(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第3工程は、前記第2工程の数値計算結果に基づいて、前記評価用射出成形品の液晶ポリマーの流動固化の形態が、流動中の温度低下に伴って固化して流動停止する形態であるか、行き止まりに起因して流動停止して固化する形態であるかを判定し、その判定の結果に応じて、前記剪断応力の積分値のデータまたは前記時間長のデータを取得し、
前記第5工程は、前記第4工程の数値計算結果に基づいて、前記解析対象射出成形品の液晶ポリマーの流動固化の形態が、流動中の温度低下に伴って固化して流動停止する形態であるか、行き止まりに起因して流動停止して固化する形態であるかを判定し、その判定の結果に応じて、前記剪断応力の積分値のデータまたは前記時間長のデータを取得することを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリマー射出成形品の熱間反り解析方法。
前記第1工程の熱膨張データは、射出成形時の液晶ポリマーの流動方向および流動直交方向について取得することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の液晶ポリマー射出成形品の熱間反り解析方法。
前記第1工程の熱膨張データは、前記評価用射出成形品における射出成形時に液晶ポリマーが層状に流動する各層毎に取得することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の液晶ポリマー射出成形品の熱間反り解析方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る液晶ポリマー射出成形品の熱間反り解析方法を説明する図。
【
図3】同解析方法におけるデータの対応関係を説明する図。
【
図4】同解析方法における樹脂の流動固化の形態を説明する図。
【
図5】同解析方法における剪断応力積分値と停止固化時間長とを説明する図。
【
図6】同解析方法における剪断応力積分値と停止固化時間長の役割を説明する図。
【
図8】(a)〜(d)は金型内の樹脂の流動と固化の挙動を、直線流路について説明する断面図。
【
図9】(a)〜(d)は金型内の樹脂の流動と固化の挙動を、屈曲流路について説明する断面図。
【
図10】(a)〜(d)は金型内の樹脂の流動と固化の挙動を、分岐流路について説明する断面図。
【
図11】(a)は評価用射出成形品の平面図、(b)は同側面図、(c)は(b)の線断面図。
【
図12】(a)は評価用射出成形品の他の例を示す平面図、(b)は同評価用射出成形品から切り取った評価用試料の斜視図、(c)は同評価用試料を層別に分割した状態を示す斜視図。
【
図13】(a)は金型内の樹脂が流動しながら固化する形態1の場合の樹脂温度の時間変化を示す図、(b)は金型内の樹脂が流動停止後に固化する形態2の場合の樹脂温度の時間変化を示す図。
【
図14】(a)は形態1の場合の樹脂に生じる歪みの時間変化を示す図、(b)は形態2の場合の樹脂に生じる歪みの時間変化を示す図。
【
図15】(a)は形態1で成形された部位の熱による伸びの温度変化を示す図、(b)は形態2で成形された部位の熱による伸びの温度変化を示す図。
【
図16】(a)(b)はそれぞれ互いに異なる樹脂射出成形品の熱負荷に対する反り変形の温度変化を示す図。
【
図17】他の実施形態に係る液晶ポリマー射出成形品の熱間反り解析方法についてのフローチャート。
【
図18】(a)は同解析方法の実施例における解析対象射出成形品の平面図、(b)は同解析対象射出成形品の側面図、(c)は(a)のX−X線断面図、(d)は同解析対象射出成形品から切り出す試験片を示す斜視図。
【
図19】
図18(d)に示した各試験片について、熱負荷に対する反り変形量の変化を示す図。
【
図20】(a)は実施例に用いた評価用射出成形品の一例を示す平面図、(b)は同側面図。
【
図21】(a)〜(d)は、それぞれ成形品全長が15,30,45,60mmの実施例に用いた評価用射出成形品を示す平面図。
【
図22】実施例における熱機械分析装置による評価用試料の熱間伸びの履歴の測定例を示す図。
【
図23】熱機械分析装置による測定に基づく評価用試料の熱膨張係数の測定値と成形品全長との関係を複数の測定位置と測定方向について示す図。
【
図24】熱機械分析装置による測定に基づく評価用試料における残留歪みと成形品全長との関係を複数の測定位置と測定方向について示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(熱間反り解析方法)
以下、本発明の一実施形態に係る液晶ポリマー射出成形品の熱間反り解析方法(以下、本解析方法という)について、図面を参照して説明する。
図1乃至
図3は、本解析方法を示す。ここで、液晶ポリマー射出成形品は、樹脂として液晶ポリマーを用いる樹脂射出成形品であり、以下において、樹脂は液晶ポリマーのことである。本解析方法は、
図1、
