特許第6052503号(P6052503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052503
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】高強度熱延鋼板とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161219BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20161219BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20161219BHJP
   C23C 2/06 20060101ALI20161219BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C22C38/00 301W
   C22C38/14
   C21D9/46 U
   C23C2/06
   C23C2/40
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-70791(P2013-70791)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-194053(P2014-194053A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2014年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】船川 義正
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−023721(JP,A)
【文献】 特開2008−174813(JP,A)
【文献】 特開2007−063668(JP,A)
【文献】 特開2011−219826(JP,A)
【文献】 特開2009−052139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
C21D 8/00 − 8/04
C21D 9/46 − 9/48
C23C 2/00 − 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.1〜0.4mass%、Si:0.2mass%以下、Mn:1.5mass%以下、P:0.03mass%以下、S:0.03mass%以下、Al:0.1mass%以下、N:0.005mass%以下およびZr:0.05〜3.5mass%を含有し、さらに、Ti:0.04〜2.0mass%およびNb:0.05〜3.0mass%のうちから選ばれる1種または2種、かつ、Mo:0.01〜0.5mass%、V:0.01〜1.0mass%およびW:0.01〜1.0mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を、下記(1)式を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
鋼組織がフェライト単相からなり、引張強さが1180MPa以上で、切り出した厚さ1mmの短冊試験片を先端部の曲率半径が0.5mmのV字断面(角度90°)を有するポンチとダイスを用いてC方向に折り曲げる曲げ試験を行ったとき、上記試験片に割れの発生がないことを特徴とする高強度熱延鋼板。

0.7≦(Ti/48+Nb/93+Zr/91+Mo/96+V/51+W/184)/(C/12)≦1.2 ・・・(1)
(上記(1)式中の元素記号は、それぞれの元素の含有量(mass%)を表わす。)
【請求項2】
前記熱間圧延して得た鋼板の表面にめっき層を形成してなることを特徴とする請求項1に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項3】
前記めっき層は、亜鉛系めっき層であることを特徴とする請求項2に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項4】
前記亜鉛系めっき層は、溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする請求項に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項5】
前記亜鉛系めっき層は、合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする請求項に記載の高強度熱延鋼板。
【請求項6】
請求項に記載の成分組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造して得た鋼スラブを、凝固点から1300℃までを10〜300℃/minで冷却し、その後、900℃未満に冷却することなく加熱炉に装入して1150〜1300℃×40min以下の再加熱後、820℃以上の温度で仕上圧延を終了する熱間圧延し、700〜500℃の温度でコイルに巻き取ることにより、
