特許第6052609号(P6052609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052609
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
   G01K 13/08 20060101AFI20161219BHJP
   G01K 7/22 20060101ALI20161219BHJP
   H01C 7/04 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   G01K13/08 B
   G01K7/22 A
   G01K7/22 J
   H01C7/04
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-16308(P2013-16308)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-149154(P2014-149154A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】長友 憲昭
(72)【発明者】
【氏名】白田 敬治
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢蔵
(72)【発明者】
【氏名】稲場 均
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5928829(JP,B2)
【文献】 特開平09−218102(JP,A)
【文献】 特開2012−182258(JP,A)
【文献】 特開平04−161977(JP,A)
【文献】 特開2012−104833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
H01C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸曲面を有する測定対象物の前記凸曲面に接触して温度を測定する温度センサであって、
一対のリードフレームと、
前記一対のリードフレームに接続されたセンサ部と、
前記一対のリードフレームに固定されて前記リードフレームを保持する絶縁性の保持部とを備え、
前記センサ部が、帯状の絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの表面の中央部にサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部と、前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に複数の櫛部を有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛型電極と、一端が前記一対の櫛型電極に接続されていると共に他端が前記絶縁性フィルムの両端部で前記一対のリードフレームに接続され前記絶縁性フィルムの表面にパターン形成された一対のパターン電極とを備え、
前記絶縁性フィルムが、前記測定対象物の前記凸曲面に接触させる面を凹曲面側として円弧状に曲げられた状態で、両端部が前記一対のリードフレームに固定されていることを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の温度センサにおいて、
前記絶縁性フィルムが、前記リードフレームの先端側突出方向に対して直交する方向に撓んだ状態で曲げられていることを特徴とする温度センサ。
【請求項3】
請求項1に記載の温度センサにおいて、
前記絶縁性フィルムが、前記リードフレームの先端側突出方向と逆方向に撓んだ状態で曲げられていることを特徴とする温度センサ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の温度センサにおいて、
前記薄膜サーミスタ部が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とする温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタ等の加熱ローラの温度を測定することに好適な温度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複写機やプリンタに使用されている加熱ローラには、その温度を測定するために温度センサが接触状態に設置されている。このような温度センサとしては、例えば特許文献1及び2に、一対のリードフレームと、これらのリードフレームの間に配設され接続された感熱素子と、一対のリードフレームの端部に形成された保持部と、リードフレーム及び感熱素子の片面に設けられ加熱ローラに接触させる薄膜シートとを有する温度センサが提案されている。
【0003】
このような温度センサは、加熱ローラの表面にリードフレームの弾性力を利用して接触され、温度検知するものである。
なお、上記特許文献1には、感熱素子として ビードサーミスタやチップサーミスタが採用されていると共に、特許文献2には、感熱素子として、アルミナ等の絶縁基板の一面に感熱膜が形成された薄膜サーミスタが採用されている。この薄膜サーミスタは、絶縁基板の一面に形成された感熱膜と、該感熱膜と一対のリードフレームとを接続する一対のリード部と、感熱膜を覆う保護膜とで構成されている。
【0004】
また、特許文献3には、熱電対を金属からなる接触板に一体化した温度センサが記載されている。この温度センサでは、接触板の弾性により接圧を得て測定対象物に接触させることで温度を測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−29793号公報
【特許文献2】特開2000−74752号公報
【特許文献3】特開平7−198504号公報
【特許文献4】特開2004−319737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1に記載の技術では、感熱素子としてビードサーミスタ等を使用しているが、この場合、約1mm程度の球状或いは楕円状であるために、加熱ローラに点接触するために、正確な温度検知が難しい。また、感熱素子に比較的大きな体積があるため、応答性が悪いという不都合があった。さらに、点接触であるために、回転するローラ表面に傷を付けてしまうおそれもあった。
