(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
走行動力を多段階に変速切替えする主変速装置(11,12)と、接続圧力制御可能に走行動力の伝達を調節する走行クラッチ(13)と、走行動力の車速帯域を切替える副変速機構(14)とを直列して備え、ブレーキ操作に応じて制動可能な走行車輪(2,3)に内燃式原動部(4)から受けた走行動力を伝達する作業車両用の多段変速走行伝動装置において、
上記ブレーキ操作の検出スイッチ(24s)を設け、この検出スイッチ(24s)によりブレーキ操作と対応して上記走行クラッチ(13)を所定の制動対応接続圧(Pb)に接続制御する構成とし、さらに、
前記副変速機構(14)の切替え位置毎に前記制動対応接続圧(Pb)を設定し、その切替え位置と対応する制動対応接続圧(Pb)により前記走行クラッチ(13)を接続制御することを特徴とする作業車両用の多段変速走行伝動装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について以下に図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の適用対象となる作業車両の一例として示すトラクタの全体側面図である。この作業車両1は、前後の走行車輪2,3によって圃場作業可能に機体を支持し、機体前部のエンジン4の動力を受けて走行車輪2,3に変速伝動する変速伝動系を内設した走行伝動装置5であるトランスミッションを備える。この走行伝動装置5は、また、作業機伝動系を内設することにより、PTOと略称される作業動力供給部6に伝動し、後部ヒッチに装着した耕耘用ロータリ等の作業機Wを駆動可能に構成される。
【0017】
(伝動系)
走行伝動装置5は、
図2の伝動系統展開図に示すように、エンジン動力を受ける走行入力軸11aから2系統並列配置のクラッチによりそれぞれ高低の変速比で変速伝動する2つの高低速変速機構11,11と、それぞれの系統毎に選択動力をパワーシンクロシフトにより選択して高低の変速比で変速伝動する2つの主変速機構12,12と、両系統の出力を共通に受けてその正転と逆転の2つの入力からクラッチにより正逆切替伝動する前後進切替機構13と、その正逆転動力をギヤシフトによって多段(図例は4段)に変速可能な副変速機構14とを備えることにより、多段変速可能にエンジン動力を走行出力軸14bに変速伝動し、差動部3aを介して後輪3を駆動するとともに、走行出力軸14bから前輪伝動機構16により選択可能に差動部2aを介して前輪2を駆動する走行用の変速伝動系を備え、また、作業機伝動系としてPTO変速伝動部15を設けてその作業クラッチ入力軸である作業入力軸15aに分岐動力を受け、PTO軸15bを介して作業動力供給部6に伝動する。
【0018】
上記走行伝動装置5の走行伝動系について詳細に説明する。
両系統の高低速変速機構11,11は、それぞれ、高低変速軸11b,11bに高速低速2つの変速ギア11c、11dを軸支してそれぞれの対軸伝動を選択する2つのクラッチによって構成され、エンジン動力を受ける走行入力軸11aから2つの変速ギア11c,11dによって変速した高低2速から選択して接続する。それぞれの高低2速は、両高低速変速機構11,11について変速比を共通の「H速」と「L速」に構成する。
【0019】
両主変速機構12,12は、それぞれ、上記高低変速軸11b,11bの伝動下手側に高速低速2つの変速ギア12c,12dを軸支してそれぞれの対軸伝動をシフト操作により噛合選択する2つのシンクロシフトメッシュから構成され、2つの変速ギア12c,12dによって変速された高低2速から選択して高速または低速の変速動力を両主変速機構12,12に共通の主変速軸12bに出力する。それぞれの高低2速は、系統が異なる主変速機構12,12の間で変速比の順位が隣接するように、例えば、一方が「第4速」と「第2速」、他方が「第3速」と「第1速」の計4速によって構成する。
【0020】
前後進切替機構13は、正逆転変速軸13bに正転逆転2つの変速ギア13c,13dを軸支してそれぞれの対軸伝動を接続圧力制御可能に選択する2つのクラッチから構成され、主変速軸12bおよびその逆回転のカウンタ軸13eから対応して2つの変速ギア13c,13dに受けることにより、正逆転動力を切替えて正逆転軸13bに変速接続する。また、前後進切替機構13は、クラッチペダル操作に応じて接続圧力制御することにより、走行動力の伝達を調節する走行クラッチとして機能する。