図2に示すように、評価用射出成形品1について熱膨張データを取得する第1工程(S1)から、構造解析によって解析対象射出成形品2の熱間反りを解析する第7工程(S7)までの、7段階の工程(S1乃至S7)を備えている。これらの7段階の各工程の実行順番は、
図2に示す順番に限定されるものではなく、
図1に示すように、各々実行できるデータが揃えば実行できる構成となっており、各工程の互いの実行順番は適宜変更することができる。以下、各工程を説明する。
【0015】
第1工程(S1)は、評価用射出成形品1における樹脂の流動固化の形態が異なる複数部位について熱機械分析(TMA)により熱膨張データHt1を取得する工程である。本解析方法は、樹脂の射出成形品の物性は樹脂が金型内でどのように流動し固化するかという流動固化の形態によって決定される、という考えに基づいている。本解析方法は、この考えに立脚し、解析対象射出成形品2における直接測定ができない物性情報を、評価用射出成形品1について求めた物性情報によって補完する。
【0016】
評価用射出成形品1は、第1工程(S1)における実測と、第2、第3工程(S2,S3)における数値計算とによって射出成形品の物性を評価するための成形品である。評価される物性のデータは、評価用射出成形品1の同一部位における実測値と数値計算値として、互いに関連づけて取得される。評価対象の物性は、実測値と数値計算値とで異なり、実測では、例えば、熱応答に関する物性であり、数値計算では、例えば、成形時に射出成形品の各部位に蓄積される歪みなどである。成形品の各部位の歪みは、成形時の樹脂の流動固化の履歴の結果と考えられ、各部位における樹脂の流動固化の形態の情報を反映していると考えられる。
【0017】
熱膨張データHt1は、評価用射出成形品1から切り出した評価用試料について、熱負荷の変化に対する評価試料の伸びの変化として熱機械分析装置によって直接測定される。その伸びは、荷重による伸びではなく、熱膨張による伸びである。その測定値から、評価用射出成形品1における評価用試料を切り出した部位の線膨張係数が算出される。樹脂の射出成形品の線膨張係数は、通常、異方性を有し、樹脂の流動方向とその流動方向に直交する流動直交方向とで値が異なる。そこで、熱膨張データHt1は、この異方性を考慮して、同一部位の複数方向について取得される。
【0018】
熱機械分析による実測では、熱機械分析装置から要求される所定寸法、例えば長さ数cm、幅数mm、厚さ1mm以下、の評価用試料を準備する必要がある。このような評価用試料は、その試料全体が均一な物性を有することが望ましい。また、評価用試料は、解析対象射出成形品2における直接測定ができない物性情報を補完するために、樹脂の流動固化の形態が異なる種々の部位について準備し、それぞれについて熱膨張データHt1を取得することが望ましい。そこで、評価用射出成形品1は、樹脂の流れを層状の幅が広い均一流構造としたり、樹脂の流れ長を替えたり、樹脂流れに分岐構造を設けたりした複数種類の成形品の組み合わせで構成される(
図1の挿絵参照)。評価用試料は、各評価用射出成形品1の複数部位からそれぞれ切り取られて提供される。同一部位の複数方向について測定を行う場合、同一条件の複数の評価用射出成形品1が準備される。
【0019】
第2工程(S2)は、評価用射出成形品1について成形時の金型内の樹脂の温度および流速のデータを含む数値計算結果CD1を数値計算によって求める工程である。数値計算は、評価用射出成形品1を構成する複数の成形品の全てについて行う。数値計算は、射出成形用の金型の段差部分やコーナー部分などの局所部分における流動や固化の状態を含めて、各部位における流動から固化に至る状態変化を時間的、空間的に再現するように行う。その数値計算では、樹脂が流入する金型の内部空間の壁面における熱収支や樹脂流れ速度などに関する境界条件、金型内の樹脂の圧力や粘度の変動などの条件が考慮される。数値計算は、例えば、射出成形用の金型設計に用いた3次元CADデータから3次元解析メッシュを作成して行われる。
【0020】
第3工程(S3)は、第2工程(S2)の数値計算結果CD1に基づいて、第1工程(S1)において熱機械分析を行った各部位について、剪断応力の積分値ΣStr1のデータ、および、樹脂の流動停止固化の時間長trx1のデータを取得する工程である。積分値ΣStr1は、樹脂が金型内で流動中に固化して流動停止する間に樹脂中に蓄積される剪断応力を時間的に積分した値である。時間長trx1は、樹脂が金型内で流動状態から停止した後、固化温度に至るまでの時間長である。
【0021】
射出成形時の樹脂の剪断応力は、金型内で樹脂が流動しつつ固化する間に、金型内の各空間において時々刻々変化する。液晶ポリマー樹脂の各分子は、流動中に剪断による力を受け、その力を受けた時間に応じて、最終停止位置における配向状態が決定される。従って、剪断応力を時間積分して得られる剪断応力積分値ΣStr1のデータは、分子配向状態、より一般的に樹脂成形品の異方性の情報を含むデータとなる。積分値ΣStr1のデータは、各部位におけるスカラー値として取得する以外に、樹脂の流動方向や樹脂の配向方向に関連づけて、ベクトル量として取得したり、テンソル量として取得してもよい。
