(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2が開示する顕微鏡において、一方の対物レンズによって標本に照明光を照射して、照射した標本からの観察光を取得する際、他方の対物レンズの作動距離(標本にピントが合っている状態における対物レンズ先端と標本との間の距離)が短いと、他方の対物レンズによって反射された照明光(反射光)が観察光とともに一方の対物レンズに入射して、この反射光によって標本像にフレアやゴーストとして写り込むという問題があった。また、標本などによる散乱光が、迷光として観察光とともに取り込まれ、標本像にフレアやゴーストとして写り込んでしまう場合もあった。
【0007】
また、各対物レンズから同時に照明光を出射させて標本に照射すると、互いの照明光が対向する対物レンズに迷光として取り込まれ、フレアやゴーストとして標本像への写り込むおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、対物レンズの位置によらず適切な標本像を得ることができる顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる顕微鏡は、観察対象の標本の第1の観察光を集光する第1の対物レンズと、前記第1の対物レンズの光軸と一致する位置に光軸が配置されるとともに、前記標本に対向する位置に設けられ、前記第1の対物レンズの視野範囲より広い視野範囲を有し、前記標本の第2の観察光を集光する第2の対物レンズと、
赤外帯域の波長の光線束であって放射状またはシート状をなす光線束を照明光として出射する第1の照明手段と、前記第1の照明手段からの照明光の波長と異なる波長の光を照明光として出射する第2の照明手段と、を備え、
前記第1の照明手段は、照明光路への挿入によって放射状の光線束をシート状の光線束にするシリンドリカルレンズまたはロッドレンズを有し、前記照明光を、前記第1の対物レンズの光軸から傾斜して前記標本に照射し、前記第2の照明手段からの光を前記標本に照射し、前記第1の対物レンズを用いて前記標本からの光を取り込むことによって第1の観察像を形成し、前記第1の照明手段からの光を前記標本に照射し、前記第2の対物レンズを用いて前記標本からの前記
赤外帯域の波
長の光を取り込むことによって第2の観察像を形成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかる顕微鏡は、上記の発明において、
観察対象の標本の第1の観察光を集光する第1の対物レンズと、前記第1の対物レンズの光軸と一致する位置に光軸が配置されるとともに、前記標本に対向する位置に設けられ、前記第1の対物レンズの視野範囲より広い視野範囲を有し、前記標本の第2の観察光を集光する第2の対物レンズと、赤外帯域の波長の光を照明光として出射する第1の照明手段と、前記第1の照明手段からの照明光の波長と異なる波長の光を照明光として出射する第2の照明手段と、を備え、前記第1の照明手段は、放射状の光線束を前記照明光として出射する照明部と、前記照明部に着脱自在に設けられ、該照明部が出射した前記放射状の光線束を前記シート状の光線束にして出射する光学部材と、を有し、前記照明光を、前記第1の対物レンズの光軸から傾斜して前記標本に照射し、前記第2の照明手段からの光を前記標本に照射し、前記第1の対物レンズを用いて前記標本からの光を取り込むことによって第1の観察像を形成し、前記第1の照明手段からの光を前記標本に照射し、前記第2の対物レンズを用いて前記標本からの前記赤外帯域の波長の光を取り込むことによって第2の観察像を形成することを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる顕微鏡は、上記の発明において、前記第1の照明手段は、前記第1の対物レンズの光軸に対する角度、距離の少なくとも一方が可変であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる顕微鏡は、上記の発明において、前記第1の対物レンズは、前記標本の観察像を拡大するレンズと、前記レンズを保持する保持手段と、を有し、前記保持手段の少なくとも一部に、前記照明光の反射を抑制する低反射材が設けられていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる顕微鏡は、上記の発明において、前記低反射材は、黒色であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる顕微鏡は、上記の発明において、前記保持手段は、前記レンズを外部に露出する面であって、前記第1の対物レンズの光軸に対して垂直な面に前記低反射材が設けられていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる顕微鏡は、上記の発明において、前記第1の対物レンズが取り込む光の光路上に、前記赤外帯域の波長の光をカットする光学カットフィルタを備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる顕微鏡は、上記の発明において、前記第2の対物レンズが取り込む光の光路上に、前記赤外帯域の波長の光を透過するフィルタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、観察対象の標本の第1の観察光を集光する第1の対物レンズと、第1の対物レンズの光軸と一致する位置に光軸が配置されるとともに、標本に対向する位置に設けられ、第1の対物レンズの視野範囲より広い視野範囲を有し、標本の第2の観察光を集光する第2の対物レンズと、可視光以外の光を照明光として出射する第1の照明手段と、第1の照明手段からの照明光の波長と異なる光を照明光として出射する第2の照明手段と、を備え、第2の照明手段からの光を標本に照射し、第1の対物レンズを用いて標本からの光を取り込むことによって第1の観察像を形成し、第1の照明手段からの光を標本に照射し、第2の対物レンズを用いて標本からの可視光以外の波長帯域の光を取り込むことによって第2の観察像を形成するようにしたので、対物レンズの位置によらず適切な観察像を得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。
【0026】
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態1にかかる顕微鏡について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態1にかかる顕微鏡1の全体構成を模式的に示す側面図である。
図2は、本実施の形態1にかかる顕微鏡1の全体構成を模式的に示す正面図である。
図1,2に示すように、顕微鏡1は、標本Sからの観察光を結像して形成される標本Sの標本像(観察像)を観察するための顕微鏡であって、ベース部2、柱部3およびアーム部4を備えている。ベース部2は、机上等の顕微鏡1が設置される場所に直接載置される部分である。柱部3は、ベース部2の奥側(
図1左方)に立設されている。アーム部4は、柱部3の上端から顕微鏡1正面側(
図1右方)に向かって延在されている部分である。
【0027】
ベース部2、柱部3およびアーム部4は、側面視で略C字状をなしている。また、顕微鏡1には、ベース部2およびアーム部4の間(C字の中空部)にステージ5が取り付けられる。ベース部2には、後述する対物レンズ62を昇降駆動させる昇降部6が設けられるとともに、光源7aが取り付けられている。また、アーム部4には、光源7bおよび鏡筒8が取り付けられている。
【0028】
柱部3の前面には、可動ガイド9が、柱部3に対して上下動可能に設置されている。可動ガイド9には、レボルバ10が設けられている。レボルバ10は、アーム部4の延在方向先端側の下部に設置されている。レボルバ10は、標本像を拡大する対物レンズ11(第1の対物レンズ)がステージ5に対向するように装着可能となっている。ベース部2には、可動ガイド9を操作する操作部9aが設けられ、この操作部9aの操作による可動ガイド9の上下動によって、レボルバ10を上下することにより、対物レンズ11を標本Sに対して近接または離間させることができる。なお、レボルバ10は、倍率の異なる複数の対物レンズが装着可能となっており、レボルバ10を回転させることにより、所望の倍率の対物レンズを光路N1に挿入して観察することができる。
【0029】
ステージ5は、机上等の顕微鏡1が設置される場所に直接載置される基部51と、基部51から上方に延びる支柱52と、支柱52の上端で支持され、標本Sを載置する標本載置部53と、を有する。また、標本載置部53には、標本Sの載置面上の移動を操作する操作部54が設けられている。