【0021】
副変速機構14は、走行出力軸14bの上手側に軸支した高速側の高低2つの変速ギア14c,14dの対軸伝動をシフト操作によって選択する2つの噛合ギヤによる第1選択部14eと、走行出力軸14bの下手側に同様に軸支した低速側の高低2つの変速ギア14f,14gの対軸伝動をシフト操作によって選択する2つの噛合ギヤによる第2選択部14hと、その2つの変速ギア14f,14gにそれぞれ減速伝動する2つの中間減速ギアセット14j,14kを正逆転変速軸13bの伝動下手側に軸支して「H速」、「M速」、「L速」、「LL速」の計4速を切替え可能に構成される。
【0022】
詳細には、第1選択部14eの高低2つの変速ギア14c,14dは、正逆転変速軸13bから「H速」と「M速」の高低2速を対応して伝動することにより、走行出力軸14bに「H速」と「M速」を切替え可能に伝動し、その低速側の変速ギア14dを第1選択部14eの下手側に配置して中間減速ギアセット14jを介して第2選択部14hの「L速」の高速側の変速ギア14fに伝動するとともに、この「L速」の変速ギア14fから中間減速ギアセット14kを介してその下手側配置の「LL速」の低速側の変速ギア14gに伝動することにより、走行出力軸14bに「L速」と「LL速」を切替え可能に伝動する。
【0023】
前輪伝動機構16は、走行出力軸14bから同速および増速を選択可能に伝動する2つのクラッチにより構成され、両クラッチを中立とする後輪駆動走行と、同速のクラッチによる4輪駆動走行と、さらに増速のクラッチによる前輪増速駆動走行を可能とする。
【0024】
このようにして、走行伝動装置5は、4速の切替えが可能に直列する高低速変速機構11と主変速機構12を2系統並列して切替え可能な主変速装置により8速の走行変速を可能に構成し、また前後進切替機構13により正逆転を切替え、副変速機構14により4段階(H,M,L,LL)に速度帯域を切替えてエンジン動力を走行車輪2,3に伝達しつつ、PTO変速伝動部15によりPTO軸6の回転を多段階に変速して作業機Wに動力を供給する。
【0025】
上記構成の高低速変速機構11,11の切替え駆動は切替弁によってクラッチを作動させ、また、前後進切替機構13の切替え駆動は比例圧力制御弁によって伝動力制御可能に構成することにより、圧力制御の際に、クラッチやバルブ、制御部の駆動回路のそれぞれの特性のバラツキに対応した安定化が可能となる。すなわち、変速時のクラッチ駆動中に常にどちらか接続状態となる側のクラッチ圧力コントロールすることで、個々の比例弁制御が不要となり、製品間の変速特性のバラツキを小さく抑えて低コストで安定したシステムを構成することができる。
【0026】
また、高低速変速機構11,11と共にエンジン動力を作業入力軸15aに受け、作業機動力制御用のPTO変速伝動部15を設けることにより、高低速変速機構11,11と作業入力軸15aに常時エンジン動力が供給されることから、最小限の伝動構成によって走行系と作業系にエンジン動力を供給する走行伝動装置5を構成することができる。
【0027】
上記構成の主変速機構12,12は、2系統のそれぞれの上下流両側をクラッチ式の高低速変速機構11,11と前後進切替機構13とによって挟まれることから、これら上手と下手のクラッチ部材によりエンジン4と走行車輪2,3の両方からの回転伝達の遮断が可能となり、エンジン回転と車速との回転差を受けることがないので、小容量のシンクロ機構によって迅速に変速切替えができる。したがって、上記走行伝動装置5は、走行中における変速切替性を確保した上で、主変速機構12,12の小型化によるトランスミッション全長の短縮化が可能となり、それに伴う車両のコンパクト化によって作業車両の小回り性の向上に寄与することができる。
【0028】
また、上記構成の前後進切替機構13は、前進ギヤと後進ギヤをクラッチにより切替え可能に構成することによりコンパクト化できるので、クラッチの前或いは後にギヤシフト式の前後進切替機構を設ける場合より、必要な前後長寸法を短縮して構成することができる。
