(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ノロウイルスによる感染性胃腸炎あるいは食中毒の発生が一年を通じて多発しており、特に11〜3月が発生のピークとなっている。ノロウイルスは、カリシウイルス科、ノロウイルス属に分類されるエンベローブを持たないRNAウイルス(以下、「ノロウイルス等」と記載する)であり、アルコール(エタノール、イソプロパノール等)、熱、酸性(胃酸等)、又は、乾燥等に対して強い抵抗力を有する。潜伏期間は1〜2日であると考えられており、嘔気、嘔吐、下痢の主症状が出るが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感等を伴うこともある。
【0003】
ノロウイルス等の感染経路の一つとして経口感染が知られており、ノロウイルス等に汚染された食物や水等を経口摂取することにより感染が成立する。
そのため、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場においては、食物や水等がノロウイルス等に汚染されないようにすることが求められている。
【0004】
ノロウイルス等による汚染を防ぐ手段として、食物、食器、調理台、調理器具等のノロウイルスを不活性化する方法がある。
ノロウイルス等を完全に不活性化させる方法としては、加熱処理が知られている。
しかし、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において、常に、食器、調理台、調理器具等を加熱処理することは現実的でなく、食物の種類によっては加熱処理により風味が損なわれてしまう場合がある。つまり、加熱処理は、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において、ノロウイルス等を不活性化する方法として適していなかった。
【0005】
また、ノロウイルス等を不活性化させる方法として、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム等)を用いる方法も知られている。しかし、塩素系漂白剤は、金属に対する腐食作用、皮膚等に対する刺激作用、衣類に対する漂白作用等がある。そのため、その使用が制限されるという欠点があり、特に、人体に対する安全性への配慮から作業者の手指、食器、調理台、調理器具等にこれらの薬剤類を用いることは適当とはいえず、まして食物に直接触れさせることも適当とはいえなかった。
そのため、人体に対し安全なノロウイルス等を不活性化できる方法が望まれていた。
【0006】
人体に対し安全なノロウイルス等を不活性化する方法として、食物由来のウイルス不活性化物質を使用する方法が検討されてきた。
このような食物由来のウイルス不活性化物質として、特許文献1には、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物を、エタノールと混合しした組成物とし、この組成物を用いることによりノロウイルス等を不活性化できることが示されている。
しかし、この組成物のノロウイルス等の不活性化作用は充分といえず、ノロウイルス等の不活性化作用がさらに高い食物由来のウイルス不活性化物質を発見すること、及び、そのウイルス不活性化物質を用いた消毒液の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされた発明であり、本発明の目的は、高いウイルス不活性化作用を奏する消毒液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、70種以上の組成物をスクリーニングした結果、フロログルシノール重合体を含む海藻抽出物にウイルス不活性化作用があることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明の消毒液は、フロログルシノール重合体を含む海藻抽出物と、エタノールとを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の消毒液はフロログルシノール重合体を含む海藻抽出物を含む。
このフロログルシノール重合体を含む海藻抽出物はウイルス不活性化作用を奏する。
ウイルス不活性化作用の原理は、海藻抽出物に含まれるフロログルシノール重合体のウイルス粒子を凝集させる作用により、ウイルスの感染力がなくなることと考えられる。
このような原理により、種々のウイルスを不活性化することができる。
【0013】
本発明の消毒液はエタノールを含む。
上記海藻抽出物と、エタノールとを組み合わせることにより、海藻抽出物のウイルス不活性化作用と、エタノールによるウイルス不活性化作用とが相乗作用し、ウイルス不活性化作用が向上する。
そのため、本発明の消毒液は、好適にウイルスを不活性化することができる。
また、一般的に消毒液は、タンパク質汚れや油脂汚れ等の汚れがある環境下で使用される。このような汚れは、ウイルスの不活性化作用を抑制する場合がある。
しかし、本発明の消毒液では、上記の通り、海藻抽出物と、エタノールとの両方を含むのでウイルス不活性化作用が向上している。そのため、タンパク質汚れや油脂汚れ等の汚れがあったとしても、充分なウイルス不活性化作用を奏する。
また、本発明の消毒液にはエタノールが含まれているので、菌等の微生物に対しても抗菌活性を示す。