【0022】
第4工程(S4)は、解析対象射出成形品2について成形時の金型内の樹脂の温度および流速を含む数値計算結果CD2を数値計算によって求める工程である。この工程では、上述の第2工程(S2)と同様に数値計算が行われるが、その数値計算の対象は、注目する1つの解析対象射出成形品2についてだけである。また、解析対象射出成形品2として、通常、その各部の熱膨張データを熱機械分析では測定できないような小型の成形品を対象とすることができる。
【0023】
第5工程(S5)は、第4工程(S4)の数値計算結果CD2に基づいて、解析対象射出成形品2の各点について、剪断応力の積分値ΣStr2のデータ、および、樹脂の流動停止固化の時間長trx2のデータを取得する工程である。積分値ΣStr2は、樹脂が金型内で流動中に固化して流動停止する間に樹脂中に蓄積される剪断応力を時間的に積分した値である。時間長trx2は、樹脂が金型内で流動状態から停止した後、固化温度に至るまでの時間長である。この工程は、上述の第3工程(S3)と同様に剪断応力の積分値と時間長のデータを取得する。それらのデータを取得する各点の位置する部位は、解析対象射出成形品2における構造解析用の各要素に対応する部位であり、解析対象射出成形品2の全体に分布している。積分値ΣStr2は、積分値ΣStr1と同様に、スカラー値、ベクトル量、テンソル量などとして取得することができる。
【0024】
第6工程(S6)は、第1工程(S1)、第3工程(S3)、および第5工程(S5)によって求めた各データに基づいて、解析対象射出成形品2の各点における熱膨張データHt2を求めて、各値を構造解析用のモデルの各要素にマッピングする工程である。構造解析は、例えば、有限要素モデル20(
図1の挿絵)を用いる有限要素解析である。熱膨張データHt2の値は、解析対象射出成形品2の各点毎に、第5工程(S5)によるデータと第3工程(S3)による各データとの相関関係に基づいて、第1工程(S1)によって取得した熱膨張データHt1のいずれかを選択することによって求められる。第7工程(S7)は、第6工程(S6)によってマッピングした熱膨張データHt2を用いて解析対象射出成形品2の構造解析を行い、解析対象射出成形品2の不可逆な熱間反りを解析する工程である。
【0025】
図3により、本解析方法の概念、特に上述の第6工程(S6)のマッピングの概念をさらに説明する。第1工程(S1)における熱機械分析によって測定した熱膨張データHt1の集合体は、データベース空間(TMA測定DB空間という)を構成する。このDB空間の各点には、樹脂の流動方向MDと、流動方向MDに直交する流動直交方向TDの両方向について測定された熱膨張データHt1の測定値の対が付随している。また、第3工程(S3)による積分値ΣStr1と時間長trx1のデータからなる空間K1の各点は、DB空間の各点と一対一対応している。空間K1は、樹脂の流動固化の形態に応じて、形態1、形態2、および形態3の3領域に分けられる(後述、
図4)。
【0026】
また、同様に、第5工程(S5)による積分値ΣStr2と時間長trx2のデータは、空間K2を構成する。空間K2は、空間K1と同様に、形態1、形態2、および形態3の3領域に分けられる。空間K2の各点は、解析対象射出成形品2を表す有限要素モデル20の各要素と一対一対応している。第6工程(S6)のマッピング処理は、有限要素モデル20の1つの要素に対し、所定の条件のもとで熱膨張データHt1のいずれかを選択し、選択した熱膨張データHt1を、その要素における熱膨張データHt2に割り付ける作業を、各要素に行う処理である。なお、熱膨張データHt2が割り付けられなかった要素に、他の要素間で線形補間して得た値を新たな熱膨張データHt2を割り付ける補間工程を備えてもよい。線形補間は、例えば、三重線形補間を用いることができる。
【0027】
熱膨張データHt1の選択は、空間K2における点qi(i=1,2,・・)に対し、空間K1における各点pj(j=1,2,・・)の中から、最も相関のある点を選択することにより行われる。すなわち、相関関係による判定によって、点pjが選択されると、空間K2の点と有限要素モデル20の点との一対一対応、および、空間K1の点とDB空間の点との一対一対応により、マッピングされる熱膨張データHt2が確定する。空間K1の点pj(j=1,2,・・)は(ΣStr1,trx1)の値を有し、空間K2の点qi(i=1,2,・・)は(ΣStr2,trx2)の値を有しているので、これらの値により、点qiに対する相関関係の強い対応点pjを選択することができる。積分値ΣStr1,ΣStr2が、例えば、樹脂の流動方向MDと流動直交方向TDに関連してベクトル量やテンソル量として取得された場合、各成分毎の相関関係を総合的に判定して、点pjの選択が行われる。なお、対応点が互いに同一の形態k(k=1,2,3)の空間領域に存在する点である、という条件によって選択判断を大局的に行い、その後、対応点を絞り込むように段階的に処理してもよい。
