(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
炉体と、互いに離間して配置されるとともに昇降可能に設けられ前記炉体の上方から前記炉体の内部に挿入された複数の電極と、前記炉体の周方向及び高さ方向に沿って互いに離間された複数の温度検出位置において前記炉体の温度をそれぞれ検出する複数の温度センサとを備え、各電極に電力を供給して前記炉体内の原料を溶融することにより合金を連続的に製造する電気抵抗炉の運用方法であって、
前記電気抵抗炉の操業を開始する前に、前記温度センサによって検出される温度に対応する複数の管理区分を定めるとともに、各管理区分に管理作業を割り当てることと、
前記電気抵抗炉の操業を開始した後に、各温度センサによって検出された検出温度が前記複数の管理区分のうちのどの管理区分に対応するか判断することと、
前記検出温度が対応する管理区分を判断した後に、該管理区分に割り当てられている管理作業を行うことと
を含み、
前記管理作業は、前記検出温度が上昇した温度検出位置における耐火物の浸食抑制及び該温度検出位置におけるセルフライニングの形成促進の少なくとも一方の作用を有し、
前記管理作業は、
互いに離間された複数の供給位置において前記炉体に供給される前記フラックスの組成を変更することにより前記フラックスの融点を変更するフラックス変更、前記供給位置での前記原料の供給量及びサイズの少なくとも1つを変更する原料変更、及び互いに離間された複数の冷却位置での前記炉体の冷却量を変更する冷却量変更の少なくとも1つと、
前記電極への供給電力量を変更する供給電力量変更、及び前記電極の高さ位置を変更する電極位置変更の少なくとも1つと
を含んでおり、
前記炉体には、前記炉体の最も内側に配置された耐火物からなる最内層と、前記最内層よりも外側に配置された耐火物からなる浸食非許容層とが設けられており、
前記温度センサは、前記浸食非許容層の温度を検出するものであり、
前記管理区分には、
操業が安定しているときの温度で、前記最内層が浸食されていないときの前記浸食非許容層の温度に対応する第1区分と、
前記最内層が浸食される直前の前記浸食非許容層の温度に対応する第2区分と、
前記浸食非許容層が浸食される直前の前記浸食非許容層の温度に対応する第3区分と
が設けられており、
前記管理作業に含まれる前記フラックス変更、前記原料変更及び前記冷却量変更の前記少なくとも1つは前記第2区分から行われ、
前記管理作業に含まれる前記供給電力量変更及び前記電極位置変更の前記少なくとも1つは前記第3区分から行われる
ことを特徴とする電気抵抗炉の運用方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による電気抵抗炉の運用方法が実施される電気抵抗炉の構成を示す断面図であり、
図2は
図1の線II−IIに沿う電気抵抗炉の断面図である。
図1及び
図2に示すように、電気抵抗炉1には、炉体10、炉蓋11、複数の供給手段12、複数の電極13、複数の冷却手段14及び複数の温度センサ15が設けられている。なお、供給手段12、電極13、冷却手段14及び温度センサ15等の電気抵抗炉1に含まれる構成要素の数は、
図1及び
図2に示す数に限定されず、炉体10の大きさ等により適宜変更することができる。
【0010】
炉体10は、原料を溶融して、フェロクロムその他の合金鉄等の合金を製造するための容器である。炉体10には、鉄皮100、第1〜第5耐火物層101
1〜101
5及び注出部102が設けられている。鉄皮100は、炉体10の最も外側に設けられたカップ状の容器体である。第1〜第5耐火物層101
1〜101
5は、鉄皮100の内側に設けられた耐火物によりそれぞれ構成されるものである。第1耐火物層101
1は、鉄皮100に接して配置されている。第2耐火物層101
2、第3耐火物層101
3、第4耐火物層101
4及び第5耐火物層101
5は、その順に炉体10の径方向に沿って第1耐火物層101
1の内側に配置されている。すなわち、第5耐火物層101
5は、炉体10の最も内側に配置された耐火物からなる最内層を構成している。各層の耐火物は、例えばカーボンペーストや、マグネシア・クロマイトからなる耐火煉瓦等により構成することができる。
【0011】
本実施の形態では、第3耐火物層101