【0030】
標本載置部53は、例えば板状をなす第1部材53a、第2部材53bおよび第3部材53cが順に積層されてなる。標本載置部53において、例えば、第1部材53aを基準(固定)とし、操作部54によって第2部材53bおよび第3部材53cを第1部材53aの板面を平面とする面上を移動させる。このとき、第2部材53bは、操作部54の第1ハンドル54aによって移動操作され、第3部材53cは、操作部54の第2ハンドル54bによって移動操作される。第2部材53bおよび第3部材53cは、互いに直交する方向に移動する。なお、第1部材53a、第2部材53bおよび第3部材53cには、光路N1に応じた開口が形成されている。ここで、操作部54によって移動する第2部材53bおよび第3部材53cの各開口は、移動によって光路N1と干渉しない大きさで形成されている。
【0031】
昇降部6は、昇降ハンドル6aおよびホルダ61を有し、昇降ハンドル6aの操作によってホルダ61が光路N1に沿って移動する。ホルダ61は、標本像を拡大する対物レンズ62(第2の対物レンズ)を保持している。このとき、ホルダ61は、対物レンズ62の光軸が光路N1に一致するように保持している。昇降部6は、例えばラック−ピニオン機構(図示せず)により、昇降ハンドル6aによって入力された動力に応じて、ホルダ61を光路N1に沿って移動させる。この移動によって、標本Sの像のピントを調節することができる。なお、ホルダ61は、対物レンズ62に代えて、コンデンサを保持することもできる。
【0032】
ここで、本実施の形態1では、対物レンズ11が、例えば10倍,20倍,50倍の比較的倍率の高い対物レンズ(以下、「ミクロ対物レンズ」という)であって、対物レンズ62が、2倍,5倍のミクロ対物レンズの倍率に対して低倍率である対物レンズ(以下、「マクロ対物レンズ」という)である。ミクロ対物レンズおよびマクロ対物レンズの倍率は一例であり、ミクロ対物レンズがマクロ対物レンズに対して高ければよい。
【0033】
光源7aは、標本Sに対して透過照明を行う透過照明光を出射する。また、光源7bは、標本Sに対して落射照明を行う落射照明光を出射する。光源7a,7bは、例えば水銀ランプなどの白色光源や所定の波長のレーザ光を出射するレーザ光源を用いて実現される。また、光源7a,7bが、例えば水銀ランプなどの白色光などを出射する場合、ベース部2およびアーム部4に対して所定の波長の光を照明光として出射するために、光源7a,7bに波長選択フィルタ等を配設してもよい。なお、本実施例では、光源7aは赤外光を出射する赤外光源、光源7bは、白色光を出射する水銀ランプなどの白色光源とする。
【0034】
また、顕微鏡1は、光源7aによる透過照明光学系と、光源7bによる落射照明光学系とを備え、透過照明光学系と落射照明光学系を同時に使用することで、標本Sに対する透過照明観察と落射照明観察との同時観察が可能となっている。また、観察に使用する照明光学系を切り替えることができる。照明光学系を切り替えることにより、標本Sに対する透過観察と落射観察が可能となっている。
【0035】
透過照明光学系は、ベース部2の内部において、コレクタレンズ21と、視野絞り22と、ミラー23と、窓レンズ24とを備えている。コレクタレンズ21および視野絞り22は、光路N2上に配置され、ミラー23は、光路N1と光路N2とが交わる部分に配置され、窓レンズ24は、光路N1上に配置されている。透過照明光学系では、光源7aから出射された透過観察用の照明光が、順番に、コレクタレンズ21、視野絞り22、ミラー23、窓レンズ24の光学部品を通過し、対物レンズ62を介して標本Sに照射される。
【0036】
一方、落射照明光学系は、アーム部4の内部において、照明用レンズ41,42と、励起フィルタ43と、ダイクロイックミラー44と、吸収フィルタ45とを備えている。照明用レンズ41,42、励起フィルタ43、ダイクロイックミラー44は、光路N3上に配置されており、吸収フィルタ45は、光路N1上に配置されている。ダイクロイックミラー44は、光源7bから出射された光のうち、所定波長の光を透過するとともに、標本Sが発した光のうち、所定波長以外の光を反射する。また、アーム部4には、励起フィルタ43およびダイクロイックミラー44の間に光学カットフィルタ46が挿脱自在に設けられている。光学カットフィルタ46は、例えば、不要な赤外波長の光をカットするフィルタである。なお、光学カットフィルタ46は、励起フィルタ43およびダイクロイックミラー44の間以外、例えば、対物レンズ11とダイクロイックミラー44との間でもよい。
