【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、独立請求項の対象によって解決される。本発明の有利な形態および変形形態は、各従属請求項に記載されている。
【0010】
それに応じて、本発明は、コーティングされた基板であって、この基板は、少なくとも片面に、多層反射防止コーティングを有しており、この多層反射防止コーティングは、より高い屈折率を有する層とより低い屈折率を有する層とが交互になっている、異なる屈折率を有する複数の層から形成されており、その際、該より低い屈折率を有する層は、アルミニウム分を有する酸化ケイ素から形成されており、ケイ素に対するアルミニウムの物質量の比は、0.05より大きく、好ましくは0.08より大きいが、ケイ素の物質量は、アルミニウムの物質量に比べて多く、その際、 該より高い屈折率を有する層は、ケイ化物、酸化物または窒化物を含有する。該高屈折性層に特に適しているのは、窒化ケイ素であるコーティングされた基板を提供する。
【0011】
言い換えると、本発明による低屈折性層は、次の式による、ケイ素とアルミニウムとの物質量の比を有する:
n(Al)/(n(Si)+n(Al))>0.05
[ただし、n(Al)はアルミニウムの物質量を示し、n(Si)は、ケイ素の物質量を表す]。
【0012】
意外にも、アルミニウムまたは酸化アルミニウムを、高屈折率窒化ケイ素層と比較して軟らかく低屈折率酸化ケイ素層に混合すると、明らかにより高い、引っかき傷および摩耗に対する安定性がもたらされることが分かった。
【0013】
そのようなコーティングされた基板の製造方法は対応して、
基板の少なくとも片面に、多層反射防止コーティングを施与することに基づくが、
その多層反射防止コーティングを、逐次堆積によって、より高い屈折率を有する層とより低い屈折率を有する層とが交互になっている、異なる屈折率を有する複数の層から形成し、その際、
より低い屈折率を有する前記層は、アルミニウム分を有する酸化ケイ素から形成され、
ケイ素に対するアルミニウムの物質量の比は、0.05より大きく、好ましくは0.08超より大きいが、ケイ素の物質量は、アルミニウムの物質量に比べて多く、その際、
酸化物、ケイ化物または窒化物含有、特に好ましくは窒化ケイ素含有層を、前記より高い屈折率を有する層として堆積させる。
【0014】
反射防止コーティング層に好ましい堆積方法として、スパッタリング、特にマグネトロンスパッタリングを使用する。この際さらに、反応性スパッタリングが特に有利であり、それというのも、この場合、低屈折率層の酸化ケイ素も、高屈折率層のために使用するのが好ましい窒化ケイ素も、同じターゲットを用いて製造することができるためである。異なる層材料への切換は、処理パラメーター、特に処理ガスの組成を変えることによって簡単に行うことができる。
【0015】
好ましい実施形態では、反射防止コーティングの表面を、アルミニウム分を有する酸化ケイ素からなる、より低い屈折率を有する層で形成する。このことは、コーティングと周囲との界面において可能な限り小さな屈折率遷移を、したがって特に良好な反射防止作用を達成するためには有利である。特にこの場合に、本発明の特別な利点が明らかになる。それというのも、低屈折率最上層の本発明による層組成によって、この層の急速な摩耗が回避されるためである。
【0016】
アルミニウムドーピングは好ましくは、ケイ素含有率の20モルパーセント以下であるべきである。言い換えると、ケイ素に対するアルミニウムの物質量の比は、最高で0.2であることが好ましい。対応して、ケイ素およびアルミニウムの物質量n(Si)およびn(Al)には下式が該当する:
n(Al)/(n(Si)+n(Al))=x
[ただし、xは0.05〜0.2の範囲内である]。
アルミニウム含有率が高すぎると、要するに、低屈折率層の屈折率が上昇していくことに基づき、反射防止作用の低下が生じる。
【0017】
本発明のさらなる特に好ましい一実施形態では、前記のより高い屈折率を有する層も、アルミニウム含有窒化ケイ素層として生じさせる。対応して、これらの層は、ケイ素に対するアルミニウムの物質量の比が0.05より大きく、好ましくは0.08より大きい、アルミニウム分を有する窒化ケイ素からなる。
【0018】