また、特許文献2に記載の技術では、感熱素子として薄膜サーミスタを使用しているので、加熱ローラには面接触することができるが、薄膜サーミスタを構成する絶縁基板やリード部を含めると、やはり体積があるために、応答性が悪いという問題があった。
さらに、特許文献3に記載の技術では、金属の接触板を測定対象物に当てるために測定対象物が傷ついてしまうおそれがあると共に、熱電対及び接触板の体積(厚み等)と、金属の接触板からの熱の逃げとによって応答性が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、加熱ローラ等に押し当てて温度を検出する際に、高精度で応答性に優れていると共に測定対象物に傷を付け難い温度センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る温度センサは、凸曲面を有する測定対象物の前記凸曲面に接触して温度を測定する温度センサであって、一対のリードフレームと、前記一対のリードフレームに接続されたセンサ部と、前記一対のリードフレームに固定されて前記リードフレームを保持する絶縁性の保持部とを備え、前記センサ部が、帯状の絶縁性フィルムと、該絶縁性フィルムの表面の中央部にサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部と、前記薄膜サーミスタ部の上及び下の少なくとも一方に複数の櫛部を有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛型電極と、一端が前記一対の櫛型電極に接続されていると共に他端が前記絶縁性フィルムの両端部で前記一対のリードフレームに接続され前記絶縁性フィルムの表面にパターン形成された一対のパターン電極とを備え、前記絶縁性フィルムが、前記測定対象物の前記凸曲面の曲率以下で円弧状に曲げられた状態で、両端部が前記一対のリードフレームに固定されていることを特徴とする。
【0009】
この温度センサでは、絶縁性フィルムが、測定対象物の凸曲面の曲率以下で円弧状に曲げられた状態で、両端部が一対のリードフレームに固定されているので、測定対象物の凸曲面に円弧状の絶縁性フィルムの凹曲面を接触させることで、曲面で測定対象物に面接触して正確な温度検知が可能になる。
また、絶縁性フィルムの柔軟性によって測定対象物を傷つけずに温度測定が可能になると共に、リードフレームで支持された絶縁性フィルムが、一定の撓み範囲で変形可能であるため、測定対象物の形状に柔軟に対応可能であると共に、押圧のレベルを調整可能である。
さらに、絶縁性フィルムであるため、金属の接触板に比べて熱が逃げ難く、体積が小さい薄膜サーミスタ部とを相乗効果によって高い応答性を得ることができる。すなわち、薄い絶縁性フィルムと、絶縁性フィルムに直接形成された薄膜サーミスタ部とにより、全体の厚みが薄くなり、小さい体積によって優れた応答性を得ることができる。
また、一対のリードフレームが、一対のパターン電極に接続されているので、薄膜サーミスタ部とリードフレームとが絶縁性フィルムに直接形成されたパターン電極で接続されることで、パターン形成された薄い配線により、リード線等で接続された場合に比べてリードフレーム側との熱伝導性の影響が抑制される。なお、測定対象物に対する接触部分の平坦性が高く、面接触するために、正確な温度検知が可能であると共に回転する加熱ローラ等の測定対象物の表面を傷つけ難い。
【0010】
第2の発明に係る温度センサは、第1の発明において、前記絶縁性フィルムが、前記リードフレームの先端側突出方向に対して直交する方向に撓んだ状態で曲げられていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、リードフレームの先端側突出方向に対して直交する方向に測定対象物を配置し、曲げられたセンサ部の凹曲面を測定対象物に対して押し付けることで温度測定を行うことができる。
【0011】
第3の発明に係る温度センサは、第1の発明において、前記絶縁性フィルムが、前記リードフレームの先端側突出方向と逆方向に撓んだ状態で曲げられていることを特徴とする。
すなわち、この温度センサでは、リードフレームの先端側突出方向に測定対象物を配置し、曲げられたセンサ部の凹曲面を測定対象物に対して押し付けることで温度測定を行うことができる。
【0012】
第4の発明に係る温度センサは、第1から第3の発明のいずれかにおいて、前記薄膜サーミスタ部が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であることを特徴とする。
【0013】
一般に、温度センサ等に使用されるサーミスタ材料は、高精度、高感度のために、高いB定数が求められている。従来、このようなサーミスタ材料には、Mn,Co,Fe等の遷移金属酸化物が一般的である。また、これらのサーミスタ材料では、安定なサーミスタ特性を得るために、600℃以上の焼成が必要である。
【0014】
また、上記のような金属酸化物からなるサーミスタ材料の他に、例えば特許文献3では、一般式:M(但し、MはTa,Nb,Cr,Ti及びZrの少なくとも1種、AはAl,Si及びBの少なくとも1種を示す。0.1≦x≦0.8、0<y≦0.6、0.1≦z≦0.8、x+y+z=1)で示される窒化物からなるサーミスタ用材料が提案されている。また、この特許文献3では、Ta−Al−N系材料で、0.5≦x≦0.8、0.1≦y≦0.5、0.2≦z≦0.7、x+y+z=1としたものだけが実施例として記載されている。このTa−Al−N系材料では、上記元素を含む材料をターゲットとして用い、窒素ガス含有雰囲気中でスパッタリングを行って作製されている。また、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理を行っている。
【0015】