【0014】
本発明の消毒液は、エンベロープウイルス及び/又はノンエンベロープウイルスを不活性化することができる。
また、本発明の消毒液は、カリシウイルス科ウイルスに対して高いウイルス不活性化作用を示し、ベシウイルス属ウイルス及び/又はノロウイルス属ウイルスに対してより高いウイルス不活性化作用を示し、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びヒトノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して特に高いウイルス不活性化作用を示す。
【0015】
本発明の消毒液では、上記消毒液中の上記海藻抽出物の割合は、0.0001〜5.0重量%であることが望ましい。
消毒液中の海藻抽出物の割合が、0.0001重量%未満であると、充分なウイルス不活性化作用を奏しにくくなる。
消毒液中の海藻抽出物の割合が、5.0重量%を超えると、海藻抽出物によるウイルス不活性化作用が上限に近づき経済的でない。
【0016】
本発明の消毒液では、上記海藻抽出物は、ヒバマタ科の海藻から抽出された海藻抽出物であることが望ましく、アスコフィラム・ノドサムから抽出された海藻抽出物であることがより望ましい。
これらの海藻は食用として用いられているので、これらの海藻から抽出された海藻抽出物は、人体に対し安全であると考えられる。
【0017】
本発明の消毒液では、上記フロログルシノール重合体は、フロログルシノールが2分子以上重合してなる化合物であることが望ましい。
【0018】
本発明の消毒液では、上記フロログルシノール重合体の平均分子量は1,000以上であることが望ましい。
【0019】
本発明の消毒液では、上記消毒液中の上記エタノールの割合は、8.05〜85.70重量%であることが望ましい。
消毒液中のエタノールの割合が8.05重量%未満であると、エタノールの割合が少ないので、エタノールが含まれることによるウイルス不活性化作用が発揮されにくくなる。
消毒液中のエタノールの割合が85.70重量%を超えると、消毒液中のエタノールの濃度が高すぎ、引火等の危険性が高くなる。
【0020】
本発明の消毒液は、pHが2.0〜9.0であることが望ましい。
【0021】
本発明の衛生資材は、上記本発明の消毒液を含むことを特徴とする。
【0022】
本発明の消毒液は、ウイルス不活性化作用を奏するので、このような消毒液を含む衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の消毒液は、高いウイルス不活性化作用を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の消毒液について具体的な実施形態を示しながら説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0025】
本発明の消毒液は、フロログルシノール重合体を含む海藻抽出物と、エタノールとを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明の消毒液はフロログルシノール重合体を含む海藻抽出物を含む。
このフロログルシノール重合体を含む海藻抽出物はウイルス不活性化作用を奏する。
ウイルス不活性化作用の原理は、海藻抽出物に含まれるフロログルシノール重合体のウイルス粒子を凝集させる作用により、ウイルスの感染力がなくなることと考えられる。さらに重合度が大きいほど、ウイルス凝集能が高く、不活性化が優れると考えられる。
このような原理により、種々のウイルスを不活性化することができる。
【0027】
また、上記フロログルシノール重合体を含む海藻抽出物は、エンベロープウイルス及び/又はノンエンベロープウイルスを不活性化するのに有用である。特に、カリシウイルス科ウイルスに対して高いウイルス不活性化作用を示し、ベシウイルス属ウイルス及び/又はノロウイルス属ウイルスに対してより高いウイルス不活性化作用を示し、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びヒトノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して特に高いウイルス不活性化作用を示す。
【0028】
フロログルシノール重合体を含む海藻抽出物としては、ヒバマタ科の海藻から抽出された海藻抽出物であることが望ましく、アスコフィラム・ノドサム(別名:アルギット)から抽出された海藻抽出物であることがより望ましい。
これらの海藻は食用として用いられているので、これらの海藻から抽出された海藻抽出物は、人体に対し安全であると考えられる。さらに、クロメ、アラメ、カジメ等から抽出される海藻抽出物と比べて重合度が高く、生体内の機能性も確認されている。
【0029】
フロログルシノールとは、下記化学式(1)で示される化合物であり、本発明の消毒液におけるフロログルシノール重合体とは、フロログルシノールの1位、3位及び5位のヒドロキシル基のうち少なくとも1種のヒドロキシル基を介して複数のフロログルシノールが重合した化合物のことを意味する。
フロログルシノール重合体の構造は、直鎖構造であってもよく、分岐構造を有していてもよく、複数のフロログルシノールが環状に繋がった構造を有していてもよい。
【0031】
