(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
純チタンおよびチタン合金は、優れた軽量性、耐熱性、耐腐食性等を有することから、化学・電気プラントや、航空機、スポーツ用品など高付加価値製品に欠かせない金属素材である。このような純チタンやチタン合金で製造されるチタン金属製品は、チタン鋳塊に対する圧延や鍛造等の工程を経て製作されるが、チタン鋳塊の製造技術としては、以下に説明する消耗電極式真空アーク溶解VAR(Vacuum Arc Remelting)法、電子ビームを用いたハース溶解EB(Electron Beam)法、及びプラズマアークを用いたハース溶解PAM(Plasma Arc Melting)法などが存在する。
【0003】
消耗電極式真空アーク溶解VAR法は、純チタンまたはチタン合金からなるチタン鋳塊の溶解方法として従来から多用される技術である。このVAR法は、高真空、あるいは不活性ガス(Ar、He)雰囲気下の溶解炉内で、チタン鋳塊の原料によって予め製造された消耗電極と水冷銅るつぼ内の溶湯との間にアーク(直流アーク)を発生させ、熱源となるアーク熱により消耗電極を溶解し、溶解した消耗電極の溶湯からチタン鋳塊を得る方法である。
【0004】
VAR法では、消耗電極の溶解によって得られたチタン鋳塊の成分の均一化を目的として成分偏析を抑制するために、通常は、1回の溶解で得られたチタン鋳塊を再度溶解するといった2回溶解を行うことが多い。特に、航空機用途のチタン合金では、成分偏析を抑制して均質化を図るため、3回溶解を行うことがある。
ハース溶解EB法は、スポンジチタンやスクラップなどの溶解原料を水冷銅ハースへ供給し、電子ビームEB(Electron Beam)を熱源としてこれら溶解原料を加熱した上で連続的に水冷銅鋳型に流し込み、この鋳型からの引き抜きによってチタン鋳塊を製造する技術である。このハース溶解EB法では、高真空環境下において、水冷銅鋳型内の湯面温度の均一性の保持と凝固抑止のために、溶湯表面に電子ビームを照射しながら引き抜きを行う。このとき、高いエネルギー密度を有する電子ビームを高真空環境下で照射することによって溶湯が蒸発してしまうので、溶解原料の成分制御が難しく、主に純チタン鋳塊の製造に好適な技術であるといえる。
【0005】
ハース溶解PAM法は、スポンジチタンやスクラップなどの溶解原料を水冷銅ハースへ供給し、プラズマアークを熱源としてこれら溶解原料を加熱した上で連続的に水冷銅鋳型に流し込み、この鋳型からの引き抜きによってチタン鋳塊を製造する技術である。このハース溶解PAM法では、不活性ガス環境下において、プラズマアークを溶湯表面に照射しながら引き抜きを行う。ハース溶解PAM法は、大気圧近傍の不活性ガス環境下で実施されるため溶湯の蒸発ロスが少なく、溶解原料の成分制御が比較的容易であるので、チタン合金の鋳塊製造に好適な技術であるといえる。
【0006】
ハース溶解EB法及びハース溶解PAM法は共に、VAR法のように消耗電極を作成する必要が無く、溶解原料から直接にチタン鋳塊を製造できるため、VAR法より生産性の高い溶解方法として注目されている。
特許文献1は、ハース溶解EB法の一例であって、溶湯表面を電子ビームで照射しながら引き抜きを行う高融点金属インゴットの製造方法を開示している。
【0007】
