特許第6052981号(P6052981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6052981-けい酸カルシウム成形体及びその製造法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6052981
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】けい酸カルシウム成形体及びその製造法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/18 20060101AFI20161219BHJP
   C04B 14/36 20060101ALI20161219BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20161219BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20161219BHJP
   C04B 14/38 20060101ALI20161219BHJP
   C04B 16/02 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   C04B28/18
   C04B14/36
   C04B22/08 A
   C04B22/06 A
   C04B14/38 C
   C04B16/02 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-265669(P2012-265669)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-108918(P2014-108918A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000126609
【氏名又は名称】株式会社エーアンドエーマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】尾塩 泰英
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 尚宏
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−104769(JP,A)
【文献】 特開昭54−111522(JP,A)
【文献】 特開2004−091230(JP,A)
【文献】 特開2008−247651(JP,A)
【文献】 特開2001−220210(JP,A)
【文献】 特開2010−222190(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第0763392(EP,A2)
【文献】 セメント・セッコウ・石灰ハンドブック,技報堂出版株式会社,1995年,P.478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固形分中、マトリクス形成用石灰質原料6〜30質量%、平均粒径15μm以下の非晶質シリカを含むマトリクス形成用けい酸原料6〜30質量%、繊維原料3〜10質量%、合成トバモライト4〜10質量%、ワラストナイト8〜23質量%び水酸化アルミニウム12〜55質量%を必須原料とし、前記マトリクス形成用石灰質原料及びマトリクス形成用けい酸質原料のCa/Siモル比が0.4〜2.0であり、前記マトリクス形成用石灰質原料及び平均粒径15μm以下の非晶質シリカのCa/Siモル比が3.0以下である原料を、湿式にて混合して抄造法により成形した後オートクレーブ養生することを特徴とするけい酸カルシウム成形体の製造法。
【請求項2】
原料としてさらに、水硬性セメント4〜20質量%を含む請求項1記載のけい酸カルシウム成形体の製造法
【請求項3】
得られるけい酸カルシウム成形体の室温から900℃まで加熱後脱水量が12質量%以上である請求項1又は2記載のけい酸カルシウム成形体の製造法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性及び耐火性能に優れるけい酸カルシウム成形体及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
けい酸カルシウム成形体は耐火性及び断熱性に優れることから、板状のけい酸カルシウム板は建材として広く使用されている。これらのけい酸カルシウム成形体の中には、けい酸質原料と石灰質原料を湿式成形後オートクレーブ処理し、けい酸カルシウム水和物を合成することにより硬化させて得られる成形体(以下、「オートクレーブ処理けい酸カルシウム成形体」と記す)と、けい酸質原料と石灰質原料をスラリー状態でオートクレーブ処理してけい酸カルシウム水和物を合成し、このけい酸カルシウム水和物を湿式成形後乾燥硬化させて得られる成形体(以下、「乾燥硬化けい酸カルシウム成形体」と記す)とがあり、これらのうちオートクレーブ処理けい酸カルシウム成形体は、耐火性に加えて優れた強度を有するため特に建材として重要である。かかるオートクレーブ処理けい酸カルシウム成形体においても、さらなる耐火性、耐熱性の向上が望まれている。
