〜Eを実行する領域を区画する領域規定凝縮圧力Pcsを変化させている。これにより、低外気温度時の沸き上げ運転において、圧縮機1の圧縮比が性能上限値を超えないよう制御しつつ、できる限り圧縮機1を高回転で駆動して暖房運転時の室内温度が設定温度に到達する時間や沸き上げ時間の短縮を実現している。
【0056】
尚、以上説明した回転数制御テーブル200では、ゾーン1の各領域規定凝縮圧力Pcsの圧力差を、ゾーン2についてもそのまま適用している(例えば、ゾーン1における第1閾値:3.7MPaと第2閾値:3.5MPaとの圧力差は0.2MPaであり、ゾーン2における第1閾値:2.2MPaと第2閾値:2.0MPaとの圧力差も同じく0.2MPaとしている)が、これに限るものではなく、ゾーン2における各領域規定凝縮圧力Pcsの差はゾーン1に関係なく外気温度に応じて定めてもよい。
【0057】
次に、
図3に示すフローチャートを用いて、回転数制御テーブル200を使用した圧縮機1の制御について説明する。
図3に示すフローチャートは、ヒートポンプサイクル装置100で暖房運転や沸き上げ運転を行うときの圧縮機1の回転数制御に関する処理の流れを示すものであり、STはステップを表し、これに続く数字はステップ番号を表している。尚、室内ユニット40を用いた暖房運転や、熱源側熱交換器5の除霜運転等、本発明に関わる処理以外の、ヒートポンプサイクル装置100の一般的な制御に関しては、説明を省略する。
【0058】
また、以下の説明では、上述した貯湯タンク温度Ts、目標貯湯タンク温度Tsa、沸き上げ開始温度Tsf、外気温度To、領域規定凝縮圧力Pcsに加えて、圧力センサ50で検出する利用側熱交換器3における凝縮圧力を凝縮圧力Pcとして説明する。制御手段60は、上記各パラメータのうち領域規定凝縮圧力Pcs以外のパラメータについては、定期的(例えば、10秒毎)に取り込んでいる。
【0059】
制御手段60は、使用者から冷房運転の指示があるか否かを判断する(ST1)。冷房運転の指示があれば(ST1−Yes)、制御手段60は、三方弁31を切り換えて室内ユニット40に利用側熱交換器3で冷却された水が流れるようにし、また、循環ポンプ30を所定回転数で駆動するとともに、四方弁2を切り換えて冷媒回路10を冷房サイクルとなるようにして圧縮機1やファン7を所定回転数で駆動し、膨張弁4を所定開度として冷房運転を開始する(ST10)。そして、制御手段60は、ST1に処理を戻す。
【0060】
ST1において、冷房運転の指示がなければ(ST1−No)、制御手段60は、暖房運転の指示があるか、あるいは、貯湯タンク温度センサ58から取り込んだ貯湯タンク温度Tsが沸き上げ開始温度Tsf以下であるか否かを判断する(ST2)。暖房運転の指示がなければ、あるいは、貯湯タンク温度Tsが沸き上げ開始温度Tsf以下でなければ(ST2−No)、制御手段60は、ST1に処理を戻す。暖房運転の指示があれば、あるいは、貯湯タンク温度Tsが沸き上げ開始温度Tsf以下であれば(ST2−Yes)、制御手段60は、三方弁31を切り換えて室内ユニットもしくは貯湯タンク70に利用側熱交換器3で加熱された湯水が流れるようにし、また、四方弁2を制御して冷媒回路10を暖房サイクルとするとともに、圧縮機1やファン7を所定回転数で駆動し、膨張弁4を所定開度として、暖房運転あるいは沸き上げ運転を開始する(ST3)。
【0061】
次に、制御手段60は、外気温度センサ55で検出した外気温度Toと、圧力センサ50で検出した凝縮圧力Pcとを取り込む(ST4)。次に、制御手段60は、取り込んだ外気温度Toが−5℃未満であるか否かを判断する(ST5)。
【0062】