【0037】
落射照明光学系では、光源7bから出射した照明光が、照明用レンズ41,42を透過し、この照明光の波長のうち、励起フィルタ43により標本Sに導入された蛍光標識に必要な励起波長のみが透過される。透過された照明光は、ダイクロイックミラー44により対物レンズ11に向けて反射され、対物レンズ11を介して標本Sに照射される。照明光を照射された標本Sからは、励起された蛍光標識の蛍光が発せられる。この蛍光は、対物レンズ11、ダイクロイックミラー44を透過し、吸収フィルタ45により観察に必要な蛍光波長のみが透過され、鏡筒8に入射する。
【0038】
鏡筒8には、接眼部12aを有する接眼観察部12と、CCDイメージセンサや、CMOSイメージセンサからなる画像取得部13とが取り付けられている。また、鏡筒8の内部には、アーム部4からの光を結像する結像レンズ81と、光路N1上を進行する光の光路を切り替える光路切替プリズム82とを有する。光路切替プリズム82は、例えば、50%の光を接眼観察部12側に折り曲げるとともに、50%の光を透過して画像取得部13に入射させる。ここで、画像取得部13および光路切替プリズム82の間には、光学カットフィルタ13aが設けられている。光学カットフィルタ13aは、例えば赤外帯域の波長の光をカットする。
【0039】
また、対物レンズ62と窓レンズ24との間には、ミラーユニット70が配設されている。ミラーユニット70は、標本Sからの光を、CCDイメージセンサや、CMOSイメージセンサからなる画像取得部71側に反射する。これにより、対物レンズ62が取り込んだ標本像を、画像取得部71によって画像化することができる。
【0040】
ミラーユニット70から反射された光は、導光管72を介して画像取得部71に送られる。導光管72には、画像取得部71に対して標本像を結像する結像レンズ72aが配置されている。また、ミラーユニット70は、光路N1に対して垂直な方向に移動可能なスライダ73に保持されている。ミラーユニット70は、このスライダ73の移動によって、光路N1に対する挿脱が可能である。光源7aからの光によって標本Sを照明する場合には、スライダ73の移動によってミラーユニット70を光路N1から退避させる。
【0041】
図3は、本実施の形態1にかかる顕微鏡1のミラーユニット70の構成を示す模式図である。ミラーユニット70は、ミラー70aおよびフィルタ70bを有する。ミラー70aは、対物レンズ62が取り込んだ標本Sからの光を光路N4側に反射する。フィルタ70bは、ミラー70aによって反射された光路N4上の光のうち、所定波長、例えば赤外帯域以外の波長の光をカットし、この赤外帯域の波長の光を透過する。
【0042】
なお、ミラー70aに代えて、ダイクロイックミラーを用いるものであってもよい。ダイクロイックミラーを用いることで、スライダ73によってミラーユニット70を光路N1から退避させることなく、光源7aによる標本Sの照明を行うことができる。また、ミラーユニット70は、顕微鏡1に対して着脱自在に設けられることが好ましい。これにより、ホルダ61にコンデンサを装着する場合、ミラーユニット70を離脱させることで、コンデンサ装着領域を拡大し、より大型のコンデンサを装着することが可能となる。
【0043】
上述した構成を有する顕微鏡1では、透過照明観察の場合、光源7aからの照明光を、ミラー23を介して標本Sに照射すると、標本Sを透過して対物レンズ11に取り込まれ、観察光として鏡筒8に入射する。鏡筒8に入射した観察光は、光路切替プリズム82によって接眼観察部12および画像取得部13にそれぞれ入射する。このとき、ミラーユニット70は、光路N1から離脱した状態となっている。なお、透過光観察は、明視野観察、位相差観察、微分干渉観察などを行う場合に用いられる。
【0044】