【0003】
建材等の耐熱性や耐火性の向上技術として、水酸化アルミニウムの添加が知られている。これは、水酸化アルミニウムが結晶水を多く含む物質であり、火災等により加熱を受けた際にこの結晶水を放出することにより、建材の温度上昇を緩和する作用を有するためである。例えば、特許文献1及び2には、乾燥硬化けい酸カルシウム成形体に水酸化アルミニウムを添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−97498号公報
【特許文献2】特開2006−213581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、乾燥硬化けい酸カルシウム成形体は、強度が十分でなく、建材としては十分満足できるものではない。
一方、前述のオートクレーブ処理けい酸カルシウム成形体の原料中に水酸化アルミニウムを添加して製造したところ、予想に反し、十分な耐火性能の向上がみられず、強度も低下してしまうことが判明した。
従って、本発明の課題は、耐熱性及び耐火性能が向上したオートクレーブ処理けい酸カルシウム成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、前記課題を解決すべく種々検討したところ、水酸化アルミニウムを添加し、マトリクス形成用けい酸質原料の少なくとも一部として粒径が15μm以下という微細な非晶質シリカを採用し、かつ原料のCa/Siモル比を一定の範囲に制御することにより、耐熱性及び耐火性能が向上し、かつ強度も高いオートクレーブ処理けい酸カルシウム成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]〜[6]を提供するものである。
[1]マトリクス形成用石灰質原料、マトリクス形成用けい酸質原料及び繊維原料を必須原料とし、当該原料を湿式にて混合して成形した後オートクレーブ養生して得られるけい酸カルシウムであって、マトリクス形成用けい酸質原料の少なくとも一部として平均粒径15μm以下の非晶質シリカを用い、水酸化アルミニウムを全固形分中12〜55質量%添加し、前記マトリクス形成用石灰質原料及びマトリクス形成用けい酸質原料のCa/Siモル比が0.4〜2.0であり、前記マトリクス形成用石灰質原料及び平均粒径15μm以下の非晶質シリカのCa/Siモル比が3.0以下であることを特徴とするけい酸カルシウム成形体。
[2]必須原料として更に合成トバモライトを使用する[1]に記載のけい酸カルシウム成形体。
[3]見掛け密度が0.70g/cm3〜1.20g/cm3であり、曲げ強さが8N/mm2以上である[1]又は[2]記載のけい酸カルシウム成形体。
[4]室温から900℃まで加熱後脱水量が12質量%以上である[1]乃至[3]のいずれかに記載のけい酸カルシウム成形体。
[5]マトリクス形成用石灰質原料、平均粒径15μm以下の非晶質シリカを含むマトリクス形成用けい酸原料、繊維原料及び全固形分中12〜55質量%の水酸化アルミニウムを必須原料とし、前記マトリクス形成用石灰質原料及びマトリクス形成用けい酸質原料のCa/Siモル比が0.4〜2.0であり、前記マトリクス形成用石灰質原料及び平均粒径15μm以下の非晶質シリカのCa/Siモル比が3.0以下である原料を、湿式にて混合して成形した後オートクレーブ養生することを特徴とするけい酸カルシウム成形体の製造法。
[6]必須原料として更に合成トバモライトを使用する[5]に記載のけい酸カルシウム成形体の製造法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のけい酸カルシウム成形体は、耐火性及び耐熱性が高く、かつ強度も高く、軽量であるため断熱性能を有する建材として有用である。
本発明のけい酸カルシウム成形体には、オートクレーブ処理された後であっても、水酸化アルミニウム水和物が一定量含まれており、優れた耐火性及び耐熱性を発揮するものと考えられる。一方、従来の珪石等をけい酸質原料としたオートクレーブ処理けい酸カルシウム成形体に水酸化アルミニウムを配合した場合には、オートクレーブ処理において、石灰質原料とけい酸質原料である珪石が反応してけい酸カルシウム水和物を生成する前に、石灰質原料と水酸化アルミニウムが反応してしまい、水酸化アルミニウムが本来持つ耐火性能の向上が発揮されないものと考えられる。