鋼組織がフェライト単相からなり、引張強さが1180MPa以上で、切り出した厚さ1mmの短冊試験片を先端部の曲率半径が0.5mmのV字断面(角度90°)を有するポンチとダイスを用いてC方向に折り曲げる曲げ試験を行ったとき、上記試験片に割れの発生がない熱延鋼板を得ることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記鋼スラブの製造に、湾曲部における曲率半径R(m)と鋼スラブの厚さt(m)との比(R/t)が25以上である連続鋳造機を用いることを特徴とする請求項6に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱間圧延して得た鋼板の表面に、めっき層を形成することを特徴とする請求項6または7に記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車部材や家電機器、構造体や重機などに用いて好適な、高強度でかつ曲げ加工性に優れる高強度熱延鋼板とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、また、乗員の安全確保の観点から、自動車車体の軽量化と高強度化を図るため、自動車車体に用いられる鉄鋼材料の高強度化と薄肉化が積極的に進められている。自動車車体は、鋼板を加工して得た部材や構造材から構成されているが、それらの強度は、通常、素材鋼板の強度が高いほど大となる。
【0003】
また、高強度熱延鋼板は、外部からは直接視認されない構造物の骨格部材や強度部材として用いられることが多いが、斯かる用途では、曲げ加工を主体とする加工性に優れるとともに、加工後の部材の強度が高いことが求められることが多い。
【0004】
鋼を高強度化する方法としては、従来、合金元素を添加して固溶強化する固溶強化法や、高い転位密度を有する硬質変態相を生成させて高強度化する組織強化法、微細析出物を分散させて高強度化する析出強化法、あるいは、上記方法を組み合わせて高強度化する方法などが知られている。
【0005】
これらの方法で製造される高強度鋼板の中で、鋼組織のマトリックスがフェライト単相からなる熱延鋼板としては、例えば、特許文献1に提案された、組織の大部分をポリゴナルフェライトとし、TiCを中心とした析出物による析出強化と固溶強化とを組み合わせて高強度化を図った析出強化型の高強度熱延鋼板がある。しかし、特許文献1に開示の析出強化方法は、多量のTiの添加が必要となるため、粗大な析出物が生成しやすく、得られる強度や加工性が不安定となりやすい。また、得られる強度は、引張強さTSで高々780MPa級程度でしかない。
【0006】
また、特許文献2や特許文献3には、TiおよびMoの微細炭化物を析出させることで、鋼板を安定的に高強度化する技術が開示されている。これらの文献に記載された技術は、鋼組織のマトリックスをフェライト単相とすることで加工性を確保しつつ、微細炭化物の析出強化によって高強度を確保しようとするものである。しかし、得られる引張強さは、やはり980MPa級まででしかない。
【0007】
また、特許文献4には、実質的にフェライト単相組織である鋼中に、Ti,MoおよびVの複合炭化物を分散析出させることで980MPa以上の引張強さが得られること、そしてその実施例には、1180MPa以上の引張強さの鋼板が得られることが開示されている。しかし、この特許文献4に開示された技術は、複合炭化物の組成と大きさの双方を好ましい条件に揃えるための温度制御が難しく、得られる鋼板に所望の強度と加工性を安定して付与することができないという問題がある。
【0008】
また、特許文献5には、所定の硬さの等軸フェライトが70vol%以上の鋼組織を有する曲げ性に優れた熱延鋼板の製造方法が開示されている。しかし、この特許文献5に開示された技術は、スラブ中に析出する粗大析出物を制御する技術思想はなく、また得られる引張強さは1180MPaには及ばない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平06−200351号公報
【特許文献2】特許第3637885号公報
【特許文献3】特許第3882577号公報
【特許文献4】特開2007−063668号公報
【特許文献5】特開2006−161111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来、熱延鋼板の高強度化に微細な炭化物の析出を活用する場合、析出物のサイズの制御は、主として熱間圧延後のランナウトテーブルにおける冷却制御やコイル巻取温度の制御によって行われてきた。
【0011】
