特許第6053054号(P6053054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6053054ラジオゾンデの電源装置およびラジオゾンデ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053054
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】ラジオゾンデの電源装置およびラジオゾンデ
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20161219BHJP
【FI】
   H02J7/00 302A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-536409(P2014-536409)
(86)(22)【出願日】2012年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2012005941
(87)【国際公開番号】WO2014045315
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000244110
【氏名又は名称】明星電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(72)【発明者】
【氏名】清水 健作
【審査官】 赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−018959(JP,U)
【文献】 特開平01−206422(JP,A)
【文献】 特開2007−252050(JP,A)
【文献】 GPSラジオゾンデ(RS−06G),日本,明星電気株式会社,2007年,検索日[2016.06.21]インターネット:<URL:http://www.meisei.co.jp/products/meteo/pdf/RS-06G.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層大気の気象を観測した観測情報を処理し送信する機器に駆動電力を供給するラジオゾンデの電源装置であって、
前記機器の駆動電圧よりも低い定格電圧の乾電池と、
前記乾電池の電圧を所定の電圧に昇圧する1または複数の昇圧型電源回路と、
を有し、
前記乾電池は、リチウム電池またはリチウム電池の組電池であり、
前記昇圧型電源回路は、スイッチングトランジスタとチョークコイルとを含むDC−DCコンバーターであり、
前記スイッチングトランジスタがオンされることにより、前記乾電池から前記チョークコイルに流れる電流を阻止する方向に起電力を発生させ、前記スイッチングトランジスタがオフされることにより、前記チョークコイルに電流を維持しようとする起電力を発生させることを特徴とするラジオゾンデの電源装置。
【請求項2】
前記昇圧型電源回路に接続され、前記昇圧型電源回路の昇圧電圧を前記乾電池の電圧よりも高い電圧まで降圧するレギュレーターを備え
前記機器として、前記レギュレーターに接続され、上層大気の気象を観測するセンサー部からの観測情報を処理する内部回路部と、前記昇圧型電源回路に接続され、前記内部回路部で処理された情報を送信する送信部とを有し
前記送信部は、前記昇圧型電源回路からの昇圧電圧を受けて動作し、前記内部回路部は、前記レギュレーターからの降圧電圧を受けて動作することを特徴とする請求項1に記載のラジオゾンデの電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のラジオゾンデの電源装置と、前記電源装置からの電力が供給される上層大気の気象を観測するセンサー部と、前記センサー部で観測した観測情報を処理し送信する機器と、前記電源装置と前記機器とを収容する容器と、を有するラジオゾンデ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気球により飛揚されて高層の気象を観測するラジオゾンデに搭載される電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高層大気を観測するラジオゾンデは、上層大気の風向、風速、気圧、気温、湿度を測定し、測定情報を送信機により地上に送信する。ラジオゾンデは、機器を駆動する電源装置に、古くから注水電池が主な電源として使用されてきた。これは、ラジオゾンデの送信機を動作させるのに十分な電圧(5V〜12V程度)を持つこと、地上気温から上空の−90℃近い極低温環境で動作できること、ゴム気球で飛揚させる程度に軽いこと、といった要件を満たすのに注水電池が適していたからである。