【0028】
ここで、
図3に示した構成を3つに大別して、解析対象射出成形品2に関する射出成形の数値計算(IM−CAE)と、評価用射出成形品1に基づく射出成形要素データ(IM−ED)と、有限要素モデルによる構造解析(FEM−A)と、に分ける。射出成形要素データ(IM−ED)は、TMA測定DB空間のデータと空間K1のデータの集合である。すると、本解析方法は、任意の解析対象射出成形品について数値計算(IM−CAE)を行い、射出成形要素データ(IM−ED)を用いて、構造解析(FEM−A)を行うことにより、熱間反り変形を予測する解析方法である、と要約することができる。射出成形要素データ(IM−ED)は、測定と計算に基づいて蓄積でき、その蓄積したデータは、任意の解析対象射出成形品に適用できる。従って、本解析方法によると、射出成形要素データ(IM−ED)が蓄積されると、形状の異なる種々の解析対象射出成形品について、測定を行うことなく、射出成形要素データ(IM−ED)を参照して、計算のみによって熱間反り変形を予測することができる。
【0029】
(樹脂の流動固化の形態)
次に、
図4乃至
図10により、本解析方法における重要な概念である、金型内樹脂の射出成形時の流動固化の形態を説明する。
図4、
図5に示すように、樹脂の流動固化の形態は、樹脂の流動性や固化の程度などのプロセス・材料因子の横軸と金型内の樹脂の存在位置が行き止まり位置に近いか否かという形状設計因子の縦軸による2次元状態図を用いて4つの形態0〜3に分類される。
【0030】
形態0は、樹脂が停止することなく流動している状態にあり、金型に樹脂が注入された初期状態に現れる形態であって、[横軸の流動性が大かつ固化の程度が小;縦軸の行き止まり位置が遠]、という状態にある。この形態0は、時間の経過とともに、他のいずれかの形態1,2,3に遷移する形態であって、成形された射出成形品に履歴をとどめない形態ある。
【0031】
形態1は、樹脂が冷却、固化することによって流動停止した状態にあり、[横軸の流動性が小かつ固化の程度が大;縦軸の行き止まり位置が遠のまま]、という状態にある。言い換えると、形態1は、樹脂が金型内で流動中に固化温度を下回って流動停止する場合に相当する。ここで、固化温度には、粘性が高まって流動できなくなる流動停止温度の概念も含まれる。この形態1では、樹脂が流動しつつ固化するので、樹脂流動によって樹脂に発生する剪断応力が大きく、その剪断応力は樹脂の固化によって剪断歪みとして樹脂に蓄積されるので、剪断応力の積分値ΣStrは大きくなると予想される。また、この形態1では、樹脂が固化して後に流動停止するので、樹脂が金型内で流動状態から停止した後の固化温度に至るまでの時間長として定義される時間長trxは0または0に近い値になると予想される。
【0032】
形態2は、樹脂が行き止まりによって流動停止し、停止した状態で冷却固化が進行する状態にあり、[横軸の流動性が大かつ固化の程度が小のまま;縦軸の行き止まり位置が近]、という状態にある。言い換えると、形態2は、下流の樹脂の流動停止によって上流の樹脂の物質移動が妨げられて流動停止する場合に相当し、その移動防止の原因には、金型のキャビティ空間の行き止まりや、固化した樹脂による行き止まりが含まれる。この形態2では、樹脂が流動停止した状態で固化するので、流動に起因する剪断応力の発生は少ないので、剪断応力の積分値ΣStrは小さくなると予想される。また、この形態2では、樹脂が流動停止後に固化するので、停止から固化に至る時間長trxは大きな値になると予想される。
【0033】
形態3は、樹脂が形態1,2の混合状態にあり、固化層の成長に伴い行き止まり位置が接近して流動停止する状況であり、[横軸の流動性が小かつ固化の程度が大;縦軸の行き止まり位置が近]、という状態にある。この形態3では、剪断応力の積分値ΣStrと、停止から固化に至る時間長trxとは、それぞれ0ではない値を有することになり、このような混合状態は、射出成形品の広範囲の部位において発生することが予想される。
【0034】
図6に示すように、射出成形された成形品の物性には、樹脂が、いつ止まり、いつ固まるかという成形時の条件が反映されるので、その固化までの樹脂の挙動の定量化が重要である。言い換えると、固化層の成長挙動、および、行き止まりによる流動停止から固化までの緩和挙動、という2つの挙動の定量化が必要である。ここで、緩和挙動は、樹脂が流動状態から停止した後の冷却固化される間に樹脂内の剪断応力が緩和される状況下の挙動である。前者の成長挙動の定量化は剪断応力の積分値ΣStrを求めることによってなされ、後者の緩和挙動の定量化は時間長trxを求めることによってなされる。
【0035】