しかし、従来のように、連続鋳造して製造した鋼スラブを一旦室温付近まで冷却し、その後、再び所定の温度に再加熱して熱間圧延する方法では、鋼スラブが室温付近まで冷却された段階で、スラブ中に粗大な析出物(主に炭化物)が析出している。この粗大析出物は、スラブ再加熱時に析出物が全量溶解するように成分設計や加熱条件の設定を行ったとしても、全量を溶解させることは難しい。そのため、冷却した鋼スラブを再加熱してから熱間圧延する従来の析出強化型熱延鋼板では、熱間圧延後、ランナウトテーブルでの冷却制御や巻取温度制御技術を駆使して炭化物を微細析出させようとしても析出量が不足し、高強度化の程度には限界があり、引張強さTSが1180MPa級の高強度鋼板を安定して得るのは難しく、また、良好な曲げ加工性を得ることも難しいのが実情である。
【0012】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、引張強さTSが1180MPa以上で、曲げ加工性にも優れる高強度熱延鋼板を提供するとともに、その有利な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、高強度化と曲げ加工性の両立を図るという上記課題を解決するべく、スラブ中に析出する炭化物の析出強化を活用した高強度熱延鋼板における曲げ加工性の改善策について鋭意研究を重ねた。その結果、曲げ加工における割れは、鋼中に散在する粗大析出物を起点にして発生すること、その粗大析出物は、一旦、室温近辺まで冷却されたスラブ(鋳片)を熱延前に1200℃前後に再加熱し保持する際に生じていること、したがって、熱延後に微細炭化物を析出させて高強度化を図るとともに、曲げ加工性を改善するためには、凝固後のスラブ冷却速度と熱延前のスラブ再加熱における保持時間を適正範囲に制御することが有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
上記知見に基く本発明は、C:0.1〜0.4mass%、Si:0.2mass%以下、Mn:1.5mass%以下、P:0.03mass%以下、S:0.03mass%以下、Al:0.1mass%以下、N:0.005mass%以下およびZr:0.05〜3.5mass%を含有し、さらに、Ti:0.04〜2.0mass%およびNb:0.05〜3.0mass%のうちから選ばれる1種または2種、かつ、Mo:0.01〜0.5mass%、V:0.01〜1.0mass%およびW:0.01〜1.0mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を、下記(1)式;
0.7≦(Ti/48+Nb/93+Zr/91+Mo/96+V/51+W/184)/(C/12)≦1.2 ・・・(1)
(上記(1)式中の元素記号は、それぞれの元素の含有量(mass%)を表わす。)
を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、鋼組織がフェライト単相からなり、引張強さが1180MPa以上で、切り出した厚さ1mmの短冊試験片を先端部の曲率半径が0.5mmのV字断面(角度90°)を有するポンチとダイスを用いてC方向に折り曲げる曲げ試験を行ったとき、上記試験片に割れの発生がないことを特徴とする高強度熱延鋼板である。
【0017】
また、本発明の高強度熱延鋼板は、上記熱間圧延して得た鋼板の表面にめっき層を形成してなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の高強度熱延鋼板における上記めっき層は、亜鉛系めっき層であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の高強度熱延鋼板における上記亜鉛系めっき層は、溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記に記載の成分組成を有する鋼を溶製し、連続鋳造して得た鋼スラブを、凝固点から1300℃までを10〜300℃/minで冷却し、その後、900℃未満に冷却することなく加熱炉に装入して1150〜1300℃×40min以下の再加熱後、820℃以上の温度で仕上圧延を終了する熱間圧延し、700〜500℃の温度でコイルに巻き取ることにより、鋼組織がフェライト単相からなり、引張強さが1180MPa以上で、切り出した厚さ1mmの短冊試験片を先端部の曲率半径が0.5mmのV字断面(角度90°)を有するポンチとダイスを用いてC方向に折り曲げる曲げ試験を行ったとき、上記試験片に割れの発生がない熱延鋼板を得ることを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法を提案する。
【0021】
本発明の高強度熱延鋼板の製造方法は、上記鋼スラブの製造に、湾曲部における曲率半径R(m)と鋼スラブの厚さt(m)との比(R/t)が25以上である連続鋳造機を用いることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の高強度熱延鋼板の製造方法は、上記熱間圧延して得た鋼板の表面に、めっき層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来、熱間圧延前のスラブ中に散在していた粗大析出物を微細化することができるとともに、従来技術では有効利用されていなかった窒化物や硫化物をも微細化して析出強化に利用することができるので、引張強さTSが1180MPa以上で、曲げ加工性にも優れる高強度熱延鋼板を安定して提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