本発明の消毒液において、フロログルシノール重合体は、フロログルシノールが2分子以上重合してなる化合物であることが望ましい。
フロログルシノールの重合数は、7分子以上であることがより望ましく、10分子以上であることがさらに望ましく、20分子以上であることがよりさらに望ましく、50分子以上であることが特に望ましい。
また、フロログルシノールの重合数は、1000分子以下であることが望ましく、500分子以下であることがより望ましい。
【0032】
また、本発明の消毒液において、フロログルシノール重合体の平均分子量が1,000以上であることが望ましく、1,000〜100,000であることがより望ましい。
【0033】
本発明の消毒液では、上記消毒液中の上記海藻抽出物の割合は、0.0001〜5.0重量%であることが望ましく、0.001〜3.0重量%であることがより望ましく、0.01〜1.0重量%であることがさらに望ましい。
消毒液中の海藻抽出物の割合が、0.0001重量%未満であると、充分なウイルス不活性化作用を奏しにくくなる。
消毒液中の海藻抽出物の割合が、5.0重量%を超えると、海藻抽出物によるウイルス不活性化作用が上限に近づき経済的でない。
【0034】
本発明の消毒液はエタノールを含む。
上記海藻抽出物と、エタノールとを組み合わせることにより、海藻抽出物のウイルス不活性化作用と、エタノールによるウイルス不活性化作用とが相乗作用し、ウイルス不活性化作用が向上する。
そのため、本発明の消毒液は、好適にウイルスを不活性化することができる。
また、一般的に消毒液は、タンパク質汚れや油脂汚れ等の汚れがある環境下で使用される。このような汚れは、ウイルスの不活性化作用を抑制する場合がある、
しかし、本発明の消毒液では、上記の通り、海藻抽出物と、エタノールとの両方を含むのでウイルス不活性化作用が向上している。そのため、タンパク質汚れや油脂汚れ等の汚れがあったとしても、充分なウイルス不活性化作用を奏する。
【0035】
また、本発明の消毒液には、エタノールが含まれているので、ウイルス不活性化作用のスペクトルが広がる。
上記の通り、本発明の海藻抽出物は、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びヒトノロウイルスに対し高いウイルス不活性化作用を示し、その他のノンエンベロープウイルスであるポリオウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス等に対しても高いウイルス不活化作用を示す。
また、本発明の消毒液は、さらに、エタノールが含まれるので、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスに対し高いウイルス不活性化作用を示す。
【0036】
さらに、本発明の消毒液には、エタノールが含まれているので、細菌等の微生物に対しても抗菌活性を示す。
【0037】
本発明の消毒液では、上記消毒液中の上記エタノールの割合は、8.05〜85.70重量%であることが望ましく、24.69〜73.54重量%であることがより望ましく、37.88〜67.89重量%であることがさらに望ましい。
消毒液中のエタノールの割合が8.05重量%未満であると、エタノールの割合が少ないので、エタノールが含まれることによるウイルス不活性化作用が発揮されにくくなる。
消毒液中のエタノールの割合が85.70重量%を超えると、消毒液中のエタノールの濃度が高すぎ、引火等の危険性が高くなる。
【0038】
本発明の消毒液は、pHが2.0〜9.0であることが望ましい。
また、人体に対する安全性の観点から、消毒液のpHは、4.0〜8.0であることが望ましく、5.0〜8.0であることがより望ましい。
また、ウイルスの不活性化作用の観点から、消毒液のpHは、2.0〜6.0であることが望ましく、2.0〜5.0であることがより望ましい。
【0039】
本発明の消毒液は、さらにグリセリン脂肪酸エステル、炭素原子数2〜10の有機酸及びその塩、リン酸及びその塩、グリセリン等が含まれていてもよい。
グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステルであってもよく、ポリグリセリン脂肪酸エステルであってもよい。例えば、モノグリセリンカプリル酸エステル、モノグリセリンカプリン酸エステル、モノグリセリンラウリン酸エステル、ジグリセリンカプリル酸エステル、ヘキサグリセリンラウリン酸エステル、デカグリセリンラウリン酸エステル等があげられる。
炭素原子数2〜10の有機酸及びその塩としては、乳酸、DL−リンゴ酸、クエン酸、酒石酸及びその塩があげられる。
【0040】
本発明の消毒液が不活性化するウイルスの種類は、特に限定されないが、本発明の消毒液は、エンベロープウイルス及び/又はノンエンベロープウイルスを不活性化することができる。
また、本発明の消毒液は、カリシウイルス科ウイルスに対して高いウイルス不活性化作用を示し、ベシウイルス属ウイルス及び/又はノロウイルス属ウイルスに対してより高いウイルス不活性化作用を示し、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びヒトノロウイルスからなる群から選択される少なくとも1種のウイルスに対して、特に高いウイルス不活性化作用を示す。
【0041】