また、落射照明観察の場合、光源7bからの照明光が励起フィルタ43で波長が選択され、ダイクロイックミラー44によって対物レンズ11に向けて照明光が折り曲げられる。ダイクロイックミラー44によって折り曲げられた照明光が、対物レンズ11を介して標本Sに照射されると、標本Sにおける蛍光標識が励起され蛍光を発する。標本Sから発せられた蛍光を像として対物レンズ11が取り込み、ダイクロイックミラー44と吸収フィルタ45とを透過して、観察光として鏡筒8に入射する。鏡筒8に入射した観察光は、光路切替プリズム82によって接眼観察部12および画像取得部13にそれぞれ入射する。
【0045】
ここで、本実施の形態1では、上述した落射照明観察と透過照明観察との同時観察の際、光源7aによる透過照明光学系からの照明光を標本Sに照射して、標本Sからの反射光または散乱光による標本像を画像取得部71によって画像化し、また、光源7bから出射された励起光を標本Sに照射して得られる蛍光による標本像を、対物レンズ11を用いて観察、または画像取得部13よって画像化する。
【0046】
なお、上述した落射照明観察と透過照明観察との同時観察を行う場合、光学カットフィルタ46は光路N3に挿入した状態である。これにより、光源7aによる透過照明光学系からの不要な照明光の入射を防止することができる。
【0047】
また、上述した落射照明観察では、照明光を、光源7aからの光とは異なる波長帯域の波長の光である赤外光としているため、標本Sや対物レンズ62において反射した赤外光(散乱光)が対物レンズ11に取り込まれたとしても、標本像において、この赤外光が迷光となることはない。この際、画像取得部13には光学カットフィルタ13aを介して観察光が入射するため、照明光としての赤外光が画像取得部13に入射することを確実に防止することができる。
【0048】
したがって、ピントが合った状態における対物レンズ11と標本Sとの間の作動距離d1が短い場合であっても、標本Sや対物レンズ62からの反射等によって照明光(赤外光)が観察光に迷光として入り込むことがない。これにより、落射照明観察と透過照明観察との同時観察において、各照明光の影響のない適切な標本像をそれぞれ得ることができる。
【0049】
また、透過照明観察において、赤外光(IR光)を発する光源7aとして、光源7aから標本Sに赤外光を照射して対物レンズ11,62によって標本像の同時観察を行う場合、対物レンズ11では、標本Sを透過した赤外光を取り込み、対物レンズ62では、標本Sを反射した赤外光を取り込んで標本像の観察を行うことが可能である。この場合、ミラーユニット70には、ミラー70aに代えて、照明光である赤外帯域の波長の光を透過するとともに、赤外帯域以外の波長の光を反射するダイクロイックミラーが用いられる。また、各対物レンズ11,62の倍率は、観察態様に応じて適宜変更され得る。
【0050】
このとき、標本Sを透過して対物レンズ11に取り込まれた照明光(赤外光)が、ダイクロイックミラー44で反射して光路N2に進入した後、励起フィルタ43で反射して再び標本Sを透過して対物レンズ62に入射するおそれがある。これにより、対物レンズ62が、取り込んだ観察光とともにこの反射した赤外光を迷光として取り込んでしまい、この迷光が標本像にゴーストとして写り込んでしまう。ここで、光学カットフィルタ46を光路N3上に配置することにより、ダイクロイックミラー44で反射された赤外光を吸収し、標本像への迷光の入り込みを防止することができる。
【0051】
上述した本実施の形態1によれば、光路N1上の標本Sに対して異なる側にそれぞれ配置された対物レンズ11,62を有する顕微鏡1において、対物レンズ62を介して標本Sに可視光以外の波長帯域の光を照射するとともに、対物レンズ11を介して標本Sに可視光の光を照射し、標本Sからの光を対物レンズ11,62でそれぞれ取り込んで観察できるようにしたので、対物レンズの作動距離が短い場合であっても、この対物レンズの位置によらず適切な標本像を得ることができる。
【0052】
また、上述した本実施の形態1によれば、落射照明観察と透過照明観察との同時観察をおこなう場合、透過照明光学系からの照明光が可視光以外の波長帯域の光、例えば赤外光であるため、迷光の心配なく観察を行うことができる。
【0053】
また、上述した本実施の形態1によれば、標本Sが例えばゲルによって保持されている場合であっても、照明光が可視光以外の波長帯域の光であるため、散乱による観察光(標本像)の乱れが少なく、良好な標本像を得ることができる。
【0054】