【0003】
ところで、自己発熱の大きい注水電池は、極低温環境においても電圧降下を起こし難く、十分な電圧を供給できた。しかし、注水電池は、一旦注水すると動作が停止できないため、運用上不便を招くことがあった。
【0004】
このため、近年、ラジオゾンデの電源装置には。電源電池として、乾電池を用いることが主流になりつつある(特許文献1)。
【0005】
乾電池は、一般に1セル当たり1.5Vまたは3.0Vの定格電圧を持ち、ラジオゾンデ用として用いる場合には、複数個を直列にして所定の電圧を得るようにしている。
【0006】
しかしながら、ラジオゾンデの電源部に複数個の乾電池を用いると、電源装置の重量が増し、気球の容積も大きくなり、また気球に充填する水素ガス等のガス容積が増え、1回の放球に要するコストがアップする。
【0007】
また、マンガン,アルカリ乾電池を使用した場合、低温環境下において内部の水系電解液の凍結を招き、電圧降下が生じる。このため、凍結防止のために、乾電池を保温材により覆うことが行われていた。
【0008】
一方、非水系電解液を有するリチウム電池等の乾電池は、比較的低温でも動作するため、保温材による凍結防止対策は不要であるが、高い電圧を得るには、アルカリ乾電池等と同様に複数個を直列に接続する必要があった。
【0009】
また、リチウム電池の有する1セル当たりの電気容量は、2〜3時間程度のラジオゾンデの観測時間内に電池を使い切れない程大きく、複数個のリチウム電池を直列に接続して使用すると必要以上の電気容量を搭載することとなり、コスト的な無駄を招いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−307150公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、電源電池として乾電池を使用しても軽量化を図ることができ、観測時間に見合った電池容量で必要な電圧を供給でき、極低温環境下でも所定の起電力を発生できるラジオゾンデの電源装置およびラジオゾンデを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の課題を解決するラジオゾンデの電源装置は、上層大気の気象を観測した観測情報を処理し送信する機器に駆動電力を供給するラジオゾンデの電源装置であって、前記機器の駆動電圧よりも低い定格電圧の乾電池と、前記乾電池の電圧を所定の電圧に昇圧する1または複数の昇圧型電源回路と、を有する。このとき、前記乾電池は、リチウム電池またはリチウム電池の組電池で構成することができ、前記昇圧型電源回路は、スイッチングトランジスタとチョークコイルとを含むDC−DCコンバーターとすることができる。そして、前記昇圧型電源回路は、前記スイッチングトランジスタがオンされることにより、前記乾電池から前記チョークコイルに流れる電流を阻止する方向に起電力を発生させ、前記スイッチングトランジスタがオフされることにより、前記チョークコイルに電流を維持しようとする起電力を発生させることを特徴とする。
【0015】
上記した構成において、前記昇圧型電源回路に接続され、前記昇圧型電源回路の昇圧電圧を前記乾電池の電圧よりも高い電圧まで降圧するレギュレーターを備え、前記機器として、前記レギュレーターに接続され、上層大気の気象を観測するセンサー部からの観測情報を処理する内部回路部と、前記昇圧型電源回路に接続され、前記内部回路部で処理された情報を送信する送信部とを有する。前記送信部は、前記昇圧型電源回路からの昇圧電圧を受けて動作し、前記内部回路部は、前記レギュレーターからの降圧電圧を受けて動作することを特徴とする。
【0016】
本発明の課題を解決するラジオゾンデの構成は、上記した構成のラジオゾンデの電源装置と、前記電源装置からの電力が供給される上層大気の気象を観測するセンサー部と、前記センサー部で観測した観測情報を処理し送信する機器と、前記電源装置と前記機器とを収容する容器と、を有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるラジオゾンデの電源装置によれば、昇圧型のDC−DCコンバーター等の昇圧型電源回路により乾電池の電圧を所定の電圧に昇圧させることで、例えば1本の乾電池の電気容量でラジオゾンデの観測を可能としつつ、乾電池の本数を大幅に低減してラジオゾンデの重量を大幅に低減することが可能となった。
【0018】
このため、気球のサイズを小さくでき、併せて気球に充填する水素ガスの容量も大幅に減らすことができ、一度の放球に要するコストを大幅に低減することができる。
【0019】