本発明の消毒液は、ネコカリシウイルスを試験ウイルスとした下記ウイルス感染力価測定において、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値が、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明の消毒液が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を防止することができる。
【0042】
(ネコカリシウイルス感染力価測定)
(1)ネコカリシウイルスを、ネコ腎由来株化細胞であるCRFK細胞(ATCC CCL−94)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、ネコカリシウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)次に、得られた培養細胞破砕液を遠心分離し、上清をウイルス溶液とする。
(4)消毒液と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で1分経過後、OPTI−MEM培地で100倍希釈することにより、消毒液のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液を消毒液1分作用ウイルス溶液とする。
(5)OPTI−MEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、OPTI−MEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液を消毒液0分作用ウイルス溶液とする。
(6)消毒液0分作用ウイルス溶液、消毒液1分作用ウイルス溶液を、それぞれ、OPTI−MEM培地により10倍段階希釈した。CRFK細胞を培養した96wellマイクロプレートの培地を捨て、段階希釈液を100μLずつ加えた。
(7)消毒液0分作用ウイルス溶液及び消毒液1分作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたCRFK細胞を37℃、5%CO
2の条件で、4日間培養する。
(8)培養したCRFK細胞のCPEを指標にTCID
50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)〜(8)の工程を3回独立に行い、消毒液0分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0分におけるウイルス感染力価とし、消毒液1分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値とする。
【0043】
本発明の消毒液は、マウスノロウイルスを試験ウイルスとした下記ウイルス感染力価測定において、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値が、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値より2.0以上小さいことが望ましく、4.0以上小さいことがより望ましい。
本発明の消毒液が、このようなウイルス不活性化作用を奏すると、カリシウイルス科ウイルスの感染を防止することができる。
【0044】
(マウスノロウイルス感染力価測定)
(1)マウスノロウイルスを、マウスのマクロファージ由来細胞株であるRAW 264.7細胞(ATCC TIB−71)に感染させて細胞を培養する。
(2)次に、マウスノロウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認する。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を繰り返すことにより、培養細胞を破砕する。
(3)次に、得られた培養細胞破砕液を遠心分離し、上清をウイルス溶液とする。
(4)消毒液と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合し、室温で1分経過後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、消毒液のウイルスに対する作用を停止させる。
この工程により得られた溶液を消毒液1分作用ウイルス溶液とする。
(5)10%牛胎児血清含有DMEM培地と、ウイルス溶液とを9:1の割合(容量)で混合した直後、10%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液を消毒液0分作用ウイルス溶液とする。
(6)消毒液0分作用ウイルス溶液及び消毒液1分作用ウイルス溶液を、それぞれ、10%牛胎児血清含有DMEM培地により、10倍段階希釈する。1ウェルにRAW 264.7細胞を50μLずつ分注した96wellマイクロプレートに、各段階希釈液を50μLずつ加える。
(7)消毒液0分作用ウイルス溶液及び消毒液1分作用ウイルス溶液の段階希釈液が加えられたRAW 264.7細胞を37℃、5%CO
2の条件で、4日間培養する。
(8)培養したRAW 264.7細胞のCPEを指標にTCID
50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価(対数)を定量する。
