(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の中性子導管に含まれる一の中性子導管の第1の開口から入射した中性子が当該一の中性子導管に隣接し前記複数の中性子導管に含まれる他の中性子導管の第2の開口から出射する場合に、前記一の中性子導管の外側面から前記他の中性子導管の外側面に至るまでに当該中性子が進行する最短距離は、前記複数の中性子導管の間に充填されている前記中性子吸収材の平均自由行程よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の中性子ラジオグラフィ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、燃料電池の中における水の挙動の観測、及び、生体細胞の観測には、比較的に高い空間分解能が要求される。熱中性子及び冷中性子を用いる中性子ラジオグラフィ装置は、このような比較的に高い空間分解能を必要とする用途に好適である。中性子と水素等との反応断面積は、中性子と金属との反応断面積よりも大きいからである。中性子ラジオグラフィ装置の空間分解能は、中性子ラジオグラフィ装置の計測器の分解能から影響を受けるが、中性子ビームの平行度から主に影響を受ける。中性子ビームの平行度は、中性子ラジオグラフィ装置の中性子コリメータの構造から影響を受ける。中性子ビームの平行度を示す指標は、コリメート比である。コリメート比は、中性子コリメータの中性子導管の長さ(L)を中性子導管の開口の直径(D)で割った値(L/D)である。従来の中性子コリメータのコリメート比は、100〜1000程度であることができる。中性子導管の長さが長い程、コリメート比は増加する。中性子導管の開口の直径が小さい程、コリメート比は増加する。しかし、中性子導管の長さは、装置の規模(装置全体の寸法)に影響を与える。中性子導管の開口の直径は、中性子の照射野の広さに影響を与える。すなわち、コリメート比の決定は、装置全体の大きさ、及び、照射野の広さ、に影響を与える。従って、装置の規模、及び、照射視野、に条件が設けられる場合には、この条件によって空間分解能も制限を受ける。
【0005】
そこで、本発明の目的は、上記の事項を鑑みてなされたものであり、装置の規模の縮小と、空間分解能の向上と、照射野の向上とが共に可能な中性子用ラジオグラフィ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る中性子ラジオグラフィ装置は、マルチピンホールコリメータを備え、前記マルチピンホールコリメータは、複数の中性子導管と、前記複数の中性子導管を保持する筐体と、中性子吸収領域と、を備え、前記筐体は、第1の表面と第2の表面とを備え、前記第1の表面と前記第2の表面とは、中性子ビームの入射方向に沿って延びる基準軸に直交するように、配置され、前記第1の表面は、前記第2の表面の反対側にあり、前記複数の中性子導管のそれぞれは、中空のパイプ形状を備え、第1の開口と第2の開口とを備え、前記第1の表面と前記第2の表面との間に延在し、前記基準軸に沿って互いに平行に配置され、前記第1の開口は、前記第1の表面に設けられ、前記第2の開口は、前記第2の表面に設けられ、前記中性子吸収領域は、前記筐体の内壁面と前記複数の中性子導管の外側面との間を占めており、前記中性子吸収領域には、中性子吸収材が充填され、前記中性子吸収材は、Gd,B,Liの何れかを含む。
【0007】
マルチピンホールコリメータは複数の中性子導管を備えるので、好適なコリメート比を実現するために中性子導管の導管長を比較的に短くし且つ開口径も比較的に短くしても、中性子導管の数を増加させることによって、照射野と中性子利用効率とを増加できる。よって、好適なコリメート比によって好適な空間分解能を実現できると共に、複数の中性子導管を備えることによって照射野と中性子利用効率とを増加できる。更に、導管長を短くしても開口径も短くすれば好適なコリメート比を維持できるので、比較的に高い空間分解能を維持しつつマルチピンホールコリメータの規模を縮小でき、コストの削減も可能となる。更に、中性子吸収材はGd,B,Liの何れかを含む。Gd,B,Liは、何れも、熱中性子等(熱中性子の熱運動エネルギー以下の熱運動エネルギーを有する中性子)との反応断面積が比較的に大きい。従って、マルチピンホールコリメータにおいて、中性子導管の内側とは異なる箇所を進行する熱中性子等の熱運動エネルギーは、中性子吸収材によって、十分に低減可能である。