近年、樹脂フィルム上にサーミスタ材料を形成したフィルム型サーミスタセンサの開発が検討されており、フィルムに直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれている。すなわち、フィルムを用いることで、フレキシブルなサーミスタセンサが得られることが期待される。さらに、0.1mm程度の厚さを持つ非常に薄いサーミスタセンサの開発が望まれているが、従来はアルミナ等のセラミックス材料を用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、フィルムを用いることで非常に薄いサーミスタセンサが得られることが期待される。
従来、TiAlNからなる窒化物系サーミスタを形成した温度センサでは、フィルム上にTiAlNからなるサーミスタ材料層と電極とを積層して形成する場合、サーミスタ材料層上にAu等の電極層を成膜し、複数の櫛部を有した櫛型にパターニングしている。しかし、このサーミスタ材料層は、曲率半径が大きく緩やかに曲げられた場合には、クラックが生じ難く抵抗値等の電気特性に変化がないが、曲率半径が小さくきつく曲げた場合に、クラックが発生し易くなり、抵抗値等が大きく変化して電気特性の信頼性が低くなってしまう。特に、フィルムを櫛部の延在方向に直交する方向に小さい曲率半径できつく曲げた場合、櫛部の延在方向に曲げた場合に比べて櫛型電極とサーミスタ材料層との応力差により、電極エッジ付近にクラックが発生し易くなり、電気特性の信頼性が低下してしまう不都合があった。
【0016】
また、樹脂材料で構成されるフィルムは、一般的に耐熱温度が150℃以下と低く、比較的耐熱温度の高い材料として知られるポリイミドでも300℃程度の耐熱性しかないため、サーミスタ材料の形成工程において熱処理が加わる場合は、適用が困難であった。上記従来の酸化物サーミスタ材料では、所望のサーミスタ特性を実現するために600℃以上の焼成が必要であり、フィルムに直接成膜したフィルム型サーミスタセンサを実現できないという問題点があった。そのため、非焼成で直接成膜できるサーミスタ材料の開発が望まれているが、上記特許文献4に記載のサーミスタ材料でも、所望のサーミスタ特性を得るために、必要に応じて、得られた薄膜を350〜600℃で熱処理する必要があった。また、このサーミスタ材料では、Ta−Al−N系材料の実施例において、B定数:500〜3000K程度の材料が得られているが、耐熱性に関する記述がなく、窒化物系材料の熱的信頼性が不明であった。
【0017】
本発明者らは、窒化物材料の中でもAlN系に着目し、鋭意、研究を進めたところ、絶縁体であるAlNは、最適なサーミスタ特性(B定数:1000〜6000K程度)を得ることが難しいため、Alサイトを電気伝導を向上させる特定の金属元素で置換すると共に、特定の結晶構造とすることで、非焼成で良好なB定数と耐熱性とが得られることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、薄膜サーミスタ部が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
【0018】
なお、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.70未満であると、ウルツ鉱型の単相が得られず、NaCl型相との共存相又はNaCl型相のみの相となってしまい、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
また、上記「y/(x+y)」(すなわち、Al/(Ti+Al))が0.95をこえると、抵抗率が非常に高く、きわめて高い絶縁性を示すため、サーミスタ材料として適用できない。
また、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.4未満であると、金属の窒化量が少ないため、ウルツ鉱型の単相が得られず、十分な高抵抗と高B定数とが得られない。
さらに、上記「z」(すなわち、N/(Ti+Al+N))が0.5を超えると、ウルツ鉱型の単相を得ることができない。このことは、ウルツ鉱型の単相において、窒素サイトにおける欠陥がない場合の正しい化学量論比は、N/(Ti+Al+N)=0.5であることに起因する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る温度センサによれば、測定対象物の凸曲面の曲率以下で円弧状に曲げられた状態で、両端部が一対のリードフレームに固定されているので、柔軟な絶縁性フィルムによって測定対象物を傷つけずに曲面で測定対象物に面接触して正確な温度検知が可能になる。
また、薄膜サーミスタ部を、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である材料とすることで、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性が得られる。
したがって、本発明の温度センサによれば、強い弾性と柔軟性とを有したセンサ部による安定した面接触が可能であると共に、高い応答性で正確に温度を測定することができ、複写機やプリンタ等の加熱ローラの温度用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る温度センサの第1実施形態を示す平面図、正面図及び左側面図である。
図2】第1実施形態において、サーミスタ用金属窒化物材料の組成範囲を示すTi−Al−N系3元系相図である。
図3】第1実施形態において、センサ部を示す平面図及びA−A線断面図である。
図4】第1実施形態において、薄膜サーミスタ部形成工程を示す平面図及びB−B線断面図である。
図5】第1実施形態において、電極形成工程を示す平面図及びC−C線断面図である。
図6】第1実施形態において、保護膜形成工程を示す平面図及びD−D線断面図である。
図7】本発明に係る温度センサの第1実施形態において、他の例を示す平面図及び正面図である。
図8】本発明に係る温度センサの第2実施形態を示す平面図及び正面図である。
図9】本発明に係る温度センサの第3実施形態を示す平面図である。
図10】本発明に係る温度センサの実施例において、サーミスタ用金属窒化物材料の膜評価用素子を示す正面図及び平面図である。
図11】本発明に係る実施例及び比較例において、25℃抵抗率とB定数との関係を示すグラフである。
図12】本発明に係る実施例及び比較例において、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示すグラフである。