特許文献1の高融点金属インゴットの製造方法は、電子ビーム溶解炉を構成する鋳型内に溶湯を供給して鋳型プールを形成しつつ、上記鋳型プールの底部近傍の冷却固化したインゴット部分を回転させながら引き抜く高融点金属インゴットの製造方法であって、上記鋳型プール面に照射する電子ビームのうち、鋳型プールの中心部に比べて、上記鋳型に隣接した鋳型プールの周縁部に沿った電子ビームのエネルギー密度を高めて照射することを特徴とするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のVAR法は、チタン鋳塊を得るために消耗電極の溶解を複数回繰り返す工程を有するので、チタン鋳塊を得るための工程が多く時間がかかり、かつ消耗電極の溶解に多くのエネルギーを用いるという点が問題であり、生産性の高い方法であるとは言えない。
一方、上述の特許文献1で採用されるハース溶解EB法は、溶解した原料から直接にチタン鋳塊を製造できるためVAR法より生産性の高い溶解方法である。しかし、ハース溶解EB法は、完全に溶解された原料を水冷銅ハースへ供給しなくてはならず、原料を完全に溶解するために多くのエネルギーを必要とするという点が問題である。また、ハース溶解EB法は、高真空環境下で電子ビームを用いるが故に溶湯が蒸発してしまうという問題も有しており、溶解原料の成分制御が要求されるチタン合金の鋳塊製造に適しているとは言い難く、むしろ純チタンの鋳塊製造に適した技術であるといえる。
【0010】
このように、VAR法より生産性の高いハース溶解EB法においても原料を一旦完全に溶解しなくてはならず、非常に多くのエネルギーを必要とする技術である。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって
、非常に少ないエネルギーしか用いずに高い生産性でチタン鋳塊を製造するチタン鋳塊の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明は、以下の技術的手段を採用し
た。
【0012】
本発明に係るチタン鋳塊の製造方法は、
多孔質チタン原料を
塊状にすること
で多孔質部を成形する成形工程と、前記成形工程で成形された前記多孔質部の表面を真空下で溶解することで前記稠密被覆部を成形する溶解工程と、を備えることを特徴とする。
ここで、前記成形工程が、前記多孔質チタン原料を電子ビーム熔解炉の鋳型に装入することで前記
塊状の多孔質部を成形し、前記溶解工程が、真空下において、前記鋳型内の多孔質部が該鋳型の内面と接触する縁部に対して鋳型中心部に対する電子ビームよりも高い密度の電子ビームを照射し、前記縁部のみを溶解しつつ連続的な引き抜きを行うことで、前記稠密被覆部を形成するとよい。
【0013】
また、前記成形工程が、前記多孔質チタン原料に加圧することで前記
塊状の多孔質部を成形し、前記溶解工程が、真空下において、前記多孔質部の表面に電子ビームを照射して該表面を溶解することで、前記稠密被覆部を形成するとよい。
なお、前記溶解工程の後、熱間および冷間加工を行うことで、稠密なチタン素材を製造するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明
のチタン鋳塊の製造方法によれば、非常に少ないエネルギーしか用いず高い生産性でチタン鋳塊を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に説明する各実施形態は、本発明を具体化した例示であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。従って、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態に開示内容だけに限定されるものではない。
(第1実施形態)
図1〜
図3を参照しながら、本発明の第1実施形態によるチタン鋳塊及びチタン鋳塊の製造方法について説明する。以下の説明では、重力方向を下方といい、その反対方向を上方という。
【0017】
まず、
図1を参照して、本実施形態によるチタン鋳塊1aの構成を説明する。
