(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光学薄膜形成工程において、前記被成膜材は、前記特定空間の中の前記ターゲットの粒子の平均自由行程と、前記遮蔽部の内側面の距離との比で求められるクヌーセン数が0.3より小さい領域に配置されている、
請求項5記載の光学薄膜形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0019】
また、以下の説明において、「光学的膜厚が実質的に均一または実質的に同じ」とは、光学薄膜におけるある分光特性(以下において、反射防止膜の分光反射率を例に説明する。一般的に「分光反射率」とは、反射率を波長の関数として表したものをいう(非特許文献:「光用語辞典P237、発行元:オーム社)。また、本明細書においては、「分光反射率」を「分光反射特性」や「特性曲線」とも表記する。)の所定値において、レンズの中心位置と周辺部とにおける波長差が小さく、具体的には所定値の範囲内になるこという。ここで、光学的膜厚は、屈折率nと物理膜厚dとの積で表される。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る反応性スパッタリング装置の概念図であり、
図2は、
図1の反応性スパッタリング装置の処理室内のターゲット粒子がレンズに堆積する様子を示す図であり、
図3は、本発明の一実施形態に係る光学レンズの構成例、及び、本発明の一実施形態においてターゲット粒子が光学レンズに堆積した様子を示す図である。
【0021】
図1〜3を参照して説明すると、反応性スパッタリング装置1は所定の真空状態を形成可能な処理室2を備える。処理室2の内部には、成膜対象の光学レンズ3(ワーク)を設置するためのワークホルダー4が配置される。ワークホルダー4のワーク設置面4aに1個あるいは複数個の光学レンズ3が設置される。ワーク設置面4aに対して、一定の距離で、スパッタ用のターゲット5が平行に対向配置されている。ターゲット5の背面には電極、例えばスパッタ電極6が配置されており、このスパッタ電極6には例えば電源7から電圧が印加される。
【0022】
ターゲット5とワーク設置面4aとの間の空間である特定空間8は、処理室2内の空間における一部の空間であるが、反応性スパッタリング装置1は、特定空間8の周囲(ここでは、ターゲット5からワークホルダー4に向かう方向に対して垂直な方向の範囲)を取り囲むことができる遮蔽部9を有する。
【0023】
遮蔽部9は、特定空間8の全周又はその大部分を取り囲むことができる。遮蔽部9は、一枚のシートが折られる或いは曲げられる等により構成された筒状部材でも良いし、複数の部材(例えば、円弧状又は平板状の部材)の組合せにより構成された部材であっても良い。遮蔽部9の材質は、SUS製またはセラミック製であることが好ましい。
【0024】
遮蔽部9の最下部9a(ワーク設置面4a側の端部)の位置は、ワークホルダー4に配置された光学レンズ3の最も高いターゲット5側の面(
図1では、光学レンズ3の上面)と同じ高さ位置か、それよりも低い位置である。このため、特定空間(特に、光学レンズ3の上面からターゲット5の表面5aにかけた空間)8は、処理室2内において特定空間8の周囲の空間から遮蔽される。このとき、特定空間8は閉空間となっている。このような構成をとることにより、特定空間8から周囲へのターゲット原子あるいはその化合物粒子の拡散を抑制することができ、特定空間8における導入ガス(Arガス及びO
2ガス)及びそれらガスのイオン(Arイオンや酸素イオン)を含む物質からなるプラズマのプラズマ濃度(密度)を高めることができ、プラズマの濃度が高まるとプラズマは一様に分布する。特定空間8において、ターゲット原子、化合物粒子の粘性流領域を形成でき、光学レンズ3の非球面レンズ面3a全域に、実質的に均一な光学的膜厚の反射防止膜を形成することができる。
【0025】
また、反応性スパッタリング装置1は、位置変更部15を有する。位置変更部15は、第1の変更と第2の変更のうちの少なくとも一方を行う。第1の変更は、遮蔽部9のワークホルダー4に対する相対的な位置を、第1の位置(
図1に示されるように、遮蔽部9が特定空間8を取り取り囲んで閉空間を形成することのできる位置、言い換えると、光学レンズ3に反射防止膜14の光学的膜厚の膜厚分布が所望の分布になるように形成できる位置)から第2の位置(第2の位置とは、例えば、ワークホルダー4へ光学レンズ3を配置すること、及び、ワークホルダー4から光学レンズ3を取り出すことのうちの少なくとも一方の作業が可能となる程度に遮蔽部9がワークホルダー4に対して相対的に離れた位置である。)へと変更することである。第2の変更は、遮蔽部9のワークホルダー4に対する相対的な位置を、上記第2の位置から上記第1の位置へと変更することである。本実施形態では、位置変更部15は、遮蔽部9を、上下に昇降させる等の方法により、上記第1の変更と上記第2の変更の両方を行うことができる。
【0026】
処理室2は、真空ポンプ10を備えた排気機構11によって真空引き可能となっている。また、処理室2には、不活性ガス供給機構12からArガスなどの不活性ガスが供給され、活性ガス供給機構13からO
2ガス或いはN
2ガスなどの活性ガスが供給される。不活性ガス供給機構12は、不図示の不活性ガス供給源から、バルブ12a、マスフローコントローラー12b、及びバルブ12cを介して処理室2に不活性ガスを供給する。活性ガス供給機構13は、不図示の活性ガス供給源からバルブ13a、マスフローコントローラー13b、及びバルブI3cを介して処理室2に活性ガスを供給する。
【0027】
被成膜材の一例である光学レンズ3は、
図3に示すように、例えば非球面凹レンズであり、その凹状の非球面レンズ面3aが成膜対象の曲面状表面である。この非球面レンズ面3aに、例えば多層の反射防止膜14が、上述した本発明の反応性スパッタリングによる成膜形成方法によって形成される。非球面レンズ面3aは、例えばその最大面角度θが40度以上の非球面からなる。面角度θは、非球面レンズ面3aに引いた法線とレンズ光軸3Aとのなす角である。非球面レンズ面3aの外周縁3bの外径は、レンズ有効径よりも大きい。非球面レンズ面3aの外周縁3bには、レンズ光軸3Aに直交する方向に、一定幅の円環状のランド面3cが連続している。ここで、この光学レンズ3における球欠長さZは、光学レンズ3のランド面3cの高さ位置から光学レンズ3のセンターPの高さ位置までのレンズ光軸3Aに沿った方向の長さである。
【0028】
ここで、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法では、反応性スパッタリングによる成膜が行われる処理室2内において、特定空間8内を飛散するターゲット粒子(プラズマ放電によってターゲット5からスパッタされた粒子、及び、その粒子と活性ガスの化合物である化合物粒子)が粘性流状態となる粘性流領域内に光学レンズ3の非球面レンズ面3aが位置するように、ワークホルダー4とターゲット5の相対的な位置が設定される。すなわち、光学レンズ3が設置されるワークホルダー4のワーク設置面4aの高さ位置(ターゲット5との距離)が、粘性流領域内に光学レンズ3の非球面レンズ面3aが位置するように設定される。なお、粘性流状態とは、粒子同士の衝突が大半を占め、圧力が高く平均自由行程の短い状態である。例えば、光学レンズ3は、ターゲット粒子の平均自由行程と、遮蔽部9の内側面の距離との比で求められるクヌーセン数が0.01より小さい領域に配置されている。また、ワークホルダー4及びターゲット5は、光学レンズ3をワークホルダー4上に配置した状態において、曲面状表面の面径Dを凹面形状における球欠長さZで除した値を、ターゲット5表面から光学レンズ3の凹面形状の最も遠い位置までの距離Lでさらに除したときの値が0.010〜10の範囲となるように配置されている。
【0029】
反応性スパッタリング装置1における反応性スパッタリングによる成膜動作においては、
図2に示すように、成膜対象の光学レンズ3がワークホルダー4に設置された後に、処理室2内が所定の真空状態に保持され、不活性ガス及び活性ガスが処理室2内に供給される。このように供給された不活性ガスの原子によってターゲット5の表面から粒子(ターゲットオリジナル粒子)16がはじき出される(スパッタされる)。スパッタされたターゲットオリジナル粒子16は、特定空間8に存在するターゲット粒子(他のターゲットオリジナル粒子、及び、化合物粒子の少なくとも一方)16や、ガスの粒子17(Ar粒子、O
2粒子、Arイオン粒子、またはO
