特許第6053402号(P6053402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6053402糖過分解物又はリグニン分解物に対する吸着剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6053402
(24)【登録日】2016年12月9日
(45)【発行日】2016年12月27日
(54)【発明の名称】糖過分解物又はリグニン分解物に対する吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20161219BHJP
   C12P 7/06 20060101ALI20161219BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20161219BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20161219BHJP
【FI】
   B01J20/22
   C12P7/06
   C12P19/14 A
   C12P7/04
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-198842(P2012-198842)
(22)【出願日】2012年9月10日
(65)【公開番号】特開2014-50372(P2014-50372A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年9月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/バイオマスエネルギー高効率転換技術開発(先導技術研究開発)/木質バイオマスからの高効率バイオエタノール生産システムの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230582
【氏名又は名称】日本化学機械製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆司
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 康一
(72)【発明者】
【氏名】大代 正和
【審査官】 飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−045882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/22
C12P 7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣を、酸素濃度が体積比で15〜40%である酸素雰囲気下、200〜500℃で加熱処理することを特徴とする、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質の製造方法。
【請求項2】
前記糖化残渣が、
(a)リグニンを含む植物バイオマスを糖化前処理する工程、及び
(b)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程
を含む方法で得られた水不溶物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記糖化残渣が、
(a)リグニンを含む植物バイオマスを糖化前処理する工程、
(b)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程、及び
(c2)酵素糖化処理物を発酵処理する工程
を含む方法で得られた水不溶物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記糖化前処理が酸処理である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造された、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質。
【請求項6】
請求項5に記載の物質を含有する、糖過分解物又はリグニン分解物に対する吸着剤。
【請求項7】
リグニンを含む植物バイオマスの糖化前処理物から、下記工程x〜z:
(x)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程、
(y)糖化前処理物を発酵処理する工程、
(z)酵素糖化処理物を発酵処理する工程、
の内、工程x、工程y、及び工程xと工程zとの併用工程からなる群から選択される少なくとも1つ工程を経て糖の発酵物を製造する方法であって、
糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物に対して請求項5に記載の物質を接触させることにより、糖過分解物又はリグニン分解物を吸着させる工程を有することを特徴とする、糖の発酵物を製造する方法。
【請求項8】