【0008】
本発明の中性子ラジオグラフィ装置では、前記複数の中性子導管に含まれる一の中性子導管の第1の開口から入射した中性子が当該一の中性子導管に隣接し前記複数の中性子導管に含まれる他の中性子導管の第2の開口から出射する場合に、前記一の中性子導管の外側面から前記他の中性子導管の外側面に至るまでに当該中性子が進行する最短距離は、前記複数の中性子導管の間に充填されている前記中性子吸収材の平均自由行程よりも大きい。従って、開口から中性子導管に入射し、中性子導管の外側面を介して中性子吸収領域に進行する中性子は、中性子吸収領域において十分に減衰可能なので、中性子導管以外の他の中性子導管の開口から出射される、という事象の発生を抑制できる。
【0009】
本発明の中性子ラジオグラフィ装置では、前記複数の中性子導管は、第1の開口径を有する中性子導管と、第2の開口径を有する中性子導管とを備え、前記第1の開口径は、前記第2の開口径と異なる。従って、複数のコリメート比を有するので、用途に応じて、複数のコリメート比を利用できる。
【0010】
本発明の中性子ラジオグラフィ装置では、前記複数の中性子導管は、第1の導管長を有する中性子導管と、第2の導管長を有する中性子導管とを備え、前記第1の導管長と前記第2の導管長とは、前記基準軸の方向における中性子導管の長さであり、前記第1の導管長は、前記第2の導管長と異なる。従って、複数のコリメート比を有するので、用途に応じて、複数のコリメート比を利用できる。
【0011】
本発明の中性子ラジオグラフィ装置では、前記複数の中性子導管は、前記基準軸の方向からみて、六方格子状に配列されている。従って、複数の中性子導管は、筐体の内側において、密に配置できる。よって、中性子ビームが入射するマルチピンホールコリメータの第1の面の開口率は向上される。
【0012】
本発明の中性子ラジオグラフィ装置では、体積中性子源を更に備え、前記体積中性子源は、中性子を出射する出射面を備え、前記第1の表面は、前記出射面に面しており、前記基準軸に沿って中性子ビームの入射方向からみて、前記出射面は、前記第1の表面に重なる。従って、中性子導管の導管長を伸ばすことなく、大口径の中性子ビーム8を観測対象物に照射できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、装置の規模の縮小と、空間分解能の向上と、照射野の向上とが共に可能な中性子用ラジオグラフィ装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、可能な場合には、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、実施形態に係る中性子ラジオグラフィ装置1の構成を示す図である。中性子ラジオグラフィ装置1は、体積中性子源2、マルチピンホールコリメータ3、画像検出装置4、金属フィルタ5、遮蔽体6を備える。体積中性子源2は、出射面2aを備える。マルチピンホールコリメータ3は、筐体3aを備える。筐体3aは、主表面3bと表面3cとを備える。中性子ラジオグラフィ装置1は、中性子ビーム8を用いて観測対象物7の透過像を撮像する。中性子ビーム8の中性子は、熱中性子の熱運動エネルギー以下(略0.025eV以下)の熱運動エネルギーを有する中性子であり、以下、熱中性子等、と称する。
【0016】
体積中性子源2は、中性子ビーム8を出射面2aから出射する。出射面2a、金属フィルタ5、主表面3b、表面3c、観測対象物7、画像検出装置4は、この順に、基準軸Axに沿って、配置されている。出射面2a、主表面3b、表面3cは、基準軸Axに直交している。主表面3bは、出射面2aに面している。出射面2aは、基準軸Axに沿って中性子ビーム8の入射方向からみて、主表面3bに重なる。基準軸Axは、出射面2aから出射される中性子ビーム8の進行方向に沿って延びている。体積中性子源2は、例えば重水及び軽水等が充填されたプールを備える。