2イオン粒子)と繰り返し衝突することとなる。この過程において、ターゲットオリジナル粒子16は、活性ガスによって酸化物などの化合物としての粒子(化合物粒子)になる。また、ガスの粒子17は、持っているエネルギーが大きいため、遮蔽部9に衝突した場合には、遮蔽部9で跳ね返る。そして、この過程で生成された化合物粒子16は、光学レンズ3の非球面レンズ面3aに付着堆積して、光学薄膜14が形成される。
【0030】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法では、ターゲット粒子(ターゲットオリジナル粒子及び化合物粒子)の粘性流領域内に光学レンズ3の非球面レンズ面3aが位置するよう、ターゲット5に対するワークホルダー4の相対的な位置が定められている。粘性流領域内においては、光学レンズ3の非球面レンズ面3aの各部に化合物粒子が回り込み、非球面レンズ面3aの中心部から周辺部の全てに対してほぼ均等にその法線方向から粒子が衝突する。
【0031】
この結果、
図2を用いて説明したように、化合物粒子16がレンズ面3aに堆積すると、各光学レンズ3において、
図3に示すように、非球面レンズ面3aの全域に、実質的に均一な光学的膜厚の反射防止膜14が形成される。また、複数の光学レンズ3のレンズ面3aを同時に成膜した場合において、複数の光学レンズ3間において、光学的膜厚のバラツキが実質的になく、複数の光学レンズ3に、実質的に均一な光学的膜厚の反射防止膜14が形成される。これに加えて、レンズ面径外側の平坦なランド面3cにおいても、非球面レンズ面3aと同様に、光学的膜厚が実質的に同じ(均一な)反射防止膜14がランド面3cの端部まで形成される。この部分の成膜は光学レンズを使用する際の光学レンズ3自体の光学特性には影響しないが、レンズとして使用した際、ランド面3cへ入射する迷光に起因する影響や光学レンズ3の反射防止膜14の耐候性が改善されるという優れた効果が得られる。また、本実施形態では、物理膜厚と屈折率の積からなる光学的膜厚が実質的に同じ(均一)である反射防止膜14を形成することができる。この反射防止膜14の光学的膜厚は、1つの光学レンズ3及び複数の光学レンズ3間において実質的に同じに形成することができる。
【0032】
光学レンズ3の非球面レンズ面3aをターゲット原子、その化合物粒子の粘性流領域内に配置するためには、ターゲット5に対して非球面レンズ面3aを近接配置する。具体的には、非球面レンズ面3aからターゲット5の表面5aまでの最大距離Lが、0.1mm〜200mmの範囲内の値となるように設定することが望ましい。また、非球面レンズ面3aからターゲット5の表面5aまでの最大距離Lが、30mmから50mmの範囲内の値となるように設定することが望ましい。
図1に示す非球面凹レンズの場合には、ターゲット表面5aからレンズ面中心位置までの距離が最大距離Lである。
【0033】
なお、0.1mmよりも接近させた位置にも配置できるが、成膜中の基板(レンズ)やターゲットの熱膨張による接触、ターゲット面の面精度(表面粗さ)、成膜装置の機械精度などを考慮すると、0.1mm以上の距離とすることが望ましい。
【0034】
また、本発明者等の実験によれば、光学レンズ3の球面凸レンズ面、球面凹レンズ面、非球面凸レンズ面、非球面凹レンズ面に対して、反射防止膜などの光学薄膜を形成する場合には、表1に示す成膜条件に従って反射防止膜の形成を行うことが好ましいことが確認された。
【0035】
具体的には、ターゲット表面5aと光学レンズ3のレンズ面3aの最大距離Lを0.1mm〜200mmの範囲内に設定し、表1に示す成膜条件に従って本発明による成膜を行って、表1に列記の構成の膜材料からなる光学薄膜を形成したところ、光学的膜厚が実質的に同じ(均一な)光学薄膜を形成できることが確認された(後述の実施例1〜6)。なお、表1においては投入パワーとしてSiO
2薄膜、Nb
2O
5薄膜を形成する場合の条件(成膜条件)を記載しているが、これら以外の種類の光学薄膜については、SiO
2薄膜の場合と同一範囲の投入パワーとすることができる。
【表1】
【0036】
なお、上記表1において、下記の点に注意すべきである。
屈折率表記(λ=550nm)
M=1.55〜1.80
H=1.80〜2.60
L=1.30〜1.55
【0037】
以下に、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法の効果を確認するために本発明者等が行った実施例1〜6および比較例の一部を説明する。なお、比較例1は真空蒸着法により反射防止膜を形成したものであり、比較例2は、スパッタ法により反射防止膜を形成したものである。
【0038】
まず、実施例1〜6、比較例1〜2のレンズ形状、基材の硝種名、反射防止膜の層数は次の通りである。なお、硝種「B270」はSCHOTT社製のものであり、それ以外の硝種はHOYA株式会社製のものである。
【0039】
<一覧>
<<実施例一覧>>
(実施例1)凹半球レンズ、B270、7層
(実施例2)凹半球レンズ、B270、7層
(実施例3)凹非球面レンズ、M−TAF101、7層
(実施例4)凹非球面レンズ、M−TAFD305、7層
(実施例5)凹非球面レンズ、M−TAFD305、7層
(実施例6)凹非球面レンズ、M−TAFD305、1層(SiO
2)
<<比較例一覧>>
(比較例1)凹非球面レンズ、M−TAFD305、1層(SiO
2)
(比較例2)凹非球面レンズ、M−TAFD305、1層(SiO
2)
【0040】
表2に、実施例1〜6、比較例1、2で使用した膜構成材料、ターゲット材料(蒸発材料)および適用屈折率を示す。
【表2】
【0041】
なお、上記表2において、下記の点に注意すべきである。
屈折率はλ=550nmにおける屈折率である。
【0042】
図4は、レンズ面における反射率の測定部位を示す図である。
図4は、実施例1〜6および比較例1、2において反射率を測定する対象の凹面レンズの上面図と、凹面レンズの断面図とを示している。
【0043】
実施例1〜6および比較例1、2においては、反射率の測定位置は、光学レンズ3のレンズ面3aのレンズ光軸3A上のセンター(レンズ中心位置)Pと、センターPから離れている複数の位置(A1〜A4、B1〜B4、C1〜C4)である。具体的には、反射率の測定位置A1〜A4は、レンズ光軸3Aを中心とする半径RAの同一周上に均等な間隔で配置されている。反射率の測定位置B1〜B4は、レンズ光軸3Aを中心とする半径RBの同一周上に均等な間隔で配置されている。反射率の測定位置C1〜C4は、レンズ光軸3Aを中心とする半径RCの同一周上に均等な間隔で配置されている。また、反射率の測定位置Ai―Ci(i=1、2、3、4)は、同一の径上に配置されている。
【0044】
より具体的には、レンズ面3aのレンズ光軸3A上のセンターPと、レンズ面3aにおける第1の面角度(例えば、30度)であるレンズ面3aの同一周(レンズ光軸3Aを中心とする半径RAの円周)上の複数位置(A1〜A4)と、第1の面角度よりも大きい第2の面角度(例えば、40度)であるレンズ面の同一周(レンズ光軸3Aを中心とする半径RBの円周)上の複数位置(B1〜B4)と、第2の面角度よりも大きい第3の面角度(例えば、50度)であるレンズ面の同一周(レンズ光軸3Aを中心とする半径RCの円周)上の複数位置(C1〜C4)とを反射率を測定する位置としている。同一周上の各測定位置は、円周方向に90度の角度間隔をもった位置である。また、
図4の光学レンズの上面図に示すように、位置A1、B1、及びC1と、位置A2、B2、及びC2と、位置A3、B3、及びC3と、位置A4、B4、及びC4とは、それぞれ、同一の径上に位置している。
【0046】
図5に示す条件(膜構成、成膜条件)で、
図6(a)に示す形状の凹半球レンズの凹半球レンズ面(面径φD=37.6mm、球欠長さZ=13.18mm)に7層からなる反射防止膜を形成した(
図6(a)に示すレンズの曲率半径Rは20mmである)。形成された反射防止膜の分光反射率を、
図4に示す各測定位置で測定した。測定位置は、レンズ中心位置Pと、レンズ光軸を中心とした円周方向に90度の角度間隔をもった4方向の位置とであり、これら円周方向の各測定位置としては、径方向に面角度が30度、40度、および50度の3箇所の位置を測定位置とした。本例の場合には、面角度が30度の位置は、レンズ光軸を中心とする直径が15.2mmの位置であり、面角度が40度の位置はレンズ光軸を中心とする直径が22.2mmの位置であり、面角度が50度の位置はレンズ光軸を中心とする直径が31.4mmの位置である。
なお、「分光反射率」とは、反射率を波長の関数として表したものをいう(非特許文献:「光用語辞典P237、発行者:オーム社)。本明細書においては、「分光反射率」を同じ意味として「分光反射特性」や「特性曲線」とも表記する。
【0047】
なお、本明細書においては、基準波長λ