さらに、請求項5に記載の物質に吸着した糖過分解物又はリグニン分解物を除去する工程を有する、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンを含む植物バイオマスから糖の発酵物を製造する方法において酵素糖化処理や発酵処理を阻害する物質、具体的には糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質の製造方法に関する。さらに本発明は、糖過分解物又はリグニン分解物に対する吸着剤、及び該吸着剤を利用して、リグニンを含む植物バイオマスから糖の発酵物を製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
原油などの化石資源の大量消費による地球温暖化問題や化石資源枯渇問題を背景として、植物バイオマスからアルコール等の糖の発酵物を生産する事業が行われている。通常、植物バイオマスからアルコール等の糖の発酵物を生産するためには、植物バイオマス中のセルロースやヘミセルロースを糖化することにより単糖類や少糖類を得て、さらにこれらの単糖類や少糖類を基質として発酵させることによりアルコール等の発酵物を得る方法が採用される。
【0003】
しかしながら、糖化前処理や糖化処理、例えば高温下での加水分解により、植物バイオマスからリグニンの分解物(バニリン、又はシリンガアルデヒド等)の他、糖の過分解物(5-ヒドロキシメチルフルフラール、又はフルフラール等)が生じてしまい、これらが酵素による糖化処理や微生物による発酵処理を阻害するという問題がある。
【0004】
従来から、これら糖過分解物やリグニン分解物等の阻害物質を、膜、活性炭、イオン交換樹脂、又は蒸留などで除去することが行われてきたが、これらの方法は経済性が低くバイオエタノール実用化のボトルネックの一つとなっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、木質材料を不活性雰囲気下で炭化処理して得られた物質が、糖過分解物やリグニン分解物に対する吸着剤として使用できることが記載されている。しかしながら、効率的に糖過分解物やリグニン分解物を吸着するためには、炭化処理温度として700℃以上が必要であり、経済性の観点から改善が望まれる。
【0006】
また、特許文献2には、バイオマスの糖化処理後に残る残渣を貧酸素条件下で炭化して得られた物質が、糖過分解物やリグニン分解物に対する吸着剤として使用できることが記載されている。しかしながら、通常、効率的な炭化処理には高温域での加熱(特許文献1の実施例では800℃)が必要となるため、経済性の観点から改善が望まれる。また、糖化処理に酸触媒を用いるため、廃液処理に要するコストや環境負荷が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−270056号公報
【特許文献2】特開2011−45882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、糖過分解物やリグニン分解物に対して吸着性を有する物質を効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣を、酸素雰囲気下で加熱処理することにより、糖過分解物又はリグニン分解物に対して高い吸着性を有する物質を効率的に製造できることを見出した。さらに、製造された物質は、微生物による発酵の基質となる単糖類や少糖類に対しては吸着性を示さずに、糖過分解物又はリグニン分解物を選択的に吸着することも見出した。これらの知見に基づきさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の構成を有するものを包含する。
項1. リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣を酸素雰囲気下で加熱処理することを特徴とする、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質の製造方法。
項2. 前記加熱処理が500℃以下で行われる、項1に記載の製造方法。
項3. 前記糖化残渣が、
(a)リグニンを含む植物バイオマスを糖化前処理する工程、及び
(b)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程
を含む方法で得られた水不溶物である、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記糖化残渣が、
(a)リグニンを含む植物バイオマスを糖化前処理する工程、
(b)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程、及び
(c2)酵素糖化処理物を発酵処理する工程
を含む方法で得られた水不溶物である、項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 前記糖化前処理が酸処理である、項3又は4に記載の製造方法。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって製造された、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質。