【0029】
(変速構成)
上記構成の変速伝動系の具体的な伝動構成は、
図3の変速段別リストに示すように、低速Lと高速Hを切替える高低速変速機構11,11の一方を主変速機構12,12の1速−3速の切替えによる1L、1H、3L、3Hの4変速段、他方を2速−4速の切替えによる2L、2H、4L、4Hの4変速段が選択でき、前進Fと後進Rを切替える前後進切替機構13の組合わせにより、前後進についてそれぞれ8速の多段変速が可能となる。また、主変速機構12,12の系統別に不連続の変速段を切替え構成することにより、両系統を同時に変速駆動することが可能となることから、1段ずつの順次変速の際に最小限の伝動遮断で円滑な変速が可能となる。
【0030】
上記構成の走行伝動装置5は、変速を含む走行制御のための操作具と変速制御用の制御部Cを備え、操作具として、踏込操作用のクラッチペダル21、順次式変速指示具である主変速レバー22、前後進選択用の前後進レバー23を設け、
図4のシステムブロック図に示すように、操作具それぞれの操作センサ21s…および各機器の動作センサ12s…、回転センサ4r,13r等の信号を制御部Cに入力して各変速機器の駆動部11f…を制御可能な変速制御システムを構成するとともに、ノークラッチ設定スイッチ21nにより後述の連動制御の適用を選択可能に構成する。
【0031】
クラッチペダル21は、クラッチペダルセンサ21sからの踏込量信号を制御部Cに入力し、踏込操作に応じて高低速変速機構11,11と前後進切替機構13とを共に中立に伝動遮断制御し、また、主変速レバー22は、
図5のレバーガイドの見取図に示すように、ポジション1から8までの変速段ポジションとニュートラルNおよびアクセル変速用の自動変速ATのポジションを設け、ニュートラルNのポジションで高低速変速機構11,11と前後進切替機構13の伝動を共に中立とするとともに、主変速機構12,12の両系統をいずれかの変速段に切替え伝動制御することにより、エンジン側と走行車輪側のいずれについてもクラッチのつき回りによる動力伝達が防止され、また、変速済みの主変速機構12,12により、クラッチペダル21の戻し操作に応じて動力伝達が開始されることから、主変速機構12,12のシンクロ動作特性によることなく、応答性を確保することができる。
【0032】
主変速機構12,12は、非伝動側の系統についても変速を完了状態に保持するように構成し、主変速レバー22の指示に応じて異なる変速位置に保持する。例えば、主変速レバー22の指示がポジション2の場合は、1速−3速の系統の高低速変速機構11を高速H側、1速―3速の主変速機構12を1速に変速制御し、前後進切替機構13を伝動制御し、この時、他の2速―4速の系統は、高低速変速機構11を中立、主変速機構12を2速に変速制御した状態に保持することにより、レバー操作で変速した時は主変速機構12が既に変速済みであることから、多くの場合において変速操作と連動した切替えが不要となるので、変速時の機器動作を少なくして変速完了までの時間を最小限に短縮することができる。
【0033】
主変速レバー22の変速指示位置と主変速機構12,12の変速位置の関係は、少なくとも以下の如くに制御する。すなわち、主変速レバー22の指示位置が1〜3速の場合は両系統の変速段を1速と2速とし、指示が6〜8速の場合は変速段を3速と4速とし、指示が4,5速の場合はいずれかの変速段に変速することにより、変速制御処理のアルゴリズムが簡単になり、変速操作と連動したシンクロシフト式の変速部の変速動作を少なくすることができる。
【0034】
変速の際の詳細な制御は、主変速機構12,12の変速が完了してから動力伝達できるようにクラッチ伝動を制御し、高低速変速機構11,11は変速後のクラッチのミート位置までのピストン移動時間を加味し、クラッチを変速前のポジションに伝動状態で保持するように制御することで、動力遮断を極力少なくすることができる。
【0035】
また、変速前に高低速変速機構11,11の中立動作とほぼ同時に前後進切替機構13を減圧側に駆動し、変速後に高低速変速機構11,11のクラッチの推定ミートタイミングに合わせて減圧側から徐々に接続トルクを大きくする側(昇圧)に駆動することにより、変速した際の動力遮断が少なく、二重噛みなしに制御できるので、変速のフィーリングを改善することができる。