3は浸食非許容層として扱われる。浸食非許容層とは、最内層よりも外側に配置された耐火物層であり、この耐火物層が浸食(溶損)されないように電気抵抗炉1の操業を行うと定められるものである。後に詳しく説明するように、仮に浸食非許容層が浸食されそうであるか又は浸食された場合には、合金の生産効率の低下を厭わずに炉体10の保護を優先して電気抵抗炉1の操業を行う。
【0012】
注出部102は、第5耐火物層101
5の内側と鉄皮100の外側とを連通するものであり、この注出部102から、炉体10内で製造された合金が例えば取鍋等の別の容器に注ぎ出される。
【0013】
炉蓋11は、炉体10の上部開口を覆うための蓋体である。炉蓋11には、供給手段12及び電極13に対応する開口部が設けられている。
【0014】
各供給手段12は、
図2に示すように互いに離間された複数の供給位置12aにおいて炉蓋11の開口部を通して炉体10の上方から炉体10内に原料及びフラックスをそれぞれ供給するものである。供給手段12はシュートと呼ばれることもある。
【0015】
各電極13は、
図2に示すように互いに離間して配置されるとともに、炉蓋11の開口部を通して炉体10の上方にあるサイロ(貯鉱ビン)から炉体10の内部に挿入された棒状部材であり、これら電極13に電力が供給されることで炉体10内の原料が溶融されて合金が製造される。各電極13は、周知の構成により昇降可能に設けられている。また、各電極13に供給される電力は、個々に制御することができる。
【0016】
冷却手段14は、互いに離間された複数の冷却位置において炉体10をそれぞれ冷却するものであり、例えば水冷ジャケット、又はノズルから冷却水を鉄皮100に対して噴霧する装置等により構成されることができる。本実施の形態では、各冷却位置は、炉体10の外面に設けられるとともに、炉体10の高さ周方向及び高さ方向に沿って互いに離間されている。各冷却手段14による炉体10の冷却量は、個々に制御することができる。
【0017】
温度センサ15は、炉体の周方向及び高さ方向に沿って互いに離間された複数の温度検出位置において炉体10の温度をそれぞれ検出するものであり、例えば熱電対等により構成することができる。具体的には、温度センサ15は、浸食非許容層である第3耐火物層101
3の内部に設けられており、第3耐火物層101
3の温度を検出する。第3耐火物層101
3の内部で温度センサ15が温度を検出する位置は任意であるが、炉体10の径方向に沿う第3耐火物層101
3の厚み方向の中央位置の温度を温度センサ15が検出することが好ましい。
【0018】
本実施の形態の電気抵抗炉1は、バッチ操業されるものでなく、連続操業されるものである。すなわち、炉体10に原料が連続的又は断続的に供給されて、炉体10が空にされずに連続的に合金が製造される。
【0019】
次に、
図3は、本実施の形態の電気抵抗炉1の運用方法に用いられる管理区分を説明するための説明図である。例えば、本出願人らによる特許第5137990号公報等にも開示されているように、炉体10の径方向に沿う二つの位置の温度並びに各耐火物層101
1〜101
5の厚さ及び熱伝導率に基づいて熱伝導計算を行うことにより、各耐火物層101
1〜101
5の残厚を推定することができる。換言すれば、温度センサ15の検出温度(浸食非許容層の温度)がどの程度であれば、各耐火物層101
1〜101
5がどの程度浸食されているか推定することができる。
【0020】
例えば、各耐火物層101
1〜101
5の厚さ(浸食されていない状態の厚さ)及び熱伝導率、並びにセルフライニングの厚さ及び熱伝導率を以下の表1に示すものと仮定する。なお、セルフライニングとは、炉体10の内面で凝固した原料であり、耐火物層の保護材として利用できるものである。各耐火物層101
1〜101
5及びセルフライニングの熱伝導率は、それぞれの素材に依存する。
【表1】
【0021】
炉体10の径方向に沿う二つの位置の温度のうち、1つは温度センサ15の検出温度(炉体10の径方向に沿う第3耐火物層101
3の厚み方向の中央位置の温度)を用い、もう1つは冷却により温度が管理されている鉄皮100の温度を用いることができる。鉄皮100の温度は40℃とする。
【0022】
このとき、鉄皮100と第3耐火物層101
3の厚み方向の中央位置との間の熱貫流率K1は、以下のように求めることができる。
【数1】
また、第3耐火物層101
3の厚み方向の中央位置と第4耐火物層101