0=550nmにおける光学的膜厚係数kに相当する記号として、x、yを用いる。具体的には、光学的膜厚係数kをx1〜x4及びy1〜y3を用いて示す。膜構成を示す光学的膜厚係数x、yの数値は、以下の数値範囲を適用可能である。なお、光学的膜厚は、屈折率nと物理膜厚dとの積で表され、具体的には、nd=k×λ
0/4と表される。これらは実施例2乃至5の多層(7層)の反射防止膜についても同様である。
x1=0.01〜0.50
x2=0.01〜0.60
x3=0.01〜0.50
x4=0.70〜1.30
y1=0.30〜1.00
y2=0.80〜1.50
y3=0.40〜1.00
【0048】
ここで、反応性スパッタリングによる成膜時には、ターゲット5の表面と凹半球レンズの凹半球レンズ面との間の最大距離L(
図1参照)を、30mm〜50mmの範囲内の値に設定した。また、各層の成膜速度を、0.01〜2.00nm/secの範囲内となるように制御した。
【0049】
図6(b)には、形成された7層の反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示している。分光反射特性を表す各曲線(特性曲線)は、反射防止膜を形成した凹半球レンズ面(光学面)に光線が入射角0度で入射したときの分光反射特性を、縦軸に光の反射率(%)、横軸に波長(nm)をとった場合の測定値である。以下の実施例2〜6、比較例1〜2に対応する分光反射特性についても同様である。
【0050】
図6(b)に示す特性曲線から分かるように、これらは可視光の各波長帯域において特性に分布は存在する。しかしながら、形成された反射防止膜14がレンズ面の中心部分および周辺部分において生じている程度の光学特性分布ではレンズとして使用したときに実写像にゴーストは生じておらず光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜14が形成されていると言える。
【0051】
ここで、反射防止膜14の光学特性を評価する指標として、Δλ、Δλ1、及びΔλ2を用いる。ここで、Δλとは、反射率n%(nは、任意の値)となる場合における、センターPでの波長と、センターP以外の測定位置での波長のうちでセンターPでの波長から最も離れている波長との波長差である。また、Δλ1とは、最も短波長側のΔλを示し、Δλ2とは、最も長波長側のΔλを示す。ここで、Δλの値が小さいほど、センターP以外の各測定位置での反射率と、センターPでの反射率とのバラツキが小さいこと、すなわち、センターPとそれ以外の測定位置との光学的膜厚の均一の度合いが高い(分布の程度が小さい)ことを意味している。このΔλを用いることにより、センターPの光学的膜厚と、それ以外の測定位置の光学的膜厚とが、実質的に同じであるか否かを判定することができる。
【0052】
なお、発明者らは、実施例1〜6において説明する反射防止膜14を形成し、光学特性(分光反射率)について測定した結果に基づき、波長差Δλ1及びΔλ2の基準値を算出している。実施例1〜6において、波長差が基準値以下である場合には、本発明により反射防止膜14を形成したレンズを使用したときにゴーストは生じていないことが確認された。
【0053】
実施例1〜6および比較例1〜2においては、反射率が、例えば、1.0%としたときのΔλ1が30nm以下である場合、及び/又は、Δλ2が60nm以下である場合には、センターPでの反射率に対するセンターP以外の測定位置での反射率についてのバラツキがない、すなわち、各測定位置での光学的膜厚が実質的に同じ(均一)であるものとして考えている。なお、光学的膜厚が実質的に同じ(均一)であるか否かの判定に用いる基準値は、上記に限られず、光学レンズ3に要求されている性能等に応じて変更するようにしても良い。
【0054】
図6(b)に示す特性曲線から分かるように、実施例1において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、6nmであって30nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表しており、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、16nmであって60nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0055】
図7は、実施例1における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図7(a)は、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1、C1)とにおける分光反射特性を示し、
図7(b)は、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置C1、C2、C3、C4)とにおける分光反射特性を示す。
【0056】
図7(a)に示すように、実施例1において形成された反射防止膜については、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1、C1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、2nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、14nmであって60nmより短いので、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0057】
また、
図7(b)に示すように、実施例1において形成された反射防止膜については、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置C1、C2、C3、C4)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、4nmであって30nm以下であり、また、Δλ2は、14nmであって60nm以下であるので、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0059】
図8に示す条件(膜構成、成膜条件)で、
図9(a)に示す形状の凹半球レンズの凹半球レンズ面(面径φD=18.8m
m、球欠長さZ=6.59mm)に7層からなる反射防止膜を形成した(
図9(a)に示すレンズの曲率半径Rは10mmである)。実施例2で使用した凹半球レンズは、実施例1で使用した凹半球レンズ(
図6(a)参照)よりも面径が小さい。形成された反射防止膜の分光反射率を、実施例1の場合と同様な各位置において測定した(
図4参照)。本例では、面角度が30度の測定位置は、レンズ光軸を中心とする直径が7.6mmの位置であり、面角度が40度の測定位置はレンズ光軸を中心とする直径が11.1mmの位置であり、面角度が50度の測定位置はレンズ光軸を中心とする直径が15.7mmの位置である。
【0060】
本例においても、反応性スパッタリングによる成膜時には、ターゲットの表面と凹半球レンズの凹半球レンズ面との間の最大距離L(
図1参照)を、30mm〜50mmの範囲内の値に設定した。また、成膜時の投入パワーはSiO
2膜の場合には3kw、Nb
2O
5膜の場合には2kwとし、各層の成膜速度を、0.01〜2.00nm/secの範囲内となるように制御した。
【0061】
図9(b)には、形成された7層の反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示している。これらの特性曲線は可視光の各波長帯域において特性に分布は存在する。しかしながら、形成された反射防止膜14がレンズ面の中心部分および周辺部分において生じている程度の光学特性分布では、レンズとして使用したときに実写像にゴーストは発生せず、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0062】
より具体的には、
図9(b)に示す特性曲線から分かるように、実施例2において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、15nmであって30nmより短く、光学的膜厚が極めて均一(実施的に同じ)な膜が形成されていることを表しており、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、29nmであって60nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0063】
図10は、実施例2における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図10(a)は、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1、C1)とにおける分光反射特性を示し、