これに対し、本発明けい酸カルシウム成形体においては、微細な非晶質シリカがオートクレーブ処理初期に石灰質原料と反応するため、水酸化アルミニウムが反応せずにけい酸カルシウム成形体中に残存するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】オートクレーブ養生前とオートクレーブ養生後における、実施例1と比較例6のけい酸カルシウム成形体の粉末X線回折法による回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のけい酸カルシウム形成体は、マトリクス形成用石灰質原料、マトリクス形成用けい酸質原料原料及び繊維原料を必須原料とし、当該原料を湿式にて混合して成形した後オートクレーブ養生して得られるけい酸カルシウム成形体であって、(A)マトリクス形成用けい酸質原料の少なくとも一部として平均粒径15μm以下の非晶質シリカを用い、(B)水酸化アルミニウムを全固形分中12〜55質量%添加し、(C)前記マトリクス形成用石灰質原料及びマトリクス形成用けい酸質原料のCa/Siモル比が0.4〜2.0であり、(D)前記マトリクス形成用石灰質原料及び平均粒径15μm以下の非晶質シリカのCa/Siモル比が3.0以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明において、マトリクスとは硬化体としてのけい酸カルシウム成形体の骨格構造を意味し、石灰質原料とけい酸質原料とをオートクレーブ養生により水熱反応させてけい酸カルシウム水和物を生成させることにより形成される。生成させるけい酸カルシウム水和物は、けい酸カルシウム成形体の用途が建材の場合、トバモライトを主体とするものであることが多い。
【0012】
本発明において、マトリクス形成用石灰質原料としては、消石灰、生石灰等を用いることができる。当該石灰質原料の配合量は、成形性及び強度の点から、1〜36質量%が好ましく、3〜33質量%がより好ましく、6〜30質量%がさらに好ましい。
【0013】
本発明において、マトリクス形成用けい酸質原料の少なくとも一部として(A)平均粒径15μm以下の非晶質シリカを用いる。平均粒径が15μmを超える非晶質シリカ(例えば珪藻土)や結晶質シリカ(例えば珪石)を用いた場合には、水酸化アルミニウムを添加しても耐火性や耐熱性の向上が得られないか、または強度が低下する。平均粒径が15μm以下の非晶質シリカとしてはシリカヒューム、微細な珪藻土、微細なフライアッシュ、合成シリカ(例えば、商品名ニップシール)、微細なスラグ等が挙げられる。また非晶質シリカの好ましい平均粒径は0.1〜15μmであり、より好ましくは0.5〜15μmである。
平均粒径15μm以下の非晶質シリカの配合量は、耐火性及び耐熱性の向上、強度の点から1〜36質量%が好ましく、3〜33質量%がより好ましく、6〜30質量%がさらに好ましい。
なお、上記配合量の平均粒径15μm以下の非晶質シリカを使用すれば、他のけい酸質原料を配合してもよい。例えば、上記配合量の平均粒径15μm以下の非晶質シリカとともに、粒径が15μmを上回る非晶質シリカを併用してもよい。この場合、非晶質シリカ全体の平均粒径は15μmを上回るが、所定量の平均粒径15μm以下の非晶質シリカが使用されているので問題はない。ただし、(C)及び(D)の条件を充足しなければならない。
【0014】
(B)水酸化アルミニウムは、けい酸カルシウム成形体の耐火性及び耐熱性を向上させるために用いられる。水酸化アルミニウムの配合量は全固形分中12〜55質量%であり、好ましくは14〜52質量%であり、より好ましくは15〜50質量%である。水酸化アルミニウムの配合量が12質量%を下回ると耐火性能の向上が十分ではなく、55質量%を上回ると必要な強度が得られない。
【0015】
繊維原料は、けい酸カルシウム成形体の強度等の物性を向上させる役割と、成形助材としての役割を担っている。繊維原料としては、例えばパルプ等の有機繊維、炭素繊維、ガラス繊維等の無機繊維を使用することができる。なお、パルプとしては例えばカナディアンフリーネスが50〜700cc程度であることが、けい酸カルシウム成形体の製造を円滑に行う上で好ましい。
【0016】
繊維原料の配合割合は、固形分として好ましくは3〜10質量%、より好ましくは4〜9質量%、さらに好ましくは4〜8質量%の範囲内である。
【0017】
本発明において、石灰質原料とけい酸質原料の両方の役割を果たす原料として、各種のポルトランドセメントやエコセメント等の水硬性セメントを使用することができる。原料として水硬性セメントを使用すると、けい酸カルシウム成形体に剥離が発生することを防止するうえでも有効である。すなわち、本発明のけい酸カルシウム成形体は、原料を湿式にて混合して成形した後オートクレーブ養生することにより硬化して成るものであるが、水硬性セメントを原料として使用すると、未硬化状態の成形体が成形された後、オートクレーブ養生するまでの間に水硬性セメントが水和反応するので、オートクレーブ養生時の未硬化状態の成形体の保形性が向上するからである。