図1は、本実施形態によるチタン鋳塊1aの概略構成を示す図であり、チタン鋳塊1aを切断して切断面を示すと共に、切断した部分を2点鎖線で表す仮想線で示している。
図1に示すように、チタン鋳塊1aは、例えば直方体形状の鋳塊であって、直方体形状の内部に多孔質チタン原料が鋳塊状に成形された多孔質部2aを備えると共に、該直方体形状の外部に稠密なチタンで構成され、多孔質部2aの全表面を被覆する稠密被覆部3aを備える。
【0018】
チタン鋳塊1aは、多孔質チタン原料としてクロール法で製造された塊状のスポンジチタン4を原料として用いて製造されるが、合金添加元素を内包してプレスした成形ブリケットや、純チタン/チタン合金スクラップなどを用いても製造することができ、純チタン鋳塊やチタン合金鋳塊となる。特に、スポンジチタン4は、周知のとおり、粒径が数ミリメートル(mm)〜数十mmの多孔質のチタン塊である。尚、本実施形態では、純チタン及びチタン合金を、単にチタンと表記して特に区別はしない。
【0019】
以下の説明では、多孔質チタン原料として上述の塊状のスポンジチタン4を用いた場合を説明する。
チタン鋳塊1aの多孔質部2aは、数多くの塊状のスポンジチタン4が、ほとんど溶解することなく又は完全には溶解することなく、鋳塊状に集められて成形されている。従って、スポンジチタン4が内部に元々有している孔や、隣り合うスポンジチタン4間に存在する隙間などは、完全には無くなることなく空間として存在している。そして、この多孔質部2aにおける空間は、後述する稠密被覆部3aを備えたチタン鋳塊1aにおいて真空状態に保持される。
【0020】
チタン鋳塊1aの稠密被覆部3aは、多孔質部2aのスポンジチタン4と同じ材質で構成され、多孔質部2aの外表面全体を覆うと共に、チタン鋳塊1aの外形状を直方体形状に整えるものである。稠密被覆部3aは、例えばスポンジチタン4を溶解することで得られるチタンなど、完全に溶解したチタンで多孔質部2aの外表面を覆って冷却することで形成される殻(シェル)であり、亀裂、開口及び孔などが無く大気等の気体を通さない緻密で非多孔質の稠密なシェルである。稠密被覆部3aは、完全に溶解したチタンで多孔質部2aの外表面を覆うことによって形成されるので、多孔質部2aと一体化してチタン鋳塊1aを構成する。
【0021】
真空下において成形された多孔質部2aの外表面を上述の稠密被覆部3aによって覆えば、真空状態の多孔質部2aを内部に有するチタン鋳塊1aが得られる。
次に、
図2を参照しながら、上述のチタン鋳塊1aを製造する方法について説明する。
図2は、本実施形態によるチタン鋳塊1aの製造方法を実施する電子ビーム溶解炉5の概略構成を示す図である。
【0022】
図2に示す電子ビーム溶解炉5は、上方からスポンジチタン4が装入されて下方からチタン鋳塊1aが引き抜かれる鋳型6、鋳型6に装入されたスポンジチタン4を鋳型6の上方から加熱する電子ビーム(EB)ガン7、及び鋳型6と電子ビーム(EB)ガン7を真空の内部に配置する真空チャンバ8を有している。
鋳型6は、チタン鋳塊1aが引き抜かれる下方の開口(図示せず)の寸法が、例えば250mm×1300mmであり、上方の開口寸法もほぼ同様である。上方の開口から下方の開口までの距離に相当する鋳型6の深さは、これら開口寸法に応じた値となっている。
【0023】
電子ビーム(EB)ガン7は、鋳型6の上方の開口内に向かって電子ビームを照射するものであり、鋳型6の上方に設けられる。EBガン7は、鋳型6内に装入されたスポンジチタン4を鋳型6の上方から電子ビームで走査(スキャン)することによって、スポンジチタン4を加熱するものである。EBガン7は、走査速度及び走査中における電子ビームの出力(密度)を任意に変更することができるので、鋳型6内のスポンジチタン4に対する入熱量を任意に調整することができる。