体積中性子源2は、高速中性子をプールを用いて減速し、中性子ビーム8を生成する。高速中性子は、例えば、原子炉、加速器等から体積中性子源2に入射する。マルチピンホールコリメータ3は、中性子ビーム8をコリメートする。画像検出装置4は、マルチピンホールコリメータ3から出射されコリメートされた中性子ビーム8を、観測対象物7を介して、受ける。画像検出装置4は、中性子ビーム8によって、観測対象物7の透過像を、2次元画像として、撮像する。金属フィルタ5は、体積中性子源2の出射面2aと、マルチピンホールコリメータ3の主表面3bとの間に設けられている。金属フィルタ5は、γ線(例えば、体積中性子源2から出射されるγ線)を、遮蔽する。金属フィルタ5によって、マルチピンホールコリメータ3に入射するγ線のエネルギーは、低減される。遮蔽体6は、体積中性子源2から出射される放射線(γ線以外の他の放射線)を、遮蔽する。遮蔽体6によって、マルチピンホールコリメータ3に入射する放射線のエネルギーは、低減される。
【0017】
図2は、マルチピンホールコリメータ3の構成を示す図である。マルチピンホールコリメータ3は、直管型の中性子コリメータである。マルチピンホールコリメータ3は、筐体3aを備える。筐体3aは、主表面3bと表面3cとを備える。主表面3bは、表面3cの反対側にある。主表面3bと表面3cとは、基準軸Axに直交するように配置されている。基準軸Axは、中性子ビーム8の入射方向に沿って延びている。筐体3aは、複数の中性子導管9を備える。筐体3aは、複数の中性子導管9を保持する。筐体3aは、中性子吸収領域10を備える。複数の中性子導管9は、筐体3aの内側において、基準軸Axの方向からみて、六方格子状に配列されている。
【0018】
中性子導管9は、中空のパイプ形状(円筒状)を備える。中性子導管9は、開口Ap1aと開口Ap1bとを備える。開口Ap1aの形状は、開口Ap1bの形状と同一である。開口Ap1aは、開口Ap1bの反対側にある。開口Ap1aは、中性子導管9の長手方向の一の端部に設けられている。開口Ap1bは、中性子導管9の長手方向の他の端部に設けられている。中性子導管9は、主表面3bと表面3cとの間に延在する。複数の中性子導管9は、筐体3aの内側において、基準軸Axに沿って互いに平行に配置されている。開口Ap1aは、主表面3bに設けられている。主表面3bには、複数の開口Ap1aが設けられている。開口Ap1bは、表面3cに設けられている。表面3cには、複数の開口Ap1bが設けられている。中性子ビーム8は、開口Ap1aから入射し、中性子導管9の内側を進み、開口Ap1bから出射される。
【0019】
中性子導管9は、SUS及びガラス等の材料によって構成されている。中性子導管9の材料は、中性子を透過し、電子(e
−)、α線等の荷電粒子を遮蔽する。SUS及びガラス等は、中性子を透過し、電子、α線等の荷電粒子を遮蔽する。
【0020】
中性子導管9のコリメート比は、マルチピンホールコリメータ3のコリメート比である。中性子導管9のコリメート比は、中性子導管9の基準軸Axの方向の長さ(
図4に示す導管長Va4)を、中性子導管9の開口径(
図4に示す開口径Va2)で割った値である。中性子導管9のコリメート比は、例えば、50以上2000以下である。マルチピンホールコリメータ3の空間分解能は、中性子導管9の空間分解能であり、中性子導管9の空間分解能は、中性子導管9のコリメート比によって規定される。
【0021】
中性子吸収領域10は、筐体3aの内壁面3dと中性子導管9の外側面9aとの間を占めている。中性子吸収領域10には、中性子吸収材が充填されている。中性子吸収材は、Gd,B,Liの何れかを含有する。中性子吸収材は、Gd,B,Liの何れかのナノパウダー(100nm未満の粒径を有する粒子のパウダー)であることができる。中性子吸収材は、Gd,B,Liの何れかのナノパウダーが混合された樹脂であることもできる。中性子吸収材は、内壁面3dと複数の中性子導管9の外側面9aとの間の中性子吸収領域10に対し、隙間なく充填される。隣接する二つの中性子導管9の間の間隔は、中性子吸収材のナノパウダーの粒径よりも十分に広い。
【0022】
図3に示すように、Gd,B,Liと熱中性子等(熱中性子の熱運動エネルギー以下の熱運動エネルギーを有する中性子であり、以下同様)との反応断面積は、比較的に大きい。