水硬性セメントに含まれるけい酸質成分は、平均粒径15μm以下の非晶質シリカと同様の作用効果を有するので、前記(D)のCa/Siモル比を算出するにあたっては、平均粒径15μm以下の非晶質シリカとして取り扱う必要がある。また、水硬性セメントに含まれる石灰質成分は、前記(C)及び(D)のCa/Siモル比を算出するにあたってマトリクス形成用石灰質原料に含まれ、水硬性セメントに含まれるけい酸質成分は、前記(C)のCa/Siモル比を算出するにあたってマトリクス形成用けい酸質原料に含まれる。
水硬性セメントの配合量は、成形性及び強度の点から、固形分として4〜20質量%が好ましく、6〜16質量%がより好ましく、8〜14質量%がさらに好ましい。
【0018】
本発明において、原料として合成トバモライトを使用するとより好適である。すなわち、けい酸カルシウム成形体の製造工程における成形性を向上させることができ、あるいは得られたけい酸カルシウム成形体の強度等の物性を向上させることができるからである。また、合成トバモライトは、後述するオートクレーブ養生によりマトリクス形成用原料を水熱反応させてマトリクスを形成する際、マトリクスに組み込まれてマトリクスの一部を構成する原料でもある。本発明において、合成トバモライトには結晶度が低いけい酸カルシウム水和物が混在していても、特に問題はない。合成トバモライト(合成トバモライトに結晶度の低いけい酸カルシウム水和物が混在している場合には、その合計)の配合割合は、成形性及び強度の点から固形分として、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは3〜11質量%、さらに好ましくは4〜10質量%である。
また、けい酸カルシウム成形体の原料として合成トバモライトを使用する場合、前記(C)のCa/Siモル比を算出する際に、合成トバモライトの原料である石灰質原料をマトリックス形成原料である石灰質原料に含め、合成トバモライトの原料であるけい酸質原料をマトリックス形成原料であるけい酸質原料に含め、Ca/Siモル比を算出する。
【0019】
合成トバモライトは、石灰質原料及びけい酸質原料を水とともに混合し、高温高圧下での水熱合成により生成させることができる。石灰質原料としては、生石灰、消石灰等を使用することができ、けい酸質原料としては、けい石、けい藻土、マイクロシリカ、シリカヒューム等を使用することができるが、特に、けい石が好適である。合成トバモライトの製造は、例えば次のようにして行うことができる。石灰質原料とけい酸質原料とを、例えばCaO/SiO2モル比を0.3〜1.2となるように配合し、この配合物に対し、質量比で5〜20倍、好ましくは7〜16倍の水を加え、混合分散して原料スラリーとし、この原料スラリーを攪拌可能なオートクレーブ内にて150〜210℃の温度で、1〜12時間にわたり水熱合成を行う。このようにして、スラリー状の合成トバモライトを得ることができる。合成トバモライトは、スラリー状のまま原料として使用することができる。なお、合成トバモライトの平均粒子径は、好ましくは30μm〜100μm、より好ましくは50μm〜90μmの範囲内である。
【0020】
本発明のけい酸カルシウム成形体には、前記原料の他に、ワラストナイト、炭酸カルシウム、スクラップ(本発明のけい酸カルシウム成形体の廃材)等を原料として配合することができる。これら必須原料以外の原料の配合量は、23質量%以下が好ましい。なお、ワラストナイトを配合する場合の配合量は、8〜23質量%が好ましい。
【0021】
本発明では、(C)前記マトリクス形成用石灰質原料及びマトリクス形成用けい酸質原料のCa/Siモル比を0.4〜2.0とする。このCa/Siモル比が0.4を下回る、または2.0を上回ると、必要な強度が得られない。好ましい前記Ca/Siモル比は、0.5〜1.8であり、より好ましくは0.6〜1.6である。
【0022】
また、本発明では(D)前記マトリクス形成用石灰質原料及び平均粒径15μm以下の非晶質シリカのCa/Siモル比を3.0以下とする。当該Ca/Siモル比が3.0を上回ると、必要な強度が得られない。好ましい前記Ca/Siモル比は1.0〜3.0であり、より好ましくは1.0〜2.8であり、さらに好ましくは1.0〜2.7である。
【0023】
本発明のけい酸カルシウム成形体は、見掛け密度が0.70g/cm3〜1.20g/cm3であり、曲げ強さが8N/mm2以上であるのが好ましい。また、室温から900℃まで加熱後脱水量は12質量%であるのが好ましく、さらに12〜20質量%であるのが好ましい。
【0024】
本発明のけい酸カルシウム成形体は、マトリクス形成用石灰質原料、平均粒径15μm以下の非晶質シリカを含むマトリクス形成用けい酸原料、繊維原料及び全固形分中12〜55質量%の水酸化アルミニウムを必須原料とし、前記マトリクス形成用石灰質原料及びマトリクス形成用けい酸質原料のCa/Siモル比が0.4〜2.0であり、前記マトリクス形成用石灰質原料及び平均粒径15μm以下の非晶質シリカのCa/Siモル比が3.0以下である原料を、湿式にて混合して成形した後オートクレーブ養生することにより製造される。
【0025】