図13】本発明に係る実施例において、Al/(Ti+Al)=0.84としたc軸配向が強い場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
図14】本発明に係る実施例において、Al/(Ti+Al)=0.83としたa軸配向が強い場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
図15】本発明に係る比較例において、Al/(Ti+Al)=0.60とした場合におけるX線回折(XRD)の結果を示すグラフである。
図16】本発明に係る実施例において、a軸配向の強い実施例とc軸配向の強い実施例とを比較したAl/(Ti+Al)比とB定数との関係を示すグラフである。
図17】本発明に係る実施例において、c軸配向が強い実施例を示す断面SEM写真である。
図18】本発明に係る実施例において、a軸配向が強い実施例を示す断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る温度センサにおける第1実施形態を、図1から図7を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面の一部では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。
【0022】
本実施形態の温度センサ1は、図1に示すように、凸曲面を有する測定対象物Rの凸曲面に接触して温度を測定する温度センサであって、一対のリードフレーム2と、一対のリードフレーム2に接続されたセンサ部3と、一対のリードフレーム2に固定されてリードフレーム2を保持する絶縁性の保持部4とを備えている。
上記測定対象物Rは、例えば複写機やプリンタ等の加熱ローラである。
上記一対のリードフレーム2は、銅系合金、鉄系合金又はステンレス等の合金で形成されており、樹脂製の保持部4によって互いに一定間隔を保持した状態で支持されている。なお、一対のリードフレーム2は、保持部4内で一対のリード線5に接続されている。また、保持部4には、取付孔4aが形成されている。
【0023】
上記センサ部3は、図3に示すように、帯状の絶縁性フィルム6と、該絶縁性フィルム6の表面の中央部にサーミスタ材料でパターン形成された薄膜サーミスタ部7と、薄膜サーミスタ部7の上に複数の櫛部8aを有して互いに対向してパターン形成された一対の櫛型電極8と、一端が一対の櫛型電極8に接続されていると共に他端が絶縁性フィルム6の両端部で一対のリードフレーム2に接続され絶縁性フィルム6の表面にパターン形成された一対のパターン電極9とを備えている。
【0024】
上記絶縁性フィルム6は、測定対象物Rの凸曲面の曲率以下で円弧状に曲げられた状態で、両端部が一対のリードフレーム2に固定されている。なお、図1の(a)等に示す温度センサの各平面図において、曲げられた状態を示すためにセンサ部3及び測定対象物Rを斜視図的に図示している。
【0025】
また、本実施形態の温度センサ1は、パターン電極9の基端部(接着用パッド部9a)が配されている絶縁性フィルム6の両端部を除いて、絶縁性フィルム6上に形成され薄膜サーミスタ部7、櫛型電極8及びパターン電極9を覆う保護膜10を備えている。
なお、本実施形態では、薄膜サーミスタ部7の上に櫛型電極8を形成しているが、薄膜サーミスタ部7の下に櫛型電極を形成しても構わない。
【0026】
また、一対のパターン電極9は、絶縁性フィルム6の中央部に配された薄膜サーミスタ部7上の櫛部8aから絶縁性フィルム6の両端近傍まで延在している。なお、パターン電極9の絶縁性フィルム6の両端近傍には、接着用パッド部9aが形成されている。
さらに、一対のリードフレーム2の先端部が、絶縁性フィルム6の両端部でパターン電極9に接続されている。すなわち、リードフレーム2は、先端側が、絶縁性フィルム6上に形成されたパターン電極9の接着用パッド部9aに、はんだ或いは導電性樹脂接着剤等で接着されている。
【0027】
上述したように、絶縁性フィルム6は、円弧状に曲げられた状態で両端部が一対のリードフレーム2に架け渡されて固定されているが、本実施形態では、リードフレーム2の先端側突出方向に対して直交する方向に撓んだ状態で曲げられている。
また、絶縁性フィルム6はリードフレーム2の上面に両端部が配され、接着用パッド部9aとリードフレーム2の内側面とが接着されている。すなわち、薄膜サーミスタ部7は、絶縁性フィルム6の凹曲面側に設けられている。
【0028】
なお、上記リードフレーム2は、途中で段差部を介して折り曲げられている。すなわち、リードフレーム2は、上方に一旦折り曲げられてから再び折り曲げられて基端側の延在方向(測定対象物Rの軸方向)に再び先端側を延在させている。これにより、長い測定対象物Rに対しても、測定対象物Rの軸方向の斜め前方に配した保持部4が干渉しないように保持部4とセンサ部3との高さを変えている。
【0029】
上記絶縁性フィルム6は、例えば厚さ50〜125μmのポリイミド樹脂シートで帯状に形成されている。なお、絶縁性フィルム6の厚さは、上記範囲よりも薄いと十分な剛性が得難く、上記範囲よりも厚いと応答性が低くなるおそれがある。また、絶縁性フィルム6としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート等でも作製できるが、加熱ローラの温度測定用としては、最高使用温度が180℃と高いためポリイミドフィルムが望ましい。
【0030】
上記薄膜サーミスタ部7は、絶縁性フィルム6の中央部に配され、TiAlNのサーミスタ材料で形成されている。特に、薄膜サーミスタ部7は、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系のウルツ鉱型の単相である。
【0031】
上記パターン電極9及び櫛型電極8は、薄膜サーミスタ部7上に形成された膜厚5〜100nmのCr又はNiCrの接合層と、該接合層上にAu等の貴金属で膜厚50〜1000nmで形成された電極層とを有している。
一対の櫛型電極8は、互いに対向状態に配されて交互に櫛部8aが並んだ櫛型パターンとされている。
【0032】