【0024】
真空チャンバ8は、その内部に鋳型6及びEBガン7を配置する直方体形状の容器又は部屋であり、内部を密閉して排気することで真空状態に保持することができる。
このような構成の電子ビーム溶解炉5を用いたチタン鋳塊1aの製造方法を説明する。
本実施形態によるチタン鋳塊1aの製造方法は、多孔質チタン原料であるスポンジチタン4を鋳塊状に集めることで多孔質部2aを成形する成形工程と、成形工程で成形された多孔質部2aの表面を真空下で溶解することで稠密被覆部3aを成形する溶解工程とを備える。
【0025】
まず、成形工程として、真空状態に保持された真空チャンバ8内(真空下)において、多孔質チタン原料であるスポンジチタン4を電子ビーム熔解炉5の鋳型6に装入することで、装入されたスポンジチタン4を鋳型6の形状に沿った鋳塊状の多孔質部2aとして成形する。
続いて、溶解工程として、真空チャンバ8の真空状態を保持したまま、EBガン7が、鋳型6内で多孔質部2aとして成形されたスポンジチタン4を電子ビームで走査し、該スポンジチタン4を加熱する。この溶解工程においてEBガン7は、鋳型6内の多孔質部2aが該鋳型6の内面と接触する縁部9に対して、鋳型6の中心部(鋳型中心部)における多孔質部2aに対する電子ビームよりも高い密度の電子ビームを照射する。このようにスポンジチタン4に対する入熱量をスポンジチタン4の場所によって変化させて多孔質部2aの縁部9のみを溶解しつつ、縁部9が溶解した多孔質部2aを鋳型6から連続的に引き抜く(連続的な引き抜きを行う)。その後、溶解した縁部9は冷却されるにつれて多孔質部2aと一体化しつつ凝固(硬化)し、凝固シェルである稠密被覆部3aとして形成される。
【0026】
この溶解工程において、鋳型6に装入されて多孔質部2aとして形成されたスポンジチタン4が鋳型6の深さ方向に深ければ、深さ方向全体にわたって縁部9だけを溶解するのが困難となる。つまり、EBガン7は鋳型6の上方からスポンジチタン4を走査するので、装入されたスポンジチタン4が深ければ、鋳型6の下方における縁部9が溶解する前に、鋳型6の上方におけるスポンジチタン4の全面が溶解して湯面となってしまう。
【0027】
そこで、縁部9だけを溶解するのに適切な深さとなるようにスポンジチタン4を鋳型6に装入し、縁部9が溶解した分だけ引き抜きを行って、この引き抜きとほぼ同時に、新たに適切な深さとなるまでスポンジチタン4を装入する。このスポンジチタン4の装入、縁部9の溶解、引き抜きの循環を繰り返すことで、引き抜き方向における側面が稠密被覆部3aで覆われたチタン鋳塊1aが製造される。
【0028】
多孔質部2aの外表面全体を稠密被覆部3aで覆ったチタン鋳塊1aを得るには、引き抜きの開始端であって引き抜き方向における一方の端面と、引き抜きの終了端であって引き抜き方向における他方の端面も稠密被覆部3aで構成しなくてはならない。そこで、まず最初に、引き抜きの開始端における稠密被覆部3aを形成するためのスポンジチタン4を鋳型6内に装入し、その装入されたスポンジチタン4をEBガン7を用いて全て溶解する。その後、スポンジチタン4の装入、縁部9の溶解、引き抜きの循環を繰り返し、引き抜きの終了端における稠密被覆部3aを形成するためのスポンジチタン4を鋳型6内に装入して、その装入されたスポンジチタン4をEBガン7を用いて全て溶解し、成形されたチタン鋳塊1aを鋳型6から引き抜く。この手順を経て、多孔質部2aの外表面全体が稠密被覆部3aで覆われたチタン鋳塊1aを製造することができる。
【0029】
図3を参照しながら、EBガン7が照射する電子ビームの密度について説明する。