特に、前記高屈折率層および低屈折率層におけるケイ素含有率に対するアルミニウム含有率は、同じか、または実質的に同じであってよい。このような積層体を製造するためには、全ての層を反応性スパッタリングによって、アルミニウムドーピングされたケイ素ターゲットから蒸着させることができる。そのため、この方法はターゲットを交換しなくてよいので、特に簡単である。
【0019】
対応して、高屈折率窒化ケイ素層に関しては、対応するケイ素およびアルミニウムの物質量の比、上記の通り、この場合もn(Al)/(n(Si)+n(Al))>0.05、好ましくは0.05〜0.2の範囲内が該当する。
【0020】
意外にも、本発明による反射防止層は、比較的薄い層厚でも、永続的な耐引っかき性を提供することが分かった。例えば、好ましい実施形態の反射防止コーティングは、全体として200〜400ナノメーターの範囲の層厚を有する。特に好ましい層厚は、250〜300ナノメーターの範囲である。これに対して、典型的な耐引っかき性コーティングまたは硬質材料コーティングは一般に、1マイクロメーターより大きい厚さを有する。
【0021】
基板としては、好ましくは、無機材料、例えばガラスならびに透明および不透明ガラスセラミック、さらにサファイアガラス、合成石英ガラス(溶融シリカ)または例えば光学用途のクリスタル、例えばフッ化カルシウムが該当する。ディスク形状の基板が特に適している。例えば自動車用窓ガラスとして使用されている通り、特にガラスを含む複合材料も適している。その際、反射防止コーティングでコーティングした後でも、複合材料を製造することができる。そのような複合材料を製造するためには、例えば、2種のガラス板をPVBフィルムを用いて相互に結合させる。基板として好ましいガラスは、ホウケイ酸ガラス、例えばBorofloatガラス、アルミノケイ酸ガラス、リチウムアルミノケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラスおよびガラスセラミックである。さらに、光学用ガラスおよびフィルターガラスも基板として使用することができる。
【0022】
さらに非常に有利なことには、特別なスパッタリング法によって、層の特性に有利な影響を及ぼすことができる。この方法を下記では、HiPIMS法(高電力パルスマグネトロンスパッタリング)か、またはHPPMS法(高電力パルスマグネトロンスパッタリング)とも称する。この蒸着法は、スパッタリングに、典型的な10W/cm
2をかなり超える高い出力密度をターゲット上にもたらす高エネルギーパルスを生じさせるパルススパッタリング法である。
【0023】
特に、本発明のこの変形形態では、多層反射防止コーティングの層のうちの少なくとも1層、好ましくは複数層、特に好ましくは全層を、マグネトロンスパッタリングによって堆積させることが企図されており、その際、プラズマを励起させるために、パルスがターゲット面積の平方センチメーター当たり少なくとも100ワットの出力密度を有するパルス場を使用する。出力密度は、平方センチメーター当たり1000ワットを超えてもよい。好ましい出力範囲は、100〜2000W/cm
2である。パルス場のために好ましくは、100Hz〜10,000Hzの範囲、特に好ましくは500Hz〜2kHzの範囲のパルス周波数を使用する。さらに、パルス期間と比較して長いパルス休止期を設けることが有利である。好ましくは、2つのパルスの間のパルス休止期は、パルス期間よりも少なくとも5倍長い。
【0024】
高い出力密度によって、ターゲットから放出される粒子は、従来のスパッタリングよりも高いエネルギーを有することとなる。このことによって、中性粒子だけでなく、さらに大量に荷電粒子(イオン)も生じ得る。その際、イオンの割合は、従来のスパッタリングの場合よりもかなり高い。
【0025】
粒子のエネルギーがより高いことによって、基板表面でのより高い移動性が生じ、このことによって、密度および低い多孔率に関して層の成長が優遇される。適切な処理パラメーター、特にパルスパラメーターによって、スパッタリングされた層の表面トポグラフィーを変更することができる。多様な表面構造および粗さに調節することができる。さらに、基板を加熱することによって、成長に影響を及ぼすことができる。
【0026】
この方法を用いて製造された層は、非常に緻密になるだけではなく、とりわけ極めて平滑な表面も有することが分かった。まさにこのことが、引っかき傷または摩耗に対する機械的安定性を特に高めているようである。それというのも、層表面は引っかかるポイントをほとんど提供しないか、またはコーティングの不規則性を起点として、損傷が広がり得ないためである。