図10(b)は、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置C1、C2、C3、C4)とにおける分光反射特性を示す。
【0064】
図10(a)に示すように、実施例2において形成された反射防止膜については、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1、C1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、11nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、20nmであって60nmより短いので、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0065】
また、
図10(b)に示すように、実施例2において形成された反射防止膜については、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置C1、C2、C3、C4)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、15nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、29nmであって60nmより短いので、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0067】
図11に示す条件(膜構成、成膜条件)で、
図12(a)に示す形状の凹非球面レンズの凹非球面レンズ面(面径φD=11.315mm、球欠長さZ=2.87mm、凹R(近軸曲率中心における曲率半径)=6.97mm、最大面角度θ=49.2度)に7層からなる反射防止膜を形成した。実施例3で使用した凹
非球面レンズは、実施例2で使用した凹半球レンズ(
図9(a)参照)よりも面径が小さい。形成された反射防止膜の分光反射率を、実施例1の場合と同様に、レンズ面中心位置および、レンズ光軸回りに90度間隔の4か所の各周方向の位置において測定した。各周方向の位置では、それぞれ、面角度が28度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約6.3mmの位置)および、面角度が42度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約9.5mmの位置)の2箇所で測定した。ここで、面角度28度の各測定位置をA1〜A4とし、面角度が42度の各測定位置をB1〜B4とし、位置A1及びB1、位置A2及びB2、位置A3及びB3、位置A4及びB4のそれぞれを同一の径上の位置であるとする。
【0068】
本例においても、反応性スパッタリングによる成膜時には、ターゲットの表面と凹非球面レンズの凹非球面レンズ面との間の最大距離L(
図1参照)を、30mm〜50mmの範囲内の値に設定した。また、成膜時の投入パワーはSiO
2膜の場合には3kw、Nb
2O
5膜の場合には2kwとし、各層の成膜速度を、0.01〜2.00nm/secの範囲内となるように制御した。
【0069】
図12(b)には、形成された7層の反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示してある。これらの特性曲線は可視光の各波長帯域において特性に分布は存在する。しかしながら、形成された反射防止膜がレンズ面の中心部分および周辺部分において生じている程度の光学特性分布では、レンズとして使用したときに実写像にゴーストは発生せず、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0070】
より具体的には、
図12(b)に示す特性曲線から分かるように、実施例3において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、12nmであって30nmより短く、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表しており、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、15nmであって60nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0071】
図13は、実施例3における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図13(a)は、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)とにおける分光反射特性を示し、
図13(b)は、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)における分光反射特性を示す。
【0072】
図13(a)に示すように、実施例3において形成された反射防止膜については、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、11nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、15nmであって60nmより短いので、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0073】
また、
図13(b)に示すように、実施例3において形成された反射防止膜については、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、12nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、15nmであって60nmより短いので、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0075】
図14に示す条件(膜構成、成膜条件)で、
図15(a)に示す形状の凹非球面レンズの凹非球面レンズ面(面径φD=10.95mm、球欠長さZ=2.62mm、凹R(近軸曲率中心における曲率半径)=7.41mm、最大面角度θ=51.7度)に7層からなる反射防止膜を形成した。形成された反射防止膜の分光反射率を、実施例1の場合と同様に、レンズ面中心位置Pおよび、レンズ光軸回りに90度間隔の4か所の各周方向の位置において測定した。各周方向の位置では、面角度が40度の位置(レンズ光軸を中心とする直径が約9.4mmの位置)で測定した。ここで、面角度40度の各測定位置を位置B1〜B4とする。
【0076】
本例においても、反応性スパッタリングによる成膜時には、ターゲットの表面と凹非球面レンズの凹非球面レンズ面との間の最大距離L(
図1参照)を、100mm〜200mmの範囲内の値に設定した。また、成膜時の投入パワーはSiO
2膜の場合には3kw、Nb
2O
5膜の場合には2kwとし、各層の成膜速度を、0.01〜2.00nm/secの範囲内となるように制御した。
【0077】
図15(b)には、形成された7層の反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示してある。レンズ面中心位置と周辺位置の間での可視光の各波長帯域における分光反射率は実用上差支えない程度(レンズとして使用したときに実写像にゴーストが発生しない程度)のバラツキに抑制されおり、全体として光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることが確認された。
【0078】
より具体的には、
図15(b)に示す特性曲線から分かるように、実施例4において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、23nmであって30nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表しており、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、52nmであって60nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0079】
図16は、実施例4における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図16は、センターPと、径方向に並ぶ測定位置(位置B1)における分光反射特性を示す。
【0080】