まず、本発明の高強度熱延鋼板の成分組成について説明する。
C:0.1〜0.4mass%
Cは、鋼の析出強化に必要な炭化物の形成に必須の元素である。Cが0.1mass%未満では、析出物の量が少なく、1180MPaの引張強さを安定して得ることが難しい。一方、0.4mass%を超える添加は、溶接性の低下を招いたり、溶鋼中にTiCが晶出するようになり、得られる鋼板の強度が低下したりする。よって、Cは0.1〜0.4mass%の範囲とする。好ましくは0.12〜0.4mass%の範囲である。
【0025】
Si:0.2mass%以下
Siは、脱酸剤として添加される元素であり、また、鋼を固溶強化する元素として、従来から積極的に利用されている。しかし、Siは、炭化物が析出するδフェライトの温度域を広げる作用があるので、できる限り低減するのが望ましい。そのため、本発明では、Siは0.2mass%以下とする。好ましくは0.1mass%以下である。
【0026】
Mn:1.5mass%以下
Mnは、鋼を固溶強化する有用な元素であるとともに、焼入性を高める元素でもある。しかし、焼入性が高くなり過ぎると、ベイナイトやマルテンサイトが生成して、鋼組織をフェライト単相とし、フェライト粒内に炭化物を微細に析出させることが難しくなる。よって、本発明では、Mnは1.5mass%以下とする。好ましくは1.0mass%以下、さらに好ましくは0.7mass%以下である。
【0027】
P:0.03mass%以下
Pは、Siと同様、炭化物が析出するδフェライトの温度域を広げる作用があるため、また、溶接時に脆化を引き起こすため、できる限り低減するのが望ましい。そのため、Pは0.03mass%以下とする。好ましくは0.01mass%以下である。
【0028】
S:0.03mass%以下
Sは、従来、TiやZrと高温で結合して粗大なTiSやZrSを形成し、析出強化に寄与する炭化物形成元素であるTiやZrを消費してしまう他、曲げ加工性を損ねる有害元素であると考えられていた。しかし、本発明の製造方法では、TiSやZrSの粗大化が抑制されて微細に析出させるので、これらの析出物を鋼の高強度化に利用することができる他、曲げ性に対しても無害化できることからある程度の含有は許容される。しかし、0.03mass%を超える含有は、MnSを生成して熱間加工性を阻害する。よって、本発明では、Sは0.03mass%以下とする。好ましくは0.01mass%以下である。
【0029】
Al:0.1mass%以下
Alは、鋼の脱酸剤として添加される元素である。しかし、過剰な添加は、アルミナなどの非金属介在物の生成量が増大し、内部品質や表面品質に悪影響を及ぼす。また、アルミナ(Al)を核として粗大なTiNなどが析出し易くなるため、少ないほど好ましい。よって、Alは上限を0.1mass%とする。
【0030】
N:0.005mass%以下
Nは、従来、Ti,NbおよびZrと結合して高温で窒化物を形成し、析出強化に寄与する炭化物形成元素を消費してしまう有害元素と考えられていた。しかし、本発明の製造方法ではTiN,NbNやZrNの粗大化が抑制され、微細に析出する。そのため、これらの窒化物も析出強化に有効に活用することができ、また、曲げ加工性を損ねることもない。しかしながら、0.005mass%を超える添加は、粗大な窒化物の形成を促進するため、Nの上限は0.005mass%とする。
【0031】
本発明の高強度熱延鋼板は、安定して高強度を確保する観点から、上記の成分に加えてさらに、炭化物形成元素であるTi,NbおよびZrのうちから選ばれる1種または2種以上を、下記の範囲で含有させる必要がある。
Ti:0.04〜2.0mass%
Tiは、微細な炭・窒化物を形成して析出し、鋼の高強度化に寄与する有用な元素である。しかし、Tiの含有量が0.04mass%未満では、1180MPa以上の引張強さを安定して得ることは難しい。一方、2.0mass%を超える添加は、粗大なTi酸化物が生成し、これに炭・窒化物が凝集して析出強化能が低下するため、やはり、1180MPa以上の引張強さを安定して得られなくなる。よって、Tiを添加する場合には0.04〜2.0mass%の範囲とする。
【0032】
Nb:0.05〜3.0mass%
Nbは、Tiと同様、炭・窒化物を形成して析出し、鋼の高強度化に寄与する有用な元素である。しかし、Nbの含有量が0.05mass%未満では、1180MPa以上の引張強さを安定して得ることは難しい。一方、3.0mass%を超える添加は、粗大なNb炭・窒化物が生成して凝集し、やはり、1180MPa以上の引張強さを安定して得られなくなる。よって、Nbを添加する場合には0.05〜3.0mass%の範囲とするとする。
【0033】
Zr:0.05〜3.5mass%