【0036】
変速指示変化幅が複数段以上の場合は中間変速段への変速を介して最終変速目標位置に変速するように、主変速レバー22による変速位置の変化量によって変速方式を変更する。例えば、1速から8速などの車速差が大きい場合は、一気に変速するとその車速差に応じた加速度が発生して変速ショックが大きくなるので、複数段の変速の際は、1変速段から2変速段を間に置いた中間変速位置を入れて変速することで、車速差を少なくした変速によって変速ショックを和らげることができる。
【0037】
主変速レバー22の変速位置は、ポテンショメータ等のアナログ量で検出し、検出刻み量をほぼ一定にした刻み幅の範囲で変速指示位置を決定するように構成することにより、指示位置毎に幅を設けて変速指示位置を容易に確定することができる。また、検出値をアナログ量とすることで操作を継続しているのか完了したのか判断でき、例えば、1速から4速に変速している過程における2速位置なのか、1速から2速までの操作の完了による2速なのか、その判断が可能となる。
【0038】
この場合において、操作方向に対して、変速指示位置範囲にヒステリシスを設ける等の方策により、変速制御の安定化を図ることができる。例えば、1速と2速の検出が繰り返し変化する等の切替わりの位置での検出のチャタリング的な検出を防止することができる。
【0039】
(中間変速段制御)
次に、中間変速段による変速制御について説明する。
変速制御部Cの制御処理により、変速指示具22の操作途中と操作終了との操作区分を所定の基準によって判定し、操作途中の判定であれば、全変速段から選択した所定の中間変速段の通過により、通過した中間変速段に順次切替え、その終了に続いて操作終了の判定による変速段に切替える。
【0040】
このように変速制御を構成することにより、高低速変速機構11、主変速機構12、および前後進切替機構13からなる変速伝動系を変速指示具22の操作に応じて変速制御部Cにより前後進の多段の変速段に切替えができ、また、変速指示具の操作状況について操作途中と操作終了の操作区分を判別し、操作終了までの中間変速段の切替を経て操作終了の判定による変速段に切替えられる。したがって、多段の変速段の一部を選択して中間変速段を設定することにより、変速指示具を大きく操作する場合にあっても操作開始とともに迅速に変速段の切替えが開始され、また、変速指示具を急速に操作した場合にあっても、操作終了時の変速段まで中間変速段の順次切替えを経て変速ショック無しに円滑な変速が可能となる。
【0041】
変速指示具22の操作途中と操作終了の操作区分は、変速指示具の操作速度に基づいて操作状況を判定することができ、この判定区分により、変速指示具を一気に操作した場合は操作終了時を含む中間点毎に変速され、また、操作を低速で継続した場合は1段ずつの変速となり、いずれも操作に対応して制御動作されることから、作業者が違和感なく操作することができる。
【0042】
(レバー中立制御)
変速指示具22を中立Nにポジション操作した場合については、高低速変速機構11,11と前後進切替機構13とを共にクラッチオフして伝動遮断するとともに、主変速機構12,12の両系統をそれぞれの低速側の変速段に伝動制御することにより、次に変速指示具22による変速操作が開始された際に、主変速機構12,12のシンクロ動作を要することなく、上下流両側の変速機構11,13のクラッチの伝動動作とともに変速伝動が可能となるので、変速動作の応答性を向上することができる。
【0043】
(伝動中立制御)
副変速14の中立操作を除く変速伝動系の中立制御は、高低速変速機構11,11と前後進切替機構13を共に中立に伝動制御するとともに、主変速機構12,12の両系統を所定の変速段に伝動制御することにより、二重噛み状態の主変速機構12,12がその上下流両側で伝動遮断状態となることから、つき回り動力による走行車輪2,3への伝動が遮断されて機体の安定を確保することができる。
【0044】
(変速制御例)
次に、変速制御動作の具体例について説明する。
まず、停車時の変速伝動系の変速伝動制御は、
図6(a)の伝動構成リストに示すように、2系統の高低速変速機構11,11と前後進切替機構13をオフに制御するとともに、2系統の主変速機構12,12については、主変速レバー22の位置と対応した位置に伝動制御する。