項7. 項6に記載の物質を含有する、糖過分解物又はリグニン分解物に対する吸着剤。
項8. リグニンを含む植物バイオマスの糖化前処理物から、下記工程x〜z:
(x)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程、
(y)糖化前処理物を発酵処理する工程、
(z)酵素糖化処理物を発酵処理する工程、
の内、工程x、工程y、及び工程xと工程zとの併用工程からなる群から選択される少なくとも1つ工程を経て糖の発酵物を製造する方法であって、
糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物に対して項6に記載の物質を接触させることにより、糖過分解物又はリグニン分解物を吸着させる工程を有することを特徴とする、糖の発酵物を製造する方法。
項9. さらに、項6に記載の物質に吸着した糖過分解物又はリグニン分解物を除去する工程を有する、項8に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、糖過分解物やリグニン分解物に対して吸着性を有する物質を効率的に製造することができる。この製造方法は、通常廃棄されている糖化残渣を原材料としており、さらに500℃以下という低温度域においても、糖過分解物やリグニン分解物に対して高い吸着性を有する物質を製造できることから、製造コストが非常に低い。また、得られた物質は、酵素糖化処理や発酵処理の阻害物質である、糖過分解物やリグニン分解物を高効率且つ選択的に吸着することができる。さらに、リグニンを含む植物バイオマスからアルコール等の糖の発酵物を製造する方法において、該物質を用いて糖過分解物やリグニン分解物を吸着することにより、酵素糖化処理や発酵処理の効率が高められ、効率的にアルコール等の糖の発酵物を製造することができる。さらに、阻害物質が吸着した吸着体を最終的に燃焼させることにより、可溶性の有機物をエネルギー源として利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質
本発明は、リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣を酸素雰囲気下で加熱処理することを特徴とする、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質(以下、「吸着性物質」と略記することもある)の製造方法に関する。
【0013】
リグニンを含む植物バイオマスとしては、リグニンを含む限り特に限定されず、例えば植物体、植物体の加工品、及びそれらの廃棄物が例示される。植物体としては、例えば、針葉樹材、広葉樹材、非樹木系材料が例示され、具体的には、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等の針葉樹材;アスベン、アメリカンブラックチェリー、イエローポプラ、ウォールナット、カバザクラ、ケヤキ、シカモア、シルバーチェリー、タモ、チーク、チャイニーズエルム、チャイニーズメープル、ナラ、ハードメイプル、ヒッコリー、ピーカン、ホワイトアッシュ、ホワイトオーク、ホワイトバーチ、レッドオーク、アカシア、ユーカリ等の広葉樹材;、イネ、サトウキビ、ムギ、トウモロコシ、パイナップル、オイルパーム、ケナフ、綿、アルファルファ、チモシー、タケ、ササ、テンサイ等の非樹木系材料が挙げられる。植物体の加工品としては、例えば新聞紙、雑誌、古紙、又は木質建材等が挙げられる。また、リグニンを含む植物バイオマスにおけるリグニン含量については特に限定されるものではないが、植物バイオマスの乾燥重量当たり1〜50重量%の割合が例示される。リグニンを含む植物バイオマスは1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣とは、リグニンを含む植物バイオマスの糖化処理工程を経て得られた水不溶物を意味する。ここで、糖化処理工程とは、リグニンを含む植物バイオマス中のセルロースやヘミセルロース等の多糖類から、単糖類又は少糖類を生成する処理工程、及びそれに付随する処理工程(例えば生成した単糖類又は少糖類からアルコール等の糖の発酵物を生成させる工程)を意味する。糖化処理工程としては、例えば、
A.(a)リグニンを含む植物バイオマスを糖化前処理する工程(以下、「工程a」と略記することもある)、
B.工程aと(b)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程(以下、「工程b」と略記することもある)との併用工程、
C.工程aと(c1)糖化前処理物を発酵処理する工程(以下、「工程c1」と略記することもある)との併用工程、又は
D.工程aと、工程bと、(c2)酵素糖化処理物を発酵処理する工程(以下、「工程c2」と略記することもある)との併用工程、