【0027】
この方法を用いると、1平方マイクロメーターの面積に対して1.5ナノメーター未満、さらには1ナノメーター未満の二乗平均粗さの値(RMS値とも称される)を有する層、または層表面を製造することができる。同じ値は、算術平均粗さRaにも該当する。傾向として、算術平均粗さはしかも二乗平均粗さよりもさらにやや低い。
【0028】
本発明の一変形形態では、反射防止コーティングか、または反射防止コーティングの最上層の表面は、1平方マイクロメーターの面積に対してそれぞれ、1.5ナノメーター未満、好ましくは1ナノメーター未満である算術平均粗さおよび二乗平均粗さを有する。
【0029】
HiPIMS法は、慣用のマグネトロンスパッタリングに対して、蒸着速度が遅いという欠点をいまだ有する。この場合、HiPIMSスパッタリング法と慣用の中周波、DC−またはHFスパッタリング法との組合せが有利であることが判明した。このことによって、HiPIMSの際の低い速度を部分的に補償することができるが、高エネルギーHiPIMS粒子のプラスの側面が失われることはない。
【0030】
HiPIMSと従来のスパッタリング法とを重ねることによって、HiPIMSパルスのエネルギーをより良好にカップリングさせることができる。それというのもこの場合、プラズマは長いパルスオフ時間において、この重なりによって完全には消えないためである。本発明のこの変形形態では、パルス休止期において、さらなる材料をスパッタリングすることよりもむしろ、パルス間の休止期において、プラズマを維持することの方がよほど重要である。このプロセスは、パルス休止期においては、層形成を行わないか、少なくとも実質的には行わないように調節することが十分に可能である。
【0031】
パルス休止期におけるプラズマの維持は例えば、HiPIMSパルスシグナルとDC−電圧または中周波交流電圧とを重ねることによって行うことができる。MFスパッタリングの使用はさらに、反応(HiPIMS)スパッタリングプロセスでのアーク放電(電気的フラッシュオーバー)を低減する。このことによって、堆積される層の欠陥の数(ピンホール、局所溶融、滴)が減る。この態様は、本発明による反射防止コーティング、特に、好ましく使用される窒化ケイ素層の硬質材料層機械的安定性を改善する。
【0032】
一方では、良好な耐引っかき作用を、他方では良好な反射防止を得るために、反射防止コーティングが少なくとも2つの比較的高い屈折率を有する層および少なくとも2つの比較的低い屈折率を有する層を有することが有利である。基板材料が、高屈折性窒化ケイ素層よりもかなり軟らかい場合にはさらに、窒化ケイ素層から開始することが有利である。その場合は対応して、反射防止コーティングの最下層は、より高い屈折率を有する層によって形成される。硬い基板、例えば、サファイアガラスを使用する場合には反対に、最下層として、低屈折率のアルミニウムドーピングされた酸化ケイ素層を使用することが有利である。
【0033】
本発明による反射防止コーティングの層系は、反射防止層系が機械的負荷にさらされるあらゆる所で使用することができる。製造は、従来のスパッタリング技術によっても行うことができ、また機械的安定性をさらに改善するためには、HiPiMS技術でも行うことができる。可能な用途は、航空機を含む車両分野における窓ガラス、ガラスまたはガラスセラミック製の調理台表面(Kochflaechen)または同様の家庭電化製品での使用、家電領域、例えば、電子ディスプレイおよびタッチスクリーンのカバーでの使用、さらに、平坦であるか、または僅かにカーブしている表面を有し得る時計用ガラスのための使用でもある。カーブしている時計用ガラスとは、例えば7mmの直径および0.4mmの立ち上がり高さ(Pfeilhoehe)、即ち、曲面の縁の所で想定される平面から曲面の頂点までのレンズの高さを有する、例えば日付表示上で時計用ガラスの上に貼り付けられているか、または組み込まれているレンズと理解され得る。そのような僅かにカーブしている時計用ガラスの場合にも同様に、耐久性のある耐引っかき性を有する本発明による反射防止コーティングを施与することができる。
【0034】
一般に、本発明のこの変形形態では、カーブしている、特に、レンズ形状の基板表面が本発明によるコーティングで被覆されていてよい。
【0035】
本発明を下記では、例示的実施形態によって、かつ添付の図面に関連して詳細に詳述する。図面において、同じ参照符号は同じか対応する要素を示している。