図3に示す反応断面積は、熱中性子等との反応断面積である。
図3には、Sm,Cdそれぞれの熱中性子等との反応断面積も示されている。Sm,Cdのそれぞれと熱中性子等との核反応は、γ線を発生する。Gd,B,Liのそれぞれと熱中性子等との核反応は、電子、α線等の荷電粒子を発生し、γ線を発生しない。中性子導管9の材料は、SUS及びガラス等であり、SUS及びガラス等は、γ線に比較して、電子、α線等の荷電粒子を遮蔽できるので、よって、中性子吸収材は、Gd,B,Liが適当であり、Sm,CDは不適当である。
【0023】
図4は、
図2に示すI−I線に沿ったマルチピンホールコリメータ3の断面の主要な部分を示す図である。中性子導管9の外径Va1の長さを“D1”とする。中性子導管9の開口径Va2(中性子導管9の内径)の長さを“D2”とする。一の中性子導管9(
図4においては特に中性子導管9_1とする)と中性子導管9_1に隣接する他の中性子導管9(
図4においては特に中性子導管9_2とする)との間における中性子吸収領域10の厚み
Va3(中性子導管9_1の外側面9aと中性子導管9_2の外側面9aとの間の間隔)の大きさを“d”とする。中性子導管9の導管長Va4の長さ(中性子導管9の長手方向の長さであり、中性子導管9の基準軸Axの方向の長さでもある)を“L”とする。中性子導管9_1の開口Ap1aから入射した中性子が方向Dirに沿って中性子導管9_2の開口Ap1bから出射する場合に、中性子導管9_1の外側面9aから中性子導管9_2の外側面9aに至るまでに、この中性子が方向Dirに沿って進行する最短距離Va5の長さを“x”とする。中性子吸収領域10に充填されている中性子吸収材のGd,B,Liの原子数密度(cm
−3)を“n”とする。中性子吸収領域10に充填されている中性子吸収材が有する中性子の反応断面積(barn)を“σ”とする。
【0024】
図5に示す数式1は、開口Ap1aから中性子導管9_1に入射した熱中性子等(中性子ビーム8)が中性子導管9_1の外側面9aを介して中性子吸収領域10に進行した場合に、この熱中性子等が中性子吸収領域10によって十分に吸収されるための条件である。数式1の左辺は、最短距離Va5の長さ“x”であり、数式1の右辺は、中性子吸収領域10の中性子吸収材の平均自由行程である。
【0025】
数式1によって規定される条件を次に記す。すなわち、中性子導管9_1の開口Ap1aから入射した熱中性子等(中性子ビーム8)が方向Dirに沿って中性子導管9_2の開口Ap1bから出射する場合に、中性子導管9_1の外側面9aから中性子導管9_2の外側面9aに至るまでに、この熱中性子等が方向Dirに沿って進行する最短距離Va5は、複数の中性子導管9の間に充填されている中性子吸収材の平均自由行程よりも大きい(以上、数式1によって規定される条件)。
【0026】
数式1の条件が満たされれば、開口Ap1aから中性子導管9_1に入射し、中性子導管9_1の外側面9aを介して中性子吸収領域10に進行する熱中性子等は、中性子導管9_1以外の他の中性子導管9の開口Ap1bから出射される、という事象の発生を抑制できる。
【0027】
図5の数式2は、主表面3bの開口率Rを規定する。開口率Rは、主表面3bの全体の面積S1に対する、主表面3bに設けられた複数の開口Ap1aの面積の合計値S2の割合(%)である(R=(S2/S1)×100)。開口率Rに下限を設けることによって、開口径Va2と厚み
Va3とを一定とした場合の外径Va1(換言すれば、中性子導管9の壁の厚み)の上限値が規定される。中性子導管9の壁の厚みは、外径Va1の長さから開口径Va2の長さを差し引いた値を2で割った値(D1−D2)/2である。中性子導管9の壁の厚みは、数式2によって規定される上限値以下であり、中性子を十分に透過できる程度に十分に薄い。中性子導管9の壁の厚みの下限値は、真直性及び剛性を確保するために必要な厚み、及び、中性子吸収領域10から入射する荷電粒子を遮蔽してノイズを低減し画像検出装置4に対するS/N比を向上するために、中性子導管9の壁に入射した荷電粒子のエネルギーが壁内において十分に減衰するために必要な厚み、のうち最も小さい値を超えない値である。