さらに、観測の終了後にラジオゾンデが地上に落下しても、ラジオゾンデが軽量化されているため、地上落下時のリスクを大幅に低減される。
【0020】
また、乾電池を昇圧型のDC−DCコンバーター等の昇圧型電源回路に接続することにより、乾電池が自己発熱し、環境温度が低下するに従って乾電池の電流が大きくなって、自己発熱温度が上昇する。このため、高度の上昇に伴う環境温度の低下に伴って、乾電池の電圧が一時的に低下するが、自己発熱温度の上昇により、電圧の低下が緩やかになり、略一定の電圧が維持され、安定した電圧を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明によるラジオゾンデの一実施形態を示す電気回路のブロック図。
図2図1に示すラジオゾンデの電源装置の第1実施形態を示すブロック図。
図3図1に示すラジオゾンデの電源装置の第2実施形態を示すブロック図。
図4図2図3に示す昇圧型電源回路の回路図。
図5図4に示す乾電池の電圧と環境温度変化との関係を自己発熱温度との関係で示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は本発明によるラジオゾンデの一実施形態を示す電気回路のブロック図である。
【0024】
図1において、気球により飛揚されるラジオゾンデ1は、センサー部2の温度センサー2Aおよび湿度センサー2Bで検出した検出情報を信号処理部3に出力する。また、GPS(Global Positioning System)レシーバー4はGPSアンテナ4Aから取得した位置情報を信号処理部3に出力する。信号処理部3は受信した各種の観測情報を送信部5に出力し、送信アンテナ5Aから地上の受信設備に送信する。
【0025】
なお、本実施形態において、風向、風速、気圧は、GPSより得られた移動速度および高度に基づいて測定されるが、本発明のラジオゾンデはこの構成に限定されるものではない。
【0026】
信号処理部3とGPSレシーバー4と送信部5には、電源装置6から所定電圧の電力が供給される。
【0027】
電源装置6は、図2に示すように、電圧V0の乾電池10を電源とし、DC-DCコンバーター等の昇圧型電源回路11により乾電池10の電圧V0を昇圧し、電圧V0よりも高圧の電圧V1(V0<V1)を得る。昇圧型電源回路11により昇圧する電圧V1により送信部を駆動する。また、内部回路部13(信号処理部3およびGPSレシーバー4)の駆動電圧V2は、送信部の駆動電圧V1よりも低い(V2<V1)。そこで、昇圧型電源回路11により昇圧した電圧V1を3端子型レギュレーター12により電圧V2に降圧し、内部回路部13に供給する。
【0028】
電源装置6の乾電池10は、公称定格1.5Vまたは3.0Vのリチウム電池またはリチウム電池の組電池を使用している。また、昇圧型電源回路11は、乾電池10の電圧V0を5V〜12V程度の一次電圧V1に昇圧する。
【0029】
昇圧型電源回路11としては、例えば図4に示す非絶縁型DC−DCコンバーターを例示することができる。このDC−DCコンバーターは、制御IC23によりON−OFF制御されるスイッチングトランジスタ22がONすると、乾電池10からの電流が全てチョークコイル20に流れるので、チョークコイル20は流れ込む電流を阻止する方向に起電力を生み、エネルギーを蓄える。次いで、スイッチングトランジスタ22がOFFすると、チョークコイル20は電流を維持しようとする方向に起電力を生み、蓄えたエネルギーを放出する。このため、チョークコイル20の両端に高電圧の誘導電圧が発生し、この誘導電圧に乾電池10の電圧が加算された電圧がコンデンサ24にチャージされる。その際、ダイオード21はコンデンサ24にチャージされた電圧が乾電池10に逆流するのを阻止している。
【0030】
DC−DCコンバーターは、プリント基板上にチョークコイル20、ダイオード21、スイッチングトランジスタ22、制御IC23、コンデンサ24を実装した構成としている。本実施形態のDC−DCコンバーターの重量は、5g〜10g程度である。また、乾電池10の重量は、15g〜30g程度である。
【0031】
ここで、DC−DCコンバーターを使用せずに二次電圧V1を得ようとすると、乾電池10を3本直列に接続し、内部回路部13を駆動するのに、3端子レギュレーター12を使用する構成となる。この従来構成と、第1実施形態の構成とを比較すると、乾電池10の本数が2本少なく、DC−DCコンバーターが余分に増えた点で相違する。ここで、乾電池10の重量は、1本当たり15g程度であり、DC−DCコンバーターの重量は5g程度である。
【0032】
そうすると、本実施形態の電源装置6は、DC−DCコンバーターを採用することにより、従来構成と比較して30g程度の軽量化を図ることができる。