図16に示すように、実施例4において形成された反射防止膜については、径方向の測定位置(位置B1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、22nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、52nmであって60nmより短いので、センターPと、径方向の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0082】
図17に示す条件(膜構成、成膜条件)で、
図18(a)に示す形状の凹非面レンズの凹非球面レンズ面(面径φD=9.51mm、球欠d=2.65mm、凹R(近軸曲率中心における曲率半径)=4.90mm、最大面角度θ=49.4度)に7層からなる反射防止膜を形成した。形成された反射防止膜の分光反射率を、実施例1の場合と同様に、レンズ面中心位置および、レンズ光軸回りに90度間隔の4か所の各周方向の位置において測定した。各周方向の位置では、それぞれ、面角度が28度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約5.0mmの位置)および、面角度が42度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約7.6mmの位置)の2箇所で測定した。ここで、面角度28度の各測定位置をA1〜A4とし、面角度が42度の各測定位置をB1〜B4とし、位置A1及びB1、位置A2及びB2、位置A3及びB3、位置A4及びB4のそれぞれを同一の径上の位置であるとする。
【0083】
本例においても、反応性スパッタリングによる成膜時には、ターゲットの表面と凹非球面レンズの凹非球面レンズ面との間の最大距離L(
図1参照)を、30mm〜50mmの範囲内の値に設定した。また、成膜時の投入パワーはSiO
2膜の場合には3kw、Nb
2O
5膜の場合には2kwとし、各層の成膜速度を、0.01〜2.00nm/secの範囲内となるように制御した。
【0084】
図18(b)には、形成された7層の反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示してある。これらの特性曲線は可視光の各波長帯域において特性に分布は存在する。しかしながら、形成された反射防止膜14がレンズ面の中心部分および周辺部分において生じている程度の光学特性分布では、レンズとして使用したときに実写像にゴーストは発生せず、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0085】
より具体的には、
図18(b)に示す特性曲線から分かるように、実施例5において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、10nmであって30nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表しており、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、11nmであって60nmより短いので、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0086】
図19は、実施例5における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図19(a)は、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)とにおける分光反射特性を示し、
図19(b)は、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)とにおける分光反射特性を示す。
【0087】
図19(a)に示すように、実施例5において形成された反射防止膜については、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、8nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、11nmであって60nmより短いので、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0088】
また、
図19(b)に示すように、実施例5において形成された反射防止膜については、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、10nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、11nmであって60nmより短いので、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0090】
図20に示す条件(膜構成、成膜条件)で、
図21(a)に示す形状の凹非球面レンズの凹非球面レンズ面(面径φD=9.51mm、球欠長さZ=2.65mm、凹R(近軸曲率中心における曲率半径)=4.90mm、最大面角度θ=49.4度)に1層の反射防止膜を形成した。形成された反射防止膜の分光反射率を、実施例1の場合と同様に、レンズ面中心位置および、レンズ光軸回りに90度間隔の4か所の各円周方向の位置において測定した。各円周方向の位置では、それぞれ、面角度が28度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約5.0mmの位置)および、面角度が42度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約7.6mmの位置)の2箇所で測定した。ここで、面角度28度の各測定位置をA1〜A4とし、面角度が42度の各測定位置をB1〜B4とし、位置A1及びB1、位置A2及びB2、位置A3及びB3、位置A4及びB4のそれぞれを同一の径上の位置であるとする。
【0091】
なお、上述の実施例1と同様に、本実施例においても基準波長λ
0=550nmにおける光学的膜厚係数kに相当する記号として、膜構成を示す記号x1を用いる。膜構成を示す光学的膜厚係数xの数値は、以下の数値範囲を適用可能である。光学的膜厚は、屈折率nと物理膜厚dとの積で表され、具体的には、nd=k×λ
0/4で表される。
x1=0.70〜1.30
【0092】
また、本例においても、反応性スパッタリングによる成膜時には、ターゲットの表面と凹非球面レンズの凹非球面レンズ面との間の最大距離L(
図1参照)を、30mm〜50mmの範囲内の値に設定した。また、成膜時の投入パワーは3kwとし、成膜速度を、0.01〜2.00nm/secの範囲内となるように制御した。
【0093】
図21(b)には、形成された1層構成の反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示してある。これらの特性曲線は可視光の各波長帯域において特性に分布は存在する。しかしながら、、形成された反射防止膜がレンズ面の中心部分および周辺部分において生じている程度の光学特性分布では、レンズとして使用したときに実写像にゴーストは発生せず、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0094】
より具体的には、
図21(b)に示す特性曲線から分かるように、実施例6において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、12nmであって30nmより短いので、光学的膜厚が実施的に同じ反射防止膜が形成されていることを表しており、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、38nmであって60nmより短いので、光学的膜厚が実施的に同じ反射防止膜が形成されていることを表している。
【0095】
図22は、実施例6における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図22(a)は、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)とにおける分光反射特性を示し、
図22(b)は、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)とにおける分光反射特性を示す。
【0096】
図22(a)に示すように、実施例6において形成された反射防止膜については、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、2nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、16nmであって60nmより短いので、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0097】