また、上述した本実施の形態1によれば、対物レンズ11,62のそれぞれの光路N1,N4上に吸収フィルタ13a、フィルタ70bが配設されているため、互いの対物レンズ11,62からそれぞれ出射される照明光が迷光となることを防止することができる。
【0055】
なお、上述した本実施の形態1において、偏光板を照明光の光路および観察光の光路にそれぞれ配設し、落射偏光観察を行ってもよい。このとき、偏光板は、互いにクロスニコルに配置されている。落射偏光観察において、例えば光源7aから対物レンズ62を介して標本Sに照明光を照射した場合、標本Sを透過して対物レンズ11で反射した照明光を観察光の光路側の偏光板でカットし、迷光による標本像への影響を抑制することができる。また、落射偏光観察において、標本Sとして小動物を用いた場合、画像取得部71は、この小動物の筋収縮などによるリタデーション変化を干渉光として検出することができる。この場合、偏光板は、光路N1またはN3上であって、光源7aとミラー70aとの間、および光路N4上であって、ミラー70aと結像レンズ72aとの間にそれぞれ設けられることが好ましい。
【0056】
図4は、本実施の形態1の変形例1にかかる顕微鏡1の要部の構成を模式的に示す斜視図である。
図5は、本実施の形態1の変形例1にかかる顕微鏡1の要部の構成を示す部分断面図である。
図4,5に示すように、対物レンズ11の標本Sに向き合う平面に、光の反射を抑制する反射防止部材90(低反射材)を設けてもよい。
【0057】
図4,5に示すように、対物レンズ11は、略円筒状をなしており、先端において、端部に向けて径が縮小する縮径部11aと、縮径部11aの内部に配設されるレンズ11bと、を有する。また、縮径部11aは、筒状の中空空間において、レンズ11bを保持している(
図5参照)。レンズ11bは、例えば
図5のように、光を取り込む半球状の取込部11cと、取込部11cの外周を覆って保持するとともに、縮径部11aの中空空間に支持される外周部11dとを有する。
【0058】
ここで、反射防止部材90は、円環状をなすシートであって、少なくとも縮径部11aのレンズ11bを外部に露出する面であって、対物レンズ11の光軸に対して垂直な面(顕微鏡1配設時に標本Sと向かい合う面)である平面部11eと、外周部11dとを覆うように設けられている。なお、平面部11eは、照明光の照明領域に応じて形成される。反射防止部材90は、例えばクロムからなる板状部材によって実現される。これにより、一段と確実に対物レンズ11による照明光の反射を防止することができる。なお、反射防止部材90に代えて、縮径部11aを含むレンズ保持部材(保持手段)を、クロムなどを用いて黒色で構成するものであってもよい。また、反射防止部材90は、クロムのほか、黒色に着色した樹脂からなるものであってもよい。
【0059】
また、標本Sの観察を行う方法として、スライドガラスおよびカバーガラスを有する標本保持部材100を用いた観察方法が挙げられる。
図6は、本実施の形態1の変形例2にかかる顕微鏡1の要部の構成を示す模式図である。なお、本変形例2では、光源7aによる落射照明観察を行う場合として説明する。
【0060】
標本保持部材100は、板状をなすスライドガラス101と、スライドガラス101よりも薄い板厚の板状をなすカバーガラス102と、スライドガラス101およびカバーガラス102の間に設けられる円環状の中空部を有するゲル103とを有する。標本Sは、スライドガラス101、カバーガラス102およびゲル103の中空部によって形成される内部空間で保持される。また、対物レンズ11と標本保持部材100との間には、開口数を向上させるためのオイル110が配設されている。
【0061】
ここで、カバーガラス102は、赤外光を反射する透明部材を用いて形成されている。透明部材としては、例えば、誘電体多層膜による干渉を利用した干渉膜が挙げられる。したがって、
図6に示すように、標本Sを透過した赤外光は、カバーガラス102の内部側表面で反射して再び標本Sを透過する(光路L1)。また、標本Sを透過した赤外光は、カバーガラス102の外表面側の内面で反射して再び標本Sを透過する(光路L2)。これにより、一度標本Sを透過した赤外光を再び標本Sに透過させて、対物レンズ62でその透過光を取り込むことができ、画像取得部71が取得する光量を増大させることが可能となる。