なお、櫛部8aは、絶縁性フィルム6の延在方向に沿って延在している。すなわち、先端部となる薄膜サーミスタ部7側を、回転する加熱ローラに押し当てされて温度測定を行うが、絶縁性フィルム6の延在方向に曲率を有して円弧状に曲げられているため、薄膜サーミスタ部7にも同方向に曲げ応力が加わる。このとき、櫛部8aが同方向に延在しているため、薄膜サーミスタ部7を補強することになり、クラックの発生を抑制することができる。
【0033】
上記保護膜10は、絶縁性樹脂膜等であり、例えば厚さ20μmのポリイミド膜が採用される。この保護膜10は、接着用パッド部9aを除いて絶縁性フィルム6に印刷される。なお、ポリイミドカバーレイフィルムを絶縁性フィルム6に接着剤で接着して保護膜10としても構わない。
【0034】
上記薄膜サーミスタ部7は、上述したように、金属窒化物材料であって、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))の単相である。すなわち、この金属窒化物材料は、図2に示すように、Ti−Al−N系3元系相図における点A,B,C,Dで囲まれる領域内の組成を有し、結晶相がウルツ鉱型である金属窒化物である。
なお、上記点A,B,C,Dの各組成比(x、y、z)(原子%)は、A(15、35、50),B(2.5、47.5、50),C(3、57、40),D(18、42、40)である。
【0035】
また、この薄膜サーミスタ部7は、例えば膜厚100〜1000nmの膜状に形成され、前記膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶である。さらに、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向していることが好ましい。
なお、膜の表面に対して垂直方向(膜厚方向)にa軸配向(100)が強いかc軸配向(002)が強いかの判断は、X線回折(XRD)を用いて結晶軸の配向性を調べることで、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比から、「(100)のピーク強度」/「(002)のピーク強度」が1未満であることで決定する。
【0036】
この温度センサ1の製造方法について、図1図3から図6を参照して以下に説明する。
本実施形態の温度センサ1の製造方法は、絶縁性フィルム6上に薄膜サーミスタ部7をパターン形成する薄膜サーミスタ部形成工程と、互いに対向した一対の櫛型電極8を薄膜サーミスタ部7上に配して絶縁性フィルム6上に一対のパターン電極9をパターン形成する電極形成工程と、絶縁性フィルム6の表面に保護膜10を形成する保護膜形成工程と、センサ部3にリードフレーム2を取り付けるリードフレーム取り付け工程とを有している。
【0037】
より具体的な製造方法の例としては、厚さ50μmのポリイミドフィルムの絶縁性フィルム6上に、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用い、窒素含有雰囲気中で反応性スパッタ法にて、TiAl(x=9、y=43、z=48)のサーミスタ膜を膜厚200nmで形成する。その時のスパッタ条件は、到達真空度5×10−6Pa、スパッタガス圧0.4Pa、ターゲット投入電力(出力)200Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を20%で作製する。
【0038】
成膜したサーミスタ膜の上にレジスト液をバーコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、さらに150℃で5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要なTiAlのサーミスタ膜を市販のTiエッチャントでウェットエッチングを行い、図4に示すように、レジスト剥離にて所望の形状の薄膜サーミスタ部7にする。
【0039】
次に、薄膜サーミスタ部7及び絶縁性フィルム6上に、スパッタ法にて、Cr膜の接合層を膜厚20nm形成する。さらに、この接合層上に、スパッタ法にてAu膜の電極層を膜厚100nm形成する。
次に、成膜した電極層の上にレジスト液をバーコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行う。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントの順番でウェットエッチングを行い、図5に示すように、レジスト剥離にて所望の櫛型電極8及びパターン電極9を形成する。
【0040】
さらに、その上にポリイミドワニスを印刷法により塗布して、250℃、30分でキュアを行い、図6に示すように、20μm厚のポリイミド保護膜10を形成する。このようにしてセンサ部3が作製される。
次に、センサ部3を円弧状に曲げた状態で、一対のリードフレーム2の先端上面とパターン電極9の接着用パッド部9aとを接触させて、図1に示すように、リードフレーム2の先端上面と接着用パッド部9aとを導電性樹脂接着剤により接着する。このようにして、温度センサ1が作製される。
【0041】
なお、複数のセンサ部3を同時に作製する場合、絶縁性フィルム6の大判シートに複数の薄膜サーミスタ部7、櫛型電極8、パターン電極9及び保護膜10を上述のように形成した後に、大判シートから各センサ部3に切断する。
【0042】
この温度センサ1で、例えば複写機やプリンタなどの加熱ローラ(定着ローラ)を測定対象物Rとして温度測定する場合、図1に示すように、保持部4を測定対象物Rの軸方向前方に配し、測定対象物Rの軸方向とセンサ部3の延在方向とがねじれの位置となるようにすると共にリードフレーム2が測定対象物Rに当たらないようにして、測定対象物Rの凸曲面に絶縁性フィルム6の凹曲面を接触させる。
【0043】
このように本実施形態の温度センサ1では、測定対象物Rの凸曲面の曲率以下で円弧状に曲げられた状態で、両端部が一対のリードフレーム2に固定されているので、測定対象物Rの凸曲面に円弧状の絶縁性フィルム6の凹曲面を接触させることで、曲面で測定対象物Rに面接触して正確な温度検知が可能になる。
また、絶縁性フィルム6の柔軟性によって測定対象物Rを傷つけずに温度測定が可能になると共に、リードフレーム2で支持された絶縁性フィルム6が、一定の撓み範囲で変形可能であるため、測定対象物Rの形状に柔軟に対応可能であると共に、押圧のレベルを調整可能である。