また、
図22(b)に示すように、実施例6において形成された反射防止膜については、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、11nmであって30nmより短く、また、Δλ2は、30nmであって60nmより短いので、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが小さいことを表している。
【0099】
本発明の一実施形態における実施例1〜6との比較のために、
図23に示す条件(膜構成、成膜条件)で、蒸着法により、凹非球面レンズ(M-TAFD305、SiO
2シングル)の凹非球面レンズ面(面径φD=10.95mm、球欠長さZ=2.62mm、凹R(近軸曲率中心における曲率半径)=7.41mm、最大面角度θ=51.7度)に1層からなる反射防止膜を形成した。形成された反射防止膜の分光反射率を、実施例6の場合と同様に、レンズ面中心位置および、レンズ光軸回りに90度間隔の4か所の各円周方向の位置で測定した。各円周方向の測定位置では、それぞれ、面角度が28度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約6.8mmの位置)および、面角度が42度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約9.6mmの位置)の2箇所で測定した。ここで、面角度28度の各測定位置をA1〜A4とし、面角度が42度の各測定位置をB1〜B4とし、位置A1及びB1、位置A2及びB2、位置A3及びB3、位置A4及びB4のそれぞれを同一の径上の位置であるとする。
【0100】
なお、膜構成を示す光学的膜厚係数x1の数値は以下の数値範囲を適用可能である。光学的膜厚ndは、上述の実施例と同じようにして表せる。
x1=0.70〜1.30
【0101】
図24(b)には、形成された反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示している。これらの特性曲線から分かるように、レンズ面中心、レンズ面の周辺部およびこれらの間のレンズ面位置において相互に特性が大きく乖離している。
【0102】
比較例1は、実施例6との比較である。実施例6と比較例1とは、基材の構成材料、反射防止膜が1層(SiO
2)から形成される点で共通し、膜の形成方法の点で相違する。
【0103】
より具体的には、
図24(b)に示す特性曲線から分かるように、比較例1において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、108nmであって30nmより大きく、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、117nmであって60nmより大きいので、レンズとして使用したときに、ゴーストが生じた。つまり、光学的膜厚が実質的に同じではないことが言える。これに比べて、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法によりレンズ面に反射防止膜を形成した実施例6では、反射防止膜の反射率1.0%におけるΔλ1は、12nmであり、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、38nmであって、光学的膜厚が実質的に同じとなる反射防止膜が形成されており、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法により反射防止膜を形成することの優位性を確認できる。
【0104】
図25は、比較例1における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図25(a)は、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)とにおける分光反射特性を示し、
図25(b)は、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)とにおける分光反射特性を示す。
【0105】
図25(a)に示すように、比較例1において形成された反射防止膜については、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、70nmであって30nmより大きく、また、Δλ2は、75nmであって60nmより大きく、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが大きいことを表している。これに比べて、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法によりレンズ面に反射防止膜を形成した実施例6では、径方向に並ぶ複数の測定位置についての反射防止膜の反射率1.0%におけるΔλ1は、2nmであり、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、16nmであって、光学的膜厚が実質的に同じとなる反射防止膜が形成されており、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法により反射防止膜を形成することの優位性を確認することができる。
【0106】
また、
図25(b)に示すように、比較例1において形成された反射防止膜については、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、108nmであって30nmより大きく、また、Δλ2は、117nmであって60nmより大きいので、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが大きいことを表している。これに比べて、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法によりレンズ面に反射防止膜を形成した実施例6では、周方向に並ぶ複数の測定位置についての反射防止膜の反射率1.0%におけるΔλ1は、11nmであり、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、30nmであって、光学的膜厚が実質的に同じとなる反射防止膜が形成されており、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法により反射防止膜を形成することの優位性を確認することができる。
【0107】
以上のように、
図25(b)に示すように、蒸着法では、光学的膜厚が実質的に同じとなる反射防止膜を形成することができないが、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法によれば、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜を形成することができる。
【0109】
図26に示す条件(膜構成、成膜条件)で、スパッタ法により、
図27(a)に示す凹非球面レンズ(M-TAFD305、SiO
2シングル)の凹非球面レンズ面(面径φD=8.64mm、球欠長さZ=2.5mm、凹R(近軸曲率中心における曲率半径)=4.92mm、最大面角度θ=51.8度)に1層の反射防止膜を形成した。形成された反射防止膜の分光反射率を、実施例6の場合と同様に、レンズ面中心位置および、レンズ光軸回りに90度間隔の4か所の各円周方向の位置で測定した。各円周方向の測定位置では、それぞれ、面角度が28度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約4.5mmの位置)および、面角度が42度の測定位置(レンズ光軸を中心とする直径が約6.6mmの位置)の2箇所で測定した。ここで、面角度28度の各測定位置をA1〜A4とし、面角度が42度の各測定位置をB1〜B4とし、位置A1及びB1、位置A2及びB2、位置A3及びB3、位置A4及びB4のそれぞれを同一の径上の位置であるとする。
【0110】
なお、膜構成を示す光学的膜厚係数x1の数値は以下の数値範囲を適用可能である。光学的膜厚ndは、上述の実施例、比較例1と同じようにして表せる。
x1=0.70〜1.30
【0111】
図27(b)には、形成された反射防止膜の各測定位置における分光反射特性を示してある。これらの特性曲線から分かるように、レンズ面中心、レンズ面の周辺部およびこれらの間のレンズ面位置の間で特性が大きく乖離している。
【0112】
より具体的には、