【0045】
例えば、前後進レバー23を中立のN位置に操作して停車中のときは、主変速レバー22が1速位置であれば、2系統の主変速機構12,12のみを準備のために立ち上げて1速オンと2速オンに伝動制御する。また、クラッチペダル21を踏込み位置に操作して停車中のときは、主変速レバー22が1速位置であれば、同様に、2系統の主変速機構12,12のみを準備のために立ち上げて1速オンと2速オンに伝動制御する。
【0046】
また、発進操作時の変速伝動系の変速伝動制御は、
図6(b)の伝動構成リストに示すように、前後進レバー23または、クラッチペダル21の操作と対応して高低速変速機構11と前後進切替機構13をクラッチにより伝動制御する一方で、2系統の主変速機構12,12についてはその伝動状態を維持する。
【0047】
(ブレーキ対応制御)
次に、ブレーキ対応制御について説明する。
図7のブレーキ対応クラッチ制御のタイミングチャートに示すように、走行クラッチである前後進切替機構13のクラッチについて、伝動接続圧Ptで走行中に、オペレータのブレーキ操作によって検出スイッチ24sがブレーキ操作検出信号を発した時T0に、例えば半クラッチ等の滑り伝動による所定の制動対応接続圧Pbに接続制御し、ブレーキ操作の終了時T1からの経過に応じて制動対応接続圧Pbを初期圧として一定傾斜で徐々に増圧制御する制御処理を設ける。
【0048】
上記制御処理により、ブレーキ操作に応じて前後進切替機構13のクラッチの滑りにより車両を停止保持しうる走行動力によって走行車輪2,3が駆動されることから、クラッチ操作を要することなくブレーキ操作のみで、エンジン停止を招くことなく安定して走行車両を停止することができ、次いで、ブレーキの終了によっても走行車輪2,3のトルクにより安定して車両を停止保持することができるので、路面勾配等によりオペレータの意に反した車両移動を招くことがなく、再発進等のための次の操作に移行することができ、また、急勾配等によって車両後退が始っても、一定傾斜で初期圧Pbから徐々に増圧制御されるので、それ以上の後退が抑制されるとともに、急発進を招くことなく、円滑に再発進に移行することができる。
【0049】
上記制御においては、制動対応接続圧Pbは、高速ほど接続圧が高くなるように、副変速位置に対応して設定した圧力を用いる。 例えば、伝動接続圧を20kgf/cm2の場合において、副変速位置別の制動対応接続圧Pbを、「高速」のH位置で2.3〜2.4kgf/cm2、「中速」のM位置で1.8〜1.9kgf/cm2、「低速」「超低速」のL,LL位置で1.4〜1.5kgf/cm2とする(「cm2」は平方センチメートルを表す。以下同様とする。)。
【0050】
また、上記傾斜増圧は、一定時間(例えば、0.1秒)毎に少なくとも制動対応接続圧Pbの1/10以下ずつ徐々に増圧し、増圧勾配は、高速ほど急勾配になるように、副変速位置に対応して設定した勾配を用いる。 例えば、副変速位置別の勾配を、「高速」のH位置で100msecに0.2〜0.3kgf/cm2、「中速」「低速」「超低速」のM〜LL位置で100msecに0.1〜0.2kgf/cm2とする。
【0051】
このように、副変速機構14の切替位置と対応する制動対応接続圧Pbと傾斜増圧を用いて走行クラッチ13を接続制御することにより、走行伝動装置5の伝動時の減速比に基づいた伝動制御が可能となるので、走行車輪2,3の踏面トルクが相違する多様な作業条件について共通してバランスの良い取扱いが可能となる。
また、ブレーキ操作の検出スイッチ24sは、車両のストップランプ用のスイッチと共用することにより、部品点数を削減することができる。
【0052】
(アクセル移行制御)
次に、再発進のためのアクセル移行制御について説明する。
前記ブレーキ対応制御において、アクセルペダルの操作があった場合は、
図8のタイミングチャートに示すように、ブレーキ終了後のアクセルペダル操作に基づき、同ペダル操作開始時T2から比較調節により昇圧して通常の伝動接続圧Ptに保持するアクセル移行対応としての昇圧パターンの制御処理を設けることにより、オペレータの走行開始の意思に応じた発進対応動作が可能となる。
【0053】