【0062】
(実施の形態2)
図7は、本発明の実施の形態2にかかる顕微鏡1aの全体構成を模式的に示す正面図である。なお、
図1等で説明した構成と同一の構成要素には、同一の符号が付してある。実施の形態2では、光源7a,7bのほかに、暗視野照明観察を行うための照明光を出射する暗視野照明装置200を有する。
【0063】
図8は、本実施の形態2にかかる顕微鏡1aの暗視野照明装置200の構成を模式的に示す斜視図である。
図9は、本実施の形態2にかかる顕微鏡1aの暗視野照明装置200の構成を模式的に示す側面図である。暗視野照明装置200は、例えば赤外帯域の波長の光(照明光)を出射する照明部201を複数有する。複数の照明部201は、一列に並べて配置されてなる(
図8参照)。暗視野照明装置200は、複数の照明部201によって放射状の光線束を照明光として出射する。
【0064】
顕微鏡1aでは、標本Sに対して暗視野照明装置200(照明部201)を斜め(横)に配置して照明することによって、暗視野照明観察を行うことが可能である。このとき、対物レンズ62では、暗視野照明装置200による照明光の標本Sからの透過成分が取り込まれる。すなわち、画像取得部71では、標本Sの透過による透過暗視野観察を行うことができる。
【0065】
また、暗視野照明装置200は、その配置によって、照明部201の標本Sに対する角度、または標本Sに対する距離を変化させて標本Sの照明を行うことができる。これにより、マニピュレータや、パッチクランプ実験器具などステージ5近傍に配設される部材の配設領域を規制することなく、観察が行えるとともに、その照明光の照射態様を変化させることで、標本像形成の自由度を向上させることができる。また、標本Sの載置形態、例えば、シャーレに収容された標本や、標本Sを保持するゲルの厚みの差異などに応じて、照明光の照射角度を変化させることが可能である。
【0066】
暗視野照明装置200は、例えば、略U字状の保持部材に保持された状態でステージ5(標本載置部53)などにマグネットやネジ等によって載置、固定されることにより実現可能である。このとき、暗視野照明装置200は、保持部材のU字の内側部によって照明部201の照射角度を調節した状態で保持される。
【0067】
図10は、本実施の形態2にかかる顕微鏡1aの要部の構成を模式的に示す斜視図である。
図11は、本実施の形態2にかかる顕微鏡1aの要部の構成を模式的に示す側面図である。暗視野照明装置200は、
図10に示すようなシリンドリカルレンズ210(光学部材)を照明部201側に配置することにより、シート状の光線束を照明光として出射することが可能となる。
【0068】
シリンドリカルレンズ210は、一つの側面が弧状の湾曲面をなす略柱状の光学部材である。シリンドリカルレンズ210は、照明部201から出射され、レンズ内部に入射した放射状の光線束を、シート状の光線束にして湾曲面から外部に出射する。これにより、湾曲面から外部に出射される光は、シート状をなす。なお、シリンドリカルレンズ210に代えて、ロッドレンズを用いることも可能である。
【0069】
シリンドリカルレンズ210を用いてシート状の照明光を出射することにより、一段と確実に標本Sに照明光を照射することができるとともに、対物レンズ11などに照射される照明光の光量を低減することができる。これにより、反射光や散乱光など迷光を抑制して、標本像への迷光の写り込みを防止することができる。なお、照明部201がレーザ光からなり、平行光を出射するものであれば、シリンドリカルレンズ210を用いずに、平行光を標本Sに照射することが可能である。
【0070】
上述した本実施の形態2によれば、光路N1上の標本Sに対して異なる側にそれぞれ配置された対物レンズ11,62を有する顕微鏡1aにおいて、標本Sの横から暗視野照明装置200によって標本Sに照明光を照射して、標本Sからの光を対物レンズ62で取り込んで標本像を観察するようにしたので、対物レンズの作動距離が短い場合であっても適切な標本像を得ることができる。
【0071】
また、上述した本実施の形態2によれば、シリンドリカルレンズ210の着脱により、放射状の照明光またはシート状の照明光を選択的に標本Sに照射することができるため、標本Sに対する照明の開口数を変化させて標本像の観察を行うことが可能となる。
【0072】