【0033】
本実施形態のラジオゾンデ1の全重量は110g程度であるから、30g程度の軽量化を図れることは、ラジオゾンデ1の大幅な軽量化を実現できることになる。
【0034】
また、乾電池10として用いられるリチウム電池は、一本当たりの電気容量が約3時間程度あり、これを3本直列に接続すると、電気容量が3倍に増える。しかし、ラジオゾンデ1の観測時間が2〜3時間程度であるので、電気容量の点からは一本のリチウム電池で十分に賄うことができる。
【0035】
本実施形態によれば、複数本の乾電池を直列接続して得られる電圧を、1本の乾電池10とDC−DCコンバーターである昇圧型電源回路11により得られるようにしている。このため、ラジオゾンデの全重量の中で大きな割合を占めていた電源電池の削減が図れ、新たに加わった昇圧型電源回路の重量も微増であるため、1本の乾電池10での観測が行え、ラジオゾンデの大幅な軽量化が実現可能となった。
【0036】
ラジオゾンデの軽量化により、気球の容積を小さくでき、併せて気球に充填する水素ガス等の充填量も大きく減少させることができ、1回の放球に要する費用を大幅に低減することが可能となった。
【0037】
一方、昇圧DC−DCコンバーターは、図4に示すように、スイッチングトランジスタ22がONの時に、乾電池10の両端にチョークコイル20の両端が接続され、チョークコイル20に電流が流れるため、乾電池10の内部抵抗により、乾電池10が自己発熱する。
【0038】
ラジオゾンデ1は、放球されて上昇し、高度が上がると環境温度が低下し始める。図5は、乾電池の電圧と環境温度変化との関係を、乾電池の自己発熱量(電圧低下に伴う電流増加に起因する発熱量の増加)との関係で示した図で、乾電池の電圧は環境温度の低下に伴って低下し始める。しかし、乾電池10の電圧低下は逆にチョークコイル20に流れる電流の増加を招き、乾電池10は電圧低下に伴う電流増加に起因して発熱量が増加し、乾電池10の発熱温度が高くなる。乾電池10は発熱温度が高くなることにより、起電力の低下傾向が鈍化し、ラジオゾンデ1の高度が増して環境温度が低下しても略一定の電圧が維持される。
【0039】
本実施形態によれば、昇圧型DCーDCコンバーターを使用することにより、乾電池10は、消耗による電圧降下に伴う電流の増加により、自己発熱を生じさせ、極低温環境下における起電力の低下を、保温部材を用いることなく抑制することができる。保温部材を不要とすることで、ラジオゾンデの軽量化を図ることができる。
【0040】
ラジオゾンデの軽量化により、地上落下時のリスクを大幅に低減することができる。
【0041】
なお、ラジオゾンデ1は、不図示の容器内に回路基板と電池が収容され、各種のアンテナが前記容器から外部に向けて支出されている。そして、例えば水素ガスを充填した気球に前記容器を吊り下げ紐を介して連結し、放球する。
【0042】
第2実施形態
図3図1に示すラジオゾンデの電源装置の第2実施形態を示すブロック図である。
【0043】
図2に示す第1実施形態では、内部回路部13の駆動のためにレギュレーター12を用いているが、本実施形態では、昇圧型電源回路11と同構成の第2昇圧型電源回路11Bにより昇圧した電圧V2を内部回路13に供給している。また、昇圧型電源回路11と同構成の第1昇圧型電源回路11Aにより昇圧した電圧V1を送信部に供給している。
【0044】
本実施形態では、1本の乾電池10の電圧V0を第1昇圧型電源回路11Aと第2昇圧型電源回路11Bでそれぞれ電圧V1、V2(V2<V1)に昇圧しているが、電圧V1、V2とは異なる電圧で駆動される回路部を設けた場合には、新たに昇圧型電源回路を増設し、電圧V3を供給してもよく、昇圧型電源回路11Bの個数が2個に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のラジオゾンデの電源装置は、プリント基板上にICやチョークコイルを組み付けることにより構成することができ、ラジオゾンデの送信部や内部回路のプリント基板と一体に組み付けることができる。また、ラジオゾンデは水素ガスを充填した気球に吊り下げられ、放球することで上層大気の気象を観測する。
【符号の説明】
【0046】
1 ラジオゾンデ
2 センサー部
3 信号処理部
4 GPSレシーバー
5 送信部
6、60 電源装置
10 乾電池
11 昇圧型電源回路
11A 第1昇圧型電源回路 11B 第2昇圧型電源回路
12 レギュレーター
13 内部回路部
20 チョークコイル
21 ダイオード
22 スイッチングトランジスタ
23 制御IC
24 コンデンサ
図1
図4
図5
図2
図3