Zrは、TiやNbと同様、炭・窒化物を形成して析出し、鋼の高強度化に寄与する有用な元素である。しかし、Zrの含有量が0.05mass%未満では、1180MPa以上の引張強さを安定して得ることは難しい。一方、3.5mass%を超える添加は、粗大なZr酸化物が生成し、これに炭・窒化物が凝集して、1180MPa以上の引張強さを安定して得られなくなる。よって、Zrを添加する場合には0.05〜3.5mass%の範囲とするとする。
【0034】
また、本発明の高強度熱延鋼板は、より安定して高強度を確保する観点から、上記の成分に加えてさらに、Mo,VおよびWのうちから選ばれる1種または2種以上を添加することができる。なお、Mo,VおよびWは、Ti,NbおよびZrと比較して炭化物形成能が弱く、これらを添加する場合には、他の炭化物形成元素と複合して添加することで、安定した微細炭化物を形成することが可能となる。したがって、Ti,NbおよびZrのうちから選ばれる1種または2種以上を添加した上で、Mo,VおよびWのうちのいずれか1種または2種以上を、下記の範囲で含有させる必要がある。
【0035】
Mo:0.01〜0.5mass%
Moは、微細な炭化物を形成して析出し、鋼の高強度化に寄与する有用な元素である。しかし、Moの含有量が0.01mass%未満では、1180MPa以上の引張強さを安定して得ることは難しい。一方、0.5mass%を超える添加は、粗大なMo酸化物が生成し、これに炭化物が凝集して析出強化能が低下するため、やはり、1180MPa以上の引張強さを安定して得られなくなる。よって、Moを添加する場合には0.01〜0.5mass%の範囲とする。
【0036】
V:0.01〜1.0mass%
Vは、微細な炭窒化物を形成して析出し、鋼の高強度化に寄与する有用な元素である。しかし、Vの含有量が0.01mass%未満では、1180MPa以上の引張強さを安定して得ることは難しい。一方、1.0mass%を超える添加は、粗大なV酸化物が生成し、これに炭窒化物が凝集して析出強化能が低下するため、やはり、1180MPa以上の引張強さを安定して得られなくなる。よって、Vを添加する場合には0.01〜1.0mass%の範囲とする。
【0037】
W:0.01〜1.0mass%
Wは、微細な炭化物を形成して析出し、鋼の高強度化に寄与する有用な元素である。しかし、Wの含有量が0.01mass%未満では、1180MPa以上の引張強さを安定して得ることは難しい。一方、1.0mass%を超える添加は、粗大なW酸化物が生成し、これに炭化物が凝集して析出強化能が低下するため、やはり、1180MPa以上の引張強さを安定して得られなくなる。よって、Wを添加する場合には0.01〜1.0mass%の範囲とする。
【0038】
また、Ti,NbおよびZrから選ばれる1種または2種以上に加えてさらに、Mo,VおよびWから選ばれる1種または2種以上を添加する場合には、下記(1)式;
0.7≦(Ti/48+Nb/93+Zr/91+Mo/96+V/51+W/184)/(C/12)≦1.2 ・・・(1)
(上記(1)式中の元素記号は、それぞれの元素の含有量(mass%)を表わす。)
を満たして含有することが必要である。
ここで、上記(1)式は、Cの原子数に対する、Cと微細析出物を形成するTi,Nb,Zr,Mo,VおよびWの合計原子数の比、すなわち、Cと炭化物形成元素の原子数比を表している。この比が0.7未満では炭化物析出による強度上昇量が不十分であり、一方、1.2を超えると、析出物が粗大化し、やはり強化能が不十分となるので上記範囲とする。好ましくは、上記(1)式の左辺の値は0.8、右辺の値は1.1である。
【0039】
Cr,Hf,Ta,Be,B,Cu,Ni,Au,Ag,Co,Pt,Sb,Sn,Zn,Ca,MgおよびREMのうちから選ばれる1種または2種以上:合計で2.0mass%以下
Cr,HfおよびTaは、上述したTi,NbおよびZrと同様、鋼中で積極的に炭化物を形成して高強度化に寄与する元素であり、また、BeおよびBは、固溶強化や粒界強化に寄与する元素であるので、より高強度を得たい場合の強化元素として適宜添加することができる。
【0040】
また、Cuは、通常、スクラップ等から混入してくる不純物元素であるが、鋼の高強度化にも有効な元素である。そこで、本発明においては、Cuの混入をある程度許容することとし、リサイクル資源であるスクラップを積極的に活用し、原料コストの低減を図ることを可能とした。なお、本発明の鋼板では、Cuの材質に及ぼす影響は小さいが、過剰に混入すると、熱間圧延時に熱間脆性による割れに起因した表面欠陥を発生する原因ともなるので、Cu含有量の上限は0.3mass%程度に制限するのが好ましい。
【0041】
なお、上記元素のうち、Cr,BおよびCuは、Mnと同様、焼入性を高める元素であり、焼入性が高くなり過ぎると、ベイナイトやマルテンサイトが生成して、フェライト単相組織を得にくくなり、フェライト粒内への微細析出を阻害するようになる。よって、これらの元素は各々または合計で1mass%以下とすることが望ましい。
【0042】