さらに、絶縁性フィルム6であるため、金属の接触板に比べて熱が逃げ難く、体積が小さい薄膜サーミスタ部7とを相乗効果によって高い応答性を得ることができる。すなわち、薄い絶縁性フィルム6と、絶縁性フィルム6に直接形成された薄膜サーミスタ部7とにより、全体の厚みが薄くなり、小さい体積によって優れた応答性を得ることができる。
【0044】
また、一対のリードフレーム2が、一対のパターン電極9に接続されているので、薄膜サーミスタ部7とリードフレーム2とが、絶縁性フィルム6に直接形成されたパターン電極9で接続されることで、パターン形成された薄い配線により、リード線等で接続された場合に比べてリードフレーム2側との熱伝導性の影響が抑制される。なお、測定対象物Rに対する接触部分の平坦性が高く、面接触するために、正確な温度検知が可能であると共に回転する加熱ローラ等の測定対象物の表面を傷つけ難い。
【0045】
また、薄膜サーミスタ部7が、一般式:TiAl(0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1)で示される金属窒化物からなり、その結晶構造が、六方晶系の結晶系であってウルツ鉱型の単相であるので、非焼成で良好なB定数が得られると共に高い耐熱性を有している。
また、この金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向に延在している柱状結晶であるので、膜の結晶性が高く、高い耐熱性が得られる。
さらに、この金属窒化物材料では、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸を強く配向させることで、a軸配向が強い場合に比べて高いB定数が得られる。
【0046】
なお、本実施形態のサーミスタ材料層(薄膜サーミスタ部7)の製造方法では、Ti−Al合金スパッタリングターゲットを用いて窒素含有雰囲気中で反応性スパッタを行って成膜するので、上記TiAlNからなる上記金属窒化物材料を非焼成で成膜することができる。
また、反応性スパッタにおけるスパッタガス圧を、0.67Pa未満に設定することで、膜の表面に対して垂直方向にa軸よりc軸が強く配向している金属窒化物材料の膜を形成することができる。
【0047】
したがって、本実施形態の温度センサ1では、絶縁性フィルム6上に上記サーミスタ材料層で薄膜サーミスタ部7が形成されているので、非焼成で形成され高B定数で耐熱性の高い薄膜サーミスタ部7により、樹脂フィルム等の耐熱性の低い絶縁性フィルム6を用いることができると共に、良好なサーミスタ特性を有した薄型でフレキシブルなサーミスタセンサが得られる。
また、従来アルミナ等のセラミックスを用いた基板材料がしばしば用いられ、例えば、厚さ0.1mmへと薄くすると非常に脆く壊れやすい等の問題があったが、本発明においてはフィルムを用いることができるので、上記のように、例えば厚さ0.1mmの非常に薄いフィルム型サーミスタセンサ(センサ部3)を得ることができる。
【0048】
なお、第1実施形態の他の例として、図7に示す温度センサ1Bのように、薄膜サーミスタ部7を凸曲面側に配してセンサ部3を曲げ、一対のリードフレーム2の先端下面側に絶縁性フィルム6の両端部を接着しても構わない。
【0049】
次に、本発明に係る温度センサの第2実施形態及び第3実施形態について、図8及び図9を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0050】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、保持部4を測定対象物Rの軸方向の斜め前方に配した状態で、一対のリードフレーム2の先端が測定対象物Rの軸線の両側に位置するように、リードフレーム2が曲げられているのに対し、第2実施形態の温度センサ21では、図8に示すように、保持部4を測定対象物Rの軸方向に対して斜め側方に配した状態で、一対のリードフレーム2の先端が測定対象物Rの軸線の両側に位置するように、リードフレーム2が曲げられている点である。
【0051】
すなわち、第2実施形態では、一対のリードフレーム2が、基端側の延在方向に対して測定対象物Rの軸方向に沿った方向に途中で折り曲げられ、さらに上方に折り曲げられて先端が測定対象物Rの両側に配されている。一対のリードフレーム2は、互いに長さが異なり、先端が保持部4側に配される方は短く、先端が保持部4と反対側に配される方は長く設定され、この差により一対のリードフレーム2の先端間を広げている。
このように第2実施形態の温度センサ21では、保持部4を測定対象物Rの軸方向に対して斜め側方に配した状態で、測定対象物Rの凸曲面にセンサ部3の凹曲面を接触させて温度測定を行うことができる。
【0052】
次に、第3実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、絶縁性フィルム6が、リードフレーム2の先端側突出方向に対して直交する方向に撓んだ状態で曲げられているのに対し、第3実施形態の温度センサ31では、図9に示すように、絶縁性フィルム6が、リードフレーム2の先端側突出方向と逆方向に撓んだ状態で曲げられている点である。
【0053】
この第3実施形態では、一対のリードフレーム2が、基端側の延在方向に対して途中で互いに離間する方向に一旦曲げられ、さらに基端側の延在方向に向けて先端側が曲げられており、一対のリードフレーム2の先端間が基端間よりも広くなるように設定されている。すなわち、広くなった一対のリードフレーム2の先端間に、センサ部3を撓んだ状態で架け渡して設置している。
このように第3実施形態の温度センサ31では、リードフレーム2の先端側突出方向に測定対象物Rを配置し、曲げられたセンサ部3の凹曲面を測定対象物Rに対して押し付けることで温度測定を行うことができる。
【実施例】
【0054】
次に、本発明に係る温度センサについて、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、図10から図18を参照して具体的に説明する。
【0055】
<膜評価用素子の作製>
本発明のサーミスタ材料層(薄膜サーミスタ部7)の評価を行う実施例及び比較例として、図10に示す膜評価用素子121を次のように作製した。