図3は、本実施形態による電子ビーム溶解炉5の鋳型湯面への入熱量と鋳型内面と接する凝固シェルの厚みとの関係を示す図である。
上述したように、本実施形態によるチタン鋳塊1aの製造方法によれば、高真空環境下にある電子ビーム溶解炉5の鋳型6内に投入されたスポンジチタン4に電子ビームを照射して、特に、鋳型6の内面とスポンジチタン4が接触する縁部9に対して、鋳型6の中心部よりも高密度な電子ビームを照射して溶解しながら、連続的な引き抜きを行う。
【0030】
このとき、上述の電子ビーム溶解炉5の鋳型6の寸法として例示する、直接熱延が可能なスラブ断面寸法250mm×1300mmを対象に、電子ビーム溶解法による伝熱凝固計算を行った。その結果は
図3のグラフに示す通りである。
図3に示すように、鋳型6内のスポンジチタン4の表面である湯面全体に対して、均一に1.6MW/m
2の熱量を与えたところ、スポンジチタン4と鋳型6の内面(鋳型内面)が接する部分である縁部9から凝固シェルである稠密被覆部3aが成長していく。そこで、鋳型内面から鋳型中心部に向かって30mmの範囲に対して、局所的に電子ビームのエネルギー密度を上昇させたところ、約2.5倍にあたる4.0MW/m
2で湯面全体、つまり鋳型6内で上方に露出したスポンジチタン4の全体が溶融するという結果を得た。
【0031】
この
図3に示す解析の結果より、凝固シェルである稠密被覆部3aの厚みを5mm以下にするには、スポンジチタン4と鋳型内面が接する部分である縁部9に対して、少なくとも2.0MW/m
2の局所入熱があればよいことがわかり、多孔質部2aの全表面を稠密なチタンで被覆したチタン鋳塊1aを製造することが可能となる。
加えて、チタン原料としてスポンジチタン4を用いる本実施形態の場合、鋳型中央部にあるスポンジチタン4にも電子ビームを照射することで、スポンジチタン4に含まれる不純物MgCl
2を揮発除去することができ、チタン鋳塊1aの品質を高位にすることができる。スポンジチタン4に含まれる不純物MgCl
2は、スポンジチタン4が、TiCl
4を反応容器の中でMgにて還元・精製するクロール法によって工業生産されるが故に不可避的に含まれるものである。このように、真空下で多孔質のスポンジチタン4に電子ビームが照射されると、スポンジチタン4内の空孔に存在する液体の物質はほぼ全て気化してしまいスポンジチタン4から除去される。従って、製造されたチタン鋳塊1aにおいて、稠密なチタンで被覆された多孔質部2aの内部に存在する空間はほぼ真空の状態であり、チタン鋳塊1aは、多孔質部2aが稠密被覆部3aによって真空にパックされた構成となる。
【0032】
多孔質部2aが稠密被覆部3aによって真空にパックされたチタン鋳塊1aは、分塊圧延後又は直接に熱間圧延を行なえば、一般的なチタン製造条件であっても、多孔質部2aに内在する真空の空間(空孔)を圧着することができ、内部まで稠密なチタン厚板材を製造することができる。さらに、一般的なチタン材の製造条件にて冷間圧延をおこなうことで、チタン薄板材の製造も可能となる。尚、スポンジチタン4の嵩密度は1〜2g/cm
3程度とされている。純チタンの嵩密度4.5g/cm
3を考慮すると、少なくとも圧下率を70%以上かけて熱間圧延することが望ましい。その上で、圧延後に超音波探傷などのUT検査を行って空間(空孔)の圧着の状態を評価すればさらに望ましい。
【0033】
ここで、稠密被覆部3aは、熱間圧延時に破断してしまうと、多孔質部2aに内在する真空の空間が大気置換されてしまい好ましくない。従って、稠密被覆部3aの厚みはチタン鋳塊1aの表面のいずれの位置においても5mm以上であることが好ましい。