また、Niは、鋼板の材質に及ぼす影響は小さいが、Cu添加による熱間脆性を防止し、表面品質を向上するのに有効な元素である。この効果は、Cu含有量の1/2以上の添加で得られるので、Cuを含有する場合には、Cu含有量の1/2以上のNiを添加するのが好ましい。しかし、Niの過剰な添加は、スケールの不均一性に起因する表面欠陥を引き起こす原因となるので、上限は0.3mass%程度とするのが好ましい。
【0043】
また、Au,Ag,Co,Pt,Sb,SnおよびZnは、表面の酸化や窒化、あるいは、酸化により生じる鋼板表層数十ミクロン領域の脱炭を抑制し、疲労特性や耐時効性等を改善する効果があるので、適宜添加することができる。ただし、Snは、上記の効果を得るためには0.005mass%以上の添加が望ましいが、過剰の添加は、鋼の靭性の低下を招くので、上限は0.2mass%程度とするのが好ましい。
【0044】
また、Ca,MgおよびREMは、いずれも介在物の形態制御を介して、加工性を向上するのに有効な元素であるので適宜添加することができる。
【0045】
なお、上記の選択的に添加する元素は、上記のように種々の観点から添加するが、それらの元素の合計添加量は2.0mass%以下に制限するのが好ましい。2mass%を超えると、成形性の低下や合金コストの上昇を招くからである。
【0046】
As,Cs,Pb,SeおよびSrのうちから選ばれる1種または2種以上:合計で2.0mass%以下
As,Cs,Pb,SeおよびSrは、本発明においては不可避的不純物として位置付けられる元素である。しかし、これらの元素は、スクラップの使用量が増加している昨今においては増加する傾向にあり、除去するのに、多大の精錬コストを要している。しかし、これらの元素は、合計の含有量が2.0mass%以下であれば、本発明の効果を特に害することもない。よって、これらの元素は、合計で2.0mass%以下の範囲内であれば許容することとする。
【0047】
次に、本発明の高強度熱延鋼板の鋼組織について説明する。
本発明の高強度熱延鋼板は、炭化物を微細に析出させることによって、高強度化しかつ良好な曲げ加工性を得するためには、その鋼組織のマトリックスは実質的にフェライト単相であることが必要である。ベイナイトやマルテンサイト組織では、マトリックスであるフェライト相中に微細炭化物を析出させることが困難となり、引張強さが不足する。また、パーライトが出現すると、セメンタイトの生成によってCが消費され、微細炭化物の析出が抑制されるため、やはり引張強さが不足するようになる。ただし、フェライト以外の相は、面積率にして合計で5%程度以下であれば許容され得る。
【0048】
本発明の高強度熱延鋼板は、上記の成分組成、鋼組織の全ての条件を満たす場合にのみ、引張強さTSが1180MPa以上で優れた曲げ加工性を有するものとなる。
【0049】
次に、本発明の高強度熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の高強度熱延鋼板は、前述した成分組成に調整した鋼を転炉や電気炉、真空脱ガス装置等を用いる常法の精錬プロセスで溶製し、連続鋳造して鋳片(鋼スラブ)とした後、その鋼スラブを、凝固点から1300℃までを10〜300℃/minで冷却し、その後、900℃未満に冷却することなく当該鋼スラブを加熱炉に装入して1150〜1300℃×40min以下の再加熱した後、820℃以上の温度で仕上圧延を終了する熱間圧延し、700〜500℃の温度でコイルに巻き取ることによって製造する。
なお、上記鋼スラブは、100mm以上の厚さを有する通常の鋼スラブであってもよいし、あるいは、100mm以下の厚さのいわゆる薄スラブであってもよい。
【0050】
前述したように、引張強さTSが1180MPa以上でかつ良好な曲げ加工性を有する高強度熱延鋼板を製造するためには、熱間圧延後の鋼板中に析出した炭化物の大きさを微細化してやることが必要である。そのためには、連続鋳造後から熱間圧延前のスラブ中に、粗大な炭化物を析出させないことが重要となる。
【0051】
そこで、本発明では、連続鋳造鋳片(スラブ)が凝固してから少なくとも1300℃までの温度域、すなわち、Ti,Nb,Zr等、炭化物平成元素の固溶限が小さいδフェライト域は速やかに通過させ、固溶限の大きいオーステナイト域まで早期に移行させることによって、δフェライト域での炭化物の析出を抑制し、なおかつ、鋼中合金元素の拡散を促進して偏析を軽減し、熱延後に微細な複合炭化物を析出させるため、10℃/min以上300℃/min以下の冷却速度で冷却することとする。300℃/minを超えた冷却速度にすると、過冷による変態点の降下が大きくなり、δ域に長く滞留することになるとともに、凝固時に形成された合金元素のミクロ偏析の影響が熱延後まで残り、安定して微細炭化物を析出させることが難しくなる。また、10℃/min未満の冷却速度では、生産性を阻害するほか、高温で長時間保持されることによって、粗大な析出物(主に窒化物)が析出し、高強度が得られなくなるので、10℃/min以上で冷却する。なお、本発明における上記凝固点および1300℃の温度は、スラブ表面温度から伝熱計算で得られるスラブ厚中心部の温度である。