上記アクセルペダル移行対応の昇圧パターンにおける比較調節は、アクセルペダル操作時T2に上記制動対応接続圧Pbと同等以下の圧力Paから前記ブレーキ終了による傾斜増圧より急勾配で昇圧を開始し、このアクセル対応昇圧とブレーキ終了による傾斜増圧とが等しくなった時Teから高い方の圧力によりクラッチを制御し、この比較調節により、発進時のショックを抑えつつオペレータの発進意思に沿った早めのトルクアップが可能となる。
【0054】
(クラッチ移行制御)
また、前記ブレーキ対応制御において、クラッチペダルの操作があった場合は、
図9のタイミングチャートに示すように、ブレーキ操作の終了後において、クラッチペダル操作開始時T3以降のペダル操作量と対応する指示圧とブレーキ終了による傾斜増圧とが等しくなった時Teから低い方の圧力によりクラッチを制御することにより、クラッチペダル操作によって示される動力遮断のオペレータの意向に沿うことができる。
【0055】
さらに、ブレーキ操作中にあっては、
図10のタイミングチャートに示すように、クラッチペダル操作によって示される動力遮断のオペレータの意向に沿うことができるとともに、誤ってクラッチペダルの戻し操作があっても、この誤操作に伴うエンジン停止を防止することができる。
【0056】
また、前記ブレーキ対応制御における制動対応接続圧Pbは、作動油温度変化や、圧力の昇降方向によるヒステリシスによって多少の変動があり、この変動により、坂道における保持や、平坦路における車両駆動を止めるためのブレーキ力(踏力)に影響することから、ブレーキ操作の間について規定時間毎に常に補正を行って適正範囲内に設定することにより、安定した効果を得ることができる。
【0057】
補正は、オーバーシューによる挙動(高めにオーバーシューすると、ブレーキ操作を上まわって前へ動こうとする挙動が現れる)を車両状態の観察によってその補正方向を判断することができ、また、補正量が最小分解能に近いコントロール(0.1〜0.15kgf/cm2)となることから、離散的なデジタル量を越える場合に、単一の目標点についてハンチング状態となって収束しにくくなり、すなわち、
図11の補正による圧力経過特性図における補正例(c)に示すように、許容幅無しに単一の目標点によって補正すると、0.3〜0.4kgf/cm2の補正のたびにバラツキが発生する状態が多くなるので、補正例(b)に示すように、目標点について所定の許容範囲を設けることにより、高めの安定、または、低めのオーバーシュートにより収束が容易となる。
【0058】
(機能選択)
次に、上記ブレーキ対応制御に関する適用除外制御について説明する。
随時の切替え操作が可能な機能選択スイッチ21nであるノークラッチ設定スイッチ21nによる機能選択を条件として、上記ブレーキ操作を検出したときに走行クラッチ13を所定の制動対応接続圧Pbに接続制御する制御処理を設けることにより、状況に応じてオペレータが適用をコントロールすることができ、上記機能の適用を要しない場合には、制動対応接続圧Pbの接続制御による走行クラッチ13の負荷を抑えてオペレータの意向に基づく車両走行が可能となる。
【0059】
この場合において、ノークラッチ設定スイッチ21nは、非ロック式でメモリー機能による記憶保持型に構成することにより、エンジン停止後においてもスイッチ操作状態が維持されることから機能の入れ忘れを防止でき、また、機能が適用しえない場合にはシステム側で機能を不適用として処理し、機能の選択を制限することができる。
【0060】
(車速対応制御)
次に、車速対応による走行クラッチ13の制御について説明する。
ブレーキ操作対応で走行クラッチ13を制動対応接続圧Pbに接続制御するブレーキ対応制御において、ブレーキ操作開始時T0に走行車両が所定の基準車速以上である場合に、ブレーキ操作開始時T0からの所定時間Tfの範囲について走行クラッチ13の接続を開放する制御処理を設ける。
【0061】
上記制御処理により、所定の基準車速(例えば、5km/h)以上で車両走行中におけるブレーキ操作の開始から所定時間Tf(例えば、1秒間)の範囲について走行クラッチ13の開放によって動力伝達が遮断されることから、低減速伝動の車輪の制動力が制動対応接続圧Pbの走行クラッチ13を介して作用することによるエンジン停止を回避でき、また、エンジン回転の低下が見込まれる所定時間Tfの経過以降については、制動対応接続圧Pbによる安定保持に移行することができる上に、車輪ロック時を除く限定的な車速検出手段である走行伝動系に基づく車速検出を適用することにより、急ブレーキにより駆動車輪がロックされる場合をカバーして、容易かつ確実に車速を検出することができる。