上述のチタン鋳塊1aは、直方体形状であったが、鋳型6として内面が円柱形状である鋳型を用いて鋳型内面に沿った円周の縁部9を溶解すれば、ほぼ円柱形状の多孔質部2aが稠密被覆部3aによって真空にパックされた円柱形状のチタン鋳塊1aを得ることができる。チタン鋳塊1aが円柱形状であっても、直方体形状(矩形状)に成型し、分塊圧延後又は直接に熱間圧延を行なえば、多孔質部2aに内在する真空の空間(空孔)を圧着することができ、内部まで稠密なチタン材を製造することができる。円柱形状のチタン鋳塊1aであれば、連続高温押出/引抜を行うことで、線材の製造も可能になることは容易に想像できる。
【0034】
本実施形態で説明したように、未溶解あるいは半溶融状態のスポンジチタン4である多孔質部2aを真空状態で稠密被覆部3aでパッキングしてチタン鋳塊1aを製造し、製造したチタン鋳塊1aを熱間圧延に供して内在する真空の空間(空孔)である空洞(ボイド)を圧着する。これによって、従来のハース溶解EB法のようにスポンジチタン4を完全に溶解する必要がなく、溶解に必要な電力を抑制することができ、さらに、チタン鋳塊1aを得るまでのリードタイムを短縮することができるため、チタン薄板などの製造において、高い生産性、電力代高騰に対応した地球環境にやさしい省エネルギー素材の製造を実現することができる。
(第2実施形態)
図4を参照しながら、本発明の第2実施形態によるチタン鋳塊及びチタン鋳塊の製造方法について説明する。
図4は、本実施形態によるチタン鋳塊の製造方法を実施する電子ビーム照射装置の概略構成を示す図である。以下の説明では、重力方向を下方といい、その反対方向を上方という。
【0035】
本実施形態によるチタン鋳塊1bは、第1実施形態によるチタン鋳塊1aと同様の構成を有し、第1実施形態の多孔質部2a及び稠密被覆部3aと同様の多孔質部2b及び稠密被覆部3bで構成される。本実施形態では、このチタン鋳塊1bを製造するに際して、
図4に示す電子ビーム照射装置10を用いる。
図4に示す電子ビーム照射装置10は、直方体の鋳塊状に押し固められたスポンジチタン(多孔質鋳塊11)を載置するテーブル(図示せず)、直方体形状の多孔質鋳塊11を上方から加熱する電子ビーム(EB)ガン12、及びテーブルと電子ビーム(EB)ガン12を真空の内部に配置する真空チャンバ13を有している。
【0036】
電子ビーム(EB)ガン12は、第1実施形態によるEBガン7と同様の構成を有し、テーブル上に載置された直方体形状の多孔質鋳塊11に向かって電子ビームを照射するものであり、テーブルの上方に設けられる。EBガン12は、テーブルに載置された直方体形状の多孔質鋳塊11の表面を該多孔質鋳塊11の上方から電子ビームで走査(スキャン)することによって、多孔質鋳塊11の表面を加熱し溶解するものである。
【0037】
真空チャンバ13は、その内部にテーブル及びEBガン12を配置する直方体形状の容器又は部屋であり、内部を密閉して排気することで真空状態に保持することができる。
このような構成の電子ビーム照射装置10を用いたチタン鋳塊1bの製造方法を説明する。
本実施形態によるチタン鋳塊1bの製造方法は、多孔質チタン原料であるスポンジチタン4を型に装入して加圧し押し固めることで、鋳塊状の多孔質部2bである多孔質鋳塊11を成形する成形工程と、成形工程で成形された多孔質鋳塊11の表面に真空下で電子ビームを照射して該表面を溶解することで、稠密被覆部3bを形成する溶解工程とを備える。
【0038】
まず、成形工程として、真空状態に保持された真空チャンバ13内(真空下)において、製造しようとするチタン鋳塊1bとほぼ同形状同寸法の直方体形状の型にスポンジチタン4を装入する。その上で、型内に装入されたスポンジチタン4に加圧(プレス)して該スポンジチタン4を押し固め、製造しようとするチタン鋳塊1bとほぼ同形状同寸法の鋳塊状の多孔質鋳塊11を成形する。