図27(b)に示す特性曲線から分かるように、比較例2において形成された反射防止膜については、反射率1.0%におけるΔλ1は、存在しない。また、反射率1.0%におけるΔλ2も同様に存在しない。つまり、比較例2においては、スパッタ法により反射防止膜を形成しているが、
図27(b)に示す特性曲線からも分かるように、センターPにおける分光反射特性でさえ、所望の値に形成できていないことを示している。これらのことからわかるように、比較例2は、各測定位置において明らかに光学的膜厚が異なっている(実質的に同じにならない)ことを表している。
【0113】
これに比べて、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法によりレンズ面に反射防止膜を形成した実施例6では、反射防止膜の反射率1.0%におけるΔλ1は、12nmであり、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、38nmであって、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されており、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法により反射防止膜を形成することの優位性を確認することができる。
【0114】
比較例2は、実施例6との比較である。実施例6と比較例1とは、基材の構成材料、反射防止膜が1層(SiO
2)から形成される点で共通し、膜の形成方法の点で相違する。
【0115】
図28は、比較例2における被成膜対象の光学レンズのレンズ面の一部の測定位置における反射防止膜の分光反射特性を示す図である。
図28(a)は、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)とにおける分光反射特性を示し、
図28(b)は、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)とにおける分光反射特性を示す。
【0116】
図28(a)に示すように、比較例2において形成された反射防止膜については、径方向に並ぶ複数の測定位置(位置A1、B1)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、
図28(a)から、明らかに30nmより大きく、また、Δλ2は、
図28(a)から、明らかに55nmより大きく、センターPと、径方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが大きいことを表している。これに比べて、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法によりレンズ面に反射防止膜を形成した実施例6では、径方向に並ぶ複数の測定位置についての反射防止膜の反射率1.0%におけるΔλ1は、2nmであり、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、16nmであって、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されており、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法により反射防止膜を形成することの優位性を確認することができる。
【0117】
また、
図28(b)に示すように、比較例2において形成された反射防止膜については、周方向に並ぶ複数の測定位置(位置B1、B2、B3、B4)についての反射率1.0%におけるΔλ1は、
図28(b)から、明らかに30nmより大きく、また、Δλ2は、
図28(b)から、明らかに60nmより大きいので、センターPと、周方向に並ぶ複数の測定位置とでは、反射防止膜の光学的膜厚のバラツキが大きいことを表している。これに比べて、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法により同一形状のレンズ面に反射防止膜を形成した実施例6では、周方向に並ぶ複数の測定位置についての反射防止膜の反射率1.0%におけるΔλ1は、11nmであり、また、反射率1.0%におけるΔλ2は、30nmであって、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜が形成されており、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法により反射防止膜を形成することの優位性を確認することができる。
【0118】
なお、比較例2における
図27(b)、
図28(a)及び
図28(b)においては、センターPの分光反射特性が反射率1.0%と交点を持たないため、Δλ1及びΔλ2については図中に示していない。
【0119】
以上のように、従来のスパッタ法では、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜を形成することができないが、本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法によれば、光学的膜厚が実質的に同じ反射防止膜を形成することができる。
【0120】
最後に、本発明の一実施形態を、図等を用いて総括する。
【0121】
本発明の一実施形態にかかる光学レンズ3は、曲面状に形成された非球面レンズ面3aと、非球面レンズ面3aに形成された反射防止膜14とを備える。非球面レンズ面3aは、非球面レンズ面3aのセンターPを含む第1の部位と、第1の部位から離れた第2の部位とを有する。第1の部位上の反射防止膜14の光学的膜厚と、第2の部位上の反射防止膜14の光学的膜厚は、実質的に同じである。
【0122】
ここで、第1の部位上の反射防止膜14の光学的膜厚と、第2の部位上の反射防止膜14の光学的膜厚が実質的に同じとは、光学的膜厚(nd)が実質的に同じとは、光の干渉が同じであることを意味し、第1の部位上の反射防止膜14と第2の部位上の反射防止膜14における反射率、屈折率、透過率などの光学特性が実質的に同じになることを言う。換言すれば、レンズとして使用したときに、実写像にゴーストが生じない程度の光学特性分布であれば、光学的膜厚が実質的に同じであると言える。また、第1の部位上の反射防止膜14と、第2の部位上の反射防止膜14とを入れ替えたとしても、光学特性が実質的に同じであるとも言える。
【0123】
また、第2の部位は、例えば、光学レンズ3の曲面状表面の面角度が大きくなる部位とすることができるが、例えば、面角度が25度以上となる部位であっても良く、面角度が28度以上、30度以上、40度以上、48度以上、50度以上のように、任意の面角度の部位としても良い。第2の部位は、光学レンズ3として、第1の部位と実質的に同じであることが好ましい部位とすれば良い。なお、光学レンズ3は、いずれの面角度の部位であっても、第1の部位の光学薄膜の光学的膜厚と実質的に同じにすることができる。
【0124】
好ましくは、光学レンズ3において、分光反射特性において所定の反射率を満たす、第1の部位(センターP)上に形成される反射防止膜14の最も短波長側の波長と、第2の部位上に形成される反射防止膜14の最も短波長側の波長との第1の波長差(Δλ1)は50nm以下である、または、第1の部位(センターP)上に形成される反射防止膜14の最も長波長側の波長と、第2の部位上に形成される反射防止膜14の最も長波長側の波長との第2の波長差(Δλ2)は100nm以下である。
【0125】
さらに、好ましくは、光学レンズ3において、紫外領域から近赤外領域の分光反射特性において反射率1.0%を満たす場合に、第1の波長差(Δλ1)は30nm以下である、または、第2の波長差(Δλ2)は60nm以下である。
【0126】
また、好ましくは、光学レンズ3において、第2の部位は複数あり、複数の第2の部位は、非球面レンズ3aの
周方向に配置された複数の部位(例えば、位置A1〜A4をそれぞれ有する4つの部位)を含み、第2の部位の各々に対する第2の波長差(Δλ2)は、60nm以下である。
【0127】
また、好ましくは、光学レンズ3において、第2の部位は複数あり、複数の第2の部位は、非球面レンズ3aの
径方向に配置された複数の部位(例えば、位置A1、B1、C1をそれぞれ含む3つの部位)を含み、第2の部位の各々に対する第2の波長差(Δλ2)は、60nm以下である。
【0128】
また、好ましくは、光学レンズ3において、反射防止膜14は、
図20に示すように、単層膜であり、光学レンズ3の表面に、酸化シリコンにより形成される。
【0129】
また、好ましくは、光学レンズ3において、反射防止膜14は、
図5、
図8、
図11、
図14、または