【0062】
また、車速対応による走行クラッチ13の他の制御例について説明すると、ブレーキ操作の開始から終了までの範囲T0〜T1で、走行車両が所定の基準車速以上となる間について、走行クラッチ13の接続を開放する制御処理を設けることにより、ブレーキ操作の開始から終了までの範囲で所定の基準車速以上である間について、走行クラッチ13が開放されて伝動が遮断されることから、低減速伝動の車輪の制動力によるエンジン停止を回避でき、ブレーキ操作の終了以降については制動対応接続圧Pbによる安定保持に移行することができる上に、車輪ロック時を除く限定的な車速検出手段である走行伝動系に基づく車速検出を適用することにより、駆動車輪のロックを生じないブレーキ操作の場合について容易かつ確実に車速を検出することができる。
【0063】
さらに、ブレーキの操作開始時T0および操作中における車速対応による走行クラッチ13の制御例について説明すると、ブレーキの操作開始時T0に走行車両が所定車速以上の場合に操作開始時T0から所定時間Tfの範囲と、ブレーキの操作開始から操作終了までの範囲で走行車両が所定車速以上の間について、走行クラッチ13の接続を開放する制御処理を設けることにより、ブレーキ操作に伴うエンジン停止を招く事態を幅広く回避するとともに、その後については制動対応接続圧Pbによる安定保持に移行することができるとともに、車輪ロック時を除く限定的な車速検出手段である走行伝動系に基づく車速検出を適用することにより、ブレーキ操作による駆動車輪のロックの有無に関係なく、容易かつ確実に車速を検出することができる。
【0064】
(複数クラッチ制御)
次に、走行伝動系の他のクラッチの制御により動力伝達を遮断する例について説明する。
図12のタイミングチャートに示すように、ブレーキ操作T0〜T1対応で制動対応接続圧Pbに走行クラッチ13を制御するとともに、ブレーキ操作開始時T0からの所定時間Tfの範囲について、2つの高低速変速機構11,11の伝動側のクラッチの接続を開放し、その後に再接続する制御処理を設ける。
【0065】
上記制御処理は、上記同様の伝動調節効果を奏するのみならず、別のクラッチの開放と接続の高速動作により、走行クラッチ13の開放による初期ポジションから制動対応接続圧Pbに戻す制御より高速化することができるとともに、走行クラッチ13の圧力制御により、車速低下に至るような負荷を受けたときに、急加速を抑えることができる。また、ブレーキ操作中を含む車速対応制御についても、別のクラッチにより開放と接続とを行うことにより、同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
(誤動作対応)
次に、ブレーキ操作信号の誤検出時の対応制御について説明する。
図13(a)のタイミングチャートに示すように、走行時の揺れ等に伴うブレーキペダルの動きをブレーキスイッチが24s検出した場合は、制動対応接続圧Pbとその後の所定傾斜の増圧制御によるブレーキ対応制御により車速低下を招くことから、
図13(b)のタイミングチャートに示すように、誤検出判定のための所定の規定時間T内のブレーキ操作について、急傾斜の増圧制御による誤検出対応の制御処理を設ける。
【0067】
この制御処理により、瞬間的なブレーキ検出に伴って走行クラッチ13が制動対応圧Pbに接続制御されたときに、アクセル操作等の発進操作を要することなく、急傾斜の増圧制御によって元の走行状態に即時復帰して走行を継続することが可能となる。
【0068】
また、
図13(c)のタイミングチャートに示すように、所定の規定時間Tについて検出しないオンディレーを設けることにより、所定の規定時間Tを越えるブレーキ操作に限りブレーキ対応制御の適用が可能となる。また、
図13(d)のタイミングチャートに示すように、所定の規定時間Tのオンディレーを経てブレーキ対応制御を開始し、検出データの終了により急傾斜の増圧制御に切替えることにより、元の接続圧Ptによる伝動を迅速に回復することができる。