が挙げられ、好ましくは工程aと工程bとの併用工程、又は工程aと工程bと工程c2との併用工程が挙げられる。これらの工程は順に行われてもよいが、同時に行われてもよい。例えば、工程bと工程c2を同時に行う方法が挙げられる。
【0015】
工程a
工程aはリグニンを含む植物バイオマスを糖化前処理する工程である。
【0016】
糖化前処理は、リグニンを含む植物バイオマスから、糖化処理の基質となる多糖類を覆っているリグニンをはずすことができる処理である限り特に限定されず、多糖類の糖化を引き起こす処理も含まれる。具体的には、酸処理、アルカリ処理、アンモニア処理、マイクロ波処理、爆砕処理、水熱処理、亜臨界水処理、超臨界水処理、ソルボリシス処理、又は機械的粉砕処理等の公知の処理方法が挙げられる。これらの中でも、酸処理、アルカリ処理、爆砕処理、又は水熱処理が好ましく挙げられる。加熱手段としては、ヒーターや熱媒を用いた外部加熱法とマイクロ波を用いた内部加熱法のどちらか、あるいは両者を併用する方法を採用することができる。糖化前処理は1種又は2種以上を組み合わせて採用してもよい。
【0017】
具体的には、酸処理の場合、例えば酸を添加した水性溶媒中で加熱することにより行われる。酸としては、例えば有機酸又は無機酸が挙げられ、好ましくは有機酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、マレイン酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、葉酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ケトグルタル酸、アジピン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、オキサロ酢酸、リンゴ酸、イソクエン酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸、メリト酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、p-トルエンスルフィン酸、又はベンゼンスルフィン酸等が挙げられ、好ましくはマレイン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ケトグルタル酸、又はアジピン酸が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、ボロン酸、フッ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸、クロム酸、過マンガン酸、アンバーリストが挙げられる。酸は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸の濃度としては、例えば0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%が挙げられる。水性溶媒としては、水や緩衝液等が挙げられる。加熱温度としては、例えば100〜500℃、好ましくは120〜400℃、より好ましくは150〜250℃が挙げられる。
【0018】
リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣としては、斯かる工程aで得られた水不溶物及び可溶液の混合物から分離した水不溶物を用いることができる。また、後述の工程bにおいて用いる糖化前処理物としては、工程aで生じた水不溶物及び可溶液の混合物をそのまま用いてもよいが、好ましくは水不溶物を分離して用いる。また、後述の工程c1において用いる糖化前処理物としては、工程aで生じた水不溶物を含んでいる限り、可溶液との混合物を用いてもよい。分離の手法は特に限定されず、公知の方法、例えば遠心分離、又は濾過などを採用することができる。分離された水不溶物は、公知の乾燥方法、例えば風乾、加熱乾燥、又は凍結乾燥などにより乾燥させてもよい。また、分離された水不溶物を適当な洗浄液、例えば水や温水で洗浄してもよい。
【0019】
工程b
工程bは糖化前処理物を酵素糖化処理する工程である。
【0020】
酵素糖化処理としては、糖の加水分解酵素を用いた糖化処理である限り特に限定されない。処理対象である糖化前処理物としては、工程aで得られた水不溶物及び可溶液の混合物を用いることができる。糖の加水分解酵素としては、糖の加水分解酵素として公知の酵素、例えば、セルラーゼ(セロビオヒドロラーゼ、エンド-β-1,4-グルカナーゼ、若しくはβ-グルコシダーゼ等)、エンド-β-1,4-キシラナーゼ、β-キシロシダーゼ、α-L-アラビノフラノシダーゼ、フェルラ酸エステラーゼ、α-D-グルクロニダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、キシログルカナーゼ、エンド-β-1,4-マンナナーゼ、β-マンノシダーゼ、β-グルコシダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、又はアセチル(ガラクト)グルコマンナンエステラーゼ等が挙げられる。