まず、反応性スパッタ法にて、様々な組成比のTi−Al合金ターゲットを用いて、Si基板Sとなる熱酸化膜付きSiウエハ上に、厚さ500nmの表1に示す様々な組成比で形成された金属窒化物材料の薄膜サーミスタ部7を形成した。その時のスパッタ条件は、到達真空度:5×10−6Pa、スパッタガス圧:0.1〜1Pa、ターゲット投入電力(出力):100〜500Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分率を10〜100%と変えて作製した。
【0056】
次に、上記薄膜サーミスタ部7の上に、スパッタ法でCr膜を20nm形成し、さらにAu膜を100nm形成した。さらに、その上にレジスト液をスピンコーターで塗布した後、110℃で1分30秒のプリベークを行い、露光装置で感光後、現像液で不要部分を除去し、150℃で5分のポストベークにてパターニングを行った。その後、不要な電極部分を市販のAuエッチャント及びCrエッチャントによりウェットエッチングを行い、レジスト剥離にて所望の櫛形電極部124aを有するパターン電極124を形成した。そして、これをチップ状にダイシングして、B定数評価及び耐熱性試験用の膜評価用素子121とした。
なお、比較としてTiAlの組成比が本発明の範囲外であって結晶系が異なる比較例についても同様に作製して評価を行った。
【0057】
<膜の評価>
(1)組成分析
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部7について、X線光電子分光法(XPS)にて元素分析を行った。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。その結果を表1に示す。なお、以下の表中の組成比は「原子%」で示している。
【0058】
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をMgKα(350W)とし、パスエネルギー:58.5eV、測定間隔:0.125eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。なお、定量精度について、N/(Ti+Al+N)の定量精度は±2%、Al/(Ti+Al)の定量精度は±1%ある。
【0059】
(2)比抵抗測定
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部7について、4端子法にて25℃での比抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
(3)B定数測定
膜評価用素子121の25℃及び50℃の抵抗値を恒温槽内で測定し、25℃と50℃との抵抗値よりB定数を算出した。その結果を表1に示す。
【0060】
なお、本発明におけるB定数算出方法は、上述したように25℃と50℃とのそれぞれの抵抗値から以下の式によって求めている。
B定数(K)=ln(R25/R50)/(1/T25−1/T50)
R25(Ω):25℃における抵抗値
R50(Ω):50℃における抵抗値
T25(K):298.15K 25℃を絶対温度表示
T50(K):323.15K 50℃を絶対温度表示
【0061】
これらの結果からわかるように、TiAlの組成比が図2に示す3元系の三角図において、点A,B,C,Dで囲まれる領域内、すなわち、「0.70≦y/(x+y)≦0.95、0.4≦z≦0.5、x+y+z=1」となる領域内の実施例全てで、抵抗率:100Ωcm以上、B定数:1500K以上のサーミスタ特性が達成されている。
【0062】
上記結果から25℃での抵抗率とB定数との関係を示したグラフを、図11に示す。また、Al/(Ti+Al)比とB定数との関係を示したグラフを、図12に示す。これらのグラフから、Al/(Ti+Al)=0.7〜0.95、かつ、N/(Ti+Al+N)=0.4〜0.5の領域で、結晶系が六方晶のウルツ鉱型の単一相であるものは、25℃における比抵抗値が100Ωcm以上、B定数が1500K以上の高抵抗かつ高B定数の領域が実現できている。なお、図12のデータにおいて、同じAl/(Ti+Al)比に対して、B定数がばらついているのは、結晶中の窒素量が異なるためである。
【0063】
表1に示す比較例3〜12は、Al/(Ti+Al)<0.7の領域であり、結晶系は立方晶のNaCl型となっている。また、比較例12(Al/(Ti+Al)=0.67)では、NaCl型とウルツ鉱型とが共存している。このように、Al/(Ti+Al)<0.7の領域では、25℃における比抵抗値が100Ωcm未満、B定数が1500K未満であり、低抵抗かつ低B定数の領域であった。
【0064】
表1に示す比較例1,2は、N/(Ti+Al+N)が40%に満たない領域であり、金属が窒化不足の結晶状態になっている。この比較例1,2は、NaCl型でも、ウルツ鉱型でもない、非常に結晶性の劣る状態であった。また、これら比較例では、B定数及び抵抗値が共に非常に小さく、金属的振舞いに近いことがわかった。
【0065】
(4)薄膜X線回折(結晶相の同定)
反応性スパッタ法にて得られた薄膜サーミスタ部7を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=20〜130度の範囲で測定した。
【0066】
その結果、Al/(Ti+Al)≧0.7の領域においては、ウルツ鉱型相(六方晶、AlNと同じ相)であり、Al/(Ti+Al)<0.65の領域においては、NaCl型相(立方晶、TiNと同じ相)であった。また、0.65< Al/(Ti+Al)<0.7においては、ウルツ鉱型相とNaCl型相との共存する結晶相であった。
【0067】
このようにTiAlN系においては、高抵抗かつ高B定数の領域は、Al/(Ti+Al)≧0.7のウルツ鉱型相に存在している。なお、本発明の実施例では、不純物相は確認されておらず、ウルツ鉱型の単一相である。
なお、表1に示す比較例1,2は、上述したように結晶相がウルツ鉱型相でもNaCl型相でもなく、本試験においては同定できなかった。また、これらの比較例は、XRDのピーク幅が非常に広いことから、非常に結晶性の劣る材料であった。これは、電気特性により金属的振舞いに近いことから、窒化不足の金属相になっていると考えられる。
【0068】
【表1】
【0069】