湿式による混合及び成形する工程は、前記原料に水を加えて均一に混合し原料スラリーを得る、これを成形する工程である。原料を混合する際に添加される水の配合量は、原料スラリーの成形方法により異なり、例えば、成形方法として押出成形法を用いる場合は、原料固形分100質量部に対して20〜50質量部の範囲であり、成形方法としてモールド・プレス法を用いる場合は、500〜1500質量部の範囲であり、成形方法として抄造法を用いる場合は、500〜4000質量部の範囲とすることが好ましい。なお、成形方法としては、上述のように押出成形法、モールド・プレス法、抄造法のような公知の方法を使用することができるが、抄造法を使用することが好適である。
【0026】
得られた未硬化状態の成形体をオートクレーブ養生し、石灰質原料とけい酸質原料とを水熱反応させることによってけい酸カルシウム水和物(例えば、トバモライトを主体とし結晶度の低いけい酸カルシウム水和物が混在)を生成させてマトリクスを形成することにより、未硬化状態の成形体が硬化する。
また、原料として合成トバモライトを用いた場合には、合成トバモライトが水熱反応に際してマトリクスの一部に組み込まれることにより前記マトリクスを形成し、未硬化状態の成形体が硬化する。
オートクレーブ養生は、所定の温度の飽和水蒸気圧力下において所定時間行う。その条件は、生成させるけい酸カルシウム水和物の種類によっても異なるが、150〜220℃の飽和水蒸気圧力で2〜20時間とするのが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明のけい酸カルシウム成形体を更に説明する。
実施例及び比較例に使用した原料は下記の通りである:
【0028】
合成トバモライト
生石灰(CaO含量94.3質量%)33質量%、ブレーン値10000cm2/gのけい石粉末(SiO2含量94.4質量%)67質量%(CaO/SiO2モル比=0.53)よりなる混合物100質量部に水1000質量部を加えて混合分散することにより原料スラリーを得、この原料スラリーをオートクレーブ中190℃で、2時間にわたり水熱合成を行うことによりスラリー状の合成トバモライト(固形分含量:10.2質量%、平均粒子径:85μm)を得た。
ポルトランドセメント:CaO含量65質量%、SiO2含量22質量%(平均粒径15μm以下の非晶質シリカとして取り扱う)
生石灰:CaO含量94.3質量%
珪石:ブレーン値7000cm2/g、SiO2含量94.4質量%
シリカヒュームA:平均粒径1μm
シリカヒュームB:12μm
珪藻土:平均粒径18μm
ワラストナイト:長さ0.25mm、直径5μm
炭酸カルシウム:ブレーン値5500cm2/g
スクラップ:トバモライト系けい酸カルシウム板製造時に発生する切断屑を粉砕したもの、及び研磨時に発生する研磨粉
パルプ:カナディアンフリーネス320cc
【0029】
以下の表1及び表2に記載する配合割合にて原料配合物を得、原料配合物の固形分100質量部に1000質量部の水を添加、混合して原料スラリーを得た。次に、原料スラリーを抄造法を模したテーブル試験により、プレス圧20kg/cm2により脱水プレスすることにより幅150mm、長さ200mmの生板を得た。
得られた生板をオートクレーブ中180℃で8時間保持することにより厚さ10mmのけい酸カルシウム板を得た。得られたけい酸カルシウム板の諸特性を表1及び表2に併記する。
【0030】
見掛け密度は、JIS A 5430 10.5.1見掛け密度試験(けい酸カルシウム板(タイプ2))により測定した。曲げ強さは、けい酸カルシウム板を60℃で24時間乾燥後、150mm×200mmサイズによりスパン15cm、クロスヘッドスピード1mm/分により3点曲げ試験法により測定した。900℃加熱後脱水量は、105℃で24時間乾燥後の粉末状としたけい酸カルシウム板試料20mgをRIGAKU社差動型示差熱天秤TG−DTA TG8120を用いて、空気中で20℃/分の速度により室温から900℃まで昇温し、それにより減少した全質量、パルプ燃焼により減少した質量及び脱炭酸により減少した質量を読み取り、105℃で24時間乾燥後の質量を基準としたそれぞれの減量率(A)、(B)及び(C)を用いて、(A)―(B)―(C)により測定した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1及び表2より、本発明構成を具備するけい酸カルシウム板は、見掛け密度が0.70〜1.20g/cm3の範囲内で軽量であり、曲げ強度が8N/mm2以上であり高い。また、900℃加熱後脱水量が12質量%以上であり、優れた耐火性及び耐熱性を示すことがわかる。
【0034】
またオートクレーブ養生前と養生後の、実施例1と比較例6のけい酸カルシウム成形体の粉末X線回折法による回折パターンを図1に示す。図1から、本発明のオートクレーブ養生後のけい酸カルシウム成形体には水酸化アルミニウム水和物がほぼそのまま残存していることがわかる。一方、比較例6のけい酸カルシウム成形体は、オートクレーブ養生によって水酸化アルミニウムが一部消失していることがわかる。
図1