図7に示すように、金型3のキャビティ30(樹脂が充填される空間)内を流動している樹脂9は、樹脂の流路であるキャビティ30の内壁側から固化樹脂層9aを成長させつつ、中央部の流動樹脂層9bが、流動方向MDに沿って流動する。流動樹脂層9bは、金型3や固化樹脂層9aに近いほど冷却されて粘度が増すので、キャビティ30の内壁に直交する方向に発生する速度勾配によって剪断応力を受けつつ、内壁側から固化し、剪断応力を内部歪みとして蓄積しつつ停止する。この図に示すように流動中に形成される固化樹脂層9aは、固化層の成長によって流動が止まる上述の形態1によるものである。しかしながら、樹脂の流動固化の形態は、樹脂が射出される金型のキャビティ形状やその内部における樹脂の固化位置などによって決定される。これを、以下に説明する。
【0036】
図8(a)〜(d)は、それぞれ、樹脂の流動方向に直線的に伸びる流路の先に行止部31を有する直線流路形状のキャビティ30を示し、
図8(a)から
図8(d)にかけて、行止部31までの流路長が順に長くなっている。ここでは、各図における断面に垂直な方向の壁面の影響はない(例えば無限遠にある)と想定して説明する。
図8(a)の場合、キャビティ30内の樹脂は、固化する前に行止部31に遭遇して停止し、その後固化するという、形態2の状態が出現すると考えられる。
図8(d)の場合、キャビティ30内に射出された樹脂は、その先端部分が行止部31に達するまでの間、壁面側に固化樹脂層を成長させながら流動し続ける。その流動の間に、行止部31から離れた位置では形態1の状態が出現し、樹脂の先端部分が行止部31に達した後、行止部31周辺に形態2の状態が出現すると考えられる。
図8(b)(c)の場合、それぞれ、形態2の状態に加えて、流路の長さに応じた範囲に形態1の状態が出現する。
【0037】
形態3の状態は、一般に、形態1の領域と形態2の領域との境界領域に出現すると考えられる。形態1、形態2、形態3の各領域が、直線流路の中で、互いにどれくらいの割合で、どのような位置に出現するかは、金型内の流路の厚さ(壁間隙間)、射出圧力、射出速度、樹脂温度、金型温度、金型の熱容量や加熱状態等々の条件に依存する。同じキャビティ30の形状であっても、形状以外の射出条件などが異なれば、流動固化の形態も異なることになる。
【0038】
図9(a)〜(d)は、それぞれ、樹脂の流動方向に直線的に伸びる直線流路が直角に屈曲(ベンド)してなる屈曲流路形状のキャビティ30を示し、
図9(a)から
図9(d)にかけて、屈曲部32までの直線流路長が順に長くなっている。屈曲部32は、上述の
図8における行止部31と異なり、樹脂の流動を停止させないが、樹脂の流速や流速分布、充填完了時間などに影響を与える。従って、屈曲点までの領域における樹脂の流動固化の形態の分布が、
図8に示したものと異なったものとなる。
【0039】
図10(a)〜(d)は、上述の
図8(a)〜(d)の直線流路形状のキャビティ30において上流側の一定距離の位置に直角に分岐した直線流路であるリブ33を備えてなる分岐流路形状のキャビティ30を示す。
図10(a)の場合、上述の
図9(a)の屈曲流路の形状と大差なく、キャビティ30に射出された樹脂は、すぐにリブ33に流入する。
図10(d)の場合、直線方向の流路抵抗に比べてリブ33に向かう流路の流路抵抗が大きいので、リブ33への樹脂の流入は直線方向よりも遅れ、また、直線方向の流路における充填完了の時間も、リブ33への樹脂の分岐の影響を受けて遅れる。いずれにしても、この
図10や上述の
図8、
図9に示したようなキャビティ30の形状や、樹脂射出の条件などによって、樹脂の流動固化の形態は、種々の様相を呈することになる。
【0040】
(評価用射出成形品)
図11(a)(b)(c)は、評価用射出成形品1の例を示す。評価用射出成形品1は、ランナ1aに直交する幅w、肉厚t1の互いに連続するシート状成形部F1,F2,・・、および、各シート状成形部F1,F2,・・における樹脂の流動方向の端部から立ち上がる幅w、肉厚t2のリブR1,R2,・・を備えている。各シート状成形部F1,F2,・・は一定のシート長dを有し、リブR1,R2,・・はシート長d毎に形成されている。幅wは、樹脂の一様直線流を構成するように十分広く設定されている。肉厚t1,t2は、厚さ方向に一様な成形状態となるように十分薄く設定されている。各部の数値は、例えば、w=20mm,t1=t2=0.3mm,d=15mmである。
【0041】
評価用射出成形品1は、種々の流動固化の形態を再現するために、各シート状成形部F1,F2,・・やリブR1,R2,・・の個数を変えた任意の組み合わせで成形される。その組み合わせを記号的に示すと、例えば、(F1),(F1,F2),(F1,R1),(F1,R1,F2),・・等であり、(F1)はシート状成形部F1だけの場合である。評価用射出成形品1の樹脂流動方向の全長は、シート状成形部の個数がn個ならば、d×nである。これらの各種の評価用射出成形品1は、繰り返し構造を有するので、小数種類の要素金型を複数準備して、それらを互いに組み合わせることにより、容易に成形することができる。このような各種の評価用射出成形品1によって、上述の
図8、
図9、
図10に示したような種々のキャビティ30構造に現れる流動固化の形態を再現することができる。
【0042】