【0052】
また、発明者らの研究によれば、連続鋳造した鋼スラブに付与される歪は、炭化物の析出を促進することが明らかとなっている。現在、鋼スラブの製造に用いられている連続鋳造機は、湾曲部と矯正部からなる湾曲型あるいは垂直部と湾曲部と矯正部から構成される垂直曲げ型が主流である。上記矯正部では、湾曲したスラブの矯正によって歪が導入されるが、この歪は、炭化物の析出を促進するため、炭化物の析出強化能を大きく阻害する。そこで、本発明の効果を享受するためには、連続鋳造機における矯正歪を低減するため、湾曲部の曲率半径R(m)とスラブ厚t(m)と比(R/t)を25以上とするのが好ましい。より好ましくは28以上である。
【0053】
上記のようにして得た鋼スラブは、その後、所定の温度に再加熱した後、熱間圧延して所定の板厚の熱延板(高強度熱延鋼板)とする。
通常、熱間圧延するに当たっては、スラブを一旦室温近傍まで冷却して冷片とした後、加熱炉に装入して所定の温度に再加熱するのが一般的であるが、本発明においては、連続鋳造後のスラブを900℃未満まで冷却することなく、1150〜1300℃の温度で40min以下の時間保持する再加熱した後、熱間圧延する。ここで、連続鋳造後の鋼スラブを900℃未満まで冷却しない理由は、900℃未満まで冷却すると、再び炭化物形成元素の固溶限が小さいαフェライト相が出現し始め、炭化物の析出が促進されるからである。
【0054】
また、その後、鋼スラブの再加熱条件を1150〜1300℃×40min以下とする理由は、高強度を安定して確保できることの他に、曲げ加工性が向上するという効果が得られるからである。
斯かる効果が得られる理由は、発明者らは以下のように考えている。スラブを上記再加熱温度に加熱することによって、既に析出してしまった炭化物の析出核を再溶解することができるので、熱間圧延後に析出する炭化物の微細化をより促進することができる。しかし、1150℃未満では、上述の効果が得られず、溶解度の小さい低温で長時間保持することにより却って析出物の粗大化が促進される。一方、再加熱温度が1300℃を超えたり、加熱時間が40minを超えたりすると、既に析出してしまった炭化物の析出核が成長して粗大化したり、再溶解した析出核が再析出してくるため、好ましくない。
【0055】
上記再加熱を施した鋼スラブは、その後、仕上圧延終了温度を820℃以上とする熱間圧延に供する。仕上圧延終了温度を820℃以上とする理由は、820℃を下回ると、加工オーステナイト中に析出した炭化物が粗大化し易いため、1180MPa以上の高強度が得られなくなるからである。好ましい仕上圧延終了温度は850℃以上である。
【0056】
なお、上記仕上圧延終了温度を確保するためには、熱間圧延を開始する温度は、1000℃以上とするのが好ましい。ただし、熱間圧延を開始する温度が1000℃程度まで低下すると、圧延負荷が増大して、通常の粗圧延、仕上圧延からなる熱間圧延することが難しくなる。そのような場合には、厚さが100mm以下の薄スラブを採用してもよい。さらに、この際には、粗圧延を省略してもよい。薄スラブを採用し、粗圧延を省略した場合には、高温でのスラブ滞留時間を短くすることができるので、炭化物の粗大化を抑制する上では好ましいからである。
【0057】
熱間圧延して所定の板厚とした熱延鋼板(鋼帯)は、その後、冷却してコイルに巻き取る。このときの巻取温度は、Ti,Nb,Zr等の炭窒化物を均一かつ微細に析出させることによって高強度化を図るため、500〜700℃の範囲とする必要がある。巻取温度が500℃未満では、ベイナイト主体の組織となり、フェライト単相組織とすることができない他、フェライト粒内に微細な炭化物が十分に析出せず、所望の引張強さと曲げ加工性を確保することができない。一方、CTが700℃を超えると、析出した炭化物が粗大化して析出強化能が低下し、やはり、所望の引張強さと曲げ加工性を確保することができなくなるからである。
【0058】
上記のようにして得た熱延鋼板は、鋼組織がフェライト単相からなり、かつ、上記フェライト中には炭化物が微細に析出し、引張強さが1180MPa以上でかつ曲げ加工性に優れたものとなる。また、本発明の高強度熱延鋼板が有する上記優れた特性は、電気亜鉛めっきは勿論のこと、熱処理を伴う溶融亜鉛めっきや、溶融亜鉛めっき後の合金化処理によっても、そのまま維持することができる。したがって、本発明の高強度熱延鋼板は、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっきおよび合金化溶融亜鉛めっき等のめっき層を鋼板表面に形成する表面処理鋼板の素材として好適に用いることができる。なお、上記めっき層は、亜鉛系のめっき層に限定されるものではなく、Al系、その他金属のめっき層でもよいことは勿論である。
【実施例1】
【0059】