【0028】
例えば、開口率Rの下限を40%とし、開口径Va2の長さを500μmとし、厚み
Va3の厚さを100μmとすると、外径Va1の長さの上限値は653μmとなり、中性子導管9の壁の厚みの上限値は、(653−500)/2=76.5μmとなる。
【0029】
中性子導管9の壁に入射した荷電粒子のエネルギーが壁内において十分に減衰するために必要な厚みは、中性子導管9の壁中での平均飛程によって規定される。例えば、中性子導管9の壁の材料がSUSの場合、
10B(n,α)
7Liの核反応で発生するα粒子とLiイオンの平均エネルギーは、それぞれ、0.8MeV、2,74MeVの程度であり、この核反応で発生するα粒子とLiイオンのSUS中での平均飛程は、それぞれ、1.4μm、2.8μmの程度である。
157Gd(n,e
−)
158Gdの核反応で発生する電子(e
−)の平均エネルギーは70keVの程度であり、この核反応で発生する電子(e−)のSUS中での平均飛程は10μmの程度である。
【0030】
SUSやガラスの表面は、比較的に凹凸が少ないので(滑らかなので)、SUSやガラスを中性子導管9の材料に用いた場合には、中性子導管9に入射した熱中性子等の反射率が比較的に高い。
【0031】
以上説明したように、マルチピンホールコリメータ3は複数の中性子導管9を備えるので、好適なコリメート比を実現するために中性子導管9の導管長Va4を比較的に短くし且つ開口径Va2も比較的に短くしても、中性子導管9の数を増加させることによって、照射野と中性子利用効率とを増加できる。よって、好適なコリメート比によって好適な空間分解能を実現できると共に、複数の中性子導管9を備えることによって照射野と中性子利用効率とを増加できる。更に、導管長Va4を短くしても開口径Va2も短くすれば好適なコリメート比を維持できるので、比較的に高い空間分解能を維持しつつマルチピンホールコリメータ3の規模を縮小でき、コストの削減も可能となる。更に、中性子吸収材はGd,B,Liの何れかを含む。Gd,B,Liは、何れも、熱中性子等(熱運動エネルギーが0.025eV以下の中性子)との反応断面積が比較的に大きい。従って、マルチピンホールコリメータ3において、中性子導管9の内側とは異なる箇所を進行する熱中性子等の熱運動エネルギーは、中性子吸収材によって、十分に低減可能である。更に、複数の中性子導管9は、基準軸Axの方向からみて、六方格子状に配列されている。従って、複数の中性子導管9は、筐体3aの内側において密に配置できる。よって、中性子ビーム8が入射するマルチピンホールコリメータ3の主表面3bの開口率Rは向上される。更に、主表面3bは、出射面2aに面しており、基準軸Axに沿って中性子ビーム8の入射方向からみて、主表面3bは、出射面2aに重なる。従って、中性子導管9の導管長Va4を伸ばすことなく、大口径の中性子ビーム8を金属フィルタ5に照射できる。
【0032】
マルチピンホールコリメータ3の具体的な構成の一例を示す。観測対象物の厚さを“k”とすると中性子ビーム8の拡がりによる画像の幾何学的な不鮮明度はコリメート比を用いると、k/(L/D)で表される。つまり、厚さ1cmの物体を空間分解能10μmで観測したい場合には、コリメート比L/D=1000が要求される。このような条件を満たすためには、例えば、開口径Va2の長さD2が50μm、外径Va1の長さD1が100μm、導管長Va4の長さが5cmの中性子導管9を、2mmの間隔で六方細密構造で配置し、各中性子導管9間に酸化ガドリニウムの中性子吸収材を充填する(例えば、予め各中性子導管9に厚さ1mm程度の酸化ガドリニウムコーティングを施してからバンドル化することで実現できる。)。この構成のマルチピンホールコリメータ3では、開口率R=31%であり、コリメート比L/D=1000のである。
【0033】