各シート状成形部F1,F2,・・から、熱機械分析に供される評価用試料11または評価用試料12が切り出される。評価用試料11は、樹脂の流動方向MDに沿った試料であり、評価用試料12は、樹脂の流動直交方向TDに沿った試料である。なお、同一のシート状成形部から両方の試料を切り出すことができないので、複数の評価用射出成形品1を準備する。各評価用試料11,12の寸法は、例えば、長さa=13mm、幅b=5mm、厚さt1=0.3mmである。各リブR1,R2,・・についても、同様の評価用試料11,12が得られる。熱機械分析装置によって、各評価用試料11,12の長手方向の伸びが測定され、その測定値から長手方向の線膨張係数が得られる。
【0043】
図12(a)(b)(c)は、評価用射出成形品1の他の例を示す。この評価用射出成形品1は、上述の
図11に示した評価用射出成形品1におけるシート状成形部F1,F2,・・の肉厚t1が厚い場合に相当し、その厚さ方向における成形状態が一様ではない成形品である。液晶ポリマーは、互いに物性が異なる層状に成形される傾向がある。そこで、厚いシート状成形部を有する評価用射出成形品1の場合、例えば、熱機械分析用に分厚いままの試験片10を切り出し、その試験片10を、層状に分割して薄い複数の評価用試料11a〜11eを切り出す。このようにして得られる各評価用試料11a〜11eは、それぞれが一様な物性を有する評価用試料となる。この
図12には、樹脂の流動方向MDに沿った5枚の評価用試料を切り出す例を示しているが、流動直交方向TDに沿った評価用試料を切り出したり、シート状成形部の厚さや物性値の変化に応じて、任意枚数の評価用試料を切り出すことができる。このような評価用射出成形品1を用いると、例えば、形態3の状態の評価用試料が得られる。
【0044】
(流動固化の形態)
図13乃至
図15は、流動固化の形態における典型的な形態1,2を示す。
図13(a)に示すように、形態1では、金型内の樹脂温度は時間とともに低下し、樹脂は流動しながら固化が進み、樹脂温度が固化温度に達した時点P1で固化によって流動停止する。流動しながら固化が進行する図中の領域Fで示す温度と時間の変化の間に、剪断応力による歪みが蓄積され剪断応力の積分値ΣStrが形成される。この場合、時点P1では、流動停止と固化とが同時に発生しており、樹脂が流動停止して固化温度に至るまでの時間長trxはゼロである。
【0045】
また、
図13(b)に示すように、形態2では、金型内の樹脂温度は時間とともに低下し、流動していた樹脂は、固化温度に至っていない状態のまま、ある時点P2で行き止まりによって流動停止し、その後、流動停止状態で樹脂温度の低下と樹脂の固化が進行する。時点P2に至るまでの領域Fにおいて剪断応力による歪みが蓄積されるが、その後の樹脂温度が固化温度まで低下した時点Qまで領域Rにおける冷却と固化の間に、流動停止前に蓄積さた剪断応力による歪みは緩和される。そこで、時点P2から時点Qまでの経過時間である時間長trxが、樹脂の緩和挙動による効果の指標となり、また、形態2を特徴付ける指標となる。
【0046】
図14(a)に示すように、形態1を経由して成形される樹脂内の歪みは、時間とともに増加し、ある時点M1を経過した後、飽和歪値A1に落ち着く。この飽和歪値A1は、成形品が金型から取り出された後の、最初の昇温と降温によるアニーリングによって解放される歪みに相当する。また、飽和歪値A1は、剪断応力の積分値ΣStrと、互いに関数関係にある。時点M1は、上述の時点P1に対応する。
【0047】
また、
図14(b)に示すように、形態2を経由して成形される樹脂内の歪みは、時間とともに増加して、時点M2でピークを迎えた後、次第に減少して一定の歪値A2に落ち着く。時点M2から時点Nまでの経過時間が時間長trxであり、その間の歪みの減少量が歪みの緩和量Rxとなる。歪値A2は、成形品が金型から取り出された後の、最初の昇温と降温によるアニーリングによって解放される歪みに相当し、緩和量Rxが存在することにより、上述の形態1における飽和歪値A1よりも小さな値(A2<A1)となる。時点M2は上述の時点P2に対応し、時点Nは上述の時点Qに対応する。
【0048】
図15(a)(b)に示すように、それぞれ形態1および形態2に対応する評価用試料の、昇温と降温の繰り返し熱負荷に対する最初の伸び応答は、共にヒステリシスを示す。すなわち、1回目の昇温時の伸び応答の経路A−Bに対し、1回目の降温と2回目以降の昇温と降温では、経路A−Bとは異なる経路B−Cに沿って変化する伸び応答となる。言い換えると、経路A−Bにおける挙動は不可逆な熱間反り挙動であり、経路B−Cにおける挙動は可逆な熱間反り挙動である。形態1と形態2の違いは、降温された状態の点Aと点Cにおける伸びの値の差で定義される熱歪に表れる。
図15(a)に示す形態1の場合の熱歪L1は、
図15(b)に示す形態2の場合の熱歪L2よりも大きい(L1>L2)。これは、熱歪L1が上述の飽和歪値A1に対応し、熱歪L2が上述の歪値A2に対応し、熱歪L2に上述の緩和量Rxの効果が反映されていることによる。
【0049】
(熱間反り変形)