次に、本発明の実施例は全てウルツ鉱型相の膜であり、配向性が強いことから、Si基板S上に垂直な方向(膜厚方向)の結晶軸においてa軸配向性が強いか、c軸配向性が強いかであるかについて、XRDを用いて調査した。この際、結晶軸の配向性を調べるために、(100)(a軸配向を示すミラー指数)と(002)(c軸配向を示すミラー指数)とのピーク強度比を測定した。
【0070】
その結果、スパッタガス圧が0.67Pa未満で成膜された実施例は、(100)よりも(002)の強度が非常に強く、a軸配向性よりc軸配向性が強い膜であった。一方、スパッタガス圧が0.67Pa以上で成膜された実施例は、(002)よりも(100)の強度が非常に強く、c軸配向よりa軸配向が強い材料であった。
なお、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、同様にウルツ鉱型相の単一相が形成されていることを確認している。また、同じ成膜条件でポリイミドフィルムに成膜しても、配向性は変わらないことを確認している。
【0071】
c軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、図13に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.84(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(100)よりも(002)の強度が非常に強くなっている。
また、a軸配向が強い実施例のXRDプロファイルの一例を、図14に示す。この実施例は、Al/(Ti+Al)=0.83(ウルツ鉱型、六方晶)であり、入射角を1度として測定した。この結果からわかるように、この実施例では、(002)よりも(100)の強度が非常に強くなっている。
【0072】
さらに、この実施例について、入射角を0度として、対称反射測定を実施した。なお、グラフ中(*)は装置由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している(なお、対称反射測定において、そのピークが消失していることからも装置由来のピークであることがわかる。)。
【0073】
なお、比較例のXRDプロファイルの一例を、図15に示す。この比較例は、Al/(Ti+Al)=0.6(NaCl型、立方晶)であり、入射角を1度として測定した。ウルツ鉱型(空間群P6mc(No.186))として指数付けできるピークは検出されておらず、NaCl型単独相であることを確認した。
【0074】
次に、ウルツ鉱型材料である本発明の実施例に関して、さらに結晶構造と電気特性との相関を詳細に比較した。
表2及び図16に示すように、Al/(Ti+Al)比がほぼ同じ比率のものに対し、基板面に垂直方向の配向度の強い結晶軸がc軸である材料(実施例5,7,8,9)とa軸である材料(実施例19,20,21)とがある。
【0075】
これら両者を比較すると、Al/(Ti+Al)比が同じであると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、B定数が100K程度大きいことがわかる。また、N量(N/(Ti+Al+N))に着目すると、a軸配向が強い材料よりもc軸配向が強い材料の方が、窒素量がわずかに大きいことがわかる。理想的な化学量論比:N/(Ti+Al+N)=0.5であることから、c軸配向が強い材料のほうが、窒素欠陥量が少なく理想的な材料であることがわかる。
【0076】
【表2】
【0077】
<結晶形態の評価>
次に、薄膜サーミスタ部7の断面における結晶形態を示す一例として、熱酸化膜付きSi基板S上に成膜された実施例(Al/(Ti+Al)=0.84,ウルツ鉱型、六方晶、c軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部7における断面SEM写真を、図17に示す。また、別の実施例(Al/(Ti+Al)=0.83,ウルツ鉱型六方晶、a軸配向性が強い)の薄膜サーミスタ部7における断面SEM写真を、図18に示す。
これら実施例のサンプルは、Si基板Sをへき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
【0078】
これらの写真からわかるように、いずれの実施例も高密度な柱状結晶で形成されている。すなわち、c軸配向が強い実施例及びa軸配向が強い実施例の共に基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、Si基板Sをへき開破断した際に生じたものである。
【0079】
<膜の耐熱試験評価>
表1に示す実施例及び比較例において、大気中,125℃,1000hの耐熱試験前後における抵抗値及びB定数を評価した。その結果を表3に示す。なお、比較として従来のTa−Al−N系材料による比較例も同様に評価した。
これらの結果からわかるように、Al濃度及び窒素濃度は異なるものの、Ta−Al−N系である比較例と同じB定数で比較したとき、耐熱試験前後における電気特性変化でみたときの耐熱性は、Ti−Al−N系のほうが優れている。なお、実施例5,8はc軸配向が強い材料であり、実施例21,24はa軸配向が強い材料である。両者を比較すると、c軸配向が強い実施例の方がa軸配向が強い実施例に比べて僅かに耐熱性が向上している。
【0080】
なお、Ta−Al−N系材料では、Taのイオン半径がTiやAlに比べて非常に大きいため、高濃度Al領域でウルツ鉱型相を作製することができない。TaAlN系がウルツ鉱型相でないがゆえ、ウルツ鉱型相のTi−Al−N系の方が、耐熱性が良好であると考えられる。
【0081】
【表3】
【0082】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1,1B,21,31…温度センサ、2,22,32…リードフレーム、3…センサ部、4…保持部、6…絶縁性フィルム、7…薄膜サーミスタ部、8…櫛型電極、8a…櫛部、9…パターン電極、10…保護膜
図1
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図2
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18