酵素糖化処理条件としては、糖の加水分解酵素が活性を有する限り特に限定されず、用いる加水分解酵素の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、溶媒としては水性溶媒、具体的には水又は緩衝液が挙げられる。溶媒のpHとしては、例えば2〜12、好ましくは3〜10が挙げられる。処理温度としては、例えば15〜70℃、好ましくは、25〜60℃が挙げられる。処理時間としては、例えば1時間〜5日間、好ましくは1〜4日間が挙げられる。糖の加水分解酵素の濃度としても、使用する酵素に応じて、適宜設定することができる。例えば、セルラーゼの場合は、糖化前処理物の乾燥重量1g当たり、タンパク質量換算で1〜100mgのセルラーゼを添加すればよい。糖の加水分解酵素は1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣としては、斯かる工程bで得られた水不溶物及び可溶液の混合物から水不溶物を公知の方法で分離して用いることができる。また、後述の工程c2において用いる酵素糖化処理物としては、工程bで生じた水不溶物を含んでいる限り、可溶液との混合物を用いてもよい。分離の手法は特に限定されず、公知の方法、例えば遠心分離、又は濾過などを採用することができる。分離された水不溶物は、公知の乾燥方法、例えば風乾、加熱乾燥、又は凍結乾燥などにより乾燥させてもよい。また、分離された水不溶物を適当な洗浄液、例えば水や温水で洗浄してもよい。
【0022】
工程c1及び工程c2
工程c1は糖化前処理物を発酵処理する工程である。また、工程c2は酵素糖化処理物を発酵処理する工程である。
【0023】
発酵処理は、糖化前処理物や酵素糖化処理物に含まれる単糖類や少糖類を基質とする発酵処理である限り特に限定されない。発酵処理によって生成される糖の発酵物としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、又はブタノール等アルコール、キシリトール等の糖アルコール、カルボン酸、アミノ酸、ペプチド、芳香族化合物等が挙げられる。発酵処理として、具体的には、上記した糖の発酵物を生成する微生物として公知の微生物、例えばZymomonas mobilisZymobactor palmaeSaccharomyces cerevisiaeAspergillus oryzaeCorynebacterium glutamicumKluyveromyces marxianusCandida shehateaeCandida tenuisThermoanaerobacter mathraniiThermoanaerobacter thermosaccarolyticumThermoanaerobacter saccarolyticumPichia stipititisKlebsiella oxytocaPacysolten tannophilus、又はBrettanomyces naardensis等の微生物による発酵処理が挙げられる。これらの微生物としては、工程aや工程bにより生じた単糖類や少糖類を基質として、糖の発酵物を生成する微生物である限り、遺伝子組み換え微生物も採用することができる。発酵対象である糖化前処理物又は酵素糖化処理物としては、水不溶物を含む限り特に限定されず、可溶液(発酵基質となる単糖類や少糖類をより多く含むと考えられる)を含んでいてもよい。発酵処理の条件は、使用した微生物の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、培地中、10〜60℃、好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜40℃で、4時間〜5日間、好ましくは12時間〜4日間、より好ましくは1〜3日間という条件が例示される。例えばZymomonas mobilisを使用した場合には、培地中、25〜35℃で1〜3日間という条件が例示される。
【0024】
リグニンを含む植物バイオマスの糖化残渣としては、斯かる工程c1又は工程c2で得られた水不溶物及び可溶液の混合物から水不溶物を公知の方法で分離して用いることができる。分離の手法は特に限定されず、公知の方法、例えば遠心分離、又は濾過などを採用することができる。分離された水不溶物は、公知の乾燥方法、例えば風乾、加熱乾燥、又は凍結乾燥などにより乾燥させてもよい。また、分離された水不溶物を適当な洗浄液、例えば水や温水で洗浄してもよい。
【0025】
酸素雰囲気下とは、酸素を含む雰囲気下である限り特に限定されない。例えば酸素濃度が体積比で5%以上、好ましくは10〜50%、より好ましくは15〜40%、さらに好ましくは20〜30%の雰囲気下、具体的には空気雰囲気下が挙げられる。
【0026】