図16(a)(b)は、互いに製造条件や形状の異なる液晶ポリマー射出成形による2種類の成形品1および成形品2の、昇温と降温の繰り返し熱負荷に対する応答として発生する反り変形すなわち熱間反り変形の変化を示す。以下の説明は、成形品1および成形品2を、成形品の全体ではなく各成形品1,2から反り測定用に切り出した反り測定試料に置き換えても同様である。熱間反り変形は、成形品の形状要因に加え、成形時の樹脂流動の態様、熱履歴、線膨張係数、およびヤング率、などの熱的特性や機械的特性の分布などの要因が複合した結果として発生する。従って、成形品1の反り変形W1、成形品2の反り変形W2のように、成形品が異なれば反り変形の大きさは異なる。他方、熱間反り挙動は、各成形品において、通常、1回目の降温と2回目以降の昇温と降温の繰り返しに対して同じ挙動の反復となる。熱間反り挙動は、1回目の昇温時の反り挙動を除き、従来の反り変形予測方法によって比較的容易に予測されるが、その予測は、成形後の1回目昇温によるアニーリングによって残留ひずみが除去された後の成形品に対する熱間反り予測である。
【0050】
本解析方法は、液晶ポリマー樹脂による任意寸法の射出成形品の1回目の昇温時の反り変形を精度良く予測可能とするものである。本解析方法によれば、上述の
図3に関連して説明したように、解析対象射出成形品について数値計算(IM−CAE)を行い、射出成形要素データ(IM−ED)を用いて構造解析(FEM−A)を行って、1回目の昇温時の反り変形を予測することができる。本解析方法は、蓄積された射出成形要素データ(IM−ED)を参照して、計算のみによって熱間反り変形を予測するので、解析対象射出成形品の形状によらず、小寸法の成形品であっても、成形後の1回目昇温時に成形品に生じる反り変形を精度良く予測できる。この成形後の1回目昇温時に成形品に生じる反り変形は、温度変化に対する不可逆変化であり、成形後の成形品内に存在する残留歪みに起因する。本解析方法は、成形時において、樹脂の固化層が成長して流動が停止する挙動と、金型キャビティの末端まで樹脂が充填し強制的に流動停止した後に固化する挙動とでは、熱膨張データに差が出る、という前提に基づいている。その熱膨張データの差は、液晶ポリマーの分子を配向させる流動中の剪断歪みや、固化前の歪み緩和の有無などの違いにより生じると考えられる。
【0051】
(他の実施形態)
図17のフローチャートは、本解析方法の他の実施形態を示す。本実施形態は、
図1、
図2に示した実施形態における第3工程(S3)と第5工程(S5)とが、それぞれ第3工程(S31)と第5工程(S51)とに代わっており、他は同様である。第3工程(S31)では、第2工程(S2)の数値計算結果に基づいて、評価用射出成形品1の樹脂の流動固化の形態が形態1,2のいずれであるかが判定され、その判定結果に応じて、剪断応力の積分値ΣStr1または時間長trx1のデータが取得される。第5工程(S51)では、第4工程(S4)の数値計算結果に基づいて、解析対象射出成形品2の樹脂の流動固化の形態が形態1,2のいずれであるかが判定され、その判定結果に応じて、剪断応力の積分値ΣStr2または時間長trx2のデータが取得される。本実施形態によると、樹脂の流動固化の形態を、形態1または形態2のいずれかに二分して解析を行い、形態3の状態を考慮しないので、計算処理の簡便化と高速化が実現される。
【0052】
(射出成形品)
図18、
図19は、解析対象射出成形品2を示す。解析対象射出成形品2は、例えば、
図18(a)(b)に示すように、長さ17.8×幅1.83×高さ0.4mmの長尺箱形状の成形品であり、そのX−X断面における底面厚さは0.12mm、側面厚さは0.163mmである。解析対象射出成形品2の長手方向端部に矢印でピンゲートと示す位置が樹脂注入位置である。樹脂の流動方向は、大域的には解析対象射出成形品2の長手方向に沿っているが、局所的には成形時の金型キャビティ空間内の位置、温度分布、各部における樹脂固化の進行具合などに依存して種々の方向に分布する。
【0053】
図18(c)(d)に示した試験片TP1〜TP4について
図19に示す反りデータを取得した。熱間反りは、市販の平坦度測定装置によって温度制御を行い、基準面からの距離を反り量としてレーザ変位センサにより測定した。試験片TP1〜TP4が、解析対象射出成形品2のどの部位から切り取られたものであるかによって、金型内の樹脂の流動固化の形態の複合状態を反映して、反りの計測値が異なっている。温度負荷変化に対する反り変形の挙動は、各試験片TP1〜TP4が、互いに平行に切り出された試験片であって、大略同じ流動方向に沿っていることから、互いに樹脂の流動固化の形態が近いと考えられ、互いに類似の挙動となっている。解析対象射出成形品2の全体の反りは、このような各部の試験片TP1〜TP4等に現れる反りが互いに複合された結果として測定されるものであり、本解析方法は、そのような解析対象射出成形品2の反りの予測を実現する。
【0054】
(評価用射出成形品と測定)
図20乃至
図24は、評価用射出成形品1とその測定例を示す。評価用射出成形品1として、例えば、