【0069】
また、上記誤検出判定のための規定時間Tのほかに、極力短い規定時間(例えば、100msec以下)を設けて双方の条件によりコントロールすることにより、安全な走行と操作時の素早い圧力保持が可能となり、また、走行クラッチ13の圧力制御により、車速低下に至るような負荷を受けたときに、急加速を抑えることができる。
【0070】
以上におけるクラッチ圧制御は、ブレーキ操作と連動して走行クラッチ軸の発生トルクを制御することにより、ブレーキ操作のみによって走行の停止、発進が可能となる。また、ブレーキペダル操作の検出スイッチによる検出信号に応じて走行クラッチ13の発生トルクを所定の低トルクで保持する制御処理を設け、このトルク基準の制御により、半クラッチ状態によって的確な機体保持が可能となり、このブレーキペダルに足を触れた状況で走行動力遮断による不安定化を確実に回避することができる。
【0071】
(クラッチ保護)
また、以上のブレーキ対応制御において、ブレーキ操作時間が過大な場合は、半クラッチの多用に対するクラッチ保護のための警告ブザー等によってオペレータに認識させることができる。また、走行クラッチ13の伝動上手側に主変速装置12,13がある変速伝動構成の場合にあっては、ブレーキ操作と連動して主変速位置を所定の低速位置に変更し、ブレーキ操作の終了について適用する制御に基づいて元の変速位置に戻す制御処理を設け、または、エンジン回転を同様に制御することにより、半クラッチ時の入力回転を抑えてクラッチ保護を図ることができる。
【0072】
(自動変速)
上記主変速の変速制御において、変速位置を元に戻すタイミングは、アクセル操作の検出時として適用することにより、自動変速の発進時と同等の操作感を確保することができ、また、元の変速位置までの増速は、アクセル操作開度とエンジン回転数の関係から得られる余裕度マップに基づき、アクセル操作に応じて余裕度の範囲で増速する制御処理を設けることにより、さらに、アクセル変速による自動変速に近づけた操作感を確保することができる。
【0073】
上記における元の変速位置までの増速の場合において、目標位置が元の変速位置と異なる場合は、その後の主変速レバー操作で変速目標位置が変化したときに、現在目標位置の低い側を優先して制御し、レバー位置と目標位置が一致したときに、目標位置をレバー位置とする制御処理を設けることにより、操作レバーと自動制御との2系統の目標位置がある場合に低い方優先として安全側に構成することができる。
【0074】
また、上記自動変速処理は、アクセル操作時に規定の回転以上に操作されている場合は増速を規制し、アクセル操作位置が規定の回転条件以下に操作された後に規制を解除することにより、エンジンが高回転の状態で変速する場合に、高速レンジでは急増速となることがあり、そのようなオペレータの不安感を解消することができる。
【0075】
(ブレーキ検出)
ブレーキ検出スイッチは、ブレーキ作動までの踏込み遊びの範囲のブレーキの作動開始位置に近い側で作用するように構成することにより、ブレーキ解除に際して車両保持力が無くなる早い段階で増圧を開始することができるので、保持圧力を低めに設定することができ、クラッチの保護を図ることができる。また、上記ブレーキ検出位置を遊びによる作動開始位置と一致させることにより、この作動位置をブレーキ遊び調整の目安とすることができる。
【0076】
(前後進切替対応)
ブレーキ踏込みによる制動対応圧保持制御中において、前後進切替操作があった場合は、前後進切替えと昇圧のタイミングを変更し、前後進切替弁13fのオフから所定時間以上の経過後に前後進昇圧弁13gの切替えを行う制御処理を設けることにより、一般に100msec以下程度の前後進切替弁13fの切替え遅れに対応して切替え前のクラッチが作動中の前後進昇圧弁13gによる昇圧作用を受ける事態を防止することができる。
【0077】
(旋回対応)
ブレーキ操作の検出は、左右独立ブレーキの両ブレーキ操作を条件とし、例えば、片側に設けたストップランプ用のスイッチ24sと、左右の連結部に設けた連結検出センサー24wとによる両者の検出、または、左右独立ブレーキのそれぞれの操作検出スイッチによる両者の検出とすることにより、片側操作による旋回走行時における走行停止を回避することができる。