4の最内面との間の熱貫流率K2は、以下のように求めることができる。
【数2】
さらに、第3耐火物層101
3の厚み方向の中央位置と第5耐火物層101
5の最内面との間の熱貫流率K3は、以下のように求めることができる。
【数3】
【0023】
例えば、温度センサ15の検出温度が300℃であるとすると、上記熱貫流率K1を用いて熱流量Qを以下のように求めることができる。
【数4】
第4耐火物層101
4の最内面の温度t4は、上記熱流量Qと熱貫流率K2を用いて以下のように求めることができる。
【数5】
また、第5耐火物層101
5の最内面の温度t5は、上記熱流量Qと熱貫流率K3を用いて以下のように求めることができる。
【数6】
そして、セルフライニング(原料)の融点を1600℃とすると、セルフライニングの厚さXは、以下のように求めることができる。
【数7】
すなわち、温度センサ15の検出温度が300℃であるとすると、第5耐火物層101
5の内側に1.439mのセルフライニングが形成されていると推定できる。
【0024】
また、例えば温度センサ15の検出温度が700℃であるとすると、熱流量Q、第4耐火物層101
4の最内面の温度t4及び第5耐火物層101
5の最内面の温度t5は以下のように求めることができる。
【数8】
このとき、熱伝導計算により算出された第5耐火物層101
5の最内面の温度t5が原料の融点である1600℃を超えている。このことにより、第5耐火物層101
5が浸食されていると推定できる。このときの第5耐火物層101
5の残厚Yは、以下のように求めることができる。
【数9】
【0025】
本実施の形態の電気抵抗炉1の運用方法では、上記のような熱伝導計算により推定される各耐火物層101
1〜101
5の浸食状況に基づき、温度センサ15によって検出される浸食非許容層の温度に対応する複数の管理区分を定める。管理区分は、以下の表2に示すように設定することができる。なお、
図3には、表2に示す各区分(第1区分〜第5区分)に対応する浸食状況(破線)が示されている。
【表2】
【0026】
また、下記の表3のように各管理区分に管理作業を割り当てる。管理作業とは、検出温度が上昇した温度検出位置における耐火物の浸食抑制及び該温度検出位置におけるセルフライニングの形成促進の少なくとも一方の作用を有する作業である。管理作業には、フラックス変更、原料変更、冷却量変更、供給電力量変更、電極位置変更及び止電・出湯が含まれている。
【表3】
【0027】
フラックス変更は、各供給位置12aで供給されるフラックスの組成を変更することによりフラックスの融点を変更する作業である。検出温度が上昇した温度検出位置の近傍に位置する供給位置12aにおいて融点が高いフラックスを供給することで、検出温度が上昇した温度検出位置におけるセルフライニングの形成が促進される。
【0028】
原料変更は、各供給位置12aでの原料の供給量及びサイズの少なくとも1つを変更する作業である。周知のように、炉体10内で原料を溶融する際には高熱のガスが発生する。このガスは、炉体10の上方に位置する原料を予め熱する作用を有している。一方で、炉体10上方へのガスの抜けが悪いと、ガスが耐火物を熱して耐火物の浸食を促進することになる。このため、検出温度が上昇した温度検出位置の近傍に位置する供給位置12aにおいて、原料の供給量を少なくすること、及び原料のサイズを大きくすることの少なくとも一方を行うことで、検出温度が上昇した温度検出位置における耐火物の浸食が抑制される。
【0029】
冷却量変更は、各冷却位置での冷却量を変更する作業である。検出温度が上昇した温度検出位置の近傍に位置する冷却位置での冷却量を大きくすることで、検出温度が上昇した温度検出位置において、セルフライニングの形成が促進されるとともに、耐火物の浸食が抑制される。
【0030】
供給電力量変更は、電極13への供給電力量を変更する作業である。検出温度が上昇した温度検出位置の近傍に位置する電極13への供給電力量を少なくすることで、その温度検出位置に供給される熱量を少なくすることができる。これにより、検出温度が上昇した温度検出位置において、セルフライニングの形成が促進されるとともに、耐火物の浸食が抑制される。
【0031】