外気温度Toが−5℃未満でなければ(ST5−No)、制御手段60は、回転数制御テーブル200のゾーン1を参照して圧縮機1の回転数を制御し(ST11)、ST8に処理を進める。外気温度Toが−5℃未満であれば(ST5−Yes)、制御手段60は、回転数制御テーブル200のゾーン2において各制御領域を規定する領域規定凝縮圧力Pcsを算出し(ST6)、ゾーン2を参照して圧縮機1の回転数を制御し(ST7)、ST8に処理を進める。
【0063】
ST7やST11において、制御手段60は、ST5で取り込んだ外気温度Toと凝縮圧力Pcとから、現在の状態が回転数制御テーブル200におけるゾーン1やゾーン2のどの領域に該当するかを確認し、該当する領域に対応する制御(制御A〜E)を抽出して実行する。例えば、取り込んだ凝縮圧力が2.3MPaであった場合に外気温度が10℃であれば、制御手段60は、現在の状態がゾーン1にあると判断し、回転数制御テーブル200のゾーン1を参照して、圧縮機1の回転数制御として「制御A」を抽出して実行する。
【0064】
また、例えば、取り込んだ凝縮圧力が2.3MPaであった場合に外気温度が−17℃であれば、制御手段60は、現在の状態がゾーン2にあると判断し、各領域を規定する領域規定凝縮圧力Pcsを算出し(この場合、領域規定凝縮圧力Pcsは、ゾーン1における各領域規定凝縮圧力Pcから各々1.2MPaを引いた値となり、低い方から順に、1.8MPa、2.3MPa、2.5MPa、および2.6MPaとなる)、次に回転数制御テーブル200のゾーン2を参照して、適用する圧縮機1の回転数制御を抽出する。この場合は、取り込んだ凝縮圧力が2.3MPaであるため、制御手段60は、圧縮機1の回転数制御として「制御B」を抽出して実行する。
【0065】
ST7やST11の処理を行った制御手段60は、取り込んだ凝縮圧力Pcが凝縮圧力上限値である4.5MPa以上であるか否かを判断する(ST8)。前述したように、凝縮圧力上限値は圧縮機1の吐出圧力の性能上限値に対応した凝縮圧力値であり、凝縮圧力が凝縮圧力上限値以上となれば、圧縮機1の吐出圧力が性能上限値を超えている虞がある。
【0066】
従って、制御手段60は、取り込んだ凝縮圧力Pcが4.5MPa以上であれば(ST8−Yes)、圧縮機1の運転を停止し(ST9)、処理を終了する。これにより、吐出圧力の上昇に起因する圧縮機1の寿命低下を防いでいる。
【0067】
また、取り込んだ凝縮圧力Pcが4.5MPa以上でなければ(ST8−No)、制御手段60は、暖房運転の終了指示があるか、あるいは、貯湯タンク温度Tsが目標貯湯タンク温度Tsa以上となったか否かを判断する(ST12)。暖房運転の終了指示がなければ、あるいは、貯湯タンク温度Tsが目標貯湯タンク温度Tsa以上となっていなければ(ST12−No)、制御手段60は、ST3に処理を戻して暖房運転あるいは沸き上げ運転を継続する。暖房運転の終了指示があれば、あるいは、貯湯タンク温度Tsが目標貯湯タンク温度Tsa以上となっていれば(ST12−Yes)、制御手段60は、暖房運転あるいは沸き上げ運転を終了して(ST13)、ST1に処理を戻す。
【0068】
以上説明した通り、本発明のヒートポンプサイクル装置は、回転数制御テーブル200を参照し、暖房運転時や沸き上げ運転時に凝縮圧力Pcに応じて圧縮機1の回転数制御を行うので、圧縮比が性能上限値を超えないようにしつつ暖房運転や迅速な沸き上げ運転が行える。また、所定外気温度以下では、外気温度Toに応じて、回転数制御テーブル200の第1閾値(3.7MPa)や第2閾値(3.0−MPaと3.5MPa)を所定の割合(0.1MPa/℃)で変化させるので、外気温度Toが低いときでも圧縮比が性能上限値を超えないよう圧縮機1を制御することができる。