(9)上記(1)〜(8)の工程を3回独立に行い、消毒液0分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0分におけるウイルス感染力価とし、消毒液1分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値とする。
【0045】
次に、本発明の消毒液を用いた本発明の用途を説明する。
本発明の消毒液は、手洗い液、中性洗剤、消臭剤に加えてもよい。
本発明の消毒剤を含む手洗い液、中性洗剤、消臭剤等は、ポンプボトルやスプレーガンに詰められていてもよい。
【0046】
また衛生資材に用いてもよい。このような衛生資材は、本発明の衛生資材でもある。
【0047】
本発明の衛生資材は、上記本発明の消毒液を含むことを特徴とする。
本発明の消毒液は、ウイルス不活性化作用を奏するので、このような消毒液を含む衛生資材を用いることにより、ウイルス感染を防ぐことができる。
【0048】
本発明の衛生資材は、特に限定されるものではないが、例えば、マスク、使い捨て手袋、使い捨て布巾、ティッシュペーパー、ウエットティッシュ等があげられる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明をより具体的に説明する実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
エタノールが24.69重量%、アスコフィラム・ノドサムから抽出された海藻抽出物(製造元:理研ビタミン株式会社、商品名:海藻ポリフェノール(フロログルシノールの重合数が10分子以上のフロログルシノール重合体を含有))が0.50重量%、DL−リンゴ酸(製造元:扶桑化学工業株式会社製、商品名:リンゴ酸フソウ)が0.05重量%、DL−リンゴ酸ナトリウム(製造元:扶桑化学工業株式会社製、商品名:リンゴ酸ソルト)が0.30重量%、グリセリン(製造元:阪本薬品工業株式会社製、商品名:グリセリンRG)が0.50重量%、残分として水を混合し、実施例1に係る消毒液を作製した。実施例1に係る消毒液のpHは6.5であった。
【0051】
(実施例2〜5)、(比較例1〜8)並びに(参考例1及び2)
消毒液の材料の種類及び割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に実施例2〜5、比較例1〜8、並びに、参考例1及び2の消毒液を作製した。
なお、表1中「%」は重量%を意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
表1中のウイルス不活性化物質は、以下の物質である。
海藻エキス(クロメ、アラメ、カジメ等からの抽出物):製造元:日油株式会社、商品名:エクレクストBG(フロログルシノールの重合数が7分子未満のフロログルシノール重合体を含有)
月見草(種子)エキス:製造元:オリザ油化株式会社、商品名:月見草エキス―WSPH
カリンエキス:製造元:丸善製薬株式会社、商品名:カリンエキスMF
柿抽出物:製造元:リリース科学工業株式会社、商品名:パンシル PS−M
ブドウ種子抽出物:製造元:株式会社常盤植物化学研究所、商品名:ビノフェロン
生コーヒー豆エキス:製造元:オリザ油化株式会社、商品名:生コーヒー豆エキス−P
ゆず種子抽出物:製造元:オリザ油化株式会社、商品名:ユズ種子エキス−WSP
【0054】
(ネコカリシウイルスの感染力価測定)
消毒液として、各実施例、各比較例及び各参考例に係る消毒液を用い、上記(ネコカリシウイルス感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0055】
(汚れ負荷時のネコカリシウイルスの感染力価測定)
消毒液として、各実施例、各比較例及び各参考例に係る消毒液を用い、上記(ネコカリシウイルス感染力価測定)の(3)工程を以下の(3´)に変更した以外は、上記(ネコカリシウイルス感染力価測定)と同様に汚れ負荷時のネコカリシウイルス感染力価測定を行った。
作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は上記(ネコカリシウイルスの感染力価測定)の評価基準と同様である。結果を表1に示す。
(3´)牛肉エキス(ナカライテスク社製)0.1gをOPTI−MEM培地で溶解して10%肉エキス液を作製し、遠心分離後の培養細胞破砕液の上清と、10%肉エキスとを1:1の割合(容量)で混合し、ウイルス溶液とする。
【0056】
(マウスノロウイルスの感染力価測定)
消毒液として、各実施例、各比較例及び各参考例に係る消毒液を用い、上記(マウスノロウイルスの感染力価測定)の方法に基づき、作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0057】
(汚れ負荷時のマウスノロウイルスの感染力価測定)
消毒液として、各実施例、各比較例及び各参考例に係る消毒液を用い、上記(マウスノロウイルス感染力価測定)の(3)工程を以下の(3´´)に変更した以外は、上記(マウスノロウイルス感染力価測定)と同様に汚れ負荷時のマウスノロウイルス感染力価測定を行った。
作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は上記(マウスノロウイルス感染力価測定)の評価基準と同様である。結果を表1に示す。