加熱処理の温度は、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質が製造できる限り特に限定されないが、例えば1300℃以下、好ましくは700℃以下、より好ましくは500℃以下、さらに好ましくは100℃〜500℃、よりさらに好ましくは200〜500℃、特に好ましくは350〜500℃が挙げられる。本発明の方法によれば、低温下においても効率的に吸着性物質を製造できる。
【0027】
加熱処理時の圧力は、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する物質が製造できる限り特に限定されないが、例えば0.1〜10atm、好ましくは0.5〜2atm、より好ましくは0.8〜1.2atmが挙げられ、具体的には海面における大気圧が挙げられる。
【0028】
得られた吸着性物質は、糖過分解物又はリグニン分解物に対して吸着性を有する。糖過分解物又はリグニン分解物は、例えば酢酸、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール、バニリン、シリンガアルデヒド、グアヤコール、メチルグアヤコール、エチルグアヤコール、ビニルグアヤコール、オイゲノール、プロピルグアヤコール、イソオイゲノール、アセトグアイアコン、プロピオグアイアコン、グアイアシルアセトン、ジヒドロコニフェリルアルコール、シナピルアルコール、エチルシリンゴール、ビニルシリンゴール、プロピルシリンゴール、アリルシリンゴール、又はプロペニルシリンゴール等であり、特に酸、フルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール、バニリン、又はシリンガアルデヒドである。
【0029】
さらに、得られた吸着性物質は、植物バイオマスから抽出される、アルカロイド、脂質、フラボノイド、テルペン、ポリフェノール、又はタンニン等の種々の低分子物質に対しても吸着性を有する。
【0030】
一方で、得られた吸着性物質は、単糖類や少糖類に対する吸着性は低い。このような単糖類や少糖類は、例えばグルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、4-O-メチル-グルクロン酸、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース、セロヘキサオース、キシロビオース、キシロトリオース、キシロテトラオース、キシロペンタオース、キシロヘキサオース、アルドビオウロン酸、アルドトリオウロン酸、又はアルドテトラオウロン酸等である。
【0031】
したがって、得られた吸着性物質は、糖過分解物又はリグニン分解物に対する選択的な吸着剤として、さらには糖過分解物、リグニン分解物、又は植物バイオマスから抽出される上記低分子物質に対する吸着剤として有用である。吸着性物質が吸着性を有する糖過分解物やリグニン分解物、さらには植物バイオマスから抽出される上記低分子物質の変性(例えば熱変性)物は、酵素糖化処理や微生物を用いてアルコール等の糖の発酵物を生成させる際の阻害物質である一方、吸着性物質の吸着性が低い単糖類や少糖類は、微生物を用いて糖の発酵物を生成させるための基質である。したがって、吸着性物質は、特に、後述するように、植物バイオマスから糖の発酵物を製造する方法において、酵素糖化処理対象である糖化前処理物や発酵処理対象である酵素糖化処理物から糖過分解物やリグニン分解物、、さらには植物バイオマスから抽出される上記低分子物質を除去するための吸着剤として有用である。
【0032】
吸着剤として用いる場合は、吸着性物質に、公知の担体を添加して成形してもよい。また、該物質を、糖過分解物やリグニン分解物が浸透可能な膜、例えば不織布などで包装してもよい。
【0033】
2.糖の発酵物を製造する方法
本発明は、リグニンを含む植物バイオマスの糖化前処理物から、下記工程x〜z:
(x)糖化前処理物を酵素糖化処理する工程、
(y)糖化前処理物を発酵処理する工程、
(z)酵素糖化処理物を発酵処理する工程、
の内、工程x、工程y、及び工程xと工程zとの併用工程からなる群から選択される少なくとも1つ工程を経て糖の発酵物を製造する方法であって、
糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物に対して吸着性物質を接触させることにより、糖過分解物又はリグニン分解物を吸着させる工程(以下、「吸着工程」と略記することもある)を有することを特徴とする、糖の発酵物を製造する方法に関する。
【0034】
リグニンを含む植物バイオマスの糖化前処理物は、リグニンを含む植物バイオマスを前述の工程aに供することにより得ることができる。得られた水不溶物と可溶液との混合物は、そのまま後述の工程xや工程yの糖化前処理物として用いてもよい。酵素糖化を阻害する糖過分解物やリグニン分解物の多くは可溶性であるところ、これらの物質の選択的な除去工程を含む本方法によれば、これらの物質が多く含まれる可溶液との混合物を酵素糖化処理する場合においても、効率的に酵素糖化させることができる。また、工程yは発酵処理であるため、発酵基質である単糖類や少糖類(多くは水溶性)がより多く含まれる可溶液のみを分離して、工程yの処理対象である糖化前処理物として用いてもよい。分離の手法は特に限定されず、公知の方法、例えば遠心分離、又は濾過などを採用することができる。