図20(a)(b)に示すように、4つの互いに連続するシート状成形部F1〜F4を有する、樹脂の流動方向の成形品全長FLが60mm(FL=15×4mm)の成形品を形成し、各評価用試料11,12を作成する。図中の各評価用試料11,12には、その試料の位置と試料の長手方向の向きとを識別する四角、丸などの幾何学記号を、それぞれ付している。
図21(a)〜(d)に示すように、同様の評価用射出成形品1と各評価用試料11,12とを、各成形品全長FL=15,30,45,60mmについて作成した。
【0055】
評価用試料の熱間伸びは、例えば、
図22に示すように、1回目の昇温時には、下に凸の曲線状の経路A−Bに沿って変化し、1回目の降温と2回目以降の昇温と降温では、直線状の同一の経路B−Cに沿って可逆的に変化する。熱間伸びは、熱機械分析装置の互いに10mm離間した把持部によって評価用試料の両端を把持して、引っ張りモードによって測定した。図中の点AB間の伸びの差Ldは、評価用試料の熱歪を示す(
図15の説明参照)。評価用試料の線膨張係数は、経路A−Bや経路B−Cにおける微分係数によって与えられる。従って、曲線状経路A−Bにおける線膨張係数は温度依存性を有し、直線状経路B−Cにおける線膨張係数は温度変化に対して一定である。
【0056】
図23は、上述の
図21に示した各評価用射出成形品1の各評価用試料について、上述の直線状経路B−Cから求めた線膨張係数を示す。樹脂の流動方向MDおよび流動直交方向TDについて、それぞれ、成形品全長FLに対する系統的な変化が見られる。流動方向MDにおいて、同じシート状成形部であれば成形品全長FL(最長流動長)が長いほど線膨張係数が小さくなり、同じ成形品全長FLにおいては上流ほど線膨張係数が小さくなる。また、シート状成形部F1に着目すると、成形品全長FLが長くなると線膨張係数が飽和する。さらに、各成形品全長FLの末端近くの領域(FL=15mmにおけるF1、30mmにおけるF2、45mmにおけるF3、60mmにおけるF4)においては、成形品全長FLが長いほど線膨張係数が小さくなる。
【0057】
以上のことから、流動方向MDの線膨張係数については、固化層成長が進む時間が長くなる条件ほど、剪断歪みによって強配向した液晶ポリマー分子がそのまま固定されると考えられる。また、下流に到達するまでに樹脂の冷却や固化層による圧力損失によって流速の低下が起こるであろう条件下では、温度低下やシアシニング効果低下によって、剪断粘度が高くなり、剪断歪みが大きくなると考えられる。一方、流動直交方向TDにおいては、流動方向MDに対する異方性が見られ、その異方性は、分子配向が強いほど大きくなる傾向を示しており、これらの評価用試料における線膨張係数は分子配向が支配的であると考えられる。本解析方法は、1回目の昇温時の反り変形を予測するために、曲線状経路A−Bに沿った熱膨張データを取得し、温度依存の線膨張係数を求めて使用する。温度依存の線膨張係数は、構造解析の際に、各温度毎に構造解析用のモデルの各要素にマッピングされる。処理の簡単化のために、2点A,B間の直線ABの傾きから求めた線膨張係数を用いてもよい。
【0058】
図24は、各評価用試料についての残留歪みσを示す。残留歪みσは、各評価用試料について上述の
図22に示した伸び温度曲線を求め、そこから上述の熱歪Ldから求め、その熱歪Ldから算出される。残留歪みσは、例えば、Ld=150μm=0.15mmの場合、伸び対象長さ(上述の把持部の離間距離、L0で表記する)L0=10mmによって、σ=Ld/L0×100(%)=0.15/10×100=1.5(%)として求められる。シート状成形部F1に着目すると、流動末端までの距離に従って、残留歪みの異方性が変化しているように見える。他のシート状成形部においても、流動末端までの距離に従って変化しており、流動固化形態の違いの影響はあると考えられるが、シート状成形部F1と同じような傾向とまでは言えず、線膨張係数の場合のような明確な傾向が見られない。歪みの緩和に関係する流動停止から固化に至るまでの時間長trxは、固化層成長の情報に加え、充填時間や温度分布などの充填時条件を考慮して、より精度良く算出することができる。
【0059】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、解析対象射出成形品2は、液晶ポリマーにガラス繊維を添加した成形品とすることができる。この場合、評価用射出成形品1は、解析対象射出成形品2の場合と同じガラス繊維を添加した樹脂による成形品を用いる。評価用射出成形品1と解析対象射出成形品2は、例えば、直径10μm、平均繊維長178μmのガラス繊維を、I型の液晶ポリマーに30wt%添加した樹脂により成形する。また、流動方向MDや流動直交方向TDは、金型キャビティの形状と樹脂注入のゲート位置などの、幾何学形状に基づいて決定することができる。また、流動方向MDや流動直交方向TDは、例えば、数値計算による樹脂の流速方向によって決定することができ、さらに、液晶ポリマー分子の配向情報や、ガラス繊維の配向情報に基づいて、決定してもよい。