【0039】
続いて、溶解工程として、真空チャンバ13の真空状態を保持したまま、成形工程で成形された多孔質鋳塊11がテーブルに載置され、EBガン12が、該多孔質鋳塊11の表面を電子ビームで走査し溶解する。この多孔質鋳塊11は直方体形状であるためその表面は6つの面で構成されるが、1つの面の走査が終わる度にテーブル上で多孔質鋳塊11を回転させて、6つの面全てを順に走査する。
【0040】
EBガン12によって走査された多孔質鋳塊11の表面を構成する6つの面において溶解したチタンは、冷却されるにつれて多孔質部2b及び隣接する面と一体化しつつ凝固(硬化)し、凝固シェルである稠密被覆部3bとして形成される。この手順を経て、多孔質部2bの外表面全体が稠密被覆部3bで覆われたチタン鋳塊1bを製造することができる。
【0041】
ここで、上述のとおり多孔質鋳塊11の表面は6つの面で構成されるが、各面の平坦度を確保できれば、どの面からでも電子ビームを照射して、順次稠密被覆部3bで被覆することができる。
本実施形態では、真空状態の真空チャンバ13内で多孔質鋳塊11の表面に電子ビームを照射することにより稠密被覆部3bを形成するが、この電子ビームの照射による入熱によって、第1実施形態と同様にスポンジチタン4に含まれる不純物MgCl
2を揮発除去することができるだけでなく、多孔質鋳塊11の内部にまで熱が伝達されることで半溶融化でき、多孔質鋳塊11を成形するときに内部に封じ込められた大気成分も真空置換することができる。このように、本実施形態によるチタン鋳塊の製造方法によっても、チタン鋳塊1bの品質を高位にすることができる。
【0042】
本実施形態における稠密被覆部3bも、チタン鋳塊1bの表面のいずれの位置においても5mm以上の厚みであることが好ましく、EBガン12が照射する電子ビームの密度として、5mm以上の厚みの稠密被覆部3bが形成される程度に多孔質鋳塊11の表面を溶解する密度が選択される。
本実施形態によるチタン鋳塊の製造方法においても、未溶解あるいは半溶融状態のスポンジチタン4である多孔質部2b(多孔質鋳塊11)を真空状態でパッキング(稠密被覆部3b)して、第1実施形態によるチタン鋳塊1aと同様のチタン鋳塊1bを製造し、製造したチタン鋳塊1bを熱間圧延に供して内在する真空の空間(空孔)である空洞(ボイド)を圧着する。これによって、従来のハース溶解EB法のようにスポンジチタン4を完全に溶解する必要がなく、溶解に必要な電力を抑制することができ、さらに、チタン鋳塊1bを得るまでのリードタイムを短縮することができるため、チタン薄板などの製造において、高い生産性、及び省エネルギー化を実現することができる。
【0043】
特に、本実施形態によるチタン鋳塊の製造方法によれば、第1実施形態のように鋳型6を用いないので、直方体形状や円柱形状に限らず様々な形状の多孔質鋳塊11の表面に対して電子ビームを照射することで様々な形状のチタン鋳塊1bを製造することができるという利点がある。
上述の第1実施形態及び第2実施形態によるチタン鋳塊及びチタン鋳塊の製造方法であれば、未溶解あるいは半溶融状態のスポンジチタン4(多孔質部2a,2b)を真空状態でパッキング(稠密被覆部3a,3b)できるので、熱間圧延において多孔質部2a,2bに内在する空洞(ボイド)を真空圧着し、生産性の高い純チタンおよびチタン合金を製造することができる。従って、真空アーク溶解法や、加熱源として電子ビーム又はプラズマアークを用いるハース溶解法によって稠密なチタンインゴットを溶製しなくてもよく、また稠密なチタンインゴットを熱間で分塊鍛造する必要もなくなる。
【0044】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。