ここで、上述した本実施の形態2において、暗視野照明装置200を用いた透過暗視野照明観察のみを行う場合は、光源7a,7bを有しない構成であってもよい。
【0073】
なお、上述した本実施の形態2では、透過暗視野照明観察を行うものとして説明したが、落射暗視野照明観察を行うものであってもよい。この場合、対物レンズ11,62の配置を変えてもよいし、暗視野照明装置200の配置を変えてもよい。落射暗視野照明観察では、対物レンズ11の作動距離が長く、反射、散乱による迷光の影響が少ない場合や、ショウジョウバエなどの透過性の低い標本Sを観察する場合に好適である。
【0074】
(実施の形態3)
図12は、本発明の実施の形態3にかかる顕微鏡1の要部の構成を示す模式図である。なお、
図1等で説明した構成と同一の構成要素には、同一の符号が付してある。その他の実施の形態では、光源7a,7bのほかに、落射暗視野照明観察を行うための照明光を出射するリング照明装置220を有する。
【0075】
リング照明装置220は、略筒状をなし、上述したホルダ61に取り付けられている。リング照明装置220には、筒状の先端に円環状に配置された複数の照明部220aが設けられている。各照明部220aは、各々対向する照明部220aが出射する光の光軸と標本S近傍において交差するような光軸の照明光を出射する。
【0076】
このとき、最も外側に位置する照明部220aが出射する光の光軸は、標本Sと焦点が合った状態の作動距離d2にある対物レンズ11に干渉しないようになっている。これにより、対物レンズ11などに照射される照明光の光量を低減することができる。したがって、反射光や散乱光など迷光を抑制して、標本像へのフレアやゴーストの写り込みを防止することができる。
【0077】
図13は、従来のリング照明装置300を用いた場合の顕微鏡1の要部の構成を示す模式図である。従来のリング照明装置300は、略筒状をなし、例えば上述したホルダ61に取り付けられている。リング照明装置300には、筒状の先端に円環状に配置された複数の照明部300aが設けられている。
【0078】
ここで、リング照明装置300の照明部300aでは、各照明部300aの照明光の光軸が、各々対向する照明部300aが出射する光の光軸と標本S近傍において交差するように設計されていないため、
図13に示すように、標本Sと焦点が合った状態の作動距離d2にある対物レンズ11に干渉してしまうおそれがあった。
【0079】
上述した本実施の形態3によれば、光路N1上の標本Sに対して異なる側にそれぞれ配置された対物レンズ11,62を有する顕微鏡1aにおいて、標本Sの横からリング照明装置220によって標本Sに照明光を照射するとともに、照明部220aが出射する光が、標本Sと焦点が合った状態の作動距離d2にある対物レンズ11に干渉しないようにしたので、対物レンズの作動距離が短い場合であっても適切な標本像を得ることができる。
【0080】
上述した実施の形態2,3においても対物レンズに反射防止部材90が設けるなど、上述した実施の形態1および変形例にかかる構成を適宜組み合わせることが可能である。
【0081】
なお、上述した実施の形態1〜3では、ステージが対物レンズの光軸に垂直な平面内を移動できるものとして説明したが、ステージを机上等に固定して、対物レンズが自身の光軸に垂直な平面上を移動するものであってもよい。これにより、ステージの駆動による振動により標本Sがステージ上を移動して、観察位置が変化することを防止することが可能となる。この場合、対物レンズ11,62は、互いの光軸が一致した状態で移動することが好ましい。例えば、ベース部2を机上に配設したスライダに載置して、このスライダを移動させることによって、ベース部2、柱部3およびアーム部4を一体的に移動させる。これにより、対物レンズの観察中心のずれを防止して、安定した標本Sの観察を行うことができる。
【0082】
また、上述した実施の形態では、正立型の顕微鏡を例に説明したが、例えば、微分干渉観察光学系を形成し、標本を拡大する対物レンズ、対物レンズを介して標本を撮像する撮像機能および画像を表示する表示機能を備えた撮像装置、例えば、ビデオマイクロスコープ等であっても、本発明を適用することができる。
【0083】
以上のように、本発明にかかる顕微鏡は、対物レンズの作動距離が短い場合であっても適切な標本像を得ることに有用である。