図6に、マルチピンホールコリメータ31の構成を示す。マルチピンホールコリメータ31は、マルチピンホールコリメータ3の変形例である。マルチピンホールコリメータ31は、二つの異なるコリメート比を有する。マルチピンホールコリメータ31は、筐体3a1、中性子導管91、中性子導管92、中性子吸収領域10を有する。筐体3a1は主表面3b1を備える。主表面3b1は、主表面3bに対応している。主表面3b1は、第1領域3b1aと第2領域3b1bとを備える。マルチピンホールコリメータ31の中性子吸収領域10は、マルチピンホールコリメータ3の中性子吸収領域10と同様である。筐体3a1、中性子導管91、中性子導管92のそれぞれの材料は、筐体3a、中性子導管9のそれぞれの材料と同様である。中性子導管91は、開口Ap2を有し、中性子導管92は開口Ap3を有する。開口Ap2の内径は、開口Ap3の内径と異なる。開口Ap2の外径は、開口Ap3の外径と異なる。すなわち、筐体3a1は、開口の形状の異なる複数種類の中性子導管を保持する。第1領域3b1aには中性子導管91の開口Ap2が設けられている。第2領域3b1bには中性子導管92の開口Ap3が設けられている。中性子導管91の導管長は中性子導管92の導管長と同一である。中性子導管91の導管長と中性子導管92の導管長とを、
図8に示すように、異なるようにすることもできる。マルチピンホールコリメータ31は、複数のコリメート比を有するので、用途に応じて、複数のコリメート比を利用できる。
【0034】
図7に、マルチピンホールコリメータ32の構成を示す。
図7には、基準軸Axに沿ったマルチピンホールコリメータ32の断面からみた構成が示されている。マルチピンホールコリメータ32は、マルチピンホールコリメータ3の他の変形例である。マルチピンホールコリメータ32は、二つの異なるコリメート比を有する。マルチピンホールコリメータ32は、筐体3a2、中性子導管93、中性子導管94、中性子吸収領域10を有する。筐体3a2は、主表面3b1と表面3c1とを備える。主表面3b1は、主表面3bに対応している。表面3c1は、表面3cに対応している。主表面3b1は、第1領域3b1aと第2領域3b1bとを備える。表面3c1は、第1領域3c1aと第2領域3c1bとを備える。表面3c1は、段差を有する。第1領域3c1aと第2領域3c1bとは、同一面に配置されていない。第1領域3c1aは、第2領域3c1bに平行である。マルチピンホールコリメータ32の中性子吸収領域10は、マルチピンホールコリメータ3の中性子吸収領域10と同様である。筐体3a2、中性子導管93、中性子導管94のそれぞれの材料は、筐体3a、中性子導管9のそれぞれの材料と同様である。中性子導管93の導管長は、中性子導管94の導管長よりも長い。すなわち、筐体3a2は、導管長の異なる複数種類の中性子導管を保持する。第1領域3b1aと第1領域3c1aとには中性子導管93の開口が設けられている。第2領域3b1bと第2領域3c1bとには中性子導管94の開口が設けられている。中性子導管93の開口径は、中性子導管94の開口径と同一である。中性子導管93の開口径と中性子導管94の開口径とを、
図7に示すように、異なるようにすることもできる。マルチピンホールコリメータ31は、複数のコリメート比を有するので、用途に応じて、複数のコリメート比を利用できる。
【0035】
(実施例)
図8に、マルチピンホールコリメータ3の実施例の透過率(透過した中性子数/入射した中性子数)をシミュレーションした結果(ロッキングカーブ)を示す。実施例において、外径Va1の長さD1は500μmであり、開口径Va2の長さD2は400mmであり、導管長Va4の長さLは50mmであり、厚み
Va3の厚さdは130μmである。実施例において、中性子吸収材は、Gdが樹脂に1:10の体積比で混合されたものである。
図8に示す横軸は、中性子ビーム8と実施例の主表面3bとの成す角度(deg)を表す。
図8に示す縦軸は、中性子ビーム8に対する実施例の透過率を表す。
図8に示すロッキングカーブによれば、透過率は、実施例の主表面3bに対する中性子ビーム8の入射角度が垂直(90度)の場合に、最も高い。実施例の3bに対する中性子ビーム8の入射角度が垂直からシフトする程、透過率は低下する。
【0036】
以上、好適な実施の形態において本発明の原理を図示し説明してきたが、本発明は、そのような原理から逸脱することなく配置および詳細において変更され得ることは、当業者によって認識される。本発明は、本実施の形態に開示された特定の構成に限定されるものではない。したがって、特許請求の範囲およびその精神の範囲から来る全ての修正および変更に権利を請求する。