電極位置変更は、電極13の高さ位置を変更する作業である。一般に、各電極13に電力が供給されているとき、各電極13の後端側に比べて先端側のほうが高温となる。このため、検出温度が上昇した温度検出位置からその近傍に位置する電極13の先端を遠ざけるように電極13の高さ位置を変更することで、検出温度が上昇した温度検出位置において、セルフライニングの形成が促進されるとともに、耐火物の浸食が抑制される。
【0032】
止電・出湯は、電極13への電力供給を停止するとともに、炉体10内の溶融合金を炉体10外に注ぎ出す作業である。この作業を行うことで、耐火物の浸食を止めることができる。
【0033】
上述した管理作業のうち、フラックス変更、原料変更及び冷却量変更は、製造効率の低下を伴わないか、又は製造効率の低下が少ない。一方で、供給電力量変更、電極位置変更及び止電・出湯は、合金の製造効率を比較的大きく低下させる。特に、非常時又は緊急時の止電・出湯は、合金の製造効率を著しく低下させる。
【0034】
このため、フラックス変更、原料変更及び冷却量変更は、供給電力量変更、電極位置変更及び止電・出湯が割り当てられた管理区分に対応する温度よりも低い温度に対応する管理区分から行うことが好ましい。表3の割り当て例では、フラックス変更、冷却量変更及び原料変更は第2区分から行われ、供給電力量変更及び電極位置変更は第3区分から行われ、止電・出湯は第5区分から行われる。
【0035】
なお、例えば第3区分の供給電力量変更では供給電力を定常出力の50%に低減させ、第4区分の供給電力量変更では供給電力を定常出力の25%に低減させるなど、同じ管理作業でも区分毎に程度が変更される。第1〜第5区分のすべての区分を通して、上述した管理作業とは別に、耐火物の残厚、温度遷移及び運転状況の確認等の通常の監視作業が行われる。
【0036】
次に、
図4は、本実施の形態の電気抵抗炉1の運用方法を示すフローチャートである。電気抵抗炉1の運用方法では、上述したように、電気抵抗炉1の操業を開始する前に、温度センサによって検出される温度に対応する複数の管理区分を定めるとともに、各管理区分に管理作業を割り当てる(ステップS1)。
【0037】
その次に、電気抵抗炉1の操業を開始した後に、各温度センサ15によって検出された検出温度が前記複数の管理区分のうちのどの管理区分に対応するか判断する(ステップS2)。そして、検出温度が対応する管理区分を判断した後に、該管理区分に割り当てられている管理作業を行う(ステップS3)。ステップS2,S3は、電気抵抗炉1の操業されているときに繰り返し行われる。例えば、ある温度検出位置における検出温度が第2区分に対応するときに、その温度検出位置を対象とした管理作業が行われることで、その温度検出位置の検出温度が降下して第1区分に対応するようになることもある。
【0038】
なお、上述した実施の形態では、管理作業として、フラックス変更、原料変更、冷却量変更、供給電力量変更及び電極位置変更のすべてを行うように説明しているが、電気抵抗炉1の操業中に、これらフラックス変更、原料変更、冷却量変更、供給電力量変更及び電極位置変更の少なくとも1つを実施することで、連続的に合金を製造する電気抵抗炉1の炉体10の寿命を延ばすことができる。
【0039】
このような電気抵抗炉の運用方法では、検出温度が対応する管理区分を判断した後に、該管理区分に割り当てられている管理作業を行い、管理作業が、検出温度が上昇した温度検出位置における耐火物の浸食抑制及び該温度検出位置におけるセルフライニングの形成促進の少なくとも一方の作用を有するので、連続的に合金を製造する電気抵抗炉1の炉体10の寿命を延ばすことができる。
【0040】
また、管理作業は、フラックス変更、原料変更、冷却量変更、供給電力量変更、及び電極位置変更の少なくとも1つを含むので、より確実に連続的に合金を製造する電気抵抗炉1の炉体10の寿命を延ばすことができる。
【0041】
さらに、管理作業に含まれるフラックス変更、原料変更及び冷却量変更の少なくとも1つは、管理作業に含まれる供給電力量変更及び電極位置変更の少なくとも1つが割り当てられた管理区分に対応する温度よりも低い温度に対応する管理区分から行われるので、合金の生産効率が低下することを抑制しつつ、炉体10の寿命を延ばすことができる。
【0042】
さらに、管理作業に含まれるフラックス変更、原料変更及び冷却量変更の少なくとも1つは第2区分から行われ、管理作業に含まれる供給電力量変更及び電極位置変更の少なくとも1つは第3区分から行われるので、合金の生産効率が低下することをより確実に抑制しつつ、炉体10の寿命を延ばすことができる。