【0035】
工程x
工程xは糖化前処理物を酵素糖化処理する工程である。酵素糖化処理は前述の工程bと同様に行うことができる。得られた水不溶物と可溶液との混合物は、そのまま後述の工程zの酵素糖化処理物として用いてもよい。ただ、工程zは発酵処理であるため、発酵基質である単糖類や少糖類(多くは水溶性)がより多く含まれる可溶液のみを分離して、工程zの処理対象である酵素糖化処理物として用いてもよい。分離の手法は特に限定されず、公知の方法、例えば遠心分離、又は濾過などを採用することができる。
【0036】
工程y、工程z
工程yは糖化前処理物を発酵処理する工程である。また、工程zは酵素糖化処理物を発酵処理する工程である。発酵処理は前述の工程cと同様に行うことができる。得られた可溶液には、糖の発酵物が含まれている。
【0037】
吸着工程
吸着工程は、糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物に対して吸着性物質を接触させることにより、糖過分解物又はリグニン分解物を吸着させる工程である。
【0038】
接触は公知の方法により行うことができる。例えば、糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物が溶液の場合は、単に吸着性物質を該溶液に添加して撹拌することにより行われる。また、糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物が半固形状或いは固形上の場合は、適当な水性溶媒(水、緩衝液等)を添加して、そこに吸着性物質を添加して撹拌することにより行われる。吸着性物質は、糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物、並びに必要に応じて添加された水性溶媒中の重量割合が、1〜50重量%になるように添加すればよい。なお、本発明の吸着性物質の吸着性能は非常に優れているので、10重量%以下でも効率的に糖過分解物やリグニン分解物を除去することができる。
【0039】
斯かる吸着工程により、糖化前処理物や酵素糖化処理物に含まれる、酵素糖化処理や発酵処理を阻害する、糖過分解物やリグニン分解物を吸着性物質に吸着させることができる。
【0040】
好ましくは、吸着工程後に、吸着性物質に吸着した糖過分解物又はリグニン分解物を除去する工程を行う。具体的には、例えば糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物と接触させた吸着性物質を除去することにより行われる。吸着性物質は水不溶性であるため、遠心分離により除去することができる。
【0041】
斯かる吸着工程によれば、酵素糖化処理対象である糖化前処理物や、発酵処理対象である糖化前処理物及び/又は酵素糖化処理物において、酵素糖化処理や発酵処理の阻害物質である糖過分解物やリグニン分解物の濃度を効率的に低下させることができる。さらに、糖過分解物やリグニン分解物のみならず、植物バイオマスから抽出される、アルカロイド、脂質、フラボノイド、テルペン、ポリフェノール、又はタンニン等の種々の低分子物質(これらは変性(例えば熱変性)により酵素糖化処理や発酵処理を疎外し得る)の濃度をも効率的に低下させることができる。且つ、糖の発酵物を生成するための基質である単糖類や少糖類の濃度は高く維持できる。
【0042】
したがって、本発明の糖の発酵物を製造する方法によれば、酵素糖化処理や発酵処理の阻害物質の影響を低減し、糖の発酵物の生成を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
(1)実施例1〜4及び比較例1:吸着剤の製造
木質系バイオマスの糖化処理後に残った不溶性残渣を加熱処理することにより、吸着剤を製造した。具体的には次のように行った。
【0045】
[糖化前処理]
ユーカリチップを、重量換算で15%の濃度になるように、2%マレイン酸水溶液に混合した。該混合液を、2.45GHzのバッチ式マイクロ波照射装置を用いて、200℃で30分間加熱処理した。該加熱物を室温になるまで放冷後、遠心(2000rpmで20分間)し、沈殿物であるパルプ画分と、上清である可溶液とを分離した。通常、このようなパルプ画分は主としてセルロースとリグニンから構成され、一方、可溶液はキシランなどのヘミセルロースとその分解物、フルフラールや5-ヒドロキシメチルフルフラールなどの糖由来の発酵阻害物質、バニリンやシリンガアルデヒドなどのリグニン由来の発酵阻害物質を含む。
【0046】
[糖化処理]