C:0.18mass%、Si:0.02mass%、Mn:1.30mass%、P:0.020mass%、S:0.001mass%、Al:0.04mass%、N:0.003mass%、Ti:0.19mass%、Mo:0.3mass%およびV:0.41mass%を含有し((Ti/48+Nb/93+Zr/91+Mo/96+V/51+W/184)/(C/12):1.02)、((Ti/48+Nb/93+Zr/91+Mo/96+V/51+W/184)/(C/12)=1.01)、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成の鋼を溶製し、垂直曲げ型連続鋳造機を用いて曲げ部の曲率半径R(m)とスラブ厚t(m)におけるR/tを26.7〜36.4の範囲で鋼スラブを製造した後、凝固点から1300℃までを表1に示す冷却速度で冷却し、その後、表1に示した最低温度まで冷却した後、表1に示した再加熱条件で再加熱してから、同じく表1に示した条件で熱間圧延し、各種板厚の熱延鋼板とした。
なお、一部のスラブについては、室温RTまで冷却後、加熱炉に装入して再加熱した。また、一部のスラブについては、粗圧延を省略して熱間圧延した。
【0060】
また、上記のようにして得た熱延鋼板の一部については、その後、酸洗してスケールを除去した後、連続溶融亜鉛めっきラインCGLに通板し、650〜850℃の焼鈍を施した後、溶融亜鉛めっき槽に浸漬して溶融亜鉛めっき鋼板GIとするか、その後、さらに500〜550℃で合金化処理を施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板GAとした。
さらに、上記のようにして得た熱延鋼板の一部については、その後、酸洗してスケールを除去した後、電気亜鉛めっきラインEGLに通板し、Zn−Ni系の電気亜鉛めっき鋼板EGとした。
【0061】
【表1】
【0062】
斯くして得た熱延鋼板からサンプルを採取し、光学顕微鏡および走査型電子距微鏡(SEM)を用いて鋼板の鋼組織を確認した。また、上記サンプルからL方向を引張方向とするJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z2241に準拠して引張試験を行い、引張強さTSを求めた。また、曲げ性の評価は、上記熱延鋼板を1mm厚まで機械研削して短冊試験片を切出し、先端部の曲率半径が0.5mmのV字断面(角度90°)を有するポンチとダイスを用いて、上記短冊試験片をC方向に折り曲げる曲げ試験を行い、10倍のルーペでクラックの有無を調べた。なお、試験片端面からの割れを防止するため、試験片端面には研削加工を施し、かつ、試験片の曲げ部の幅両端部3mmは、非定常部として評価の対象から外した。また、上記曲げ試験を各条件でn数3ずつ実施し、3つとも割れの発生が無ければ曲げ加工性良(○)、割れが1つでも認められれば曲げ加工性不良(×)評価した。それらの結果を表1に併記した。
【0063】
表1に示すように、本発明の条件をすべて満たす製造条件のNo.1〜4の鋼板(発明例)は、いずれも金属組織がフェライト単相であり、引張強さTSが1180MPa以上で、曲げ加工性にも優れていることがわかる。
これに対して、いずれかの条件が本発明を外れているNo.5〜10の鋼板(比較例)は、引張強さおよび曲げ加工性のうちのいずれか1以上が劣っている。
また、本発明の条件をすべて満たすNo.11〜13の鋼板(発明例)は、電気亜鉛めっき後は勿論のこと、熱処理を伴う溶融亜鉛めっき後や、その後、合金化処理を施した後も、上記優れた特性をそのまま維持できていることがわかる。
【実施例2】
【0064】
表2に示す成分組成を有するA〜Pの鋼を溶製し、垂直曲げ型連続鋳造機を用いて曲げ部の曲率半径R(m)とスラブ厚t(m)におけるR/tを26.7〜36.4の範囲で鋼スラブを製造した後、その鋼スラブを、凝固点から1300℃までを表3に示す冷却速度で冷却し、その後、表3に示した最低温度まで冷却した後、同じく表3に示した再加熱温度に再加熱してから、同じく表3に示した条件で熱間圧延し、各種板厚の熱延鋼板とした。なお、一部のスラブについては、室温まで冷却後、加熱炉に装入して再加熱した。また、一部のスラブについては、粗圧延を省略した。
【0065】
斯くして得た熱延鋼板からサンプルを採取し、光学顕微鏡および走査型電子距微鏡(SEM)を用いて鋼板組織を確認した。また、上記サンプルからL方向を引張方向とするJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z2241に準拠して引張試験を行い、引張強さTS求め、また、曲げ加工性を、実施例1と同様にして評価した。それらの結果を表3に併せて示した。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
表3に示すように、鋼成分組成および製造条件の全てが本発明の条件を満たすNo.1〜5および7〜10の鋼板(発明例、ただし、2,3,5,6,9は参考例)は、いずれも金属組織がフェライト単相であり、引張強さが1180MPa以上で、かつ、曲げ加工性にも優れている。
これに対して、鋼成分組成および製造条件のいずれかが本発明を外れるNo.6および11〜18の鋼板(比較例)は、上記のいずれか1以上の特性が本発明例の鋼板より劣っていることがわかる。