(3´´)牛肉エキス(ナカライテスク社製)0.1gをDMEM培地で溶解して10%肉エキス液を作製し、遠心分離後の培養細胞破砕液の上清と、10%肉エキスとを1:1の割合(容量)で混合し、ウイルス溶液とする。
【0058】
(インフルエンザウイルスの感染力価測定)
(1)インフルエンザウイルスを、MDCK(NBL−2)細胞(ATCC CCL−34)に感染させて細胞を培養した。
(2)次に、インフルエンザウイルスが感染したかどうかを細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)により確認した。
細胞変性効果を確認した後、培養細胞の凍結融解を3回繰り返すことにより、培養細胞を破砕した。
(3)次に、得られた培養細胞破砕液の上清をろ過し、インフルエンザウイルス溶液とした。
(4)各実施例、各比較例及び各参考例に係る消毒液と、ウイルス溶液とを9:1(容量)の割合で混合し、室温で1分経過後、0.2%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、消毒液のウイルスに対する作用を停止させた。
この工程により得られた溶液を消毒液1分作用ウイルス溶液とした。
(5)0.2%牛胎児血清含有DMEM培地と、ウイルス溶液とを9:1(容量)の割合で混合した直後、0.2%牛胎児血清含有DMEM培地で100倍希釈することにより、得られた溶液を消毒液0分作用ウイルス溶液とする。
(6)消毒液0分作用ウイルス溶液、消毒液1分作用ウイルス溶液を、それぞれ、0.2%牛胎児血清含有DMEM培地により、10倍段階希釈した。1ウェルに5%牛胎児血清含有DMEM培地で懸濁したMDCK細胞を分注した96wellマイクロプレートに、ウイルスの段階希釈液を加えた。
(7)消毒液0分作用ウイルス溶液、消毒液1分作用ウイルス溶液が加えられたMDCK細胞を37℃、5%CO
2の条件で、4日間培養した。
(8)培養したMDCK細胞のCPEを指標にTCID
50(Tissue Culture Infectious Dose 50%)により各ウイルス溶液のウイルス感染力価を定量した。
(9)上記(1)〜(8)の工程を3回独立に行い、消毒液0分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間0分におけるウイルス感染力価とし、消毒液1分作用ウイルス溶液を用いて算出されたウイルス感染力価の平均値を、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値とした。
作用時間0分におけるウイルス感染力価の値と、作用時間1分におけるウイルス感染力価の値との差を算出して評価した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
A:4.0以上の感染力価の減少(充分な効果あり)
B:2.0以上、4.0未満の感染力価の減少(効果あり)
C:2.0未満の感染力価の減少(効果なし)
【0059】
(大腸菌に対する抗菌活性測定)
(1)大腸菌(
Escherichia coli NBRC3972)を普通ブイヨン培地に接種し、35℃で24時間培養し菌液とした。
(2)各実施例、各比較例及び各参考例の消毒液と菌液とを99:1の割合(容量)で混合し、室温で1分経過後、SCD培地に1白金耳移植し、35℃で48時間培養後、菌の生死を判定した。
(3)SCD培地に濁りが見られた場合、菌が死滅しなかった、濁りが見られない場合菌が死滅したと判断した。
(4)菌が死滅したと判断される各消毒液について、その消毒液を水で2倍に希釈し、消毒液の希釈液を用い上記(1)〜(3)と同様の操作を行い菌の生死を判定した。
(5)菌が死滅しなくなるまで、消毒液の希釈倍率(原液からの希釈倍率)を1ずつ上げて上記(1)〜(3)と同様の操作を繰り返し、各消毒液の大腸菌が死滅した最大の希釈倍率を測定した。
結果を表1に示す。
なお、表1中の「活性なし」という評価は、消毒液の原液を使用して上記(1)〜(3)の操作を行った際に、菌が死滅しなかったことを意味する。
【0060】
(黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性測定)
大腸菌の代わりに黄色ブドウ球菌(
Staphylococcus aureus NBRC12732)を用いた以外は、上記(大腸菌に対する抗菌活性試験)と同様に、各消毒液の黄色ブドウ球菌が死滅した最大の希釈倍率を測定した。
結果を表1に示す。
【0061】
カリシウイルス科ウイルスの感染力価測定の結果、各実施例に係る消毒液は、ネコカリシウイルス及びマウスノロウイルスに対し、高いウイルス不活性化作用を示した。
現在、ヒトノロウイルスは、培養細胞を用いても増殖させることができない。そのため、ノロウイルスの不活性化に対する検証には、代替ウイルスとしてネコカリシウイルス及びマウスノロウイルスが広く用いられている。
表1に示す結果より、各実施例に係る消毒液は、ヒトノロウイルスに対しても高いウイルス不活性化作用を示すと予測される。
特に、各実施例に係る消毒液は、汚れ負荷時のネコカリシウイルスの感染力価測定及び汚れ負荷時のマウスノロウイルスの感染力価測定においても高いウイルス不活性化作用を示した。
さらに、各実施例に係る消毒液は、インフルエンザウイルスに対する高いウイルス不活性化作用を示し、高い抗菌活性も示した。