パルプ画分を、重量換算で20%の濃度になるように、pH4.5のコハク酸緩衝液と混合し、さらに1gのパルプ画分当たり10mgのタンパク量の比率で市販のセルラーゼ(Novozymes社製Cellic CTech)を加え、50℃で96時間攪拌することにより酵素分解を行った。酵素分解物を遠心(2000rpmで20分間)し、沈殿物と、上清である糖溶液とを分離した。なお、この糖溶液は、洗浄したパルプを単にセルラーゼ処理することにより得られた可溶性画分であるため、フルフラールや5-ヒドロキシメチルフルフラールなどの糖由来の可溶性発酵阻害物質、及びバニリンなどのリグニン由来の可溶性発酵阻害物質はほとんど含まれていない。得られた沈殿物を10倍量の水で2度洗浄した後、さらに50℃の温水で2度洗浄した。該洗浄物を遠心分離することにより得られた沈殿物を、105℃で恒量になるまで、具体的には送風低温乾燥機中105℃で終夜乾燥させ、これを糖化残渣とした。
【0047】
[加熱処理]
糖化残渣を乳鉢で軽く粉砕した後、金属バットに入れ、下記表1に示す条件で電気炉において加熱処理した。なお、表1中、実施例3の加熱対象は、糖化残渣ではなく、実施例2に係る吸着剤を上記[糖化前処理]で得られた可溶液中に浸漬することにより、不純物を吸着させたものである(詳細については後述の「(2)試験例1〜5及び比較試験例1〜4:不純物吸着実験」の試験例2を参照)。加熱処理物を吸着剤として、以下の「(2)試験例1〜5及び比較試験例1〜4:不純物吸着実験」で用いた。
【0048】
【表1】
【0049】
(2)試験例1〜5及び比較試験例1〜4:吸着試験及びエタノール発酵試験
吸着剤を用いて上記[糖化前処理]で得られた可溶液中の不純物の吸着試験を行った。そして、吸着試験後の可溶液を用いてエタノール発酵試験を行った。具体的には次のように行った。
【0050】
[吸着試験]
吸着剤として、実施例1〜4に係る吸着剤のいずれか、比較例1に係る吸着剤、又は参考例としてスチレン系ポリアミン型の弱塩基性陰イオン交換樹脂(三菱化学:WA20)を、下記表2に示す所定の重量比になるように、上記[糖化前処理]で得られた可溶液に添加し、室温で24時間撹拌した。撹拌後の溶液を円形定性ろ紙 No.2(ADVANTEC社製)で濾過した。得られた濾液(吸着処理済溶液)中に存在する、酵素糖化及び/又は発酵の阻害物質(酢酸、5-ヒドロキシメチルフルフラール、フルフラール、バニリン、及びシリンガアルデヒド)と、発酵原料となり得る糖(グルコース及びキシロース)の濃度を、HPLCにより測定した。
【0051】
[エタノール発酵試験]
Zymomonas mobilisを培地(2%Glucose or 2%Xylose, 0.2%KH2PO4,1%酵母エキス、pH6.0)中で、660nmのOD値が0.9(すなわち前培養培地1mL当たりの菌体の乾燥重量が0.3mg)になるまで培養し、これを種母とした。一方で、上記[吸着試験]により得られた吸着処理済溶液のpHを、水酸化ナトリウムを用いて6.0に調整した。pH調整済み吸着処理済溶液に、酵母エキス、リン酸カリウム、グルコースを、順に最終濃度が1%、0.2%、2%になるように添加した。さらに、添加後の溶液の10分の1容量の種母を添加した。これを、ジャーファンメンターを用いて30℃で48時間培養し、培養後、グルコース、キシロース、及びエタノール濃度を、HPLCにより測定した。濃度の測定結果に基づいて、グルコース及びキシロースの消費の有無、並びにエタノールの生成の有無、すなわち発酵の有無を評価した。
【0052】
[結果]
吸着試験結果、及びエタノール発酵試験結果を下記表2に示す。表2中、グルコース回収率及びキシロース回収率は、比較試験例1(吸着処理なし)の場合のグルコース濃度及びキシロース濃度を100%とした場合の値を示す。
【0053】
吸着剤として、窒素雰囲気下で加熱処理して得られた吸着剤(比較例1に係る吸着剤)を用いた場合(比較試験例4)、発酵原料となり得るグルコースやキシロースの回収率は90%以上と高いものの、酢酸、5-ヒドロキシメチルフルフラール、バニリン、及びシリンガアルデヒドの濃度は吸着処理をしない場合(比較試験例1)とほぼ同程度であり、これらの物質はほぼ吸着されていなかった。また、フルフラールの濃度は、吸着処理をしない場合(比較試験例1)に比べて62%程度まで低下していたが、依然として高い濃度であった。阻害物質が依然として残っていることを反映し、エタノール発酵は起こらなかった。
【0054】
また、吸着剤として、スチレン系ポリアミン型の弱塩基性陰イオン交換樹脂(参考例に係る吸着剤)を用いた場合(比較試験例2)、酢酸、5-ヒドロキシメチルフルフラール、フルフラール、バニリン、及びシリンガアルデヒドなどの酵素糖化や発酵の阻害物質の濃度は低下したものの、発酵原料となり得るグルコースやキシロースの回収率も低下してしまった。
【0055】
一方、吸着剤として、酸素雰囲気下で加熱処理して得られた吸着剤(実施例1〜4に係る吸着剤)を用いた場合(試験例1〜5)、発酵原料となり得るグルコースやキシロースの回収率は90%以上と高く、且つ酢酸、5-ヒドロキシメチルフルフラール、フルフラール、バニリン、及びシリンガアルデヒドなどの酵素糖化や発酵の阻害物質の濃度も著しく低下していた。そして、発酵による糖の消費、及びエタノールの精製も良好に起こった。
【0056】
【表2】