図17に示すように、多層膜である。
【0130】
また、さらに、好ましくは、光学レンズ3において、反射防止膜14は、
図5、
図8、
図11、
図14、または
図17に示すように、光学レンズ3の表面に、酸化シリコンにより形成される層と、酸化ニオブにより形成される層とを交互に積層した多層膜である。
【0131】
また、さらに別の他の局面では以下のように捉えることができる。本発明の一実施形態に係る反応性スパッタリング装置1は、処理室2を有し、非球面レンズ面3aを有する光学レンズ3に反射防止膜14を処理室2において形成する装置である。反応性スパッタリング装置1は、処理室2内の空気を排気する排気機構11と、真空状態に保持された処理室2内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構12と、真空状態に保持された処理室2内に活性ガスを供給する活性ガス供給機構13とを有する。また、反応性スパッタリング装置1は、処理室2内に設けられ、光学レンズ3が配置されるワークホルダー4と、処理室2内においてワークホルダー4に対向配置されたターゲット5とを有する。また、反応性スパッタリング装置1は、ターゲット5の粒子が出るようターゲット5に電圧を印加する電源7と、処理室2内に設けられ、処理室2内の空間の一部分であってターゲット5とワークホルダー4との間の空間である特定空間8を取り囲むことが可能である遮蔽部9とを有する。
【0132】
好ましくは、反応性スパッタリング装置1において、遮蔽部9の最下部の位置は、ワークホルダー4に配置された光学レンズ3の最も高い位置と同じかそれよりも低い。
【0133】
また、好ましくは、反応性スパッタリング装置1において、非球面レンズ面3aが凹面形状を有する。反応性スパッタリング装置1において、光学レンズ3をワークホルダー4上に配置した状態において、レンズ面表面の面径Dを凹面形状における球欠長さZで除した値を、ターゲット5表面から凹面形状の最も遠い位置までの距離Lでさらに除したときの値が0.010〜10の範囲となるようにワークホルダー4及びターゲット5が配置されている。つまり、ワークホルダー4及びターゲット5は、D/Z/Lにより算出される値の範囲内に配置されている。また、好ましくは、反応性スパッタリング装置1が、第1の変更と第2の変更のうちの少なくとも一方を行う位置変更部15を更に備える。第1の変更は、遮蔽部9のワークホルダー4に対する相対的な位置を、特定空間8を取り囲む第1の位置から、第1の位置よりもワークホルダー4と遮蔽部9とが離れた第2の位置へと変更することである。第2の変更は、相対的な位置を、第2の位置から第1の位置へと変更することである。
【0134】
また、さらに別の他の局面では以下のように捉えることができる。本発明の一実施形態に係る光学薄膜形成方法は、非球面レンズ面3aを有する光学レンズ3に反射防止膜14を形成する反射防止膜形成方法である。反射防止膜形成方法は、処理室2内のワークホルダー4上に光学レンズ3を配置する配置工程と、光学レンズ3が処理室2内に配置された状態で、処理室2内を真空排気する排気工程とを有する。また、反射防止膜形成方法は、真空排気した後に処理室2内に活性ガスおよび不活性ガスを供給するガス供給工程と、ワークホルダー4に平行な状態で対向配置されたターゲット5に対して電圧を印加することにより、不活性ガスがターゲット5に衝突してターゲット5からターゲット5の粒子を引き出すスパッタ工程とを有する。また反射防止膜形成方法は、特定空間8を遮蔽部9により取り囲んだ状態で、スパッタ工程により得られるターゲットの粒子、または、活性ガスと反応した粒子が、光学レンズ3)の曲面状表面に堆積する光学薄膜形成工程を有する。
【0135】
また、好ましくは、反射防止膜形成方法において、光学薄膜形成工程で、光学レンズ3は、特定空間8の中のターゲットの粒子の平均自由行程と、遮蔽部9の内側面の距離との比で求められるクヌーセン数が0.3より小さい領域に配置されている。
【0136】
また、好ましくは、反射防止膜形成方法において、光学レンズ3の非球面レンズ面3aが粘性流状態となる粘性流領域内に位置するように、ターゲット5に対してワークホルダー4が配置されている。
【0137】
また、別の他の局面では以下のように捉えることができる。本発明の一実施形態にかかる光学レンズ3は、光学薄膜の分光反射率の所定の反射率または光学薄膜の分光透過率の所定の透過率において、第1の部位上の最も短波長側の波長に対して、第2の部位上の最も短波長側の波長差は、±50nm以下である、または、分光反射率の所定の反射率または分光透過率の所定の透過率において、第1の部位上の最も長波長側の波長に対して、第2の部位上の最も長波長側の波長差は、±100nm以下である。また、さらに別の他の局面では以下のように捉えることができる。本発明の一実施形態にかかる光学素子(光学レンズ3)は曲面状に形成された曲面状表面と、曲面状表面上に形成された光学薄膜と備え。曲面状表面は、曲面状表面の中心を含む第1の部位と、第1の部位から離れて、同一直線状に並んで設けられる複数の第2の部位とを有し、光学薄膜の分光反射率の所定の反射率または光学薄膜の分光透過率の所定の透過率における最も短波長側の波長において、複数の第2の部位上における最も短波長となる第1の波長と、複数の第2の部位上における最も長波長となる第2の波長との波長差は、30nm以下である、または、光学薄膜の分光反射率の所定の反射率または光学薄膜の分光透過率の所定の透過率における最も長波長側の波長において、複数の第2の部位上における最も短波長となる第3の波長と、複数の第2の部位上における最も長波長となる第4の波長との波長差は、60nm以下である。
【0138】
また、さらに別の他の局面では以下のように捉えることができる。本発明の一実施形態にかかる光学素子(光学レンズ3)は、曲面状に形成された曲面状表面と、曲面状表面上に形成された光学薄膜とを備える。曲面状表面は、曲面状表面の中心を含む第1の部位と、第1の部位から離れて、同一円周状に並んで設けられる複数の第2の部位とを有し、光学薄膜の分光反射率の所定の反射率または光学薄膜の分光透過率の所定の透過率における最も短波長側の波長において、複数の第2の部位上における最も短波長となる第1の波長と、複数の第2の部位上における最も長波長となる第2の波長との波長差は、30nm以下である、または、光学薄膜の分光反射率の所定の反射率または光学薄膜の分光透過率の所定の透過率における最も長波長側の波長において、複数の第2の部位上における最も短波長となる第3の波長と、複数の第2の部位上における最も長波長となる第4の波長との波長差は、60nm以下である。
【0139】
以上、本発明の一実施形態、幾つかの実施例及び比較例を説明したが、これらは、本発明の説明のための例示であって、本発明の範囲をこれらにのみ限定する趣旨ではない。すなわち、本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。例えば、曲面状は、自由曲面状であっても良い。被成膜材は、光学素子に限られない。光学素子は、光学レンズ3に限られない。また、被成膜材として、1つの被成膜材に対して1つの凹状レンズ面及びレンズ面の外周にランド面が形成された形態について説明したが、1つの被成膜材に対して複数の凹状レンズ面が形成され、各レンズ面間をランド面により接続した形状の被成膜材を用いてもよい。また、被成膜対象とする面は、凹状表面に限られず、曲面と平面からなる表面や複数の平面から構成される面を対象とすることもでき、被成膜面が曲面や平面であっても光学的膜厚が実質的に同じ光学薄膜を形成することができる。
【0140】
また、粘性流領域内にレンズを配置して反射防止膜を形成する態様について説明したが、これに限られず、中間流領域にレンズを配置して反射防止膜を形成するようにしてもよく、この場合には、クヌーセン数を0.01〜0.3の範囲で設定すればよい。
【0141】
また、被成膜材が凸状レンズの場合に、遮蔽部の最下部の位置は、配置部上に配置された凸状レンズの少なくともレンズ面の最も低い位置と同じかそれよりも低く配置することができる。また、本発明の一実施形態において、分光反射率を例に説明したが、これに限られない。例えば、反射率と表裏一体の関係にある透過率を指標にして分光透過率についても本発明を適用することができる。
【0142】
また、光学薄膜としては、単層及び多層膜とすることができ、多層膜の場合には、5層、10層、数十層、100層以上とすることができる。
【0143】
また、レンズ以外の例えば、曲面型ミラー(反射型光学素子)、曲面型フィルター、アレー状光学素子(レンズアレー、プリズムアレー)、ファインダー素子、回折型光学素子、フレネルレンズなどの被成膜材に対しても本発明を用いることができる。